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糖尿病性腎症の漢方治療 医案8 腎病漢方治療 176報

2013-07-19 00:15:00 | ブログ

心脾腎気陰虚型、挟有血瘀、濁毒、湿熱邪毒案

?仁和氏医案 北京中医薬大學博士生論文より)

患者:周某某 79歳男性 退職工場労働者

初診年月日199257日来診

病歴

患者は1989年に“狭心症 心筋梗塞”で入院した際に、糖尿病、高血圧症を指摘され、退院後は西洋薬の経口糖尿病薬をずっと服用していたが、血糖値は始終コントロール不良であった。

初診時所見

皮膚掻痒を主訴とした、全身の掻痒が耐え切れないほどで、四肢末端が最も酷く、熱感を有することもあり、夜間に加重する特徴があった。酷い場合には睡眠に影響もあった。嘗て西洋薬の治療を1ヶ月近く受けたが、症状は微塵も減軽せず、面色惨黄を伴い、精神困憊、全身の乏力症状があり、食欲不良で冷たいものを好み、口渇欲飲、心悸気短、大便偏干、下肢浮腫、小便不利、1日尿量700ml。皮膚を診ると、爪で引っ掻いた跡が全身にあり、令人目不忍睹(見るに耐えない状態で)、舌質暗舌体胖大、脈沈細数。

空腹時血糖8.51mmol/L153.2m/dL)、Cre 371.28μmol/L4.2m/dL)、 BUN 16.78mmol/L10068m/dL)、二酸化炭素結合力16.2mmol/L、血色素9.0g/dl、尿蛋白(+)

西洋医診断

糖尿病Ⅱ型、糖尿病性腎症、腎不全、糖尿病性心臓病

中医弁証

気血欠虚、心脾腎気陰虚証、挟有血瘀、濁毒、湿熱邪毒症候

治法

益気養陰 養血活血 泄濁解毒、清熱除湿

処方

生脈散加味:太子参20g 麦門冬15g 五味子10g 赤芍30g 牡丹皮30g 当帰15g 生地30g 玄参30g 熟大黄15g 山茱萸15g牛膝20g 地膚子15g 苦参30g 生甘草12g

経過

服薬1月余再診、皮膚掻痒症状好転、皮膚の色は正常に近づいた。空腹時血糖5.36mmol/L96.5m/dL)、Cre 328.24μmol/L3.7m/dL)、BUN 15.42mmol/L92.5m/dL)、効果ありにて方剤を変更せず、6ヵ月後再診、皮膚掻痒は既に顕著に減軽、睡眠状況良好。

Cre 31824μmol/L3.6m/dL)、BUN 11.07mmol/L66m/dL) 血色素9.9/dl。患者が言うには、口水(唾液)が多く、大便は至極暢快というわけではなく、下肢にはまだ軽度の浮腫があった。舌胖質暗、苔中心が黄膩、脈沈細にして数滑。

コメント:湿熱に話をもって行こうとすると、非常に微妙な脈象「脈沈細にして数滑」ということになるのですが、果たして。

中医弁証

湿熱瘀滞の症候がある。気分湿滞、血分瘀熱

治法

清熱除湿、涼血活血、泄濁利水

治方

四妙散加味蒼朮10g 黄柏10g 牛膝15g 薏苡仁30g 陳皮10g 制半夏10g 猪苓30g 澤瀉10g 沢蘭15 丹参30g 赤芍30g 白鮮皮15g 土茯苓30g 熟大黄10g 生地10g 砂仁6g

経過

2ヵ月後再診、皮膚掻痒は基本的に消失、面色紅潤、精神活発、体力好転、食欲回善、飲食増加、大便通暢、双下肢浮腫消失、血圧正常。空腹時血糖4.94mmol/L89.4m/dL)、Cre 31172μmol/L3.52m/dL)、BUN 5.27 mmol/L31.6m/dL)、血色素9.1/dl、尿蛋白(+)、病情は安定し、腎機能の悪化を見ていない。

評析

皮膚掻痒は腎不全における常見症状で、有効な治療法を欠くために、掻痒が持続し消失せず、重度になると患者の睡眠と情緒に影響し、病人の痛苦を増加させるだけでなく、腎不全病情の加重の直接原因となることもある。

本案診療の最初に、中医弁証を気血欠虚、気陰不足、血瘀、湿熱、濁毒互結と下し、生脈散加味を投与し、標本同治し、後に病機変化に随い、治標に重点を置き、湿熱瘀滞の病機に四妙散加味に変えて投薬し、中医の治療を体現した。腎不全の皮膚掻痒に対して、?氏は常に弁証論治の基礎に立ち、白鮮皮、地膚子、苦参、土茯苓等、清熱除湿、解毒止痒を行う。他には、?氏は患者の大便通暢の保持に十分注意し、方剤中に一味熟大黄を加味することを常として、以って通腑泄濁、涼血解毒する。

ドクター康仁の印象

糖尿病性腎症に限らず腎不全に対して大黄を用いるのは一般化しています。加えて、糖尿病性腎不全に限らず、腎不全に伴う皮膚掻痒証は大きな臨床課題です。すでに血液透析に導入され、数年以上維持透析をしている患者さんで、特に昔の低性能の透析膜を使用していた時代に、「たわし」で血が出るまで皮膚を掻かないと皮膚掻痒が収まらなく、寝る前には持続性の抗ヒスタミン剤を服用するのが、いわば当たり前のような時代が有りました。腎不全の皮膚掻痒に対する治療は、透析に導入されている場合には、ハイパフォーマンスメンブレン(高性能膜)のダイアライザー(透析機)を使用して可及的にウレミックトキシン(尿毒素)を除去するのが基本的な対処法です。

白鮮皮、地膚子、苦参などは腎不全に限らず、皮膚掻痒を伴う皮膚科疾患で用いられる組み合わせです。土茯苓を配伍したところは、やや腎不全治療に近い印象があります。

糖尿病の場合、皮膚の感染症がなかなか治らず、化膿疹と痒疹を繰り返す場合があります。

本案では、Cre42m/dL3.52m/dLBUN 100.68m/dL31.6m/dLと高窒素血症はコントロールされてきました。それで、皮膚掻痒も自然に治ってきたのかとも思うのです。それでも、なお、アレルギー性皮膚疾患の存在も否定できません。

糖尿病性腎症ではありませんが、私自身の症例ではe-GFR15ml/min前後、Cre3台、BUN3040台で、数年治療している患者さんがいますが、いまだに皮膚の掻痒は訴えていません。

本案の糖尿病性腎症の患者さんは1992年で79歳ですから、ご存命なら、今年満100歳ということになりますが、その可能性は小さいでしょう。心筋梗塞後の経口糖尿病薬については言及が有りますが、バイパス手術を行ったのかどうかの記載もなく、ワーファリンやアスピリン、西洋利尿剤等の他の西洋薬の記載も有りません。何歳でなくなられたのか?その直接死因と原因疾患はどのようなものであったのか?

中医案には西洋の薬剤の記載をしないという悪弊があるように感じてなりません。

加えて、医食同源と謳い上げている割には、患者の食生活の記載、食事療法の基準なども全く不記載です。

2013719日(金) 記