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糖尿病性腎症の漢方治法運用総説3 腎炎腎不全の漢方治療168報

2013-07-09 00:15:00 | ブログ

前稿に引き続き、糖尿病性腎症の漢方治法運用の総説をお話します。中医学の歴史の中には勿論「血糖値」や「インスリン」の物質的な概念は有りませんでした。近代になって西洋医学と中医学を結合させて診断治療する中西医結合医学が発達してきました。従って、弁証論の症候分析はあくまで古典的な中医学論になります。現代の中国では、糖尿病分野の中医は権威を持ちます。糖尿病が国民病となり、慢性腎不全から透析治療に導入される患者が急増しているからです。

本日は説明を簡略化して進みます。

(2)滋補肝腎 養血潤燥法:肝腎陰虚証に適用する。

臨床症状

眩暈耳鳴り、腰膝酸軟、多夢遺精、尿頻量多、尿は濁って脂膏のようなこともある、視物昏蒙、舌紅少苔、脈細弦数。

症候分析

糖尿病が慢性化すると、精血が耗傷され、肝腎陰虚、精血不足の結果、眩暈耳鳴り、視物昏蒙となる;筋脈失養にて腰膝酸軟となる;陰虚火旺、肝陽上?の結果眩暈目眩が生じ;肝腎陰虚、疏泄過度(疏泄は正常な機能であり、やや疑問な用語です)、腎失封蔵にて精微下泄、精微が膀胱に直接下泄、津液も膀胱に直接下泄し、尿量頻多、尿は濁り脂膏のようになる;精血欠虚、相火引動し多夢遺精となる。舌紅少苔、脈細弦数は肝腎陰虚の証である。

方薬

六味地黄丸加減生地 山茱萸 山薬 牡丹皮 茯苓 知母 当帰 玉竹

方中、生地 山茱萸は滋補肝腎に;山薬 茯苓は健脾滲湿に;牡丹皮 知母は清熱に;当帰 玉竹は養血潤燥に働く。腰膝酸軟、眩暈目眩の者は菊花 枸杞子を加え、咽干の自覚症状には麦門冬 玄参を加える。

生地黄については以下の過去の記事をご参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20121116

(3)温補腎陽 滋腎固精法:陰陽両虚証に適用する。

臨床症状:

面黒憔悴、耳輪干枯、咽干舌燥、腰膝酸軟、陽痿(インポテンツ)あるいは陽強(勃起が異常に長くなることで、殆どの場合は相火の陰虚火旺に認められることがある)、畏寒肢冷或いは五心煩熱、尿頻失禁或いは尿短少、下肢水腫、舌質暗紅、苔白にして干、脈沈細無力、或いは悪心嘔吐を伴う。

症候分析

糖尿病を長期に患うと、臓腑が虚衰し、気血が耗竭し、陰陽倶虚、湿濁蘊盛となり、五心煩熱、咽干舌燥、陽強の陰虚の証や、畏寒肢冷、陽痿、尿少、水腫の陽虚の証を見る。

また、悪心嘔吐、皮膚の掻痒、昏迷などの湿濁邪毒壅盛の標実証も出現する。(かなり末期の腎不全状態の症状に相当する記載です)舌脈は陰陽両虚の象である。

方薬

金匱腎気丸加減附子片 肉桂 熟地 山薬 山茱萸 牡丹皮 澤瀉 茯苓 桑螵蛸 覆盆子 赤芍 紅花

附子、肉桂にて温補腎陽;六味地黄丸にて補腎陰、桑螵蛸、覆盆子にて補腎固精;赤芍、紅花にて活血化瘀を計る。陽痿早泄者には仙霊脾、金桜子を加味し、五心煩熱、咽干舌燥の者には附子片 肉桂を去り、黄柏 知母を加える。

(金匱腎気丸は補腎陽に働きます。陰陽両虚でも陽虚と陰虚の偏盛なる状態に合わせて、陰虚火旺が目立つ場合には附子や肉桂を去り、黄柏 知母を加味して知柏地黄丸加減として治療するという主旨です。)

桑螵蛸(そうひょうしょう)は昆虫の蟷螂(カマキリ)の卵鞘で、帰経は肝腎、

補腎助陽、固精縮尿に作用します。治療対象は腎陽虚による遺精、滑精、遺尿、頻尿、白色帯下などです。

固摂腎気剤としての「桑螵蛸散(そうひょうしょうさん)」を紹介します。

桑螵蛸散(本草衍義):桑螵蛸 遠志 菖蒲 龍骨 人参 茯神 当帰 亀板

主要症状:頻尿、小便清長、残尿感、遺尿、或いは尿がポタポタと少ししか出ない。排尿に勢いがない。舌質は潤、舌苔は薄、脈は沈細。主に高齢者、慢性疾患、疲労による腎気虧虚、固摂不能、膀胱失約の場合に用いられます。

覆盆子(ふくぼんし)については過去の記事「EDの漢方治療」をご参照ください。

五子衍宗丸(ごしえんそうがん)(覆盆子 枸杞子 莵絲子 車前子 五味子)

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20070205

(4)温腎健脾 化気行水法:陽虚水泛証に適用する。

臨床症状

全身性の程度の異なる水腫、腰以下を主として、甚だしい場合は腹部が腫大する。胸悶気促、腰膝酸軟、四肢不温、神疲怯寒、小便短少、腹張納差、舌質淡胖、苔白或いは膩、脈沈細無力。

症候分析

糖尿病を長く患うと、陰血が欠耗し、陰損が陽に及び、脾腎陽虚、脾不制水、腎失開合となり、水液が常道を循環せず、体内に稽留し、肌膚に外溢し、水腫尿少となる;陽気不足にて神疲怯寒、四肢不温となる;脾失運化、すなわち腹張納差を見る;腎陽不足、すなわち腰膝酸軟を見る。舌脈は脾腎陽虚の象である。

方薬

真武湯加減附子 白朮 茯苓 生姜 白芍 仙霊脾 杜仲 益母草 丹参 山薬 芡実)。

附子は温腎助陽に;白朮 茯苓は健脾行水に;生姜は水寒の気を散じ;白芍は調和営衛に;仙霊脾 杜仲は補腎陽にて気化を助け;益母草 丹参は化瘀して心陽を助け;山薬 芡実は固精に作用する。水腫が著しい者、尿少不利な者には車前子、冬瓜皮を加え、悪心嘔吐の者には竹筎 姜半夏を加味する。

ドクター康仁の印象

人体も生薬も、物質的由来は同じ、地球由来、つまり宇宙です。人体と大半の生薬も生命体です。中薬には生命体でない鉱物も存在しますが、その物質的由来は地球(宇宙)です。生命体の連鎖と関連の中で人類は(生存競争に勝利し、かつ自然界と調和して)進化してきた訳です。

細かい生薬の薬剤情報や運用はその道の生薬の専門家に任せればいいことです。臨床と基礎の違いはありますが。

西洋医学の臨床医が日常使用する薬物について、医者が細かく組成や分子構造を知っているのかと言えば否です。後になって、副作用が判明してくるのはいつものパターンです。

ここで、気になることは、

近代になると、昔の自然界(地球規模)では存在しえない化学物質を人類は作成しうるまで進化しました。その化学物質を用いて、生命体である人体の治療を行っているのが化学治療です。人類の進化にどんな悪影響を与えるのかと懸念するのです。サイエンス(科学)とケミストリー(化学)の違いです。

多くの陸生動物、水生動物が、人類による乱獲や環境破壊により絶滅したか、或いは絶滅危惧種となり生薬市場から姿を消しました。残された生薬ですら、合成化学物質に汚染されてしまうか、あるいは既に汚染されているでしょう。

医学とはmedical science(医科学)といいます。

巨大な利権が介在してくると、とんでもない合成化学物質をサイエンスの名を騙って売り込む輩(やから)が跋扈してきます。

次回からは糖尿病性腎症の漢方症例(医案)をご紹介します。

201379日(火) 記