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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

てんぷらやのスニーカー

2016-11-09 08:54:16 | キンドル本
 主人公は、アウトレットショップで、お気に入りの黒のスニーカーを買いました。
 その翌日は、おばあちゃんの誕生祝いだったので、家族みんなで出かけました。
 主人公は、さっそく新しいスニーカーを履いて出かけることにしました。
 ところが、お昼を食べたてんぷらやで、スニーカーを履き間違えられてしまいました。
 酔っぱらったおじいさんが、間違えて履いていってしまったようなのです。
 後には、主人公がはけない小さなサイズの汚いスニーカーが残されていました。
 店内放送をしてもらいますが、とうとうスニーカーは戻ってきませんでした。
 責任をとっててんぷらやの店長が代わりに用意してくれたのは、すごくさえないスニーカーでした。
 主人公は、ため息交じりに、お気に入りのスニーカーの行方を想像します。

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てんぷらやのスニーカー
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平野 厚
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吉田恵理「〈宮沢賢治〉をみる中原中也の眼」

2016-11-09 08:22:26 | 参考情報
 四季派学会・宮沢賢治学会イーハトーブセンター合同研究会 ―宮沢賢治から「四季」派へ―で行われた研究発表です。
 研究発表要旨は以下の通りです。
「中原中也の宮沢賢治受容に関しては、『春と修羅』や童話からの引用や影響をさまざまに指摘されてきただけでなく、中也研究の側から賢治の思想に接近するような試みも行われてきた。近年の動向として注目すべきは、「中原中也研究」第八号(二〇〇三)における「宮沢賢治と中原中也」特集とそれ以降の先行論であろう。そこでの議論は話題を様々に取り揃えつつも、二人の〈他力〉的境地にみる共通性、賢治の〈心象スケッチ〉と中也の〈名辞以前〉の親和性と差異をめぐる問題が柱となっているように見受けられる。しかし〈心象スケッチ〉と〈名辞以前〉が近づけば近づくほど、中也が賢治を評する文の中に用いた〈民謡の精神〉なる語――「古来「寒月」だの「寒鴉」だの「峯上の松」だのと云つて来た、純粋に我々のもの」――の居心地の悪さはますます際立っていくように思われる。
ところで、賢治を評するのに〈民謡〉の語を用いたのは中也だけではない。たとえば『宮澤賢治研究 第一号』(宮澤賢治友の会、一九三五)における永瀬清子がそうである。中也の言説を、賢治没後俄かに賢治評価が高まる同時代の潮流の中に置き直すとき、他の言説との比較を踏まえて、〈民謡の精神〉が賢治を媒介にして詩壇あるいは一般に向けて発せられていること、また「未だ我が国に於て、芸術は、手段として以外に認められたことはない」という主張に目を向ける必要がある。倉橋健一氏(『深層の抒情――宮澤賢治と中原中也』)が指摘したように、ここには「中也にとって根底にあったおのれに対する地方と、方法としてあらわれた都会の問題が横たわ」っていることも見過ごせない。中也と賢治の問題とは、〈宮沢賢治〉を語る中原中也の問題でもある。
大正末年から昭和十年代にかけて、民衆詩派に対抗する新興勢力として、あるいは〈農民文学〉、〈地方主義文学〉として、さまざまな政治的力学によって要請された〈宮沢賢治〉という詩人を、中也はどのような眼を以て評したと言えるのか。中也の〈民謡の精神〉と賢治の〈イーハトヴ〉の距離の測定と具体的な詩の検討を踏まえ、自らの作品とこれからの詩が取るべき方向の構想の中で中也がどのように〈宮沢賢治〉を通過していったのか、そして同時代の〈宮沢賢治〉をめぐる問題から中也の位置はどのように照らし返されるのかを考察したい。」
 四季派学会側からの発表ですが、賢治に対する中也の発言を丹念に調べてあり、非常に興味深い内容でした。
 冒頭に、「本発表のねらい」、「発表次第」が述べられ、わかりやすくする工夫がなされています。
 各項目では、中也の発言の引用、先行研究の引用が整理されていて、その上で吉田の考察がまとめてあり、研究発表の方法として理路整然としていて参考になりました。
 また、中也の「野卑時代」、「星とピエロ」、「秋岸清涼居士」といった賢治の影響がみられる詩が全文引用されていて、吉田が見事な調子で朗読したので、詩には門外漢な私でも、中也の詩の魅力の一端を堪能できました。
 懇親会の時に、吉田に「詩の学会の研究発表では朗読するのが普通なのですか?」と尋ねたら、逆に「児童文学では朗読しないのですか?」と聞かれ、返答に窮しました。
 久しぶりに、詩集を読んでみようかという気にさせられました。

中原中也詩集 (新潮文庫)
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新潮社
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ネタバレにご用心

2016-11-08 09:29:53 | 考察
 児童文学の世界では、現実世界だけでなく、空想世界がよく扱われます。
 そうした作品の中では、現実世界と空想世界の接点が問題になります。
 例えば、動物が人間に姿を変えて、現実世界に現れるような作品があります。
 そうした時に、初心者が犯しやすいミスがネタバレです。
 その動物らしい雰囲気を出すために、つい人間になった時の名前にその動物を連想させるようなものをつけてしまいがちです。
 そうすると、作品の途中で、その人間がある動物の化身であることがばれてしまい、せっかくの作品のオチが台無しになることがあります。
 ネタバレご用心です。

ファンタジー、空想の比較文化
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新水社
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児童文学における食べ物の取扱い

2016-11-08 08:59:23 | 考察
 児童文学において、食べ物の取り扱いは重要です。
 もっとも、これは児童文学に限らず、一般文学でも同様かもしれません。
 私が子どもだったころは、日本はそれほど豊かではなかったので、外国児童文学に出てくるまだ見ぬ食べ物は、どんな味なんだろうと想像力を掻き立てられました。
 例えば、「楽しい川辺」でモグラがカワネズミに初めてボートに乗せてもらうシーン。
 バスケットに入れたおべんとうのコールドタン、コールドハム、コールドビーフ、キュウリの酢漬け、サラダ、フランスパン、サンドウィッチ、肉の缶詰、ビール、レモネード、ソーダ水。
 どれも、食べたことも見たこともありませんでした。
 読んでいる自分も、モグラのセリフと同様に「胸がいっぱいだ!」と言いたくなりました。
 それほどのごちそうでなくても、「連隊の子」のアツアツの肉のスープにたっぷり砂糖を入れた紅茶、「金時計」のこれもアツアツの肉まんじゅう、「ドリトル先生航海記」のあぶったソーセージなどは、今でも忘れられません。
 最近の児童文学では、パン屋さんやスイーツなど女の子の読者が好きそうな食べ物屋さんを舞台にした作品がたくさん出ています。
 そうした表面的な取り扱いでなく、家庭料理、給食、ファストフード、コンビニの食べ物、逆に贅沢な食べ物などをうまく使えば、現代の格差社会に生きる子どもたちを描くために、有効なツールになると思われます。


たのしい川べ (岩波少年文庫 (099))
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岩波書店
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ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール

2016-11-08 08:25:07 | キンドル本
 転校してきた主人公は、なかなか学校になじめません。
 でも、少年野球チームで知り合った男の子と友だちになります。
 そんなある日、学校で理想の女の子と出会います。
 主人公は、なんとかしてその女の子と友だちになりたいと思います。
 一方、学校の裏山にある秘密基地では、クラスの男の子たちが秘密の冒険をしています。
 主人公はその仲間に加わる一方で、あの女の子とも付き合いたいと思っています。
 念願がかなって、主人公は女の子と初めてのデートをします。
 学校をさぼって、二人でディズニーランドへ行ったのです。
 でも、さぼりがばれて、周囲から迫害されます。
 クラスのみんなとは仲直りして、彼らのおかげで、二人は結婚式をあげます。
 そして、先生たちとの最後の戦いが始まります。

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ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール
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平野 厚
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児童文学において大人の問題をどう描くか?

2016-11-07 09:06:38 | 考察
 児童文学において、様々な大人の問題(離婚、暴力、失職、貧困、病気、家族関係など)が描かれることがあります。
 子どもたちも大人たちと共棲している以上、大人の問題と無関係ではいられません。
 そうした大人の問題を児童文学で描くことは、意義のあることだと思います。
 ただし、その書き方には十分に注意を払わなければなりません。
 ともすれば、大人の問題の解決を、子どもたちに求めるような描き方になっている場合があります。
 大人の問題は、一義的には大人たちに責任があります。
 作者は、あくまでも子どもたちに寄り添うようにして、子どもたちの立場から作品を描く必要があります。
 また、子どもの視点で大人の問題を描こうとすると、その問題の実相が十分に描かれない場合もあります。
 そんな時は、大人の視点で描く場面も加えて、子どもと大人の二重視点で問題を描くのも一つの方法です。

優しさごっこ <新装版>
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理論社
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デート・デート・デート

2016-11-07 08:41:25 | キンドル本
 主人公は小学校五年生の男の子です。
 主人公が、密かに好意を持っている女の子が、急に転校することになりました。
 両親がマンションの抽選に当たって、引っ越しすることになったのです。
 主人公は、なんとかお別れの日までに告白したいと思います。
 電話、手紙、待ち伏せなど、いろいろな作戦をやろうとしますが、どれもうまくいきません。
 最終的に、プレゼント作戦を実行することになりました。
 その時に、そのこと仲のいいクラスのリーダーの女の子に相談しました。
 いろいろなハプニングの末に、なんとかその女の子とデートをする約束を取り付けます。
 主人公は、デートの時にうまく告白できるように、当日の綿密な計画を立てます。
 さあ、デート当日になりました。
 ところが、どうして気づかれたのか、次々に登場するクラスメートたちに、せっかくのデートを邪魔されてしまいます。
 はたして、主人公の告白はうまくいくでしょうか?

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デート・デート・デート
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平野 厚


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児童文学のおける時代設定について

2016-11-07 08:35:01 | 考察
 児童文学を書く時に、作品の時代設定をどのようにするかは重要な問題です。
 書き手にとって一番楽なのは、自分が子どもだった時代を舞台に描くことでしょう。
 その作家の年齢が二十代ぐらいまでだったならば、読者である子どもたちとそれほど大きな時代的ギャップはないので、それであまり問題はないでしょう。
 しかし、作家の年齢があがり子どもたちとのギャップが大きくなると、描いている世界が現実の子どもたちと乖離してしまう恐れがあります。
 1990年代までは、それでも作家の子ども時代を描いた作品が出版されていましたが、現在ではそれは難しくなっています。
 自分が子どもだった1960年ごろの子どもたちを描いた高橋秀雄の初期の作品のような例外はありますが、これも後藤竜二という当時の児童文学界に大きな影響力を持つ人物の強力なプッシュがなかったら、こういった作品を2000年代に出版することは難しかったでしょう。
 次に、リアルタイムの現在を、作品の時代設定に使うことが考えられます。
 しかし、これも作家の年代が上がるにつれて、リアルな子どもたちの世界を描くことは困難になってきます。
 自分の子どもがいる作家たちは、彼らやその周辺にいる子どもたちを題材にすることで、一時的に回避できるかもしれません。
 また、学校の教師や塾の講師などの仕事を持っている書き手は、生身の子どもたちに接する機会がふんだんにあるので、その点では有利でしょう。
 また、現在というのはあいまいな概念なので、作品によっては現在というにはいささか古く思われるような題材が描かれていることもあります。
 かつては、あまり最先端な子どもの風俗を作品に描くと、編集者からそういった風俗はすぐに古びてしまうので避けてほしいとの要請を受けました。
 当時は児童書はロングセラーを目指すのが一般的なのでそのようなこともありましたが、現在は児童書の消費財化が進んでいるので、このことはあまり気にしなくていいと思います。
 むしろ、現在の子どもたちのリアルな風俗を描くことは、作者と読者との間で同時代性を共有することになるので望ましいかもしれません。

多様化の時代に (現代児童文学論集)
クリエーター情報なし
日本図書センター


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インディⅡ号の栄光

2016-11-06 07:34:49 | キンドル本
 主人公は、受験のために新しい塾へ移りました。
 そこは、パソコンを使った最新の教え方の塾でした。
 入塾そうそうの試験でいい成績を取った主人公は、みんなから敵意をかってしまいます。
 孤独な主人公は、塾のそばにあった水の流れに、マッチ棒を流して一人で遊んでいます。
 マッチ棒遊びは、いつのまにかみんなを巻き込んだ仮想のボートレースに発展します。
 レースのおかげで、主人公には新しい友達もできました。
 ある日主人公が手に入れたマッチ棒、インディⅡ号は、ボートレースで無敵を誇ります。
 仮想ボートレースの、それまでのありとあらゆる記録を更新します。
 試験の順位と違って、ボートの好成績はみんなの尊敬を獲得します。
 しかし、その絶頂期に、ボートレースは突然の破局を迎えます。
 水の流れがなくなってしまったのです。
 主人公とインディⅡ号の栄光は、見事なほどあっさりとみんなから忘れられていきます。
 ラストで、主人公が決意したことは?

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インディ?号の栄光
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平野 厚


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児童文学における描写について

2016-11-06 07:30:23 | 考察
 現在の児童文学においては、優れた描写(心理、場景、人物など)を備えた作品は激減しています。
 今は亡き安藤美紀夫が語っていたように、もともと現代児童文学(私は1950年代にスタートして、1990年代に終焉したと思っています)は、「アクション」と「ダイアローグ」で書かれた物語が中心だったのですが、1980年代に入って一般文学の小説風の、描写を前面にした作品が出版されるようになりました。
 代表的な作家としては、梨木香歩、江國香織、湯本香樹実、森絵都、皿海達哉、森忠明、最上一平などがあげられますが、1990年代になって児童書の出版バブルがはじけると、ある者たちは一般文学へ越境していき、またある者たちは幼年向けや絵本へ向かいました(中には、今でももがき続けていて自費出版のような形で、描写を中心にした児童文学の創作を続けている人たちもいます)。
 現時点において、描写でじっくり読ませるタイプの作品を、児童書として出版することはかなり困難で、ライトノベルや児童文庫のように、再び「アクション」と「ダイアローグ」を中心にした作品が児童書の主流になっています。

絵本の力学
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玉川大学出版部
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魔法のバット

2016-11-05 17:28:13 | キンドル本
 主人公は、少年野球のチームに入ったばかりです。
 毎日、猛練習をしていますが、試合ではなかなかうまく打てません。
 自分のバットを持っていないのでチームのバットを使っているのですが、チームで一番小さな主人公の体には長すぎて合わないのです。
 ある日、おとうさんが主人公に合った短いバットを買ってくれます。
 主人公は、ますます練習にはげみます。
 新しいバットでのぞむ初めての試合では、はたしてうまく打てるでしょうか?

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魔法のバット
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メーカー情報なし



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児童文学における視点および人称の取り方

2016-11-05 17:25:07 | 考察
 児童文学を書く場合に、視点および人称をどうするかは、重要な問題です。
 主人公が子どもの場合が多いので、一般文学に比べて注意しなければならない点があります。
 まず一人称ですが、この場合視点が主人公である子どもの視点に固定されるケースが多いので、作者が言いたいことがある程度制限されてしまう可能性があります。
 逆に、地の文章などで大人である作者の視点が出すぎると、主人公の視点と分離を起こしてしまう場合もあります。
 ただ、主人公の視点を一番強く打ち出せるメリットがあります。 
 三人称の場合は、視点が主人公よりなのか、神様の視点よりなのかによって、書き方はだいぶ違います。
 主人公よりの場合は、ほとんど一人称の時と同じような視点が書けますが、ここぞという場面で作者の視点を強く打ち出せて便利です。
 神様の視点の場合は、主人公も含めて登場人物を俯瞰して描くことができますが、気を付けないと作者のメッセージがぼやけてしまう可能性があります。
 特殊な例としては、章ごとに違った登場人物の視点で書く場合があります。
 複数の主人公がいる場合などで使われますが、その場合は登場人物のキャラクターに合わせて文体や語り口をうまく変えないと、読者が混乱する恐れがあります。

児童文学の書き方
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ポプラ社
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児童文学は誰でも一冊は本を出せる

2016-11-04 10:40:08 | 考察
 児童文学で一冊の本を出すことは、そんなに難しくありません。
 もちろん、自費出版や協力出版といった作者の経済的負担が必要な本ではなく、アンソロジーに短編を入れてもらう場合でもありません。
 きちんと印税がもらえる商業出版で本を出す場合です。
 児童文学の世界では、児童文学の執筆だけで生活しているプロの作家は少なく、他にも職業を持っているセミプロの作家やいわゆる主婦作家(配偶者が働いている場合の男性作家も含めて)が大半です。
 そのため、文学的あるいは商品的に言えば、それほどハードルは高くありません。
 そういった状況において、新人が登場するチャンスはたくさんあるのです。
 特に、女性の場合は、児童文学の読者は女の子が圧倒的に多いので、自分の体験を生かせてかなり有利です。
 もちろん、文章、描写、構成、物語作りなどの基本的なことは訓練しなければなりません。
 普段から文章を書きなれている人ならば、すぐに作品を書き始めても大丈夫です。
 自信がない場合は、日本児童文学者協会や日本児童文芸家協会などの各種教室に参加して、基本的なことを学びましょう。
 そして、そこでつてを得て、どこかの同人誌に入れてもらえばいいと思います。
 児童文学の世界では、今でも各地で同人誌活動をしている人たちがいます(私もそうですが)。
 同人誌を選ぶポイントとしては、自分が書きたい分野ですでに商業出版している同人がいる同人誌を選ぶことです。
 エンターテインメントが書きたいのならエンターテインメントの作家、リアリズムが書きたいのならリアリズムの作家、ファンタジーが書きたいならファンタジーの作家、メルフェンが書きたいのならメルフェンの作家がいる同人誌の方が得るところが多いです。
 そうやって活動しているうえで一番大事なのは、作品を提出して合評してもらうことを経験して、自分の強みが何なのかを知ることです。
 文章のうまさ、描写力、構成のうまさ、お話づくりのうまさなど、なんでもいいのです。
 また、作品のテーマや題材での差別化でもOKです。
 スポーツ、音楽、絵画、趣味、恋愛、病気、子育て、海外生活、会社、学校、社会問題など、何かしら他の人より詳しいことがひとつぐらいはあるはずです。
 その分野を、他の人には書けないぐらいに掘り下げれば、五年以内に必ず一冊は本になります。
 一方で、プロとして児童文学の執筆一本で生活していくのは、前述したように非常に困難ですので、お勧めできません。


日本児童文学 2016年 12 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店





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トライアングル

2016-11-04 09:33:06 | キンドル本
 主人公は、中学受験に失敗して、公立中学に通うようになりました。
 猛勉強の反動か、一学期が終わっても、まだやる気が起きません。
 でも、中学受験勉強の時の蓄積のおかげで、成績はすごくいいです。
 唯一の例外が、中学から正式に始まった英語です。
 これだけは、きちんと勉強しないと通用しません。
 そのため、夏休みの図書館に、英語の勉強をしに出かけます。
 そこで、同じクラスで英語の天才と言われている少年と会います。
 彼は無口で人とのコミュニケーションは苦手ですが、語学の才能にはすごく恵まれています。
 英語のディクテーション(聞き取り)のテストでは、完ぺきすぎるほどの成績を取っていたのです。
 主人公は、英語の勉強をする代わりに、偶然見つけた英語で書かれたボードゲームの本を翻訳する事を思いつきます。
 自分一人ではまるで歯が立たないので、語学の天才少年に助けてもらっています。
 ある日、図書館へ行く途中で、主人公はプールへ行く途中の幼馴染と再会します。
 彼は、野球部で一年なのにレギュラーになっていますが、勉強は苦手です。
 ひょんなことから、ゲーム本の翻訳のために、三人のチームが結成されることになりました。
 彼とは、カブトムシ捕りをきっかけに仲良くなったのですが、受験勉強が忙しくなってからは次第に疎遠になっていました。
 そんな三人が、図書館帰りに出かけたプールで、事件が起こります。
 それをとおして、三人の絆は深まります。
 そして、ボードゲームのルールを翻訳するだけでなく、ゲームを実作することになります。
 プロジェクトが終了した日に、主人公たちは幼馴染の家で完成のお祝いをします。
 夏休みが終わって、三人はまたそれぞれの生活へ戻っていきます。
 主人公は、ひと夏の経験を通して、どのように変わったでしょうか?


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平野 厚
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坂爪真吾「男子の貞操」

2016-11-04 08:23:52 | 参考文献
 ヤングアダルト向け作品を書いたり批評するための参考にするために、若い男性による性や結婚に対する新しい考え方を知りたいと思って読みました。
 正直言って、まったく期待はずれでした。
 一番の理由は、筆者が過剰なほど自信満々(なにしろこの本が古典になると自分で言っているほどです)で、自分たち(ホワイトハンズという性関連の社団法人で筆者は代表理事)のやっていることはすべて過剰なまでに正当化し、それ以外の事はあっさりと切り捨てているからです。
 本人も書いていますがホワイトハンズは非常に敵が多いそうですが、もう少し謙虚な姿勢を持たないと反感をかわれてもやむを得ないかと思いました。
 総じて、書き方が主観的で断定的で、客観的な視点が決定的に欠けているので説得力がありません。
 まず、権力や伝統に対して「お上」とういう言葉を使って一見反権力を装っていますが、実態は懐古的で過去の日本の結婚観や性に対しての批判は弱いです。
 まわりくどい書き方をしていますが、結婚による長期的な性的関係を維持することを正当としていて、それ以外の性的な行為(フリーセックス、不倫、性風俗産業、AV、アダルトサイトなど)はすべて完全に否定しています。
 一方で、どうしたらそういったパートナーを見つけられるかについては、若衆宿や見合いなどの過去の制度への懐古的な記述と共に、結婚相談所や結婚サイトなどを肯定しているのには驚愕しました(これらの産業も性や結婚願望を食い物にしている点では、性風俗産業や出会い系サイトなどと大差はないでしょう)。
 現在の若い世代を取り巻く貧困問題(就職難、大企業と中小企業の給与の格差、正規非正規雇用による格差、年金などの世代間格差など)には、この本は少しも触れていません。
 仮に若い男性が結婚相談所などに登録しても、登録されている女性たちのほとんどは経済的安定(最低でも年収六百万円以上の正社員)を結婚相手に求めているのです。
 現実には、この条件に合う二十代三十代の男性は4%しかいません。
 筆者は貧乏で結婚するコネ(紹介者)のいない人間は、結婚(つまりはセックス)するなというのでしょうか。
 また、男性のセックスの問題の解決を、この本では一方的に本人(男性)だけに求めていますが、女性側の意識(専業主婦願望、セックス=結婚など)の改革も必要なのではないでしょうか。
 筆者は、性風俗は危険(性感染症、恐喝など)なので、まともな若い男性ならば利用しないと簡単に切り捨てていますが、実際には若い世代でも利用している人たちは一定数いるのですから、それらの人たちが性風俗利用をやめる、あるいは安全に利用するにはどうすればよいかについてぜんぜん触れていないのは、それらの人たちに対する筆者の優越感の現れのように思えました(性風俗の通常の利用者は高齢者なので、若者なのにそういうものを利用している人たちのことは軽蔑していて読者対象としていないようです)。
 男性の生理として自慰の必要性を認めているのは評価できますが、その際にAVやアダルトサイトなどを利用することをジャンクヌードと呼んで完全に否定しているのは現状を無視していて説得力がありません。
 しかも、その代わりに筆者が推奨しているのが、彼ら(ホワイトハンズ)が実施している裸婦デッサン会とくると、笑い話のように思えてきます。
 ホワイトハンズの活動対象からきているのでしょうが、身体障碍者の性の問題については繰り返し述べられている(ただし具体的には書かれていない)のですが、それ以外の弱者(同性愛者、精神障碍者、性依存症など)への視点は決定的に欠けています。
 残念ながら、この本は筆者の意気込みどおりには古典になる事はないでしょう。
 そんな大上段に構えずに、自分たちの実践を紹介するという謙虚なスタンスで書いた方が、読者に好感をもたれたと思います。

男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る (ちくま新書 1067)
クリエーター情報なし
筑摩書房



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