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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

坂爪真吾「男子の貞操」

2016-11-04 08:23:52 | 参考文献
 ヤングアダルト向け作品を書いたり批評するための参考にするために、若い男性による性や結婚に対する新しい考え方を知りたいと思って読みました。
 正直言って、まったく期待はずれでした。
 一番の理由は、筆者が過剰なほど自信満々(なにしろこの本が古典になると自分で言っているほどです)で、自分たち(ホワイトハンズという性関連の社団法人で筆者は代表理事)のやっていることはすべて過剰なまでに正当化し、それ以外の事はあっさりと切り捨てているからです。
 本人も書いていますがホワイトハンズは非常に敵が多いそうですが、もう少し謙虚な姿勢を持たないと反感をかわれてもやむを得ないかと思いました。
 総じて、書き方が主観的で断定的で、客観的な視点が決定的に欠けているので説得力がありません。
 まず、権力や伝統に対して「お上」とういう言葉を使って一見反権力を装っていますが、実態は懐古的で過去の日本の結婚観や性に対しての批判は弱いです。
 まわりくどい書き方をしていますが、結婚による長期的な性的関係を維持することを正当としていて、それ以外の性的な行為(フリーセックス、不倫、性風俗産業、AV、アダルトサイトなど)はすべて完全に否定しています。
 一方で、どうしたらそういったパートナーを見つけられるかについては、若衆宿や見合いなどの過去の制度への懐古的な記述と共に、結婚相談所や結婚サイトなどを肯定しているのには驚愕しました(これらの産業も性や結婚願望を食い物にしている点では、性風俗産業や出会い系サイトなどと大差はないでしょう)。
 現在の若い世代を取り巻く貧困問題(就職難、大企業と中小企業の給与の格差、正規非正規雇用による格差、年金などの世代間格差など)には、この本は少しも触れていません。
 仮に若い男性が結婚相談所などに登録しても、登録されている女性たちのほとんどは経済的安定(最低でも年収六百万円以上の正社員)を結婚相手に求めているのです。
 現実には、この条件に合う二十代三十代の男性は4%しかいません。
 筆者は貧乏で結婚するコネ(紹介者)のいない人間は、結婚(つまりはセックス)するなというのでしょうか。
 また、男性のセックスの問題の解決を、この本では一方的に本人(男性)だけに求めていますが、女性側の意識(専業主婦願望、セックス=結婚など)の改革も必要なのではないでしょうか。
 筆者は、性風俗は危険(性感染症、恐喝など)なので、まともな若い男性ならば利用しないと簡単に切り捨てていますが、実際には若い世代でも利用している人たちは一定数いるのですから、それらの人たちが性風俗利用をやめる、あるいは安全に利用するにはどうすればよいかについてぜんぜん触れていないのは、それらの人たちに対する筆者の優越感の現れのように思えました(性風俗の通常の利用者は高齢者なので、若者なのにそういうものを利用している人たちのことは軽蔑していて読者対象としていないようです)。
 男性の生理として自慰の必要性を認めているのは評価できますが、その際にAVやアダルトサイトなどを利用することをジャンクヌードと呼んで完全に否定しているのは現状を無視していて説得力がありません。
 しかも、その代わりに筆者が推奨しているのが、彼ら(ホワイトハンズ)が実施している裸婦デッサン会とくると、笑い話のように思えてきます。
 ホワイトハンズの活動対象からきているのでしょうが、身体障碍者の性の問題については繰り返し述べられている(ただし具体的には書かれていない)のですが、それ以外の弱者(同性愛者、精神障碍者、性依存症など)への視点は決定的に欠けています。
 残念ながら、この本は筆者の意気込みどおりには古典になる事はないでしょう。
 そんな大上段に構えずに、自分たちの実践を紹介するという謙虚なスタンスで書いた方が、読者に好感をもたれたと思います。

男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る (ちくま新書 1067)
クリエーター情報なし
筑摩書房




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