現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

板垣巴留「BEAST COMPLEX」

2019-09-10 12:57:38 | コミックス
 BEASTARS(その記事を参照してください)の原型的な読み切り作品です。
 草食獣と肉食獣が共存する独特の世界観は、この時点でほぼ確立されています。
 絵柄もほぼ一緒なのですが、タッチが荒いのは、BEASTARSの連載が決まって、優秀な(年上の)ベテラン・アシスタントを雇えるようになったからでしょう(おそらく、編集部の紹介だと思われます。アシスタントなしでは、週刊誌の連載はこなせません)。
 児童文学の世界でも、絵本の世界では、内田麟太郎のように、優秀な絵かきたちと組んで、優れた絵本を量産している人もいます。
 やはり、勝負は作品のアイデア(漫画の場合はネーム)なのでしょう。
 そうした意味では、児童文学の世界でもシノプシス(かなり詳しく書く必要はあります)の持ち込み原稿を受け入れて、優秀な才能の青田買いをしないと、ビジネス的には太刀打ちできないかもしれません。

 各読み切り作品は、以下の通りです。

1.ライオンとコウモリ
 草食獣と肉食獣が共に学ぶ学園物で、異種動物の友情を描いています。
 BEASTARSの初期の舞台であるチェリートン学園の原型が、すでに出来上がっています。
 肉食獣の持つ隠された獣性など、BEASTARSの重要なモチーフも描かれています。
 BEASTARSの主人公のハイイロオオカミのレゴシも、チョイ役で登場します。

2.トラとビーバー
 これも学園物です。
 肉食獣の大人になる悲しみ(獣性が隠しようもなくなる)が、草食獣との変わらない友情とともに描かれています。
 これも、BEASTARSの重要なモチーフです。

3.ラクダとオオカミ
 学園を飛び出して、大人の草食獣と肉食獣の異種恋愛が描かれます。
 食い魔事件(肉食獣が草食獣を襲って食べてしまう)など、BEASTARSの世界でも大きな問題になっている事件も扱われています。

4.カンガルーとクロヒョウ
 さらに、この世界の暗部(裏市(大人の肉食獣が隠れて草食獣の肉を買う場所)や暗黒組織の存在など)が描かれています。

5.ワニとガゼル
 肉食獣と草食獣が繰り広げるかなりきわどい生放送の料理番組です。
 この世界でタブーとされる肉食問題も、BEASTARSの大きなモチーフです。

6.キツネとカメレオン
 恋愛に積極的な肉食獣の女の子と消極的な草食獣の男の子の異種恋愛物です。
 BEASTARSのレゴシとドワーフウサギの女の子のハルとの恋愛の裏返し的原型です。






3.
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赤羽末吉「おおきなおおきなおいも」

2019-09-10 08:28:17 | 作品論
 1972年10月に初版が出た古典的な絵本です。
 私が読んだのは、2000年11月の76刷ですから、子どもたちにはおなじみのロングセラーになっています。
 この絵本も、児童文学研究者の石井直人が「現代児童文学の条件」(「研究 日本の児童文学 4 現代児童文学の可能性」所収、その記事を参照してください)において、田島征三の「しばてん」や長新太の「キャベツくん」などと並べて、「これらの絵本の画面には、およそ(読者の)「内面」に回収できない、とんでもない力が充溢している。」と、評しています。
 たしかに雨降りでいもほりに行かれなかった園児たちが途方もない空想を展開するお話ですが、「鶴巻幼稚園・市村久子の教育実践による」と但し書きがあるように、この本は大人よりも柔軟な読み手である子どもたちの「内面」には回収できるかもしれません。
 しかし、このようなあふれるエネルギーに満ちた絵本に出会えた子どもたちは幸せです。
 天気の日には園庭で力の限りに遊び、雨の日には部屋の中でこのような絵本を好きなだけ読む、そんな幼年の日々をすべての子どもたちに味わってもらいたいものだと、心から思います。
 やたらと教育的だったり、教訓的だったりする絵本があふれている現状では、媒介者(両親、先生などの子どもたちに本を手渡す人たち)は心して本を選択しなければいけないでしょう。

おおきなおおきなおいも―鶴巻幼稚園・市村久子の教育実践による (福音館創作童話シリーズ)
クリエーター情報なし
福音館書店
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