現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

庄野英二「一枚のはがき」愛のくさり所収

2019-09-30 09:19:44 | 参考文献
 作者は、「ロッテルダムの灯」でエッセイストクラブ賞を受賞した、エッセイの名手です。
 この作品でも、簡潔な文章で人間の本質を鋭くとらえています。
 作者が学生の時に、友人二人と四国の剣山を登ったときのことです。
 その前に、父の郷里の山里にある叔父の家に立ち寄ります。
 叔父さんは、大阪から来た甥とその友人たちを、鶏をつぶしたり、鰻を焼いたりして、下にもおかず歓待してくれます。
 さらには、山の途中まで三人の重い荷物をかついで運んでくれます。
 大阪へ帰ってしばらくして、一枚のはがきが、叔父から父親に届きます。
 三人の誰からもはがきが届かないという内容です。
 別に責めるわけでもなく、ただ「このごろの若い者はのんきだなあ」と、書いてありました。
 作者は、お礼のはがきを出さなかった友人たちをうらめしく思うとともに、自分自身も恥ずかしく感じます。
 私にも覚えがありますが、お世話になった人へのお礼のはがきや電話(今ならメールやラインかもしれませんが)をしそびれた時の気まずさはいつまでも忘れられません。
 それよりおかしいのが、「このごろの若い者」というフレーズです。
 作者は、私の父親と同年輩なのですが、いつの時代でも「このごろの若い者」は、その上の世代から見ると常識はずれの存在のようです。
 もっとも、ギリシャだか、ローマだかの遺跡からも、「このごろの若い者」を嘆く文章が出てきたそうですから、これは不変の原理なのかもしれません。
 ちなみに、作者の本業は学校の先生ですが、児童文学作家としても、「星の牧場」などの優れた作品があります。
 また、実弟の庄野潤三は芥川賞作家ですが、同様に「明夫と良二」などの優れた児童文学作品もあります。
コメント
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