児童文学に、社会的な事象があまり描かれなくなってから久しいです。
60年代から80年代にかけては、政治的、あるいは社会的な問題を題材にした多くの児童文学作品が描かれました。
例えば、山中恒「赤毛のポチ」や古田足日「宿題ひきうけ株式会社」では労働問題、鈴木実他「山は泣いている」や岩瀬成子「朝はだんだん見えてくる」では基地や反戦の問題、丘修三「ぼくのお姉さん」では障害者問題が、作品の題材だったり背景だったりしました。
しかし、出版バブルが崩壊し、社会主義的リアリズムが破たんした現在では、社会的な問題を取り上げた作品の出版は極めて難しくなっています。
たんに、そういった作品が売れないという商業的な理由ばかりではなく、過度にポリティカル・コレクトネスに配慮して特定の政治的あるいは社会的な主張を避ける傾向があることも否めません。
そういった中で、いじめや登校拒否などの学校に関する問題は、児童文学で比較的取り上げやすい題材だったかもしれません。
今後の可能性としては、子どもの貧困、ドメスティック・バイオレンス、高齢者をターゲットとしたオレオレ詐欺や催眠商法、ヤングケアラー(若年介護者)なども、もっと児童文学で描かれるべきでしょう。
その場合は、子どもたちだけでなく、親世代や祖父母世代も含めて、いろいろな年代の人々の共棲する姿を描き出す工夫が求められます。
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ぼくのお姉さん (偕成社文庫) |
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