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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

児童文学に社会的な問題をどのように描くか

2016-10-15 09:50:24 | 考察

 児童文学に、社会的な事象があまり描かれなくなってから久しいです。
 60年代から80年代にかけては、政治的、あるいは社会的な問題を題材にした多くの児童文学作品が描かれました。
 例えば、山中恒「赤毛のポチ」や古田足日「宿題ひきうけ株式会社」では労働問題、鈴木実他「山は泣いている」や岩瀬成子「朝はだんだん見えてくる」では基地や反戦の問題、丘修三「ぼくのお姉さん」では障害者問題が、作品の題材だったり背景だったりしました。
 しかし、出版バブルが崩壊し、社会主義的リアリズムが破たんした現在では、社会的な問題を取り上げた作品の出版は極めて難しくなっています。
 たんに、そういった作品が売れないという商業的な理由ばかりではなく、過度にポリティカル・コレクトネスに配慮して特定の政治的あるいは社会的な主張を避ける傾向があることも否めません。
 そういった中で、いじめや登校拒否などの学校に関する問題は、児童文学で比較的取り上げやすい題材だったかもしれません。
 今後の可能性としては、子どもの貧困、ドメスティック・バイオレンス、高齢者をターゲットとしたオレオレ詐欺や催眠商法、ヤングケアラー(若年介護者)なども、もっと児童文学で描かれるべきでしょう。
 その場合は、子どもたちだけでなく、親世代や祖父母世代も含めて、いろいろな年代の人々の共棲する姿を描き出す工夫が求められます。

ぼくのお姉さん (偕成社文庫)
クリエーター情報なし
偕成社
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おねえちゃんの天丼

2016-10-15 08:55:22 | キンドル本
 主人公のおねえちゃんは、高校三年生だった去年のクリスマスのころに交通事故にあって、入院しました。
 そのために、せっかく決まっていた就職先も失ってしまいました。
 でも、事故にも失職にも負けないで、おねえちゃんはおかあさんが見つけてきた新しい職場で働き始めます。
 その初月給の日に、主人公はおかあちゃんと一緒に、おねえちゃんの会社を訪ねます。
 そのお金で、お昼をご馳走してくれるというのです。
 おねえちゃんは、職場で頑張っているようです。
 おねえちゃんの初月給でおごってもらった天丼の味は?
 
 (下のバナーをクリックすると、スマホやタブレット端末やパソコンやKindle Unlimitedで読めます)。

おねえちゃんの天丼
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平野 厚
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黒川博行「解体」左手首所収

2016-10-15 08:27:22 | 参考文献
 保険金詐欺から殺人にまで転落していった解体屋の話です。
 詐欺や犯罪のからくりは面白いのですが、人物がしっかり書かれていないので、全体にあらすじのようで物足りません。
 おそらく雑誌の編集部から原稿の枚数を指定された依頼原稿なのでしょう。
 児童文学の世界でも、こういった場合には中途半端な作品が書かれることはよくあります。

左手首 (新潮文庫)
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新潮社
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桜木紫乃「シャッターチャンス」ホテルローヤル所収

2016-10-15 08:23:00 | 参考文献
 直木賞を取った短編集の巻頭作品です。
 けがで挫折した元花形アイスホッケー選手の男が、元はラブホテルだった廃墟で恋人のヌード写真を撮影して、嘘か真か、雑誌に投稿してプロのカメラマンを目指したいと言います。
 官能的な描写やすれ違う男女の思いなどを、非常に技巧的な文章でつづっています。
 設定やエピソードには新鮮味を感じませんでしたが、描写や文章のうまさには感心しました。
 児童文学でも80年代ぐらいから小説を志向した作品(例えば江國香織など)がたくさん書かれ、一般文学への越境と言われましたが、どうせ越境するならばこのくらいの文章力や描写力は欲しいものです。

ホテルローヤル
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集英社
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