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Brugge Style
花器
もう20年くらい前のことだが、大手家電メーカーが新製品のカタログの撮影のために、実家の玄関や廊下を使ったことがあった。
玄関中央にガラスのコンソールテーブルが搬入されて、その上にシルバーのテレビが置かれた光景を今でもよく覚えている。
最後は念入りな掃除で終了を迎え、アシスタント嬢の1人が撮影に使った蘭の花を、母がコレクションしていたガレの小さな暁色の花瓶にさし(もちろん水入り)、はにかんだ笑顔を満面に浮かべて、母に手渡したのである。
「ああ、そうね、本来はこうやって使うのよね」
と、母は言って笑った。
お嬢さんはいったい何のことやら分からない様子だった。
わたしは一瞬「ものを知らないということは怖いもの知らずということか!」と思ったが、同時に自分にパラダイムシフトが起こったことにも気がついた。
うちではガレのガラスは窓際に並べて眺めるものであって、入れものではないという合意ができあがっていた。
でも、ホンマは花瓶やんか。水入れて花入れて使ってこそ、やんか。
高価な食器を集めるだけ集めて決して日常に使ったりしない人や、かばんにレインコートを着せる人を嘲笑していたくせに。
その後、わたしはガレの花瓶に花を入れてみた。ガレはわたしの趣味じゃなかったので今までの腹いせもあって、働け!働かんかあー!と念じながら(笑)。
水を入れたら漏れるのではないか、と底を何度確認したほど、わたしの中ではガレの花瓶は花瓶ではなかったのだ。
あの光の魔法のような花瓶の数々は震災でほとんどが土に帰ってしまった。
ひとつくらい譲り受けて、日常の花を豪快に生けたかったものだ、と残念に思う。
イギリスで傘立てとして使われていた壷が清朝かなんかのものだった、という記事を読んで思い出したことなど、でした。
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