今まで読んだ中で最も衝撃を受けた漫画は、中学時代に友人から借りた『トーマの心臓』(萩尾望都)である。勤務先の店に少し前に入荷したため、買い求めて読み返してみると、以前読んだ時には素通りしていた部分に気付いてハッと目を見開かされたので、ここに書き留めておきたい。
今回一番心に残ったのは、端役で出てくるレドヴィという盗癖のある生徒について描かれた箇所だった。
彼は「神様が愛しているのは良い人間だけ」だと言い、自分が神様から突き放されているように感じている。けれどレドヴィは、人を愛し信頼することのできないクラス委員・ユーリのために橋から身を投げたトーマに、“偉大な神様”には感じることのできなかった不思議な親近感を覚え、トーマの書き残した詩がはさまれた本の置いてある図書室の一角を「自分の聖堂」と呼ぶ……。
キリスト教で言う神の愛が、無償の愛だということはよく知られている。だが大方の人は、そのことを訝しげに見ているのが実情だろう。毎朝の礼拝で人々の罪のために十字架に架かったというイエスの話を聞きつつも、神に心を預けることができなかったレドヴィの心情は痛いほどよく分かる。実際に自分の傍らに生きて、他人のために身を投げ出したトーマにだけ神様の存在を感じたレドヴィの弱さは、そのまま私自身に当てはまる。
幼少期、思春期とずっと人間不信できた私にとって、イエスが自分のために死んでくれたという事実は想像をはるかに絶していた。しかし、何者でもない自分のためにクリスチャン達が親身になって尽くしてくれる姿を見て、次第にイエスも地上でそのように暮らしていたこと、そしてクリスチャン達が彼を倣って生きていることを理解するに及んだ。
実は私は受洗した後 一度教会を離れている。だがその間、会社で後輩を指導する上で壁に突き当たる。そして、神様無しで人を愛そうとしても却って傷つけてしまうのだという事実に直面させられた私は、教会に戻る決心をした。
道のりは平坦ではなかった。二十歳で聖書を勉強した頃から、イエスの無償の愛はリアルに感じることができていたけれど、それが万物の創造主である神の愛と結び付けられずにいたという信仰上の弱点がこの時露呈したのである。再献身までの過程では、父なる神への恐れを少しずつ少しずつ払拭していくために、もがき苦しんだ。
『トーマの心臓』再読は、その一歩一歩を思い出すことができた意味で、とても有意義だった。
今回、『トーマの心臓』のイメージで選んだ音楽は、マーラーの交響曲第5番。特に、映画『ヴェニスに死す』でも有名な第4楽章は、ギムナジウム(ドイツの高等学校)に生活する少年達の揺れ動く心のひだに寄り添うような、清浄な美しさに満ちた一編である。
今回一番心に残ったのは、端役で出てくるレドヴィという盗癖のある生徒について描かれた箇所だった。
彼は「神様が愛しているのは良い人間だけ」だと言い、自分が神様から突き放されているように感じている。けれどレドヴィは、人を愛し信頼することのできないクラス委員・ユーリのために橋から身を投げたトーマに、“偉大な神様”には感じることのできなかった不思議な親近感を覚え、トーマの書き残した詩がはさまれた本の置いてある図書室の一角を「自分の聖堂」と呼ぶ……。
キリスト教で言う神の愛が、無償の愛だということはよく知られている。だが大方の人は、そのことを訝しげに見ているのが実情だろう。毎朝の礼拝で人々の罪のために十字架に架かったというイエスの話を聞きつつも、神に心を預けることができなかったレドヴィの心情は痛いほどよく分かる。実際に自分の傍らに生きて、他人のために身を投げ出したトーマにだけ神様の存在を感じたレドヴィの弱さは、そのまま私自身に当てはまる。
幼少期、思春期とずっと人間不信できた私にとって、イエスが自分のために死んでくれたという事実は想像をはるかに絶していた。しかし、何者でもない自分のためにクリスチャン達が親身になって尽くしてくれる姿を見て、次第にイエスも地上でそのように暮らしていたこと、そしてクリスチャン達が彼を倣って生きていることを理解するに及んだ。
実は私は受洗した後 一度教会を離れている。だがその間、会社で後輩を指導する上で壁に突き当たる。そして、神様無しで人を愛そうとしても却って傷つけてしまうのだという事実に直面させられた私は、教会に戻る決心をした。
道のりは平坦ではなかった。二十歳で聖書を勉強した頃から、イエスの無償の愛はリアルに感じることができていたけれど、それが万物の創造主である神の愛と結び付けられずにいたという信仰上の弱点がこの時露呈したのである。再献身までの過程では、父なる神への恐れを少しずつ少しずつ払拭していくために、もがき苦しんだ。
『トーマの心臓』再読は、その一歩一歩を思い出すことができた意味で、とても有意義だった。
今回、『トーマの心臓』のイメージで選んだ音楽は、マーラーの交響曲第5番。特に、映画『ヴェニスに死す』でも有名な第4楽章は、ギムナジウム(ドイツの高等学校)に生活する少年達の揺れ動く心のひだに寄り添うような、清浄な美しさに満ちた一編である。