◆7月1日
新改訳ローマ14:8「もし生きるなら、主のために生き、もし死ぬなら、主のために死ぬのです」。先月「年内に(乳癌術後)5年目の検査をして終了しましょう」と医師が仰った。予後良好らしい。乳癌になって言葉によらぬ証しができたが、今後は何か別の仕え方があるのかも
◆7月8日
イザヤ26:12、新共同訳は軸足がやや自分寄り。一方、新改訳は「主よ。あなたは、私たちのために平和を備えておられます。私たちのなすすべてのわざも、あなたが私たちのためにしてくださったのですから」と、主が為して下さることに重きを置き、恵み深さに溢れている。
◆7月15日
第一コリント8:3「しかし、神を愛する人がいれば、その人は神に知られているのです」。知識と愛についての文脈から何故この聖句に繋がるの?と思ったが、塚本虎二訳でのこの節の補足文(まことの知識は神を愛する者に神から与えられる。)を読んで、ストンと腑に落ちた。
◆7月20日
代読で信条に反する本のご希望が時々あり、この方が主に出会うことは無いのかと暗くなる。だが、新改訳イザヤ42:16「わたしは目の見えない者に、彼らの知らない道を歩ませ…彼らの前でやみを光に、でこぼこの地を平らにする。…彼らを見捨てない」を見、信じようと決心
◆7月22日
新共同イザヤ44:25「(主は)むなしいしるしを告げる者を混乱させ 占い師を狂わせ 知者を退けてその知識を愚かなものとする」は、新改訳では「わたしは自慢する者らのしるしを破り」で始まる。過去に受けた聖霊の働きを誇って驕れば、主は砕かれるのか。自戒したい
◆7月25日
第一コリ14:31「あなたがたは、みながかわるがわる預言できるのであって、すべての人が学ぶことができ、すべての人が勧めを受けることができるのです」(新改訳)。問題もあった母教会だが、この面では傑出。私が聖書に詳しくなれたのもこのお蔭。時折当時が恋しくなる
◆7月29日
コリント二2:17「わたしたちは、多くの人々のように神の言葉を売り物にせず、誠実に、また神に属する者として、神の御前でキリストに結ばれて語っています」の〈売り物〉は、新改訳では〈混ぜ物をして売る〉。私の証しは、混ぜ物を入れ、神を利用していないか?心したい
◆7月31日
イザヤ57:19「わたしは唇の実りを創造し、与えよう。平和、平和、遠くにいる者にも近くにいる者にも。わたしは彼をいやす、と主は言われる」。主は、その御口で平和を生み出し、人を癒す。私達の唇の実は、ただ主を賛美すること(ヘブライ13:15)。この違い!
新改訳ローマ14:8「もし生きるなら、主のために生き、もし死ぬなら、主のために死ぬのです」。先月「年内に(乳癌術後)5年目の検査をして終了しましょう」と医師が仰った。予後良好らしい。乳癌になって言葉によらぬ証しができたが、今後は何か別の仕え方があるのかも
◆7月8日
イザヤ26:12、新共同訳は軸足がやや自分寄り。一方、新改訳は「主よ。あなたは、私たちのために平和を備えておられます。私たちのなすすべてのわざも、あなたが私たちのためにしてくださったのですから」と、主が為して下さることに重きを置き、恵み深さに溢れている。
◆7月15日
第一コリント8:3「しかし、神を愛する人がいれば、その人は神に知られているのです」。知識と愛についての文脈から何故この聖句に繋がるの?と思ったが、塚本虎二訳でのこの節の補足文(まことの知識は神を愛する者に神から与えられる。)を読んで、ストンと腑に落ちた。
◆7月20日
代読で信条に反する本のご希望が時々あり、この方が主に出会うことは無いのかと暗くなる。だが、新改訳イザヤ42:16「わたしは目の見えない者に、彼らの知らない道を歩ませ…彼らの前でやみを光に、でこぼこの地を平らにする。…彼らを見捨てない」を見、信じようと決心
◆7月22日
新共同イザヤ44:25「(主は)むなしいしるしを告げる者を混乱させ 占い師を狂わせ 知者を退けてその知識を愚かなものとする」は、新改訳では「わたしは自慢する者らのしるしを破り」で始まる。過去に受けた聖霊の働きを誇って驕れば、主は砕かれるのか。自戒したい
◆7月25日
第一コリ14:31「あなたがたは、みながかわるがわる預言できるのであって、すべての人が学ぶことができ、すべての人が勧めを受けることができるのです」(新改訳)。問題もあった母教会だが、この面では傑出。私が聖書に詳しくなれたのもこのお蔭。時折当時が恋しくなる
◆7月29日
コリント二2:17「わたしたちは、多くの人々のように神の言葉を売り物にせず、誠実に、また神に属する者として、神の御前でキリストに結ばれて語っています」の〈売り物〉は、新改訳では〈混ぜ物をして売る〉。私の証しは、混ぜ物を入れ、神を利用していないか?心したい
◆7月31日
イザヤ57:19「わたしは唇の実りを創造し、与えよう。平和、平和、遠くにいる者にも近くにいる者にも。わたしは彼をいやす、と主は言われる」。主は、その御口で平和を生み出し、人を癒す。私達の唇の実は、ただ主を賛美すること(ヘブライ13:15)。この違い!
通販に
プルメリア柄の Tシャツを
買って届いた 類似カタログ
(とど)
2011年4月20日 作歌、2016年7月22日 改作。
プルメリア柄の Tシャツを
買って届いた 類似カタログ
(とど)
2011年4月20日 作歌、2016年7月22日 改作。
弁当を 手に輪の中へ
加わった 君に差し出す
パイプ丸椅子
(とど)
2011年5月28日 作歌、2016年7月19日 改作。
加わった 君に差し出す
パイプ丸椅子
(とど)
2011年5月28日 作歌、2016年7月19日 改作。
失(なく)したくないなら地上(つち)におろしなさい十センチほどの鳥が来ている
一見、不思議な読後感に襲われる。この歌からは、何を失くしたくないのかが(おそらく意図的に)省かれている。しかし、二句に「地上(つち)」、そして結句に「鳥」の存在が示されることで、聖書の予備知識を持つ人にはそれが〈種〉ではないかとおおよその察しはつく。実際、河野は山梨英和短大の卒業であり、この読みはさほど的外れでもないだろう。
歌の背景にある聖書の該当箇所はやや長い。ここでは端折って引用しよう。「よく聞きなさい。種を蒔く人が種蒔きに出て行った。 蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。… (中略)…また、ほかの種は良い土地に落ち、芽生え、育って実を結び、あるものは三十倍、あるものは六十倍、あるものは百倍にもなった」(マルコによる福音書4章3〜4節、8節)。自分が手にしている〈種〉は、握りしめていれば自分だけのものかもしれない。けれどふとした隙に落としてしまうのを狙っている「鳥」が来ている、それならば……手放して土地に任せ、種が実を結ぶのを待つ方が賢明ではないか。ヨハネによる福音書12章24節の「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」という聖句も、この考え方を一層鮮やかに裏打ちしている。
歌集出版時の河野は大学図書館に司書として勤めていた。だから、掲出歌の表現を字義通りに——農作業に携わる教訓として——捉えるのは見当違いで、比喩と見るのが妥当である。歌集全体を読み込むと、河野が何某かの病気のため伴侶や子供を持つのを断念していることからくる寂寥感が浮かび上がる。掲出歌の含まれる歌集冒頭の連作に目を配ってみても、彼女が誰か大切な人と時間を過ごしながらも空虚な心を抱えて、半ば自分を諭すようにこの箴言風の一首を生んだことが見て取れるのだ。
人は誰かを愛しても、その相手とは別の人格である。この人を手放したくない……と思えば思うほど、もつれた糸はこんがらがっていく。河野は、〈種〉を土におろす潮時を知っていた。前出のヨハネによる福音書12章の御言葉に続く25〜26節が、様々な思いを振り切った河野の肩を支えてくれていたことを、私は願うばかりだ。「自分の命を愛する者は、それを失うが、この世で自分の命を憎む人は、それを保って永遠の命に至る。 わたしに仕えようとする者は、わたしに従え。そうすれば、わたしのいるところに、わたしに仕える者もいることになる。わたしに仕える者がいれば、父はその人を大切にしてくださる。」(ヨハネによる福音書12章25〜26節)
河野小百合『マリアのいない夏』
一見、不思議な読後感に襲われる。この歌からは、何を失くしたくないのかが(おそらく意図的に)省かれている。しかし、二句に「地上(つち)」、そして結句に「鳥」の存在が示されることで、聖書の予備知識を持つ人にはそれが〈種〉ではないかとおおよその察しはつく。実際、河野は山梨英和短大の卒業であり、この読みはさほど的外れでもないだろう。
歌の背景にある聖書の該当箇所はやや長い。ここでは端折って引用しよう。「よく聞きなさい。種を蒔く人が種蒔きに出て行った。 蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。… (中略)…また、ほかの種は良い土地に落ち、芽生え、育って実を結び、あるものは三十倍、あるものは六十倍、あるものは百倍にもなった」(マルコによる福音書4章3〜4節、8節)。自分が手にしている〈種〉は、握りしめていれば自分だけのものかもしれない。けれどふとした隙に落としてしまうのを狙っている「鳥」が来ている、それならば……手放して土地に任せ、種が実を結ぶのを待つ方が賢明ではないか。ヨハネによる福音書12章24節の「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」という聖句も、この考え方を一層鮮やかに裏打ちしている。
歌集出版時の河野は大学図書館に司書として勤めていた。だから、掲出歌の表現を字義通りに——農作業に携わる教訓として——捉えるのは見当違いで、比喩と見るのが妥当である。歌集全体を読み込むと、河野が何某かの病気のため伴侶や子供を持つのを断念していることからくる寂寥感が浮かび上がる。掲出歌の含まれる歌集冒頭の連作に目を配ってみても、彼女が誰か大切な人と時間を過ごしながらも空虚な心を抱えて、半ば自分を諭すようにこの箴言風の一首を生んだことが見て取れるのだ。
人は誰かを愛しても、その相手とは別の人格である。この人を手放したくない……と思えば思うほど、もつれた糸はこんがらがっていく。河野は、〈種〉を土におろす潮時を知っていた。前出のヨハネによる福音書12章の御言葉に続く25〜26節が、様々な思いを振り切った河野の肩を支えてくれていたことを、私は願うばかりだ。「自分の命を愛する者は、それを失うが、この世で自分の命を憎む人は、それを保って永遠の命に至る。 わたしに仕えようとする者は、わたしに従え。そうすれば、わたしのいるところに、わたしに仕える者もいることになる。わたしに仕える者がいれば、父はその人を大切にしてくださる。」(ヨハネによる福音書12章25〜26節)
初めからある程度は予想していたことですが、来年の干支「酉(鳥、鶏)」にまつわる短歌が見聞きするだけでも沢山あり過ぎます。今後の管理にも難渋しますので、Twitterにメモしてきていた #toritanka をここら辺で一旦公開にします。また折々に追加もしていきます。
*来年の干支短歌が思いつきましたので、とりあえず #toritanka の蓄積はここで終了したいと思います。(2016年7月3日)
そこよりは出られぬ鳥がカンバスにはばたきつづく夏美術館/河野小百合
空青くすむ聖五月この朝けステンドグラスの鳥息絶ゆる/河野小百合
失(なく)したくないなら地上(つち)におろしなさい十センチほどの鳥が来ている/河野小百合
鶏頭の残りの炎かきたてて十一月の雷雨きたりぬ/雨宮雅子
つつぬけの空に筒鳥のこゑひびきうつつなる日のひと日つつぬけ/雨宮雅子
朝刊にそそぐ日ざしはためらわず廃鶏の文字くきやかに見す/島田幸典
ここに立つここより他に無き場所の空に枝を張り鳥遊ばせて/寺尾登志子
今日いつさいことば発してゐないこと鳥でいい鳥がいいこころをつつむ/今野寿美
誓ったり祈ったりしたことはない 目を離したら消えていた鳥/土岐友浩
きららかについばむ鳥の去りしあと長くかかりて水はしづまる/大西民子
夏空は帽子のつばに区切られて銅貨のように落ちてゆく鳥/吉川宏志
折る膝のなければ敗れし軍鶏はからだごと地へ倒れてゆけり/田村広志
人間ばかり歴史をもちてかなしきを空は荒びてもがく春の鳥/河野愛子
首うねり白鳥は死にゐたりけりそこにあるだれの罪だれの罰/米川千嘉子
かごめ歌かごの鳥とは人間が秘めてかなしむ魂(たま)といふ説/米川千嘉子
雛飾り小鳥ほどなる人ゐたりこゑも飲食(おんじき)の跡もちひさく/米川千嘉子
白鳥の魂(たま)ありし莢みづからの白のふかさに朴(ほほ)わらふかも/米川千嘉子
魚の生(よ)や鳥の生(よ)すぎて育ちゆくさむさつぶさに胎を蹴るとき/米川千嘉子
白鳥のゐたれば静まりたる少女はばたきは苦く汝れに生るるを/米川千嘉子
千鳥鳴く佐保の河瀬のさざれ波恋一千首鳴りて苦しも/米川千嘉子
ふりおろす鮮黄の槌とほく見ゆ 雨に向かひて立つ鳥あらむ/中山明
中世の森を映してしづもれる湖ありき 鳥も忘れき/中山明
みづとりのこゑのみすなり成熟に向かふ時代の夜の川原に/中山明
震災をおほくうたはず少年と犬、馬、小鳥をよみし牧水/米川千嘉子
断崖崩落おもへばわれにこみ上げる鳥屋に鵜の足摑む苦しさ/米川千嘉子
口笛のフィーと鳴く鳥秋に来る照鷽は雄、雨鷽は雌/米川千嘉子
ユリカモメ空に光りぬどの鳥も偶然としてわが前を過ぐ/吉川宏志
鳥笛の小さき一つはチコチコの大き二つはコルージャの声/本多峰子
鳥笛を手に遊ばせてこの昼は何呼ばわんとわれの居りたる/本多峰子
高層の部屋に一人のわがために吹けとや君が買い来し鳥笛/本多峰子
母の葬りすぎて十日の真昼間を一人し遊ぶ鳥寄せ笛に/本多峰子
無理するな限りに励めと鬩(せめ)ぐこゑ花鶏頭に寄ればきこゆる/千葉修
風に靡きしままのかたちに素枯れたる芒の原に啼く鳥もなし/伊藤輝文
乳色の靄の中なる檜原ゆきゆく手もさやに朝鳥のこゑ/津田治子
いたはりて育てし小鳥よ吾の掌に奇形の体あづけて眠る/田沢さかゑ
鶏(くだかけ)はくびを伸してながながとひるをうたへり青桐の花/合田とくを
起き出でて寝汗を拭ふとひとしきり水鶏の声は近まさりつつ/明石海人
水鳥の鴨の羽(は)の色の春山のおぼつかなくも思ほゆるかも/笠女郎『萬葉集』
花鳥のほかにも春のありがほに霞みてかかる山の端(は)の月/順徳院『續後撰集』
殘る夜の月は霞の袖ながらほころびそむる鳥の聲かな/三條西實隆
すさまじきわが身は春もうとければいさ花鳥の時もわかれず/伏見院
夕暮や嵐に花は飛ぶ鳥のあすかみゆきのあとのふるさと/伏見院
櫻咲く遠山鳥のしだり尾のながながし日もあかぬ色かな/後鳥羽院
亡き人の日數も今日は百千鳥鳴くは淚か花の下露/佛國
山もとの鳥のこゑごゑ明けそめて花もむらむら色ぞ見えゆく/永福門院
鳥が音(ね)も明けやすき夜の月影に關の戸出づる春の旅人/藤原爲家
百千鳥聲のかぎりは鳴き古りぬまだおとづれぬものは君のみ/惠慶
春されば百舌鳥(もず)の草潛(くさぐ)き見えずともわれは見やらむ君が邊(あたり)をば/作者未詳
行く春のなごりを鳥の今しはと侘びつつ鳴くや夕暮の聲/邦輔親王
おもひたつ鳥は古巢もたのむらむなれぬる花のあとの夕暮/寂蓮
花は根に鳥は古巢に歸るなり春のとまりを知る人ぞなき/崇徳院
花鳥もみな行きかひてむばたまの夜の間に今日の夏は來にけり/紀貫之
雲のゐる遠山鳥の遲櫻こころながくも殘る色かな/宗尊親王
花鳥の春におくるるなぐさめにまづ待ちすさぶ山ほととぎす/花園院
いまだにも鳴かではあらじ時鳥むらさめ過ぐる雲の夕暮/章義門院小兵衞督
時鳥ふかき山べに住むかひは梢につづく聲を聞くかな/西行
霍公鳥(ほととぎす)此(こ)よ鳴き渡れ燈火(ともしび)を月夜(つくよ)に比(なそ)へその影も見む/大伴家持
過ぎぬとも聲の匂はなほとめよ時鳥鳴く宿の橘/守覺法親王
なほざりに鳴きてや過ぐる時鳥待つは苦しき心盡しを/二條爲定
心あてに聞かばや聞かむ時鳥雲路に迷ふ峰の一聲/後鳥羽院
水鳥の浮寢絶えにし波の上に思ひを盡きて燃ゆる夏蟲/藤原家隆
夏刈の玉江の蘆をふみしだき群れゐる鳥の立つ空ぞなき/源重之
星のため八聲(やこゑ)の鳥も心せよまだ初秋の夜半ぞみじかき/十市遠忠
ひとり寢(ぬ)る山鳥の尾のしだり尾に霜置きまよふ牀の月影/藤原定家
春の夜のみじかき夢を呼子鳥(よぶこどり)覺むる枕にうつ衣かな/木下長嘯子
松島や雄島が磯に寄る波の月の冰に千鳥鳴くなり/俊成女
狩りごろも雪はうち散る夕暮の鳥立(とだち)の原を思ひすてめや/肖柏
はかなしや暮れぬと歸る御狩野に驚く鳥のおのれ立つ聲/肖柏
日の暮はかたへに小鳥とりつけておきのは山を出づる狩人/心敬
御狩野はかつ降る雪にうづもれて鳥立(とだち)も見えず草隱(くさがく)れつつ/大江匡房
輕(かる)の池の入江をめぐる鴨鳥の上毛(うはげ)はだらに置ける朝霜/藤原顯輔
三島野に鳥踏み立てて合せやる眞白の鷹の鈴もゆららに/顯昭
佐保川にさ驟(ばし)る千鳥夜更(よぐた)ちて汝が聲聞けば寢(い)ねがてなくに/作者未詳
かくてのみ有磯(ありそ)の浦の濱千鳥よそに鳴きつつ戀ひや渡らむ/よみ人知らず
月もいかに須磨の關守ながむらむ夢は千鳥の聲にまかせて/藤原家隆
淡海(あふみ)の海夕波千鳥汝が鳴けば情(こころ)もしのに古(いにしへ)思ほゆ/柿本人麿
風ふけばよそになるみのかた思ひ思はぬ波に鳴く千鳥かな/藤原秀能
辛崎(からさき)や夕波千鳥ひとつ立つ洲崎(すさき)の松も友なしにして/心敬
浦風の吹上の眞砂(まさご)かたよりに鳴く音みだるるさ夜千鳥かな/飛鳥井雅有
浦傳ふ夕波千鳥立ち迷ひ八十島かけて月に鳴くなり/飛鳥井雅有
佐保川の汀の冰踏みならし妻呼び迷(まど)ふさ夜千鳥かな/飛鳥井雅有
鳴きて行く荒磯千鳥濡れ濡れず翼の波にむすぼほるらむ/肖柏
さ夜千鳥有明の月を遠妻の片江の浦に侘びつつや鳴く/肖柏
水鳥の冰柱(つらら)の枕隙(ひま)もなしむべ冱えけらし十符(とふ)の菅菰(すがごも)/源經信
朝冰とけなむ後と契りおきて空にわかるる池の水鳥/守覺法親王
水鳥の下(した)安からぬ我が中にいつか玉藻の牀を重ねむ/頓阿
志賀の浦や波もこほると水鳥のせかるる月による方やなき/木下長嘯子
逢ふことは遠山鳥の狩衣(かりごろも)きてはかひなき音をのみぞ泣く/元良親王
きぬぎぬに別るる袖の浦千鳥なほ曉は音ぞなかれける/藤原爲家
武庫の浦の入江の渚鳥(すどり)羽(は)ぐくもる君を離れて戀に死ぬべし/作者未詳
淵やさは瀬にはなりける飛鳥川淺きを深くなす世なりせば/赤染衞門
夏の日の燃ゆるわが身のわびしさに水戀鳥の音をのみぞ鳴く/よみ人知らず
友戀ふる遠山鳥のますかがみ見るになぐさむほどのはかなさ/待賢門院堀河
いかにせむ宇陀の燒野に臥す鳥のよそに隱れぬ戀のつかれを/元可
幾夕べむなしき空に飛ぶ鳥の明日かならずとまたや頼まむ/後伏見院
水の上に浮きたる鳥の跡もなくおぼつかなさを思ふ頃かな/藤原伊尹
鳥のこゑ囀りつくす春日影くらしがたみにものをこそ思へ/永福門院
時しもあれ空飛ぶ鳥の一聲も思ふ方より來てや鳴くらむ/藤原良經
鳥の行く夕べの空よその夜にはわれも急ぎし方はさだめき/伏見院
流れそふ淚の川のさ夜千鳥遠き汀に戀ひつつや鳴く/姉小路濟繼
憂きなかぞ聞くも稀なるきぬぎぬに鳴くは深山の鳥ならねども/堯孝
飛鳥川七瀬の淀に吹く風のいたづらにのみ行く月日かな/順徳院
都鳥なに言問はむ思ふ人ありやなしやは心こそ知れ/後嵯峨院
浦風の寒くし吹けばあまごろもつまどふ千鳥鳴く音悲しも/宗尊親王
朝な朝な雪のみ山に鳴く鳥の聲に驚く人のなきかな/藤原良經
曉のゆふつけ鳥(どり)ぞあはれなる長き眠(ねぶ)りをおもふ枕に/式子内親王
卵よりつぎつぎ亀が出でくればひかりを散らす鳥の下降線/清水峻
立つ鳥はいつでも後を濁すから僕がここにいることを知る/中島裕介
屋上で紙飛行機を飛ばしたら私も渡り鳥になれるわ/中島裕介
凧糸が切れてるような飛び方をする冬鳥が黄昏を裂く/中島裕介
脇腹の痛みは鈍く 夕闇へ飛び去る鳥を追えば追うほど/中島裕介
ランニングマシーンでしか走れない僕にちらつく鳥の羽の影/中島裕介
これよりも夢に国試はあらわれん春に見えいる花喰鳥のごと/田中濯
小鳥よりちひさき靴を磨きゐて神しらぬわがいのりはあつし/稲葉京子
われは樹を樹々の梢は発つ鳥を神が配分の位置に見上げつ/稲葉京子
真上より人を見下ろすさびしさの、鳥にあるいは神にはいかに/永田和宏
鳥籠を遁れしゆゑに神のごと風の中なる森に消えゆく/大野誠夫
わらう鳥わらう神様わらう雲チャックゆるくてふきだす涙/東直子
晩禱のはるけきときを鳥のごと空こえゆかな聖マリア月/桜木由香
鳥の声ひびかう丘に墓標あり生きて此処なるわがクロニクル/桜木由香
飛ぶ鳥の胃の腑ゆらぐかさやさやと秋の真水は茜を渡る/古谷智子
わがなげきまたあらたなり夏鳥の呼びかはし啼くこのあかときは/木俣修
笹ごもり啼く鳥が音(ね)は春山の寒きくもりのなかに徹れり/木俣修
赤い針がビルの隙間にさしてきて始発を待てば駅は駒鳥/法橋ひらく
祝砲に沸き立つように水鳥が散っていくから湾は手のひら/法橋ひらく
大いなる矢印として北を指す鳥たち 送る歩道橋の上/法橋ひらく
ふくろふはまこと鳥猫きれぎれのその昼の夢われはかなしむ/河野裕子
杳(とほ)き陽が差しゐる草地風が吹き翳りやすくて鳥が歩める/河野裕子
猫や鶏寡黙に愛しゐし幼女期は昼も裏藪に火が見えてゐし/河野裕子
日の暮れはあかあかとしてもの暗く樹樹らさわげり樹に棲む鳥も/河野裕子
鳥の脚太きも細きもひたひたと音なく急ぎをり森の日暮は/河野裕子
まろき胸の羽毛まづ吹かれしろじろと鶏(かけろ)つむれり夕風の中/河野裕子
秋真昼かぐろく晴れぬ古き家(や)の天窓を鳥の趾ゆき来す/河野裕子
鳥の影さして人ゐぬ真昼まの明るきさびしさ草の実が爆づ/河野裕子
夕昏るるげんげの畑を出でて来て怪(け)しき硝子玉鶏吐き出だす/河野裕子
生き過ぎて生きねばならぬ祖母にして鶏括るごと呻くことある/河野裕子
鳥の嘴(はし)しきりに動き鏡面に黒き人毛は剪られつつあり/河野裕子
鳥の道はるか光れり 汝が為の新墓(にいはか)いまだ地上にあらず/河野裕子
われは往けず汝れは還れぬ夕闇の中有の風道鳥も通はぬ/河野裕子
ふさふさと褐色にそよぐ羽ひろげ鶏(かけろ)はしばし風に瞑れり/河野裕子
夜天快晴のこの青さ 人も居ぬ鳥も居ぬ万華鏡夜ふけに覗く/河野裕子
骨なしのチキンに骨が残っててそれを混入事象と呼ぶ日/岡野大嗣
春空に千鳥格子の鳥たちを逃がしてつくる無地のスカート/岡野大嗣
満席の回転寿司は養鶏場みたいでふるえつづけるプリン/岡野大嗣
一羽ずつ立つ白い鳥真っ白い鳥せかいいちさみしい点呼/兵庫ユカ
遠い空に女の顔で鳴く鳥が今夜も私に呼びかけてくる/川本千栄
鳥に似て首を突き出し人々は歩く小さなこの国の中/川本千栄
自らの滲(し)み出す脂にまみれつつ鶏の肝臓煮詰められたり/川本千栄
虫愛づる姫君あるいは鳥愛づる皇帝いずれも人の世に倦み/川本千栄
人間の途絶えた森に鳥獣(とりけもの)激増すとうチェルノブイリの/川本千栄
体温計腋にまどろむ チチチチと小鳥が鳴いている夢を見て/渡辺和子
車止めの上に飾りの小鳥いて紗希子の小さき手に撫でられる/渡辺和子
このあさは頭の白き鳥ふたついて馬酔木の花を互みにゆらす/渡辺和子
鳥の巣の中よりあふぐ心地しぬ若葉のひまのいと青きそら/片山広子
まつしろいペンキのやうな鳥の糞に飛び立つときの勢ひがあり/花山多佳子
おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内臓もつを/伊藤一彦
空想を逃がさぬように目を閉じたわたしの頭蓋は鳥籠になる/村津初美
鳥のことば解く人とほくエトルリアの鳥占ひ師は壁画より出づ/大沢優子
飛びながら鳥が凍るといふ寒さ思ひみがたく雪の街ゆく/栗木京子
からだとは大きな鳥籠かもしれず午睡より覚めしばらく咳きぬ/栗木京子
眠る鳥そのくちばしの小(ち)さき穴に呼吸(いき)通ひゐむ秋の夜ふけを/高野公彦
遠ければひよどりのこゑ借りて呼ぶそらに降らざる雪ふかみゆく/小原奈実
朝の庭にしあはせの鳥十羽来て七羽去りたるごとき夕餉ぞ/黒瀬珂瀾
かんむり座のあかりのとどく陵墓より母音ひきつつわが鳥は発つ/小黒世茂
鬱を病む白鳥あらばはばたかぬつばさの内に星抱(いだ)くらむ/水原紫苑
ほのぼのと春こそ空に 春の鳥飛ぶには春の空間が要る/香川ヒサ
鳥語 星語 草語さやかに秋立ちて晴れ女われの耳立ちにけり/松川洋子
聖夜、階段の踊り場から絞めらるる鶏を見てゐたり/松川洋子
彦乃のあとを飼はむかとつと思ふ 口惜し鳥獣店の猫と目が合ふ/松川洋子
天(あめ)をゆく鳥ならぬものの声のして流星痕はそののちに見ゆ/松川洋子
にはとりは三歩あゆめば忘るると立ち上がりざま忘るる我は/松川洋子
群鳥のゆきて幾日(いくか)かいらへなき君を果てとして蒼天のあり/松川洋子
零下二十度鳥ゆかず水ゆかず今生とはありありと他界である/松川洋子
白秋の序言葉美しきマザーグウス お針が怖いかつこ鳥怖い/松川洋子
食欲の無くなるほどに恋ふといふおそろしき鳥を緑蔭に見つ/松川洋子
鳥群のこゑなくゆけり眼鏡らの仰角三十度の視線の果てに/松川洋子
真正面の白鳥の顔ふと笑ふわがうちの退嬰の神を見たるや/松川洋子
海鳥の羽根折る海石(いくり) 日本海はどうしてかうも荒いのでせうか/松川洋子
迷鳥のひとみのごとし三等星ミンタカは軽い鬱の星/松川洋子
息(おき)長の競鳴鳥のごと胸反らしガリクルチ歌へり“埴生の宿”/松川洋子
少年よマロ舞踏のやうに狂へとぞけしかけてゐる夜鳥羽(は)たたき/松川洋子
ソプラニスタ岡本知高、鳥類の王のごとくに黒衣を纏ふ/松川洋子
わが神はおんぼろぼろぼろ羽抜け鳥 口惜しかつたら戦を止めよ/松川洋子
神父あらぬ聴罪室の格子窓を鳥ならぬもののつばさ過ぎれり/松川洋子
雪代のあふるる半球鳥瞰するシュワスマンワハマン彗星/松川洋子
死がすこし怖い 妻との黄昏は無数の鳥のこゑの墓原/岡井隆
鳥の重みに揺れてゐる枝 どのやうに苦しむべきかわれはわからず/中津昌子
北晴れて飄飄と飛ぶ鳥のかげ目に追はせつつ鋭心(とごころ)を耐ふ/宮柊二
彼岸花の花瓣(くわべん)にうつる陽の寒しちりぼひ群れて空をゆく鳥/宮柊二
秋はやく寒陽照り澄む高空を耿耿(かうかう)と翔(かけ)りて消えゆきし鳥/宮柊二
青垣の群山(むらやま)見ればこころかなし鳴きつつ落つる鳥の影あり/宮柊二
弟の家に宿りて春早き蛙(かはづ)とも水鷄(くひな)とも聞きすます夜/宮柊二
尾に打ちて石移りする鶺鴒の小さき鳥の喜びも見よ/宮柊二
病室の硝子戸のそと日は射して園に色映ゆ鷄頭花(けいとう)の黄は/宮柊二
靜まりて鷄頭花(けいとうくわ)みな倒れをり颱風去りしテラス庭園/宮柊二
撥彫(はねぼり)の花喰鳥も妻見けん紅牙紺牙(こうげこんげ)の撥鏤(ばちる)の碁子(きし)に/宮柊二
池わたり來る水鳥の聲きけば遠ふるさとも年明けけんか/宮柊二
古びたる心洗ひて辿り行く鳴く百鳥(ももどり)を山に聞きつつ/宮柊二
春暑し萌ゆる草間に籠り入り含(ふふ)むごと啼く鳥ありて晝/宮柊二
鳥の影庭を素早く過(よ)ぎりしが來かかりし猫立止まり仰ぐ/宮柊二
庭よぎる猫に小鳥に吠え止まぬ末の娘が飼うケアン・テリヤ種の犬/宮柊二
徹夜明けの心勵(はげ)まし逝ける人をおもひゐしとき秋鳥(あきどり)渡る/宮柊二
感傷し淺草に食ふ鳥肉の刺身冷たくいたく身に沁む/宮柊二
降りてきて冬の色鳥(いろどり)一羽二羽庭に遊ぶを部屋より覗く/宮柊二
岸に鳴く鵞鳥の聲はあざやけき樗(あふち)青葉の下より聞こゆ/宮柊二
鷄頭の紅曼陀羅(こうまんだら)の一花が插されて壺が机にぞある/宮柊二
文鳥の死をあはれみて雨の午後棗の下に妻は葬る/宮柊二
一羽にて我らと共に生きてこし文鳥死にてかなしかりけり/宮柊二
文鳥は止り木を落ち夏終る雨のあしたに息絶えてゐき/宮柊二
昨日今日野の鳥あそびしらじらと木下(こした)の石に糞あたらしき/宮柊二
わが家に迷ひ來てより五年となる一羽の手乘り文鳥老いぬ/宮柊二
構内の川岸ゆくにアカシヤの莢實(さやみ)散らばり小鳥群れゐつ/宮柊二
鷄頭花(けいとう)に秋冷えの雨晝を降り耐へがたきまで口腔乾く/宮柊二
あきらかに秋づく空の鳥のこゑ曇のなかを移りゐるなり/宮柊二
石のほとり日ざし動けり雨ののち秋さらんとし小鳥ゐるなり/宮柊二
沙羅の木をわが尋(と)めくればこの園に飼はるる鳥ら聲啼きてをり/宮柊二
一羽のみ飼はるる遠き南洋の鳥の足跡砂にみだれつ/宮柊二
ハッカンの鳥舎は乾く敷砂(しきすな)に金網の影映りゐるのみ/宮柊二
鳥にあり獸にあり他(ひと)にあり我にあり生命(いのち)といふは何を働く/宮柊二
鳥群れて曇る空間(そらま)を啼きゆけり樹木ある東京郊外なれば/宮柊二
文鳥の捨餌食まむと朝々をしたしげにくる雀五六羽/宮柊二
朝空に量感持ちて一團の鳥移りゆく羽光らせて/宮柊二
小鳥らの聲走るなる梅雨樹間(このま)張(はり)ある聲のいたく樂しげ/宮柊二
疲れたる頭はげまし亡き君を思ひゐる朝鳥渡りゆく/宮柊二
鳥一羽その空間を翔び去りぬ花咲き垂るる藤棚の下/宮柊二
春逝く夜柱時計の鳴りそめて籠の中なる文鳥騒ぐ/宮柊二
北國の濱おぎろなし渚邊に降りゆく鳥の黒羽光る/宮柊二
迷ひ來て家に二年を飼はれつぐ文鳥一羽水浴びてゐる/宮柊二
雨の日の櫻見に來て園の鳥啼くを聞きをり雨の木(こ)の間に/宮柊二
北ぐにの海岸沿ひを渡るとふ候鳥(こうてう)はこれの園に憩ふや/宮柊二
初日さす梅の木の下土凍り楕圓(だゑん)に鳥の影走りたり/宮柊二
參道の石段ながし降(くだ)りゐて啄む鳥の影の小ささ/宮柊二
背戸山(せどやま)の風の中にてひよどりら遊ぶ高音(たかね)のまぎれず透る/宮柊二
水鳥の晝を鳴くこゑ霙する岸の木(こ)の間に透りて聞こゆ/宮柊二
風空(かざぞら)を冬鳥渡り折り折りの啼く聲とどくこの竹群(たかむら)に/宮柊二
小鳥賣(う)る貼紙仰ぎ讀みをれば町のとほくに晝の火事あり/宮柊二
耳とほき若林翁(をう)訪ひきたりさまざま語る鳥のこと石のこと/宮柊二
黒鳥(こくてう)は嘴赤くして二羽泛(う)くを車に見つつ人の喪に行く/宮柊二
鳥が水を飮むごとくして緑の茶啜り終へたり夜の部屋にして/宮柊二
熱帶の木(こ)のまを早く飛ぶ鳥の聲細くして體(からだ)小さし/宮柊二
色鳥(いろどり)は雨の中きて錦木の枝にしばらく遊びをりたり/宮柊二
鷄頭花(けいとう)は秋日(あきび)に燃ゆと眺めつつしばらく他(ひと)の垣外(かきそと)に立つ/宮柊二
雨のなか一つ小鳥が啼く聲は杉の林の中より透る/宮柊二
岩かげの入江いち早く暮れづけば砂なぎさより鳥發(た)ち移る/宮柊二
櫻咲く園の眞晝に斧の音庭鳥の鬨(とき)いたく靜けし/宮柊二
鈴蘭の傍にきたりし庭鳥が葉に載る露を飮みて去りたり/宮柊二
靄のごと東京灣の沖空の低どを渡る海鳥の群/宮柊二
硼酸(はうさん)で目を洗ひをり今朝いまだ庭に降りこぬ鳥憶ひつつ/宮柊二
わが庭に降りくる鳥も減りしかな界隈ひろく家建ち増えて/宮柊二
雨の朝こゑまれまれに鳥啼きて秋づく庭の樹の中にゐる/宮柊二
鳥獸の聲せぬ園(その)の雨のあさ梅の林のわき通り來(き)ぬ/宮柊二
山中に鷄頭の朱を打ちたたき雨荒れざまにひびきつつ降る/宮柊二
風筋の鷄頭の花見つつ待つ家開け放ち主人(あるじ)びと留守/宮柊二
母二人かたみに寡婦と生きてきて聞く時鳥牟禮(むれ)の空を過ぐ/宮柊二
胸のうち波立つごとく怒(いか)るとき庭に野の鳥降り來つつ啼く/宮柊二
離々たりし穗も實も今は靜まれる草原(くさはら)に來て小鳥遊べる/宮柊二
たちかへる年のあしたに鳥のごと甦りくる智識に遊ぶ/宮柊二
雌連るる七面鳥が突然に剛羽(こはば)を張りて地(つち)を走りき/宮柊二
鳴く聲のしはがれてゐき七面鳥山中(やまなか)の湯の庭に飼はれて/宮柊二
雨ふかき島の夜空を啼き渡る小鳥らありてこゑの遠ぞく/宮柊二
鳥避(よ)けの威しに鴉の亡骸を下げて靜けし島の籾田(もみた)は/宮柊二
鳥鳴くは島の磯囘(いそわ)か朝の波白くひろがる中より聞こゆ/宮柊二
鳥のこゑ獸のこゑの跡絶(とだ)えをりあはれあしたの給餌の時間/宮柊二
小走りに道に影して群れあそぶほろほろ鳥(てう)の羽光り落つ/宮柊二
聲張りて小鳥ら啼けり命あるものが檻なる内の安らぎ/宮柊二
啄(ついば)みて正月(むつき)の庭に羽小さき鳥遊びゐき、人を愛さむ/宮柊二
霜いまだ降らぬ十月盡(じふぐわつじん)の朝冬鳥すでに道に遊べり/宮柊二
逝ける犬逝ける小鳥を埋めおく小さき庭に秋ふかみ來(き)ぬ/宮柊二
秋ふかみつつ幾日か庭に降り野鳥ら騒ぐ晨(あした)あしたを/宮柊二
金屬(きんぞく)が飛び遊ぶごと空(そら)にして候鳥(こうてう)の群北より旋(めぐ)る/宮柊二
川水を飮みに近よる野の鳥が草かげにして羽ばたく音す/宮柊二
耕さぬ荒田(あれた)の雨にくだりきて晝(ひる)を遊びし小鳥ら數種/宮柊二
籠の小鳥鳴きて鳴きやめつ被ひ置く眠(ねむり)のための黒布のうち/宮柊二
單調(たんてう)に群れわたりゆく鳥ありて移る季節を知るといふなり/宮柊二
犬一匹小鳥三羽を飼ふ家に少年怒り易く育ちつ/宮柊二
闇の田の空鳴き過ぐる鳥が音(ね)はわれの聞くのみ父は眠りて/宮柊二
霧白く捲きてながるる門(かど)の邊(へ)に鳴く鳥あればわれは出て見る/宮柊二
燒く鳥の匂ひ立つとき這入(はひり)より覗ける犬の親し夜の顏/宮柊二
燒鳥の膏(あぶら)のりたる股の肉引き裂きて食ふ齒を慰めて/宮柊二
一夜(ひとよ)寢てきけばま白き雨霧の立ちのまにまに鳴く山の鳥/宮柊二
冬の日の長くかがやく草むらに翔け入りし鳥潛みて出でず/宮柊二
田に下りて冬の小鳥のこまごまと遊ぶを見をり二階の部屋に/宮柊二
吊環(つりくわん)のゆれうごくした額狹く女(をみな)坐しをり鷄頭花(けいとう)持ちて/宮柊二
乾き照る石垣沿ひにあゆみ行く鷄鳴き騒ぐこゑは前方/宮柊二
高原(たかはら)の丘に影して渡りゐる小鳥らのむれときに閃く/宮柊二
雨くらき路地にうごきし庭鳥のとさかの朱(あけ)を過ぎきて想へる/宮柊二
みちわたる秋の朝日は金にして鷄頭群(けいとうぐん)を黒く立たしむ/宮柊二
鷄頭花(けいとう)は影を置きたり廣庭の砂あかくして夏もかたむく/宮柊二
ただざまに海に望みて目標(しるし)なる鳥海山(てうかいざん)の雪光るなり/宮柊二
わがわきに來て一人立つ外人も暮れゆく濠の白鳥を見る/宮柊二
鷄は皆とほくあそびて網戶越し秋日てらせる鳥屋(とや)の土見ゆ/宮柊二
小鳥の山中のこゑきかしむとらぢおの孤(ひと)つ部屋に鳴りをりき/宮柊二
春楡の午の林に入りくればこゑもの憂くて郭公鳥(くわくこうどり)啼く/宮柊二
ひろき野に降りてむらがる黒どりの烏鳴きてをり首むきむきに/宮柊二
この地區に保護うけて棲む鳥けもの夕早くよりその聲を果つ/宮柊二
百鳥(ももどり)の春の遊びを聽かむとししづけき園を横切りてきぬ/宮柊二
小鳥らは白霜(しらしも)にきて遊びをりなごましきかな陸べるさまの/宮柊二
收奪の形おもほえ春の野の大き鷄舎を覗きゐたりけり/宮柊二
庭鳥(にはとり)と犬叱りゆく道のこゑうらわかわかし少女(をとめ)のこゑにて/宮柊二
山の湯の池のほとりに軍鷄(しやも)一羽頸(くび)のべて夕日の中に遊べり/宮柊二
野分する音小止(をや)みなくきこえつつ鷄(にはとり)の啼くこゑも聞こえつ/宮柊二
屋上の金網のなか目を瞑(と)ぢて養(か)はるるゆゑの羽白き鵞鳥(がてう)/宮柊二
甲々(かんかん)と鳴く鳥きけばこゑひさし御墓處(みはかど)一つ冬の日の中/宮柊二
啼きかはす夜の鷄(にはとり)に焦(いら)ちつつ草明りする夜の道を歸(かへ)る/宮柊二
戀の句の釋(と)きがたきかなおろおろと鳴ける夜鳥(よどり)を憎まむとをり/宮柊二
梅雨のまを山に籠りし小鳥らの昨日今日より降りてくる聲/宮柊二
雨暑き山の木(こ)の間に羽ばたける鳥を聞きつつわが步(あゆ)みたのし/宮柊二
翼(はね)搏ちて荒寥と空に鳴きあぐるまがつ鳥(どり)鴉を胸ふかく飼ふ/宮柊二
勤務(つとめ)より歸りくる道ゆふかげにみみず掘りつつ遊ぶ庭鳥/宮柊二
こころしづかにわれはなりゆく道の上に呼ばるる鷄の急きゆくを見つ/宮柊二
どの部屋か鷄(にはとり)鳴けり疲れざる精神持ちて生きつぐ友か/宮柊二
道塞(ふた)ぎ繁れる黍(きび)の甘く充ち稔(みのり)に入らば鳥も來寄らむ/宮柊二
うちかへす摩天の山のつらなりに墜ちいゆきしは魂(たま)消えし鳥/宮柊二
日蔭田(ひかげだ)の濃霜(こじも)のうへに亂(みだ)れつつとりけだものの過ぎし跡ある/宮柊二
しはがれて曉告鳥(あかときどり)の鳴くころにわれは眠らむ蠟の灯消して/宮柊二
このあした木原(こはら)に迫り鳴く鳥のこゑ低まりて何𩛰(あさ)るらむ/宮柊二
鳥打帽(とりうち)を無頼にかむり燒跡をたもとほりゆく脚絆いでたち/宮柊二
棗の葉しみみに照れば雨過ぎて驢馬と庭鳥と一所(ひとつど)に遊ぶ/宮柊二
鳥ひとつ影にも翔ばす景荒れたり連(つら)なみ遠き陝西省の山/宮柊二
鷄をいすくめ抱へ密偵の丈の低きが捕(と)はれ來りぬ/宮柊二
支那人が水に貯はふる鷄卵をあがなひ飮めばおほかたに下痢(くだ)す/宮柊二
岩稜(いはかど)に群がる鳥の鴉にて時をり木靈(こだま)を呼びつつ啼けり/宮柊二
わが窓に双鳥文なしてひよどりの遊びゐし雪の日を懐かしむ/北沢郁子
背戸裏の雜木林の下ゆきて仰げば鳥の群れ渡るかげ/宮柊二
彼岸花咲きて午(ひる)の陽やや寒く散りぼひ群れて空をゆく鳥/宮柊二
鳴き声を聞きてひよどりと言ひあてし少年は空を指さして立つ/北沢郁子
ひよどりが猛りて目白を追い払う餌台に神の林檎のひとつ/角倉羊子
手を執りて朝道行けば言ひ出づる小鳥屋の前にて小鳥がにほふ/北沢郁子
飛翔するむら鳥の影地にこぼれ明るき春の空仰がしむ/北沢郁子
浅き皿に水浴みに来る鳥のごとをりをりこころ降るる場所あり/横山未来子
むくどりが落すさくらの種子を踏むかそけき音ぞ離れ歩みて/近藤芳美
軒の茂りに画眉鳥は朗らなる声に呼び杜甫草堂に遠く来てあり/近藤芳美
しきりに啼くを画眉鳥と教えたまうなる杜甫草堂のときの移りに/近藤芳美
残りの柿にひよどりは時を定め来る落葉は深きひと日ひと日に/近藤芳美
後れ歩みて妻と佇む「小鳥たちへの説法」の下堂に灯ともさず/近藤芳美
行き行きて鳥の巣のごと影つづく山のやどりぎの日の明るさに/近藤芳美
あけびの実今年残れば部屋に挿す妻に小鳥らの食み残す実と/近藤芳美
白鳥の浮きただよえる水と城冷え増す夕光は木々にひととき/近藤芳美
火山礫なだれて鳥かげもなき岬過ぎつつ夕陽の島の崖は見つ/近藤芳美
梢澄みて落葉しつくす白樺に喚(よ)び喚ぶひよどりもひと日妻の友/近藤芳美
白さざんかいつひそかにて咲きつぐ日しぐれしぐれの庭のひよどり/近藤芳美
群れを離れ鳥も海獣も死を待つをうずくまるものおのずから曝(さ)る/近藤芳美
落葉おくれ水木の茂り影立てばひよどりは鳴く遠き黄昏/近藤芳美
くれないの暗き余光にかげ立ちて朴の散る葉の鳥落つるごと/近藤芳美
脂肉吊りて小鳥を待つ庭にひかりは荒し朴の散る葉に/近藤芳美
ともしびのごと白冴ゆる山茶花のしぐれは昏れて鳥影もなく/近藤芳美
ひよどりの声のおさなき一日を野の上のしぐれはや暗く降る/近藤芳美
水盤の降りしぐれつつまれに来る野のひよどりら野のかげまとう/近藤芳美
仮屋建て鶏飼い病みしつかのまの倖せの日か顕てるおもかげ/近藤芳美
白き鳥梢を渡る朝明けを残る街灯の雪降りしきる/近藤芳美
梨畑の寒の没り陽を見て戻る雲凍るはて鳥影もなく/近藤芳美
炎昼の青田に鳥の影もなし農道ぬけて行くビデオ店/伊東文
肉体というよりむしろ声に似る影をのばして飛んでいく鳥/小谷奈央
どの鳥も過去へ吸われていく途中はがねのような川面を越えて/小谷奈央
風昏きアリーナの底てのひらに水鳥球(みずどりきゅう)はしんと乾いて/小谷奈央
この鳥のゆききするとは思はねど燕の飛べば都おもほゆ/岡麓
山の鳥肌うることなきことわりを考へ考へ我は畑打つ/杉浦翠子
あはれ水鶏よと耳傾けて我があれば遠くより聞え近きより又/矢代東村
雨にぬれて軒下に來し庭鳥のわれを見るかも繩綯ひをれば/中島哀浪
我が家のいまだ焼けねば庭木木に枝移る鳥の聲はひびくも/木村捨錄
百鳥(ももとり)のさえづるなかを鳴き徹る鶯きこゆ信濃路の朝を/今井邦子
服部真里子(とりまり)が泣いて笑った みずたまの大中小を服に散らして/喜多昭夫
大鳥よその美しき帆翔を見上げずに人は汚泥を運ぶ/齋藤芳生
木かげ暗き夏の園来つ樫の中にほろほろ鳥は羽ふくらます/三宅菜緒子
どうか鳥よ この魂をついばんで日輪とける海に散らして/東直子
朝鳥のこゑに裂かれてひかりあれどまた引きよせてまた目をとぢて/桜木裕子
われら火食(くわしょく)われら墓あり鳥獣はみな寒食し墓もあらずも/高野公彦
鳥のつばさの静けさに町は濡れているわれの体がバスに乗りたり/花山周子
誰もゐないたそがれがきて鶏小屋を黒い揚羽が覗いていつた/岡部由紀子
慟哭か嗚咽か悲鳴か絶望かどうぶつゑんの獣鳥魚のこゑ/宮里信輝
果てしでの痛い叛乱ひだり足小指のうらのひとつ鶏眼/宮里信輝
奇つ怪なさまに伐られし神の木のいつしか繁り鳥を憩はす/内藤明
ある日ぼくはオキナワにゆき濃い血を飲む鳥になりました/松川洋子
遠くを見ること楽しくて五階より富士を、黄雲(きぐも)を、候鳥(こうてう)を見る/高野公彦
夏の鳥 夏から生まれ消えてゆく波濤のやうな鳥の影たち/吉田隼人
救急車の音やかましいこの部屋に逃げ延びてきた馬鹿な鳥二羽/山田航
牛も馬も鶏(とり)も斃(たふ)れし映像の荒野百年 さらに百年/高尾文子
きよき壁画の小鳥翔(た)たせむ父いますとこしへの国も水ぬるむころ/高尾文子
鳥のこゑ鳥の沈黙ふかぶかと抱くために青いおほぞらの胸/高尾文子
〈小鳥への説教〉世々に言ひ継がれ大観光地いのりの丘は/高尾文子
庭の樹をめじろ飛び去り額の絵のアッシジの小鳥と遊ぶ春昼/高尾文子
一羽二羽、五羽六羽、聖画の小鳥たち位階なき一人の声に聴き入る/高尾文子
イタリア半島南下してやさしい雨の降るこの丘に〈小鳥の聖人〉と逢ふ/高尾文子
桃咲いて鳥啼く家郷しづかにもわれは受容すちちははの死を/高尾文子
アッシジに購(もと)めし聖画の小鳥たち聖者のことばのみ聴いてゐる/高尾文子
鳥や草、そして永遠。無名のまま書き遺すディキンソン千余のポエム/高尾文子
前に見し放たれし牛も餌を乞ふ犬も空飛ぶ鳥さへもなし/佐藤祐禎
鳥にあり獣にあり他(ひと)にあり我にあり生命(いのち)といふは何を働く/宮柊二
たたかひの最中(さなか)静もる時ありて庭鳥啼けりおそろしく寂し/宮柊二
花のやうに日暮の鳥屋に眠りゐる鶏(かけろ)を姉とわれと見てゐつ/宮柊二
みづあびのみづあらたむる深皿に鳥の影きて横切りてゆく/上村典子
天衣無縫、テンイムホウと呼びかけむ南東へゆく暮鳥の雲へ/上村典子
白鳥を殺むるひとの指撓ひ鼻水の垂る垂れてやまざり/上村典子
「殺処分」あらたな言葉のふちふるへ未明捕獲の白鳥の頸/上村典子
冬山はまなこをとぢて羽たたむ老いたる鳥の思惟の重量/上村典子
石灰岩割れ目にいこひし鳥一羽こぼしし種子の榎は大樹/上村典子
筒鳥のこゑをテープに聞きをればここだここだよ降る兄のこゑ/上村典子
影として水面うつろふ水鳥にこころ寄りゆくふたり黙せば/柚木圭也
追はれつつ鳥屋に入りくる鶏(かけろ)らの次々と踏む夕光(ゆふかげ)の土/宮柊二
飛鳥川の夜目にも白き飛石(いはばし)を踏みて帰りぬ蛍も見たり/小谷稔
飛鳥川に蛍を待てば鳴く鳥はうぐひす止みて山ほととぎす/小谷稔
柿の実のたわわに熟れて採る人のなく華やげり鳥さへも来ず/小谷稔
引率の下見に来たり鶏頭の花鮮やかなディズニーランド/大崎瀬都
早春の風も光も飛ぶ鳥も一リットルの脳内現象/大崎瀬都
緩慢に小さき首を振りてゐし障碍のある小鳥も飼ひゐき/大崎瀬都
渡り鳥落伍せしのち死へ向かふさまをつぶさにカメラは映す/大崎瀬都
蛇の骨に小鳥の骨がつつまれたまま少しずつ愛されている/東直子
ゆふぐれのめんどりちどり兄さんの月にゆきたい気持ちをつつく/東直子
国見山ゆめの棧橋こふのとり無政府主義者はじめての恋/東直子
水枕鳥の産卵風車小屋花野武蔵野無人改札/東直子
あれは鳥? あれは布です北風に白いボタンをきつくとどめて/東直子
波音がわたしの口にあふれ出す鳥が切り裂く空に会いたい/東直子
避雷針つつけば水のもれさうな空にひひつと小鳥が啼けり/東直子
夏空をうつした井戸につるべなし詩人会議を過ぎてゆく鳥/東直子
冴えわたる朝の白鳥(しらとり)わたくしのこめかみうなじつついておくれ/東直子
テーブルの下に手を置くあなただけ離島でくらす海鳥(かもめ)のひとみ/東直子
季節ごとの鳥を愛してしまう程このごろ痛みやすい母さん/東直子
初秋の文鳥こくっと首を折る 棺に入れる眼鏡をみがく/東直子
みどりごのひそと眸(め)ひらくあかときを鳥たつや暗き水の裡より/高野公彦
桃色のあはく沈める夕ぞらへ撒かるるごとき鳥の影見つ/横山未来子
鳥の翼の影よぎれるを三たび見ぬ家にこもりてゐたるひと日に/横山未来子
四十分ほどを電車にゆられゐて夕空をゆく鳥を三たび見ぬ/横山未来子
見えぬほどこまかき花もまじりゐむ芝を椋鳥の駆けてゆくなり/横山未来子
春雨につむり濡れゐむひよどりをかくせる椎も濡れそぼちたり/横山未来子
白き頁の隅のこまかきノンブルの「2」は並びをり鳥の姿に/横山未来子
鳥のこゑに鳥の呼ばれてはじまれる朝ひとすぢの背をのばすなり/横山未来子
まふたつにされし蜜柑の断面の濡れをりいまだ小鳥来らず/横山未来子
ああ接吻(くちづけ)海そのままに日は行かず鳥翔(ま)ひながら死(う)せはてよいま/若山牧水
抱卵の母鶏はみなうつむきて祈るごとくに目を瞑るなり/高木佳子
六月は鳥の羽ばたき多き月こころみだれて一人が休む/棚木恒寿
麦揺れて風は体をもたざれど鳥類であることをみとめる/山田航
鳥獣虫魚に飲食(おんじき)ありて星の夜は銀の食器が天に散らばる/小島ゆかり
鳥の歩み見てゐるまひる放心のわが踝(くるぶし)に老いの貌ある/小島ゆかり
子に兆す小鳥の恐怖のやうなもの抱きしむる刹那せつなにおもふ/小島ゆかり
囀りはあかるき挫折 思ひより遠くひろがる鳥の浮彫(レリーフ)/山中智恵子
とどろける夕映の底に鳥らを鎮めたしかならざる手をひとに措く/山中智恵子
わが生みて渡れる鳥と思ふまで昼澄みゆきぬ訪ひがたきかも/山中智恵子
舗装路に雨ふりそそぎひったりと鳥の骸のごとく手袋/内山晶太
きのふ散つた百合の替はりに窓辺にはセサミストリートのでかい鳥/山田航
縁側にわがひるねしてありし間に鶏(とり)は卵を生みにけるかも/相馬御風
熱き日を走り眩(くら)みてわがいのち鳥けだもののごとく水を恋ふ/高野公彦
ひなどりのくちへ蚯蚓を運びゆく親鳥の眼がふいにまばゆし/笹井宏之
CryではなくてSingであるといふ 死の前の白鳥の喘ぎも/笹井宏之
名を知らぬ鳥と鳥とが鳴き交はし夏の衣はそらをおほひぬ/笹井宏之
傷つきし黒鳥一羽よこたへて夕焼けてゆくサルビア畑/笹井宏之
菖蒲咲きそめしさ庭へ降りたてば鳥影ひとつわれをよぎれり/笹井宏之
ししむらに星を宿してゐる鳥が吾のゆびさきを去る夕まぐれ/笹井宏之
白鳥座より抜け出でし白鳥のいたくしづかな着水を見つ/笹井宏之
六花咲き乱れし夜に白鳥はひとたび羽をひらきたるのみ/笹井宏之
かなしみの雨がしづかに止むゆふべ羽根やはらかしわが渡り鳥/笹井宏之
どのやうな鳥かはわからない しかし確かに初夏の声で鳴くのだ/笹井宏之
われが我としてあるためにみづいろの鳥を胸より放つ十五夜/笹井宏之
台風の目をはばたける鳥達に涙とふ名を与へてやりぬ/笹井宏之
あおあおと空は沈黙 白鳥の燃ゆるをわれは風上に聴く/笹井宏之
鵜の項ゆ幽けき悲鳴聞こえくる鳥類図鑑持ちて歩めば/笹井宏之
鳥居にも春は来るらし代わる代わる鳥達は花 飛べば花びら/笹井宏之
パソコンの起動時間に手に取りし詩集を最後まで読み通す/笹井宏之
名を呼ばれ週刊誌から目を上げれば百舌鳥鳴いている心療内科/笹井宏之
木製の銃でデコイの水鳥を撃ち抜いた、って感じがしたね/中澤系
嘴赤き小鳥を愛でゝしろ銀の皿に餌をもるゆく秋の人/原阿佐緒
名も知らぬ小鳥来りて歌ふ時われもまだ見ぬ人の恋しき/三ヶ島葭子
押すたびに爆発夢想するもまた鳥のさえずりだった信号機/虫武一俊
白鳥はふっくらと陽にふくらみぬ ありがとういつも見えないあなた/渡辺松男
ぐんぐんとおのれの近づきくる窓をビルをふはりと鳥は越えゆく/渋谷史恵
宗教の賞味期限を説く人の背後に見えて鳥は鳴きおり/大島史洋
木洩れ日をつかまえようと手を伸ばすおさなの指から夏の鳥飛ぶ/河野多香子
病棟の付添簡易ベッドにて朝一番の時鳥(ほととぎす)を聴く/高取雅史
だしぬけに空がざわめき草とりのわれの頭上を鳥の大群/堂本光子
人間になき行為にて白き白き卵を抱ける鶏を清(すが)しむ/富小路禎子
銅板の鳥しづみきて胸を刺す 傷(やぶ)らずばなほ羞しき翳り/山中智恵子
行きて負ふかなしみぞここ鳥髪(とりかみ)に雪降るさらば明日も降りなむ/山中智恵子
激越の手に鳥打帽(とりうち)をつかむ見ぬ黙契の中のきびしきかたち/河野愛子
白鳥を美しからぬといふ吾子よわが裡(うち)の何を罰するならむ/稲葉京子
現つ世は明(あか)しあかしと鳥を呼ぶわが声透る野のあけぼのに/安永蕗子
飛ぶ鳥の目にも名残りの夕茜世にくれなゐのことぞ哀しき/安永蕗子
はるばると世の末見ゆる水鳥か芽吹く葦生に首たててゐる/安永蕗子
見しことも語らぬ鳥が帰りくる岬みどりの草和ぐ夕/安永蕗子
見おろしに鳥瞰(み)て過ぎむ逆浪の白せめぎあふ河口といふを/安永蕗子
崑崙を越えゆく鳥と思ふまで朝の渡りの羽白きかな/安永蕗子
寂しみて籠(こ)の禽見れば鳥もまた自(し)が悪相のなかに眼つむる/安永蕗子
黒々と森の悩める内側を鳥あるきつつ真夜の風致区/安永蕗子
かいがねの右と左を近づけて仰がば鳥になりゆくわれか/稲垣道子
存命のよろこび詠えと鳥が鳴く意識なき子の今日誕生日/稲垣道子
海鳥の群れたちさわぐ埠頭に吃水高く船は舫(もや)えり/稲垣道子
はだれ雪冴え返りたる庭の辺につくばいの氷割りて鳥待つ/稲垣道子
朝もやに並みよろう山の見えねどもカーンカーンと啄木鳥大工/稲垣道子
とりあえず家に帰ろう水鳥を下から照らす川のゆうばえ/吉川宏志
ゆうぐれは駝鳥の背中で眠りたい 灰色の毛にくしゃみしながら/吉川宏志
鳥風のひとすじ吹きしゆうぐれは眉毛の薄き妻とおもえり/吉川宏志
春鳥を見上げる喉の白きこと まぼろしますか まぼろすだろう/吉川宏志
日暮れにはつい目で追ってしまうひと書架から鳥の図鑑を抜けり/吉川宏志
鳥の目のようにまばたく梅の木がポストの横に立っているなり/吉川宏志
二人から愛されているつややかさ焼き鳥を食む横顔に見つ/吉川宏志
扉ある鳥居は道を塞ぎたり茸を踏みてわれ引き返す/吉川宏志
棒のごと羽をすくめて飛びながら鳥はときどきただ落ちてゐる/朝井さとる
水鳥の一羽潜れば水の輪に子鴨も跳ねて渦の中へと/川藤青理沙
白鳥は大きはなびら冬枯れの水沼の陰に動くともなく/川藤青理沙
赤松の古木さわたる鳥の声海鼠(なまこ)壁へと歩みてゆけば/川藤青理沙
憤怒相ぬりこめられいる青不動火焰は自在な鳥の形に/川藤青理沙
幸福の青い鳥追う夕暮に青い鳥抱く乙女とまみゆ/川藤青理沙
裂くものは風 空 冷気 暁に翔ちゆく鳥の声痛きまで/川藤青理沙
道の辺に山茶花匂えばかの川に冬鳥つぶつぶ遊びておらん/川藤青理沙
花明る桜のなだりに佇めば翔ちゆく鳥の弾む心地に/川藤青理沙
水鳥の浮かぶ川岸にうち寄せてゆるやかに砂を洗いゆく波/川藤青理沙
山茶花のかすかに匂う朝の道小鳥を抱きひと歩みきぬ/川藤青理沙
群れなして水鳥の発つ気配あれば行かばや我も羽つくろいて/川藤青理沙
酔いもせず器の水を注ぐかな鳥飛び立ちし庭のさびしさ/川藤青理沙
たらちねの母偲ばるる桜樹の根もとに憩う椋鳥と鳩/川藤青理沙
降り立ちて白鳥羽をたたむかに泰山木の花頂きに/川藤青理沙
さわだてるけはひ届かぬはろけさに椋鳥のむれはまた森へ落つ/大西民子
庭に来てゐたる小鳥の足あとも消しゆく雨か夜半降り出でて/大西民子
山茶花の散りしくあたり用のなき鶏のごとくに歩めりわれは/大西民子
とりたてて思ふならねど静かにてかなしきときに歌の生まるる/大西民子
日蔭より日の照る方(かた)に群鶏(むらどり)の数多き脚歩みてゆくも/宮柊二
さくら食む鳥のあかるさ終はりなき書物を得たる少女のやうに/水原紫苑
渡り鳥見送ったのち焼き菓子がやっと恋しくなる島の秋/松村由利子
広やかな秋のこころよ何という鳥の声かと見上げる空の/松村由利子
秘密とは静かなる沼鳥一羽飛び立つときの濁り恐ろし/松村由利子
鳥のこころ鹿のこころに恋うべしと総身雨にざんざと濡らす/松村由利子
真っすぐに鳥は鳴くから求愛の季節の木々の緑うるめり/松村由利子
鳥の声聴き分けているまどろみのなかなる夢の淡き島影/松村由利子
渡り鳥に帰らぬ鳥のあるという記事思い出す改札口で/東洋
小鳥がみな鳩ほどに見ゆ、やや遠き梢の冬の夕風の中に/内藤しん策 *「しん」は金偏に辰
小禽(ことり)の人にさからふくちばしををりふし汝に見ればさびしき/内藤しん策
シーサーの横にとまれる大き鳥首動くたび嘴(はし)光りたり/さいかち真
ふくだみてすぼみて大き楠の春の時間を鳥は啄む/さいかち真
朝鳥が鳴くああ朝鳥はシミュレーションで 本当は酷(ひど)い黒さの壮年の鵺(ぬえ)/さいかち真
鳥のとぶかたちに切られ茹であがる菜の花やさし畏みて見つ/さいかち真
時鳥を模すクラクション響けるに怒りたゆたふきさらぎの夜/さいかち真
このところ寂けき鳥と親しむに我の及ばぬ韻鏡あり/さいかち真
があつがあつと怪鳥(けてう)の声す老い人にスーツの二人は侵入者ならむ/さいかち真
うつらうつら椅子に坐るに窓外を大きなる鳥燃えつつよぎる/さいかち真
腐刻画のなかに月なくあかつきに鳥の声なく あけがたの雨/佐藤弓生
白き犬水に飛び入るうつくしさ鳥鳴く鳥鳴く春の川瀬に/北原白秋
*来年の干支短歌が思いつきましたので、とりあえず #toritanka の蓄積はここで終了したいと思います。(2016年7月3日)
そこよりは出られぬ鳥がカンバスにはばたきつづく夏美術館/河野小百合
空青くすむ聖五月この朝けステンドグラスの鳥息絶ゆる/河野小百合
失(なく)したくないなら地上(つち)におろしなさい十センチほどの鳥が来ている/河野小百合
鶏頭の残りの炎かきたてて十一月の雷雨きたりぬ/雨宮雅子
つつぬけの空に筒鳥のこゑひびきうつつなる日のひと日つつぬけ/雨宮雅子
朝刊にそそぐ日ざしはためらわず廃鶏の文字くきやかに見す/島田幸典
ここに立つここより他に無き場所の空に枝を張り鳥遊ばせて/寺尾登志子
今日いつさいことば発してゐないこと鳥でいい鳥がいいこころをつつむ/今野寿美
誓ったり祈ったりしたことはない 目を離したら消えていた鳥/土岐友浩
きららかについばむ鳥の去りしあと長くかかりて水はしづまる/大西民子
夏空は帽子のつばに区切られて銅貨のように落ちてゆく鳥/吉川宏志
折る膝のなければ敗れし軍鶏はからだごと地へ倒れてゆけり/田村広志
人間ばかり歴史をもちてかなしきを空は荒びてもがく春の鳥/河野愛子
首うねり白鳥は死にゐたりけりそこにあるだれの罪だれの罰/米川千嘉子
かごめ歌かごの鳥とは人間が秘めてかなしむ魂(たま)といふ説/米川千嘉子
雛飾り小鳥ほどなる人ゐたりこゑも飲食(おんじき)の跡もちひさく/米川千嘉子
白鳥の魂(たま)ありし莢みづからの白のふかさに朴(ほほ)わらふかも/米川千嘉子
魚の生(よ)や鳥の生(よ)すぎて育ちゆくさむさつぶさに胎を蹴るとき/米川千嘉子
白鳥のゐたれば静まりたる少女はばたきは苦く汝れに生るるを/米川千嘉子
千鳥鳴く佐保の河瀬のさざれ波恋一千首鳴りて苦しも/米川千嘉子
ふりおろす鮮黄の槌とほく見ゆ 雨に向かひて立つ鳥あらむ/中山明
中世の森を映してしづもれる湖ありき 鳥も忘れき/中山明
みづとりのこゑのみすなり成熟に向かふ時代の夜の川原に/中山明
震災をおほくうたはず少年と犬、馬、小鳥をよみし牧水/米川千嘉子
断崖崩落おもへばわれにこみ上げる鳥屋に鵜の足摑む苦しさ/米川千嘉子
口笛のフィーと鳴く鳥秋に来る照鷽は雄、雨鷽は雌/米川千嘉子
ユリカモメ空に光りぬどの鳥も偶然としてわが前を過ぐ/吉川宏志
鳥笛の小さき一つはチコチコの大き二つはコルージャの声/本多峰子
鳥笛を手に遊ばせてこの昼は何呼ばわんとわれの居りたる/本多峰子
高層の部屋に一人のわがために吹けとや君が買い来し鳥笛/本多峰子
母の葬りすぎて十日の真昼間を一人し遊ぶ鳥寄せ笛に/本多峰子
無理するな限りに励めと鬩(せめ)ぐこゑ花鶏頭に寄ればきこゆる/千葉修
風に靡きしままのかたちに素枯れたる芒の原に啼く鳥もなし/伊藤輝文
乳色の靄の中なる檜原ゆきゆく手もさやに朝鳥のこゑ/津田治子
いたはりて育てし小鳥よ吾の掌に奇形の体あづけて眠る/田沢さかゑ
鶏(くだかけ)はくびを伸してながながとひるをうたへり青桐の花/合田とくを
起き出でて寝汗を拭ふとひとしきり水鶏の声は近まさりつつ/明石海人
水鳥の鴨の羽(は)の色の春山のおぼつかなくも思ほゆるかも/笠女郎『萬葉集』
花鳥のほかにも春のありがほに霞みてかかる山の端(は)の月/順徳院『續後撰集』
殘る夜の月は霞の袖ながらほころびそむる鳥の聲かな/三條西實隆
すさまじきわが身は春もうとければいさ花鳥の時もわかれず/伏見院
夕暮や嵐に花は飛ぶ鳥のあすかみゆきのあとのふるさと/伏見院
櫻咲く遠山鳥のしだり尾のながながし日もあかぬ色かな/後鳥羽院
亡き人の日數も今日は百千鳥鳴くは淚か花の下露/佛國
山もとの鳥のこゑごゑ明けそめて花もむらむら色ぞ見えゆく/永福門院
鳥が音(ね)も明けやすき夜の月影に關の戸出づる春の旅人/藤原爲家
百千鳥聲のかぎりは鳴き古りぬまだおとづれぬものは君のみ/惠慶
春されば百舌鳥(もず)の草潛(くさぐ)き見えずともわれは見やらむ君が邊(あたり)をば/作者未詳
行く春のなごりを鳥の今しはと侘びつつ鳴くや夕暮の聲/邦輔親王
おもひたつ鳥は古巢もたのむらむなれぬる花のあとの夕暮/寂蓮
花は根に鳥は古巢に歸るなり春のとまりを知る人ぞなき/崇徳院
花鳥もみな行きかひてむばたまの夜の間に今日の夏は來にけり/紀貫之
雲のゐる遠山鳥の遲櫻こころながくも殘る色かな/宗尊親王
花鳥の春におくるるなぐさめにまづ待ちすさぶ山ほととぎす/花園院
いまだにも鳴かではあらじ時鳥むらさめ過ぐる雲の夕暮/章義門院小兵衞督
時鳥ふかき山べに住むかひは梢につづく聲を聞くかな/西行
霍公鳥(ほととぎす)此(こ)よ鳴き渡れ燈火(ともしび)を月夜(つくよ)に比(なそ)へその影も見む/大伴家持
過ぎぬとも聲の匂はなほとめよ時鳥鳴く宿の橘/守覺法親王
なほざりに鳴きてや過ぐる時鳥待つは苦しき心盡しを/二條爲定
心あてに聞かばや聞かむ時鳥雲路に迷ふ峰の一聲/後鳥羽院
水鳥の浮寢絶えにし波の上に思ひを盡きて燃ゆる夏蟲/藤原家隆
夏刈の玉江の蘆をふみしだき群れゐる鳥の立つ空ぞなき/源重之
星のため八聲(やこゑ)の鳥も心せよまだ初秋の夜半ぞみじかき/十市遠忠
ひとり寢(ぬ)る山鳥の尾のしだり尾に霜置きまよふ牀の月影/藤原定家
春の夜のみじかき夢を呼子鳥(よぶこどり)覺むる枕にうつ衣かな/木下長嘯子
松島や雄島が磯に寄る波の月の冰に千鳥鳴くなり/俊成女
狩りごろも雪はうち散る夕暮の鳥立(とだち)の原を思ひすてめや/肖柏
はかなしや暮れぬと歸る御狩野に驚く鳥のおのれ立つ聲/肖柏
日の暮はかたへに小鳥とりつけておきのは山を出づる狩人/心敬
御狩野はかつ降る雪にうづもれて鳥立(とだち)も見えず草隱(くさがく)れつつ/大江匡房
輕(かる)の池の入江をめぐる鴨鳥の上毛(うはげ)はだらに置ける朝霜/藤原顯輔
三島野に鳥踏み立てて合せやる眞白の鷹の鈴もゆららに/顯昭
佐保川にさ驟(ばし)る千鳥夜更(よぐた)ちて汝が聲聞けば寢(い)ねがてなくに/作者未詳
かくてのみ有磯(ありそ)の浦の濱千鳥よそに鳴きつつ戀ひや渡らむ/よみ人知らず
月もいかに須磨の關守ながむらむ夢は千鳥の聲にまかせて/藤原家隆
淡海(あふみ)の海夕波千鳥汝が鳴けば情(こころ)もしのに古(いにしへ)思ほゆ/柿本人麿
風ふけばよそになるみのかた思ひ思はぬ波に鳴く千鳥かな/藤原秀能
辛崎(からさき)や夕波千鳥ひとつ立つ洲崎(すさき)の松も友なしにして/心敬
浦風の吹上の眞砂(まさご)かたよりに鳴く音みだるるさ夜千鳥かな/飛鳥井雅有
浦傳ふ夕波千鳥立ち迷ひ八十島かけて月に鳴くなり/飛鳥井雅有
佐保川の汀の冰踏みならし妻呼び迷(まど)ふさ夜千鳥かな/飛鳥井雅有
鳴きて行く荒磯千鳥濡れ濡れず翼の波にむすぼほるらむ/肖柏
さ夜千鳥有明の月を遠妻の片江の浦に侘びつつや鳴く/肖柏
水鳥の冰柱(つらら)の枕隙(ひま)もなしむべ冱えけらし十符(とふ)の菅菰(すがごも)/源經信
朝冰とけなむ後と契りおきて空にわかるる池の水鳥/守覺法親王
水鳥の下(した)安からぬ我が中にいつか玉藻の牀を重ねむ/頓阿
志賀の浦や波もこほると水鳥のせかるる月による方やなき/木下長嘯子
逢ふことは遠山鳥の狩衣(かりごろも)きてはかひなき音をのみぞ泣く/元良親王
きぬぎぬに別るる袖の浦千鳥なほ曉は音ぞなかれける/藤原爲家
武庫の浦の入江の渚鳥(すどり)羽(は)ぐくもる君を離れて戀に死ぬべし/作者未詳
淵やさは瀬にはなりける飛鳥川淺きを深くなす世なりせば/赤染衞門
夏の日の燃ゆるわが身のわびしさに水戀鳥の音をのみぞ鳴く/よみ人知らず
友戀ふる遠山鳥のますかがみ見るになぐさむほどのはかなさ/待賢門院堀河
いかにせむ宇陀の燒野に臥す鳥のよそに隱れぬ戀のつかれを/元可
幾夕べむなしき空に飛ぶ鳥の明日かならずとまたや頼まむ/後伏見院
水の上に浮きたる鳥の跡もなくおぼつかなさを思ふ頃かな/藤原伊尹
鳥のこゑ囀りつくす春日影くらしがたみにものをこそ思へ/永福門院
時しもあれ空飛ぶ鳥の一聲も思ふ方より來てや鳴くらむ/藤原良經
鳥の行く夕べの空よその夜にはわれも急ぎし方はさだめき/伏見院
流れそふ淚の川のさ夜千鳥遠き汀に戀ひつつや鳴く/姉小路濟繼
憂きなかぞ聞くも稀なるきぬぎぬに鳴くは深山の鳥ならねども/堯孝
飛鳥川七瀬の淀に吹く風のいたづらにのみ行く月日かな/順徳院
都鳥なに言問はむ思ふ人ありやなしやは心こそ知れ/後嵯峨院
浦風の寒くし吹けばあまごろもつまどふ千鳥鳴く音悲しも/宗尊親王
朝な朝な雪のみ山に鳴く鳥の聲に驚く人のなきかな/藤原良經
曉のゆふつけ鳥(どり)ぞあはれなる長き眠(ねぶ)りをおもふ枕に/式子内親王
卵よりつぎつぎ亀が出でくればひかりを散らす鳥の下降線/清水峻
立つ鳥はいつでも後を濁すから僕がここにいることを知る/中島裕介
屋上で紙飛行機を飛ばしたら私も渡り鳥になれるわ/中島裕介
凧糸が切れてるような飛び方をする冬鳥が黄昏を裂く/中島裕介
脇腹の痛みは鈍く 夕闇へ飛び去る鳥を追えば追うほど/中島裕介
ランニングマシーンでしか走れない僕にちらつく鳥の羽の影/中島裕介
これよりも夢に国試はあらわれん春に見えいる花喰鳥のごと/田中濯
小鳥よりちひさき靴を磨きゐて神しらぬわがいのりはあつし/稲葉京子
われは樹を樹々の梢は発つ鳥を神が配分の位置に見上げつ/稲葉京子
真上より人を見下ろすさびしさの、鳥にあるいは神にはいかに/永田和宏
鳥籠を遁れしゆゑに神のごと風の中なる森に消えゆく/大野誠夫
わらう鳥わらう神様わらう雲チャックゆるくてふきだす涙/東直子
晩禱のはるけきときを鳥のごと空こえゆかな聖マリア月/桜木由香
鳥の声ひびかう丘に墓標あり生きて此処なるわがクロニクル/桜木由香
飛ぶ鳥の胃の腑ゆらぐかさやさやと秋の真水は茜を渡る/古谷智子
わがなげきまたあらたなり夏鳥の呼びかはし啼くこのあかときは/木俣修
笹ごもり啼く鳥が音(ね)は春山の寒きくもりのなかに徹れり/木俣修
赤い針がビルの隙間にさしてきて始発を待てば駅は駒鳥/法橋ひらく
祝砲に沸き立つように水鳥が散っていくから湾は手のひら/法橋ひらく
大いなる矢印として北を指す鳥たち 送る歩道橋の上/法橋ひらく
ふくろふはまこと鳥猫きれぎれのその昼の夢われはかなしむ/河野裕子
杳(とほ)き陽が差しゐる草地風が吹き翳りやすくて鳥が歩める/河野裕子
猫や鶏寡黙に愛しゐし幼女期は昼も裏藪に火が見えてゐし/河野裕子
日の暮れはあかあかとしてもの暗く樹樹らさわげり樹に棲む鳥も/河野裕子
鳥の脚太きも細きもひたひたと音なく急ぎをり森の日暮は/河野裕子
まろき胸の羽毛まづ吹かれしろじろと鶏(かけろ)つむれり夕風の中/河野裕子
秋真昼かぐろく晴れぬ古き家(や)の天窓を鳥の趾ゆき来す/河野裕子
鳥の影さして人ゐぬ真昼まの明るきさびしさ草の実が爆づ/河野裕子
夕昏るるげんげの畑を出でて来て怪(け)しき硝子玉鶏吐き出だす/河野裕子
生き過ぎて生きねばならぬ祖母にして鶏括るごと呻くことある/河野裕子
鳥の嘴(はし)しきりに動き鏡面に黒き人毛は剪られつつあり/河野裕子
鳥の道はるか光れり 汝が為の新墓(にいはか)いまだ地上にあらず/河野裕子
われは往けず汝れは還れぬ夕闇の中有の風道鳥も通はぬ/河野裕子
ふさふさと褐色にそよぐ羽ひろげ鶏(かけろ)はしばし風に瞑れり/河野裕子
夜天快晴のこの青さ 人も居ぬ鳥も居ぬ万華鏡夜ふけに覗く/河野裕子
骨なしのチキンに骨が残っててそれを混入事象と呼ぶ日/岡野大嗣
春空に千鳥格子の鳥たちを逃がしてつくる無地のスカート/岡野大嗣
満席の回転寿司は養鶏場みたいでふるえつづけるプリン/岡野大嗣
一羽ずつ立つ白い鳥真っ白い鳥せかいいちさみしい点呼/兵庫ユカ
遠い空に女の顔で鳴く鳥が今夜も私に呼びかけてくる/川本千栄
鳥に似て首を突き出し人々は歩く小さなこの国の中/川本千栄
自らの滲(し)み出す脂にまみれつつ鶏の肝臓煮詰められたり/川本千栄
虫愛づる姫君あるいは鳥愛づる皇帝いずれも人の世に倦み/川本千栄
人間の途絶えた森に鳥獣(とりけもの)激増すとうチェルノブイリの/川本千栄
体温計腋にまどろむ チチチチと小鳥が鳴いている夢を見て/渡辺和子
車止めの上に飾りの小鳥いて紗希子の小さき手に撫でられる/渡辺和子
このあさは頭の白き鳥ふたついて馬酔木の花を互みにゆらす/渡辺和子
鳥の巣の中よりあふぐ心地しぬ若葉のひまのいと青きそら/片山広子
まつしろいペンキのやうな鳥の糞に飛び立つときの勢ひがあり/花山多佳子
おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内臓もつを/伊藤一彦
空想を逃がさぬように目を閉じたわたしの頭蓋は鳥籠になる/村津初美
鳥のことば解く人とほくエトルリアの鳥占ひ師は壁画より出づ/大沢優子
飛びながら鳥が凍るといふ寒さ思ひみがたく雪の街ゆく/栗木京子
からだとは大きな鳥籠かもしれず午睡より覚めしばらく咳きぬ/栗木京子
眠る鳥そのくちばしの小(ち)さき穴に呼吸(いき)通ひゐむ秋の夜ふけを/高野公彦
遠ければひよどりのこゑ借りて呼ぶそらに降らざる雪ふかみゆく/小原奈実
朝の庭にしあはせの鳥十羽来て七羽去りたるごとき夕餉ぞ/黒瀬珂瀾
かんむり座のあかりのとどく陵墓より母音ひきつつわが鳥は発つ/小黒世茂
鬱を病む白鳥あらばはばたかぬつばさの内に星抱(いだ)くらむ/水原紫苑
ほのぼのと春こそ空に 春の鳥飛ぶには春の空間が要る/香川ヒサ
鳥語 星語 草語さやかに秋立ちて晴れ女われの耳立ちにけり/松川洋子
聖夜、階段の踊り場から絞めらるる鶏を見てゐたり/松川洋子
彦乃のあとを飼はむかとつと思ふ 口惜し鳥獣店の猫と目が合ふ/松川洋子
天(あめ)をゆく鳥ならぬものの声のして流星痕はそののちに見ゆ/松川洋子
にはとりは三歩あゆめば忘るると立ち上がりざま忘るる我は/松川洋子
群鳥のゆきて幾日(いくか)かいらへなき君を果てとして蒼天のあり/松川洋子
零下二十度鳥ゆかず水ゆかず今生とはありありと他界である/松川洋子
白秋の序言葉美しきマザーグウス お針が怖いかつこ鳥怖い/松川洋子
食欲の無くなるほどに恋ふといふおそろしき鳥を緑蔭に見つ/松川洋子
鳥群のこゑなくゆけり眼鏡らの仰角三十度の視線の果てに/松川洋子
真正面の白鳥の顔ふと笑ふわがうちの退嬰の神を見たるや/松川洋子
海鳥の羽根折る海石(いくり) 日本海はどうしてかうも荒いのでせうか/松川洋子
迷鳥のひとみのごとし三等星ミンタカは軽い鬱の星/松川洋子
息(おき)長の競鳴鳥のごと胸反らしガリクルチ歌へり“埴生の宿”/松川洋子
少年よマロ舞踏のやうに狂へとぞけしかけてゐる夜鳥羽(は)たたき/松川洋子
ソプラニスタ岡本知高、鳥類の王のごとくに黒衣を纏ふ/松川洋子
わが神はおんぼろぼろぼろ羽抜け鳥 口惜しかつたら戦を止めよ/松川洋子
神父あらぬ聴罪室の格子窓を鳥ならぬもののつばさ過ぎれり/松川洋子
雪代のあふるる半球鳥瞰するシュワスマンワハマン彗星/松川洋子
死がすこし怖い 妻との黄昏は無数の鳥のこゑの墓原/岡井隆
鳥の重みに揺れてゐる枝 どのやうに苦しむべきかわれはわからず/中津昌子
北晴れて飄飄と飛ぶ鳥のかげ目に追はせつつ鋭心(とごころ)を耐ふ/宮柊二
彼岸花の花瓣(くわべん)にうつる陽の寒しちりぼひ群れて空をゆく鳥/宮柊二
秋はやく寒陽照り澄む高空を耿耿(かうかう)と翔(かけ)りて消えゆきし鳥/宮柊二
青垣の群山(むらやま)見ればこころかなし鳴きつつ落つる鳥の影あり/宮柊二
弟の家に宿りて春早き蛙(かはづ)とも水鷄(くひな)とも聞きすます夜/宮柊二
尾に打ちて石移りする鶺鴒の小さき鳥の喜びも見よ/宮柊二
病室の硝子戸のそと日は射して園に色映ゆ鷄頭花(けいとう)の黄は/宮柊二
靜まりて鷄頭花(けいとうくわ)みな倒れをり颱風去りしテラス庭園/宮柊二
撥彫(はねぼり)の花喰鳥も妻見けん紅牙紺牙(こうげこんげ)の撥鏤(ばちる)の碁子(きし)に/宮柊二
池わたり來る水鳥の聲きけば遠ふるさとも年明けけんか/宮柊二
古びたる心洗ひて辿り行く鳴く百鳥(ももどり)を山に聞きつつ/宮柊二
春暑し萌ゆる草間に籠り入り含(ふふ)むごと啼く鳥ありて晝/宮柊二
鳥の影庭を素早く過(よ)ぎりしが來かかりし猫立止まり仰ぐ/宮柊二
庭よぎる猫に小鳥に吠え止まぬ末の娘が飼うケアン・テリヤ種の犬/宮柊二
徹夜明けの心勵(はげ)まし逝ける人をおもひゐしとき秋鳥(あきどり)渡る/宮柊二
感傷し淺草に食ふ鳥肉の刺身冷たくいたく身に沁む/宮柊二
降りてきて冬の色鳥(いろどり)一羽二羽庭に遊ぶを部屋より覗く/宮柊二
岸に鳴く鵞鳥の聲はあざやけき樗(あふち)青葉の下より聞こゆ/宮柊二
鷄頭の紅曼陀羅(こうまんだら)の一花が插されて壺が机にぞある/宮柊二
文鳥の死をあはれみて雨の午後棗の下に妻は葬る/宮柊二
一羽にて我らと共に生きてこし文鳥死にてかなしかりけり/宮柊二
文鳥は止り木を落ち夏終る雨のあしたに息絶えてゐき/宮柊二
昨日今日野の鳥あそびしらじらと木下(こした)の石に糞あたらしき/宮柊二
わが家に迷ひ來てより五年となる一羽の手乘り文鳥老いぬ/宮柊二
構内の川岸ゆくにアカシヤの莢實(さやみ)散らばり小鳥群れゐつ/宮柊二
鷄頭花(けいとう)に秋冷えの雨晝を降り耐へがたきまで口腔乾く/宮柊二
あきらかに秋づく空の鳥のこゑ曇のなかを移りゐるなり/宮柊二
石のほとり日ざし動けり雨ののち秋さらんとし小鳥ゐるなり/宮柊二
沙羅の木をわが尋(と)めくればこの園に飼はるる鳥ら聲啼きてをり/宮柊二
一羽のみ飼はるる遠き南洋の鳥の足跡砂にみだれつ/宮柊二
ハッカンの鳥舎は乾く敷砂(しきすな)に金網の影映りゐるのみ/宮柊二
鳥にあり獸にあり他(ひと)にあり我にあり生命(いのち)といふは何を働く/宮柊二
鳥群れて曇る空間(そらま)を啼きゆけり樹木ある東京郊外なれば/宮柊二
文鳥の捨餌食まむと朝々をしたしげにくる雀五六羽/宮柊二
朝空に量感持ちて一團の鳥移りゆく羽光らせて/宮柊二
小鳥らの聲走るなる梅雨樹間(このま)張(はり)ある聲のいたく樂しげ/宮柊二
疲れたる頭はげまし亡き君を思ひゐる朝鳥渡りゆく/宮柊二
鳥一羽その空間を翔び去りぬ花咲き垂るる藤棚の下/宮柊二
春逝く夜柱時計の鳴りそめて籠の中なる文鳥騒ぐ/宮柊二
北國の濱おぎろなし渚邊に降りゆく鳥の黒羽光る/宮柊二
迷ひ來て家に二年を飼はれつぐ文鳥一羽水浴びてゐる/宮柊二
雨の日の櫻見に來て園の鳥啼くを聞きをり雨の木(こ)の間に/宮柊二
北ぐにの海岸沿ひを渡るとふ候鳥(こうてう)はこれの園に憩ふや/宮柊二
初日さす梅の木の下土凍り楕圓(だゑん)に鳥の影走りたり/宮柊二
參道の石段ながし降(くだ)りゐて啄む鳥の影の小ささ/宮柊二
背戸山(せどやま)の風の中にてひよどりら遊ぶ高音(たかね)のまぎれず透る/宮柊二
水鳥の晝を鳴くこゑ霙する岸の木(こ)の間に透りて聞こゆ/宮柊二
風空(かざぞら)を冬鳥渡り折り折りの啼く聲とどくこの竹群(たかむら)に/宮柊二
小鳥賣(う)る貼紙仰ぎ讀みをれば町のとほくに晝の火事あり/宮柊二
耳とほき若林翁(をう)訪ひきたりさまざま語る鳥のこと石のこと/宮柊二
黒鳥(こくてう)は嘴赤くして二羽泛(う)くを車に見つつ人の喪に行く/宮柊二
鳥が水を飮むごとくして緑の茶啜り終へたり夜の部屋にして/宮柊二
熱帶の木(こ)のまを早く飛ぶ鳥の聲細くして體(からだ)小さし/宮柊二
色鳥(いろどり)は雨の中きて錦木の枝にしばらく遊びをりたり/宮柊二
鷄頭花(けいとう)は秋日(あきび)に燃ゆと眺めつつしばらく他(ひと)の垣外(かきそと)に立つ/宮柊二
雨のなか一つ小鳥が啼く聲は杉の林の中より透る/宮柊二
岩かげの入江いち早く暮れづけば砂なぎさより鳥發(た)ち移る/宮柊二
櫻咲く園の眞晝に斧の音庭鳥の鬨(とき)いたく靜けし/宮柊二
鈴蘭の傍にきたりし庭鳥が葉に載る露を飮みて去りたり/宮柊二
靄のごと東京灣の沖空の低どを渡る海鳥の群/宮柊二
硼酸(はうさん)で目を洗ひをり今朝いまだ庭に降りこぬ鳥憶ひつつ/宮柊二
わが庭に降りくる鳥も減りしかな界隈ひろく家建ち増えて/宮柊二
雨の朝こゑまれまれに鳥啼きて秋づく庭の樹の中にゐる/宮柊二
鳥獸の聲せぬ園(その)の雨のあさ梅の林のわき通り來(き)ぬ/宮柊二
山中に鷄頭の朱を打ちたたき雨荒れざまにひびきつつ降る/宮柊二
風筋の鷄頭の花見つつ待つ家開け放ち主人(あるじ)びと留守/宮柊二
母二人かたみに寡婦と生きてきて聞く時鳥牟禮(むれ)の空を過ぐ/宮柊二
胸のうち波立つごとく怒(いか)るとき庭に野の鳥降り來つつ啼く/宮柊二
離々たりし穗も實も今は靜まれる草原(くさはら)に來て小鳥遊べる/宮柊二
たちかへる年のあしたに鳥のごと甦りくる智識に遊ぶ/宮柊二
雌連るる七面鳥が突然に剛羽(こはば)を張りて地(つち)を走りき/宮柊二
鳴く聲のしはがれてゐき七面鳥山中(やまなか)の湯の庭に飼はれて/宮柊二
雨ふかき島の夜空を啼き渡る小鳥らありてこゑの遠ぞく/宮柊二
鳥避(よ)けの威しに鴉の亡骸を下げて靜けし島の籾田(もみた)は/宮柊二
鳥鳴くは島の磯囘(いそわ)か朝の波白くひろがる中より聞こゆ/宮柊二
鳥のこゑ獸のこゑの跡絶(とだ)えをりあはれあしたの給餌の時間/宮柊二
小走りに道に影して群れあそぶほろほろ鳥(てう)の羽光り落つ/宮柊二
聲張りて小鳥ら啼けり命あるものが檻なる内の安らぎ/宮柊二
啄(ついば)みて正月(むつき)の庭に羽小さき鳥遊びゐき、人を愛さむ/宮柊二
霜いまだ降らぬ十月盡(じふぐわつじん)の朝冬鳥すでに道に遊べり/宮柊二
逝ける犬逝ける小鳥を埋めおく小さき庭に秋ふかみ來(き)ぬ/宮柊二
秋ふかみつつ幾日か庭に降り野鳥ら騒ぐ晨(あした)あしたを/宮柊二
金屬(きんぞく)が飛び遊ぶごと空(そら)にして候鳥(こうてう)の群北より旋(めぐ)る/宮柊二
川水を飮みに近よる野の鳥が草かげにして羽ばたく音す/宮柊二
耕さぬ荒田(あれた)の雨にくだりきて晝(ひる)を遊びし小鳥ら數種/宮柊二
籠の小鳥鳴きて鳴きやめつ被ひ置く眠(ねむり)のための黒布のうち/宮柊二
單調(たんてう)に群れわたりゆく鳥ありて移る季節を知るといふなり/宮柊二
犬一匹小鳥三羽を飼ふ家に少年怒り易く育ちつ/宮柊二
闇の田の空鳴き過ぐる鳥が音(ね)はわれの聞くのみ父は眠りて/宮柊二
霧白く捲きてながるる門(かど)の邊(へ)に鳴く鳥あればわれは出て見る/宮柊二
燒く鳥の匂ひ立つとき這入(はひり)より覗ける犬の親し夜の顏/宮柊二
燒鳥の膏(あぶら)のりたる股の肉引き裂きて食ふ齒を慰めて/宮柊二
一夜(ひとよ)寢てきけばま白き雨霧の立ちのまにまに鳴く山の鳥/宮柊二
冬の日の長くかがやく草むらに翔け入りし鳥潛みて出でず/宮柊二
田に下りて冬の小鳥のこまごまと遊ぶを見をり二階の部屋に/宮柊二
吊環(つりくわん)のゆれうごくした額狹く女(をみな)坐しをり鷄頭花(けいとう)持ちて/宮柊二
乾き照る石垣沿ひにあゆみ行く鷄鳴き騒ぐこゑは前方/宮柊二
高原(たかはら)の丘に影して渡りゐる小鳥らのむれときに閃く/宮柊二
雨くらき路地にうごきし庭鳥のとさかの朱(あけ)を過ぎきて想へる/宮柊二
みちわたる秋の朝日は金にして鷄頭群(けいとうぐん)を黒く立たしむ/宮柊二
鷄頭花(けいとう)は影を置きたり廣庭の砂あかくして夏もかたむく/宮柊二
ただざまに海に望みて目標(しるし)なる鳥海山(てうかいざん)の雪光るなり/宮柊二
わがわきに來て一人立つ外人も暮れゆく濠の白鳥を見る/宮柊二
鷄は皆とほくあそびて網戶越し秋日てらせる鳥屋(とや)の土見ゆ/宮柊二
小鳥の山中のこゑきかしむとらぢおの孤(ひと)つ部屋に鳴りをりき/宮柊二
春楡の午の林に入りくればこゑもの憂くて郭公鳥(くわくこうどり)啼く/宮柊二
ひろき野に降りてむらがる黒どりの烏鳴きてをり首むきむきに/宮柊二
この地區に保護うけて棲む鳥けもの夕早くよりその聲を果つ/宮柊二
百鳥(ももどり)の春の遊びを聽かむとししづけき園を横切りてきぬ/宮柊二
小鳥らは白霜(しらしも)にきて遊びをりなごましきかな陸べるさまの/宮柊二
收奪の形おもほえ春の野の大き鷄舎を覗きゐたりけり/宮柊二
庭鳥(にはとり)と犬叱りゆく道のこゑうらわかわかし少女(をとめ)のこゑにて/宮柊二
山の湯の池のほとりに軍鷄(しやも)一羽頸(くび)のべて夕日の中に遊べり/宮柊二
野分する音小止(をや)みなくきこえつつ鷄(にはとり)の啼くこゑも聞こえつ/宮柊二
屋上の金網のなか目を瞑(と)ぢて養(か)はるるゆゑの羽白き鵞鳥(がてう)/宮柊二
甲々(かんかん)と鳴く鳥きけばこゑひさし御墓處(みはかど)一つ冬の日の中/宮柊二
啼きかはす夜の鷄(にはとり)に焦(いら)ちつつ草明りする夜の道を歸(かへ)る/宮柊二
戀の句の釋(と)きがたきかなおろおろと鳴ける夜鳥(よどり)を憎まむとをり/宮柊二
梅雨のまを山に籠りし小鳥らの昨日今日より降りてくる聲/宮柊二
雨暑き山の木(こ)の間に羽ばたける鳥を聞きつつわが步(あゆ)みたのし/宮柊二
翼(はね)搏ちて荒寥と空に鳴きあぐるまがつ鳥(どり)鴉を胸ふかく飼ふ/宮柊二
勤務(つとめ)より歸りくる道ゆふかげにみみず掘りつつ遊ぶ庭鳥/宮柊二
こころしづかにわれはなりゆく道の上に呼ばるる鷄の急きゆくを見つ/宮柊二
どの部屋か鷄(にはとり)鳴けり疲れざる精神持ちて生きつぐ友か/宮柊二
道塞(ふた)ぎ繁れる黍(きび)の甘く充ち稔(みのり)に入らば鳥も來寄らむ/宮柊二
うちかへす摩天の山のつらなりに墜ちいゆきしは魂(たま)消えし鳥/宮柊二
日蔭田(ひかげだ)の濃霜(こじも)のうへに亂(みだ)れつつとりけだものの過ぎし跡ある/宮柊二
しはがれて曉告鳥(あかときどり)の鳴くころにわれは眠らむ蠟の灯消して/宮柊二
このあした木原(こはら)に迫り鳴く鳥のこゑ低まりて何𩛰(あさ)るらむ/宮柊二
鳥打帽(とりうち)を無頼にかむり燒跡をたもとほりゆく脚絆いでたち/宮柊二
棗の葉しみみに照れば雨過ぎて驢馬と庭鳥と一所(ひとつど)に遊ぶ/宮柊二
鳥ひとつ影にも翔ばす景荒れたり連(つら)なみ遠き陝西省の山/宮柊二
鷄をいすくめ抱へ密偵の丈の低きが捕(と)はれ來りぬ/宮柊二
支那人が水に貯はふる鷄卵をあがなひ飮めばおほかたに下痢(くだ)す/宮柊二
岩稜(いはかど)に群がる鳥の鴉にて時をり木靈(こだま)を呼びつつ啼けり/宮柊二
わが窓に双鳥文なしてひよどりの遊びゐし雪の日を懐かしむ/北沢郁子
背戸裏の雜木林の下ゆきて仰げば鳥の群れ渡るかげ/宮柊二
彼岸花咲きて午(ひる)の陽やや寒く散りぼひ群れて空をゆく鳥/宮柊二
鳴き声を聞きてひよどりと言ひあてし少年は空を指さして立つ/北沢郁子
ひよどりが猛りて目白を追い払う餌台に神の林檎のひとつ/角倉羊子
手を執りて朝道行けば言ひ出づる小鳥屋の前にて小鳥がにほふ/北沢郁子
飛翔するむら鳥の影地にこぼれ明るき春の空仰がしむ/北沢郁子
浅き皿に水浴みに来る鳥のごとをりをりこころ降るる場所あり/横山未来子
むくどりが落すさくらの種子を踏むかそけき音ぞ離れ歩みて/近藤芳美
軒の茂りに画眉鳥は朗らなる声に呼び杜甫草堂に遠く来てあり/近藤芳美
しきりに啼くを画眉鳥と教えたまうなる杜甫草堂のときの移りに/近藤芳美
残りの柿にひよどりは時を定め来る落葉は深きひと日ひと日に/近藤芳美
後れ歩みて妻と佇む「小鳥たちへの説法」の下堂に灯ともさず/近藤芳美
行き行きて鳥の巣のごと影つづく山のやどりぎの日の明るさに/近藤芳美
あけびの実今年残れば部屋に挿す妻に小鳥らの食み残す実と/近藤芳美
白鳥の浮きただよえる水と城冷え増す夕光は木々にひととき/近藤芳美
火山礫なだれて鳥かげもなき岬過ぎつつ夕陽の島の崖は見つ/近藤芳美
梢澄みて落葉しつくす白樺に喚(よ)び喚ぶひよどりもひと日妻の友/近藤芳美
白さざんかいつひそかにて咲きつぐ日しぐれしぐれの庭のひよどり/近藤芳美
群れを離れ鳥も海獣も死を待つをうずくまるものおのずから曝(さ)る/近藤芳美
落葉おくれ水木の茂り影立てばひよどりは鳴く遠き黄昏/近藤芳美
くれないの暗き余光にかげ立ちて朴の散る葉の鳥落つるごと/近藤芳美
脂肉吊りて小鳥を待つ庭にひかりは荒し朴の散る葉に/近藤芳美
ともしびのごと白冴ゆる山茶花のしぐれは昏れて鳥影もなく/近藤芳美
ひよどりの声のおさなき一日を野の上のしぐれはや暗く降る/近藤芳美
水盤の降りしぐれつつまれに来る野のひよどりら野のかげまとう/近藤芳美
仮屋建て鶏飼い病みしつかのまの倖せの日か顕てるおもかげ/近藤芳美
白き鳥梢を渡る朝明けを残る街灯の雪降りしきる/近藤芳美
梨畑の寒の没り陽を見て戻る雲凍るはて鳥影もなく/近藤芳美
炎昼の青田に鳥の影もなし農道ぬけて行くビデオ店/伊東文
肉体というよりむしろ声に似る影をのばして飛んでいく鳥/小谷奈央
どの鳥も過去へ吸われていく途中はがねのような川面を越えて/小谷奈央
風昏きアリーナの底てのひらに水鳥球(みずどりきゅう)はしんと乾いて/小谷奈央
この鳥のゆききするとは思はねど燕の飛べば都おもほゆ/岡麓
山の鳥肌うることなきことわりを考へ考へ我は畑打つ/杉浦翠子
あはれ水鶏よと耳傾けて我があれば遠くより聞え近きより又/矢代東村
雨にぬれて軒下に來し庭鳥のわれを見るかも繩綯ひをれば/中島哀浪
我が家のいまだ焼けねば庭木木に枝移る鳥の聲はひびくも/木村捨錄
百鳥(ももとり)のさえづるなかを鳴き徹る鶯きこゆ信濃路の朝を/今井邦子
服部真里子(とりまり)が泣いて笑った みずたまの大中小を服に散らして/喜多昭夫
大鳥よその美しき帆翔を見上げずに人は汚泥を運ぶ/齋藤芳生
木かげ暗き夏の園来つ樫の中にほろほろ鳥は羽ふくらます/三宅菜緒子
どうか鳥よ この魂をついばんで日輪とける海に散らして/東直子
朝鳥のこゑに裂かれてひかりあれどまた引きよせてまた目をとぢて/桜木裕子
われら火食(くわしょく)われら墓あり鳥獣はみな寒食し墓もあらずも/高野公彦
鳥のつばさの静けさに町は濡れているわれの体がバスに乗りたり/花山周子
誰もゐないたそがれがきて鶏小屋を黒い揚羽が覗いていつた/岡部由紀子
慟哭か嗚咽か悲鳴か絶望かどうぶつゑんの獣鳥魚のこゑ/宮里信輝
果てしでの痛い叛乱ひだり足小指のうらのひとつ鶏眼/宮里信輝
奇つ怪なさまに伐られし神の木のいつしか繁り鳥を憩はす/内藤明
ある日ぼくはオキナワにゆき濃い血を飲む鳥になりました/松川洋子
遠くを見ること楽しくて五階より富士を、黄雲(きぐも)を、候鳥(こうてう)を見る/高野公彦
夏の鳥 夏から生まれ消えてゆく波濤のやうな鳥の影たち/吉田隼人
救急車の音やかましいこの部屋に逃げ延びてきた馬鹿な鳥二羽/山田航
牛も馬も鶏(とり)も斃(たふ)れし映像の荒野百年 さらに百年/高尾文子
きよき壁画の小鳥翔(た)たせむ父いますとこしへの国も水ぬるむころ/高尾文子
鳥のこゑ鳥の沈黙ふかぶかと抱くために青いおほぞらの胸/高尾文子
〈小鳥への説教〉世々に言ひ継がれ大観光地いのりの丘は/高尾文子
庭の樹をめじろ飛び去り額の絵のアッシジの小鳥と遊ぶ春昼/高尾文子
一羽二羽、五羽六羽、聖画の小鳥たち位階なき一人の声に聴き入る/高尾文子
イタリア半島南下してやさしい雨の降るこの丘に〈小鳥の聖人〉と逢ふ/高尾文子
桃咲いて鳥啼く家郷しづかにもわれは受容すちちははの死を/高尾文子
アッシジに購(もと)めし聖画の小鳥たち聖者のことばのみ聴いてゐる/高尾文子
鳥や草、そして永遠。無名のまま書き遺すディキンソン千余のポエム/高尾文子
前に見し放たれし牛も餌を乞ふ犬も空飛ぶ鳥さへもなし/佐藤祐禎
鳥にあり獣にあり他(ひと)にあり我にあり生命(いのち)といふは何を働く/宮柊二
たたかひの最中(さなか)静もる時ありて庭鳥啼けりおそろしく寂し/宮柊二
花のやうに日暮の鳥屋に眠りゐる鶏(かけろ)を姉とわれと見てゐつ/宮柊二
みづあびのみづあらたむる深皿に鳥の影きて横切りてゆく/上村典子
天衣無縫、テンイムホウと呼びかけむ南東へゆく暮鳥の雲へ/上村典子
白鳥を殺むるひとの指撓ひ鼻水の垂る垂れてやまざり/上村典子
「殺処分」あらたな言葉のふちふるへ未明捕獲の白鳥の頸/上村典子
冬山はまなこをとぢて羽たたむ老いたる鳥の思惟の重量/上村典子
石灰岩割れ目にいこひし鳥一羽こぼしし種子の榎は大樹/上村典子
筒鳥のこゑをテープに聞きをればここだここだよ降る兄のこゑ/上村典子
影として水面うつろふ水鳥にこころ寄りゆくふたり黙せば/柚木圭也
追はれつつ鳥屋に入りくる鶏(かけろ)らの次々と踏む夕光(ゆふかげ)の土/宮柊二
飛鳥川の夜目にも白き飛石(いはばし)を踏みて帰りぬ蛍も見たり/小谷稔
飛鳥川に蛍を待てば鳴く鳥はうぐひす止みて山ほととぎす/小谷稔
柿の実のたわわに熟れて採る人のなく華やげり鳥さへも来ず/小谷稔
引率の下見に来たり鶏頭の花鮮やかなディズニーランド/大崎瀬都
早春の風も光も飛ぶ鳥も一リットルの脳内現象/大崎瀬都
緩慢に小さき首を振りてゐし障碍のある小鳥も飼ひゐき/大崎瀬都
渡り鳥落伍せしのち死へ向かふさまをつぶさにカメラは映す/大崎瀬都
蛇の骨に小鳥の骨がつつまれたまま少しずつ愛されている/東直子
ゆふぐれのめんどりちどり兄さんの月にゆきたい気持ちをつつく/東直子
国見山ゆめの棧橋こふのとり無政府主義者はじめての恋/東直子
水枕鳥の産卵風車小屋花野武蔵野無人改札/東直子
あれは鳥? あれは布です北風に白いボタンをきつくとどめて/東直子
波音がわたしの口にあふれ出す鳥が切り裂く空に会いたい/東直子
避雷針つつけば水のもれさうな空にひひつと小鳥が啼けり/東直子
夏空をうつした井戸につるべなし詩人会議を過ぎてゆく鳥/東直子
冴えわたる朝の白鳥(しらとり)わたくしのこめかみうなじつついておくれ/東直子
テーブルの下に手を置くあなただけ離島でくらす海鳥(かもめ)のひとみ/東直子
季節ごとの鳥を愛してしまう程このごろ痛みやすい母さん/東直子
初秋の文鳥こくっと首を折る 棺に入れる眼鏡をみがく/東直子
みどりごのひそと眸(め)ひらくあかときを鳥たつや暗き水の裡より/高野公彦
桃色のあはく沈める夕ぞらへ撒かるるごとき鳥の影見つ/横山未来子
鳥の翼の影よぎれるを三たび見ぬ家にこもりてゐたるひと日に/横山未来子
四十分ほどを電車にゆられゐて夕空をゆく鳥を三たび見ぬ/横山未来子
見えぬほどこまかき花もまじりゐむ芝を椋鳥の駆けてゆくなり/横山未来子
春雨につむり濡れゐむひよどりをかくせる椎も濡れそぼちたり/横山未来子
白き頁の隅のこまかきノンブルの「2」は並びをり鳥の姿に/横山未来子
鳥のこゑに鳥の呼ばれてはじまれる朝ひとすぢの背をのばすなり/横山未来子
まふたつにされし蜜柑の断面の濡れをりいまだ小鳥来らず/横山未来子
ああ接吻(くちづけ)海そのままに日は行かず鳥翔(ま)ひながら死(う)せはてよいま/若山牧水
抱卵の母鶏はみなうつむきて祈るごとくに目を瞑るなり/高木佳子
六月は鳥の羽ばたき多き月こころみだれて一人が休む/棚木恒寿
麦揺れて風は体をもたざれど鳥類であることをみとめる/山田航
鳥獣虫魚に飲食(おんじき)ありて星の夜は銀の食器が天に散らばる/小島ゆかり
鳥の歩み見てゐるまひる放心のわが踝(くるぶし)に老いの貌ある/小島ゆかり
子に兆す小鳥の恐怖のやうなもの抱きしむる刹那せつなにおもふ/小島ゆかり
囀りはあかるき挫折 思ひより遠くひろがる鳥の浮彫(レリーフ)/山中智恵子
とどろける夕映の底に鳥らを鎮めたしかならざる手をひとに措く/山中智恵子
わが生みて渡れる鳥と思ふまで昼澄みゆきぬ訪ひがたきかも/山中智恵子
舗装路に雨ふりそそぎひったりと鳥の骸のごとく手袋/内山晶太
きのふ散つた百合の替はりに窓辺にはセサミストリートのでかい鳥/山田航
縁側にわがひるねしてありし間に鶏(とり)は卵を生みにけるかも/相馬御風
熱き日を走り眩(くら)みてわがいのち鳥けだもののごとく水を恋ふ/高野公彦
ひなどりのくちへ蚯蚓を運びゆく親鳥の眼がふいにまばゆし/笹井宏之
CryではなくてSingであるといふ 死の前の白鳥の喘ぎも/笹井宏之
名を知らぬ鳥と鳥とが鳴き交はし夏の衣はそらをおほひぬ/笹井宏之
傷つきし黒鳥一羽よこたへて夕焼けてゆくサルビア畑/笹井宏之
菖蒲咲きそめしさ庭へ降りたてば鳥影ひとつわれをよぎれり/笹井宏之
ししむらに星を宿してゐる鳥が吾のゆびさきを去る夕まぐれ/笹井宏之
白鳥座より抜け出でし白鳥のいたくしづかな着水を見つ/笹井宏之
六花咲き乱れし夜に白鳥はひとたび羽をひらきたるのみ/笹井宏之
かなしみの雨がしづかに止むゆふべ羽根やはらかしわが渡り鳥/笹井宏之
どのやうな鳥かはわからない しかし確かに初夏の声で鳴くのだ/笹井宏之
われが我としてあるためにみづいろの鳥を胸より放つ十五夜/笹井宏之
台風の目をはばたける鳥達に涙とふ名を与へてやりぬ/笹井宏之
あおあおと空は沈黙 白鳥の燃ゆるをわれは風上に聴く/笹井宏之
鵜の項ゆ幽けき悲鳴聞こえくる鳥類図鑑持ちて歩めば/笹井宏之
鳥居にも春は来るらし代わる代わる鳥達は花 飛べば花びら/笹井宏之
パソコンの起動時間に手に取りし詩集を最後まで読み通す/笹井宏之
名を呼ばれ週刊誌から目を上げれば百舌鳥鳴いている心療内科/笹井宏之
木製の銃でデコイの水鳥を撃ち抜いた、って感じがしたね/中澤系
嘴赤き小鳥を愛でゝしろ銀の皿に餌をもるゆく秋の人/原阿佐緒
名も知らぬ小鳥来りて歌ふ時われもまだ見ぬ人の恋しき/三ヶ島葭子
押すたびに爆発夢想するもまた鳥のさえずりだった信号機/虫武一俊
白鳥はふっくらと陽にふくらみぬ ありがとういつも見えないあなた/渡辺松男
ぐんぐんとおのれの近づきくる窓をビルをふはりと鳥は越えゆく/渋谷史恵
宗教の賞味期限を説く人の背後に見えて鳥は鳴きおり/大島史洋
木洩れ日をつかまえようと手を伸ばすおさなの指から夏の鳥飛ぶ/河野多香子
病棟の付添簡易ベッドにて朝一番の時鳥(ほととぎす)を聴く/高取雅史
だしぬけに空がざわめき草とりのわれの頭上を鳥の大群/堂本光子
人間になき行為にて白き白き卵を抱ける鶏を清(すが)しむ/富小路禎子
銅板の鳥しづみきて胸を刺す 傷(やぶ)らずばなほ羞しき翳り/山中智恵子
行きて負ふかなしみぞここ鳥髪(とりかみ)に雪降るさらば明日も降りなむ/山中智恵子
激越の手に鳥打帽(とりうち)をつかむ見ぬ黙契の中のきびしきかたち/河野愛子
白鳥を美しからぬといふ吾子よわが裡(うち)の何を罰するならむ/稲葉京子
現つ世は明(あか)しあかしと鳥を呼ぶわが声透る野のあけぼのに/安永蕗子
飛ぶ鳥の目にも名残りの夕茜世にくれなゐのことぞ哀しき/安永蕗子
はるばると世の末見ゆる水鳥か芽吹く葦生に首たててゐる/安永蕗子
見しことも語らぬ鳥が帰りくる岬みどりの草和ぐ夕/安永蕗子
見おろしに鳥瞰(み)て過ぎむ逆浪の白せめぎあふ河口といふを/安永蕗子
崑崙を越えゆく鳥と思ふまで朝の渡りの羽白きかな/安永蕗子
寂しみて籠(こ)の禽見れば鳥もまた自(し)が悪相のなかに眼つむる/安永蕗子
黒々と森の悩める内側を鳥あるきつつ真夜の風致区/安永蕗子
かいがねの右と左を近づけて仰がば鳥になりゆくわれか/稲垣道子
存命のよろこび詠えと鳥が鳴く意識なき子の今日誕生日/稲垣道子
海鳥の群れたちさわぐ埠頭に吃水高く船は舫(もや)えり/稲垣道子
はだれ雪冴え返りたる庭の辺につくばいの氷割りて鳥待つ/稲垣道子
朝もやに並みよろう山の見えねどもカーンカーンと啄木鳥大工/稲垣道子
とりあえず家に帰ろう水鳥を下から照らす川のゆうばえ/吉川宏志
ゆうぐれは駝鳥の背中で眠りたい 灰色の毛にくしゃみしながら/吉川宏志
鳥風のひとすじ吹きしゆうぐれは眉毛の薄き妻とおもえり/吉川宏志
春鳥を見上げる喉の白きこと まぼろしますか まぼろすだろう/吉川宏志
日暮れにはつい目で追ってしまうひと書架から鳥の図鑑を抜けり/吉川宏志
鳥の目のようにまばたく梅の木がポストの横に立っているなり/吉川宏志
二人から愛されているつややかさ焼き鳥を食む横顔に見つ/吉川宏志
扉ある鳥居は道を塞ぎたり茸を踏みてわれ引き返す/吉川宏志
棒のごと羽をすくめて飛びながら鳥はときどきただ落ちてゐる/朝井さとる
水鳥の一羽潜れば水の輪に子鴨も跳ねて渦の中へと/川藤青理沙
白鳥は大きはなびら冬枯れの水沼の陰に動くともなく/川藤青理沙
赤松の古木さわたる鳥の声海鼠(なまこ)壁へと歩みてゆけば/川藤青理沙
憤怒相ぬりこめられいる青不動火焰は自在な鳥の形に/川藤青理沙
幸福の青い鳥追う夕暮に青い鳥抱く乙女とまみゆ/川藤青理沙
裂くものは風 空 冷気 暁に翔ちゆく鳥の声痛きまで/川藤青理沙
道の辺に山茶花匂えばかの川に冬鳥つぶつぶ遊びておらん/川藤青理沙
花明る桜のなだりに佇めば翔ちゆく鳥の弾む心地に/川藤青理沙
水鳥の浮かぶ川岸にうち寄せてゆるやかに砂を洗いゆく波/川藤青理沙
山茶花のかすかに匂う朝の道小鳥を抱きひと歩みきぬ/川藤青理沙
群れなして水鳥の発つ気配あれば行かばや我も羽つくろいて/川藤青理沙
酔いもせず器の水を注ぐかな鳥飛び立ちし庭のさびしさ/川藤青理沙
たらちねの母偲ばるる桜樹の根もとに憩う椋鳥と鳩/川藤青理沙
降り立ちて白鳥羽をたたむかに泰山木の花頂きに/川藤青理沙
さわだてるけはひ届かぬはろけさに椋鳥のむれはまた森へ落つ/大西民子
庭に来てゐたる小鳥の足あとも消しゆく雨か夜半降り出でて/大西民子
山茶花の散りしくあたり用のなき鶏のごとくに歩めりわれは/大西民子
とりたてて思ふならねど静かにてかなしきときに歌の生まるる/大西民子
日蔭より日の照る方(かた)に群鶏(むらどり)の数多き脚歩みてゆくも/宮柊二
さくら食む鳥のあかるさ終はりなき書物を得たる少女のやうに/水原紫苑
渡り鳥見送ったのち焼き菓子がやっと恋しくなる島の秋/松村由利子
広やかな秋のこころよ何という鳥の声かと見上げる空の/松村由利子
秘密とは静かなる沼鳥一羽飛び立つときの濁り恐ろし/松村由利子
鳥のこころ鹿のこころに恋うべしと総身雨にざんざと濡らす/松村由利子
真っすぐに鳥は鳴くから求愛の季節の木々の緑うるめり/松村由利子
鳥の声聴き分けているまどろみのなかなる夢の淡き島影/松村由利子
渡り鳥に帰らぬ鳥のあるという記事思い出す改札口で/東洋
小鳥がみな鳩ほどに見ゆ、やや遠き梢の冬の夕風の中に/内藤しん策 *「しん」は金偏に辰
小禽(ことり)の人にさからふくちばしををりふし汝に見ればさびしき/内藤しん策
シーサーの横にとまれる大き鳥首動くたび嘴(はし)光りたり/さいかち真
ふくだみてすぼみて大き楠の春の時間を鳥は啄む/さいかち真
朝鳥が鳴くああ朝鳥はシミュレーションで 本当は酷(ひど)い黒さの壮年の鵺(ぬえ)/さいかち真
鳥のとぶかたちに切られ茹であがる菜の花やさし畏みて見つ/さいかち真
時鳥を模すクラクション響けるに怒りたゆたふきさらぎの夜/さいかち真
このところ寂けき鳥と親しむに我の及ばぬ韻鏡あり/さいかち真
があつがあつと怪鳥(けてう)の声す老い人にスーツの二人は侵入者ならむ/さいかち真
うつらうつら椅子に坐るに窓外を大きなる鳥燃えつつよぎる/さいかち真
腐刻画のなかに月なくあかつきに鳥の声なく あけがたの雨/佐藤弓生
白き犬水に飛び入るうつくしさ鳥鳴く鳥鳴く春の川瀬に/北原白秋
安否問う 葉書の写真
手ずからと 知れば無音(ぶいん)を 通せず揺らぐ
(とど)
2013年12月31日 作歌。
手ずからと 知れば無音(ぶいん)を 通せず揺らぐ
(とど)
2013年12月31日 作歌。