水の門

体内をながれるもの。ことば。音楽。飲みもの。スピリット。

歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
詳細は、こちらの記事をご覧ください。

Amazon等で購入できます。 また、HonyaClub で注文すれば、ご指定の書店で受け取ることもできます。
また、読書にご不自由のある方には【サピエ図書館】より音声データ(デイジーデータ)をご利用いただけます。詳細は、こちらの記事をご覧ください。

病院のピアノ

2007年02月27日 18時56分58秒 | 持病に寄せて
今日は月一の通院日でした。いつもより患者さんが多く、本を読みながら診察を待つこと小一時間。突如、何の前触れもなしに、待合ホールにあるピアノから音が流れ始めました。ビックリして成り行きを見守っていると、診察室から顔を出した先生に名前を呼ばれました。
「あの方、患者さんなのよ。好きな時にピアノを弾いていいよと言ってあるの」と先生。聞けば、ホールのピアノは元々は先生所有のものだとか。先生は、53歳の時にゼロからピアノを始めて、ショパンの遺作を三年かけて弾けるようにしたそうです。「病院にピアノを置いておけば、家でピアノを練習する張り合いになるかと思って…。でも、そう思いながら 随分経っちゃったわ」と先生は笑いました。
診察が終わってから、先生はホールに出て来られ、ショパンと「枯葉」ともう一曲、さわりを弾いてくださいました。「あぁ、もう大分ダメになっちゃったわ」とおっしゃいながらも楽しそうなご様子。しばらくして、デイ・ケアに通っている患者さんなのでしょう、ピアノのふたを開け「ちょうちょ」や「チューリップ」をこそっと弾いて、はにかみがちに去っていった方がいらっしゃいました。初々しい演奏に、気持ちがほころんだひと時でした。
今まで 外来の診察が終了した午後の時間帯に、ピアノ・コンサートが時折開かれていたのは掲示板を見て知っていましたが、たまたま時間が合わず聴くことができずにいました。演奏会は、きっと地域のピアノの先生の有志の方がなさっているのでしょうけれど、ピアノそのものはもっと気軽に使っていいのだということを知って、胸が躍りました。
帰宅して昼ご飯を食べ終わるとすぐに、押入れから重い電子ピアノを引っ張り出し、矢野顕子のピアノ弾き語り集の譜面を開きました。ページには、2年半前の日付が記されていました。はやる気持ちを抑えて、まずは手慣らしに「椰子の実」のAメロを。けれど、指がつかえてなかなか思うように弾けません。
その後、気の向くままに「それだけでうれしい」と「中央線」を行ったり来たりしながら練習しました。「それだけでうれしい」は音の跳躍が激しいダイナミックな曲。今まで弾き通せたことはありません。こちらはもっぱら自分の楽しみに練習するとして、病院で弾く本命は穏やかな曲調の「中央線」の方。今日は2ページしか進めませんでしたが、少しは形になってくれたので、今後続けて練習して物にするつもりです。
思わぬところで一つ楽しみが増え、今日は嬉しい一日でした。病院通いをこんなにエンジョイしている患者もいないかもしれませんね(笑)。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

聞茶(9)…音楽のような風

2007年02月24日 10時03分24秒 | 聞茶・聞豆
一ヶ月程前、下北沢の美容院で髪を切った帰りにCDを買うために渋谷でも降り、ついでに【MARINA DE BOURBON】(マリナ・ド・ブルボン)にも立ち寄って紅茶を買ってきました。
【マリナ・ド・ブルボン】は、フランス貴族の末裔である女性オーナーが約20年前に創立した紅茶の専門店。私がこのお店を知ったのは、もう8年ほど前に田園都市線の二子新地に住んでいた頃、隣り駅を降りてすぐの玉川高島屋にオープンしたのがきっかけ。
当時は、連日終電近くまで働いて迎えた土曜、午後も夕方近くなって目を覚まし一風呂浴びてから“タマタカ”にふらりと出掛けて、軽く食事をした後カフェに3時間ほど居座って21時頃帰宅するのがお決まりのコースになっていたものです。
と言っても、いつも行っていたのはコーヒーのカフェの方。こちらは今でも“タマタカ”に根を張って健在ですが、【マリナ・ド・ブルボン】は残念ながら消えてしまったようです。もっと贔屓にしていれば今もあったのかしら…(苦笑)。それでもこのお店で3回ほど独りでお茶をしたんですけどね。紅茶のふくいくとした香りに包まれてホッと和む時間は、本当に贅沢なひとときでした。
改めて訪れて紅茶を購入したいと思ったのは、同社のWebサイトで音楽にちなんだネーミングの茶葉が沢山あることを知ったから。「ソナチネ」「メヌエット」「ベルスーズ(子守唄)」「アコール(和音)」「レゾナンス(響き)」等など…。
紅茶は最近飲んでいましたから、オリエンタルなフレーヴァード・ティーを試してみたいと考えて、燻製茶と台湾ジャスミン茶のブレンド「アコール(和音)」と緑茶系の「レゾナンス(響き)」を、と事前に決めていました。けれど残念ながら、渋谷店には「アコール(和音)」は在庫無し。で、「レゾナンス(響き)」と、代わりに「メヌエット」を買って帰りました。
「レゾナンス(響き)」はバラの香りが効いていて、緑茶ベースと言えど上品に洋風な味わい。「メヌエット」は、ピーチの風味がとてもクリーミー。“可愛いダンス曲のイメージ”という歌い文句に違わず、口に含むとウキウキと弾むような気分になってきます。
今回はこの「メヌエット」に、ミシェル・ルグラン&ステファン・グラッペリの『Douce France』を選んでみました。グラッペリの奏でる茶目っ気たっぷりのヴァイオリンの旋律と、ルグランらしいアレンジの小粋なアンサンブルは、ヨーロピアン・テイストの風味とよく合います。

【余談… I さん&Jさんへ】
このエントリーを書くために同社のサイト内を探索していたら、「焚き火」なる茶葉を発見しましたよ!
…って、「買ってください!」っていうゴリ押しではありませんので、念のため(笑)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

おやすみの音楽(3)

2007年02月23日 06時15分34秒 | 時間帯にあわせて
昨晩は何だか人恋しくて切ない気持ちで一杯になって、「あぁ、優しい音楽を聴いて癒されたい…」と思い、枯れた低音ヴォーカルが魅力的なとある女性歌手の、オーケストレーションによるセルフ・カヴァー集を棚から出してきました。
しかし、いざベッドに入り二曲程聴くと、オーケストラの存在感があり過ぎて、気弱になった自分の心が音楽に溶け出していく余地がありません。
そこでベッドを離れ、ローラ・フィジィの『The Lady Wants to Know』を選び直して、プレーヤーにセット。今度は安心してベッドに横になることができました。
歌っている曲はボサ中心ですが、ジャズ・フレーヴァーがそこはかとなく漂っているヴォーカル・スタイル。声質的には小野リサの声にやや張りが加わった感じ。
このアルバムもストリングスが使われていますが、ずっと軽い雰囲気で心理的に負担なく聴けます。このアレンジは夏場よりも今時分の方がしっくりくるかもしれません。おかげで、穏やかな気持ちで眠りに就きました。

★ローラ・フィジィは、ハンコックさんに教えていただいて知りました。ありがとうございます♪
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トーマの心臓

2007年02月21日 11時10分42秒 | 本に寄せて
今まで読んだ中で最も衝撃を受けた漫画は、中学時代に友人から借りた『トーマの心臓』(萩尾望都)である。勤務先の店に少し前に入荷したため、買い求めて読み返してみると、以前読んだ時には素通りしていた部分に気付いてハッと目を見開かされたので、ここに書き留めておきたい。

今回一番心に残ったのは、端役で出てくるレドヴィという盗癖のある生徒について描かれた箇所だった。
彼は「神様が愛しているのは良い人間だけ」だと言い、自分が神様から突き放されているように感じている。けれどレドヴィは、人を愛し信頼することのできないクラス委員・ユーリのために橋から身を投げたトーマに、“偉大な神様”には感じることのできなかった不思議な親近感を覚え、トーマの書き残した詩がはさまれた本の置いてある図書室の一角を「自分の聖堂」と呼ぶ……。
キリスト教で言う神の愛が、無償の愛だということはよく知られている。だが大方の人は、そのことを訝しげに見ているのが実情だろう。毎朝の礼拝で人々の罪のために十字架に架かったというイエスの話を聞きつつも、神に心を預けることができなかったレドヴィの心情は痛いほどよく分かる。実際に自分の傍らに生きて、他人のために身を投げ出したトーマにだけ神様の存在を感じたレドヴィの弱さは、そのまま私自身に当てはまる。

幼少期、思春期とずっと人間不信できた私にとって、イエスが自分のために死んでくれたという事実は想像をはるかに絶していた。しかし、何者でもない自分のためにクリスチャン達が親身になって尽くしてくれる姿を見て、次第にイエスも地上でそのように暮らしていたこと、そしてクリスチャン達が彼を倣って生きていることを理解するに及んだ。

実は私は受洗した後 一度教会を離れている。だがその間、会社で後輩を指導する上で壁に突き当たる。そして、神様無しで人を愛そうとしても却って傷つけてしまうのだという事実に直面させられた私は、教会に戻る決心をした。
道のりは平坦ではなかった。二十歳で聖書を勉強した頃から、イエスの無償の愛はリアルに感じることができていたけれど、それが万物の創造主である神の愛と結び付けられずにいたという信仰上の弱点がこの時露呈したのである。再献身までの過程では、父なる神への恐れを少しずつ少しずつ払拭していくために、もがき苦しんだ。

『トーマの心臓』再読は、その一歩一歩を思い出すことができた意味で、とても有意義だった。
今回、『トーマの心臓』のイメージで選んだ音楽は、マーラーの交響曲第5番。特に、映画『ヴェニスに死す』でも有名な第4楽章は、ギムナジウム(ドイツの高等学校)に生活する少年達の揺れ動く心のひだに寄り添うような、清浄な美しさに満ちた一編である。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

目覚めの音楽(14)

2007年02月16日 07時06分20秒 | 時間帯にあわせて
今日は深夜2時15分に目を覚ましました。
トイレに立った足で麦茶を一杯飲み、ベッドに戻ると、携帯の電源を入れてYahoo!メールを確認。そうしたら…何と、祥さんからメールが届いているではありませんか!寝ぼけまなこが一気に冴え、結局いつもの“朝までコース”に突入してしまいました(笑)。
ひとしきり携帯をいじってから、自分で作ったコンピレーションをかけ、図書館で借りてきたCDを聴いた後、5時過ぎにヴァージニア・アストレイの『Had I the Heavens』をCDプレーヤーにセット。買った当時、明け方に聴くBGMとしてヘヴィ・ローテーションにしていた一枚です。
特に 冬の凛とした空気には、ピアノとベース、弦を中心に余分な音を排したアコースティックでシンプルな編成がしっくり調和します。さらに、ヴァージニアのミルキィな歌声は、張り詰めた寒さを融かしてくれるようにとてもマイルド。けれど最近はもう大分暖かくなってきているから、今シーズンはもうお仕舞いかなぁ…と思っていましたが、折からの強風に寒の戻りを感じた今朝は、また引っ張り出してきました。
いつもの朝なら、軽い音響系のエフェクトが少々耳につくのですが、今朝は窓の外でゴォゴォ音を立てている風の音が音楽のバックにうまく重なって、逆に適度なメリハリになっていい感じでした。
そうこうしている内に6時を回り、CDも終わり。しんとした静かな朝が待っていました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

料理中のBGM(1)

2007年02月13日 20時33分41秒 | 風景にあわせて
昨年9月に、同居していた兄が勤めを変わり東京方面に移っていきました。
家事はからっきし駄目な私、料理とても例外ではありません。舌の肥えていた兄は私の作った料理など見向きもしませんでした。
と、それを口実にこれまで、おさんどんは母に任せっぱなし。でも、どういう風の吹き回しか急に気が向いて、兄の引越しを機に、たった週一回ですが夕飯を作ると決めました。
食べる分には選り好みしないのですが、もともと野菜好きなこともあって、いざ自分が料理する側に回るとなると、野菜をたっぷり使ったものを作りたい私。けれど、料理のヴァリエーションがあまりにも無さ過ぎます。
で、自分の勤め先で『だしもスープもいらない-煮物大好き』(久保香菜子著、文化出版局)を購入し、毎週一品ずつトライしてみることに。
今日は頭が痛かったので、重い気分を引きずりながら調理に取り掛かりました。もっと気分が良かったら軽快なカントリーでもかけながらクッキングかな…と思っていたのですが、ギターのカッティングやヴァイオリンのフィドルを聴いたら頭痛を助長しそうな感じ。
そこで、デイヴ・グルーシンのソロ・ピアノによる『Now Playing:映画テーマ集』をBGMに選盤。繊細な曲とスウィンギーな曲が交互に並んでいるので、まったりし過ぎず、調理もはかどりました。
今日作った煮物は、豚バラ肉と大根の黒胡椒煮。ローリエの風味も豊かで、目先が変わったのは良かったのですが、具材の切り方と煮込み時間の兼ね合いがまずく、ちょっと固めな仕上がりでした。うーーん、今日は40点だな。もっと精進します(苦笑)。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

冬のドライヴに

2007年02月08日 16時14分57秒 | ドライヴ・ミュージック
今年は立春になる前から、「3月下旬並み」と報じられるポカポカ陽気が続いています。今日も例外ではなく、車窓から差してくる光がねっとりと暖かでした。
だから、「冬の」というのではもう時季外れな気もしますが、前からこの題目で紹介したかったものなので、あえて取り上げます。
ドライヴ・ミュージックほど天候に左右されるものもないかもしれません。前日に「今の季節はこれだなぁ~」と思ってあらかじめCDを用意しておいても、いざ一夜明けてみると曇りがちだったり、しとしと雨降りだったりして、朝出掛ける前に慌ててCDの選び直しを余儀なくされることもしばしば。
いつもはお茶のお稽古で八ヶ岳方面に向かう際に同行する母が、起き抜けに「今日は行かない」と言うので、考える間もなく 私にとっては定番のドライヴ・ミュージックであるスティーヴィー・ワンダーの『Talking Book』を持ち出しました。
エンジンをかけてすぐにCDも再生。有名な一節 “You are the sunshine of my life ~♪”が流れました。明るい陽射しにこの歌も勿論悪くはないけれど、寒さの厳しい頃や暗鬱な空模様の時の方が、この歌詞がグッと来るんだよなぁ…、と思いながら車を発進。
今日は帰りに図書館に寄ったり、コーヒー豆を買いに行ったりしたので、このCDも3周してしまいました。でもお蔭で、今まで印象が薄かったCDの後半の曲をじっくり聴くことができました。ラストの「I Believe(When I Fall in Love It will be Forever)」がこんな名曲だと気付けたのが、今日の一番の収穫ですね。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする