ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

シオラパルク

2014年02月02日 21時49分56秒 | 探検・冒険
あまりの多忙でブログを更新していなかったが、現在、私はグリーンランド埼北、じゃなくて最北の村、シオラパルクにいる。愛娘との別れを惜しみ、デンマークの首都コペンハーゲンに入ったのは1月9日。町の中心部に立ち並ぶ、アップルの新商品みたいな洒落た大人のおもちゃが立ち並ぶセックスショップに度肝をぬかれつつ暇な日々を過ごしていたが、その後、グリーンランドの入り、16日にシオラパルク入りしてからは、作業に忙殺されっぱなしだった。

何が忙しかったのかというと、一番は毛皮服の縫製である。


毛皮服制作中

シオラパルクには〝エスキモーになった日本人″として有名な日大山岳部OBの大島育雄さんが居住しているが、大島さんのご厚意で北極兎の毛皮22枚を格安で購入。型紙を作り、毛皮を切り取り、縫い合わせて、足りない部分をつぎはぎして、ということを続けていたら、あっという間に一週間がたっていた。

村では馬場さんという京都から犬橇を習いに来た、ちょっと変わったおじさんと一緒に家を一軒かりて共同生活をしているが、その家にはテーブルや椅子がないので、縫製はずっと座り作業である。だから腰が痛い。ちなみに家にはテーブルや椅子どころかシャワーもトイレもない。トイレはバケツの中にビニールをツッコミ、糞尿が一杯になったら外に放り出してゴミ捨て場に持っていくという、水洗とも汲み取りともちがう、この土地ならではの方式だ。

ちなみに毛皮服を作ったのは、冬の極地では太陽が出ないので羽毛服だと乾かず、汗は水分が服の中で凍ってどんどん重くなってしまうからである。しかも羽毛服は濡れたら保温性が格段に落ちるので、要するに冬の北極では使い物にならなくなるのだ。

服の縫製の他には犬の調教も行っている。シオラパルク周辺にはシロクマはほとんどいないが、これから向かうグリーンランドとカナダ・エルズミア島国境間の海峡(スミス海峡~ケーン海盆)周辺は熊が多く、番犬として犬が必要になってくる。犬は地元イヌイットから購入したウィルミルック(雄1歳)。大人しく、内向的で、臆病なところはあるが、見た目は割合威風堂々としており、人懐っこく、従順で、素晴らしい犬である。犬はまだ若く橇をひいた経験がなかったので、毎日、村のまわりを2時間ほど訓練しなければならなかったわけだ。


橇をひくウィルミリック

他にも、射撃の練習、天測の練習、橇の改良、犬のハーネスの、ライフルケースなどなど小物類の各種制作、イヌイットの子供たちとの心温まる交流、原稿書き、ゲラチェックに忙殺されて、ついぞブログ更新はできなかった。

先日は登高予定の氷河の偵察に向かったが、氷河どころか村を離れて一日で海氷が消えており、撤退を余儀なくされた。この氷河は昔、植村直己が北極圏1万2千キロの旅で使ったクレメンツ・マーカム氷河だが、彼の時代と今は全然ちがって、氷が本当に張っていないので。そのせいで、こっちのイヌイットもまだしばらくは狩りに出れないし、気温もびっくりするほど寒くない。だいたい氷点下15度から、せいぜい24度ぐらいで、話をきくと北海道の実家の方が寒かったという日があったぐらいである。

ちなみに今年、シオラパルクには日本人がたくさんいて、今は大島さん、自分、馬場さんに、極地探検家の山崎哲秀さんも滞在中。大島さんは当然だが、山崎さんも本当にこの地域のことをよく知っている。というか、半分イヌイットである。さらに二月中旬に研究者二人と朝日の記者一人が来る予定で、シオラパルクは完全に日本人村という感じになりそうだ。

それにしてもイヌイット語を話せない私は大島さん、山崎さんに本当にお世話になりっぱなしだ。大島さんは私の計画を楽しんでくれていて、毛皮服の他にも、スキーのシール用のアザラシ皮やくれたり、アザラシ皮の手袋を作ってくれたりしていただいている。もちろん、氷河の登高ルートや海峡周辺の地理的概要についてもたっぷり教えてもらった。

あと5日ほど村に滞在して、ケーン海盆方面に向かうことにしており、そしたら一カ月から40日ほどの一人旅になる。いや、ウィルミリックがいるので今回は二人旅か。そしたらまたブログは更新できませんので、あしからず。
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