ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

戦禍のアフガニスタンを犬と歩く

2010年12月23日 10時18分12秒 | 書籍
戦禍のアフガニスタンを犬と歩く
ローリー スチュワート
白水社


ローリー・スチュワート「戦禍のアフガニスタンを犬と歩く」を読む。極めて上質な旅行記だ。今年ナンバーワンの本だったかもしれない。

筆者は2001年、タリバン崩壊後のアフガンに入り、ヘラートからカブールまでのアフガン横断中央ルートを冬に徒歩で旅行した。冬の中央ルートを横断するのは極めてまれで、彼はムガール帝国初代皇帝バーブルの旅行記を参考にしながら、冒険徒歩旅行を続けた。途中で巨大な犬(バーブルと名づけた)を仲間に加えて。

読んでいて、とにかく知性の深さと余裕ある態度に感嘆させられる。行く先々で出会う人々との会話や態度、小さなモニュメントから文化的な遺産に至るまで、自分が見た風景のことごとくに、複雑極まりない多民族国家アフガニスタンの歴史的相貌を読みとっていき、そこに対峙した自分をユーモアあふれる文章で表現している。英国人が何より大事にするユーモアとは、このような命がかかった旅の中でこそ発揮されるらしい。タリバン崩壊後のアフガンの国情もよくわかる。

著者のローリー・スチュワートはオックスフォード大学在学中からウイリアム、ヘンリー両王王子の家庭教師を務めたというバリバリのエリート。イギリス陸軍、外務省、イラク暫定統治機構などで活躍後、ハーバード大学ケネディー行政大学院人権政策センター長になったという。確実に英国の将来を担う人材で、ひょっとしたら首相になって世界に影響力を及ぼしかねない人物だ。

こういう人物がキャリアの途中にアフガン徒歩旅行という冒険旅行に挑戦し、当たり前のように元のキャリアに戻っていくところが日本とは違う。チャレンジする価値への掛け値なしの同意が文化的深層にまで組み込まれているから、アングロサクソンというのは強いのだろう。20年ばかり経済が低迷したからって、あたふたして生気がなくなる日本とは、そのへんが違う。
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4 コメント

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読んでみたいと思った。 (福ちゃん)
2010-12-23 14:07:51
チベット自治区と同様なアジアの内陸地、
厳しい自然の地で生活している現地の人々、
その文化と歴史に興味が沸いている私。

寛平さんのアースマラソン ->
NHKの天空の一本道 ->
角幡さんのブログでのお尋ね回答 ->
角幡さんの空白の5マイル ->
角幡さんのホトケの顔も三度まで ->
そして、この本の紹介。

芸人寛平さんとライター角幡さんを同一視しては居ないので、お許しを。

で、
邦訳本、高くて躊躇してます。
Us版のペーパーバックの価格にビックリですが、英書に頭が痛い。
と思っていましたが、
市立図書館に所蔵している事分かり、早速予約。
紹介ありがとうございます。

そうそう、
kotoba1月号入手し、対談読みました。
お二人とも早稲田ボーイですねぇ。
それと、角幡さんの体格、8頭身じゃないですか。
肩も広いし、結構イケメンだなぁ、と。
あの横断歩道ショット姿から、人造毛布を付けられている状況に、
今どれくらいの厚さになってるのかな???
無理が祟らなければ良いが。

返信する
静粛が気になり。 (福ちゃん)
2010-12-28 03:10:08
やってますか?角幡さん。
北極に抜けて、日々準備されているのでしょうか、トレーニングと食事で。

> 極めて上質な旅行記だ。今年ナンバーワンの本だったかもしれない。

今年ナンバーワンは、旅行記では無く探検記のあなたの著書

空白の五マイル

あなたが紹介された事から読む気になり、年内に図書館から手元に届く。
返信する
Unknown (どん)
2010-12-29 11:01:17

先日、空白の五マイルを感動のうちに読ませていただきました。
そして、今、初めてブログをお訪ねしました。

思わず、コメントしたのは、ローリースチュワートの本の話題だったからです。
私も読みました!
私にとっては、角幡さんの本も同じくらいに、情景が瑞々しく浮かんできて、
この本と二冊が今年の一番でした。

冒険を受け入れるイギリス社会の強さ、なるほどです。
比べて日本は・・・。でも、そんなときこそ、
角幡さんのような人に勇気づけられ、
心の余裕が生まれます。
返信する
Unknown (かくはた)
2010-12-30 18:59:42
わたしはそんな大した人間じゃございません。
返信する

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