「オリンパスが露にした日本の悪い面 2011.10.21(金) Financial Times
(2011年10月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
今にして思うと、マイケル・ウッドフォード氏は、オリンパスの今年のアニュアルリポートで自らの失脚を予言していた。「『変化』というのはシンプルな言葉だが、その変化の実現に成功しようと思ったら、会長と極めて緊密な関係を持っていなければならない」
そのため、オリンパスの前CEO(最高経営責任者)が先週、会長の菊川剛氏に、買収に伴う評価損計上や得体の知れないアドバイザーへの手数料に13億ドルを注ぎ込んだ「恥ずべき物語」を理由に辞任を求めた時、ウッドフォード氏はどんな結果になるか予測できたはずだ。同氏は解任され、空港へ行けと言われることになった。
オリンパスは今回の出来事を、「他の経営陣との乖離が生じた」ずけずけと物を言う西洋人と、合意に基づく慎重な企業との文化的な衝突として説明しようとした。だがこれは、ほかの日本企業の品位を侮辱する、つじつま合わせの作り話だ。
オリンパスでは、ひどく厄介なことが起きた。取締役会にその能力がない以上、徹底的かつ独立した調査が行われるべき問題である。菊川氏と他の取締役は、彼らがこれまでに提供してきた説明よりもはるかにきちんとした理由を提示する必要がある。さもなければ、自分たちが辞任するしかない。
文化的な衝突とは関係のない教訓
オリンパス事件には他の日本企業にとっての教訓もあるが、日本の文化や、日々の経営の中でチームワークと調和が優先されることとは関係がない。むしろ、取締役会の運営方法における構造的な問題に関係している。
このことは、2007年に9億3500万ポンドで買収した英国の医療機器メーカー、ジャイラスを含む一連の企業買収でオリンパスの現金がどれだけ浪費されたかについて、ウッドフォード氏の依頼でプライスウォーターハウスクーパース(PwC)がまとめた報告書への取締役会の反応でも明らかだった。
オリンパスは、さらに突っ込んで調査するどころか、議論を避け、ウッドフォード氏の解任を全会一致で採決した。
オリンパスの取締役会の構成や株主構成を考えると、別の結果が出る可能性はほとんどなかった。15人の取締役のうち12人は菊川氏に忠誠を尽くす幹部であり、同社の株式の60%は、問題を起こすのを嫌がることで有名な日本の金融機関か、その他の日本企業によって保有されている。
利害関係者の「離脱、発言、忠誠」
経済学者のアルバート・ハーシュマン氏は40年前、組織の衰退に直面した人は「離脱、発言、忠誠」のいずれかで反応すると論じた。ウッドフォード氏は発言し、オリンパス取締役会は忠誠心を示し、株主は静かに離脱した。同社の株価は、取締役会が開かれた14日以降、41%下落している。
ウッドフォード氏は、8カ月前にオリンパスの欧州法人社長から昇進する以前に同社で行われたことを無視することも簡単にできたはずだ。大半の幹部であれば、そうしただろう。日本の雑誌FACTA(ファクタ)が今夏報道した不正行為と違法行為疑惑が本当かどうか調査するのは会長の責任だった。
一連の買収で菊川氏が果たした役割によって、その可能性が排除されたため、ウッドフォード氏は自身で調査し始めた。菊川氏は、日本人の幹部がやらないような方法で会社を刷新するために、日産自動車のカルロス・ゴーン氏やソニーのハワード・ストリンガー氏のような外部の人間が欲しいと話していたが、菊川氏は明らかに部下を過小評価していた。
ウッドフォード氏は頑固だ。「私は非常に意固地になり、大口をたたき、強情ではっきり物を言うことがある」。同氏は先月、在日英国商業会議所の会報でこう語っていた。
芝居がかったところもある。「恐ろしかった。手が冷たくなり、じっとりと湿った」。ウッドフォード氏は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)のビデオインタビューで、同氏が「組織犯罪とゆすり」と解釈する「反社会的勢力」の関与を示唆するファクタの憶測に言及しながら、こう語った。
どんな基準で見ても異様な手数料
それを示す証拠はないが、明らかになっている事実それ自体が深刻な問題を提起している。ウッドフォード氏に代わって、PwCはジャイラスの買収と、当時ニューヨークに本拠を構えていたほぼ無名の投資顧問会社AXES(アクセス)の役割を調査した。
オリンパスは結局、アクセスと、同社系列でケイマン諸島に登記しているAXAM(アクサム)に6億8700万ドルの手数料――買収価格の36%――を支払うことになった。
これは、日本、英国を問わず、どんな基準で見ても異様だ。それに引き換え、オリンパスが、ジャイラス買収で別途起用したブティック型投資顧問会社ペレラ・ワインバーグに支払った手数料は約500万ポンドだった。ウォール街のM&A(企業の合併・買収)会社が割安な報酬しか受け取っていないように見える時は、何かがおかしい。
一方、オリンパスは、電子レンジで使用するタッパーウェア型の調理器具を販売している会社を含め、日本の零細企業3社に極めて過剰な金額を支払っていた。オリンパスは結局、最後の支払いが終わった直後に、7億7300万ドルの買収費用のうち5億8600万ドルを減損処理することになった。
これらは、現在の時価総額が50億ドルの企業にとって非常に大きな金額で、オリンパスが今試みているように、運の悪さや人的な誤りのせいにできるものではない。同社は、悪いことは何もしていないと主張しているが、これまでのところ、一連の出来事に対するきちんとした説明は一切行っていない。
その職務に「経営陣の日々の活動を監査すること」が含まれているオリンパスの監査役会にも、株主にも、規律を課す兆候は見られない(同社の株式を売ること以外)。アジア・コーポレート・ガバナンス協会(ACGA)が日本に関する報告書の中で指摘していたように、「取締役たちの内輪の派閥、あるいは社長の決定にはめったに異議が申し立てられない」のである。
オリンパス経営陣が変革できなければ、日本が傷つく
ウッドフォード氏は無謀にもそれを試み、日本の不透明なコーポレートガバナンス(企業統治)のシステムが同氏を潰した。
「もしあなたがフランス人で、日本に来たとしたら、ほんの少しでも制度を変えられる可能性は全くない、ゼロだ」。カルロス・ゴーン氏は自身の回顧録『Shift』の中でこう書いている。英国人でも、それは同じだ。
今は変革を起こすべき時だ。菊川氏がそれをしなければ、そして、オリンパス取締役会が会社や投資家の利益よりも個人的な忠誠を優先させるのであれば、日本が傷つくことになる。
By John Gapper」