白夜の炎

原発の問題・世界の出来事・本・映画

安岡章太郎死去

2013-01-29 19:58:09 | 文学
「「第三の新人」の一人として戦後文学に一時代を画した作家の安岡章太郎さんが26日、老衰のため死去した。92歳だった。

 1953年に「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞を受賞し、新鮮な文体と鋭敏な感覚が注目を浴びた。

 60年に戦後の家族の崩壊を描いた「海辺の光景」で芸術選奨と野間文芸賞。

 82年、自らの家系をたどった「流離譚」で日本文学大賞。92年には現代文学に貢献したとして朝日賞を受けた。2001年、文化功労者に選ばれた。」

http://www.asahi.com/obituaries/update/0129/TKY201301290224.html

 好きな作家であり、尊敬する作家だった。

 戦争とその時代の日本を知り、その上で発言できる人がまた一人なくなった。

 率直に言って、作品の出来栄えにばらつきの大きい人だった。

 しかしそれでもやはりよい作品の数多く残してくださったことに感謝しなければならない。

 彼の『私の昭和史』全3巻なども一読の価値があると思う。

 この機に皆さんにも一読をお勧めします。

「サラム」「白い紙」

2011-10-21 12:57:34 | 文学
 在日イラン人作家であるシリン・ネザマフィによる二編の小説(現在はドバイ在)。「白い紙」は文学界新人賞をとり、芥川賞候補にもなった(文芸春秋社から2010年8月刊行)。

 イラン・イラク戦争が4年を過ぎたころ、テヘランから国境の前線に近い田舎町に少女は母親と引っ越してくる。父親が医師で前線すぐ近くの町の「戦争病院」に勤務するためだ。父親は週末木曜遅くに帰宅し、三日間を自宅で過ごす。その間も訪ねてくる人たちの診療にあたる。まともな病院一つない街だからだ。

 少女はそんな町の教師が足りない学校でつまらない日々を送っている。そこに気になる少年が現れる。勉強よりつい心がそちらに向かうものの、何せイスラム国家の田舎町ゆえ、とても男女交際などあり得ない。

 ところがその少年が母親を彼女の父親のもとに連れてくるようになった。もちろん治療のためである。そして次第に距離が近づき、少しずつ話が始まり、やがて成績優秀な少年はテヘラン大学医学部希望だとわかる。テヘランの話は二人の距離をずっと縮めた。

 しかし戦争は容赦なく迫り町もミサイルの攻撃を受け、最前線では少年の父親の舞台がイラク軍の攻撃で大打撃を受ける。

 その戦争で少年の父は「逃げちゃった」。逃亡したのである。・・・・。

 結末はせつない。そして1980年代にこういう現実を生きた人たちが確かに傷んだという実感を残してくれる。文章は日本人作家のものとしか思えない。それも素晴らしい。

 「サラム」はアフガン難民の少女の通訳をすることになった留学生の物語。いつもではあるが日本社会の外国人に対する冷たさ、日本政府のご都合主義と冷酷さを考えさせられる。