白夜の炎

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欧州の銀行不安は杞憂か=田中理氏

2016-02-16 16:00:20 | 経済
「[東京 16日] - 世界的に金融市場の動揺が続くなか、新たな危機の震源として欧州の銀行セクターの健全性がにわかに注目を集めている。日銀が突如、マイナス金利政策を採用し、銀行収益圧迫への懸念が強まっている最中、ドイツの最大手行が高利回り債の利払いを停止する可能性があるとの報道をきっかけに、欧州銀の信用不安が市場を駆け巡った。

昨夏にギリシャ危機が鎮静化して以降、日本では欧州の経済・金融情勢に関する報道が激減してきた。この間、欧州の経済ファンダメンタルズが比較的良好だったこともあり、多くの読者にとって、欧州発の銀行不安は「寝耳に水」だったのではないだろうか。

ただ、欧州の銀行セクターをめぐる不安要素は、実はすでに昨年末頃から様々な形で顕在化していた。

<イタリアとポルトガルの教訓>

まず初めに市場が着目したのは、イタリアの不良債権問題だった。ユーロ圏内で回復の遅れが目立つ同国は、銀行セクター全体で3500億ユーロ、貸出総額の約17%に相当する巨額の不良債権を抱えているとされ、不良債権処理の遅れによる銀行貸出低迷が景気回復の足かせとなってきた。

危機感を強めた同国政府は昨年11月、4つの小規模な銀行の救済に着手。そこでは銀行の優先債保有者や預金者が完全に保護された一方、株主や劣後債の保有者に損失が発生した。同国は個人投資家による銀行債の保有割合が多く、破綻銀行の劣後債を保有していた年金生活者の1人が自殺したとのニュースをきっかけに、個人投資家の保護を求める声が高まった。政府は人道的な見地から損失を被った個人投資家に補償を提供することを決定した。

さらに昨年12月末にポルトガルで、経営危機に陥って2014年央に救済された大手行の追加資本増強が必要となり、監督権限を持つポルトガル中銀は、同銀の発行債券の一部をバッドバンクに移管することを決定した。

当該債券を保有していたのは外国資本の大手機関投資家で、個人投資家や国内の機関投資家は損失負担を免れた。公平性と透明性に欠ける銀行救済に批判の声が挙がっており、損失を被った投資家は法的手段に訴えるとしている。

こうしたイタリアとポルトガルの2カ国の銀行救済事例は、個人投資家に銀行救済での損失負担を求めることがいかに政治的に困難であるかを浮き彫りにし、多くの機関投資家が自身の保有する銀行債の損失負担リスクが想定以上に高いことを再認識させた。

<追い打ちをかけたハイブリッド債問題>

欧州連合(EU)では銀行行政一元化(銀行同盟)の一貫で、今年1月から域内で統一的な銀行の破綻処理ルールの適用が開始された。そこでは銀行救済に税金投入を回避する観点から、銀行が積み立てる破綻処理基金を利用するためには、銀行の株主や債券保有者が負債総額の最低8%に相当する損失を負担すること(ベイルイン)が求められる。両国の銀行救済は、そのタイミングからも、新たな破綻処理ルールの適用を回避するために駆け込みで行なわれたことは明らかだ。

新たなルールの下で銀行債の保有リスクが高まることは自明であったが、今後も各国当局が特例措置として個人投資家の保有債券をベイルインの対象から除外する可能性もあり、その分、機関投資家の損失負担が増す恐れがある。このことが世界的な市場動揺でリスク許容度が低下した投資家心理をさらに冷え込ませた。

その後も欧州銀の不安をかき立てる出来事が相次いだ。イタリアでは不良債権処理の加速を目指し、公的資金を用いて銀行から不良債権を買い取る政府案をめぐって、EUとの協議が難航。紆余曲折の末、最終的に焦げ付きリスクの低い不良債権のみを民間投資家が買い取る際に政府が保証するスキームで決着した。

だが、同施策が不良債権問題の抜本的な解決につながるか、市場には懐疑的な見方が根強い。この間、銀行の不良債権問題を検討する欧州中央銀行(ECB)のワーキンググループが、イタリアの銀行から情報提供を求めたとの報道も、同国銀行の不良債権をめぐって市場の疑心暗鬼を高めた。

そこに追い討ちをかけたのが、1月下旬から2月初旬にかけてのドイツ最大手行の赤字決算発表と同行の高利回り債の利払い停止観測だった。問題となった大手行は、資本市場業務の大幅縮小などの抜本的な経営改革を進める過程で巨額の減損やリストラ費用を計上したことや、昨夏以降の市場環境悪化によるトレーディング収入の減少が収益悪化につながった。

加えて、EUの新たな銀行破綻処理ルールの適用開始を受け、1月末に大手格付け会社が同行の優先債格付けを引き下げたことも信用リスクを高めた。

さらに2月初旬に同行がCoCo債と呼ばれるハイブリッド債の利払いを停止する可能性があるとの観測が広がり、市場の不安心理に拍車をかけた。CoCo債は自己資本比率が一定水準を下回ると、手元流動性の有無にかかわらず、任意の配当や利払いを停止する設計となっている。これは上位債権者を保護するためのもので、自己資本比率がさらに低下すると、普通株に転換し自己資本が増強される。

CoCo債の利払い停止はそもそも債務不履行とは区別されるものだ。だが、世界的な市場混乱による投資家のリスク回避姿勢の高まり、欧州の銀行セクターに対する信用リスクの高まり、EUの新たな銀行規制下での銀行債の保有リスクの高まり、世界景気の減速懸念と政策対応能力の限界などが相まって、投資家はリスク過敏になっていた。高利回り債の利払い停止とのニュース報道のヘッドラインを目にし、CoCo債の任意利払い停止を債務不履行と混同した可能性がある。

<ECBに残された政策オプション>

日本では日銀がマイナス政策金利の採用を決定した直後にドイツの大手行をめぐる不安が広がったことから両者を結び付ける論調もあるが、欧州の政策当局者の間ではマイナス政策金利の副作用はそれほど大きくないとの見方が一般的だ。

だからこそECBは昨年12月、すでに預金ファシリティ金利は下限に達したとの前言を撤回し、追加利下げに踏み切った。他方、マイナス金利の政策効果については、同時に導入した量的緩和策や流動性供給策の効果も相まって、金利低下やユーロ安進行をもたらしたとの評価で一致している。

ただ、貸出増加がマイナス金利(罰則金利)によるものであったかは評価が割れている。ECBが政策金利をマイナス圏に引き下げた14年央以降、スウェーデンやデンマークなど周辺の欧州中銀がマイナス政策金利を強化しており、マイナス金利が通貨安を通じたゼロサム・ゲームの様相を呈していることがうかがえる。

日銀が新たにマイナス金利競争に参戦し、そのしわ寄せはドル高という形で米製造業の景況悪化懸念につながりやすい。マイナス金利導入によって期待されたはずの円安効果は、世界景気減速によるリスクオフで打ち消された。

一段の原油安進行で向こう数カ月の間にユーロ圏の消費者物価は再びマイナス圏に転落する恐れがある。中期的な期待インフレ率が再び下方屈折を始めており、低過ぎるインフレ率の長期化で徐々にデフレマインドが広がる恐れがある。

ECBは、次回3月10日の会合で金融政策スタンスを再評価し、場合によっては再考する必要があることを前回1月22日の理事会で表明している。市場の行き過ぎた緩和期待が失望を招いた昨年12月の二の舞を避けるため、今回は丁寧な市場対話と期待誘導を図る可能性が高い。

15日付けのロイター通信は、預金ファシリティ金利のさらなる引き下げについて理事会内に確固たる支持が広がっているとの関係者の発言を伝えている。預金ファシリティ金利の10ベーシスポイント(bp)程度の小幅引き下げは既定路線とみてよい。

このところの金融市場の動揺を受け、ECBがさらに大胆な緩和に踏み切るとの期待も広がっている。米国の利上げ観測後退もあり、為替市場にはユーロ高圧力がくすぶっており、小幅の追加利下げでは市場の期待に届かない可能性が高い。

ECBが取れる政策オプションは、1)預金ファシリティ金利の大幅な引き下げと同時に副作用を緩和する政策金利の階層化、2)中心レートである主要リファイナンス金利のマイナス化、3)量的緩和の期間・規模・構成の見直し、4)買い入れ総額を変えずに当面の買い入れを増額する前倒し購入、5)発行体や銘柄毎の買い入れ上限の緩和、6)預金ファシリティ金利未満の利回りの国債や残存30年超の国債を買い入れ対象に追加、7)貸出増加を条件とした流動性供給(TLTRO)の再開など、多岐にわたる。

出し惜しみをすればユーロ高進行によるデフレリスクを高める恐れがある一方、マイナス金利の大幅な拡大は欧州銀の信用不安を高めることや、ドル高進行による米景気の腰折れ懸念を高めることで、日銀同様に市場の手荒いしっぺ返しを受ける恐れもある。ドラギECB総裁は難しい判断を迫られることになる。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。」

http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-osamu-tanaka-idJPKCN0VP065?sp=true

日銀が恐れるマイナス金利後のリスクシナリオ/ダイヤモンド

2016-02-15 20:22:30 | 経済
「 未踏の領域に踏み込んだ長期金利に翻弄され、経営計画の抜本的な見直しを余儀なくされたある地方銀行幹部は、途方に暮れていた。

「基準となる長期金利が崩壊してしまったので、シンジケートローンから仕組みローン、地方公共団体向け融資のレートに至るまで、融資の収益見通しが立てられなくなった」

 2月9日、住宅ローンや企業向けの貸出金利など、さまざまな金融商品の目安となる日本の長期金利が史上初めてマイナス圏に突入したのだ。

 きっかけは欧州の信用リスク不安。大手のドイツ銀行が過去最大の最終赤字に沈んだことを契機に、経営危機をあおるような相場動向と観測が市場を駆け巡り、投資家のリスク回避姿勢が強まった。

 この流れを引き継いだ9日午前の東京市場では、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りがゼロを付け、午後には一時マイナス0.035%まで低下(価格は上昇)した。10年債の利回りがマイナスになると、国債を満期まで保有し続けても損が出てしまう。主要7カ国(G7)でも前例がなかった、まさに異常事態である。

 では、どうしてそんな不条理な金融商品に買い手がいるのか。

 それは、日本銀行が異次元緩和の一環で、国債を民間の金融機関から大量に買い入れて、市中にマネーを供給しているため、マイナス利回りでも高値で日銀が買い取ってくれるからにほかならない。満期まで保有せずに日銀に売れば、間違いなくもうけられるのだ。

 この日の混乱は金利にとどまらなかった。

 ドル円相場は一時1ドル=114円台まで急騰、「黒田防衛ライン」とされた115円を割り込み、1年3カ月ぶりの円高水準を付けた。さらに、日経平均株価は前日より918円安い1万6085円で終え、今年最大の下げ幅を記録。翌10日午前には心理的な節目である1万6000円も割り込んだ。東京市場は長期金利、為替、株式で次々と最終攻防ラインが破られるトリプルパンチに見舞われた。

 背景にあるのはリスクオフ相場。投資家が株式などのリスク資産から資金を引き揚げ、相対的に安全と見なされている円、日本国債に振り向ける動きがにわかに加速したためだ。

 悪材料が一気に出たことに加えて、10日から11日にかけ、FRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長が米議会で、過度なリスク回避姿勢を和らげる発言をするとみられ、ひとまず市場は落ち着きを取り戻すとの見方が多い。

 2月下旬に上海で開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも、市場安定に向け、協調路線が強く訴えられるはずだ。

 それでも、原油安をはじめとして、中東や極東における地政学リスク、中国の減速などさまざまなリスクがくすぶっており、投資家のリスク回避を加速させるネタには事欠かない。

 特に人民元をめぐっては、ジョージ・ソロスやデビッド・テッパーといったヘッジファンド業界の大物が元の空売りを仕掛けているとうわさされており、さらなる人民元安が懸念される。

 こうしたリスクがひとたび投資家に意識されれば、円買いが再燃して、円高に振れるという構図がしばらくは続くだろう。

 そして、株安・円高対策としてマイナス金利政策を導入したはずにもかかわらず、歯止めが利かない状況にあって、日銀はさらなるリスクシナリオに身構え始めた。

 中堅幹部は「米国の減速こそが最大の懸念材料」と警戒する。

 いま世界最大の経済大国であり、世界経済の唯一のけん引役たる米国で景気後退局面入りの懸念が高まっている。

 ドイツ証券の田中泰輔・グローバルマクロリサーチオフィサーは、「過去2回の日銀の金融緩和は両方とも米国経済が良く、ドル高の地合いが強まっていたときに打ち出されたから効いた。逆に米国が鈍っているときに日銀が緩和しても円安株高の効果はほとんど出ない」と指摘する。

 実際、日銀の黒田東彦総裁が打ち出したマイナス金利政策はわずか数日で賞味期限が切れてしまった。むしろ、ベテランの市場関係者が「当の日銀ですらマイナス金利にシステムが対応できておらず、行内は大混乱に陥っている」と指摘するように、現状ではその副作用の方が大きいといえる。

 マイナス金利政策という劇薬を使ってもあらがえない市場のうねりによって、一国の中央銀行が持つ金融政策という“主権”の限界が露呈してしまった。米経済の減速が顕在化してくると、日銀の政策余地はもはやほとんどないのが実態なのだ。」

http://diamond.jp/articles/-/86257

マイナス金利の影響・NHK解説委員の解説

2016-02-12 18:07:52 | 経済
マイナス金利についてNHKの解説委員が解説しています、基本的な所をわかりやすく解説しているので参考になります。

 → http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/237453.html

 ご覧になってはいかがでしょうか。

世界金融市場は「崩壊の危機」に直面している 資金の安全な避難場を破壊した日銀の「罪」

2016-02-12 17:06:25 | 経済
「静かな暴落の恐怖。恐怖感がないのか最も怖い。乱高下というよりスーと落ちていく。まさに遊園地のフリーフォールのよう。崖から落ちるときはこんな感覚を味わうのだろうか。しかし、この下落の理由は何か。理由がない下落だから怖いという面はあるが、深層、真相はどこにある?

一つはっきり言えるのは、日銀が最後に崖から突き落とした犯人だということだ。マイナス金利が最後の一押しとなり、世界金融市場はフリーフォールとなった。

2015年8月の下落と2016年初からの下落、この時の要因は原油だった。原油価格の下落でシェールガスも暴落、関連企業のジャンク債が暴落し、ジャンク債市場全体に暴落が波及し、レバレッジを効かせてハイリスクの投資をしていたファンドが破綻、機関投資家も大きな損失を出し、株式市場にも連鎖した。

暴落の主因は原油から銀行セクターに


この連載の過去記事はこちら
チャイナショックと言われたが、厳密に言うと間違いで、上海株式市場がどうなろうと関係なかった。原油、資源の問題だった。ただ、中国実体経済は大きな構造転換期にあり、重厚長大産業による大量生産や大規模投資という部分が行き詰まっていたのは事実。それまで、消費が増え続けていく中国というストーリーで投機を集めていた原油が暴落し、資源も暴落したので、両者は関係していた。

しかし、1月末からの暴落要因は原油ではない。2月11日に原油は再び1バレル26ドル台を付けたが、もはや原油の側も暴落の連鎖を受ける側になった。1月初めからの下落は、原油1バレル20ドル台の定着が引き金となって世界の金融市場全体を暴落させたが、この流れが一時止まり、30ドル台を回復し、一息ついたかと思われた後の暴落再開だった。下げは加速し、そのとどめを刺したのが日銀のマイナス金利だった。

現在、原油から銀行セクターに暴落の主因は移った。欧州の銀行株はセクターの指数が年初来30%近く下げている。ドイツ銀行が債券の返済ができなくなるといううわさが駆け巡り、ソシエテジェネラルの決算は予想をはるかに超える利益の減少となり、欧州の銀行はほぼすべて売り込まれた。ドイツ銀行もソシエテジェネラルも訴訟費用が大きな要因だが、最後のとどめは、マイナス金利によるベースの収益の減少だ。

銀行セクターの行き詰まりは多くの要素が絡み合っているが、元をたどればリーマンショックに行き着く。リーマンショックで完全に崩壊した世界金融バブルが、銀行セクターを肥大化させ、反動による収縮が現在も続いており、いよいよごまかしきれなくなってきたのが現在の姿だ。

リーマンショック後、世界の金融当局、とりわけ英国、そして米国は、銀行や金融機関への規制を強化してきた。リスクを取らせない方向へ舵を切った。英国では明示的に報酬が過大であることを非難した。その結果、金融機関、銀行は人材も流出し、収益機会も減少していった。もちろん市場が暴落したのだから、それによるダメージも大きく、また上昇が望めないことから、彼らは別の収益確保に走った。それが国債への投資である。

量的緩和と称する大量の国債購入

リーマンショックに対応して、米国も欧州も中央銀行は、量的緩和と称する大量の国債購入政策を実施した。ECB(欧州中央銀行)は量的緩和という言葉をずっと避けていたが、実質的には、ギリシャ国債を始め、リスクの相対的に高い国債の大量購入を行った。一方で、世界中の政府は財政出動を行った。この結果、投資対象となる国債は市場にあふれていた。その国債を金融機関や投資家は買い入れ、中央銀行に売りつけることにより、利ザヤを稼ぐようになった。

地味な銀行は、利回りだけで満足したかったが、中央銀行の買い入れ額も中央銀行の買い入れに便乗する投機家の買いも激しかったために、利回りが低下しすぎて、リスクの相対的に高いはずのギリシャなど、本来格付けが低いはずの国々の国債を買った。そして、これらの国債のリスクが市場で意識されると、銀行破綻の危機になるから、欧州の中央銀行とEUおよびIMFはこれらの国債を買い入れ、資本注入をし、欧州の銀行システムを維持してきた。

財政金融を総動員すること、世論も学者も強烈に要求した。1930年代の大恐慌を引き合いに出し、すべてのことを犠牲にしても財政出動するべきだと主張した。大恐慌は、1920年末の株価暴落に対応した金融緩和を1930年代前半に早々に引き締めに転じたこと、すなわち早すぎる引き締めによってもたらされた、という議論を借用し、財政出動をとことん行わせた。実際は大恐慌よりもはるかに失業率は低く、またGDPの落ち込みも小さく、さらに物価の下落もまったく異なっていたにもかかわらず、デフレに落ち込んだら大恐慌の二の舞だ、という半ば脅迫により、財政も金融もフル出動となった。

そのバブルがいま崩壊しているのである。

欧州の銀行は欧州の国債に資金を待避させたが、それを利用して稼ぎもした。投機家と一緒に、中央銀行や政府を相手に負けないギャンブルをしたのである。しかし、そのツケは欧州危機として実現した。リスク無視で財政危機の国々の国債を買いまくったから、実際にギリシャが財政破綻をすると、連鎖反応で国債は暴落し、銀行は危機になり、再び欧州当局は資本を注入し、国債を買い上げ、金融システム危機を回避した。この過程で、欧州の銀行は一時しのぎをしながら次のビジネスモデルをつくることはなかった。

金融緩和による世界的な不動産バブルで、再び銀行や金融機関はレバレッジを高め、国債の次は不動産へ資金を移し、欧州危機が一息つくと、懲りずに株式市場に投資家の資金は殺到し、世界の株価は上昇したのである。

疲弊した新興国は不況に落ち込んでいった

しかし、この中で新興国は疲弊していた。米国の大規模な量的緩和により、世界的なバブルが起こり不動産、株式に集中したため、実体経済の本格回復はないまま、投機資金が資産市場に流れ込んだだけだった。実体経済の支えは唯一、中国などの需要に対して輸出をするだけであったし、その輸出の多くは資源など一次産品が含まれ、資源バブルが起きた。世界の資金はここにもなだれ込んだ。新興国はインフレに悩み、金利を引き上げなければならなかった。バブルを抑えるために、国内の実体経済を不況に陥れてしまった。

こうなると、資金は先進国に向かい、ドルが急上昇し、新興国通貨は大幅に下落し、輸入インフレが激しくなった。これを抑えるためには、金融を引き締めなければならず、実体経済はますます不況に落ち込んでいった。

こうなると、資源バブルもはじけざるを得ない。新興国の中心である中国が息切れし、中国依存の世界経済を支えきれず、自国を守るために、通常モードに政策をシフトさせてきたからである。この結果、原油は大幅に下落し、これは資源輸出国である新興国、途上国にとどめを刺した。その中には中東を始め世界の産油国が含まれており、ますます原油市場は、財政のつじつまを合わせるための売り(供給)が減少しないことにより、暴落を続けた。ただ、原油価格は高くなりすぎていたのであって、需給で決まるとなれば暴落は当然だった。

しかし、これは先進国に跳ね返ってきた。これが昨年からの下落である。

だが、昨年からの原油ショックは、世界金融市場の崩壊の序章に過ぎなかった。なぜなら、原油価格の暴落は、資源国にはマイナスだが、消費国にはプラスで、世界全体ではプラスマイナスゼロであるからである。もっとも、世界でもっとも調子の良い、そして大国である米国と日本が恩恵を受け、経済基盤が脆弱な資源国が打撃を受けるのでは、弱いものの打撃の影響の方が大きいため、世界全体でマイナスではある。

しかし、それよりも致命的なのは、銀行システムが崩れることである。原油暴落で借金国や借金で資源開発をしている企業、国が破綻するので、世界経済トータルでマイナスであるのだが、これもレバレッジが効いているからマイナスなのである。すべての経済危機は銀行危機である。今回は原油暴落からの株式市場の危機、リスク資産市場の危機から、経済全体の危機になったのである。

世界中の銀行が追い込まれるという連想ゲーム

銀行が財務危機に陥れば、リスク資産市場への投機資金も流れなくなるが、実体経済へ流れも細くなる。実体経済の取るべきリスクでさえ取らなくなり、実体経済は不況に陥る。今回の危機は、この始まりの危機なのである。最後のとどめは、繰り返すが日銀のマイナス金利であった。リーマンショック後、欧米の銀行は利益機会を失い、徐々に弱ってきていた。そこへ、規制も強化させ、リーマンショックへの反省から銀行危機を起こさないために、銀行の資本を厚くすることを当局は要求していた。

その結果、ドイツ銀行は無理な資本調達をしなければならず、そして他の銀行も同じような状況となり、これが、現在の金融危機によりリスクのある債券(資本性のある債券)に対して値付けが厳しくなり、持続不可能になった。さらに、欧州ではマイナス金利が3年続いており、銀行は、ギャンブル的な投資利益、トレーディング収益の機会だけでなく、安定した国債利回りによる収益も失ってきた。さらに、ドイツ銀行などは、リーマン破綻前の違法な業務による課徴金、訴訟関連費用により、急激に追い込まれたのである。

このような状況があるところへ、日銀がマイナス金利を導入し、世界の金融市場は、マイナス金利の怖さを思い出してしまった。この銀行部門のリスクをさらに意識することとなり、世界中の銀行が追い込まれる、という連想ゲームが始まり、いよいよ終わりの始まりが始まったのである。

米国の利上げ回避も、通常なら株価にプラスのはずだが、米国債金利の急落で、これは世界の金融機関のもうひとつの収入源を奪うことになり、さらに銀行不安は拡大した。

安全資産の市場がギャンブル市場に

最後に。日銀のマイナス金利はとどめを刺しただけで、本質的な問題ではない、タイミングが悪かっただけだ、という説もあり得るが、タイミングは重要だ。これまで、サプライズで、いわばタイミングだけで市場を弄んできたしっぺ返しを受けているのだ。問題は、それがしっぺ返しでは済まないことだ。株価が下落して元に戻るだけでなく、世界の銀行システムの崩壊の危機に陥れたのだ。

国内経済を考えると、マイナス金利は為替安にすることだけが短期的なプラス要因だが、黒田緩和第三弾は誤算に見舞われた。週末から米国の金融政策への不透明性が高まり、日本側で為替をコントロールするどころか影響すらも与えられなかったのだ。金融市場は米国次第、とりわけ為替はすべて米ドル次第という基本中の基本を勉強させられただけに終わった。

そして、本当の日銀の最大の罪は、世界の金融市場から安全な逃避場を消滅させたことにある。

現在の円高は資金の逃避と説明され、10年国債までもが急騰してマイナス金利になったことも、資金が安全資産へ逃避した、と説明されているが、これは180度どころか、異次元に間違っている。なぜなら、円買いや長期国債買いが起きているのは逃避ではなく、逃避というストーリーで資金が集まるので値上がりする、という短期的な投機的思惑から資金が殺到しているだけだからだ。だから、今後は、円も国債も乱高下を続けるだろう。

日銀の最大の罪は、国債という安全資産の市場、資金の逃避場の市場を破壊したことにある。これらの市場は乱高下に見まわれ、投機資金のギャンブル市場になってしまったからだ。これは3年前、異次元緩和第一弾が始まったときから起きていることであり、第三弾は最後のとどめにすぎない。異次元緩和が始まったときから、この金融市場の終わり、安全資産市場が世界から消滅するという、終わりの始まりは始まっていたのである。」

http://toyokeizai.net/articles/-/104866

マイナス金利の副作用顕在化、代替政策めぐり議論/ロイター

2016-02-12 12:41:43 | 経済
「[ロンドン 11日 ロイター] - マイナス金利を導入する中央銀行が増加し、金融セクターに取り返しのつかない打撃を与えるのではないかとの懸念が高まってきた。

最近の銀行債や株価の下落を受け、融資促進を目的に銀行に事実上の手数料を課すマイナス金利が根本的な解決策というより新たな問題になっているのではないか、というのが多くの投資家の認識だ。

ラボバンクの金利戦略責任者、リチャード・マクガイア氏は「日銀のマイナス金利決定後に銀行セクターが緊迫化したのは決して偶然の一致ではない」と指摘した。

このため市場関係者の間では、もっと思い切った代わりの政策手段がないかを探る動きが広がっている。銀行債や銀行株の買い入れなどのほか、現金への課税まで提唱する向きもある。

日銀が先月初めてマイナス金利を導入し、スウェーデン中銀は11日の会合で政策金利のマイナス幅を拡大した。欧州中央銀行(ECB)も3月の次回理事会で現行マイナス0.3%の中銀預金金利のマイナス幅をさらに10─20ベーシスポイント(bp)広げる見通しだ。

世界的な景気後退(グローバルリセッション)を話題にする一部のエコノミストからは、昨年12月に利上げした米連邦準備理事会(FRB)でさえ、マイナス金利を採用する事態を検討している。

今週の株安は、ずっと前から知られていたマイナス金利の副作用にあらためて注目を集める結果になった。欧州の銀行株は数年来の安値に沈み、銀行の劣後債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムは年初来で80%強上昇している。

マイナス金利下では、銀行は中銀に預けているお金について手数料を徴収される。しかしそのコストを預金者に転嫁しようとすれば、預金が引き出され、銀行のバランスシートに大穴があくので、コスト転嫁は難しい。

<代替策>

中銀は、銀行の痛みを和らげるためにマイナス金利の適用範囲を限定することができる。日銀は実際に当座預金金利に階層構造を設けており、ECBも同様の措置を検討しているとされる。

もっともECBは景気テコ入れという効果が薄れるようなそうした中銀預金金利の修正は実行しそうにない。ただし欧州の銀行セクターがマイナス金利の副作用にさらされている以上、代替策の模索は続いている。

ECBの政策担当者は過去に、銀行債や社債、あるいはよりリスクの高い資産担保証券(ABS)を買い入れプログラムの対象に含める案を検討した。プラート専務理事は、理論的には現物株や金の買い入れもできると発言した。

これらの措置は、ECBがユーロ圏のすべての加盟国で政策を実施する点を考えれば現実的には困難だが、まったく不可能でもない。1年か2年前までは、国債買い入れやマイナス金利などは政策の「邪道」とみなされていたのだ。

前例という面では、1990年代後半のアジア金融危機において、香港の中銀が上場株の20%前後を買い取ったケースがある。また日銀は最近、上場投資信託(ETF)の買い入れを増額した。

<マイナス金利拡大予想>

マイナス金利が拡大し、銀行が支払う手数料が増えていけば、どこかの時点で銀行は現金保有に切り替え、厳重に警備された金庫にそれらの現金を退蔵すると考えられる。

現金は金利を生まず警備コストもかかる。それでも多額の手数料を払うより安いからだ。そこで学界の一部では昨年、現金への課税も論じられたが、それは銀行セクターの緊張を増幅させるだけに終わるだろう。

そして市場でマイナス金利の副作用が懸念されているにもかかわらず、中銀当局にとっては少なくとも当面、マイナス金利が政策手段の1つであり続けるように見える。

JPモルガンは今週、ECBは年央までに中銀預金金利をマイナス0.7%まで引き下げ、理論的には長期的にマイナス4.5%まで下げられるとの見方を示した。

FRBはマイナス1.3%、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)はマイナス2.5%、日銀はマイナス3.45%までの引き下げが可能だという。

(John Geddie、Marc Jones記者)」

http://jp.reuters.com/article/global-cenbank-negative-rates-idJPKCN0VL04T?sp=true

Japan adopts negative interest rate in surprise move/BBC

2016-01-29 16:39:54 | 経済
"In a surprise move, the Bank of Japan has introduced a negative interest rate.

The benchmark rate of -0.1% means that the central bank will charge commercial banks 0.1% on some of their deposits.
It hopes this will encourage banks to lend, and counter the ongoing economic slump in the world's third-largest economy.
The European Central Bank also has negative rates, however, it is a first for Japan.

The decision came in a narrow 5-4 vote at the Bank of Japan's first meeting of the year on Friday.
"The BOJ will cut interest rates further into negative territory if judged as necessary," the Bank of Japan said, adding it would continue as long as needed to achieve an inflation target of 2%.
Some analysts have cast doubt over how effective the rate cut will be.
Why has Japan made this move?

Japan is currently facing very low inflation, which means that people and companies tend to hold on to their money on the assumption that they can get more for it later in time. So rather than spend or invest it, they will keep it in the bank.
Charging a percentage to keep money in the central bank might encourage commercial banks to lend it out. That would boost both domestic spending and business investment.

It is also aimed at driving inflation up, which is another incentive for people and businesses to spend rather than save.
In a press conference, the BOJ's governor Haruhiko Kuroda pointed at the global economic outlook when explaining the cut.
"Japan's economy continues to recover moderately and the underlying price trend is improving steadily," he said, but warned that "further falls in oil prices, uncertainty over emerging economies, including China, and global market instability could hurt business confidence and delay the eradication of people's deflationary mindset".

Earlier in the day, fresh economic data had again highlighted concerns over economic growth. The December core inflation rate was shown to be at 0.1% - far below the central bank target.

Asian shares jumped and the yen fell across the board in reaction to the announcement. Japanese banks though saw their shares drop on the news as lenders are likely to see their margins squeezed even more.


Mariko Oi, BBC News: 'Kuroda bazooka'

The decision to implement a negative interest rate has been dubbed "Kuroda bazooka" after the governor of the Bank of Japan.
Haruhiko Kuroda, is well known for making surprise moves that shock investors. Only a few weeks ago, Mr Kuroda told the parliament budget committee that he would not introduce more stimulus for the economy.

So today's announcement caused the stock market to jump while the yen fell sharply against major currencies.
The option of lowering the cost of borrowing below zero has been on the cards for Japan's central bank since the early 2000s and it was the first in the world to consider it.

But when it comes to implementing the policy, Denmark, Sweden and Switzerland were first, followed by the European Central Bank which had to do everything it could to keep the EU economy afloat after the eurozone economic crisis.


Last resort

There are doubts, however, over how well the new policy will work.
"Negative interest rates are one of the last instruments in the BOJ's tool box," Martin Schulz of the Fujitsu Institute in Tokyo told the BBC. "But their impact is unlikely to be strong."

Mr Schulz cautioned that in the eurozone, negative interest rates are being used to tackle a financial crisis, whereas Japan is in a protracted slow growth environment.

"In Japan, credit didn't expand not because banks were unwilling to lend but because businesses didn't see the investment perspective to borrow. Even with negative interest rates, this situation will not change."

"Businesses don't need money - they need investment opportunities. And that can only be achieved by structural reforms, not by monetary policy," he said.

The decision comes in addition to the BOJ's massive asset-buying programme, which over the past years had failed to boost growth."

http://www.bbc.com/news/business-35436187

日銀 新たな金融緩和策決定 当座預金金利マイナスに

2016-01-29 16:37:43 | 経済
「日銀は、29日まで開いた金融政策決定会合でこれまでの大規模な金融緩和策に加えて金融機関から預かっている当座預金の一部につけている金利を、マイナスに引き下げる新たな金融緩和に踏み切ることを決めました。
日銀は29日までの2日間、金融政策決定会合を開き、さきほど声明を発表しました。
それによりますと、日銀が市場に供給するお金の量を年間80兆円のペースで増やす、今の金融緩和策については維持します。
そのうえで新たに、日銀が金融機関から預かっている当座預金のうち一定の水準を超える金額につけている金利について、現在の0.1%からマイナス0.1%に引き下げる金融緩和策を導入することを決めました。
マイナス金利は来月16日から導入するとしています。
この決定は、9人の政策委員のうち賛成5、反対4と僅かの差で決まりました。
これによって、金融機関が必要以上の資金を日銀に預けておくメリットが薄れることから、日銀としては、日銀の口座に積み上がっている金融機関の資金をより積極的に貸し出しなどに振り向けるよう促すねらいがあると見られます。
新たな金融緩和策を導入した背景について日銀は、原油価格の一段の下落に加え、中国をはじめとする新興国や資源国の経済の先行きが不透明なことなどから、金融市場が世界的に不安定になっていることがあるとしています。これによって企業や消費者のデフレ意識の転換が遅れ、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増えていると説明しています。
目標の2%物価上昇率にはほど遠い状況
日銀の黒田総裁が、デフレ脱却を目指して大規模な金融緩和を打ち出したのは、2013年の4月4日でした。2%の物価上昇率を目標として掲げ、2年程度の期間で達成するため、市場に供給する資金の量を2倍に増やすという大規模な金融緩和で、記者会見では、黒田総裁みずから「これまでとは次元が異なる」と評しました。
この金融緩和に真っ先に反応したのは株や為替などの金融市場です。
円相場は、緩和発表前日の2013年の4月3日の時点では1ドル=93円台だったのが、円安ドル高が進み、去年6月には、一時、1ドル=125円86銭まで値下がり。
日経平均株価も2013年4月3日の終値は1万2362円だったのが、去年6月には、2万868円銭まで値上がりし、それまでの「円高株安」が「円安株高」へと一転するきっかけとなりました。
特に、自動車メーカーなどの日本企業が苦しんでいた円高が円安に転じたことで、大企業を中心に業績が改善し、過去最高益に達する企業が続出しています。
このため、春闘で従業員のベースアップを実施するなど賃上げに踏み切る企業が増えたほか、物価も当初は上昇基調が続き、大規模緩和の導入前には前の年と比べてマイナスだった消費者物価指数は、おととし4月には消費増税の影響を除いて1.5%程度の上昇率に達しました。
しかし、おととし夏以降に原油価格が急激に下落したことで、消費者物価は、上昇率が鈍り始めました。
日銀は、「デフレ脱却に向け正念場」だとして、おととし10月、国債などの買い入れをさらに増やす追加の金融緩和に打って出ましたが、このところ原油価格が一段と値下がりした影響で消費者物価指数は0%前後にとどまり、大規模緩和の導入から2年9か月以上たっても目標とする2%にはほど遠い状況になっていました。
こうしたなか、黒田総裁は、物価の上昇に向けた動きに変化があらわれたら、ちゅうちょなく追加の金融緩和に踏み切るという姿勢を見せていました。」

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160129/k10010390301000.html

原油価格の諸問題(上)冷静に原油市場について理解する/THE PAGE より

2016-01-25 16:30:19 | 経済
「 原油価格が下げ止まりません。20日の原油相場は1バレル=26ドル55セントとなり、2003年以来の低水準で取引を終えました。市場ではまだ下がるという観測も根強く、原油価格の下落が経済全体に悪影響を及ぼすとの懸念も高まっています。

冷静に原油市場について理解する


原油安で5カ月ぶり安値となったNY株(2016年1月20日、ロイター/アフロ)
 しかし、原油価格がどのようにして決まり、それが経済にどう影響を与えるのかについては、実はよく知られていません。「原油価格が下がったから大変だ」という声が大きいので、不安心理が先行している状況ですが、このような時こそ、冷静に原油市場について理解する必要があるでしょう。

 原油価格は2014年の半ばまでは1バレル=100ドル前後で取引されていました。2014年の後半から価格下落が進み、4分の1近くまで下がってしまったわけですから、これはまさに暴落といってよいレベルです。しかし長期的に見ると、原油の価格はそれほど高い水準で推移してきたわけではありません。

 戦後の約30年間にわたって原油価格は1バレル=1ドル台での推移が続いていました。当時の貨幣価値と現在の価値は異なりますが、インフレ率を考慮に入れても1バレル=10ドル台となります。こうした状況を一変させたのが1973年と1979年の二度にわたるオイルショックです。

長期的に見れば、特に驚くような数字ではない?


戦後における原油価格の長期的推移
 石油輸出国機構(OPEC)の主要加盟国が突然大幅な値上げを実施したことから、市場価格が高騰、最終的には40ドル台まで上昇しました。これは現在の価値に置き換えると100ドル前後となります。オイルショック発生直後の日本ではパニックを起こしてトイレットペーパーの買い占めをする人たちも現れました。しかし、市場は落ち着き、1980年代に入ると原油価格は20ドル台(現在の価値では30ドル台)で安定するようになります。

 この状況が再び変化したのが2000年代の価格高騰です。中国など新興国経済の驚異的な成長によって、需給が逼迫するとの観測が高まり、原油価格が再び100ドルに上昇しました。その影響が2014年まで続いていたわけです。再生可能エネルギーの議論がこの時期に高まってきたのも、価格高騰が大きな要因の一つになっています。

 戦後70年間を平均してみると、原油価格は現在の価値で約40ドルです。オイルショックや需給逼迫など、特殊要因があると100ドルに上昇し、そこがピークになるというパターンが見られます。原油価格が相対的に高かった最近の状況と比較すると暴落ということになりますが、長期的に見れば、最低水準を下回っていませんから、特に驚くような数字ではないという解釈も成立するわけです。」

http://thepage.jp/detail/20160121-00000008-wordleaf?pattern=2&utm_expid=90592221-53.dkK4v0nLS7muTT6u23GJVg.2&utm_referrer=http%3A%2F%2Fthepage.jp%2F

中国爆買いの灯は消えるのか/ロイターより

2016-01-24 15:11:11 | 経済
「[上海 20日 ロイター] - 世界経済の先行きにとって、さらに悪いニュースかもしれない。「爆買い」で昨年の経済成長を支える主役だった中国の消費者が、今年は支出を切り詰める可能性が高まっている。

外食の頻度を減らし、スマートフォンの機種交換を先送りし、衝動買いを減らしていくという。

世界第2位の経済大国である中国の政策当局にとっては、ただでさえ株式市場の動揺と賃金成長の伸び悩みに苦慮しているというのに、これもまた気を揉む材料だ。

中国経済は昨年、この四半世紀で最も低い経済成長率を記録したが、少なくとも政府が掲げた目標に近い成長率を維持できたのは消費需要のおかげだったと、アナリストは見ている。

エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの北京在勤アナリスト、トム・ラファティ氏は、「2015年に経済を救ったのは中国の消費者だ」と語る。「彼らの消費支出が、これまで中国経済のけん引役だった産業や投資の不振を相殺することに貢献した」と言う。

だが、今年も消費者が同じように動いてくれるという保証はない。

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)が20日発表した調査によれば、中国の消費者信頼感は今月記録的な低さとなった。米調査会社チャイナ・ベージュ・ブックの調査では、第4・四半期の雇用成長・賃金成長は過去4年間で最低となっている。

これらの調査を裏付けるように、ロイターが上海で取材した消費者も、今後支出には気を配り、抑制していく可能性が高いと語っている。

<爆買い頻度も減少>

男性のZhouさんは、昨年ガールフレンドとともに外食で約7万元(約125万円)、衣類とアクセサリーに4万元を使ったという。だが、今年は経済状況に鑑みて約3分の1近く支出を切り詰める予定だ。「自炊を増やす。携帯電話などのエレクトロニクス製品の買い替え頻度も減らすかもしれない」と言う。

ある店舗でマグカップやベッド用のシーツを物色していた30歳の女性Zhengさんは、「物価上昇に収入が追いつかないようだ」と不安を口にする。「こういうものは必要ない。もう少し自制して、買い物にも頻繁に行かないようしなければ」と語った。

さらに厳しい打撃を受けるのは、中国で増大しつつある高齢者層かもしれない。医療費が可処分所得に食い込みつつあるからだ。

すでに退職した55歳の女性は、ロイターの取材に対し、自分のお金の大半は都市部の大気汚染対策用のエアフィルターに使わざるを得なかったと語る。「病気になって病院に行く必要が生じたときのために、貯金しておきたいのだけど」と言う。

中国国内に多数存在する小規模な小売店経営者は、彼ら自身も消費者だが、完全に国内需要に依存して生計を立てているだけに、厳しい状況に置かれている。

上海で携帯電話ショップを経営するDongさんは、昨年下半期に売上が急激に落ちたという。「奇妙な話で、理由は分からない。株式市場が暴落したからかもしれない。2016年はもっと悪くなると思う」と話す。

<逆風>

エコノミストは、今年、賃金が伸びず失業率が上昇すれば、消費者の支出は低下すると警告するが、そうなる可能性は高そうだ。

また、最近の人民元安によって中国で販売されている多くの輸入品価格にその影響が及んでおり、中国人の購買力が内外で低下することも考えられる。

「賃金上昇が緩やかになることで、今年は消費支出の伸びが抑えられると予想している。さらに、産業の不振が消費に及ぼす悪影響が強まるリスクも残っている」と、オックスフォード・エコノミクスのアジア経済担当責任者ルイス・クイジス氏(香港在勤)は分析する。

中国の国家統計局によれば、GDP成長に対する消費の貢献比率は、昨年15ポイント上昇して3分の2を超え、巨大な製造部門の減速を相殺することに貢献した。もっとも、そのうち民間消費ではなく政府支出によるものがどの程度あるのか、公式の内訳は発表されていない。

中国の内閣に相当する国務院は昨年11月、民間消費を加速させる試みとして、小売、医療、旅行やスポーツなど「ライフスタイル関連ビジネス」に対する融資提供において、金融機関がこれまで以上に多様な担保を受け入れることを奨励していくと発表した。

<強靱さの兆候も>

とはいえ、消費財の小売販売額は前年比で11%以上増大し4000億ドルを超え、オンラインショッピングサイトのタオバオでは、11月の販促イベント期間中、たった1時間で約40億ドルの売上高を稼いでいる。

こうした消費の強靱さを示す兆候は続いている。

ANZの消費者信頼感調査からは、「今こそ高額商品を購入すべき時期だ」と考える回答者が増えていることが分かる。昨年の新車販売台数は4.7%増と伸び悩んだが、中国自動車製造者協会によれば、今年は6%増が見込まれている。

それでも、上海の婦人服店の経営者は「この1年間、商売は不振だったし、上向きになるとは考えられない」と懸念する。「富裕層が高級品を買うとしても、貧困層は節約に走るだろう」と語った。

(Pete Sweeney記者)

(翻訳:エァクレーレン)」

http://jp.reuters.com/article/china-economy-consumers-idJPKCN0V200H?sp=true

富裕層トップ62人の資産、世界の半分36億人の合計と同じ/オックスファムの調査

2016-01-20 10:05:55 | 経済
「貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム」は1月18日、世界で最も裕福な62人が保有する資産は、世界の人口のうち経済的に恵まれない下から半分にあたる約36億人が保有する資産とほぼ同じだったとする報告書を発表した。経済格差が拡大しているとしており、各国政府に是正への取り組みを呼びかけている。

報告書は「最も豊かな1%のための経済」というタイトルで、1月20日から始まる世界経済フォーラム(通称ダボス会議)に先駆けて発表された。経済誌フォーブスの長者番付や、スイスの金融大手クレディ・スイスの資産動向データを元に調査した。

報告書によると、世界人口の貧しい半分にあたる36億人の資産は、2010年と比較して1兆ドル、41%減少。1.76兆となった。これは、資産レベル上位62人が保有する資産と同等の額。


世界の下位半分にあたる人数は、2010年では388人だったが、2012年は159人、2014年は80人と、格差は広がっている。オックスファム・インターナショナルのウィニー・ビアニマ氏は「世界の人口の貧しい方の半分の保有資産が1台のバスに収まるほどの一握りの大金持ちと同じというのは、端的に言って容認できるものではない」と主張した。


報告書はさらに、「貧富の差は、過去12か月間で劇的に拡大した」と指摘。2015年1月に予測していた、世界の富裕層1%の持つ富は、他の99%の持つ富の合計を上回るとの推測が「現実のものとなった」。

20日~23日にスイスで行われるダボス会議には、約2500人の世界の富裕層や政治家、企業経営者が一堂に会する。オックスファムは、所得格差の拡大の原因のひとつとして、タックスヘイブンなどの税金逃れがあると指摘。「アフリカの金融資産の30%がタックスヘイブンに置かれていると推測され、このことによって毎年140億ドルの税収入が失われています。140億ドルの予算があれば、母子保健の充実などを通して年間400万人の子どもの命を救うことができるばかりか、アフリカのすべての子どもたちが学校に通うために必要な教員を雇用することができます」として、世界の指導者にこうした問題への対策を改めて呼び掛けた。」

http://www.huffingtonpost.jp/2016/01/19/economy-for-the-1-percent_n_9021548.html?utm_hp_ref=japan

世界の富裕層の上位62人が保有する資産は、世界の人口全体の下位半数が持つ合計と同じ/CNNより

2016-01-18 19:30:44 | 経済
「ニューヨーク(CNNMoney) 世界の富裕層の上位62人が保有する資産は、世界の人口全体の下位半数が持つ合計と同じ額に達していることが18日までに分かった。貧困問題に取り組む非政府組織(NGO)オックスファム・インターナショナルの報告で明らかになった。
オックスファムは今週スイスで開かれる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に向け、米経済誌フォーブスの長者番付やスイスの金融大手クレディ・スイスの資産動向データに基づく2015年版の年次報告書を発表した。
それによると、上位62人と下位半数に当たる36億人の資産は、どちらも計1兆7600億ドル(約206兆円)だった。
富裕層の資産は近年、急激に膨れ上がっており、上位グループの資産はこの5年間で計約5000億ドル増えた。一方、下位半数の資産は計1兆ドル減少した。10年の時点では、上位388人の資産の合計が下位半数の合計に等しいという結果が出ていた。
また、上位1%の富裕層が握る資産額は、残り99%の資産額を上回る水準にあるという。
オックスファム・アメリカのガウェイン・クリプキ氏は、世界の富が「ピラミッドの頂点に位置するごく一部へ急速に集中しつつある」と指摘する。
富裕層と貧困層の所得格差も拡大を続けている。1日あたりの生活費が1・90ドル未満という極貧ライン以下の生活を送る下位20%の所得は1988年から2011年までほとんど動きがなかったのに対し、上位10%の所得は46%も増加した。
一方で富裕層の税金逃れは総額7兆6000億ドルに上っていると推定される。オックスファムは格差縮小に向け、世界の指導者にこうした問題への対策を改めて呼び掛けた。」

http://www.cnn.co.jp/business/35076360.html?tag=top;mainStory

正規・非正規という労働市場の分断/エモット

2016-01-15 12:29:43 | 経済
「[東京 12日] - 日本経済の低成長の背景にある家計需要の慢性的な低迷、生産性上昇の停滞は、正規・非正規という労働市場の分断に起因するところが大きいと、英エコノミスト誌の元編集長でジャーナリストのビル・エモット氏は指摘する。

同氏の見解は以下の通り。

<労働力不足の今なら改革の痛みは小さい>

日本の経済発展と社会調和にとって、最大の障害は、労働市場の深刻な分断だ。日本の賃金労働者は約60%のインサイダー(正規雇用労働者)と約40%のアウトサイダー(非正規雇用労働者、多くはパートタイマー)に二極化している。

前者が、高いレベルの雇用保障と福利厚生など賃金・給与以外の経済的利益(ベネフィット)を享受している一方、後者の大多数は低賃金で、そうしたベネフィットも皆無に等しく、不安定な雇用を余儀なくされているのが実情だ。

日本は迅速に労働法制を調整し、フルタイム、パートタイムに関係なく、働くすべての人が同等の雇用保障とベネフィットを受けられるようにする必要がある。

むろん、これは、インサイダーにとっては雇用保障のレベルが下がることを意味する。したがって、失業者に対する保障制度の改善や再就職への公的支援の拡充が必要になる。

ただ同時に、アウトサイダーの権利と雇用保障のレベルを引き上げる必要がある。大企業は当然、こうした変化を阻もうと政治に強く働きかけると思われるが、アウトサイダーの権利を向上させることは、インサイダーの権利を引き下げるのと同じくらい重要だ。

労働市場の分断を解決しなければ、日本は家計需要の慢性的な低迷、生産性上昇の停滞に悩まされ続けるだろう。そして、増加し続けるアウトサイダーの人的資本は着実に蝕(むしば)まれていく。技能習得にもっと投資しようというインセンティブが、会社側にも個人(非正規雇用労働者)側にも、働きにくいからである。

日本経済が完全雇用状態にあり、現実として労働力不足に直面しているにもかかわらず、この人的資本の劣化と家計需要の低迷が継続しているということは、労働制度改革の喫緊の必要性について十分な根拠を示している。

完全雇用と労働力不足の状況下では本来、このような改革に伴う社会的な痛みは小さく済むとも言える。

*ビル・エモット氏は、英国のジャーナリスト。オックスフォード大学モードリン・カレッジ卒業後、同大学のナフィールド・カレッジを経て、1980年に英エコノミスト誌に入社。83年から3年間、東京支局長。93年から2006年まで13年間、同誌の編集長を務めた。「日はまた沈む」「日はまた昇る」など日本に関する著書多数。」

http://jp.reuters.com/article/view-bill-emmott-idJPKBN0UM0TI20160112?pageNumber=2&sp=true

金融グローバル化の愚劣

2015-07-15 12:55:06 | 経済
 ギリシャをめぐる混乱が示しているのは、自国の財政を民間の金融機関やファンドに任せると、国家主権は失われ、その国独自の成長も、社会保障も不可能になるということだ。

 ドイツやフランスで社会保障や高い経済水準が実現されているのは、お金が自分のところに回ってくる仕組みの中心だからであり、その周辺に位置づけられた国は皆ギリシャ同様貧困化する可能性がある。

 日本の財政がGDP日200%を超える赤字を出していてもなんとかやって行けるのは、国際の保有者が日本政府と友好的なゆうちょ銀行だったり、政府系金融機関だったりするからだ。

 この仕組みを解体し、ギリシャ並みのカモに転換しようと言うのが、小泉の郵政改革であり、それを民主党政権等が一旦止めたのを再度指導したのが現在の安倍政権である。

 安倍政権のもとで郵貯の株式売却がすすめられるが、これがアメリカのファンド等に保有された場合、単なる金儲けの手段になることは一目瞭然である。

 今は政府の国債を買い、政府はその金で社会保障や医療をまかなっている。なぜこの仕組みを変えなければならないのか。安倍は全く説明していないし、自民も全く説明しない。

 彼らは本当に自国民を海外に売り渡す、真の売国政権だと思う。

日本経済再建は容易なことではないと思う。

2015-03-31 19:17:27 | 経済
 日本経済の再建は容易なことではないと思う。それは先進国だからだ。

 例えば70年代80年代のアメリカ経済復興の道筋を考えてみたとき、どうだったろう。先進国アメリカは、自国の代表的産業だった自動車、半導体、各種機械等が次々と競争力を失い、大きく後退していった。

 その再建はもちろんアメリカの各種の対日政策によるところも大きかったが、結局はIT・デジタル革命をアメリカ発で起こすことによって実現したといえるのではないだろうか。

 自動車等、あれほど日本に様々な圧力をかけたものの、結局自動車産業はかつての輝きを取り戻せていない。政府の施策は企業自体を延命させることはできても、飛躍させることはできないのである。

 ではデジタル革命はなにによって可能になっただろうか。

 第一にアメリカの教育・研究機関の水準の高さと開放性の高さがあげられるだろう。だからこそ世界中から才能が集まるのである。

 第二に革新的研究に対する公的資金の大量提供である。国防総省をはじめとする様々な機関が実に幅広い分野に資金提供を行っている。また各種財団による資金提供もきわめて広範かつ手厚いものがある。またこれら財団は研究そのものの方向付けや支援においても大きな役割を果たしている。

 第三によく言われることであるが、研究をビジネスに転換する環境-企業-がしやすいことがある。単に資金を提供するだけでなく、ビジネスとしての成長をサポートする有稀有無形のインフラが豊富なことは日本とは比較にならない。

 しかし以上の他もう一つ指摘したいことがある。それはデジタル革命を主導した若い才能たちが本気で信じた「理念」「理想」である。ステープ・ジョブズだけでなく、当時夢を見ていた多くの高校生・大学生たちは、IBMの大型マシーンによる新たな知的能力の独占に危機感を持ち、それらを一人一人の個人に「解放」することを真剣に目財したのである。今日それが十分に果たされているか否かは別にして、当時若かった彼らがそう信じていたことは疑いを入れない。ダイナブック構想やネットワーク化の様々な試み。私が最初に購入したPCであるアップルのSE30には大なカードという一種のプログラミング可能なデータベースソフトがついていて、なおかつ同じアップルのPCであれば簡単にネットワーク化することが出来た。

 このような理念を彼らが信じたのは、アメリカ社会のもつ開放性と、やはり「自由で自立した個人」から出発する、アメリカ社会の基本的なありようが前提にあるだろう。だからこそ彼らは理想を信じることが出来たし、仲間を見出すことが出来たのである。

 今日のデジタル社会は、それまで一般人には見ることも想像することもできなかったものが、人々の手によって実現されたその結果である。その「見えない何か」を形にしたのは、上で述べたような理想・理念を信じた人々だったといえよう。

 翻って日本の状況を考えたとき、目に見えない明日を作り出すような真剣な理想があるだろうか。かつてこの国を破滅に追い込んだ理念を振りかざす安倍政権の空威張り以外何も聞こえないように思える。こんなものからは何ものも生まれない-破局以外は。

 日本経済の再建のためには、今の私たちには見えないものを作り出す誰かの信念・理想・理念がなければならない。それが多くの人々に広がるためには多くの人々をひきつけるものでなければならない。アメリカの理念が「自由」「個人」「開放性」といった形で提示された時、それは国籍とも民族とも宗教とも関係なかった。だからこそ人材は集まり、新たな理念は世界的規模で実現されていったのである。日本社会が問われているのは、果たしてそのような理念を生み出すことが出来るか否かということである。そのためには株価の心配よりも、政治や社会のありようを心配する必要があるように思われる。

 

アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か/WSJ

2014-12-08 13:51:33 | 経済
「 2009年の終わりに私が日本に越してくる以前、日本が「景気後退」、「停滞」、「不振」といった不吉な言葉で表現されるのをよく目にしていた。ところが、引っ越しを終えて落ち着くと、私にとってより適切だと思われたのは英語の「comfort」に意味が近く、便利、信頼性、安全性、魅力など幅広い美徳が表せる「快適」という言葉だった。私は世界の日本に対する認識と国内で感じる雰囲気、並外れた豊かさの格差に衝撃を受けた。その繁栄ぶりは、前回私がここに住んだ20年前に知ったバブル時代の日本だけではなく、その後に私が米国で経験したいくつかの好況と比較しても引けを取らなかった。

 景気後退期の東京には、同じような状況下の欧米で見られるような経済的困窮の象徴、たとえば板が打ち付けられた店舗、割れた窓ガラス、積み上がったゴミ、物乞い、舗装道路のくぼみ、荒廃した地下鉄の駅、深刻な路上犯罪の気配などが全くなかった。図書館や公園といった公共サービスの閉鎖もなかった。それどころか、私がいなかった「失われた20年」に東京はかなりおしゃれになっていた。大手町にある私のオフィスの界隈では、古ぼけたコーヒーショップが入った軽量コンクリートブロック造りのみすぼらしい事務所ビルが、客で賑わうグルメ向けレストランや高級デザイナーのブティックなどが入っているきらびやかなオフィスタワーに取って代わられていた。下町にある自宅の周辺では、古い店舗が頻繁に閉店したが、週末のあいだに大急ぎで改装工事が行われ、月曜日の朝には新しい看板を掲げた店が開店していた。


(東京・中央) Louisa Rubinfien
 データはうそをつかない。多くの指標によると、日本経済は歴史的な衰退をたどり、特に増加傾向にある不完全雇用者という底辺層や人口減少地域に弊害をもたらした。それでも日本は、全般的に見て、比較的苦痛が少ない、穏やかな衰退でどうにかしのいできた。これは、アベノミクスという形の積極的な行動を伴う反応が現れるまでにあまりにも長い年月がかかったこと――そしてあまりに早く日本国民がそれを考え直すことになった原因の一つでもあるだろう。

 こうしたことから、過去5年にわたって日本の混乱した政治、金融、経済をウォール・ストリート・ジャーナルで記事にしてきた私はある結論にたどり着いた。日本の現代の政治経済には、デフレ主義対リフレ主義という特徴的な緊張関係があり、それぞれが思い描く日本の将来像も全く異なっているというものだ。

 デフレ主義者たちは安定を優先させ、人口動態を運命と見なし、日本の人口の高齢化と減少は必然的に経済停滞を招くと考えている。彼らの反応はリスク、混乱、分裂を最低限にとどめ、その移行にできるだけ苦痛が伴わないようにするというもので、国が引退生活の計画を立てるかのようである。一方のリフレ主義者たちは、そうした見通しを無用な敗北主義と捉え、より発展性があり、活力に満ちた未来を求めているので、あらゆるリスクを冒すこと、さまざまな混乱を受け入れることにも前向きである。

 日本の衰退期のイメージとして心に残っているのが、2011年3月11日の衝撃的な地震、津波、原発事故の三重災害である。そこには自然の脅威と無能なリーダーシップになすすべがない日本があった。より明るい未来の象徴としては、2020年の夏季オリンピックの東京開催決定があった。

 過去20年間の大半で幅をきかせてきたのはデフレ主義者たちだが、安倍政権が発足してからの2年間ではリフレ主義者たちが優勢となっている。しかし、首相になって1年間は高い支持率を享受した安倍氏も今では高まりつつある疑念に直面しており、自分の名前を冠した経済再生プログラムの是非を問う国民投票として、12月14日に総選挙を実施することにした。その投票結果は、2つの統治哲学の勢力バランスを再調整し、向こう数年間に日本が――経済や市場だけではなく、外交や防衛の分野でも――進む方向を決める一因となるだろう。

 日本の安倍政権以前の体制を「デフレ主義者」と呼ぶ一方で、私は物価、賃金、消費、投資の低下という経済を弱体化させる悪循環に陥ることが彼らの意図だったと示唆しているわけではない。それは主に、失策と麻痺状態の結果として起きたことだった。とはいえ、1990年代の終わりにこのような状況に陥った時、日本の指導者たちは、これはそれほど悪いことではなく、一般的に処方される対策は利益以上に害をもたらすリスクがあるという判断を暗黙のうちに下していたのだ。

 考えてみてほしい。日本の国民1人当たりの国内総生産(GDP)成長率は、他の先進国と同等、あるいはそれ以上だった。平均寿命は伸び続け、世界最高水準であり続けた。その一方で犯罪発生率は世界最低水準を維持した。失業率は「失われた20年」のあいだにピークの5.5%に達したが、欧米の景気後退期の水準である2ケタを大きく下回っており、景気回復期に入って久しい米国の現在の失業率よりも依然として低い。

 日銀の白川前総裁は退任半年後の2013年9月のスピーチで、穏やかなデフレは、ある程度において、雇用の最大化を確保するために日本社会が支払った代償だ、と述べた。慎重な白川前総裁はデフレ主義者たちの看板的存在となり、リフレ主義者たちの主な攻撃対象となった。白川前総裁によると、デフレは衰退を均一に分散させるための日本の「社会契約」の一環だという。大量一時解雇という欧米の慣習とは対照的に、日本企業は景気低迷期に賃金削減を通じて人件費を節約することができた。

 おそらく米国のエコノミストたちにとっては苛立たしいそうした態度は、無秩序な市場への不信感が根深い日本ではむしろ主流なようだ。米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターは今年、43カ国で経済に対する考え方を調査した。「富める人もいれば貧しい人もいるが、ほとんどの人は自由主義経済の方が幸せになれる」という意見に賛成か反対かを聞いたところ、日本では51%が反対だった。半数以上が資本主義の純便益を疑った国は日本を含めて4カ国しかなかった。

 停滞のなかで安定する日本に共感することもあった。私は昨年、西武ホールディングスとその筆頭株主で、米国水準の利益幅を強く迫っていたニューヨークに拠点を置くプライベートエクイティー(PE=未公開株)投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントとの対立を記事にするのを手伝った。サーベラスのある幹部は、彼自身が最もばかげていると思った西武の非効率的な判断に関する詳細な資料をわれわれに見せてくれた。それには東京郊外を4両編成で運行している区間6駅の西武多摩川線の維持も含まれていた。娘が通学に使っていていたので、私はその路線のことをよく知っていた。これに不満を抱く米国の投資家たちの理屈も理解できた。しかし、西武をより繁栄させるための彼らの青写真には、混乱を引き起こす懸念を抱かせるものもあった。西武の幹部たちは自ら地元住民の意見を集約し、米国流の収益性が必ずしもさらなる効率性を生むとは限らず、むしろ非効率性が企業と株主から沿線のコミュニティーに移るだけだと示唆した。

 約5年前に人口が減少に転じ、「高齢化社会」という自国像、そうした未来に合った政策や優先事項の新たな方向付けが定着すると、日本の危険回避傾向が強まった。デフレ主義者たちの最後の大きな行動は、3年後に消費税率を倍にするという2012年に可決した消費増税法案だった。目的は、欧州を襲ったソブリン債務危機のようなものが起きる可能性に対して追加的な防御策と、ベビーブーマー世代の引退に備えて老齢年金を補強することにあった。増税で成長が妨げられるということに疑問の余地はなかった。支持した人々は景気の減速を、老年期に入る人口の社会保障、そして国を維持するのに必要な代償だと感じていた。

 当然だが、デフレにはマイナスの側面もあり、害悪と考える人々もいる。今や日本人の6人に1人が貧困線以下の生活を送っている。企業が従業員を一時解雇することをタブーにした「社会契約」は、給与と手当が保証された正社員の採用もより難しくした。日本の低い失業率は、低賃金の非正規雇用者の急増で維持されており、今やその割合はすべての労働者の3分の1以上に達している。デフレの時代に成年になった20代、30代の日本人の多くには、待遇が良く安定した職を見つけるチャンスがなかった。高齢者を保護するために将来の野心を縮小した日本は、若者の夢を台無しにしてしまったのだ。

 リフレ主義者の関心は経済的苦難を通り越して、国際社会における日本の存在感の低下にある。地域のライバルである中国の台頭がそれに影響していれば、なおさらだ。中国の経済規模は日本の2倍になった。両国の経済成長率には大きな差があるため、日本に追いついてからわずか4年で達成された。領有権をめぐる2国間の緊張が高まり、最近、中国政府が高圧的にその経済力を誇示した――2010年には日本が必要としていた素材、レアアースの供給を絞り、2012年には巨大な国内市場で日本製品をボイコットした――ことは、リフレ主義者たちが景気停滞による経済上の危険と安全保障上の危険を結び付けるのに役立った。

 そうしたチャイナショックの後に、休眠しているかのようだったリフレ主義の理念が一気に高まったのは偶然ではないだろう。そうした運動の政治的リーダーが、短命に終わった最初の首相在任期間に日本の失われたプライドを取り戻そうとしたことでよく知られている安倍首相になったのもやはり偶然ではあるまい。日本の平和主義は、いろいろな意味でデフレ主義――国家的影響力の低下と相伴うリスク回避の外交政策――と二つで一組になってしまった。再び首相に就任した安倍氏は、国家主義とリフレ主義の理念を融合させ、より活発な経済と同時に、より力強い外交と安全保障上の役割を目指してきた。

 アベノミクスには、概念的に「新しいもの」はほとんどない。そのアイデアの大半は外国のエコノミストたちが長いあいだ日本に採用を促してきたことか、以前のデフレ主義政権が実施されなかった無数の「成長戦略」の一環としておざなりに支持したものだ。

 新しかったのは、安倍首相が成長を加速させ、デフレを終わらせることが日本の最優先課題だと宣言したこと、そして、そのために必要とみられている措置の少なくともいくつかについてはやり遂げると決断したことである。両陣営の人々をよく知っている私の印象だが、デフレ主義者たちとリフレ主義者たちは実際には、アベノミクスの3本の矢(短期的な成長を促すための金融と財政面の刺激策、長期的な成長を後押しする構造改革など)がもたらし得る恩恵と波紋に関して共通の理解を持っていると思う。

 両者を分かつのは、リスクに対する許容度の違いである。

 安倍首相の下、成長を追い求める日本は刺激策を新たな極限まで押し進めた――これは日本に限った話ではなく、世界的に見ても極限と言える。

 今や日銀はそのポートフォリオに、日本のGDPの約6割――他の先進国の中央銀行が達した水準の2倍――に相当する資産を保有している。安倍氏が首相に就任する以前でさえ、日本政府の債務残高はそのGDPの2倍以上という世界最高水準に達していた(これに近いのはジンバブエぐらいである)。それでも、来年に予定されていた消費増税――デフレ主義の前任者たちが成立させた法案――を先送りにすることで成長をさらに促進させようという安倍首相の最近の決断には、日本の記録破りの借り入れに対する市場の許容度を試すことへの猛烈な意欲が示されている。

 日本のリスク回避からリスク負担への急転換は、約130兆円の資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)にも拡大した。あまり慎重ではない国でさえ、保守的に扱う傾向がある老後の支えだが、GPIFは今や安全だが低利回りの国債の比率を減らし、より利益性は高いが値動きが激しい株式の比率を増やしている。

 安倍政権以前の日本はどうしてそうした賭けに出なかったのか。世界の投資家が日本の経済政策は不安定になったという結論を下し、その結果の資金逃避で経済を衰弱させるような何らかの相場崩壊――金利の急騰、底なしの円安、株価の暴落など――が引き起こされるのをデフレ主義者たちは恐れていたのだ。そうした大惨事が起きる確率は測定できるものではないが、その可能性が、より大胆な刺激策への意欲をそぐものとして長く機能してきた。

 安倍首相の大博打にもかかわらず、少なくとも今のところは、デフレ主義者たちが長く恐れてきた市場の大混乱は引き起こされていない。一方で、夏場に景気後退に陥るなど、リフレ主義者たちが約束した停滞からの決別も実現していない。今やリフレ主義者たちの運動は、政治と政策において岐路に立たされている。

 12月14日の衆議院選挙は、不完全であるとはいえ、日本の変化を見極める材料になるだろう。不完全というのは、今回の選挙がアベノミクスや安倍首相に対する明確な信任投票にはならないからだ。弱体化した野党の足並みは乱れており、ほとんどの選挙区ではまともに戦えそうな候補者の擁立さえ思い通りに進んでいない。したがって、安倍首相が実際に政権を失うというシナリオは描きにくい。とはいえ、多くの議席を失えば、自民党は安倍首相がリフレ主義改革を完遂するための自由度を制限することになるだろう。

 安倍首相の勝利の影響は、それがどのようにして得られたかで決まるだろう。田舎や非効率的な中小企業を一連の変革から保護する新しい公約に焦点を絞った選挙運動を展開すれば、安倍首相の支持率は高まるかもしれないが、成長促進が約束されているとする経済改革への勢いはそがれてしまう。リフレ主義的な政治課題の第2段階を詳しく説明する選挙運動を行えば、安倍首相がこれまでに挑んできたいかなる改革をも上回るほど野心的な改革への道が開ける可能性もある。

 安倍氏が政権を維持できたとして、日本の凝り固まったデフレ主義的本能に、安倍氏流のリフレ主義が一体どの程度まで挑むつもりなのかは、選挙後の計画ではっきりするだろう。アベノミクスは過去2年間にさまざまな動揺を巻き起こしてきたが、安倍首相の最も急進的な政策課題への取り組みはまだ始まったばかりである。長期的な成長を安倍首相が約束した野心的なペースに引き上げるのに必要となるのが「3本目の矢」と呼ばれる構造改革だ。これまでのところ、重要な規制緩和は実施されていない。それどころか、世界銀行が起業家の妨げとなっている官僚主義的な負担の大きさの指標として毎年発表している「ビジネスのしやすさ」国別ランキングでは、アベノミクス下の日本がすでに低かった順位をさらに落としている。また安倍首相は、日本を新鮮で身が引き締まるような市場の圧力にさらすことになる貿易、労働、移民の大規模な自由化についてもまだ強力に推進していない。

 こうした自由化は、激変を嫌う国民に売り込む上で政治的に最も難しい変革である――しかも、そうしたより難しい段階に到達する以前に、リフレ主義は国民の支持を失いつつある。日銀が9月に実施した調査によると、1年前と比べて暮らし向きが良くなったと回答した世帯は5%にも満たず、半数近くが悪くなったと答えたという。最近の日本経済新聞の調査では、アベノミクスを支持する人の割合は33%、支持しない人の割合が51%だった。

 こうした不満の一部は、アベノミクスによる経済復興がつまずいているという兆候に起因する。その逆に、アベノミクスは実際に成功しているが、その成功が必ずしも「快適」ではないということに由来する失望感もある。

 アベノミクスの今日までの成果で最も分かりやすいのは、日本の多国籍企業の収益急増と日本の比較的少ない株主層に恩恵をもたらした株価の急騰である。その一方で、低中所得層の世帯は、安倍首相が必死に生み出そうとしたインフレが賃上げ分を追い越すのを目の当たりにし、内需志向の中小企業は材料費の上昇に苦しめられている。アベノミクスは持てる者と持たざる者の気まずい格差、デフレ主義者たちもかつて抑え込もうとしていた不均衡の拡大を促してしまったのだ。

 現在の議論は、二つの大きな疑問に集約される。一つ目の疑問は、アベノミクスがこの国の代謝作用と野心を高めることに本当に成功できるのか、である。現在、アベノミクスの「失敗」に関する解説を多く目にするが、私は成功できると考えている。特に最近、金融緩和策と景気刺激策が新たに追加されたことを踏まえると、少なくともそこそこの成功は収められるはずだ。

 しかし、その成功に伴って、この1年間で浮上した緊張や混乱は高まるばかりだろう。選挙後に構造改革への取り組みが始まれば、なおさらである。

 そしてこのことが二つ目の大きな疑問へとつながる。長く続いた日本のデフレ時代をアベノミクスによって終わらせることができるとしても、日本は本当にそれを望んでいるのだろうか。

ジェイコブ・スレシンジャー


 ウォール・ストリート・ジャーナル アジア経済主席特派員・中央銀行担当エディター

 ハーバード大学経済学部卒業。St. Petersburg Times 記者を経て、1986年ウォール・ストリート・ジャーナルデトロイト支局に記者として入社。89~94年東京支局特派員。その時の取材をもとに日本の政治についての『Shadow Shoguns:The Rise and Fall of Japan's Postwar Political Machine』を執筆。帰国後ワシントンで経済記者、政治記者、ワシントン支局副支局長を経て2010年東京支局長に就任。2014年より現職。03年、特別報道チームの一員として企業不祥事を暴いて解明した報道シリーズでピュリツァー賞を受賞した。Twitter @JMSchles」

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