白夜の炎

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【難民問題を考える】難民認定は未来を拓くパスポート~シリア人一家を訪ねて~

2016-04-20 18:01:15 | 国際
「金は出すが、人は受け入れない――増え続けるシリア難民の問題が最大の懸案事項の一つだった国連総会で、日本が表明したのはそういう方針だった。ヨーロッパが多数の難民を受け入れているほか、アメリカ(10万人)、オーストラリア(1万2000人)、さらにはベネズエラ(2万人)などの南米各国も受け入れを表明している中、日本は依然として門を閉ざし続けている。そんな日本にも、9月中旬までに60数名のシリア人がやってきて、難民申請をしている。そのうち難民と認定されたのは、一家族3人だけだ。
埼玉県内で生活する、そのシリア人家族を訪ねた。難民認定されたのは、ジャマールさん(23)と中学2年生の妹(13)、それに母親さんの3人。難民認定されたことで、シリアに残っていた父親を呼び寄せることができ、今は4人で2DKのマンションで暮らす。
自宅が破壊され、出国を決意

自宅でくつろぐジャマールさん。
自宅でくつろぐジャマールさん。
一家はシリアの首都ダマスカスに住み、ジャマールさんはダマスカス大学で英文学を学んでいた。母親は国営テレビで働き、パンやお菓子の職人の父親は、カタールに単身赴任して仕事をしていた。住まいは100平米ほどの広さがあり、ジャマールさんはアルバイトの必要もなく、勉強やサッカーに集中することができた。
かつてのジャマールさんには、サッカーのシリア代表チームに入りたい、大学院に進んで修士号もとりたい、などたくさんの夢があった。しかし、その夢は内戦によって砕かれた。アサド政権に対する批判が高まるにつれ、政府の弾圧が激しくなった。それでも止まない批判に対し、政権は軍隊を使って国民を迫害。軍は、あちこちに柵を設けて人々の行動を制約し、反政府側との武力衝突もしばしば。とても学校には通えない状況になった。人々が次々に逮捕され、様々な攻撃を受けた。母親も身の危険を感じるようになり、とうとう自宅のあるビルが、政府軍によって爆破され、一家は出国を決意。2013年2月に国を出た。
難民認定を待つ日々

まずは3人でエジプトに渡り、そこで7ヶ月滞在。まずは母親一人が甥が住んでいるスウェーデンに渡ろうとしたが、ビザが下りなかった。そこで、日本人女性と結婚していた叔父を頼ることにした。レバノンの日本大使館で観光ビザの発給を受けた3人は、有り金をはたいて航空券を買い、そのまま東京へ。2013年10月に日本の土を踏んだ。
叔父の家に半月ほど身を寄せた後、東京の入国管理局の事務所で難民申請を行い、さらに4ヶ月ほど叔父宅に滞在した。その後、わずか一間のアパートで、母子3人で生活した。
「入管の人はとても親切で、申請の手続きは簡単だったが、その後が長かった」とジャマールさん。
手続きに関しては、NPO法人難民支援協会から紹介された弁護士に頼み、1年半の間、結果をただひたすら待つしかなかった。
「日本に来て、最初の1年が人生の中で最悪の生活だった。最初の6ヶ月は仕事をすることを禁じられていたため、借金をして食いつなぎました」。
その後、レストランの仕事にありついて1年しゃにむに働いた。週6日、一日の労働時間は15時間に及ぶこともあった。母親も半年間ほど一緒に働いた。父親は、カタールでの仕事を失ってから、シリアに戻って生活していたが、とても職はない。ジャマールさんらは貧しい暮らしをさらにやりくりして、父親に仕送りをした。
難民認定されるとされないではこんなに違う

今年3月になって、昨年12月付で難民と認められたと伝えられた。なぜ、知らされるのに3ヶ月もかかったのかは分からない。
「日本がほとんど難民認定をしない、というのは、後から知りました。そんな中で、認定された我が家は本当にラッキーだった」と胸をなで下ろした。
認定後、一家を取り巻く状況は大きく改善した。それまでは半年ごとに入管で在留許可の延長をしてもらわなければならず、できる仕事も限られていた。難民認定されたことで、就業制限はなくなった。医療費が無料になり、日本語の学校に6ヶ月通うことができ、経済的援助も至急されるようになった。今の2DKの住まいも斡旋してもらえた。家族を呼び寄せることができるようになったため、5月に父親が来日。2年3ヶ月ぶりに、一家が顔を合わせることができた。
「日本には感謝しています。ただ、時間がかかりすぎたために、これまでに100万円もの借金を背負ってしまいました」
日本は、難民認定をしていないシリア人も、さすがに強制送還まではせず、人道的配慮として短期の在留は認めているが、そういう立場は、1年ごとの更新が必要など不安定で、日本語教育などの定住支援や経済的な援助がなく、家族の呼び寄せもできない。
ジャマールさんは、仕事先などで日本人の友だちが沢山できた、という。日本でサッカーチームにも入った。両親もコミュニティーセンターの日本語の講座にせっせと通い、少しずつ言葉を覚え、交友関係を広げている。両親ともに、もうひらがなやカタカナは読めるようになった。妹は、地元の中学校にすっかりなじみ、すでに日本語は自在。英語のスピーチ大会では優秀な成績を取り、埼玉県代表に選ばれた、という。
気候も日本とシリアは似ており、イスラム教徒のためのハラール食はネットで入手できるので、今のところ日常生活に困ることはほとんどない。妹と2人で1室を分け合う今の住まいは、いささか手狭に見えるが、「一間に3人で暮らしていた時のことを思えば、問題ありません」とジャマールさん。
断ちがたい祖国への思い

それでも、ふるさとへの思いは断ちがたい。一家は、毎日、シリアの情報をスマートフォンなどでチェックしている。政府軍による銃撃の様子やそれによって殺された人たちの遺体の写真が日々更新されている。
母は、それを見るたびに涙が止まらない。
「私たちはここで恵まれた生活ができるけれど、シリアに残された人たちが毎日死んでいます。それを思うと、毎日涙が出ます」
今なお父親の両親や親戚などはシリアに残っており、その生活も心配だ。両親が、メディアに名前を出せないのは、家族や親戚が迫害を受けるきっかけになりはしないか、という不安が拭えないからだ。
難民認定で将来を考えられるように

父親が作ったケーキ
父親が作ったケーキ
そんな重い気持ちを抱えながらも、一家は前向きだ。両親は、早く日本語が上手になって、仕事に就きたい、と考えている。父親は、細かく細工した砂糖菓子を作るのが得意なので、その技術を生かせる仕事があれば、なおありがたい、と言う。ジャマールさんは、奨学金をもらえることになったので、2017年から都内の大学に通う予定。ただし、それまでに日本語能力試験2級に合格しなければならないため、子どもに英語を教えるアルバイトをしながら、猛勉強中だ。
画像
安定した在留資格が得られ、家族が揃ったことで、ジャマールさんは日本の中での人生設計を考え、将来を思い描くことができるようになった。
「シリアの状況は、5年や10年は収まらないだろう。大学卒業したら、ビジネスを起業したい。父の技術を生かしたファミリービジネスができれば」とジャマールさん。
母国のアラビア語に加え、英語が堪能、さらに日本語に磨きをかければ、ほかにもいろんな可能性が開けるだろう。今は支援を受ける立場だが、将来、仕事をして税金を納めるようになれば、日本社会に貢献することもできる。祖国が内戦状態となって以来、今を生き延びるだけで精一杯だった彼が、難民認定によって、長く忘れていた「未来」を考えられるようになった。
そんな彼の話を聞いていると、すべての財産をなげうって、身の危険から逃れて異国にたどり着いた人たちにとって、難民認定は未来を切り拓くためのパスポートなのだと、つくづく思う。ジャマールさん一家のように、社会に溶け込み、その中で懸命に生きようとしている人たちに、日本はもっと未来を提供できるのではないだろうか。


江川紹子
ジャーナリスト
神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20151021-00050693/

国際金融経済会合でのスティグリッツ教授のパワポ資料

2016-03-24 20:55:40 | 国際
 以下は国際金融経済会合第一階でスティグリッツ教授が提出したパワポ資料のないよう全て。訳は政府によるもので「仮訳」とされている。
最後に付されている数字はパワポの頁番号です。

「「大低迷と金融の安定を超え、 健全で持続的な成長に向けて」   ジョセフ・E・スティグリッツ 東京
                                            2016年3月  仮訳

I.


我々は今どこにいるか
• 緩慢な成長-大低迷(Great Malaise)、新たな凡庸(New Mediocre)
• 今のところまだ危機ではない。
• しかし、G7の多くの国々では(覆い隠されたケースも含め)恒常的に多く
の失業が発生している。若年層や社会の主流から取り残された層では更に
高率の失業が発生。
• この緩慢な成長の果実は一部のトップ層に偏って分配されている-格差は 拡大し、賃金の上昇は停滞。
• 「公式には」失業率が低いとされている国でさえ、雇用の質や覆い隠された失 業には疑問符。
• 世界経済危機前にも関わらず、2007年の世界経済は実際には弱かった。
• バブルによって支えられていただけだった。
• 経済危機前の2007年の世界を取り戻すということは、かつて我々が保持してい たものと同じ、弱い経済に戻ってしまうことを意味する。
• 入り交じる見通し-堅調な成長に戻る可能性は小さく、景気後退や 停滞の可能性は高い。
• 資産価格バブルの収縮への、もっともな懸念。
• 国家や企業が多額の債務を抱える中、新興国は巨額の資本流出に直面。
2


伸び悩む米国経済
• 仮に1980年から1998年までの経済成長が継続していたとし たら、今の米国のGDPは、現実のGDPよりも15%ほど高いも のとなっていたはずである。
• 女性の労働参加が急速に進んだ1980年代初頭と比較しても、 現在の生産年齢人口の就業率は低い。
• 中位の(家計)所得は、1989年と比較して1%の上昇すら達 成していない。
• 最下層の実質賃金は60年前よりも低い。
• 若年層のアフリカ系アメリカ人の失業率は未だに23.7%。
3


実質GDP
米国GDPのトレンド分析
●米国GDP(IMF 世界経済見通し) -1980-1998ベースのトレンド指数年(兆ドル、2009年米国ドルベース)
4


欧州はもっと悪い
• 失業率は更に高い。
• 特に若年層の失業が深刻。
• 経済成長も更に低い水準。
• ユーロ危機は終わっていない。一時的な「小康状態 (remission)」にあるだけ。
• 統一通貨が機能するために必要な制度が創設されていない。 そして、その制度が創設される見込みも当面ない。
• 欧州の現状と、仮に欧州が経済成長していたとしたら実 現していただろう姿との間にはギャップが存在。
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危機以来、欧州のパフォーマンスは悲惨なもの
実質GDP
ユーロ圏のGDPのトレンド分析
●ユーロ圏GDP(IMF 世界経済見通し) -1980-1998年ベースのトレンド指数(兆ユーロ、2010年ユーロベース)
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中国
• 世界金融危機以来、中国が世界経済の牽引役だった。 • 先進国は直接的、間接的に影響を受ける。
• 深刻な経済減速となる見込み。
• 欧州と米国では、中国経済の減速を埋め合わせることは できそうもない。
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大不況(the Great Recession)に
関する誤った診断
ただの金融危機ではない。
• 銀行のバランスシートは概ね再構築された。
• 規制改革もいくらか行われた(ドッド・フランク法)。 • しかし、経済は未だに健全な状態に戻っていない。
• クレジット・チャネルの改善に十分な注意が払われていな い。
• このことは、金融緩和が期待されたほどの効果を得られて いない理由の一つ。
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大不況(the Great Recession)に 関する誤った診断
ただのバランスシート不況ではない。
• 大企業のバランスシートは概ね再構築された。
• 企業が投資に積極的にならないのは、バランスシートや 資金調達の問題ではない。
• 需要が足りないことが問題なのだ。
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更なる懸念
• 永続的な世界の不均衡
• ユーロ圏が問題を悪化させている。
• 非対称な調整
• 所得の低下に直面する国家(企業、家計)は消費を減少させざ
るを得ない。
• 所得が増加した国家(企業、家計)はその分の支出を増加させ ていない。
• 原油価格の変動への対応では以下の点が特徴。
• 原油価格の下落は需要を増加させると期待されていたが、「敗 者」(losers)への悪影響がそれらの便益を上回っている。
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中心的課題の診断
• 世界的な総需要の不足。
• それと相まって、各国において、非貿易セクターへの支
援は不十分。
• 債務・金融化への過度の依存。
• さらに広くみれば、約30年前に市場経済のルールの転換 (税制の再設計、ずさんな自由化)のプロセスが多くの 先進国で始まった。これらは、当初の目論見に反して、 更なる経済成長率の低下、不安定化、不平等化を招いた。
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大低迷(Great malaise)は、驚くほどに進展を 見せない、より深刻な問題を覆い隠している
• 気候変動
• 格差、多数の貧困層
• 富の不平等、健康の不平等(医療を民間の提供に依存する国においては)、 裁判へのアクセスの不平等、と多岐に渡る。
• 先進国では中間層が縮小。途上国においても中間層が縮小。
• これらの問題は、社会の主流から取り残された層や(しばしば)若年層では
特に深刻。
• 持続的成長を実現するためには、徹底的な「構造変革」(structural
• 市場経済に根付く問題が、生産性の停滞をもたらしている。
• 民間部門・公的部門の両部門における短期的志向。
• 基礎研究への投資の不足。そして、多くの国ではインフラへの投資の不足。
• 過度の金融化。過度の金融化は以下の過程の一部でもあり、原因の一部でも ある。
• 富と資本の間のギャップの広がり。
• 多くの国で産出に対する富の割合が高まる一方、産出に対する資本の比率が低下。
• 教育システムの適合の失敗。
transformations)が求められる。
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II. これらの状況への対応
当然の手段に関する対立する見解:金融政策
• 金融政策は、概ねその役割を全うした。
• 深刻な停滞時において、金融政策が極めて有効だったことはこれま
でにない。唯一の効果的な手段は財政政策。
• 本当の問題は、ゼロ金利制約ではない。金利を少し下げること(例
えマイナスの領域に入ったとしても)は機能しない。
• マイナス金利の試みは、景気を大きくは刺激せず、悪い副作用をもたら す可能性も。
• 量的緩和政策は不平等を拡大した。しかし、(もしあったとして も)投資の大幅な増加にはつながらず、金融市場の不完全性あるい は不合理性により、リスクのミスプライシングやその他の金融市場 の歪みをもたらした可能性。
• 主な便益の一つは、競争的な通貨の切り下げである。しかし、それは、 ゼロ・サム・ゲーム。
• 適切な財政政策なしでは、「唯一の選択肢」問題は更に悪化する一途。
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当然の手段に関する対立する見解: 財政政策
• 財政政策が債務増大のリスクを高める懸念。
• 2008~2009年に実施した景気刺激策は効果がなかったという見方
は全くの間違い。
• 対策がなければ更に悪化していたであろう失業率の低下をもたら すことができ、更なる景気後退、不況に陥るのを防いだ。
• 危機時においては、支出を最適化する時間はなかった。-たとえ、 不完全な歳出であっても、大量の資源を活用せずにいることや不 況に比べれば望ましい。
• 債務への懸念は、バランスシート・アプローチへの問題のすり替 え。そこでは、政府は生産的な投資に対して支出することが前提 とされている。
• グローバリゼーションにより政策効果は損なわれている。-便益 は他国に流出し、費用は自国に発生。
• しかし、「優位」な解決策を提示するには、世界の協調関係は弱 すぎる。
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繁栄を取り戻すためには機能しない もの、不十分なもの
1. 金融政策
• 根本的な問題は、ゼロ金利制約ではない。
• 低金利は資本集約型テクノロジーを生み出し、「雇用なき」経 済回復につながる可能性。
2. 貿易協定
• 関税は既にかなりの低水準。
• G7諸国による、資本集約財を輸出する一方で労働集約財を輸入 するという「バランスの取れた」貿易取引の増加は、雇用を減
少させる。
3. 見当違いの供給サイドの施策
• 法人所得課税。
4. 更なる緊縮財政 これらの対策のなかには、逆効果となるものも存在。
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対処法: 緊急の問題-世界の総需要を取り戻す
1. (パリ協定を受け)炭素に高価格を設定することは、気候 変動に対応する世界経済への改革に向けた投資を促す。
2. 経常黒字の一部の再活用(例えば開発銀行の資本再構成、 新たな開発銀行の創設)は、インフラを含めた投資の必要 性を満たすもの。
• 民間部門は、仲介機能において非効率であることを自ら示し ている。
• 長期的な投資家と長期的な投資をつなぐものが、短期取引中 心の金融市場である。
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効果的な施策
3. 政府支出の増加。部分的に税で賄われたものでも経済を刺激する。
• 均衡予算乗数に関する原則:適切に設計された税と支出によって、乗数は
極めて高いものとなる。
• 国のバランスシートにおいては、負債のみではなく、資産・負債両面を見 ることが適切な会計フレームワーク。
• 教育、若者の健康への支出は投資であり、バランスシートの資産サイドを改善。
• インフラとテクノロジーへの投資も同様。
• 環境税や土地税は、持続可能な成長を実現する経済再構築に役立つ。
• 構造変革を推進し、平等性を高める政府支出も同様。
4. 平等性を高めるその他の施策は世界の総需要を増加させる。 • 経済ルールの大転換:市場で得る所得をもっと平等に。
• 所得移転と税制の改善。
• 賃金上昇と労働者保護を高める施策。
• いくつかの国では、組合や交渉を取り巻く法的枠組みを改善。
5. グローバルな基軸通貨制度を構築することで、需要を縮小させる外貨 準備の積み立ての必要性を減らすことができる。
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世界的な総需要の先に
• 特に世界的にサービス経済への移行が進む中、非貿易セ クターはますます重要に。
• 国内需要の低迷は供給を減らす。
• 国内需要は民間消費より大きい。
• 環境や人間、(知識ギャップを埋める)テクノロジー、イ ンフラ、住みよい街にするための投資も含まれる。
• これらの国内需要の大半は公的ファイナンスで調達され るべきもの。
• 健康や教育はその中でも重要なサービス部門。
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A. 緊縮財政をやめる
• 米国ですら、緩やかな形で緊縮になっている。
• 通常の景気拡大局面では200万人の公的セクターの雇用が生 まれるが、現在は逆に50万人減少している。
• 景気拡張的な財政緊縮や、債務が一定の閾値を超えると 経済成長が低下する、といった考えの正しさは否定され ている。
• もしそれらの考えが正しかったとしても、今のGDPと将 来のGDP、いずれも増加させるように税収と投資を歩調
を合わせて増加させていくということが均衡予算乗数の
教え。
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バランスの取れたアプローチが必要- 債務 対 税
• 債務や税収の水準、成長率の見通しにより、各国ごとに最適な 債務と税のバランスは異なる。
• 常にバランスシート視点を持つことが求められる。
• すべての国において、炭素税を含めた環境税(渋滞課金を含む 「課金」)の引き上げで、相当な歳入が得られ、経済のパ フォーマンスも改善するだろう。
• 金融取引税についても同様。
• ほとんどすべての国において、土地や(「弾力的に供給を増加 させることができない」)他の天然資源に対する税を引き上げ ることで、相当な歳入を増やし、成長率を上昇させるだろう (貯蓄の非生産的な用途への流入を減らすことができる)。
(次ページに続く)
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バランスの取れたアプローチが必要- 債務 対 税(続き)
• 法人税減税は投資拡大には寄与しない。なぜなら、大抵の投資 は借入が原資であり、支払利子は所得控除となるからだ(減税 はネットの資本コストを上昇させ、投資意欲を減退させる!)
• むしろ、国内での投資や雇用創出に積極的でない企業に対し て、法人税を引き上げる方が、投資拡大を促す。
• (炭素税・相続税など)いくつかの税金は、実際に現時点での 支出を促す効果がある。
• 均衡予算乗数は、増税と歩調を合わせた支出拡大が経済を刺激 することを示唆している。
適切に設計された税制は、格差・不安定・環境悪化といった主要 な問題に取り組む手段となる。
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緊縮策を超えて
予算ルール・フレームワークの再考
• 資本予算(Capital Budgeting)
• 資金調達コストが低く、投資リターンが高い時には、バラ
ンスシートの観点が特に重要である。
• 投資促進のための開発銀行(development banks)の活用
• 税と支出が適切に選択されれば、乗数の効果は極めて高い。
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B. 効果的に支出する:重要な長期の問題に 焦点を当てる-生産性の観点の欠落
テクノロジーやインフラに対する投資は、民間投資を補完する効
果を有するものであるが、最適な水準と比べると低く留まってい
る。
• 基礎研究に対する政府支援額(対GDP比)は、半世紀前より も低くなっている。
• 生産性向上につながる新たなイノベーションを推進するアイデ アの源が干上がっている。
必要なことは、インフラとテクノロジーへのより積極的な投資であ
る。
• インフラ・テクノロジーへの公共投資は民間投資と補完的であり、民間投 資を刺激する事につながる。
• 投資はインフラ銀行(infrastructure bank)からファイナンスすることがで きる。
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C. 効果的に支出する:重要な長期の問題に焦点を当てる- 構造変革(Structural Transformation)
• 世界的に、製造業の雇用が減少している。
• グローバリゼーションとともに、先進国では雇用に占める製造
業のシェアが低下していく。
• サービス産業にシフトする必要がある。
• いくつかの国では、サービス産業の生産性が向上している。
• そのような大規模な構造変革(structural transformation)が求
められているが、市場はそれ自体では必要とされている構造変
革を達成することが上手くできない。
• かつて行われた農業から製造業への移行がそれを証明している。
• サービス産業の中では、教育・健康に改善の余地がある。
• これらの部門では、政府が正当に重要な役割を担うものである。
• ただし、緊縮財政は、政府がその役割を果たすことを抑制してし まう。
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構造変革(Structural Transformation) に伴って発生する課題
• その新しい経済構造は、かつてほど資本集約的(capital-intensive)で はなくなるだろう。
• 従って、想定されるGDP成長率を達成するために必要となる投資は、より 小さなものだろう。
• 特に熟年労働者は、新しい経済構造に対して準備不足であろう。
• ベビーブーム世代の高齢化と合わせて、労働者のかなりの部分が高齢化し
ている。
• その世代の再活躍を促さないことによる社会的なコスト-つまり、その世 代の人的資本の陳腐化を単に受け入れること-は増大している。
• 今存在する取り決めが、高齢者と若者に関わる問題を生み出してい る。
• 国債を通じて手堅く運用している高齢者がわずかな所得しか得られないと いうことを、ゼロ金利の環境は意味する。
• 若者は家を買う余裕は無く、職を得るまで長期間待つ必要が多々あり、職 を得ても自らのスキル・才能を生かせず、そして多くの国では若者は多大 な債務を背負い込まされている。
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構造変革(Structural Transformation) 促進に向けた政策
• 農業から製造業への移行において、多くの国で政府が中 心的な役割を果たした。
• より積極的な労働市場政策を含め、政府は再び積極的な 役割を担うことが求められている。
• しかしながら、これらの政策は、再職業教育を受けた労 働者のための仕事が存在する場合に限って効果がある。
• 完全雇用を取り戻すための包括的なフレームワークが求め られる。
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D. 格差と戦う
• 単なる再分配の話ではない。
• 事前分配: 市場で得ることのできる所得のより公正な分 配を確実なものとするための経済ルールの大転換。
• 市場は真空の中に存在するものではない:市場の構築方法 により、市場の機能・効果・分配が決まる。
• 家賃の上昇は、所得に対する生産的な資本の比率が減少し ているにも関わらず、所得に対する富の比率が上昇してい るという異常さを物語っている。
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格差と戦う
• これらの理論は、労働生産性と実質賃金における著しい不均衡を 示している。
• この不均衡は、スキル偏重型の技術進歩や貯蓄率の差異といった標準 的な理論では説明できない。
• 格差縮小は、短期的にも、長期的にも、経済パフォーマンスを改 善する。
ジョセフ・E・スティグリッツ(桐谷知未訳)『スティグリッツ教授 のこれから始まる「新しい世界経済」の教科書』(徳間書店、2016 年)(原著:Stiglitz, J. E., N. Abernathy, A. Hersh, S. Holmberg, and M. Konczal (2015). Rewriting the Rules of the American Economy, New York: W.W. Norton, 2015.)を参照。
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III. 構造改革(Structural Reforms) 基本的な原則
• 適切な需要なしには、サプライサイドの改革は、失業を増 加させるだけで、経済成長には寄与しない。
• 低生産性部門からゼロ生産性、つまり、人々を失業に追いや るものである。
• 供給は、それ自体の需要を作り出さない。
• 実際に、サプライサイドの改革は需要を弱め、GDPを低下させ
得る。
• しかし、適切に設計された需要刺激策は、供給/生産性を増加 させ、現在および潜在的なGDP成長率を引き上げることができ る。
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機能するサプライサイドの施策
「需要」と一体となってこそ、機能することが多い。 • テクノロジーへの投資拡大
• 革新的経済(innovation economy)と学習社会(learning society)を作り出 す上で、とりわけ重要。
• 人間への投資の拡大-より健康でより生産性の高い労働力を創出する。 • 経済を再構築し、古い産業から新しい産業への移行に役立つ産業政策
• 市場だけでは、これらの変革は作り出せない。
• 競争政策-経済的な権力が合従することを防ぐ
• 独占は産出を阻害する。
• 金融市場改革
• 金融機関が他に害を及ぼすことを防ぐだけでは不十分。
• とりわけ中小企業のために期待される役割を果たし、金融を仲介し、民間 資金を提供するように金融機関に促すことが求められる。
• 債務よりも資本性の資金を促すことが求められる。
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機能するサプライサイドの施策
• 労働参加を促進する施策 • 有効な公共交通システム • 育児休暇、有給病気休暇 • 子育て支援
• 被差別層・社会の主流から取り残された層の包摂 • 女性
• 少数派・マイノリティー • 移民
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機能するサプライサイドの施策
• 効果的でない(または逆効果な)サプライサイドの施策が 多く存在する。
• 法人所得税率の引下げ。
• 例外として、投資をして雇用を創出させる企業には減税し、投資
や雇用創出に消極的な企業には増税する施策。 • 金融市場の規制緩和。
• 投資の減少、投機の拡大、市場の不安定化につながる。
• 貿易政策においてサプライサイドの効果は期待されてこなかっ
た。
• 効果は常に過大評価される。
• 米国にとってTPPの効果はほぼゼロと推計される。
• TPPは悪い貿易協定であるというコンセンサスが広がりつつあり、 米国議会で批准されないであろう
• 特に投資条項が好ましくない-新しい差別をもたらし、より強い成長や 環境保護等のための経済規制手段を制限する
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他の逆効果なサプライサイド施策
• 後ろ向きなサプライサイド改革も機能しない。
• 米国における住宅の過剰供給(ネバダ砂漠の空き家)の削減
は、米国経済の回復に寄与していない。
• 韓国の経済危機(1998年)における半導体チップの過剰生産 能力の破壊は、同国経済の回復を遅らせた。
• オプションを持つことの価値は無視される。
• 競争相手を減らすことを望む向きがよく持ち出す議論。
• 「国の代表的企業」(“national champions”) という言葉は、 実のところは寡占事業者を意味するもの。
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サプライサイド施策の失敗
• 1980年代初頭の米国(および他国)におけるサプライサ イド施策の失敗。
• 税収増加の約束は果たされなかった-実際には減収。
• 成長率を高める約束は果たされなかった-実際には低下。
• 貯蓄率低下。
• より最近の2000年代初頭における減税でも同じ結果がみられた。
• 労働参加率低下。
• サプライサイド施策の正当化よりも、サプライサイド施策 による格差への影響の懸念は最高潮に達している。
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IV. 金融セクターと金融混乱
• 金融の混乱は、金融市場の不透明感を反映。
• 金融の混乱は、金融市場の近視眼的な性質を反映-金融市場は常 にとても気まぐれ。
• 金融の混乱は、世界経済の先行きに関する深刻な不確実性を反映。
• 金融の混乱は、いくつかの国における金融政策調整の失敗に関連 しており、結果として為替レートの不確実性や不安定な資本フ ローの大きな動きが生じている。
• 資本市場、金融市場の自由化がこれらを促進。
• 金融の混乱の多くは、金融セクターにおける根本的な問題への取
組の失敗を反映したもの。
• このような金融の混乱が実体経済に波及する可能性が高いことが 問題である。
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金融セクターを改革する
• 金融セクターからの害を防ぎ、以下も阻止する。 • 過度なリスクテイク
• 市場操作、略奪的貸付など
• 市場における支配的地位の乱用
• 金融セクターが低い取引コストで社会的役割を担えるようにする。 • 中小企業金融や住宅金融の供給
• 年金口座の管理や決済システムの運用を低い取引コストで実施
今までのところ、両方のタスクに失敗。 より広くより深い改革と、与信を提供する公的手段の拡大が必要。
• 学資ローン
• 住宅ローンに関する公的オプション • 年金勘定に関する公的オプション
36


V. 世界規模の改革
• 新しい世界基軸通貨制度の必要性
• 現在のシステムは過去の遺物。
• 経常黒字を追求するバイアスにつながっている。
• 準備通貨国の脆弱性。
• ケインズや最近の国連委員会が提唱しているように、世界 基軸通貨制度はより強固な世界の安定につながるもの。
37


世界規模の改革
• 世界の不均衡を縮小させる世界的な協調が求められている。
• 中国の経常黒字は減少過程にある。
• しかし、ユーロ圏の経常黒字は増加している、 • ユーロ圏において大きな改革が必要となる。
• 世界的なマクロ経済(金融および財政)政策協調が求められてい る。
• 世界金融危機後に起きうることが期待された。
• しかし、未だに実現していない-むしろ、政策の不調和は拡大して
いる。
• 経常黒字を活用するより良い手段が求められている。
• 新しい開発銀行は正しい方向。
• ただし、ガバナンス改革と開発銀行間の資本再構成の必要性が存在。
38


開発に向けて資金を提供する
開発に向けた資金の提供は、経常黒字の活用、世界需要の増加、開
発の促進というメリットを同時に実現するものであるが、3つの障
害がある。
• 債務の市場:債務再構成に関する国際的なフレームワークがない。
• 国連における重要な発議があり、大多数の国が支持。
• しかし、米国と幾つかのヨーロッパ諸国が「法の支配」(rule of law)に反対。
• 海外直接投資:投資協定が協定国の規制能力を損なう。
• 多国籍企業への課税:国際的な税体系が税収の拡大を困難にして
いる。
• 「底辺への競争」(Race to the bottom)
• G20におけるBEPS(税制浸食と利益移転)合意では、重要課題 への取組が不十分。
• 国際的な税体系のより抜本的な改革が求められる。
39


気候変動へのアクション
• 気候変動への対策として行う投資は、世界経済にとって必要な刺 激策となるだろう。
• 環境と経済成長は補完的な関係にある。
• とりわけ経済成長を正確に捉えた場合に。
• 炭素に価格を設定することにより、投資が喚起される。
• 国連気候変動パリ会議は、この気運を醸成するという観点から重 要だった。経済界は、どのような形になるにせよ、やがては炭素 に価格が設定されることを理解したはずである。
• 鍵となる投資(インフラ、住宅、建築、発電所)は長期的な投資。
40


VI. 世界的な意思決定プロセスの改革
• 世界的な経済統合は、世界的な政治統合よりも速く進んできた。
• 国を越えた波及効果がある場合にはいつも、外部性には集団的な対処 が求められる。
• しかし、世界的な対応を行うに当たっての優れた枠組みは現時点では 存在しない。
• 世界的な経済政策は、あまりに頻繁に権力や特定の利害に左右される。 • 世界規模の協力や調和が求められる分野に必ずしも焦点が当てられていない。
• 知的所有権ルールの過剰な調和。
• 国内で説明責任を十分に果たさないような特定の利害を反映したルールの調和は、
世界的に民主的なプロセスから生まれる調和とは異なるものである。
• 各国政府が民主的なやり方で必要な規制を実施しようとした際に、新たな貿易取 り決めがその能力を損なうことが特に懸念される。
• 焦点を当てられるべきは、下方への調和であり、最も恵まれない立場にある 者との共通の基盤への調和である。
41


世界的な意思決定プロセスの改革
• どのように代表性を高めるか。
• 小国、貧困国の代表性は低い。
• 世界経済に占めるウェイトは小さいとしても、それらの国々は重 要な存在である。
• どのように正当性を増すか。
• 国連は、世界的な正当性を有する国際的な機関である。
• IMFもその権限内において、同様に、更に大きな正当性を有する。
• 「特定の会員」(”club”)が全員のための意思決定を行う危険。 • 他の組織の信頼性を損なう。
• 代替策: 世界経済調整委員会(Global Economic Coordinating Council)の創設
• 国連、IMFの下で運営
42


世界的な意思決定を再考する
• 可変形状(Variable Geometry)
• 多くの問題で、全会一致に近づくことは困難であると認識するこ
と。
• 「有志連合」(“Coalition of willing”)-例えば、気候変動
• 国境を越えた課税により、他国の協力を促す。
• 新しい世界基軸通貨制度は、恐らく全ての国の合意を得ることは
難しい。
• この場合も有志連合が有効。-参加による利益が存在するため、 他の国もやがて参加する。
• 外部性が最も有効な場面を注意深く検討する。
• 共同でリスク分散を行う仕組みが存在しない限り、高水準の貯蓄
を行う国が生まれ、世界的な総需要を縮小させる。
• 資本集積に有利に働く世界的なルールは、格差を拡大させ、世界 的な総需要の拡大には逆効果。
• 世界的な不安定性は格差を生み出し、高水準の貯蓄につながるも の。そして、それらは、世界的な総需要の欠乏の要因となる。
43


VII. 遠近法で今の世界を見る
• 30年ほど前、多くの先進国では、税率の引き下げや規制緩和といっ
た実験を始めた。
• 変化する経済環境に対応し、経済の枠組みを調整する必要があった。
• しかし、誤った調整がなされてきた。
• 結果として、経済成長は鈍化し、格差が拡大。
• 今となって漸く、それらの結果が全て目に見えるものとなったが、 過去からずっと進行してきた結果なのである。
• 現在の方向性が維持されると、状況は更に悪化するだろう。
• 未だ語られていない政治的な帰結もある。そのうちの幾つかは分かり始め
ている。
• これらの実験は、大きな失敗であったと今や言うことができる。大 きな失敗であったと言うべきである。
• 新たな方向性が求められる。
• 現在の取り決めの微調整では上手くいかないだろう。
44


この失敗した実験の断片
• 金融政策への新たなアプローチ
• 経済成長、雇用、経済安定化といったバランスのある視点
よりも、インフレの安定化に焦点。 • 財政政策への新たなアプローチ
• 欧州では、財政赤字に対して厳重な制約。 • 民営化の新たな流れ
• 社会保障分野にまで民営化の流れが及ぶ国も存在。 これらの政策は、期待するほどの成果を上げていない。
45


世界の制度設計に関する実験も 失敗している
• 40年前から、資本移動の自由化が試みられてきた。
• それにより、経済が安定化した時代が訪れると期待されて
いた。
• 政府よりも市場メカニズムの方が効果的とされていた。
• こうした実験の結果、逆に、世界的な不安定化の時代に 突入した。
• 特に、短期的な資本移動に関連して不安定性が発生。
• 現在では、IMFでさえ資本移動の制限(資本勘定の管 理)が必要と主張。
46


この道しかない
• 政府と市場のバランスを取り戻す。
• 政府・民間とは異なる「第三のセクター」(“third sector”)や、新た
な制度枠組みの重要性を認識する。
• 緊縮財政をやめる。
• 世界的な基本的ニーズ、世界的な公共財、世界的な外部性に対して、 世界的に対処する。
• 気候変動を超えて、世界的な科学基盤を含めるべきである。
• 底辺への競争を行うのではなく、世界的に生産性向上に務めるべきである。
• 世界中・全ての人間の生活水準を引き上げる施策に全てを捧げる。
• 進歩に関する指標の世界的な再評価を行う。
• 評価基準が行動にも影響する。
• 「経済パフォーマンスと社会の進歩の測定に関する委員会」(※)におけ
るメインメッセージ。
• その検討はOECDにおいて継続されている。
(※)スティグリッツ教授が中心となって、フランスのサルコジ大統領の イニシアティブの下で、社会の幸福度を測定しようとした取組。
47


世界経済:この道を進もう
• 「新たな凡庸」(The New Mediocre)、 「大低迷」(the Great Malaise)、「長期停滞」(Secular Stagnation)は避けられないも のではない。
• これらは、政策の失敗による帰結。
• 統合が進展する中、前進するための最善の方法は、バランスを取
り戻し、総需要を増加させるために国際的な協調を行うことだ。
• 例えば、世界公共財の供給-研究、地球温暖化対策-に向けた国 際協調。
• この国際協調はとりわけ困難である。
• G7において、日本がリーダーシップを発揮することが、前に進む
ための一歩となるだろう。
• しかし、そういった国際協力が不十分な状況下にあってさえ、需 要の強化や生産性の向上のために各国が単独で行うことのできる ことは多く存在する。
• それは、大きな好影響を他の国に対しても与えるのだ。
48」

スティグリッツ教授の提言

2016-03-24 18:17:32 | 国際
 先の国際金融経済分析会合におけるスティグリッツ教授の報告は、ただ消費税に否定的な部分のみが取り上げられ報道されていたが、その内容はより広範な世界経済全体の分析に基づいており、アベノミクスそのものにも批判的である。

 次を参照していただきたい。政府のHPに乗せられた教授提出のパワポ資料の翻訳である。

 ⇒ https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusaikinyu/dai1/siryou2.pdf

 ちなみに先進国経済の問題点の指摘は以下の通り。

「大低迷(Great malaise)は、驚くほどに進展を 見せない、より深刻な問題を覆い隠している
• 気候変動
• 格差、多数の貧困層
• 富の不平等、健康の不平等(医療を民間の提供に依存する国においては)、 裁判へのアクセスの不平等、と多岐に渡る。
• 先進国では中間層が縮小。途上国においても中間層が縮小。
• これらの問題は、社会の主流から取り残された層や(しばしば)若年層では
特に深刻。
• 持続的成長を実現するためには、徹底的な「構造変革」(structural
• 市場経済に根付く問題が、生産性の停滞をもたらしている。
• 民間部門・公的部門の両部門における短期的志向。
• 基礎研究への投資の不足。そして、多くの国ではインフラへの投資の不足。
• 過度の金融化。過度の金融化は以下の過程の一部でもあり、原因の一部でも ある。
• 富と資本の間のギャップの広がり。
• 多くの国で産出に対する富の割合が高まる一方、産出に対する資本の比率が低下。
• 教育システムの適合の失敗。」

 また実施すべき政策の一部としてサプライサイドについて以下のように述べている。80-90年代のサプライサイド計画は失敗だとしている。

「機能するサプライサイドの施策
「需要」と一体となってこそ、機能することが多い。 • テクノロジーへの投資拡大
• 革新的経済(innovation economy)と学習社会(learning society)を作り出 す上で、とりわけ重要。
• 人間への投資の拡大-より健康でより生産性の高い労働力を創出する。 • 経済を再構築し、古い産業から新しい産業への移行に役立つ産業政策
• 市場だけでは、これらの変革は作り出せない。
• 競争政策-経済的な権力が合従することを防ぐ
• 独占は産出を阻害する。
• 金融市場改革
• 金融機関が他に害を及ぼすことを防ぐだけでは不十分。
• とりわけ中小企業のために期待される役割を果たし、金融を仲介し、民間 資金を提供するように金融機関に促すことが求められる。
• 債務よりも資本性の資金を促すことが求められる。

機能するサプライサイドの施策
• 労働参加を促進する施策 • 有効な公共交通システム • 育児休暇、有給病気休暇 • 子育て支援
• 被差別層・社会の主流から取り残された層の包摂 • 女性
• 少数派・マイノリティー • 移民


機能するサプライサイドの施策
• 効果的でない(または逆効果な)サプライサイドの施策が 多く存在する。
• 法人所得税率の引下げ。
• 例外として、投資をして雇用を創出させる企業には減税し、投資
や雇用創出に消極的な企業には増税する施策。 • 金融市場の規制緩和。
• 投資の減少、投機の拡大、市場の不安定化につながる。
• 貿易政策においてサプライサイドの効果は期待されてこなかっ
た。
• 効果は常に過大評価される。
• 米国にとってTPPの効果はほぼゼロと推計される。
• TPPは悪い貿易協定であるというコンセンサスが広がりつつあり、 米国議会で批准されないであろう
• 特に投資条項が好ましくない-新しい差別をもたらし、より強い成長や 環境保護等のための経済規制手段を制限する


他の逆効果なサプライサイド施策
• 後ろ向きなサプライサイド改革も機能しない。
• 米国における住宅の過剰供給(ネバダ砂漠の空き家)の削減
は、米国経済の回復に寄与していない。
• 韓国の経済危機(1998年)における半導体チップの過剰生産 能力の破壊は、同国経済の回復を遅らせた。
• オプションを持つことの価値は無視される。
• 競争相手を減らすことを望む向きがよく持ち出す議論。
• 「国の代表的企業」(“national champions”) という言葉は、 実のところは寡占事業者を意味するもの。


サプライサイド施策の失敗
• 1980年代初頭の米国(および他国)におけるサプライサ イド施策の失敗。
• 税収増加の約束は果たされなかった-実際には減収。
• 成長率を高める約束は果たされなかった-実際には低下。
• 貯蓄率低下。
• より最近の2000年代初頭における減税でも同じ結果がみられた。
• 労働参加率低下。
• サプライサイド施策の正当化よりも、サプライサイド施策 による格差への影響の懸念は最高潮に達している。」

シリアのロシア軍を縮小する狙い/ロシアNOWより

2016-03-17 15:10:55 | 国際
「シリアのロシア軍を縮小する狙い

2016年3月17日 ウラジーミル・ミヘエフ

 シリアにおけるロシアの軍事活動を縮小化して焦点を定め直すという、最高司令官としてのウラジーミル・プーチン大統領による命令の背後にある真の理由をめぐる論議の結論は、おそらく将来の歴史家に委ねられることになるだろう。 それはまるで、地政学的な性質の謎がパズルという形で提示されたかのようだ。

シリアに残留するロシア部隊は?

 表向きは、それなりに説得力があるように見受けられる。 ロシアのプーチン大統領は、軍の主要部隊を撤退させるのは、軍が「大方その目的を達成した」ほか、外交面において、内戦に終止符を打つためのシリア国内の対話開始が設定されたからであると発表した。

 モスクワは、シリア全体を取り巻く劇的状況の関係者全員を包含する、すなわち、シリアのクルド人が同国の将来に関する交渉に参加することを認める、というアイデアを推進した。 「(交渉に) シリア国内のあらゆる範囲の政治勢力が包含されるべきであることは明白である。そうでなければ、これは全関係者を代表するフォーラムであるとは言えないだろう」とラブロフ外相は述べた。

 シリアのクルド人は、アサド大統領に忠誠を誓うアラウィー派やスンニ派と同様に、内戦の形勢が自分たちに有利になるように情勢を逆転させたロシアに対し、ある程度は感謝しているはずだ。 これは、内戦に決着がついていない状況下で突然180度の方向転換がなされた主な理由といえよう。



有利な状況を地固めして利益を確実に

 モスクワに隠された動機があるとしたら、それはどのようなものだろうか。 トルコやサウジアラビアによる地上軍投入の警告が現実化した場合に、両国の軍と近接遭遇することを恐れた、という可能性はあるだろうか。


ロシア軍がシリアからの撤退開始
 それとも、シリアの内戦における軍事的および外交的な関与を通じて得られた最有力の利益を確実にするという、慎重に計算された戦略であろうか。

 その論理は次のように説明することができる。ロシアは、米国と共に現在の休戦状態の保証人として、必ずしも敵対的ではないダマスカスの新たな政権と、大方はモスクワの戦略的利益に対して一定の理解を示すシリアのクルディスタンという形に近く「連邦化」されるであろうシリアの分割を監督しようというものだ。



識者の見方

 アラブ地域の政治を専門とする国立ロシア人文大学のグリゴリー・コサーチ教授 に、この2つの仮定について解説してもらった。

 「私は2つ目の方により実体があると思います。 モスクワは、巨大な2つの領土を支配することになる各権力に対し、自国が持つ影響力を維持できると考えているかもしれません。 その1つはダマスカスからアレッポの間の地中海沿岸をつなぐ地域、そしてもう1つは主にクルド人が住んでいる北部を包含する地域です。 これが『賞金ファンド』となり、それでおそらく十分でしょう」

 それはロシアで禁止されているイスラム国(IS)やその他のテロ組織に大打撃を与えるという当初の目標にどう関係するのだろうか?

 「ロシア軍の関与により、イスラム過激派がシリアの領土の大部分を奪い取ることを防止したと主張することができます」とコサーチ教授は反論した。

 ロシアが世界のこの特別な地域に和平の仲介役および紛争調停者として戻ってくることを暗示しているとすれば、モスクワは独自の目標を達成したことになろう。 モスクワは、自ら何度も繰り返し主張してきた内容を実証して見せた。それは、比較的ロシアの国境に近い地域的紛争においては、ロシアは敵対する当事者に対し影響力を行使し、問題解決に向けた土台を築くことができるということだ。



「退却」なのか、それとも「撤退」か?

 シリアの内戦における当事者間の敵対関係が依然として収まっていない中でロシアが軍事的関与を縮小化することは、ロシアが失敗したことの黙認に他ならない、と懐疑論者が解釈する可能性がある。あれは退却を意味する、と。

 ロシアの外交の支持者の間では、これは並行展開した戦略 (アサド政権の軍事力強化と、穏健派の敵対者を外交的手段により関与させること) が功を奏したことの証明とみなされる。


シリアに残留するロシア部隊は?
 後者すなわち懐疑論者にとっては、これは撤退という位置付けとなる。 「退却」が臆病な逃亡を強いられることを暗示するのであれば、それは通常なされる区分にうまく適合する。 逆に「撤退」は、長期的な目的に従った計画的な行動となる。 よく耳にする「これは退却しているのではなく、戦略的撤退 (「転進」) なのだ!」という言い回しと同じである。

 そのタイミングについてだが、それは、株価が下がっている時に買い取り、株価が上昇したら売りに出るという、日常的によく利用されるものの巧妙なやり口に似ている。」

http://jp.rbth.com/opinion/2016/03/17/576397

ロシアがシリアに軍事介入した四つの理由 ―政治評論家カラガノフの分析―/メムリより引用

2016-03-09 15:23:15 | 国際
「ロシアの週刊誌The New Timesは、2016年2月15日付誌面で、政治評論家カルガノフ(Sergey Karaganov)のインタビューを掲載した。本人は、モスクワの国立研究大学高等経済学部々長である。インタビューはロシアの外交政策とロシアから見た中東情勢の現状をテーマとするが、そのなかでカルガノフは、ロシアがシリアに軍事介入した四つの理由を指摘し、更にロシア・トルコ間の緊張に関しても触れた。以下そのインタビュー内容である※1。


写真① セルゲイ・カルガノフ(Image: Newtimes.ru, February 15, 2016)

スンニ派シーア派何れが勝っても破滅、どちらに勝たせても行けない

(問)シリアにおける軍事作戦は、ウクライナ絡みという意見が広く流布している。つまり、(ウクライナにおけるロシアの活動)から西側の目を引き離し、テロリズムと戦うためシリアに軍事介入をおこなった点を強調して、国際社会での孤立を避ける。これが軍事介入の背景とする意見がある。これをどう考えるか。

(答)ロシアは、随分前からシリアに対する軍事介入を意図し、準備してきた。作戦自体入念に準備したうえで、発動されたのである。いきなり軍事介入が始まって驚いたと言う人は、知識不足の馬鹿か或いは嘘つきのどちらかである。国は、軍事専門家、戦闘機材を輸送し、航空基地と連絡道路を修理、整備し軍事要員の受入れ施設を建てるなど、兵站を事前に設定したのである。ラタキアの基地整備は、航空機の第1陣到着より1年前に着手されている。我々のシリア介入に関しては、いくつかの理由がある。

第1. 我々は随分前から、中東が惨憺たる状況になることを予想していた。大半の中東諸国は、歴史の古いイランと特異なステータスを持つイスラエルを除き、今後20ないし30年の間に崩壊するだろう。そこで我々が考えるべきは、どのようにして崩壊するかである。我々がいなくても崩壊するのか。数千数万のテロリスト候補者が存在することを計算に入れると、介入してネジを締めたりゆるめたりした方がよいのか、彼等が互いに殺しあって、何倍も惨状が拡大してロシア国境に近づく前に、我々が始末した方がいいのか。そのような考慮があった。

第2. ロシアは、中東に或る種のバランスが必要であることに気付いた。バランスがないと大爆発になるという認識である。まずシリアでスンニ派が勝ってもシーア派が勝っても同じで大惨事となる。それがほかの中東地域へ波及していく。どちらに勝たせてもいけない。

第3. 勿論〝姿勢〟の問題もある。我々は大国でありたい。未熟な国家主義の願望、ピヨトル大帝※2とエカテリナ女帝※3から受け継いだ現実離れの思想、と呼ぶ人がいるかも知れないが。

第4. シリア(に対する)介入がウクライナから目を転じさせ、我々と西側との関係が別の次元へ移る。私もその通りであると思う。そして、このゴールは完全に達成されたのである。

我々は、新しいトルコ帝国やペルシア帝国の出現を望まない。カリフ領の建設も不可

(問)ウクライナ問題が注目されなくなったというが、注視の転換は完全に果たされたのか、ミンスク協定の履行は※4、進んでいるのか。

(答)ミンスク協定は、関与者全員―アメリカ及びヨーロッパ諸国を含めて―が履行の時が来たと決めて初めて、履行されるのである…話をシリア問題に戻すと、この戦争は、軍事上外交上はっきり成功した場合でも勝利がない。我々はいつでもシリアを出る用意をしておかなければならない。国民も前以てそのシナリオに備えておく必要がある。その過程で別の紛争にまきこまれないようにしなければならない。そこが肝腎である。その意味で私は対トルコ紛争を強く懸念している。トルコは、我々を背後から刺した。何故トルコはロシア機を撃墜したのであろうか。答の一部は、この地域の政治文化の妙な特異性にある。我々がここに関して抱いていた先入観の多くは、間違っていた。自分の発した言葉に責任を持つという点など、前提のひとつであるが。しかし我々の対応は感情的で、余り理性的ではなかった。その結果のひとつとして、第二次クリミア戦争※5の恐れも、でてきた。

(問)トルコには何を望むのか。

(答)何を望まないのかを指摘する方が容易である。我々はこの地域で行動するようになったが、関与当初から、我々は新しいトルコ帝国やペルシア帝国の出現を望んでいなかった。カリフ領の建設も御免である。

(問)では、我々はイラン、トルコ双方の野望を抑えつつあるということか。

(答)それはあなたの表現だ。私が言いたいことは、今言った通りである…。今日のトルコは、19世紀後半から20世紀初めにかけてのロシアに、よく似ている(ちなみに、同じ理由から彼等は偉大な文学を持っている。我々の偉大な文学はなくなったが)。突如として彼等は トルコ帝国の回復を決めた。5-10年前からこれを口にしている。あちこちに広がる一種の流行であった。4年前彼等がアラブの春を支持したのも、そこに理由がある。

※1 2016年2月15日付 Newtimes.ru

※2 ピヨトル大帝は17世紀後半に即位したロシア皇帝。ロシアを農業社会から帝国へ発展させ、18世紀になってヨーロッパ列強に対抗したことで知られる。

※3 エカテリナ女帝は、1762年から1796年まで統治し、ロシア帝国領を黒海そして中部ヨーロッパへ拡大した。

※4 ミンスク協定の履行のための対応パッケージ。ウクライナのドンバス地方における戦闘軽減を目的とする。

※5 クリミア戦争(1853年10月―1856年2月)は、ロシア対トルコの戦争に、イギリスとフランスがトルコ側に加担し、サルディニア軍が支援し、クリミア半島を主戦場として、戦った。この戦争は、中東を支配する列強間の紛争に由来する。」

http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP633516

原油価格予想、2016年末までに1バレル60ドルに/SUPUTONIK

2016-03-05 15:56:00 | 国際
「ロシアのファイナンシャルグループBKSのアナリスト、キリル・タチェンニコフ氏は、そろそろ原油価格の上昇を当てにしてもいい頃だとの見解をあらわした。タチェンニコフ氏は今年末までにブレント原油は1バレル60ドルに達するとの予測を出している。

「我々は米シェールオイルのメーカーの今年のオペレーション計画の分析を行なった。パブリック・カンパニーの発表した2016年の採掘計画を見、その差異の中間値を考慮した結果、米石油大手13社の平均日量は、我々の試算では27万5千バレル減となった。」タチェンニコフ氏はBKSの概観でこう書いている。
タチェンニコフ氏によれば、他の米石油メーカーの計画採掘量はさらにこれより低く、2016年末までには日量50万バレル以上も削減される。」」

http://jp.sputniknews.com/business/20160304/1720846.html

コラム:通貨安競争、伊勢志摩合意で終止符を=河野龍太郎氏

2016-03-01 19:38:15 | 国際
「[東京 1日] - 年明け以降、国際金融市場の激しい動揺が続いている。事の本質は、中国をはじめとする新興国や資源国において、大規模な過剰設備と過剰債務が生じていることにあるが、現在の国際環境下では、その解消の道筋が見えないのである。

新興国や資源国の減速を補うべく成長の加速を期待し得る主体は今やどこにも見当たらない。むしろ先進国の一部は、通貨高を通じ新興国の過剰の調整負担が自らに降りかかるのを避けるべく、一段と極端な金融緩和に踏み出している。

しかし、調整負担が一部に集中すれば、市場はそれらの国々の金融システムや為替制度の健全性、持続性に疑いを強め、国際金融市場の動揺も収まらない。国際金融市場の安定化、ひいては世界経済のソフトランディングには、国際的な政策協調が不可欠だ。それでは、国際協調はどうあるべきか。それが今回のテーマである。

<世界経済史に残る「安倍合意」のチャンス>

2月26―27日に中国・上海で開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、実際に政策の国際協調が議論された。通貨安競争の回避や財政出動などが謳われたが、G20は参加国があまりに多く、そもそも実質的な拘束力のある合意は期待しにくい。

例えば、マイナス金利政策は通貨安政策とは各国から見なされておらず、デフレ脱却のツールとして諸外国から理解を得られていると日銀は主張している。同様に欧州中央銀行(ECB)も3月の追加緩和を難しくするような声明文には反対。中国も自国の問題を世界経済低迷の元凶と扱うような議論を端から受けつけなかった。各国の金融当局者や財政当局者は、対外的な要因から自国政策に足かせをはめられるのを極度に嫌う。G20の声明文は、抽象的な一般論にとどまった。

では、どうすればよいのか。有効な国際協調合意が成立するチャンスは、今年5月に日本の伊勢志摩での開催が予定されている主要7カ国(G7)サミットとなろう。ここで安倍晋三首相が、事前に中国政府を取り込み、議長国として以下の合意を目指すべきだ。合意が実現すれば、「伊勢志摩合意(安倍合意)」として世界経済史に残る功績となり得る。

具体的には、まず、世界的なディスインフレ環境の下、米連邦準備理事会(FRB)が、国内のインフレが高まらない限り、利上げを中断する方針を明確にすることである。国内均衡を目指し米国が利上げを継続する構えを見せれば、バブル崩壊によってドルベースの過剰債務を抱える新興国、資源国の調整は困難を極め、同時にドル高進展が人民元問題を深刻化させる。

FRBの利上げ中断は、当面の国際金融市場の安定には不可欠な要素だろう。国際金融市場の混乱を受け、米国のクレジットスプレッドも拡大傾向にあり、自国にも悪影響を及ぼし始めている。

一方、日銀とECBは追加緩和を自制し、ある程度の通貨高を甘受する必要がある。資源輸入国である日本経済や欧州経済は、コモディティー価格下落の最大の受益者であり、両経済の経常収支黒字は大幅に増加している。日欧経済が、執拗(しつよう)に通貨高を拒み続けることが、世界経済に与えるストレスは小さくない。

また、経済に依然、大きな負の需給ギャップを抱えるユーロ圏はまだしも、日本経済は14年の年初以降、完全雇用にあり、人手不足に悩む状況にある。国内均衡の観点からも、ある程度の通貨高を拒否する理由は乏しい。2%インフレの早期実現が遠のくという懸念はあるが、日銀の追加緩和が中国当局を人民元の大幅切り下げに追い込み、世界経済が大混乱に陥れば、2%インフレどころか再びデフレに舞い戻ることにもなりかねない。

もちろん、為替市場には行き過ぎが付き物であり、行き過ぎに対しては協調で行動を取る用意があることを示しておく必要はあるだろう。中国は、こうした日米欧からの一定のサポートを得た上で、対ドルでの人民元の大幅切り下げを回避し、資本規制の強化も辞さない覚悟を示すことが不可欠である。改革とは逆行するが、大幅な人民元の切り下げを回避しつつ、通貨高の痛みを和らげるため、緩やかな切り下げを可能にする資本規制が必要となる。

一方、財政政策については、あくまで信認に足る長期的な財政再建の道筋を立てた上で、当面の景気減速を和らげるため、財政に比較的余裕のある国から、ある程度の景気刺激策を講じることも必要となるだろう。単なる一時しのぎで追加財政を発動すると、各国の既得権益層と結びつき、国際金融市場の混乱を大義名分に、大盤振る舞いの財政が繰り返されるだけに終わる。

17年4月に予定されている日本の消費増税については、予定通り実施し、景気に大きな落ち込みが予想される場合には、それを相殺すべく追加財政を検討すべきである。消費増税の先送りで大幅な日本国債の格下げとなれば、国債金利が上昇しなくても民間部門の資金調達に悪影響が及ぶ。

リーマンショック後、新興国バブル、資源バブルを作ることで世界経済は回復してきたが、今やバブルは全面崩壊した。国際協調は、要するに、バブル処理の国際的な負担の分かち合いであり、政治的な国際合意は当然にして容易ではない。しかし、世界経済にはすでに大きな構造的な過剰問題と為替レートのミスアライメント(均衡為替相場からの著しいかい離)が発生しており、本連載でかねて述べている通り、これらは中国など新興国や資源国の政策の誤りだけによるものではない。アグレッシブな金融緩和を行い新興国バブルや資源バブルの種をまいた米国も責任を取る必要がある。

また、日銀やECBの金融緩和の成功の証とされていた日欧の株高も、実はファンダメンタルズが悪化していたにもかかわらず、ドルに対し固定的な為替レート制を維持していた中国の犠牲の上で成り立っていた部分が少なくない。各国の政策当局者が協調して目指すべきは、世界経済をソフトランディングに向かわせた上で、いかにして中長期的に不均衡を縮小させるかである。

もちろん、日本が多少なりとも通貨高を甘受する姿勢を示すことは、これまでのアベノミクスからの大きな方針転換であり、短期的には日本株にも一段の下押し圧力がかかるかもしれない。しかし、国際金融市場が安定に向かえば、長い目で見て、日本が得るものは小さくない。一方、このまま日銀がマイナス金利政策を追求していけば、アベノミクスは、近隣窮乏化政策の典型として、そして世界経済を泥沼の通貨安競争へ突き進ませたとして、世界経済史に記録されることにもなりかねない。安倍首相の君子豹変に期待したい。

<各国が行動様式を変えなければ1930年代の繰り返しに>

もっとも、仮に上述した国際協調政策が採用され、世界経済がソフトランディングするとしても、それで全ての問題が解決されるわけではない。

国内均衡と矛盾する政策が採用されることで、とりわけ米中では、新たな不均衡が生じるリスクがある。まず、世界的にディスインフレ傾向にあることを前提にすると、米国では利上げ中断が生み出す過剰流動性が株式市場や住宅市場に流れ込み、新たなバブルが醸成される可能性がある。米国の株高や住宅価格の上昇に連れ高する形で、金融緩和環境が続く日欧でも、そうした動きが観測される可能性がある。

中国については、追加財政で景気がある程度支えられるとしても、それによって資源配分が歪み、潜在成長率の低迷が続く恐れがある。また、人民元の大幅切り下げを回避するための資本規制それ自身も、当然にして市場規律を損ない、資源配分に悪影響をもたらす。

マクロ経済のボラティリティーを抑えるべく、ソフトランディングを志向することは政策的には妥当だが、それは、あくまで副作用を伴う「時間を買う政策」に過ぎない。ソフトランディングを好感し、先進各国で株高が続けば、政策当局はそれに慢心して必要な改革が止まり、結局さらに大きな問題を抱え込むのがこれまでの経験だったことを肝に銘じておく必要がある。

国際協調政策が、結果的に、超低金利と拡張財政の長期化・固定化に終われば、収益性の低い分野に経済資源が向かうだけで、世界経済の潜在成長率のさらなる低下は免れない。それゆえ、「伊勢志摩合意(安倍合意)」では、長期的な目標として各国が潜在成長率引き上げのために構造改革を推し進めることを約束することが重要だ。

ただ、それだけでも十分ではない。同時にグローバリゼーションの下での新たなルールとして、以下の2点も合意に盛り込むことが重要である。

第1に、基軸通貨国や準基軸通貨国は、他国への影響が余りに大きなアグレッシブな金融政策は自制すること。第2に、規模の大きくなった新興国については、完全なフロート制に向け為替レートの柔軟化を着実に進めていくことである。

振り返れば、10年の米国の量的緩和第2弾(QE2)以前は、日米欧の中央銀行の間で、大幅な通貨の減価につながるアグレッシブな金融緩和は行わないという紳士協定が存在していた。それが破られ、いつの間にか、通貨切り下げ合戦が繰り広げられているように思われてならない。

近年、G7では、為替レートの決定は市場メカニズムを尊重し、介入は極力回避した上で、各国の金融政策は国内の物価目標の達成のために割り当て、為替レートをターゲットとすべきではないというのが表向きの合意となっている。

13年2月のG7の声明文では、こう謳われていた。「我々、G7の財務大臣・中央銀行総裁は、我々が長年にわたりコミットしている、為替レートは市場において決定されるべきこと、そして為替市場における行動に関して緊密に協議すべきことを再確認する。我々は、我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は為替レートを目標にはしないことを再確認する」(財務省訳)。

しかし、これは実質的には、インフレ目標を掲げた上で、為替レートを明示的なターゲットにしていなければ、通貨安につながるアグレッシブな金融緩和を問題視しないという解釈に変質している。当初、主要先進国がこうした合意に達したのは、経済規模が大きくなっているのにもかかわらず、固定的な為替レートを維持して競争力を維持しようとした中国への対抗策という側面が大きかった。

ところが今や中国の固定的な為替レート制だけでなく、主要国のアグレッシブな金融緩和が、世界経済や国際金融市場に大きな歪みをもたらしているのは明らかだろう。筆者は、09年後半から、FRBのアグレッシブな金融緩和が、固定的な為替レート制を介して新興国バブルや資源国バブルをもたらし、それがいずれ世界経済を揺るがすことになると懸念していたが、案の定、その予想は的中してしまった。

各国が行動様式を変えなければ、同じことが繰り返され、グローバリゼーションの下で、先進各国の金融緩和はますますアグレッシブになり、その副作用も増幅されていくだろう。今や金融機関の収益を蝕み、金融仲介機能を損なうマイナス金利の領域に入ってしまった。その結果、最後には各国がますます内向きとなり、反グローバリゼーションを掲げる政治勢力が支持を広げていく恐れがある。これでは、1930年代の繰り返しとなる。

金融政策はあくまで国内均衡を目標に据えた自律的なものであるべきだが、基軸通貨国や準基軸通貨国は、他国に大きな影響をもたらすほどのアグレッシブな金融緩和には自制的でなければならない。世界経済と国際金融市場の安定化のために、「伊勢志摩合意(安倍合意)」として、是非とも安倍首相から各国首脳に提案すべきである。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。」

http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-ryutaro-kono-idJPKCN0W33Q8?sp=true

日韓最終合意の裏で米政府が進めてきたこと/東洋経済

2016-02-24 17:13:28 | 国際


「日韓最終合意の裏で米政府が進めてきたこと  米国は日韓の和解へ向け努力を重ねてきた

ダニエル・スナイダー :スタンフォード大学APARC研究副主幹 2016年01月10日

昨年12月28日に旧日本軍の従軍慰安婦問題で、「最終的かつ不可逆的な解決」という画期的な合意に達した日本と韓国。この歴史的な合意に至るまで、両国政府は少なくとも4年間を断続的な交渉に費やしたが、その間幾度となく交渉は決裂し、行き詰まった。

今回、それを乗り越えて合意できたのは、日本の安倍晋三首相と韓国の朴槿恵大統領いう2人の指導者が最終的に歩み寄ったからにほかならない。米国のある政府高官は「この合意は双方にとって非常に重要であり、2人とも辛抱強く交渉を続けた」と明かす。

米国の絶え間ない「圧力」


ダニエル・スナイダー/スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター (APARC)研究副主幹。『クリスチャンサイエンス モニター』紙の東京支局長・モスクワ支局長、『サンノゼ・マーキュリー・ニュース』紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、世界に多くの情報ソースを持っている
もちろん、合意に至った2人の指導者は称賛されるべきだが、この合意は米オバマ政権の絶え間ない「圧力」なしには成し遂げられなかっただろう。実際、オバマ大統領は公式な方法も用いながら、日韓政府に絶えず圧力をかけてきたからだ。

米政府内では米国が非難を受けることを危惧し、仲裁役を担うことに対する抵抗が強かった。しかし、政府関係者たちは、たとえば合意書の特定の文言をめぐる日韓の議論など非常に細かい点にまで目を向け、あくまで踏み込みすぎない姿勢を維持しながらも、慰安婦問題解決に向けての合意は日韓双方の歩み寄りなしにはあり得ない、という米国側の考えを両国に伝え続けていた。

米国がこうした動きを続けていた背景には、特にここ数年の日韓関係の悪化が米国の戦略的利益の逸失につながるとの懸念があったからだ。米国にとってアジアでの最も重要な同盟国2国の不仲は、常に不安定な北朝鮮や、支配力拡大に躍起になっている中国を抱えるアジアにおける防衛力の弱体化につながってきた。

今回の合意に至る交渉のきっかけは、アジアの隣国との関係改善を図ろうとしていた民主党政権時にさかのぼる。韓国併合100周年にあたる2010年、当時の菅直人首相は植民地支配に対する謝罪を発表することによって、韓国との関係改善に向けて前進した。

元ビジネスマンの韓国・李明博元大統領も関係改善には熱心だった。ところが、2011年8月に、韓国憲法裁判所は韓国政府が従軍慰安婦らの賠償請求問題解決に向けた具体的な努力を行わないのは「違憲」であると判決。これを受けて、日韓両国の外務官僚たちは、元慰安婦への賠償が公的基金ではなく、個人的寄付によって賄われていることで批判が絶えなかった「アジア女性基金」の代わりになる賠償方法を考える議論を開始した。

この間、日韓の外務官僚らは日本の首相による犠牲者への謝罪文や、公的な賠償金という位置付けのものがないにしても、公的予算から人道的支払いを行うなど新たな合意に向けて議論を行っていた(日本は韓国側の求めに対してはすべてサンフランシスコ講和条約や、1965年の国交正常化時点で解決していると主張しており、今後もそう主張し続けるだろう)。

こうした中、2011年9月には日本でより保守的な思想を持つ野田佳彦氏が菅氏を継いで首相に就任した。父親が自衛官だった野田氏は、安倍首相と同様に日本右翼保守派の歴史修正主義を個人的に共有し、靖国神社の参拝を支持し、女性に性的奉仕を強制させた帝国陸軍の公的役割を認める河野談話に反対した。

慰安婦像に野田首相が激怒

その野田氏と韓国の李氏が京都で首脳会談を行ったのは同年12月18日のこと。その一週間前には、韓国の活動家がソウルの日本大使館の向かいに「従軍慰安婦像」を建てて物議を醸していた。

この会談で何が行ったのかに関しては、2つの異なる「報告」がある。日本版は、野田氏は経済と安全保障問題を議論する準備をしていたが、李氏が従軍慰安婦問題を解決しようと求めてきたことに驚かされた、というものだ。

一方、その会談に参加していたというある韓国政府高官によると、両国の外務省間でまとめられた基本文書に野田氏がサインすると韓国側は期待していたが、野田氏が最初の夕食で怒りながら、像の撤去を求め、新たな謝罪は必要ないと言い放ったことに対して李氏が非常に驚いたという。結局、この論争は翌日話し合いにまでもつれ込んだそうだ。

再交渉は翌春に持ち越された。このとき、当時の佐々江賢一郎外務事務次官は、日本の首相による直接謝罪や、元慰安婦たちに対する謝罪の手紙、日本政府予算による賠償・補償などは行うが、公的責任は認めないとする案を提示。しかし、両国間にはすでに埋めがたい溝ができており、両国の首脳が再びトップ会談を果たすまでに4年近くの時が流れた。

ようやくその時が訪れた瞬間、安倍首相と朴大統領はお互いに非常に気を使いながら会議室に入った。朴大統領は個人的に従軍慰安婦の問題を解決しようと心に決めており、50数名しか残っていない高齢の女性たちがこの世を去る前に解決すべきだと切り出した。しかし、安倍首相が戦争に対する日本政府の公的立場を覆す意図、とりわけ、女性に性的奉仕を強制したことに対する公的責任を認めないことを示唆したため、2人の関係は一気に冷え込んだ。

アジアにおける中国の影響力が増す中で、日韓関係の悪化に業を煮やしたのが米国である。実際、中国は2013年11月に日本と韓国、両国の領海と重なる東シナ海に防空識別圏を設けると宣言し、米政府を警戒させた。

これを受けて、翌月にはジョー・バイデン米副大統領が、日本、韓国、中国を来訪。歴史問題について韓国を刺激するような行動は取らないとの約束を安倍首相を取り付けたと考えたバイデン副大統領は、安倍首相との首脳会談に臨むよう、朴大統領に圧力をかけた。

実はバイデン副大統領による訪問直後、私はスタンフォード大学のアジア研究者グループの一員として朴大統領に面会したのだが、同大統領は明らかに米国からの圧力に不満そうで、安倍首相は信頼できないとの懸念を示していた。朴大統領の「懸念」が正当なものだったと証明されたのは、それからほんの数日後のこと。安倍首相による靖国神社参拝は、バイデン副大統領に大きな衝撃を与えた。

米国が態度を変えた安倍首相の行動

これをきっかけに、米政府内で日本と韓国の歴史問題の議論にかかわることへの重要性をめぐる議論が巻き起こった。米国が直接的な仲裁役を果たすことは危険とのスタンスに変りはなかったが、オバマ大統領主導により、日本、韓国両政府に対する米政府からの圧力はより目に見える形で行われるようになった。

2014年3月には、オバマ大統領はハーグで、北朝鮮を焦点とした核安全保障首脳会議の延長として三国間会議を主催した。さらに翌月では日本と韓国を訪問。日本では公の場で安倍首相に圧力をかけないように努めたが、韓国では、従軍慰安婦問題について「人権を実にひどく、甚だしく侵害した」と発言した。

その後、1年半で日本と韓国の外務省関係者らは12回面会したが、交渉にほとんど進展は見られず、結局のところ両国トップの政治的意思がないままでは前進しないことが明らかとなった。そこで、米国は静かに、そして非公式に両国に圧力をかけ始めた。

「米国務省やホワイトハウスは今回、安倍首相を動かすために極めて重要な役割を果たした」と、交渉にかかわったある韓国高官は話す。「加えて米国側は、韓国政府関係者がワシントンを訪問する際はいつも、韓国側に隠し事をすることなしなかった」。

実際、安倍首相にも米国側のメッセージは伝わっていたはずだ。それは、2015年に河野談話を覆さないとの約束を明言するために米国を訪問したことや、昨年の戦後70年談話で韓国を刺激することを避けたことからも明らかである。

一方、朴大統領は昨年10月中旬にワシントンを訪問し、韓国が中国寄りになっているという日本からの批判に米国側も同調していることを知った。

韓国、米政府内でも朴大統領は従軍慰安婦問題の解決だけに固執するのをやめ、日本との関係において「2トラック戦略」を採用し、歴史問題と安全保障問題を切り離して話すべきとの声が出始めていた。

こうした中、朴大統領も徐々に態度を変え、11月中旬には安倍首相と面会、両国首脳は国交正常化の記念である2015年末までに合意を結ぶ努力に向け動き出したのである。

合意が覆される可能性も

今回の合意は4年前、最初に議論された枠組みの要点に従ったものだが、いくつか大きな変更もあった。日本は「責任」という言葉の使用を受け入れ、軍の関与の下、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題との認識を示した。基金設立も新たなアイデアである。

安倍首相の主張に基づき、日本政府は「最終的で覆すことのできない」合意であることを目指しているが、これを「覆す」のは韓国側だけに限らないだろう。現時点でもっとも危ういのは、慰安婦像の撤去で、韓国側は撤去することに同意したものの、活動家や市民グループの同意を得られた場合に限るとしている。

米国側は今回の合意について、公式には「日韓両国首脳の努力によるもの」と評価している。ただ記者団に対する背景説明では、米国による圧力による「成果」を強調せずにはいられなかったようで、ある政府高官は「米国は適切で、建設的な役割を担った。オバマ政権は和解へのすべての道筋を全力でサポートした。われわれは最良の助言を行い、合意に達することによるわれわれや皆の利点を明確に示した。われわれは静かに、また、可能なときは常に両国の間にある誤解を防ぎ、解こうと努力した」と漏らした。

この合意が決裂する危険性は米国、韓国、そして日本政府も認識しているはずだが、米政府関係者の一人はこう話す。「今の勢いを保つには、この合意を基に前に進む必要がある。少なくともこの合意は日韓双方に利点があるので、当面は双方をとどめておくことができるのではないか」。」

http://toyokeizai.net/articles/-/99951

急減する中国外貨準備、いつ限界水準に達するか/ロイター

2016-02-24 15:30:57 | 国際
「[北京 24日 ロイター] - 中国の外貨準備はなお世界最大規模を誇るが、資本流出に伴い急スピードで減少しており、中国政府は遠くない将来に人民元の切り下げ、あるいは資本統制への逆戻りを強いられるとの見方が一部で浮上している。

中国の外貨準備は1月に995億ドル減って3兆2300億ドルとなった。2014年半ばに比べると7620億ドル減と、スイスの国内総生産(GDP)を上回る規模で減っている。

中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は先週、「財新」のインタビューで資本流出について、ドル高を背景とした国内企業によるドル建債務の返済と対外投資による部分が大きいと指摘。債務返済は間もなく底を打つし、対外投資は歓迎すべき動きだと擁護してみせた。

大半のエコノミストは、中国の外貨準備にはまだ大きな余裕があるとの見方に同意しているが、一部には数年後と言わず数カ月後にはブレーキを踏む必要が出てくるとの見方もある。

外貨準備の減少ペースが加速したのは、人民銀行が海外の投機売りや国内の資本逃避に対処し、人民元買い介入を行ったためだ。

外貨準備はなお巨額だが、中国ほどの規模の経済だと、輸入や対外債務の返済に多額の準備が必要になる。その上、外貨準備の内訳が流動性の低い資産であれば、その要請にすぐには答えられない。

中国の外貨準備の構成は国家機密だが、複数の当局者は、ドル以外の通貨の価値がドル建てで減少していることも、準備高減少の一因だと話している。

ソシエテ・ジェネラルは、国際通貨基金(IMF)の指針では中国にとって安全といえる外貨準備の最少額は2兆8000億ドルで、現在のペースで減少を続ければ間もなく到達するとみる。

同社は「向こう数カ月中に到達すれば、投機的な売りが押し寄せ、人民銀行は降参して人民元レートを市場に委ねるしかなくなる」としている。

これに比べ、G20(20カ国・地域)のある中央銀行副総裁はもっと楽天的で「(安心できる最少額が)どのくらいか分からないが、2兆8000億ドルよりずっと少ないことは確かだ」と述べた。

<魔法の数字は存在せず>

HSBCのアナリストチームは理論上2兆ドルで十分だと見ているが、減少を続ければ国内投資家が脅えて海外への資金移動を加速させる恐れがあるため、中国当局が手をこまねいているとは考えにくいという。

ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(ニューヨーク)の新興国市場通貨ストラテジー・グローバル統括、ウィン・シン氏によると、中国の外貨準備は1年5カ月分の輸入をカバーできる水準であり、短期対外債務の外貨準備に対する比率は25%にとどまる。新興国として安全な水準と考えられる3カ月と55%よりもはるかに良好だという。

シン氏は「われわれが新興国に適用しているどんな尺度で見ても、中国の外貨準備は十分すぎるほどだ」と話した。

中国のシンクタンクのあるエコノミストも「3兆3000億ドルもあって何を心配する必要があるのか」と同意する。「中国の対外純債権は1兆5000億ドル、貿易黒字もまだ6000億ドル程度ある」

外貨準備が2025年までに2兆ドルに減ったとしても、「まだ安全、健全だ」とこのエコノミストは語った。

ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシン氏は、安全な水準は、究極的には特定の比率というよりも市場心理で決まると指摘する。

「魔法の数字は存在しない。大きな部分を占めるのは信頼感だと思っているが、中国の政策担当者は信頼感の回復につとめて力を入れている」という。

人民元売りを公言しているヘッジファンド、オムニのポートフォリオマネジャー、クリス・モリソン氏は「このゲームは期待と信頼感がすべてだ。市場が底をのぞいたが最後、信頼感は総崩れになる。3兆ドルを下回った時がその分岐点だと私は考えている」と話した。

(Kevin Yao記者)」

http://jp.reuters.com/article/analysis-china-foreign-reserves-idJPKCN0VX0BY?sp=true

サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング/ニューズウィーク・渡辺

2016-02-23 14:59:03 | 国際
 ニューズウィークという雑誌自体はかなり偏向しているというのが私の印象です。でもそこに載っているブログ記事がすべてそうだとは考えていません。以下の渡辺さんのバーニー・サンダース候補に関する記事は一つの参考になると思います。

 ただ、怒れる若者の実情への理解があるようにはあまり思えません。若者たち、男性たちは、国や社会に見捨てられ、女性たちのためには存在する様々な団体の支援もなく、ただ放り出されているのではないかと思います。その点で日本の若者も同じです。その怒りが、アメリカの右派ではトランプに、左派ではサンダースに向かい、日本では若者の馬鹿げた行動 - 爆破予告やバイト先での逸脱行動 -になっているように感じます。いずれにせよ、ご参考までに。

「 2008年の大統領選挙では、若者たちがバラク・オバマを熱狂的に支持した。共和党のブッシュ大統領(当時)が始めたイラク戦争が泥沼化し、膠着状態に陥った連邦議会への不信が高まるなか、黒人で、新人上院議員のオバマは、「政治と国を変えてくれる救世主」としてすがりつくのに最適の人物だった。当時若者の間では、アメリカの古い世代とその価値観を否定する行為として、フェイスブックの名前のミドルネームをオバマにならって「フセイン」にするのが「かっこいい」こととして流行った。

 今回2016年の大統領予備選挙で、リベラルな若者たちから熱狂的に支持されているのは、自称「民主的社会主義者」のバーニー・サンダースだ。昨年大統領選への出馬を発表したときには、メディアから「絶対に勝ち目はない」と笑い者にすらされていたサンダースだが、今月9日のニューハンプシャー州予備選では、ヒラリー・クリントンに支持率で25ポイントの大差をつけて圧勝した。

 この珍現象を可能にしたのは、ちょうど大学生くらいの年代の若者たちだ。

 連邦議会の議員としては、ヒラリーより長いキャリアを持ち、しかも6歳も年上の74歳の白人のサンダースを、なぜ若者が支持するのだろうか?

 アメリカでも不思議に思われているこの現象を、ニューハンプシャー予備選の取材を通して体感してきた。

【参考記事】<ニューハンプシャー州予備選>左右のポピュリストを勝たせた米政界への怒り

 予備選の投票の4日前、バーニーとヒラリーの両候補が講演する民主党のイベントが開催された。会場前では、マイナス10度の厳しい寒さにもかかわらず、候補のボランティアたちがプラカードを持って立っていた。

 ここまではよくある風景だが、会場入り口に近づくと大音響で音楽が流れている。「政治イベントにしては現代的でヒップな曲だな」と思い見てみると、録音ではなく、テントでDJがプレイしている。テントにはサンダースの愛称「バーニー」と書いてあり、その前で若い女性がフラフープを回しながら腰をくねらせて踊っている。

「どこかで見たような風景だ」と思って、すぐに気付いた。ロックコンサート、それもグレイトフル・デッドのコンサートだ。

 グレイトフル・デッドは、1960~70年代にかけて流行ったヒッピー文化とカウンターカルチャーを代表するロックバンド。この時代の若者はベトナム戦争で政府への不信感を募らせ、既成の社会体制を否定して新しい価値観を見出そうとしていた。それがカウンターカルチャーであり、ヒッピー・ムーブメントだった。

 サンダースの支持者は、他の候補と比べると圧倒的に若者が多い。「民主的社会主義」の理念でアメリカの政治を根本的に変えることを約束するサンダースは、現代の若者にとっては「反体制」の指導者であり、21世紀のカウンターカルチャーのリーダーとみなされている。

 もちろん違いはある。20世紀のカウンターカルチャーの背景にはベトナム戦争があったが、徴兵制度がない今の若者にとって、泥沼化しているイラク戦争はさほど身近なものではない。それよりも、値上がりを続ける大学の授業料と就職難のほうが肌で感じる切実な問題なのだ。

 トップ大学の学費は年間500万円を超え、学費ローンという借金を抱える大学卒業生は半数以上。卒業時点での借金の平均は現時点で500万円程度だという。しかも、アメリカでは、四年制の大学を卒業しただけでは高給の職には就けない。「海洋生物学を学んだのに、それを活かすためには大学院に行く必要があり、その資金を貯める就職先がない」と嘆く若者や、「非営利団体での仕事は楽しいけれど、給料が安いのでローンを返せない」とぼやく若者が筆者の知り合いにも沢山いる。しかも彼らは、アメリカでは収入が上位10%に属する中産階級の子弟なのだ。

 国民の収入格差は、現代アメリカが抱える深刻な問題だ。上位0.1%に属する少数の金持ちが持つ富は、下方90%が持つ富の合計と等しく 、70年代にはアメリカの過半数だった「中産階級」(調査機関ピュー研究所の定義では、国民の平均年収の3分の2から2倍の収入がある層) が消えつつある。

 サンダースは、大衆の心をとらえやすく、覚えやすいようにするためだろう、「99% vs 1%」という数字を使っている。不公平な時代に生まれたことに憤る若者たちにアピールするのが、サンダースの「近年では、経済がもたらす新たな収入の99%は、上位1%に行っている」 というスピーチと、次のような公約だ。

・大学の学費を無料にする
・北欧のように国民全員が無料で医療を受けられるようにする
・中産階級から搾取して富を独占するウォール街を解体し、収入と富の平等を図る

 60年代の若者の敵は、戦争や人種差別を続ける政府だった。サンダースを支持する現代の若者の最大の敵は「上位1%に属する大富豪」であり、その1%を独占する「ウォール街」だ。このあたりは、2011年の「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動の流れを受け継いでいる。

【参考記事】アイオワ州党員集会 共和党は正常化、民主党は異常事態へ

 彼らは、共和党候補だけでなく、サンダースのライバルであるヒラリーと、ヒラリーを応援する政治家も、上位1%を支える「体制」側の敵とみなしている。ニューハンプシャー州マンチェスター市で開催された民主党のディナーイベントで、それは如実に見て取れた。

 イベント会場は、ふだんはアイスホッケーの試合が行われるアリーナで、面白いことに、バーニーとヒラリーの双方の支持者が、対戦するホッケーチームを応援するファンのように、ステージを挟んで左右に綺麗に分かれて座っていた。

 ヒラリー応援団には、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)活動家、人権理事会(HRC)、家族計画連盟(Planned Parenthood Federation)といった支援団体のメンバーが目立ち、まとまった感じだった。

 一方のサンダース応援団は若者が多いが、60~70歳くらいの年配の人が結構混じっている。彼らも、かつてはジャック・ケルアックの本をベルボトムのジーンズのお尻のポケットにつっこみ、ウッドストックや反戦運動に出かけた若者たちなのだろう。

 大学の学費を無料にするためには、巨額な資金が必要だ。医療費もそうだ。「ではその資金はどこから持ってくるのか?」という人々の疑問に対して、サンダース陣営からは「ウォール街から」という答えが戻ってくる。

 シンプルな回答にサンダース支持者は満足しているようだが、少しでも現実的になれば、それが不可能なことは明らかだ。彼らが望むとおりウォール街を解体して搾取しても、経済の混乱を引き起こすだけで国民全員に無料で大学教育と医療を与えることはできない。サンダースが成功例として挙げる北欧諸国は租税や消費税が高いが、彼らはアメリカの税金が上がるのは断固として反対のようだ。トップ1%の金持ちが下方99%のコストを払えばいいと信じている。

 サンダース信奉者たちは、「タダ」を実現するコストについては考えない。

 さらに、60年代ヒッピーの合言葉は「ラブ&ピース」だったが、サンダース支持者たちは、どちらかというと「ラブ」よりも「ヘイト(憎しみ)」の方が強いようだ。

「大学の学費を無料にする」というサンダースの政策に対して、ヒラリーは「私とバーニーが求めることは同じ。けれども、私は現実主義者。できることしか約束しない」と反論するが、サンダースの支持者は許さない。理想主義者の彼らは、少しでも「体制」の臭いがするものを徹底的に攻撃する。

 女性で民主党全国委員長のデビー・ワッサーマン・シュルツがスピーチを始めると、すぐにあちこちからヤジが飛び始めた。私は偶然サンダース応援側の席に座っていたのだが、大声でヤジやブーイングをしているのは、私の周囲にいる若い男性たちばかりだ。

 席を2つ挟んだ右手の男性は、サンダースの名前をネオンのように光らせたプラカードを胸に掲げ、「You suck!(おまえは最低だ!)」とひっきりなしに大声で叫び続けている 。

 これがメディアで噂の「Bernie Bros(バーニー・ブラザーズ)」だ。

 サンダース支持者のなかには、ソーシャルメディアやニュースメディアのコメント欄に人格攻撃に近いヒラリー批判を書きこみ、それに反論する女性がいれば、「自分のほうが正しい」という独善的な態度でその女性まで攻撃する若い男性が増えている。彼らは「Bernie Bros」と呼ばれ、インターネットでは以前から話題になっていた。

 メディアでは「そういう人がいても、少数だけ。それで苦情を言うヒラリー陣営は大げさ」と捉えていたが、このイベントでヤジを飛ばす若い男は少数ではない。

 元女性州知事で現職上院議員のジーン・シャヒーンがヒラリー支持表明のスピーチをしている最中も、ブーイングや大声のヤジは続いた。

 60歳くらいのサンダース支持者の女性が、見るに見かねて前に座っている若者に注意したところ、彼は顔を真っ赤にして「憲法修正第1条で保障された表現の自由を知らないのか? 僕には発言の自由がある!」と、注意した女性に向かって怒鳴り始めた。

 共和党候補のトランプのイベントでも、応援にかけつけた政治家に悪態をつく支持者がいたが、態度の悪さでは、サンダース支持者はトランプ・ファンと同等だ。

 Bernie Brosを見ていると、どうやら「革命」を口実にして、「体制」を象徴するヒラリーやその支持者を血祭りにあげることで自己満足に浸っている若い男性が少なくないようだ。

【参考記事】サンダースを熱狂的に支持する若者たちは、民主主義を信じていない

 一般論では「若者が政治に関心を抱き、参加するのは良い事」なのだろうが、Bernie Brosを目撃した今は、疑問を感じずにはいられない。

 妥協を許さない「オール・オア・ナッシング」の理想を貫けば、社会は機能しなくなるし、戦争を回避することもできない。ヒラリーを叩きのめして、11月の本選で共和党候補を勝たせれば、極右の最高裁判事を任命し、「女性が中絶を選ぶ権利」や「同性婚の権利」が撤回される可能性もある。その危険を訴えるLGBTや人権理事会のメンバーからの意見には、サンダースの熱狂的支持者は耳を傾けようとはしない。

 そんな若者たちが、「票」という武器を手にしてソーシャルメディアで仲間に「革命」を呼びかける現状こそが、アメリカの民主主義の危機なのかもしれない。」

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4539_1.php

朝米、昨年末に平和協定で非公開協議/ハンギョレ

2016-02-23 13:49:12 | 国際
「 北朝鮮と米国が北朝鮮の「平和協定の提案」と関連し、昨年末に非公開の協議を行ったことが確認された。一種の「探索的対話」といえるものだが、非核化問題をめぐって双方の立場がするどく対立し、決裂したことが明らかになった。

 ジョン・カービー米国務省報道官は21日(現地時間)、米紙ウォールストリート・ジャーナルが「朝米間の平和協定非公開協議」と報じたことに関連したハンギョレの確認要求に、「はっきり言うと、平和協定について協議しようと提案したのは北朝鮮側だ」とした上で「北朝鮮の提案を慎重に検討した後、非核化がそのような(平和協定)の議論の一部にならなければならないという点を明確にした」と明らかにした。カービー報道官はまた、「北朝鮮は、私たち(米国)の逆提案を拒否した」とし「北朝鮮の提案に対する私たちの逆提案は、非核化を強調してきた米国政府の立場と一致するもの」と付け加えた。

 これに先立ち、ウォールストリート・ジャーナルはこの日、北朝鮮が先月6日、4回目の核実験を敢行する数日前に、朝米が朝鮮半島の平和協定の締結のための協議に合意して▽米国が「非核化を優先する」という前提条件を放棄し、平和協定に向けた協議を進めたと報じた。

 朝米間の非公開協議は、核実験の数日前に行われたという同紙の報道とは異なり、昨年11月頃にあったものと思われる。ワシントンの外交消息筋は「12月以前に行われたもの」と話した。朝米間の非公開協議はリ・スヨン北朝鮮外相が昨年10月1日、米国ニューヨークの国連本部での基調講演で、停戦協定の平和協定への切り替えを提案した後、国連北朝鮮代表部がこの発言を米国に説明する形で行われた。

 米国が北朝鮮の議論提案に応じたことについて、同紙は「北朝鮮の非核化措置が先」という前提条件を放棄したものと報じたが、これは「探索的対話」と「6カ国協議」の概念を混同したことによるものと思われる。米国は6カ国協議の再開については、「言葉ではなく行動で非核化措置を示すべきだ」という条件をつけたが、いわゆる朝米間の「探索的対話」については、非核化に議論の焦点を合わせるべきとしながらも、前提条件はないと明らかにしてきたからだ。

 米国が朝米間の協議で「非核化が、そのような(平和協定)の議論の一部にならなければならない」と北朝鮮に伝えたことをめぐり、一部では、北朝鮮に対する制裁局面が終われば、米国政府が「非核化交渉と平和協定協議の同時推進」を強調した王毅・中国外交部長の提案を受け入れられるという意味ではないかという分析もあるが、現時点ではその可能性はかなり低いものと見られる。これまで米国の公式ブリーフィングで一度も立場は変わっておらず、米国が北朝鮮の提案を真剣に検討しているという状況証拠もなく、韓国政府が強く反対することが必至だからだ。むしろ王毅部長の提案が出た後、このような報道が出てきたのは、「米国が努力したにもかかわらず、北朝鮮が非核化の協議に反対しているため、平和協定に向けた議論も不可能である」と反論するための、米国側の情報操作の側面が強いと思われる。

 これと関連し、韓国外交部当局者は「韓米は最近、首脳会談や電話会談などを通じて、北朝鮮の核問題を最高の緊急性と確固たる意志を持って取り上げており、北朝鮮とのいかなる対話においても、非核化が優先されるべきという一貫した立場を堅持している」とした上で、「平和協定の問題と関連した米国側の従来の立場に変わりはない」と述べた。

ワシントン/イ・ヨンイン特派員、イ・ジェフン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-02-22 08:47

http://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/731450.html訳H.J」

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/23396.html

イギリスとEUの合意/BBC

2016-02-20 12:27:26 | 国際
BBCによればイギリスは移民政策の一部やシティの金融の独自性に関して、特別な地位をEUから認められるに至った、と言う。

これが事実なら、EUの統合は疎外され、さらに不安定になる可能性があるだろう。

"David Cameron says a deal struck with EU leaders will give the UK "special status" and he will campaign with his "heart and soul" to stay in the union.
The PM said the agreement, reached late on Friday after two days of talks in Brussels, would include a seven-year "emergency brake" on welfare payments.
He added the deal included changes to EU treaties and would be presented to his cabinet on Saturday at 10:00 GMT.
EU exit campaigners said the "hollow" deal offered only "very minor changes".
The agreement on renegotiating the UK's EU membership was announced by European Council president Donald Tusk, who tweeted: "Deal. Unanimous support for new settlement for #UKinEU."
It paves the way for the UK to hold an in/out referendum on EU membership, which has been promised by the end of 2017 but is expected in June this year.
Follow reaction to the Brussels deal

The new deal includes:
Cuts in child benefit for the children of EU migrants living overseas - applicable immediately for new arrivals and from 2020 for the 34,000 existing claimants
The amending of EU treaties to state explicitly that references to the requirement to seek ever-closer union "do not apply to the United Kingdom"
An "emergency brake" on migrant workers' in-work benefits that will apply for seven years - less than the 13 years the PM proposed but longer than other countries had asked for
The ability for the UK to enact emergency safeguards to protect the City of London


German Chancellor Angela Merkel predicted the package of reforms would "elicit support in the UK for the country to remain in the EU".

'In Britons' hands'
Mr Tusk said it "strengthens Britain's special status", while EU Commission president Jean-Claude Juncker described it as "fair".
Mr Tusk added: "We didn't walk away from the negotiating table. We were willing to sacrifice part of our interests for the common good, to show our unity.
"I deeply believe the UK needs Europe and Europe needs the UK. But the final decision is in the hands of the British people."
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Media captionEuropean Commission President Jean-Claude Juncker: "The deal is a fair one for Britain"
Once Mr Cameron has briefed his ministers at Saturday's cabinet meeting, they will be free to campaign for either side in the referendum.
Mr Cameron said he would shortly announce the date of the vote and said he was "disappointed" but not surprised that one of his key allies, Justice Secretary Michael Gove, was to campaign for the UK to leave the EU.
Analysis by Laura Kuenssberg, BBC political editor
The ink is hardly dry on the UK's EU deal, but immediately the focus has switched to the substance of what David Cameron has achieved and - possibly an awkward question - how many of his colleagues will argue against him.
The focus will move to whether the prime minister can keep his party politely together during a period of public disagreement.
The ability to restrict benefits to migrants is an important victory for Mr Cameron - ammunition for his argument that he has achieved changes to help reduce the number of EU migrants coming to live and work in the UK.
The proposals are complicated and do not exactly match the promises he made in the Conservative Party manifesto.
But with it - and the other commitments - it becomes harder for his critics to make the case that the agreement is flimsy and will change nothing.

Read more from Laura

Mr Cameron said he had achieved the reforms he wanted, claiming they would put the UK "in the driving seat" of one of the world's biggest markets and create a "more flexible" EU.
"We have permanently protected the pound and our right to keep it," he added, saying that, for the first time, the EU "has explicitly acknowledged it has more than one currency".
"The British people must now decide whether to stay in this reformed European Union or to leave," he continued.
"This will be a once-in-a-generation moment to shape the destiny of our country."
At the same time as the EU reforms, the PM said further measures to strengthen the UK's sovereignty would be announced.
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Media captionAngela Merkel said EU membership "is something of great value"

The deal reached between all 28 EU member states comes after several leaders objected to Mr Cameron's planned reforms.
The original aim had been to conclude the deal at an "English breakfast" meeting on Friday, which became an "English brunch", then an "English lunch" and eventually an "English dinner", at which point the agreement was announced.
Eurosceptics have dismissed the reforms, saying they will not allow the UK to block unwanted EU laws or reduce migration.
Matthew Elliott, chief executive of the Vote Leave campaign, said Mr Cameron "will now declare victory but it is an entirely hollow one".

The deal was announced shortly after leaders met for dinner on Friday
He disputed the PM's claim that the deal was legally binding, saying it "can be ripped up by EU politicians and unelected EU judges".

LeaveEU co-chairman Richard Tice tweeted that the deal was a "desperate fudge".
As the EU summit was being concluded, another EU exit campaign, Grassroots Out, held a rally in Westminster.
Conservative MP David Davis said it was time for Britain "to take control of its own destiny", while UKIP leader Nigel Farage said the cross-party campaign was "absolutely united in fighting to get back our democracy".
Mr Farage unveiled former Respect MP George Galloway as a "special guest" at the rally, describing him as a "towering figure on the left of British politics".

Analysis by Laurence Peter, BBC News online

After two days of gruelling talks - and late-night haggling - EU leaders were plainly relieved to get the deal with David Cameron done.

French President Francois Hollande stressed that "no revision of the treaties is planned". Tough EU treaty change would have been politically toxic for him, as he is faced with an election next year.

But he also stressed that for France the EU "is not just a budget" - but about many policies and "the joint project". It was a pointed reminder about the EU's symbolism, contrasting with Mr Cameron's position.

German Chancellor Angela Merkel said the new child benefit rules could be good for Germany too - and supported Mr Cameron's drive against abuse of the welfare system.

"I don't think we gave the UK too much," she said. But she admitted that ever closer union was an emotional issue for her, so Mr Cameron's opposition to it was "not easy" to deal with."

http://www.bbc.com/news/uk-politics-35616768

イギリスのEU脱退問題/ロシアの見方(スプートニク)

2016-02-19 18:46:42 | 国際
 もし以下の指摘が事実なら、イギリスはEUの解体をはかろうとしている。

 アングロサクソンのつながりと、それに依拠すねイギリスの国際的初協力の維持と、EU頭語の新華による主権喪失がもたらす英国独自の国際的影響力の低下と、このせめぎ合いの中でイギリスはイギリスの道を選ぼうとしているようにみえる。

「専門家らは、EUサミットがこうした形で失敗した事は、確実にメルケル首相にとって大きな打撃となると見ている。もしEU側の条件に英国が満足せず、英国がEUを脱退するとなれば、EUは危機に陥るからだ。そうなれば責任は、他ならぬドイツにあると非難されるだろう。
消息筋の情報では、もしドイツ国境が、すべての移民に広く開かれる事がなかったならば、英国のキャメロン首相の最後通牒もなかったとの見方が根強い。EU内では、もし英国との合意に失敗すれば、メルケル首相の退陣も有り得るとの声がすでに上がっている。

英国のキャメロン首相は、英国のEU残留を支持する用意があるとしているが、現状を好ましいとも捉えていない。キャメロン首相は、EUに対し以下の4つの要求を突き付けている。一番目は、移民政策に関する自主性の保証、二番目は、欧州の統合強化及びEU機関への新たな権限付与の断念、三番目は、複数通貨の容認、つまりポンドにユーロと同様のステーサスを与える事、最後四番目は、健全な競争の保証である。」

http://jp.sputniknews.com/europe/20160219/1636071.html

初のロシア人東大生エリセーエフ/ロシアNOW

2016-02-17 14:06:20 | 国際
*ここで紹介されるエリセーエフの実家は帝政時代の大富豪。しかし創設者は元農奴だった。身を起こし立ち上げた事業は、今改めて注目されている。建物も美しいのでぜひご覧ください。
 →http://jp.rbth.com/multimedia/pictures/2016/02/13/567115

「 エリセーエフは1889年1月1日、サンクトペテルブルクの富豪の商家に生まれた。父親はサンクトペテルブルクのネフスキー大通りとモスクワのトヴェリ通りの幹線道路で、ロシア最高の食料品店「エリセーエフ商店」を経営していた。現在でも店は残っている。ロシア革命や戦争などで生活が大きく変化する中、店というより美術館といった方がふさわしい、美しいエリセーエフ商店は、100年もグルメ天国となり続けている。

セルゲイ・エリセーエフ

 エリセーエフ一家は、自分の人生だけでなく、自分を取り巻く社会に貢献できる、エネルギッシュで教養の深い人を高く評価していた。セルゲイは子ども時代、外国語の学習に熱心で、しばしばヨーロッパを訪れていた。11歳の時、パリ万博で日本館を見て魅了される。最終的に日本を研究しようと決めたのは、1904~1905年の日露戦争でロシアが敗戦した後。敗因を理解しようとしたのだ。1907年にベルリンに行き、そこで日本語の勉強も始め、1年後に東京帝国大学に入学。

卒業式で驚いた明治天皇

 東大を卒業した初のヨーロッパ人となった。1912年の卒業式で、明治天皇が「この方は?」と上田萬年学部長に質問したことを、セルゲイは後年楽しそうに話していた。「明治天皇があまりにも驚いていたため、まわりは卒業証書を渡すことを遠慮した」 という。

 エリセーエフは成績優秀だった。日本史を隅から隅まで学び、古事記から夏目漱石まで、日本文学の深遠な知識を得た。夏目漱石とは2年の時に知り合い、しばしば遊びに行って芥川龍之介や小宮豊隆などの有名な文学関係者と親交を深めた。大学での忙しい勉強以外にも、日本語を早く自由に話せるようにと、家庭教師を3人雇っていた。そのエネルギーは、人生や家族への愛と同様に尽きることがなかった。ヨーロッパ系美男子で教養のあったセルゲイは、芸者遊びを愛し、東京の美女たちと知り合いになった。


革命後の波乱の亡命生活

 大学卒業後も、2年間東大で松尾芭蕉を研究し、その後ロシアに帰国してサンクトペテルブルク大学の私講師になった(私講師は、教授職には就いていないが、審査には合格して教授資格はもち、教育活動を行っている者の役職名)。

 だが1917年に起こったロシア革命は、そこでの学者としての道を閉ざした。ロシア有数の富豪の息子だったことから、抑圧の対象となり、1920年にフィンランド、その後フランスに亡命。

 パリの街角で東大時代の知り合いである若き外交官(後に首相となる芦田均)と偶然会い、日本大使館に就職。その後ギメ東洋美術館の日本コレクションの管理者となり、次にソルボンヌ大学の教授になった。フランスの日本研究学校の創設に大きく貢献したことから、フランスの市民権を授与され、その後セルジュ・エリセーエフというフランス名で知られるようになる。1934年、ハーバード燕京研究所と中国・日本研究センターの所長になる。


マッカーサーに日本の文化財保護を要請

 アメリカの日本研究界では、父・創設者の一人に数えられている。初期の教え子の中に、エドウィン・ライシャワーがいることを考えると、その功績には納得できる。ライシャワーは優れた日本研究者、駐日アメリカ大使、また1960~1970年代の対日アメリカ政策の立案者の一人である。

 アメリカ人の日本研究家の多くは、第二次世界大戦の時、ダグラス・マッカーサー元帥に助言を行っており、またそれはエリセーエフの教え子、または教え子の教え子であった。私が冒頭に書いた京都の話は、この時期のできごとである。

 後の本人談によると、アメリカ人が京都を攻撃すると考え、マッカーサー元帥にそれをしないよう要請した。攻撃された場合、日本だけでなく、世界の歴史と文化の遺産である数百堂の独特な寺と、数万の一般市民の命が消える。またそのような攻撃があれば、日本人の抵抗は強まるだけだと考えた。エリセーエフがマッカーサー元帥にどれほどの影響を与えたのかは不明。だが京都は攻撃されなかった。

 エリセーエフは1956年、年金生活に入り、その後パリに戻って1975年に生涯を閉じた。最後まで日本から訪れる自身のファンを歓迎し、日本人自身も忘れかけていた明治時代末期の美しい日本語で会話しながら客人を驚かせていた。なぜ救われた金閣寺を、日本の僧侶が燃やしてしまったのかについて、日本のガイドは今でも理解できないでいる。」

http://jp.rbth.com/blogs/2014/07/24/49311

露土の関係悪化はどこまで

2016-02-12 17:48:53 | 国際
「 ロシアとトルコの関係の緊張が高まっている。トルコは先月30日、ロシア軍の爆撃機Su-34が同国の領空を侵犯したとして、再びロシアを非難。「対抗措置」として、戦闘態勢を橙色レベルまで引きあげたと発表した。これはトルコ空軍が司令部の承諾なしに、違反者に対して発砲できるものである。ロシア軍事司令部は、領空侵犯を完全否定している。



再び撃墜される可能性は

 トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、困難な状況で悪化ゲームをするのが好きな政治家である。ゲームの際、賭け金を徐々につりあげていく。エルドアン大統領の最近の独立心の強さは、アメリカさえをもいら立たせるようになっている。それでも、ロシア軍機が撃墜された事件では、北大西洋条約機構(NATO)はトルコの立場との連携を表明した。同時に、双方に自制を呼びかけていた。

 自制がなかった場合はどうなるのだろうか。トルコが、挑発を意図する場合も含めて、再びロシアの航空機を撃墜する可能性はあるのだろうか。

 再度の撃墜は昨年11月に爆撃機Su-24を撃墜した時よりも難しくなる。シリアのラタキアのフメイミム空軍基地周辺にはすでに、地対空ミサイル・システム「S-400」が配備されている。このようにして、シリア北部にはトルコ空軍向けの事実上の「飛行禁止区域」が設定された。許可および予告なしにこの区域に侵入した者は、撃墜されるリスクを負う。



シリアにおけるトルコの国益

 トルコ軍の下部組織が地上戦という形でシリア紛争への関与を強めそうなことが、状況をさらに難しくしている。「地上」での軍事的関与の主な目的とは、対「イスラム国(IS)」戦というよりもむしろ、シリア北部でのクルド人民兵組織の台頭を最小限に抑えることのようである。「飛行禁止区域」が存在する状況で地上戦を行うことを、トルコは受け入れられるだろうか。それはないだろう。

「トルコとの関係改善見通せない」
 シリア上空でのロシアとアメリカ空軍の協力は作戦当初から確立されていたが、ロシアとトルコ空軍の協力となると、Su-24撃墜事件以降、双方の接触は完全に途絶えている。したがって、軍事衝突の危険性は、たとえ偶発的であったとしても、何倍にも高まっているのである。

 トルコはロシアとの対立において、当然のことながら、NATOの結束に期待している。だが、エルドアン大統領の危険なゲームのとらわれの身になるかもしれないのだから、NATO加盟国すべてが諸手を挙げて喜べるわけではない。エルドアン大統領の戦略的な目標は、アメリカや他の西側の同盟国の目標とは大きく異なる。トルコの特殊機関と政治家がISと「いちゃついている」こと、イスラム主義者との戦いにおけるクルド人の役割の受け止め方がトルコとアメリカで大きく違うことなど。

 トルコはほぼ公然と欧州連合(EU)をゆすっている。EUがトルコに譲歩しなければ、数十万人の難民をヨーロッパに流せるぞと。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がトルコに約束した、トルコにシリア難民をとどめるための30億ユーロ(約3900億円)の支援も少ないと考えている。ちなみにトルコには現在、難民が少なくとも200万人いる。メルケル首相はさらに、トルコのEU加盟交渉を再開し、年内にもビザなし制度を設けることもほのめかしている。多数の難民が留まっている、人口8000万人の巨大なイスラム教の国トルコとのビザなし制度は、まさにEUが今“夢見ている”ことだ。

 エジプト上空でロシアの旅客機に対するテロ攻撃が行われたことは記憶に新しいが、ロシアの特殊機関の消息筋は最近、テロの痕跡がトルコに続いていると話した。具体的には、テロ組織「灰色の狼」である(この組織はヨーロッパでもテロ組織と認定されている)。


露土関係についての専門家の見方
 このようにして、今のところ非公式ではあるが、国際的なテロリストを少なくともかくまっているという非難が、トルコに向けられた。これに新たな証拠が浮上した場合、エルドアン大統領の西側における立場はさらに低くなる。

 これらの要因が必ずしも、トルコ軍に頼った軍事作戦を含む、今後の危険な作戦をエルドアン大統領に思いとどまらせるとは限らない。かといって、これはロシア空軍がトルコの脅威に怯え、シリアで荷物をまとめて家に帰ることも意味しない。ロシア空軍はまだ作業を終えていない。さらに、プーチン大統領は、圧力に屈する政治家の中には入っていない。



ゲオルギイ・ボフト―政治学者、外交防衛政策会議メンバー」

http://jp.rbth.com/opinion/2016/02/04/564803