白夜の炎

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世界の進歩に取り残されるアラブ ―ヨルダン知識人の自己批判―/メリムより

2016-03-18 13:34:02 | 中東
「思想、哲学、科学、社会、教育、文化、創造活動の面で、世界は日々進歩している。後進的な男女差別の思考からも解放されようとしている…。

これは、アラブ地域から離れた諸国で起きている。そこでは彼等は科学、文化を発展させ、人文、科学、芸術等でトップをめざして競いあっている。一方我々は、この面のすべてにおいて底辺で停滞しているのである。いくつかの国では、このような活動が全然見られない。

平和、医学、生理化学、物理、経済及び文学のノーベル賞受賞者を生み出すのは、前述の諸国であり、アラブは殆んどいない。授賞式では聴衆席にいるか、テレビで見るだけである。

我々は、かつての栄光を思い出して、我々自身を慰めるだけである。かつてはムスリムに研究者や思想家がいた。例えば、アル・ラジ※2、アル・ファラビ※3、イブン・シーナー※4、アル・キンディ※5、イブン・ルシュド※6、イブン・ハルドゥーン※7などがいた。我々が誇りに思うそのような錚々たる人物の大半は、非アラブ人であったし、礫打ちの刑で殺され或いは投獄され、著書を焼かれ、或いは異端として非難された。それでも我々は人文及び文化上の理由から彼等を誇りに思う…。

我々の問題は、ノーベル賞をとれないことにとどまらない。思想の自由、人権、メディア、ジェンダー、環境、水、腐敗撲滅戦争等の面で尊敬すべき地位にない。問題はそこにある。すべての分野で我方諸国は最後尾に位置する。

オリンピックに出場すれば、我方諸国は、〝参加すること(だけに)意義あり〟の状態で、メダルを狙う段になると、自前の選手に期待できないので、他国の有望選手に国籍を与えて、出場させることになる。我々の代表になったコモロ島の選手が、 金メダルをとれば、あたかも彼がエルサレムを解放したかのように、大騒ぎする(注、コロモはイスラム連邦)。ケニヤ、ギニア、或いはシエラレオネは、アラブ諸国が束になっても敵わない。22ヶ国がメダルひとつで大騒ぎするのに、彼等はその10倍はとり、更にその上をめざす。経済力からいえば全然比較にならない。いくつかの国―多分すべてのアラブが―ケニヤ、シエラレオネ等より収入が多いだろう。しかし何十億何百億という金は、スポーツクラブなどに浪費され、人材育成に投資されることはない。

我々は、前進する代りにすべての分野で逆走している。スポーツで劣り、芸術では誰もいない。政治の分野では人質同様、列強の言いなりである。動きを期待されれば動き、沈黙を要求されれば黙る。経済面でみると、我々は福祉国家ではない。イデオロギー面では我々が影響されることがあっても、影響力を及ぼすことはない。人道面では我々は他者を受入れず、拒否する。我々は、我々と考えの違う者を不信心者として非難する。我々は常に正しく、世界が我々を打倒するため、陰謀を企てているとし、物事を論理的に考えようとしない。論理的帰結を受入れず、避ける。我々は、我々を互いに傷つけ殺し合っているのは我々自身であることを、認めることができない。互いに殺し合い血を流すのは、先祖の遺産を口実にしている。かれこれ1500年程になろうか。さまざまな流れと宗派間に民族的宗教的紛争の種をまく意図ありという口実である…。

諸君、我々の車はギアが逆走状態になっているので、前へ進めない。この間世界はどんどん進んだ。もう数世紀、恐らくは10世紀も我々は遅れている。我々は現世代のための船に乗り遅れている。現世代を矯正することはできない。手遅れである。我々は目をはっきり覚まして、資金と人材を次世代のために投資しなければならない。そうできるか。それが問題である。

※1 2016年1月6日付 Al-Ghad(ヨルダン)

※2 アル・ラジ(Abu Bakr Al-Razi 865-92)はペルシアの哲学者。アラビア語で執筆し、ムスリム世界の卓越した医者のひとり。

※3 アル・ファラビ(Abu Nasr Al-Farabi 872-950)ムスリムの数学者、科学者、医者、哲学者で、心理学、社会学、宇宙論、論理学、音楽、の諸分野で貢献があった。知識においてアリストテレスに次ぐ人物といわれ、第二の師として知られた。

※4 イブン・シーナー(Abu `Ali Hussein Ibn Al-Sina 980-1035)。ペルシアの医者、哲学者、科学者。科学史家G・サートンは、「史上最高の思想家で、医学者のひとり」と評している。

※5 アル・キンディ(Abu Yousuf Al-Kindi 801-873)。アラブ・ムスリムの哲学者、数学者、音楽家、医師。「アラブの哲学者」と呼ばれ、アラブ・イスラム哲学の父と考えられた。

※6 イブン・ルシュド(Abu Al-Walid Ibn Rushd 1126-1198)。ムスリムの医者、哲学者。スペインのコルドバに生まれ育ち、そこで仕事をした。中世ヨーロッパ哲学に大きい影響を与えた。

※7 イブン・ハルドゥーン(`Abu Al-Rahman Ibn Khaldun 1332-1406)。著名なアラブ人歴家、史料編纂者。史料編纂、社会学、及び経済学研究の父祖のひとりと考えられる。」

http://memri.jp/bin/articles.cgi?ID=SP633616

シリア内戦はもはや泥沼化していない 今起きているのは.../ハフポト

2016-02-19 12:22:17 | 中東
「ベイルート ―2016年2月2日深夜、そのニュースは飛び込んできた。トルコとアレッポ間の「すべての通信と補給線」が遮断されたという、アルライ・メディア・グループの著名な戦地特派員イライジャ・マグニエからの報告だった。報告は間違いなさそうだ。シリア政府軍とこれに従う民兵組織は、ヒズボラとロシア空軍の支援の下、反政府勢力の支配地域内を帯状に制圧、アレッポに拠点を置く反政府勢力をトルコ国境から孤立させた。下の地図を見て欲しい。いわゆる「イスラム国」(IS)の補給線も、同様に断ち切られているのが分かる。

戦略上とりわけ重要な地点が、ムラサート・カーンの村、そしてアレッポ北隣のいくつかの町だ。このエリアを支配下に置くことで、政府軍はアレッポとトルコを結ぶ、反政府側の主要な補給路を断つことに成功した。これによってアレッポ包囲網が整い、またISのトルコへの石油輸送ルートもなくなった。このまま行けば、政府軍は反政府側の支配地域にさらに進攻し、現在アレッポ東部を囲むように支配する全反政府勢力(主にヌスラ戦線とISIS)をやがて包囲することになるだろう。

north aleppo map地図提供 Syria Direct.

緑:反政府軍の支配地域

赤:政府軍の支配地域

灰色:ISの支配地域

黄:クルド人民防衛隊(YPG)の支配地域



アレッポ在住で、シリア情勢に詳しいエドワード・ダーク(仮名)は2月3日のツイートで、「アレッポのジハード戦士たちにとっては、これは終わりの始まりだ。4年にわたる戦争と恐怖に、ついに終わりが見えてきた」と述べた。

しかし、一歩引いてシリアを眺めてみると、下の地図(少し古いものだが)の示すように、より大きな絵が現れてくる。

下の地図をよく見て欲しい。黄色い部分はシリアのクルド人が支配する地域だ。本当は「支配」という言葉は適切ではないが、それでも、黄色の地域はシリア政府軍に友好的な土地と言ってよい。クルド人民防衛隊(主にクルド民兵から成る武装組織、YPG)はロシア空軍の支援を受けている(時にはアメリカ空軍の支援も受けている)。

アフリン州(北西端の黄色の部分)は、かつてアメリカのCIA(中央情報局)がトルクメン山高原沿いに反政府連合への補給を行っていたと言われる場所だ。ラタキア地方は現在封鎖されつつある。

north syria map地図提供 Al-Masdar/The Arab Source.


もしも政府側が北部に進軍して北東部のクルド人勢力と合流すれば、ヌスラ戦線をはじめとするほぼすべての反政府連合はほとんど取り囲まれてしまう。人口もまばらな森林地帯を背に、彼らは混沌状態に置かれることになる。

グレーはISの支配地域だ。その細長い形をした回廊は、特にジャラブラス付近のトルコ国境では問題なく通行可能な状態が続いている。トルコはこの現状が「レッド・ライン」だと宣言している。つまり、万一ここがシリアのクルド人勢力に封鎖された場合、トルコはシリア進攻も辞さないと言っているのだ。しかし、YPGは国境封鎖も視野に入れていると言う。

ここ数日間、ロシア国防省の報道官は、トルコがシリアへの軍事行動を進めていることを示す明白な証拠があると警告を発した。この声明には、トルコのそのような動きを牽制するロシア側の狙いがあるものと見られる。

その一方、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はIS支配地域とトルコとの国境を封鎖するというロシアの意向を(トルコをはじめとする各勢力に対し)はっきりと示した。ラブロフ外相は「停戦状態を確実に維持するには、トルコ・シリア国境を違法に通過するものが民兵組織の手に渡ることを阻止しなければならない」と言い、「国境封鎖抜きにして、停戦合意はありえない」と述べた。ロシアは、トルコのいかなる介入も直接戦争へとつながる危険があるとやんわり警告しているわけだ。このところ実際に、ISは国境地帯から撤退し始めているようである。

lavrovロシアのラブロフ外相、2月3日オマーン。 (Alexander Shcherbak\TASS via Getty Images).


短気で知られるトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領のことであるから、この先まだ何が起こるか分からない。シリアのクルド人が国境を越えてトルコ側のクルド人地域に入り込むことを防止することを名目にして、シリア北部に進攻を開始することも考えられる。しかし、もしトルコがそのようなことを単独で行えば、トルコはNATO(北大西洋条約機構)の支持を完全に失うことになるだろう。しかもトルコ軍を派遣しようにも、そこにはシリアでの制空権を完全に握るロシア軍が待ち構えている。ロシア空軍はトルコとの国境線ぎりぎりまで展開しているのだ。

こうしたトルコの軽卒な行動を思いとどまらせるため、ロシアは(トルコのF16をはるかにしのぐ)最新鋭の戦闘機を複数機配備したと伝えられている。シリア空軍の戦力もまた、ロシア側からの補修や改良を受けて強化された。

だから、このような現状を踏まえて大胆に言えば、シリアの向かう先は、多くの西側の政治家の言うような「泥沼」などでない。むしろ、軍事的に明らかな結末へと向かっているように見える。ある事情通が語ったように、交渉の舞台はジュネーブではない。本当の交渉はイドリブやアレッポの戦場で行われている。そして、その交渉の結果が、反政府軍を事実上包囲し追いつめるということなのだ。

地上戦でいくらかの軍事的優位に立った反政府側が、そのまま局所的なゲリラ戦に突入するという事態にもなりそうにはない。下の写真は、シリア政府軍やヒズボラの部隊が反政府軍から奪還した村へ入るときのものだが、これらを見ればまた違ったストーリーが見えてくるだろう。


要するに、ヌスラ戦線の戦士(彼らは主にシリア人だ)や他の反政府組織が地域の中に身を隠そうにも、隠す場所がないということだ。毛沢東の言葉の通り、水がなければ魚は住めない。彼らは世間の支持をほとんど得られないだろう。シリアには優れた諜報機関がある。今後1年以内に、散り散りになったイスラム聖戦士の大半が、一般人に見つかって、スパイ機関に通報されるかもしれない。反政府勢力はそれだけの苦しみを民衆に与えてきたのだ。その多くは捕まって命を落とすことになるだろう。

このような深い傷を負ったシリア人たちは、打ちひしがれた敗北の民となるのだろうか。それともこの難局を乗り越え立ち上がるのだろうか。

私は混乱のシリアを訪れた経験から、シリアの人々が再び力強く羽ばたくことを信じて疑わない。これでシリア人の魂には筋金が入ったのだから。

私はまた、シリアがすぐに地域の強国としてよみがえると思っている。この周辺地域の中でも強力で安定した北部、特にイラクとのより緊密な関係でそれを証明することになると思う。しかも、これと歩調を合わせるように、ペルシア湾岸諸国の中には陰りの見えてきた国々もある。

aleppo
ロシア軍によると思われる空爆のがれきの上に立つ自営団メンバー。シリアのアレッポ、2016年2月5日。 (Firas Taki/Anadolu Agency/Getty Images).


アメリカや多くのヨーロッパ諸国のエリートたちにはこの結果は受け入れがたいものだろう。西洋諸国の外交官や軍人たちは、何の政治的成果も生まない泥沼や、停滞を招くだけの取り繕いに終始し、真の問題解決を図ろうとはしてこなかった。シリア問題がロシア、イラン、ヒズボラの直接介入で決着を見るというシナリオは、苦杯そのものに違いない。それでも重大な意味がそこにはある。

その1つはすでに明らかだ。オバマ政権はアメリカ議会に対し、ヨーロッパへの安全保障援助を4倍に引き上げるよう求める意向であると発表した。多極化の兆しが現れている。4プラス1連合(シリア、イラク、イラン、ロシア、そしてヒズボラ)が中東各地で(そして中央アジアでも)安全保障体制の柱となる可能性が高い。中国もこの新体制に今後ますます接近を図って行くだろう。中国経済の未来をかけた一帯一路構想はシリアやイラクだけでなく、イスラム教ワッハーブ派の出方次第でも大きく影響が出るからだ。

中国当局者の話では、アメリカがワッハーブ派を利用して中国の新構想の妨害工作を再開する動きもあるという。

シリアで舐めた苦杯と、ロシアとイランの躍進。これでシリア発の新基軸に対する欧米の姿勢は強硬化するのだろうか?この基軸は反欧米とみなされることになるのだろうか(実際には反欧米ではないのだが)?それともヨーロッパはNATOの条件反射的衝動を抑え、何らかの協調路線を探っていくのだろうか?どう転んでも、見通しは明るいものではない。」

http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/18/syria-war_n_9260648.html?utm_hp_ref=japan-world

中国第4世代原発、世界に向け一歩前進 2016年 1月21日

2016-01-24 15:31:47 | 中東
「 中国核工業建設集団公司が発表した最新の情報によると、同社の王寿君董事長(会長)とサウジアラビア「原子力・再生可能エネルギー都市」の代表者は、習近平国家主席のサウジアラビア訪問中に「サウジアラビア高温ガス冷却炉プロジェクトの業務提携覚書」に調印した。これは両国が「1ベルト、1ロード」(シルクロード経済ベルト、21世紀海上シルクロード)を実行に移すための重要な措置であり、中国の第4世代原発技術・高温ガス冷却炉の海外進出実現の重大な進展となった。科技日報が伝えた。

 同社によると、高温ガス冷却炉は中国が完全に独自の知的財産権を持つ第4世代先進原発技術であり、固有安全性、さまざまな用途、モジュール化建造といった特長とメリットを持つ。いかなる状況下でも、メルトダウンや大量の放射性物質の漏えいといった事故が生じることはなく、人類の健康や環境に影響をおよぼすこともない。

 同社は国内の福建省、広東省、江西省、湖南省などの各地で、60万kW高温ガス冷却炉の準備作業を順調に進めているほか、海外のサウジアラビア、アラブ首長国連邦のドバイ、南アフリカなどの国と地域で、高温ガス冷却炉の業務提携に関する覚書に調印している。今回のサウジアラビア「原子力・再生可能エネルギー都市」との提携の実質的な進展により、高温ガス冷却炉の固有安全性を確保するほか、その多用途性で現地の電力供給、海水淡水化、石油化学工業の需要を満たすことができる。その柔軟なモジュール化設計により、異なる電力網の需要に適応できる。特にサウジアラビアなど「1ベルト、1ロード」沿線国の電力網に適しており、関連産業をけん引することができる。」

http://www.spc.jst.go.jp/news/160103/topic_4_04.html

イスラム国を理解するには、サウジアラビアの過激主義「ワッハービズム」を知らなければならない/ハフポト

2014-09-12 15:02:24 | 中東
「イスラム国の劇的な出現は西側の多くの人々に衝撃を与えている。そして多くの人が困惑して、恐怖を感じている――その暴力と、イスラム教スンニ派の若者たちへの明らかな求心力にだ。さらに、この出現に直面したサウジアラビアの迷走を厄介に、また不可解に感じ、首をかしげている。「サウジはイスラム国が自分たちをも脅かしていることに気付いていないのだろうか?」と。

今でさえ、サウジアラビアの支配階級のエリートたちは分裂しているように見える。ある者たちは、イスラム国がイランのシーア派の"武力"にスンニ派の"武力"で対抗するのに拍手喝采だ。新しいスンニ派国家が、まさに彼らがスンニ派の歴史的遺跡とみなす中心地で具体化しているからだ。そしてそれらはイスラム国の厳格なサラフィスト(サラフと呼ばれる初期イスラムの時代を理想とするサラフィー主義の一派)・イデオロギーにより出現している。

他のサウジ人たちはもっと恐れており、ワッハーブ派(18世紀半ばにアラビア半島に起こった復古主義的なイスラム改革運動)のイフワーン(サウジアラビアの建国を支えた民兵組織)によるアブドゥル・アジズ・イブン・サウード(サウジアラビア初代国王)への反乱の歴史を思い出している。(お断り:このイフワーンはイスラムの兄弟関係を意味するイフワーンとは無関係である。――今後のすべての言及はワッハーブ派のイフワーンに関するもので、イスラムの兄弟関係のイフワーンについてではないことにご注意いただきたい)。イフワーンは1920年代末に、ワッハーブ派とサウド家をほぼ崩壊寸前まで追い込んだ。

多くのサウジ人はイスラム国の急進的教義に深く困惑している――そして、サウジアラビアの方向性と論理のある部分に疑問を投げかけ始めている。

サウジの二重性

イスラム国をめぐるサウジアラビアの内的不調和と緊張は、この王国の教義上の構造やその歴史的起源のまさに核心に存在する、固有の(また持続する)二重性を知ることで初めて理解できる。

サウジのアイデンティティーの1つの支配的な鎖は、ムハンマド・イブン・アブドゥル・ワッハーブ(ワッハーブ派の創始者)と、イブン・サウードにより示された急進的で排他的なピューリタニズムの採用に直接つながる(後者は当時、非常に乏しい灼熱のネジド砂漠でベドウィン部族たちを襲い続ける多数の指導者たちにまぎれた、目立たないリーダーの一人に過ぎなかった)。

この複雑な二重性への2つ目の鎖は、1920年代の、アブドゥル・アジズ王に続く国家体制へのシフトに正確に結びつく。彼がイフワーンの暴力を抑制したこと(イギリスやアメリカに対し国家として外交的立場を取るため)、ワッハーブ派の元来の衝動を制度化したこと、そして続く1970年代の、絶好のタイミングで押し寄せてきたオイルマネーの蛇口を捕らえたこと、変化しやすいイフワーンの流れを内側から外側へ向けさせたことだ。それらはイスラム世界全体に、暴力革命よりも文化革命を拡散させることによって実現した。

しかしこの"文化革命"は穏やかな改革主義ではなかった。それはアブドゥル・ワッハーブが自らの内に知覚した、腐敗と逸脱へのジャコバン派に似た憎悪に基づく革命であり、すべての異端と偶像崇拝を粛清するよう求めるものだった。

イスラムの詐欺師たち

アメリカの作家でジャーナリストでもあるスティーブン・コールは、14世紀の厳格なイスラム法学者イブン・タイミーヤの厳しくて口やかましい弟子、アブドゥル・ワッハーブが、"上品さ、芸術家気取り、喫煙、大麻吸引、太鼓を叩くエジプト人、そしてアラビアを縦断してメッカへ祈りに行くオスマン貴族"をいかに軽蔑していたか書いている。

アブドゥル・ワッハーブの思想によれば、彼らはイスラム教徒ではない。イスラム教徒の仮面をかぶった詐欺師だ。もちろん、地元のベドウィン・アラブ人の振舞いを、もっとましだと思ったこともない。彼らは聖人をあがめ、墓石を建て、"迷信"(たとえば墓や、特に神聖とみなされる場所をあがめたりすること)に従うことで、アブドゥル・ワッハーブを怒らせた。

これらの振舞いすべてを、アブドゥル・ワッハーブは異端――神により禁止されている、として非難した。

昔のタイミーヤのように、アブドゥル・ワッハーブは預言者ムハンマドがメディナ(イスラム教の聖地)にいた期間こそ、すべてのイスラム教徒が倣おうとすべき理想的なイスラム社会("最良の時代")だったと信じていた(本質的に言って、これがイスラム教の最も保守的な思想であるサラフィズムにほかならない)。

タイミーヤはシーア派、スーフィズム(イスラム教の神秘主義思想)、そしてギリシャ哲学に対し宣戦布告した。彼はまた預言者の墓を訪れて誕生日を祝うことにも反対し、そのような振舞いはすべて、イエスを神として崇拝(つまり偶像崇拝)するクリスチャンのまねごとにすぎないと宣言した。アブドゥル・ワッハーブはこれら初期の教義すべてを吸収し、こう言った。イスラム教義のこの特定の解釈を受け入れる面で、信者の側に「なんであれ疑いや躊躇」があれば、「その者は財産や命を免除される権利を奪われる」べきだ。

アブドゥル・ワッハーブの主要な教義のひとつがタクフィール(不信仰者の宣告)の主要な考えとなった。タクフィールの教義のもとでアブドゥル・ワッハーブと彼の追随者たちは、何であれ絶対の権威(すなわち王)の主権を侵害するような活動に携わった仲間のイスラム教徒を異端者とみなすことができた。アブドゥル・ワッハーブは、死者、聖人、天使をあがめたイスラム教徒すべてを非難した。そのような感情は、神に対し、また神にのみ示されるべき完全な服従を損なうと考えたのだ。よってワッハーブ派のイスラム教義は、聖人や死んだ愛する人に祈ることや、墓や特別なモスクへの巡礼、聖人をたたえる宗教的祭り、イスラムの預言者ムハンマドの誕生日を祝うこと、そして死者を葬る際に墓石を使用することさえ禁じた。

この考えに従わない者は殺されるべきであり、その妻や娘たちは犯されるべきであり、その財産は没収されるべきだと彼は書いている


アブドゥル・ワッハーブは服従を要求した――物理的、具体的に示される服従だ。彼は、イスラム教徒すべては1人のイスラム指導者(カリフ、もし存在するならば)に個人的に忠誠を誓う必要があると論じた。この考えに従わない者は殺されるべきであり、その妻や娘たちは犯されるべきであり、その財産は没収されるべきだ、と書いている。死に処されるべき背教者のリストには、シーア派、スーフィー派、そして他のイスラム宗派、すなわちアブドゥル・ワッハーブが決してイスラム教徒であるとは考えなかった人々が含まれていた。

ここにはワッハービズムとイスラム国を区別するものは何もない。裂け目は後に現れることになる。後の、ムハンマド・イブン・アブドゥル・ワッハーブの教義を制度化した"1人の支配者、1つの権威、1つのモスク"―― これら3つの柱のそれぞれがサウジ王、すなわち正統ワッハービズムにおける絶対的権威を現す、そして"言葉"を支配することだ(つまりモスクだ)。

これが裂け目――イスラム国による、スンニ派が全権を振るうこれら3つの柱の否定――、すなわち他のすべての要素についてはワッハービズムを受け入れるイスラム国を、サウジアラビアの深刻な脅威としているものだ。

ワッハービズム小史
1741年―1818年

こうした超急進的思想をアブドゥル・ワッハーブが擁護したことは、必然的に彼自身が町から追放されることにつながった。そして1941年、放浪を繰り返したあげく、イブン・サウードと彼の部族の保護の元に避難することになる。イブン・サウードはアブドゥル・ワッハーブの高潔な教えがアラブの伝統と慣習を覆す手段になると考えた。それは権力掌握への道だった。

彼らの戦略は、現代のイスラム国と同様、征服した人々を服従させることだ。恐怖を植え込むことがねらいだった


アブドゥル・ワッハーブの教義を手中に収めたイブン・サウードの一族は今や、いつも行っていること、すなわち近隣の村を襲って財産を奪うことができた。ただし今回はただアラブの慣習の範囲で行うのではなく、ジハードの旗の下にだ。イブン・サウードとアブドゥル・ワッハーブはさらに、ジハードの名の下に殉教という考えを持ち込んだ。それら殉教者たちはそのまま楽園へ行くことが保証されるというのだ。

当初、彼らはいくつかの小さな地元コミュニティを征服して自分たちのルールを課した(征服された人々には限られた選択肢しかなかった。ワッハービズムへの改宗、もしくは死である)。1790年までに、この連合はアラビア半島の大半の地域を支配しており、メディナ、シリア、イラクを繰り返し攻撃した。

彼らの戦略は、現代のイスラム国と同様、征服した人々を服従させることだ。恐怖を植えつけることがねらいだった。1801年、この連合はイラクの聖都カルバラを攻撃した。女性や子供を含む何千人ものシーク教徒を虐殺した。預言者ムハンマドの殺害された孫であるイマーム・フセインの寺院を含め、シーア派の寺院の多くが破壊された。

イギリスの役人、フランシス・ウォーデン中尉は当時の状況を観察し、「彼らはそこ(カルバラ)のすべてを略奪し、フセインの墓を・・・略奪した。その日の、独特の残酷な状況の中で、5000人以上の住人を殺害した・・・」と書いている。

オスマン・イブン・ビシャール・ナジ、第一次サウード王国の歴史家は、イブン・サウードが1801年のカルバラの大虐殺に関わったことを記している。彼は誇らしげにその虐殺を記録していた。「われわれはカルバラを制圧し、その民を殺し、(奴隷として)捕らえた。アラーが賛美されますように、世界の主が。われわれは謝罪しない、そして言う、『不信者たちへも、同様の扱いを』」。

1803年、アブドゥル・アジズは、恐怖とパニックにより降伏した聖都メッカに入った(同様の運命がメディナにも間もなく訪れることになる)。アブドゥル・ワッハーブの追随者たちはメッカにある歴史的建造物やすべての墓、寺院を破壊した。1803年末までに、彼らはグランド・モスク近くの何世紀もの歴史を持つイスラム建築物を破壊した。

しかし1803年11月、シーア派の暗殺者がアブドゥル・アジズを殺害する(カルバラの大虐殺の報復だ)。彼の息子、サウド・ビン・アブドゥル・アジズがその後を継ぎ、アラビアの征服を継続した。しかしオスマンの支配者たちはもはや、指をくわえて自分たちの帝国が少しずつ削り取られていくのを見ていることはできなかった。1812年、エジプト人で構成されたオスマンの軍隊はこの連合をメディナ、ジェッダ、そしてメッカから追い出す。1814年、サウド・ビン・アブドゥル・アジズは熱病により死亡した。しかし彼の不運な息子、アブドゥラ・ビン・サウードはオスマン人によりイスタンブールへ連れてゆかれ、陰惨な方法で処刑された(イスタンブールを訪れたある人は、彼がイスタンブールの通りで3日間にわたって辱められ、その後つるされて首を切られ、切断された頭部はキャノン砲で吹き飛ばされ、心臓は切り出されて体の上に突き刺されたと報告している)。

1815年、ワッハーブの軍は決定的な戦いでエジプト人(オスマンのために行動していた)と衝突する。1818年、オスマン人はワッハーブの首都ディルイーヤを制圧し破壊した。ここに第一次サウード王国は消滅した。ワッハーブ派の少数の生き残りが再起のため砂漠に逃げ、19世紀の間のほとんど、そこで沈黙を貫いた。

イスラム国により歴史は繰り返す

現代のイラクにおけるイスラム国によるイスラム国設立が、歴史を思い出す人々の間でどのように共振するかを理解するのは難しくない。確かに、18世紀のワッハービズム思想はネジド(サウジアラビア中央部の高原地域。ワッハーブ派の発祥地)において枯渇しなかった。それは第一次世界大戦の混乱のさなかにオスマン帝国が崩壊した時、唸り声を上げて舞い戻ってきた。

アル・サウードは、この20世紀のルネッサンスにおいて簡潔で政治的に抜け目のないアブドゥル・アジズに導かれた。気難しいベドウィン部族たちを統一し、先に述べた通り、アブドゥル・ワッハーブとイブン・サウードによる改宗者たちとの戦いの思想に基づいたサウジの"イフワーン"を創始した。

イフワーンは、初期の激しい半独立の急進的運動から派生したものだ(そのために自ら進んで武装したワッハーブ派の"道徳者たち"は、1800年代初頭にアラビア半島をほぼ掌握した)。当初と同じように、イフワーンは再び1914年から1926年の間にメッカ、メディナ、そしてジェッダの制圧に成功する。しかしアブドゥル・アジズは、イフワーンによって掲げられる革命的な"ジャコバニズム"が、自分のより広範な関心事にとって脅威になると感じ始めた。イフワーンは反乱し、内戦が始まった。内戦は1930年代まで続いた。アブドゥル・アジズが彼らをマシンガンで射殺し、終結させたのだ。

この王(アブドゥル・アジズ)にとって、それまで数十年間続いていたイスラムの純粋な真理は価値のないものとなってしまった。アラビア半島で石油が見つかったからだ。イギリスとアメリカは、アブドゥル・アジズに言い寄りつつも、なおアラビアの唯一の正当な支配者としてメッカの太守シャリフ・フセインを支持することに傾いていた。サウード家は、もっと洗練された外交的姿勢を示す必要があったのだ。

ワッハービズムは強制的に変換させられた。革命的ジハードと神学的なタクフィールの純化運動から、保守的、社会的、政治的、神学的、宗教的ダワ(イスラム布教活動)と、サウード家と王の絶対的権力への忠誠を掲げる制度を正当化する運動へである。

オイルマネーがワッハービズムに広がる

石油資源が掘り当てられ(フランスの学者ジャイルズ・ケペルが書いているように、サウジの目標は、ワッハービズムを、"ワッハービズ"[ワッハービズム・ビジネス]イスラム国家へ向けてイスラム世界全体に広め、この宗教内部での異なる思想を退けて"単一の信条"にすることだ)、この運動は国家的分裂を克服するはず、だった。このソフトパワー(その社会の価値観、文化的な存在感、政治体制などが他国に好感を持って迎えられ、外交に有利に働くこと)の表明に対して何十億ドルもの富が投資されており、さらに投資されるはずだった。

それは魅力的な何十億ドルもの富、そしてソフトパワーの投影だった。サウード家が推し進めようとした、イスラム教スンニ派を管理しアメリカの利益を促進しようとする意図は、教育的、社会的、文化的にイスラム世界全体へワッハービズムが付随的に埋め込まれた。その結果、西側世界の政策がサウジアラビアに依存するようになった。1945年2月、アブドゥル・アジズが(ヤルタ会議から大統領を連れ戻す)アメリカの戦艦クインシー号でルーズベルトと会談したときから今日までずっと続いてきた。

西側の人々はこの王国を見た。彼らはその富を、見かけだけの近代化を、公言されたイスラム世界のリーダーシップを凝視した。そしてこの王国が近代社会の要求に屈服することになるだろうと予測していた。そしてスンニ派イスラムの指導部も、近代社会のために、王国に屈服するだろうと。

「一方では、イスラム国はワッハーブ派が深く根ざしている。他方で、違った意味で超急進的だ。それは現代ワッハービズムへの是正運動に本質的に見ることができる」。

しかしイスラム教へのサウジ・イフワーンのアプローチは1930年代に断絶していなかった。イフワーンは衰退したが、システムのさまざまな場所に影響力を残していた――だから今、我々はサウジのイスラム国への姿勢に二重性があると見ている。

一方では、イスラム国は深く根ざしたワッハーブ派だ。他方で、異なる意味で超急進的だ。それは現代ワッハービズムへの是正運動に本質的に見ることができる。

イスラム国は"ポスト・メディナ"運動だ。闘争の旗印として預言者ムハンマド自身よりも、2人の正統カリフ(初期イスラム国家の最高権威者)カリフに目を向けており、サウード家の支配権を強く否定している。

サウード家の支配者たちが石油時代に花開き、かつてないほど隆盛したのに伴い、原理主義的なイフワーンのメッセージは主張の拠り所を得た(第3代国王ファイサル王の近代化キャンペーンにもかかわらず)。"イフワーン・アプローチ"は多くの裕福な男女とシャイフ(アラブの族長)たちの支持を得たし、今も得ている。ある意味で、オサマ・ビン・ラディンは、まさにこのイフワーン・アプローチが遅まきながら花開いた象徴であった。

現在、イスラム国が王権の正当性を弱めようとする動きは問題ないとみられている。むしろ、サウード家―ワッハービズムへの原点回帰だと言える。

西側のプロジェクト推進のため、サウード家と西側諸国がこの地域の共同管理(社会主義、バーシズム、ナセリズム、ソビエト、そしてイラクの影響力に対抗して)を行っている。西側の政治家たちは、彼らがサウジアラビア(富、近代化、影響力の拡大)の選択を担ったことを強調している。しかし彼らは、ワッハーブ派の動きは無視することにした。

結局のところ西側の諜報機関は、もっと急進的なイスラム原理主義がアフガニスタンからソ連を追い出すために――また好まれない中東の指導者たちや国家との戦いに、より効果的だと認識していた。

であれば、サウジの情報機関トップであるバンダル王子のサウジ―西側コネクションがシリアのアサド大統領への反乱を指揮するよう命じ、現代のイフワーン的な暴力、恐ろしい急進的活動、すなわちイスラム国を出現させたことに驚きはない。ワッハービズムについていくらか知っているなら、シリアの"穏やかな"抵抗勢力が神話のユニコーンよりも珍しい存在だということに驚くこともないだろう。急進的なワッハービズムが穏健派を生み出すなどと、どうして想像できるだろう。あるいはどうやって"1人の指導者、1つの権威、1つのモスク:服従させよ、さもなくば殺せ"という教義が、最終的に中庸、譲歩につながると想像するのだろうか。

あるいは、多分、想像したこともないだろう。」

http://www.huffingtonpost.jp/alastair-crooke/you-cant-understand-isis_b_5807238.html?utm_hp_ref=japan

オバマの中東政策/酒井啓子氏の論文

2013-09-06 00:52:27 | 中東
 オバマは中東で何をやろうとしているのか。

 さっぱりわからん。

 今回のシリア攻撃予告ニ至る変化について、どう考えたらよいのだろう。

 そう思っていたらネットで酒井啓子氏の論文を発見。

 ⇒http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/35482/1/pas10_25_33.pdf

 専門家向けなので面白く書かれてはいませんが、参考までに。

リビアと似てきたシリア

2013-03-11 15:49:02 | 中東
「米欧指導員、シリア反体制派に軍事訓練=報道

ロイター 3月11日(月)15時44分配信

[ベルリン 10日 ロイター] 独週刊誌シュピーゲルは10日、内戦が続くシリアの反体制派の兵士に、米国の指導員らが対戦車兵器などの訓練を提供していると報じた。訓練の参加者や計画担当者が明らかにしたという。

同誌は米国人が民間企業の職員または米軍に所属しているかどうかは分かっていないとした上で、一部の訓練提供者は制服を着用していると伝えた。訓練はヨルダンで行われ、過去3カ月に約200人が訓練を受けたという。

英紙ガーディアンも、ヨルダンで米国人がシリアの反体制派を訓練していると報道。ヨルダン情報当局筋の話として、英国とフランスの指導員もこのプログラムに参加しているとした。

報道の事実確認はできていない。

米国防総省の報道官はシュピーゲル誌の報道についてコメントを控えた。フランス外務省と英国の外務省と国防省もコメントはないとしている。

米政府はシリア反体制派に医薬品と食糧の支援を実施すると発表する一方で、武器供与は行わない方針を明らかにしている。」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130311-00000065-reut-m_est

イスラエルによるガザ攻撃に対して/日刊べリタより~チョムスキーらの発言

2012-11-18 19:28:32 | 中東
「「ガザで殺人を行っているのは誰か」ーーノーム・チョムスキーらによる報道への呼びかけ


 イスラエルによるガザへの空爆はやむことなく続き、イスラエルは地上部隊投入さえ進めている。しかし日本だけでなく欧米の主流メディアでさえ、ここで殺戮されているのが子どもを含む一般市民であることはほとんど報じておらず、逆にガザから発射されるロケット弾に報道は集中している。

 ノーム・チョムスキーら7人の知識人は講師や事態を憂え、世界のジャーナリストと市民に、「事実を覆い隠そうとする組織的な方針の道具になることを拒否せよと、報道機関で働いている世界中のジャーナリストに呼びかけます。世界の市民には、独立系メディアなどから情報を収集し、どんな手段を使ってでも、できる方法で、自らの良心を声にするよう、呼びかけます」とする呼びかけを発した。折口学さんの翻訳で紹介する。(大野和興)


 欧米各国でこれまでの戦争でなくなった軍人の追悼が行われた(第一次大戦の終結した)11月11日、イスラエルは一般市民に銃口を向けました。翌11月12日の朝刊はこれまでの戦争や現在進行中の戦いで犠牲になった人に関する報道であふれ、読者はこうして新しい週を悲痛な思いで迎えました。

 しかし、これらの報道には、今日の戦争の犠牲者の大半が一般市民であるという事実に言及するものはほとんどありませんでした。

 11月12日の朝の報道には、週末中続いたガザへの軍事攻撃に言及するものも、ほとんどありませんでした。カナダのCBC、『グローブ・アンド・メール』紙、モントリオールの『ガゼット』紙と『トロント・スター』紙、『ニューヨークタイムズ』紙、英BBCをざっと眺めた限り、これが当てはまります。

 11月11日(日曜)の「パレスチナ人権センター(PCHR)」からの報告によれば、それまでの72時間に、2人のパレスチナ治安要員*だけでなく、3人の子どもを含む5人の一般市民がガザ地区で殺されました。

 そのうち4つの命が失われたのは、サッカーをする子どもたちに向けイスラエル軍が砲撃したからです。この砲撃で4人が死亡しただけでなく、6人の女性、12人の子どを含む52人の一般市民が負傷しました(この文を書き始めてからも、パレスチナ人犠牲者の数は増え続けています)。

 ガザにおける殺害を報道する記事でさえも、論点はパレスチナ治安要員が殺されたことに集中する傾向があります。たとえば、11月13日にCBCの世界ニュースが報道したAP通信の記事のタイトルは『イスラエルはガザの武闘派に対する標的殺害の再開を検討中』であり、一般市民の死傷については何も言及がありませんでした。その報道ではイスラエルの殺害は『目標を狙った暗殺』のように描かれました。犠牲者の大半が一般民間人であるという事実は、イスラエルの攻撃が『目標』を狙ったものというよりは、『総体』を対象とした殺害であり、イスラエルがパレスチナ人という総体に罰を与える犯罪を犯していることをあらためて明らかにしました。

 11月12日にCBCニュースで放送された別のAP電は『ガザからのロケット砲撃で、強まるイスラエル政府への圧力』と伝え、イスラエル人女性が自分の居間にできた天井の穴を見つめる写真が添えられていました。もちろん、ガザ地区の数えきれない犠牲者、死者への言及もなければ、それを伝える写真もありませんでした。

 同じように、11月12日のBBCの報道は『ガザからの激しいロケット砲撃の再開にさらされるイスラエル』でした。同じ傾向は、ヨーロッパの主要メディアでも見られます。

 ガザから発射されるロケット弾は一人の犠牲も出していないにも関わらず、報道は圧倒的に、これに集中しています。報道が目を向けないのは無数の重傷者、死傷者を出しているガザへの爆撃であり空爆です。メディア学の専門家でなくても、私たちが目にするのは、ひいき目に見ても粗悪なゆがめられた報道であり、最悪の場合、読者を故意に不正に操作しようとしているものであることがわかります。

 さらにまた、ガザ地区のパレスチナ人犠牲者に言及する記事でさえ、イスラエルの攻撃はイスラエル兵を負傷させたガザからのロケット砲撃に対する報復であるという論調に終始しています。しかし、今回の事件を時系列で見ると、発端は11月5日、アフマド・アル=ナバヒーンという精神障害を持つ何の罪もない20才の青年が国境近くをぶらついていて撃たれたことでした。かけつけた医者たちは6時間も足止めをされ、その遅れが彼の命を奪ったに違いないと思っています。

 そして、11月8日、家の前でサッカーボールを蹴っていた13才の男の子がガザ地区に戦車やヘリコプターを伴って侵攻したイスラエル軍の銃撃で殺されました。

 したがって、11月10日に4人のイスラエル兵が国境付近で負傷したのは、ガザ地区で暮らす一般市民が殺された後のことであり、すでに進行中の事態の一環であり、それが(今回の攻撃の)きっかけとはなりえないのです。

 私たち、下記に署名する者は、最近、ガザ訪問から戻りました。私たちの中にはソーシャルメディアなどを通じて、ガザに暮らすパレスチナ人と連絡をとるものもいます。ガザの住民は2晩続けて眠ることができませんでした。人口が密集するガザ地区内の様々な目標に向けた無人航空機、F16戦闘機の飛来、無差別爆撃が継続的に続いたからです。

 これらの攻撃の意図は住民を威嚇することであり、それが効果を上げていることは、私たちの友人たちの話からわかります。フェイスブックへの投稿がなかったとしたら、ガザで暮らす普通のパレスチナの一般市民が、どれほどの恐怖にさらされているのか、知ることはできなかったでしょう。イスラエルの市民が置かれている恐怖やショックが世界の耳目を集めているのとは、際立った違いです。

 偶然ガザにいて、シーファ病院の緊急病棟で治療を助けたカナダ人医師は次のように報告しています。「負傷者は全員一般市民であり、銃撃による複数の刺創があった。脳や首の損傷、血気胸、心膜タンポナーデ、脾臓断裂、腸管穿孔、切り裂かれた四肢、トラウマを引き起こす切断。これらの治療をするのに、モニターもなく、聴診器も足りず、超音波機械も1台だけ」

「犠牲者の数が多すぎて、重傷でも致命傷ではない怪我人のほとんどは、翌朝に再診断するということで、帰宅させられた。突き刺さった弾片の傷はおぞましかった。表面の傷は小さいのに体内の広い範囲が損傷していた。
… 麻酔のためのモルヒネもほとんどない」

 どうも、ニューヨークタイムズ紙、CBCやBBCにとっては、このような情景は報道に価しないようです。

 西側メディアがパレスチナ人の弾圧に関して偏っており、不正を働いていることはこれが初めてのことではなく、これまでにも指摘されてきたことです。

 にもかかわらず、イスラエル政府は米国、カナダ、EUなど私たちの政府からの暗黙の了解のもと、資金面でのサポート、軍事支援、道徳的な支援を受けながら、人道に反する罪を犯し続けています。

 ネタニヤフは西側からの外交支援をえて、ガザへの新たな侵攻作戦を展開しています。これがあらたな『キャスト・レッド(いわゆるガザ紛争、2008~9)』につながるのではないかと心配しています。実際、最近の情勢、死傷者の数の増加を見るにつけ、段階的な拡大はすでに始まっていることがわかります。これらの犯罪に、広く一般社会が激怒を示さないのは、犯罪の事実が正確に報道されなかったり、ゆがめられて報道される計画的なやり方によるものです。

 私たちは、これらの行為をしっかりと報道しない主要(商業)メディアに対して憤激を表明します。事実を覆い隠そうとする組織的な方針の道具になることを拒否せよと、報道機関で働いている世界中のジャーナリストに呼びかけます。

 世界の市民には、独立系メディアなどから情報を収集し、どんな手段を使ってでも、できる方法で、自らの良心を声にするよう、呼びかけます。

Hagit Borer, linguist, Queen Mary University of London (UK)

Antoine Bustros, composer and writer, Montreal (Canada)

Noam Chomsky, linguist, Massachussetts Institute of Technology, US

David Heap, linguist, University of Western Ontario (Canada)

Stephanie Kelly, linguist, University of Western Ontario (Canada)

M!)ire Noonan, linguist, McGill University (Canada)

Philippe Pr!)vost, linguist, University of Tours (France)

Verena Stresing, biochemist, University of Nantes (France)

***

翻訳:折口学

*「治安要員」と訳しているのは、原文でsecurity personnelとしているところで、通常よく使われるresistance
member や militant という用語を故意に使用していないため、こう訳出した。

**日付に関しては、時差の関係か、1日ずれている箇所もある。

原文: Who is doing the killing in Gaza? Noam Chomsky and others challenge world's media
http://stopwar.org.uk/index.php/palestine-and-israel/2027-who-is-doing-the-killing-in-gaza-noam-chomsky-and-others-challenge-the-worlds-media


Linguists including Noam Chomsky condemn "reprehensible" Gaza coverage
http://electronicintifada.net/blogs/maureen-clare-murphy/linguists-including-noam-chomsky-condemn-reprehensible-gaza-coverage


(2つのリンク先の内容は同じもの)

参照:PCHRの記事 New Israeli Escalation against the Gaza Strip, 7 Palestinians, Including 3 Children, Killed and 52 Others, Including 6 Women and 12 Children, Wounded

http://www.pchrgaza.org/portal/en/index.php?option=com_content&view=article&id=8978:new-israeli-escalation-against-the-gaza-strip-7-palestinians-including-3-children-killed-and-52-others-including-6-women-and-12-children-wounded-&catid=145:in-focus


***

編集部による解説:この記事は14日(現地時間)に、ガザでハマスの軍事部門最高責任者が暗殺され、イスラエルが言う「雲の柱」作戦が開始される前に書かれたもので、すでに現在起っていることを予見している。

 この14日には、暗殺の後、ガザ一帯にイスラエル軍による空爆が行われ、保健省の発表によると、11人が殺害されている。この日のことは「ガザへの攻撃激化 緊急」(P-navi) でも書いている。そこにあるように、イスラエルの大臣は「ガザをreformする」と語り、大規模な虐殺がまた行われるような可能性を示唆した。

 また、このチョムスキーらの文章とだぶるが、 「始まりはいつも同じ 「雲の柱」作戦」(P-navi) でも、14日に先行するガザへの攻撃、一時的「停戦」などをまとめている。

 16日の状況については、日本時間17日午前7時現在までずっと情報を追っているが、「かなりひどい」状態としか言いようがない。

 ガザから数分ごとに発信されてくる情報は、「この10分間に5回の空爆」「建物全体が揺れている」「~~で大きな爆撃」「隣のビルが爆撃された」「~~で○人死亡、○人負傷」という感じで延々と続き、カオスと化している。

 その中ではっきりしたことをまとめると、16日午後の保健省発表によると、14日からの死者は24人以上、うち8人が子どもで4人が女性、3人が高齢者。負傷者は280人以上。

 この発表の後も死傷者の情報は入ってきているので、現在の数は増加していると思われる。

 この発表より早い段階で、450箇所への空爆があったとされている。内務省のビルも爆撃されたとの報告が。

 ガザからのロケット弾発射も14日以降、いちだんと激しくなり、16日には2012年で初めてイスラエル人3人を殺害した。また、飛距離が伸びていることも確認され、テルアビブまで10数キロの地点やエルサレム近郊に着弾(負傷者なし)したとイスラエル当局は発表している。これまでと同じように、大規模な攻撃を受けると、反撃もまた大きくなる。

 ガザでロケット弾がイスラエルの戦闘機を墜落させたという情報もあり、少なくとも1人のイスラエル兵が捕虜になっているとイスラエル筋も認めている。

 イスラエル軍は空爆のほかにも、海からガザの海岸部を攻撃し、またガザ周辺に大量の軍用車両が待機している。

 ガザでは(いつも起こることによるのか、イスラエル軍によるインフラ破壊なのか)停電が起きていて、ネット接続ができなくなっている人からのツイート発信(携帯からか?)もある。

 最も危惧するのは、医療関係での停電、医薬品の不足だ。ガザの基幹病院であるシーファ病院では、発電機のためのガソリンがもう底を尽きていて、あと1日か2日しかもたないという。医薬品も決定的に不足している。医師が停電のため、自分の携帯電話のライトを使い、負傷した子どものバイタルチェックをしている写真が上がってきている。(In photos: Israel attacks Gaza *負傷者の写真あり)

 2008~9年の「キャスト・レッド作戦」(ガザ大侵攻)と同じように、イスラエルの総選挙前、米国の大統領選後に、このような虐殺が続いていることは注目に値する。

 イスラエルの運輸大臣、リクード党のイスラエル・カッツは「すべての責任はハマスにある。ハマスを取り除く」と11日に発言した。その上、ガザから電気、水、食料、ガソリンを取り除くべきだとしている。これが脅しならいいのだが、本当に実行されると、今までにない悲劇が起こることも考えられる。(もう限界なので、ここは大雑把に書いてます)。

 最後に、今、見てしまった嫌な情報。イスラエルの内閣はこの攻撃に関して、予備役兵を7万5000人まで召集できるよう決定したとのこと…。

***

西岸の各地、また世界中ですでに、このイスラエルの攻撃に対して、抗議行動がとられている。(西岸各地の抗議では逮捕者もかなり出ている。なぜ?)フランスでは23都市で、イギリスでも10都市くらい。エジプトやトルコでも何千人もが抗議をしている。こちらにわかっている抗議行動リスト

https://docs.google.com/document/d/1Iq4XZx9Vj0BDIiWzlHi2mUS0VUOn_t-prgtGGCzatQw/mobilebasic?pli=1

(編集責任:ナブルス通信 )」

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201211180012440

レバノンへ戦火拡大/日刊べリタ・村上氏の記事

2012-08-25 15:57:07 | 中東
「シリアの内戦がレバノンに拡大する恐れ


  シリアの政府軍と反政府勢力との闘争は隣国レバノンに転移し、誘拐事件を頻発させているようだ。ニューヨークタイムズの「Assad suspected of stoking fire in Lebanon(アサドがレバノンに戦火を拡大させようとしている可能性がある」)とする見出し記事では、シリア国内で政府軍に近いシーア派と、反政府軍に近いスンニ派が抗争をしていることが描かれている。

  そんな中、シリアで反政府軍に同朋が誘拐された仕返しに、レバノンでスンニ派市民がシーア派から報復のため誘拐されているようだ。先週だけで誘拐されたのは50人に上ると書かれている。

  レバノンで活動している武装勢力「ヒズボラ」はシーア派であり、イランやシリア政府軍と手を結んでいる。一方、シリアの反政府勢力であるスンニ派の背後には西欧諸国とサウジアラビアが潜んでいるとされる。ニュースでは独裁者対民主主義の戦いという構図で描かれがちだが、宗教や西欧諸国の思惑も絡み単純ではないのかもしれない。

  ニューヨークタイムズの同記事の下には「U.S. options shaped by fear that intervention could backfire」なる分析記事が掲載されていた。記事によると、シリアの情勢は1985年のアフガニスタンよりもはるかに複雑化しているとされる。そう分析しているのは当時、CIAのアフガニスタンのムジャヒディンへのテコ入れをサポートしていたMilton A.Beardenなる人物である。

  彼によれば今、シリアの反政府勢力は個人で携帯できる地対空ミサイルを支援国に要求している。Manpadsというものだそうだ。アフガニスタンの時はスティンガーというミサイルだった。これをビン・ラディンらが使ってソ連と闘ったが、やがてこれらの武器がアメリカに向けられることになった。シリアの反政府勢力にテコ入れされる兵器もその後、どこに流れ、どのような使い方をされるのかまったく見えないというのである。そもそもシリアの反政府勢力はどんな政治姿勢を持つ勢力なのかも見えない。自由シリア軍は自由という言葉を掲げているが、彼らの自由とはどのような意味合いなのか?

  実際、昨年リビア政府が崩壊した後、多数の武器が中東やサハラ地域に流れ、その地域で戦争が起きている。あの時も反政府勢力の政治思想は不明のままだった。その後、周辺地域には武器があふれ、政治的にはイスラム原理主義勢力が勢力を拡大している。欧米諸国はアフガニスタンやイラクに介入したが、そのため何人の人間が殺され、最初のお題目だった「民主化」がどのくらい進んだのか、それらは検証が必要である。

■ニューヨークタイムズ「Syria Seen as Trying to Roil Lebanon」
http://www.nytimes.com/2012/08/22/world/middleeast/fears-rise-that-assad-is-trying-to-stoke-sectarian-war-in-lebanon.html?_r=1&ref=hezbollah

■ニューズウィーク誌

  自由シリア軍を支持してきたアメリカ。ところが、アメリカのニューズウィークは最近、自由シリア軍に対する懐疑的な見方の記事を出し始めた。自由シリア軍は「自由」とは裏腹に、イスラム原理主義組織が背後を固めており、イスラム国家の樹立を目指している可能性がある、という記事である。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2012/08/post-2654.php

(http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201208240333005)

シリア内戦は拡大するか?―レバノンへ飛び火

2012-08-25 15:49:07 | 中東
「シリアの国外避難民が20万人超に、戦闘がレバノンに飛び火

CNN.co.jp 8月25日(土)15時36分配信

(CNN) レバノンの国営通信NNAは24日、隣国シリアの内戦がレバノンに飛び火して北部トリポリ市で同日、武装衝突が発生、少なくとも3人が死亡、18人が負傷したと伝えた。

シリアのアサド政権支持、不支持をめぐるイスラム教の宗派間の衝突とみられ、激しい銃撃音などが報告されている。同通信によると、トリポリでの戦闘でスカイニューズ・アラビアの記者ら2人が負傷した。

シリアの国営シリア・アラブ通信(SANA)は、同国軍がテロ組織によるレバノンからシリア中部ホムス県への進出を阻止したと報じた。

一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は24日、近隣諸国へ逃れたシリア住民の総数は20万人を超えたと報告した。

UNHCRの報道担当者によると、シリア避難民の数はトルコで約7万4000人、ヨルダン6万1000人、レバノン5万1000人やイラク1万5800人などとなっている。シリア国内の避難民の数は120万人としている。」

 もともとシリアの影響が強かったモザイク国家レバノンに戦闘が拡大した。

 レバノン南部にはヒズボラがいる。

 バーレーンでは封じ込められているが、シーア派の住民中心の反体制運動もある。

 シリアの内戦は国連の仲介などでは収拾不可能になっており、戦争で決着するしかないが、どちらも決め手を欠き、なおかつ支援国家がいる。

 これにクルドの問題等もかかわってくると、抜き差しならない混乱になりそうだが・・・。

シリアも代理戦争

2012-08-19 19:33:07 | 中東
「 英国諜報機関はシリア反対派に対して、政府軍の移動や行動についての情報を提供している。英国の「サンデー・タイムズ」紙が17日、シリア反対派の情報筋として伝えた。

同情報筋によれば、英国の諜報機関はキプロスから状況を追跡しており、トルコおよび米国に情報を提供しているほか、トルコからシリア反対派に情報が流されているという。

その例として、最近シリア反対派は政府軍がトルコ国境近くのアレッポに軍を進めていることを知ったということで、それによって反対派がその部隊を攻撃することが可能になったという。

インターファックス」

 (ロシアの声 http://japanese.ruvr.ru/2012_08_19/eikoku-chouhou-kikan-shiria-hantaiha-jouhou-teikyou/)

 結局、英米仏対ロシア・中国の代理戦争。

 サウジはアメリカの傀儡。

 イランはロシア・中国の傀儡とは言えないが、支援を受けてシリア政府支持。

 つい数年前まで平穏だった町々が列強の思惑で地獄になっている。

 ひどいとしか言いようがない。

シリアをめぐる対立-田中宇氏のブログより

2012-06-18 18:15:23 | 中東
「田中宇の国際ニュース解説 無料版 2012年6月13日 http://tanakanews.com/

━━━━━━━━━
★シリア虐殺の嘘
━━━━━━━━━

 5月25日、シリア中部の町ホムスの近郊にあるホウラ地区で、村人ら108人
が殺される虐殺事件が起きた。シリア政府は、反政府武装勢力の仕業と発表し
たが、対照的に欧米日アラブの政府とマスコミの多くは、虐殺の犯人がシリア
政府軍であると断定し、日本や米英独豪などが、自国に駐在するシリア大使を
追放した。国連安保理は、シリア政府軍と反政府勢力が交戦をしている間に
108人が殺されたとして、戦車や迫撃砲を使ったシリア政府を非難した。

http://www.rt.com/news/damascus-refutes-accusations-houla-massacre-339/
Syrian government denies involvement in Houla massacre


 ホウラ地区は、以前から反政府勢力が占拠していた。そこの村人が虐殺され
たとなれば、犯人は政府軍だと考えたくなる。欧米では、この虐殺事件を機に
「反政府勢力が占拠する地域を政府軍が攻撃して虐殺を起こす事態が繰り返さ
れぬよう、政府軍と反政府勢力の地域の間に緩衝地帯を設けるべきで、緩衝地
帯の設定のため、国連軍もしくはNATO軍が、シリアに侵攻する必要がある」
という「人道上の軍事介入」を主張する声が強まった。

http://en.wikipedia.org/wiki/Houla_massacre
Houla massacre From Wikipedia


 国連のシリア問題特使のアナン元事務総長は、ホウラ虐殺を「(シリア問題
の緊急性を一気に高める)転換点」と呼んだ。米国のライス国連大使は「国連
が動かないなら(米軍が)国連外で動かざるを得なくなる」と警告した。もは
や、欧米やアラブの軍勢が国連軍もしくは国際軍としてシリアに軍事介入する
のは時間の問題であるようにも見える。シリアのアサド大統領も、リビアのカ
ダフィのように政権転覆され、葬り去られるかに見える。

▼虐殺の犯人は政府軍でなく反政府勢力

 とはいえ、事態をよく見ると、実はホウラで村人らを虐殺したのはシリア政
府軍でなく、反政府勢力の方である可能性が高い。虐殺で殺された村人の多く
は、アサド政権と同じアラウィ派イスラム教徒だった。シリア軍の幹部の多く
はアラウィ派であり、政府傘下の民兵組織のシャビーハも上層部はアラウィ派
である。欧米日マスコミは、シャビーハやシリア軍がホウラの村人を殺したの
だろうと書き立てたが、内部の団結が強いアラウィ派が、同じアラウィ派を殺
すはずがない。

http://globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=31184
THE HOULA MASSACRE: Opposition Terrorists "Killed Families Loyal to the Government"

 半面、反政府勢力は、サウジアラビアに支援されたスンニ派のイスラム主義
勢力(いわゆるアルカイダ)で、アラウィ派やシーア派を敵視し、宗教上異端
なので殺しても良いと考える傾向が強い。殺された村人の中にはシーア派もい
た。政府軍が殺したなら、戦車砲や迫撃砲で家ごと破壊される形になっている
はずだが、殺された村人は至近距離から撃たれたり、のどをナイフで掻き切ら
れたりしている。これは、アルカイダなどサウジ系イスラム過激派が異端者を
殺すときの典型的なやり方だ。虐殺の動機は、政府軍より反政府勢力の方に強い。


http://www.moonofalabama.org/2012/05/syria-massacre-likely-by-al-qaeda.html
Syria: Massacre Likely By Al Qaeda

 アラウィ派はシリアの人口の約1割しかいない少数派で、シリア人の7割を
占めるスンニ派イスラム教徒から宗教的に異端視されてきた。20世紀初頭に
シリアを植民地支配したフランスは、アラウィとスンニの対立を利用し、アラ
ウィを警察官など治安担当の職務に優先的に就かせ、アラウィがスンニを監視
し、その上にフランスの統治が乗る構造を作った。独立後も、シリアの軍や治
安担当部門はアラウィ派が握り、アサド家はこの構図を利用して独裁政治を敷
いた。こうした歴史があるので、シリア軍やシャビーハの指導部はアラウィ派
で占められている。

 ホウラ地区の人口の9割はスンニ派で、地区内の一部の地域にアラウィ派や
シーア派がかたまって住んでいる。反政府勢力は、ホウラ地区の中でもスンニ
派の地域を占拠していた。反政府勢力の地域と、アラウィやシーアの居住地域
をつなぐ道路には、反政府勢力が入ってこないよう検問所とバリケードが設け
られ、政府軍が検問所を守っていた。

 ドイツの主力新聞フランクフルト・アルゲマイネ・ツァイトンク紙によると、
5月25日、ホウラのスンニ派地域を占領していた反政府勢力が検問所を襲撃
し、政府軍と銃撃戦になった。反政府勢力は、一時的に検問所を制圧し、アラ
ウィ派が住む地域に流入した。その後、政府軍の戦車部隊がやってきて加勢し、
90分後に反政府勢力は退散したが、この間に反政府勢力がアラウィ派の家を
一つずつ襲撃し、中にいた家族を、女性や子供にいたるまで、至近距離から
銃殺したり、のどをナイフで掻き切って殺した。

http://www.infowars.com/implosion-of-the-houla-massacre-story-is-anyone-paying-attention/
Implosion of The Houla Massacre Story - Is Anyone Paying Attention?


 この地域には、スンニ派からシーア派に宗旨替えした人々が一家族住んでい
たが、彼らも異端者とみなされて皆殺しにされた。スンニ派でも一家族が皆殺
しにされたが、彼らはシリアの国会議員の親戚の一族で、政府に協力する人々
とみなされたようだ。反政府勢力は、殺された人々を携帯電話などで動画撮影
し「政府軍に殺された人々の画像」としてインターネットにアップロードした。
彼らが犯人であるなら、非常に周到で巧妙な自作自演の犯行ということになる。

http://www.nationalreview.com/corner/302261/report-rebels-responsible-houla-massacre-john-rosenthal#
Report: Rebels Responsible for Houla Massacre


 事件から何日か経って、反アサド的なアラブ諸国の出身者が多い国連の視察
団がホウラ地区にやってきて現場検証した。国連視察団は、虐殺現場の近くで
政府軍の砲弾の残骸を発見し、政府軍が発砲したのだから、虐殺の犯人は政府
軍である可能性が高いと結論づけた。実際は、戦車砲や迫撃砲で殺されたのは、
今回死んだ108人のうち、反政府勢力の兵士など20人だけで、残りは銃殺
やナイフで殺されている。すでに書いたように、実際には、政府軍が反政府勢
力と戦闘している間に、反政府勢力がアラウィ派やシーア派の家を回って虐殺
をしていたという証言があるのだから、政府軍の砲弾の残骸があっても、それ
で政府軍が犯人ということにならない。国連査察団は、アサド政権を転覆した
い米国やサウジなどの影響を強く受けている。

http://www.outsidethebeltway.com/syrian-rebels-responsible-for-houla-massacre/
Syrian Rebels Responsible For Houla Massacre?


▼イラク戦争並みの巨大な国際犯罪

 ホウラの事件より前にも、反政府勢力は、アラウィ派やキリスト教徒といっ
た、スンニ派のイスラム主義者から見ると敵視すべき異端者である人々を虐殺
した上で、犯人はシリア政府軍だと主張しつつ、殺された人々の映像をネット
で世界に流すことをやっていたという証言がある。シリアのキリスト教会の修
道女(Mother Agnes-Mariam de la Croix)が、ホムス近郊のハリディア地区
(Khalidiya)で今年2月に行われた虐殺について、反政府勢力が地区に住む
アラウィ派とキリスト教徒を一つの建物の中に集めて閉じこめた上で、建物に
ダイナマイトを仕掛けて爆発して殺したものであり、報じられているようなシ
リア政府軍やその傘下の勢力の犯行ではないと証言している。

http://www.nationalreview.com/corner/302261/report-rebels-responsible-houla-massacre-john-rosenthal#
Report: Rebels Responsible for Houla Massacre


 シリアのキリスト教徒は人口の13%で、アラウィ派やシーア派と同様、サ
ウジ系のスンニ派イスラム原理主義者から敵視される傾向が強い。

 ホウラの虐殺後、6月6日に、シリア中部の町ハマの近郊にあるクベイル地
区(Mazraat al-Qubair)で再び虐殺が起こり、78人の村人が殺された。欧
米日などのマスコミは、この事件もシリア政府軍の仕業に違いないと書いてい
る。だが、クベイルにはホウラと同様、地区の中にアラウィ派が集まって住ん
でいる地域があり、そこを守っていた政府系勢力(ホウラは政府軍、クベイル
は民兵)と、反政府勢力との間で戦闘が起こり、その間に村人が殺されている。

http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/second-syrian-massacre-qubairs-killing-fields-7827900.html
Second Syrian massacre: Qubair's killing fields


 クベイルでの殺害方法もホウラと同様、多くはナイフで刺殺され、いくつか
の家族が皆殺しにされている。また、犠牲者の遺体の映像が即座にネットに流
され、政府軍の仕業であると事件直後から反政府勢力が主張し、それを米欧日
のマスコミが鵜呑みにして報じている。クベイルで殺されたのがアラウィ派な
のかスンニ派なのか現時点で不明だが、全体的な状況から見て、ホウラと同様
の手口で、反政府勢力が殺害して政府に濡れ衣をかけた疑いがある。

http://www.huffingtonpost.com/2012/06/06/hama-massacre-qubair-syria_n_1575600.html
Hama Massacre: Qubair, Syria, Site Of Fresh Violence, According To Unconfirmed Reports


 6月12日には、米政府の国務省が、シリア沿岸部のラタキア州のハファ地
区(al-Haffa)や首都ダマスカスの近郊など、いくつもの地域で「ホウラ型の
虐殺」が行われそうだと発表した。以前に政府軍と反政府勢力の熾烈な戦闘が
行われ、いったん反政府勢力が撤退していたホムスの中心街でも、再び戦闘が
起きている。

http://www.presstv.ir/detail/2012/06/12/245732/us-predicts-another-massacre-in-syria/
US predicts another Houla-style massacre in Syria


 国連の平和維持軍の司令官は6月12日、シリアの状況について、国連とし
て初めて「内戦」という言葉で表現した。反政府勢力は、早く国際軍がシリア
に軍事介入して政府軍と反政府勢力の勢力圏の間に緩衝地域を設けて兵力引き
離しをしないと虐殺が広がるばかりだと主張している。米国やEU諸国は、ア
サド大統領に退陣を求めている。

http://www.dailystar.com.lb/News/Middle-East/2012/Jun-12/176587-un-says-syria-now-in-civil-war.ashx
Syria now in full-scale civil war: UN


 もし、度重なる虐殺を挙行しているのがシリア政府軍や政府系民兵であると
したら、国際軍の早期介入やアサドの退陣を求める米欧やシリア反政府勢力の
主張は妥当だ。だが逆に、虐殺を挙行しているのがシリア反政府勢力であると
したら、反政府勢力が自分で殺した村人たちの映像を撮ってネットで世界に流
して「政府軍の犯行だ」と騒ぎ、それに呼応して米欧政府がアサドに退陣を求
め、国際軍をシリアに侵攻してアサド政権の転覆を狙うという、巨大な国際犯
罪になる。

 シリアの反政府勢力は、米欧やサウジに支援されている。米欧やサウジが、
アサド政権を転覆するため、反政府勢力を使って虐殺し、アサドに濡れ衣をか
けている構図になる。米国は、イラクに大量破壊兵器の濡れ衣をかけて侵攻し
た。その後はイランに核兵器開発の濡れ衣をかけて経済制裁している。そして
今、シリアに虐殺の濡れ衣をかけて政権転覆しようとしている。

▼ロシアが戦争をくい止めている

 しかし、米欧やサウジが国際軍によるシリア介入を望んでも、それは簡単に
実現しない。国連軍を編成して介入するには、国連安保理の決議が必要だが、
安保理ではロシアと中国という2つの常任理事国が、シリアへの軍事介入に強
く反対している。拒否権を持つ露中が反対する限り、国連軍を出せない。ホウ
ラやその他の虐殺が、シリア政府軍でなく反政府勢力の仕業である疑いが残る
限り、露中は軍事介入に反対するだろう。

 虐殺が反政府勢力の仕業であったとしても、虐殺が各地で頻発すると、シリ
アは内戦状態がひどくなり、誰が虐殺の犯人かを問わず、外部からの何らかの
軍事介入が必要だという話になる。昨年春、リビアが内戦状態になった時、米
英仏がリビア東部の反カダフィ勢力を支援して反乱させ、内戦を拡大したのだ
が、米英仏が「内戦だから国際的な軍事介入が必要だ」と、自作自演的に主張
したとき、露中は国連軍のリビア派兵に反対したものの、NATOがリビアに
侵攻することに反対しなかった。

 その結果、NATOがリビアに侵攻してカダフィ政権を倒したが、その後の
リビアは分裂したまま、いずれ内戦が再発しそうな不安定な状態で、リビア介
入は国際的な失敗となった。ロシアや中国は、このリビアの教訓があるので、
シリアで事態が内戦に近づいても、あらゆる軍事介入に反対し続け、外交で事
態を打開することを主張している。

 リビアの反カダフィ勢力は、スンニ派イスラム主義の過激派、いわゆるアル
カイダに主導されていた。彼らはカダフィを倒した後、シリアに来て反政府勢
力をテコ入れしている。米国は、仇敵であるはずのアルカイダを傭兵として使
い、リビアやシリアの政権転覆をやっている。アルカイダは、70年代のアフ
ガン時代からCIAの傭兵と言われてきた。

http://tanakanews.com/110402libya.htm


リビアで反米イスラム主義を支援する欧米

 英国外務省は「シリアにはアルカイダがいるので(テロ戦争の一環として)
軍事介入が必要だ」と主張している。米欧が、アルカイダを含むシリア反政府
勢力を支援して虐殺をやらせ、シリアを内戦に陥らせていることを踏まえると、
この自作自演的な発言は、英国のこの200年あまりの世界戦略を象徴して
いると感じられる。

http://news.antiwar.com/2012/06/11/syria-deploys-helicopters-as-clashes-rage-north-of-homs/
US Fears 'Massacre' While Britain Talks Up War


 これらの現状を見る限り、今の中東の国際政治においては、米欧よりも露中
の方がまともであり、正義である。「露中のせいでシリアの問題が解決しない」
と米政府は言うが、これは放火魔が「消防士がいるので家がよく燃えない」と
言っているのと同じだ。米欧は、マスコミを使って濡れ衣を「事実」として
人々に信じ込ませ、善悪を歪曲している。日本や米国では、米欧より露中の方
が正しいと言うと、それだけで袋叩きにされるが、袋叩きにする側は、プロパ
ガンダを軽信するうかつな人々である。

 ロシアは、シリア問題に関連する諸国の代表を集めて和平会議を開くことを
提唱しており、来週メキシコで開かれるG20サミットで正式提案し、会議の
開催につなげようとしてきた。会議は、1995年にボスニア紛争を米露主導
で解決した「デイトン合意」と似た構図を持たせ、アサド政権を転覆したい米
欧やサウジ、トルコなどが反政府勢力を引っぱり出し、アサド政権を擁護する
露中やイランなどがアサド政権を引っぱり出して、両者が対等な立場で話し合
う構想だ。

http://www.ft.com/cms/s/0/bde43340-b24a-11e1-8a6e-00144feabdc0.html
Russia insists on Iranian role in Syria peace plan


 ロシア主導の和平への動きが強まる中で、それを阻止するかのようにシリア
国内で虐殺が連続して起こり、和平会議に持ち込むのが難しい状況になった。
また米国は、イランが和平会議に参加することに強く反対している。露中の反
対を無視して、米欧軍(NATO)がシリアに軍事介入する可能性もある。

 しかし、NATOがシリアに侵攻したら、リビアの時のように中途半端に撤
退するのでない限り、長期にわたる占領の泥沼に陥る。アフガニスタン占領に
失敗して窮地の中で撤退し始めたNATOは、占領の泥沼を繰り返したくない
はずだ。米国もオバマ政権が軍事費の削減に迫られ、今後は大規模な地上軍の
戦争をしないと宣言している。米欧はシリアに侵攻しないだろう。結局のとこ
ろ、シリア問題の解決は、ロシアが提唱するデイトン合意型の和平交渉に頼る
しかない。そこに至るまでに、あと何回シリアで虐殺が行われるのかという問
題になっている。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/120613syria.htm

イランを攻撃したウィルス

2012-06-04 12:24:25 | 中東
「『NY Times』は6月1日付けで、コンピューター・ウイルス『Stuxnet』(スタックスネット)に関する詳しい記事を掲載した。

同紙の記者であるデーヴィッド・サンガーの近刊書『Confront and Conceal: Obama’s Secret Wars and Surprising Use of American Power』を元にする今回の記事は、Stuxnetは米国とイスラエルの両政府が開発し、実際に使用したとしている。このウイルスの目的は、イランの核施設における遠心分離機を破壊することであり、そのため、遠心分離機の回転速度に関わる制御システムに特定のコマンドを出したという。

Stuxnetはイランのナタンズにあるウラン濃縮施設内に留まるはずだった。同施設のネットワークは、施設外部のネットワークと隔離されており、簡単に出入りすることはできないはずだからだ。だが、ナタンズ核施設内にあるスタンドアローン型のネットワークと、公共のインターネット・ネットワークとの間をコンピューターやメモリーカードが移動する可能性は最初から存在していた。[Stuxnetは『Microsoft Windows』の脆弱性を利用しており、『Windows Explorer』で表示しただけで感染した]

「Olympic Games」というコード名で呼ばれたこのコンピューター・ウイルス計画は、もともとはジョージ・W・ブッシュ前大統領が許可したものだ。同計画は当初、ナタンズにあるウラン濃縮施設とその制御システムのデジタルマップを解読するのに成果を上げた。「ビーコン」コードが使用され、同施設内にあるすべてのネットワーク接続を解読し、それが米国家安全保障局(NSA)に報告されたのだ。数カ月をかけて、同施設の情報が収集されたという。

その後、米国の複数の国立研究所が、(どうやら作業の本来の目的を知らないまま)、同計画の各部分をテストした。イランの遠心分離機は、リビアのカダフィ政権が持っていたものと同じモデルであり、米国とイスラエルは、リビアから接収した核施設設備をStuxnetのテストに利用していた。

実際にこのマルウェアを核施設に導入するプロセスに関しては、おそらくダブル・エージェントが使われたと見られる。

問題のワームをナタンズ施設に導入させることは簡単なことではなかった。米国とイスラエルは、(スパイ、あるいは、自分では気付いていない共犯者となった)エンジニアやメンテナンス作業者などに頼らなければならなかっただろう。(略)「自分の手に持つUSBメモリーについてあまり考えないような間抜けが常にいるものだということが判明した」

実際のところ、Stuxnetの最初の変種が拡散するにあたっては、USBメモリーが重要な役割を果たしたようだ。後には、より洗練された方法が開発された。

大統領に就任したバラク・オバマはOlympic Games計画を継続した。だが2010年にStuxnetは、おそらく誰かのノートパソコン経由で、ナタンズ核施設から流出してしまった。外部のネットワークに接触したこのウイルスは、一般の世界に拡散するという、設計されてない動作を行ったのだ。

Stuxnetは米国を含む他国のマシンに拡散し、これらのマシンにも未知の障害を引き起こす可能性もあったが、作戦は継続された(結果的には、イラン以外では10万台以上のマシンに感染したが、それらのマシンには障害は発生しなかった)。

Stuxnetは、ナタンズ核施設のシステム管理者にはすべてが正常に稼動しているように見せかけながら、同施設の一部を機能停止させた。[約8,400台の遠心分離機の全てを稼働不能にしたとされる。2010年11月にはナタンズ核施設でのウラン濃縮が停止し、イランの核開発は「2年前に後戻りした」とされている(日本語版記事)]

なお、最近イランや中東で発見されているマルウェア『Flame』は、『Olympic Games』の一部ではないが、背後にある国については不明だとされている。[ネットワーク・トラフィックの傍受、スクリーンショットの保存、音声通話の記録、キー入力の不正送信といった複数の機能を備えている。サイズは20Mバイトで、Stuxnetの20倍とされる]」

(http://wired.jp/2012/06/04/confirmed-us-israel-created-stuxnet-lost-control-of-it/)

ギュンター・グラスを入国禁止にしたイスラエル

2012-04-19 09:57:46 | 中東
「ドイツ人作家の直言にイスラエル激怒

Gunter Grass Hospitalized Over Heart Problems

イラン攻撃など自国の政策に批判的な思想家を片っ端から入国禁止にするユダヤ人国家

2012年04月17日(火)17時24分

ルーク・ブラウン

 ドイツのノーベル文学賞作家、ギュンター・グラス(84)がイスラエルを糾弾する詩をミュンヘンの地元紙に投稿したのは4月4日のこと。激怒したイスラエル当局は、グラスにイスラエルへの入国禁止を宣告。さらに、ユダヤ人大虐殺の反省から露骨なイスラエル批判がタブーとなっているドイツ国内でも、賛否両論が巻き起こった。 

 そのグラスが4月16日、心臓の疾患のためにドイツ北部の港町ハンブルクの病院に入院したと報じられた。病院側も入院の事実を認めたが、詳細は明らかにしていない。

「言わねばならぬこと」と題した問題の詩は、ドイツのイスラエルへの武器売却を非難し、イランに対するイスラエルの軍事行動を許すべきではないと指摘。核開発疑惑がささやかれるイランへの敵対政策を続けるイスラエルこそ、「ただでさえ不安定な世界平和」への脅威だと断じている。

 イランの核開発疑惑をめぐる緊張は一段と高まっており、アメリカやイスラエルでは、イランが核開発を中止しない場合、核関連施設を攻撃すべきではないかとの議論が高まっている。

 イスラエルのエリ・イシャイ内相は、「イスラエルとイスラエル国民に対する憎しみの炎を煽ろうとする試みだ」との声明を発表し、グラスを入国禁止人物に指定した。

ユダヤ系有名人にも容赦なし

 イスラエルから入国を拒まれた著名人はグラスだけではない。2010年には、ユダヤ人でありながらイスラエルに批判的な発言で知られる世界的な言語学者ノーム・チョムスキーがヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラのビルゼイト大学で講演を行うためにイスラエル入りしようとしたが、ヨルダン国境で入国を拒否された。

 ユダヤ系アメリカ人の政治学者ノーマン・フィンケルスタインも08年、イスラエルに入国する際に逮捕。国外追放処分を受け、10年間の入国禁止を言い渡されている。


(GlobalPost.com特約)」


 この記事をみると、世の中のまともな人はみんなイスラエルに行けないことになっているようだ。

停戦監視団・ダマスカス到着

2012-04-16 11:15:25 | 中東
「シリア停戦監視団の先遣隊、首都ダマスカスに到着

2012.04.16 Mon posted at: 10:26 JST

(CNN) シリアの停戦を監視する国連監視団の先遣隊が15日、首都ダマスカスに到着した。国連の報道官が16日に明らかにした。

報道官によると、先遣隊はまず6人がダマスカス入りし、16日から活動を開始。シリア政府と治安部隊および反体制派と連携して国内全土で監視プロセスの確立を目指す。

非武装の先遣隊派遣を承認する決議は国連安全保障理事会が14日に全会一致で採択していた。先遣隊は30人で構成し、最大250人の監視団を送り込むための準備に当たる。報道官によれば、先遣隊の残る24人も数日中にダマスカスに到着する予定。

シリア政府報道官は15日、「監視団の活動期間と行動内容は、シリア政府との調整で決定される」と述べ、大規模な監視団を受け入れる前に、その任務について定めた合意書に調印する必要があると指摘。「シリアが参加して全段階の調整に当たらなければ、監視団の安全は保障できない」とした。

反政府団体の地域調整委員会(LCC)などによると、中部ホムスではこの日も政府のヘリコプターが上空を飛行し、陸軍士官学校からは10分ごとに砲撃が繰り返されている。シリア各地で15日の死者は23人に上っているという。

一方、国営シリア・アラブ通信(SANA)は、「武装したテロリスト」が停戦に違反して軍や治安部隊、民間人に対する攻撃を強めていると伝えた。」

エジプト大統領選挙

2012-04-15 15:30:58 | 中東
「エジプトの前副大統領で、現在大統領選挙候補者に名乗りを上げているオマル・スレイマン氏暗殺未遂事件の詳細を、エジプトの新聞「アル-アフラム」が報じている。これまで、この事件の詳細は、公にされなかった。
 新聞報道によれば、暗殺未遂事件のあらましは以下の通り。

 事件は、スレイマン氏が副大統領ポストに任命された翌日、昨年1月30日に起きた。当時エジプト国内は騒乱状態にあり、スレイマン氏襲撃は、氏がムバラク前大統領との会談に向かう途中で発生、スレイマン氏の乗る自動車の車列に身元不明の4人が銃撃を加え、氏のボディガード1人が死亡、数人が負傷したが、スレイマン氏自身は無事だった。なお犯人は、氏のボディガードらにより全員殲滅された。その後調査が行われたが、犯人の身元は明らかにならなかった。

 新聞「アル-アフラム」は又、暗殺事件の裏には、スレイマン氏が副大統領になったことを、さらには今後大統領になるかもしれない事を良しとしない人々がいると推測している。

 なおエジプトのアフメド・ゲイト元外相は「暗殺者を雇った人物は、エジプト国外で探すべきだ。おそらくアラブ諸国の一つにいる」との見方を示している。

 リア・ノーヴォスチ」