「 向こう数週間内にインターネット上のドメイン名やIPアドレスを管理する国際団体ICANNがトップ交代を発表する見込みだ。レバノン生まれの米国人であるファディ・シェハデ最高経営責任者(CEO)が退任することになっている。そして同氏は米国人ではない人が自分の後を継ぐことを望んでいる。
サイバーオタクの世界の外では、そのような交代は恐らく波風を立てないだろう。これは近代世界の奇妙な皮肉であり、危険でもある。
人はかつてないほどインターネットに依存しているが、ネットがどう機能し、どう統治されているか、その仕組みをちゃんと知っている人は少ないのだ。
ICANNはインターネットの支柱だ。システムをつなぎ合わせるドメイン名とIPアドレスが確実に円滑に動くようにしている。だが、シェハデ氏とその同僚たちの仕事は往々にして見過ごされる。
アジアや欧州の怒りを和らげるチャンス
水面下で、これらのプロトコルやドメイン名を誰が統制すべきかを巡る戦いが繰り広げられている。これは技術系の人だけに関係する話ではない。ICANNの物語は米国政府に、欧州諸国やアジア諸国の政府が米国のインターネット政策に対して感じている怒りをいくらか和らげるタイムリーな機会を与えるかもしれない。
この問題は、「.edu」や「.com」といったドメイン名とIPアドレスを誰が割り当て、監督、監視すべきかという疑問を中心に展開している。1998年に米国政府によって設立されて以来、ICANNがこの仕事をこなしてきた。ICANNは米商務省から認可を得た非営利団体として活動しており、IPアドレスが衝突しないことを担保するといった機能を遂行する巨大なボランティアコミュニティーを組織化することで任務を果たす。
インターネットが家内工業だった頃は、この緩い構造が理にかなっていた。もはや、そうではない。中国やインドといった国は今、膨大な量のインターネットトラフィック――そしてIPアドレス――を生み出している。
一方、ドメイン名はあまりに商業的価値が高まったため、企業や政府、さらにはセレブまでもが商標法やほかの判例を引き合いに出し、「自分たちの」名前を獲得するのに奔走している。
ICANNは常に米国企業の利益の味方をしたわけではない。3年前、小売り大手のアマゾン・ドット・コムは「.amazon」というドメイン名の権利を獲得できなかった。ブラジルとペルーが自国にまたがる地理的領域を示す名前を一民間企業が取得すべきではないと主張し、その訴えが通ったからだ。
それでも、ICANNが米国の認可の下で活動しているという事実は、米国外の人々の間で高まる反感を生んだ。中には競合組織を創設することも辞さないと言う人もいる。そしてインターネットの成長が早まるほど、この状況がいよいよ時代錯誤に見えてくる。改革の機はとうに熟している。シェハデ氏が言うように、「現状維持はとにかく持続可能ではない」のだ。
誰のためのICANNか
米国政府は喜々として同意する。2年前、商務省はバラク・オバマ大統領の後押しを得て、ICANNを独立団体に変え、複数国の公的・民間部門のステークホルダー(利害関係者)に対して責任を負うようにする仕組みを提案した。
シェハデ氏は近く、米国の認可の期限が9月に切れた時にこの改革を実行に移す計画をオバマ政権に提出する。
インターネットに新ドメイン登場、「.guru」や「.singles」など
ICANNはインターネットの支柱となっている〔AFPBB News〕
これは称賛に値する動きに見える。ICANNの統治構造に関する提案は、まだ完璧ではない。だが、グーグルやインテルといった多くの大企業が打診されており、計画はかなりオープンな形で磨き上げられている。
「ICANNはこうした提案によって、組織が仕えるインターネットユーザーのグローバルなコミュニティーにより大きな責任を持つことになる」。グーグルの弁護士のアパルナ・スリダル氏は改革の動きを支持し、意見書にこう書いた。
ネックはやはり米議会
潜在的な障害は、ワシントンでは大抵そうであるように、米議会だ。商務省はICANNを自由にする前に、議会に提案を出す必要がある。共和党の一部の政治家は、ICANNが米国の支配下から抜け出すことを嫌がっている。米国の利益に対する裏切りになるのを恐れてのことだ。
共和党の元下院議長、ニュート・ギングリッチ氏はこうツイートした。
「オバマがインターネットを引き渡したいと思っているグローバルなインターネットコミュニティーとは何か? これは外国の独裁政権がインターネットを規定する事態を招く恐れがある」
これは、懸案の改革がよくても先送りされ、最悪の場合は否決されるリスクを生む。後者になったら残念だ。ICANNの支配権を譲ることは、米国が何か特別に戦略的な技術を失うことを意味しないが、もし改革法案が阻止されたら、その象徴的意味はアジアと欧州でさらに憤怒をあおり、最終的にインターネットを分裂させる恐れがあるからだ。
米国政府が今、ICANNの多国間プラットフォームの創設に向けて動いたら、ふつふつと沸く怒りをいくらか鎮める役に立つだろう。言い換えるなら、インターネットユーザーはシェハデ氏が勝利を収めることを期待した方がいい。そして、彼の(米国人でない)後継者が誰なのか、しっかり見守るべきだ。
By Gillian Tett」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45935