環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

毎日新聞に掲載された「地球を考える会のフォーラム」(広告)に対する私のコメント

2009-11-06 08:19:23 | 原発/エネルギー/資源
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一昨日の毎日新聞が、「地球を考える会」が主催した10月4日(日)のフォーラム「エネルギーと環境の調和/低炭素社会の実現に向けて」の模様を全面広告(ここをクリック) で伝えています。この全面広告を見て、気づいたこと、思い出したことをコメントし、このブログの読者の方のお考えの参考に供したいと思います。

フォーラムは2部構成です。

第一部 基調講演
    「低炭素社会の実現に向けて~『地球を考える会』からの提案」
   ●有馬朗人(地球を考える会 座長、元文部大臣)
     地球温暖化や資源枯渇への観点から 今、変わりつつある世界の“原子力観”。

第二部 パネルディスカッション
    「地球愛/環境とエネルギーの国際調和を求めて」

 パネリスト
●尾池和夫(前京都大学総長 理学博士)
      今やアラブ社会でも石油後を考える時代に。
●茅陽一(財団法人 地球環境産業技術研究機構研究所長)
        “真水”での削減は現実的とは言えない。
     ●三村明夫(新日本製鐵株式会社 代表取締役 会長)
        中期目標達成の鍵は、国際的な公平性だ。
●森嶌昭夫(NPO法人 日本気候政策センター理事長)
役所まかせではない実行計画とシステムづくりが早急に必要。
●和気洋子(慶應義塾大学商学部 教授)
低炭素社会への道が新たな成長フロンティア

テーマ1:「温室効果ガス中期削減目標 25%についての評価」
テーマ2:「削減目標を達成するためには何をしなければいけないのか?」
テーマ3:「国民は個人として何が出来るか?」


私のコメント①
最初のコメントは、基調講演をなされた有馬さんの次の発言です。



なぜか、スウェーデンが登場するのですが、この図の赤網をかけた部分は明らかに新聞の読者(およびフォーラムの参加者)をミスリードした発言だと思います。「地球温暖化、エネルギー資源の枯渇への観点から原子力に対する各国の世論が大きく変わり、例えば、スウェーデンやイタリアがこれまでの脱原発方針を撤回し、新規建設を決めたことは注目すべきだと思います」というご発言は日本の著名な科学者の発言として、極めて乱暴な事実誤認だといわざるを得ません。

イタリアについては私にはよくわかりませんが、スウェーデンについてはこのような文脈では、多くの方々が1980年の国民投票の結果を受けて進めてきた「スウェーデンの脱原発政策」をついに放棄し、、「原子力ルネッサンス」と称する国際社会の時流(?)にのって、これから次々と新規原発をつくっていく道を開いたような誤った印象を与えることになると思います。 

今年2月5日に「スウェーデンの脱原発政策」(ここをクリック)にちょっとした動きがありました。それは、既存の10基の原発の寿命(国民投票が行われた1980年のときに想定されていた原発の技術的寿命は25年でしたが、現在では60年程度と見積もられているようです)が近づいてきた場合に混乱がおこらないよう、「現在の原発サイト(フォーシュマルク、オスカーシャム、リングハルスの3個所)に限って、そして既存の10基に限って更新(立て替え、リプレース)が可能になるように、更新の道を開いておく」という政治的な決定がなされたことです。スウェーデンの最初の商業用原子炉はオスカーシャム1号機(1972年運転開始)ですから、運転開始後50年になるのは2020年頃です。

1980年から進めてきたスウェーデンの「脱原発政策」(正しくは、エネルギー体系の修正政策)はおよそ30年間の紆余曲折を経て「当初の政策イメージ」とはかなり変質してきたことは明らかな事実です。スウェーデンのエネルギー政策の今後はわかりませんが、今日、2009年11月6日時点では、有馬さんのご発言は「完全に誤り」と断言できると思います。次の関連記事をご覧下さい、

関連記事
●またしても、ミスリードしかねない「スウェーデンの脱原発政策転換」という日本の報道(2009-03-21)

●低炭素社会と原発の役割 再び、原発依存を強化する日本 vs 原発依存を抑制するスウェーデン(2009-10-08)


余談になりますが、日本ではなぜか「スウェーデンの脱原発政策」という表現が定着していますが、これは間違いではないものの、ことの本質を表現したものではありません。正しくは、「スウェーデンのエネルギー体系転換政策」あるいは「スウェーデンのエネルギー体系修正政策」と呼ぶべきものです。私は20年前の1988年8月10日の朝日新聞の「論壇」(ここをクリック)で、このことを書きましたが、日本の学者も経済人も、一般市民もそして、マスメディアも本質を見ず、「スウェーデンの脱原発政策」という矮小化した認識で現在まで来てしまいました。

もう一つ、コメントしておきましょう。「孫や曾孫が成長した頃の地球が心配」という見出しのもとで、 それでは、どうすればいいのでしょうか? 私は原子力を使わざるを得ないと考えています。ただ、新エネルギーと原子力エネルギーとが喧嘩するのではなく両方が協力し、その上で省エネルギー技術を開発して、人類の危機を救っていかなければなりません。」ともおっしゃっておられます。このお考えは順序が逆ではないでしょうか。まず、現在の省エネルギー技術を十分に活用して、十分な省エネルギーを達成し(エネルギー総供給量を抑えて)、その上で新エネルギーと原子力エネルギーとが喧嘩をするのではなく両方が協力して、人類の危機を救っていかなければならないのではないでしょうか。

スウェーデンはまさにそのようにして、私のコメント④で示したような「経済成長(GDP)と温室効果ガスのデカップリング」に成功したのです。

有馬さんには、ご自身で、ラインフェルト連立政権の今年2月5日の4党合意文書「A sustainable energy and climate policy for the environment, competitiveness and long-term stability(環境、競争力および長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策)」(ここをクリック)を読んでいただきたいと思います。この文書が「スウェーデンの脱原発政策の撤回」というマスメディアの報道源だからです。

 
私のコメント②

「テーマ1 温室効果ガス中期削減目標25%についての評価」のパネル討論で、茅さんは「・・・・・これ以外にも鉄鋼・セメント・化学産業の20%減産なども求められています。その分を海外生産しても、世界全体のCO2の排出量は変化しないため、あまり意味がありません。・・・・・」とおっしゃっておられます。私も同じ意見です。ですから、CO2排出規制の厳しくない途上国に生産工場を移すなどという経済界の発想はCO2の排出削減のためには無意味なのです。20世紀の「公害の発想の域」にとどまっているかのようです。

三村さんは「国際競争の公平性」について発言されています。ごもっともな合理的な意見のように見えるのですが、ここには「基本的な誤解」あるいは「読者をミスリードさせるための意図」というか、「誤り」があると思います。 

特に経済界が主張する「国際的公平性」というのは、温室効果ガス(その排出量の割合から日本では90%以上を占めるといわれているCO2といってもよいのですが)の排出量についての「現世代の公平性」を主張しているようです。それも大切ではありますが、もっと大切で本質的なことは「将来世代との公平性(世代間の公平性)」です。これを無視した地球温暖化対策は現実的な対策ではありません。私たちが生物として生きる条件は、将来世代も基本的には変わらないと考えられるからです。温室ガスは大気への蓄積性が高い物質です。「国際的な公平性」というのは現世代の日本の産業界の都合に過ぎません。このことは、日本の経済界が今年5月21日に全国紙に掲載した「意見広告」(ここをクリック)でも主張しています。


私のコメント③

「地球を考える会」(ここをクリック)というのは、比較的新しい組織だと思います。昨年5月22日の産経新聞が「地球を考える会」の概要をかなり詳しく紹介しています。



この記事の続きは次をクリックして下さい。

●考える会 「原発利用を拡大提言」 世界で推進 地球愛           有馬座長との一問一答

この記事の中から「考える会の提案骨子」と「地球を考える会」のメンバーを抜粋します。



地球を考える会のメンバーは、日本を代表する学会、マスメディア、産業界のまさにリーダーと見なされている方々のようにお見受けします。


私のコメント④

私はこのフォーラムの後援が「財団法人 日本生産性本部・NPO法人 ネットジャーナリスト協会」とあるのを見て、6年前の類似の「フォーラム」(ここをクリック)を思い出しました。おそらく、当時の「フォーラム・エネルギーを考える」が発展的に解消して、現在の「地球を考える会」となったのだと思います。

現在の「地球を考える会」のメンバーでエネルギー分野のまさに第一人者であられる茅陽一さんが、7年前のフォーラム「フォーラム・エネルギーを考える」(全面広告 朝日新聞2003年2月15日)で、大変印象的な図を示し、「地球温暖化対策の3本柱」を説明しておられましたのでご紹介しましょう。



上の図のグラフに注目して下さい。2000年以前はGNPとCO2の排出量がからまっていたのが、2000年頃からGNPが右肩上がり、CO2は右肩下がりと見事に分かれています。このような状況を「経済成長とCO2排出量のデカップリング」と呼びます。茅さんはこの見事な目標を達成する手段として、「省エネ」「新エネルギー」「原発」を掲げていました。

7年経った現在、日本は茅さんが説明したような見事なデカップリングとなったでしょうか。次の図をご覧下さい。



日本の現状は7年前と同じような「カップリング」の状況です。この図では2005年までしか示されていませんが、スウェーデンは京都議定書の基準年である1990年以降漸次、温室効果ガス(このうちおよそ80%がCO2)を削減し、2007年の排出量は9%減でした。一方、日本では、1990年以降、温室効果ガス(このうち90%以上がCO2)の排出は増加傾向にあり、2007年にはなんと過去最悪(9%増)となりました。日本では90年以降15基もの原発を運転開始したにもかかわらず、CO2の排出量が増加している事実に注目して下さい。

日本は1980年当時22基の原発が稼働していましたが、2008年には55基に、つまり33基が新設されたのです。一方、参考に掲げたスウェーデンは見事な「デカップリング」を現在達成しています。1980年当時12基であった原発は1999年に1基、2005年に1基、つまり2基が廃棄され、2008年には10基になっています。茅さんが6年前のシンポジウムで提示した目標がスウェーデンでは実現されています。 

このような事実を見ると、日本は1980年から2008年までに33基の原発を新設したにもかかわらずCO2を削減することが出来なかったのに対し、スウェーデンはこの間2基の原発を廃棄したにもかかわらずCO2を削減できたのですから、「地球を考える会」のメンバーの方々は、「原発推進」を考えるよりも、科学者として会の主張である「地球のこと、未来のこと、あなたと、いっしょに考えたい」をもっと真剣に考えてほしいと願っています。

私たちの小さな会"「持続可能な国づくりの会<緑と福祉の国・日本>のHP」の主張も「地球を考える会」の主張と同じですので、この機会に新しい明るい日本を創るために一緒に協力して考えてみませんか。





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2 コメント

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原発推進の誤解 (たろう)
2009-11-06 19:46:47
有馬氏の脱原発を撤回し,新規建設を決めたというのは誤りで,50年も経った古い原発を廃炉にして,その代替えを予定するという意味ですね.その後で,有馬氏は孫やひ孫をつらい目に合わせるなんて許されないと書いていますが,もしそれが本当なら1万年も消えない恐ろしい猛毒のプルトニウムを子孫に残す科学や技術でなく,トリウム型発電に早急に取り替えることを考えるべきと思います.
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原発は凍結が最も現実的 (小澤)
2010-01-27 11:04:27
 原発の問題はプルトニュウムだけではありませんので、現状に凍結(新規原発はつくらない)のが最も現実的な対処方法だと思います。

 原発の議論は常にインプット側の議論が中心ですが、環境問題を考えると、アウトプット側の十分な議論が必要です。

 日本の原子力利用拡大の制約要因は「有限な資源」と18年に切れる「日米原子力協定」だからです。

 私の2007年4月日のブログ「原発を考える ⑤ エネルギーの議論は「入口の議論」だけでなく「出口の議論」も同時に行う」

http://blog.goo.ne.jp/backcast2007/e/240dee93c6d128b3f2b71d0c7412503a

を参照してみて下さい。
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