環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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朝日が報じた「転機の原子力 『ルネサンス』に黄色信号」と、「スウェーデンの最新の原発に関する政策」

2011-01-09 12:52:03 | 原発/エネルギー/資源
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フィンランドでは、現在、4基の原子炉(ロビーサ原子力発電所で2基、オルキルオト原子力発電所で2基)が稼働しており、4基の合計出力は276万kWです。今日取り上げるのは建設中のオルキルオト原発3号機で、完成すればフィンランドで5基目の原子炉となります。

2日前の朝日新聞が科学欄で、フィンランドで建設中の「オルキルオト原発3号機」(EPR:欧州加圧水型炉、出力は世界最大の160万キロワット)が2005年に着工し、2009年5月に完成する予定だったが、相次ぐトラブルなどで3年半遅れる見通しだと報じています。当初約30億ユーロ(3244億円)だった建設費が、相次ぐ工事の遅れで27億ユーロ(2920億円)の追加費用が必要になったそうです。同記事はまた、米国では「カルバート・クリフス原発」の新設で採算がとれないとして計画の凍結を決めたとも報じています。

何はともあれ、この記事をご覧ください。

●転機の原子力 「ルネサンス」に黄色信号 新設の動き、各地で難航(朝日新聞 2011-01-07)

そして、次にネット上で見つけた次のブログをご覧下さい。

●「効エネルギー日記」 フィンランドの原発建設(2009-05-30)

このブログによれば、2日前の2011年1月7日の朝日新聞が報じた「フィンランドのオルキルオト原発3号機」のトラブルの様子がすでに、およそ1年半前の2009年5月29日付けの「ニューヨークタイムズ」紙で報じられていたことがわかります。内容はほとんど同じで、このブログの文脈から推測すれば、「ニューヨークタイムズ」紙のほうが2日前の朝日の記事よりも内容的にさらに詳しく報道されているような感じがします。


2009年5月29日の「ニューヨークタイムズ」紙がフィンランドの原発建設中のトラブルや米国の原発計画が必ずしも順調に推移していないことを報じて以来この1年半の間に、日本のマスメディアは原発についてどのような報道をしていたのでしょうか。朝日新聞は科学欄で「転機の原発 ルネサンス」および「転機の原子力 廃棄物処分場」をそれぞれ4回シリーズでまとまった記事を連載しておりました。

転機の原子力 ルネサンス① 原発導入、高まる機運(2010-04-02)

転機の原子力 ルネサンス② 燃料管理も処分も課題(2010-04-09)

転機の原子力 ルネサンス③効率と信頼性 どう両立(2010-04-16) 

転機の原子力 ルネサンス④中国、人材育成に躍起-最終回(2010-04-23)


転機の原子力 廃棄物処分場① 原発のごみ わが町に 「スウェーデン方式」(2010-11-05)

転機の原子力 廃棄物処分場② 候補地選び、信頼築く道は(2010-11-12)

転機の原子力 廃棄物処分場③ 数万年の安全、どう確保(2010-11-19)

転機の原子力 廃棄物処分場④ 千年以上先へ 伝える責任-最終回(2010-11-26)


次に、私のブログ内の原発関連記事からふり返ってみます。

またしても、ミスリードしかねない「スウェーデンの脱原発政策転換」という日本の報道(2009-03-21)

米、核再処理を断念 政策転換、高速炉の建設計画も取りやめの方針(2009-04-23)

21世紀の低炭素社会をめざして 原発依存を強化する日本 vs 原発依存を抑制するスウェーデン(2009-07-27)

日本の原発も高齢化、そして、「トイレなきマンション問題」も改善されず(2009-09-04)

「今こそ推進と規制の分離を」、元原子力安全委員会委員長代理が語る日本の原子力行政の問題点(2009-09-24)

民主党の原発政策に再考を促す投書(2009-09-27)

低炭素社会と原発の役割  再び、原発依存を強化する日本 vs 原発依存を抑制するスウェーデン(2009-10-08)

毎日新聞に掲載された「地球を考える会のフォーラム」(広告)に対する私のコメント(2009-11-06)

スウェーデン国会が高齢化した原発の「更新」に道を開く政策案を可決(2010-06-22)



この機会に改めて、スウェーデンの「最新の原発に関する政策」をまとめておきましょう。

2009年2月5日、ラインフェルト連立政権を支える与党中道右派の4党連合は「環境、競争力および長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策」と題する4党合意文書を発表しました。

この合意文書の原発関連部分の要点は「水力と原子力からなる現在の電力供給システム」に今後、第3の柱となるべき再生可能エネルギーを導入していく過程で、電力のほぼ半分近くを供給している既存の原発10基(このうち4基は70年代に運転開始、すでに40年近く稼働している)のいずれかの更新が将来必要になったときに備えて、更新の道を開く用意をすること」でした。

合意文書には「原子力利用期間を延長し、最大10基までという現在の限定枠の範囲で既存の原発サイトでのみ更新を許可する。これにより、現在稼働中の原子炉が技術的および経済的寿命に達したときに継続的に新設の炉で置き換えることができるようになる。」と書かれています。
 
スウェーデン国会は2010年6月17日、「2009年2月5日に与党中道右派4党の合意に基づく原発更新法案」を賛成174票、反対172票の小差で可決しました。

スウェーデンの最初の商業用原子炉は1972年運転開始のオスカーシャム1号機ですから、この原子炉が今後事故なく順調に稼働していけば、運転開始後50年(1980年の国民投票の時には、当時の原発の技術的な寿命は25年と見積もられていた。現在では原発の技術的寿命は60年程度とされている)、つまり更新時期を迎えるのは2020年頃なのです。

ですから、今回の「部分的な原発政策の修正(変更)」という決定が直ちに原発の新設という行動に移されるわけではありませんし、日本の原子力推進派の人たちが期待するような「原子力ルネサンスだ!」「地球温暖化対策にのために原発を推進」などという考えで、スウェーデンは原発依存を今後さらに高めて行くわけでもなければ、ましてや、「原発を温暖化問題の解決策」として位置づけているわけでもないのです。

一昨日の朝日新聞の記事「米国 新資源で競争力下がる」の最後に、「ルネサンス」とはいえ、米国ではもともと、実際に新設される原発は10基以下と見られており、当面は「延命」でしのぐところが多そうだとあります。そうであれば、スウェーデンの今回の行動は、「原子力エネルギーに対する世界最先端の考えに基づく現実的な行動」と言えるかも知れません

世界の原発の歴史を振り返れば、この分野でもスウェーデンの独自性は際立っています。西堂紀一郎/ジョン・グレイ著『原子力の奇跡』(日本工業新聞社 1993年2月発行)によれば「軽水炉技術を独自に開発したのはアメリカ、ソ連、スウェーデンの3カ国である。ドイツ、フランス、日本、そしてイギリス等の先進工業国が軽水炉の導入に当たり、アメリカから技術導入したのに対し、スウェーデンは果敢にも独自開発路線を選び、最初から自分の力で自由世界で唯一アメリカと競合する同じ技術を開発し、商業化に成功した。」と書かれています。つまり、スウェーデンは「原発先進国」であり、 「脱原発先進国」でもあるのです。

スウェーデンが80年6月に「脱原発」の方針を打ち出してから30年が経過しました。スウェーデンの「エネルギー体系修正のための計画」を構成する「原発の段階的廃止をめざす電力の供給体系の修正計画」は当初の予定通り進んできたとは言い難いものでしたが、「原発から排出される放射性廃棄物の処分計画」は着実に進んでおり、この分野でもスウェーデンは世界の最先端にあります。

日本の原発推進派も、原発反対あるいは脱原発派もスウェーデンの「原発の廃止の動向」には興味を示します。この観点から見れば、この30年間で稼働していた12基の原子炉のうち2基を廃棄したに過ぎないのですから、「2010年までに12基の原子炉すべてを廃棄する」という1980年の当初の目標からすれば大幅な後退であることは間違いないでしょう。しかし、忘れてはならないことは、「脱原発」という政治決断により投じられた予算と企業の努力により「省エネルギー」や「熱利用の分野」では大きな成果がありました。特に「熱利用の技術開発の分野」ではスウェーデンはまさに世界の最先端にあります。

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2010年9月19日の総選挙の結果、中道右派政権が2014年まで政権を続投することになりました。今後4年間の政権与党の「エネルギー政策」をウオッチしていく必要があります。