環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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21世紀の低炭素社会をめざして 原発依存を強化する日本 vs 原発依存を抑制するスウェーデン

2009-07-27 22:35:45 | 原発/エネルギー/資源
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7月1日のブログに書いたように、環境政策フォーラムの「第66回モーニング・セッション」でゲスト・スピーカーとして招かれた斉藤鉄夫・環境大臣は「政府が決めた2020年の中期目標では90年比での削減ではなく、2005年比15%削減とした理由について米国中期目標が2005年比であること、日本の2020年の中期目標である15%の削減の手段の中には新規原発を9基建設すること が含まれていることを明らかにしました。

今日のブログのタイトルに掲げたように、日本とスウェーデンでは原発の利用に対する考え方が正反対です。今日は原発を利用している国であれば、 「原発推進国であろうと、なかろうと決して避けて通れない放射性廃棄物(核廃棄物)問題」について、両国の現状を比較し、考えてみましょう。難しい議論はまったく必要ありません。

原発から出る核廃棄物に対する両国の考え方の相違は、日本が「使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、原発の燃料として再利用する」のに対して、スウェーデンは「使用済み核燃料を再処理しない」(直接処分する)ことにあります。

まず日本の現状から。次の図をご覧ください。



この図は10日前の朝日新聞(2009年7月16日)に掲載されたものです。国内にある53基の原発から「毎年900~1000トンの使用済み核燃料」が排出されます。その貯蔵が限界に近づいており、最悪の場合、原発が運転できなくなる可能性もあり、電力会社は頭を悩ませているというのです。
50歳以上の方には「原発はトイレなきマンションだ」という懐かしい、そして言い得て妙な表現を思い出した方がおられるかもしれません。この状況は今なお、日本では変わっていないのです。


参考資料
●1996年9月18日 原子力政策円卓会議(第11回-最終回 議事録)
  招へい者
   内山洋司  財団法人 電力中央研究所技術評価グループグループリーダー (現在、筑波大学大学院教授)
   小沢太 環境問題ジェネラリスト (現在、環境問題スペシャリスト)
   近藤駿介  東京大学工学部教授 (現在、原子力委員会委員長)
   鈴木篤之  東京大学工学部教授 (現在、原子力安全委員会委員長) 
   十市 勉  財団法人 日本エネルギー経済研究所理事 (?)
   長谷川公一 東北大学文学部助教授(現在、東北大学大学院教授)
   平野良一  核燃をとめよう浪岡会代表 (?)
   松浦祥次郎 日本原子力研究所副理事長 (?) 



この機会に、スウェーデンの核廃棄物の現状を見ておきましょう。次の図はスウェーデンの「脱原発政策」(私の理解では「エネルギー体系修正のための政策」という表現のほうが適切だと思います)の経緯を示したものです。



関連記事
スウェーデンの「脱原発政策」の歩み⑯ 1980年の「原子力に関する国民投票」(2007-11-14)


次の図は脱原発政策と並行して、1990年代前半にスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)の調査研究年報に掲載されていた「放射性廃棄物管理の一般ガイドライン」です。




次の図はスウェーデンの核廃棄物処理施設の関係ををわかりやすく図示したものです。




スウェーデンでは、低レベル廃棄物の最終処分場(SFR)は1988年に完成し、 高レベルの中間貯蔵所(CLAB)は1985年に完成して稼働しておりますので、あとは高レベル廃棄物の最終処分場(SFL)を完成させれば核廃棄物処分関連施設の基本的なプログラムは整います。SLFは地表のすぐ下から始まる強固な花崗岩層をくり抜いて、地表より500メートル下の岩盤の中につくられます。

●「脱原発」の備え着々、放射性ごみ処分に自信 後始末、現世代の責任(朝日新聞 1999-04-07)


ここで、もう一度、「放射性廃棄物管理ガイドライン」の⑥をご覧ください。「使用済み核燃料(高レベル廃棄物のこと)の最終処分場(SFL)の設計は2000年頃まで、決定してはならない」と書いてあります。そして、スウェーデンの核廃棄物処分施設の図では「SFLは2020年頃をメドに完成させる」とあります。

1990年の前半に作成した「放射性廃棄物管理ガイドライン」に沿って、SKBは着々とSFLの建設前の準備を進めてきました。2002年にフォーシュマルク(サイトはオストハンマー、エストハンマルと朝日新聞は書いている)とオスカーシャム(サイトはオスカーシャム)の自治体でサイト調査とボーリング調査が開始されました。2007年にはサイト調査が完成しました。そして、SKBの最新の計画ではSFLの建設サイトを決定し、2013年にSFLの建設が開始され、2018年頃にSFLの操業が開始される予定となっています。

●各国の核燃料サイクル政策(朝日新聞 2004年9月14日)

●放射性廃棄物、処分場どこに 鍵を握る情報公開 スウェーデン:住民が理解、最終選定へ(2004年12月9日)

このように、両国の核廃棄物処分に対するプログラムに実行上の大きな相違があることがおわかりいただけたと思います。



ご参考までに、1980年3月のスウェーデンの国民投票と同年6月の国会決議以降の両国の原発の利用状況をまとめてみますと、次のようになります。

 
 
この図が示しているのは、1980年から2008年の28年間の間に、スウェーデンが2基の原発を廃棄したのに対し、日本は33基の原発を増やしました。そしてこの間、スウェーデンは温室効果ガスの削減に成功しましたが日本は過去最高の温室効果ガスの排出量を記録したのです。ここで注意すべきは、原発は正常に稼働している限りは実質的に温室効果ガス(CO2と言い換えても良い)を排出しない発電装置ではありますが、温室効果ガス削減装置ではないことです。したがって、原発を建設しただけではCO2は増加することはあっても、減少することはないのです。

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日本は世界トップレベルの低炭素社会? 経済界の判断基準が明らかにされた「意見広告」(2009-03-27)


現時点(2009年7月現在)で、スウェーデンには日本のように新規原発を作り続けて行こうとするようなエネルギー政策はなく、「脱原発の方向性に変わりはない」と断言できます。

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市民連続講座:緑の福祉国家26 エネルギー体系の転換⑤ 10年前の1996年の状況(2007-04-26)


ただ、今年2月にスウェーデンの脱原発政策にちょっとした動きがありました。それは、既存の10基の原発の寿命(国民投票が行われた1980年のときに想定されていた原発の技術的な寿命は25年でしたが、現在では60年程度と見積もられているようです)が近づいてきた場合に混乱がおこらないように、「現在の原発サイト(フォーシュマルク、オスカーシャム、リングハルスの3個所)に限って、そして現在稼働中の10基に限って更新(立て替え)が可能になるように、更新の道を開いておく」という政治的な決定がなされたことです。

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またしても、ミスリードしかねない「スウェーデンの脱原発政策転換」という日本の報道(2009-03-21)



1996年に21世紀のビジョン「緑の福祉国家」を掲げた比較第一党の社民党は現在、野党の地位にありますが、2001年の党綱領で「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)には原発は不要であること を明記しています。

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