goo blog サービス終了のお知らせ 

環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

緑の福祉国家19 オゾン層保護への対応 ②

2007-02-06 23:03:57 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


これらの規制に対応して、スウェーデン最大の家電メーカー、エレクトロラクス社は、1994年8月から家庭用ノンフロン冷凍冷蔵庫の販売を開始しました。冷媒には「イソブタン」断熱材には「シクロペンタン」が用いられています。

これらはいずれも炭化水素系物質で、自然界に存在している物質です。日本の冷凍冷蔵庫の冷媒として使用されている「HFC・134a」という物質(強力な温室効果ガス)に比べてイソブタンは温室効果がきわめて低く、環境に与える負荷も少ないとされています。

次の図を見るとおわかりのように、日本で断熱材として使われている「HCFC」も冷媒として使われている「HFC」も温室効果が高いものです。  
 
スウェーデンから遅れること8年、日本でも東芝が2002年春から、その他のメーカーも秋から、「イソブタン」を冷媒に使った「ノンフロン冷蔵庫」を発売しました。私がこの種の情報を受けるといつも思うことは、技術立国を標榜する日本が、なぜ同じような製品をつくるのに8年も遅れるのかということです。

ちなみに、日本の環境庁(現在の環境省)は1998年からスウェーデンのエレクトロラクス社製の「ノンフロン冷凍冷蔵庫」を4台購入し、使用しているとのことです。ホームぺージの概要は次のようです。

環境庁のホームページ スウェーデン製ノンフロン冷凍冷蔵庫      平成10年12月4日発表

2.購入の目的
環境庁では、地球温暖化防止の観点から、庁内の冷蔵庫の更新に当たり、冷媒にHFCを用いない冷凍冷蔵庫(ノンフロン冷凍冷蔵庫、スウェーデン製)を購入した。現在国内メーカーはノンフロン冷凍冷蔵庫を製造・販売していない。環境庁では、ノンフロン冷凍冷蔵庫の導入を契機に、国内メーカーによるノンフロン冷凍冷蔵庫の開発・販売が促進されるよう要請していきたい。

3.購入した冷凍冷蔵庫の特徴
購入した冷凍冷蔵庫は、冷媒としてイソブタン、断熱材にはシクロペンタン(いずれも炭化水素系)を使用している。これらの炭化水素系の物質は自然界に存在する物質であり、現在多くの冷凍冷蔵庫の冷媒として使用されているHFCに比較して温室効果が極めて低く、環境に与える負荷も少ないとされている物質である。また、冷凍冷蔵庫の有効内容積は327L(冷蔵室:240L、冷凍室:87L)で、平均消費電力量は49kWh/月である。
           
(日本の環境庁のホームページから。2001年2月26日閲覧)。

 
シリーズ「緑の福祉国家」は今日でいったん中断しますが、この続きは4月20日から再開します。  

 

緑の福祉国家18 オゾン層保護への対応 ① 

2007-02-05 05:44:32 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック


持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック




4億2000万年前に出現したとされるオゾン層は、水蒸気などの温室効果ガスとともに、地球上の生命が存在できる本質的な要素です。オゾン層の出現により、太陽からの紫外線が減少し、植物・動物の海からの上陸が開始されたといわれているからです。

国際的には、「モントリオール議定書」(オゾン層を破壊する化学物質を具体的に規制する措置を定め、カナダのモントリオールで1987年に採択された議定書)の規定にしたがって、CFCs(特定フロン)95年末までに「製造」が禁止となりました。

1.スウェーデンのフロンガスの規制

スウェーデンの段階的廃止計画の概要は次のとおりです。

2.モントリオール議定書への対応

スウェーデンでは、85年の「化学製品法」(この法律は98年6月に成立し、99年1月1日に施行された環境法典に統合された)に基づく88年の「フロンおよびハロン等に関する政令」によって、モントリオール議定書の規定より1年早い94年末までに「特定フロンの製造」だけでなく、それらの使用と再利用までの禁止する措置がとられました。 

この措置によって、スウェーデンは「特定フロン」の完全な段階的廃止を決定した「最初の国」となりました。
スウェーデンがとった禁止措置はモントリオール議定書の最終期限(95年末)よりも1年早いものでした。廃棄や大気への放出に対しては罰則規定があります。

3.国際的な規制の動向

フロン類とは、フルオロカーボン(FC)、クロロフルオロカーボン(CFCs)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)といった化学物質の総称です。CFCsは分子内に塩素を含んでいるため、オゾン層破壊効果が高いので「特定フロン」と呼ばれ、最初に規制の対象となりました。

「代替フロン」は従来の特定フロンに代わるフロンとして開発された化学物質で、分子内に塩素は含むものの特定フロンに比べてオゾン層の破壊効果が低いもの(HCFC)、あるいは、塩素を含まないためオゾン層の破壊効果がないとされるもの(HFC)などがあります。

しかし、代替フロンはオゾン層の破壊効果は低かったり、なかったりするのですが、地球温暖化の原因一つとされる「温室効果」が高いので、温室効果ガスとして懸念されています。二酸化炭素(CO2)の温室効果を1とすると、代替フロンの温室効果は百倍から1万倍も高いとされています。

そこで、モントリオール議定書では、代替フロン先進国では2020年までに全廃途上国では2040年までに全廃することが規定されています。





緑の福祉国家17 「気候変動」への対応 ⑥

2007-02-04 13:25:10 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


京都議定書の採択から半年たった1998年6月、EUは環境大臣理事会で、地球温暖化防止京都会議で合意された「EU全体でCO2など温室効果ガスの8%削減」を具体化するために、国別分担の排出量新配分で基本合意しました

この新配分でEUは、スウェーデンに「1990年比で4%の温室効果ガスの排出量増加」を認めていますが、これは、スウェーデンが「1970年以降およそ30年間にわたって、CO2の排出量を少しずつ削減してきた実績」と「原発の段階的廃止」をめざす計画を保持していることに配慮したからです。


6.スウェーデンの二酸化炭素総排出量の推移

それでは、70年代~90年代までのCO2排出量の推移を見ておきましょう。スウェーデン・エネルギー庁の資料によれば、CO2の総排出量は1970年以降、88年まで少しずつ減少し、88年以降現在まで、ほぼ横ばい状態が続いていることがわかります。ただし、運輸部門はわずかですが増加傾向にあります。




CO2が減少した理由は、70年代の「石油ショック以降のエネルギー政策」にあります。原油と石油製品の総エネルギー供給量に占める割合は、1970年の77%から88年まで少しずつ減少し、88年以降の横ばい状態を経て、2000年には33%まで減少しました。過去30年間の石油製品の消費は、原子力とバイオマスで代替されました。エネルギーの転換がなされたのです。現在は,石油製品の54%が運輸部門に供給されています。

ここで注目すべき事実は、スウェーデンでは産業部門もCO2削減に努力し、民生部も、運輸部門も努力していることです(その努力にもかかわらずやや増加の方向にありますが)。一方日本では、政策担当者や企業、エネルギー関係者によれば、生産部門は努力し、CO2を削減しているが、民生部門、運輸部門は大幅に増加し、日本全体のCO2増加に大きく寄与している、と説明されています。
 
2001年11月に、政府が国連気候変動事務局に提出した「第3回気候変動に関する国別報告書」によれば、スウェーデンの1999年の温室効果ガス排出量は、90年のレベルをわずかに0.1%上回っただけでした。

このことは、この10年間のGDPが15%増えているのに、90年代の温室効果ガスの排出量が安定化していたことを示しています。1992年に国会が決めた「CO2の排出量を2000年までに90年レベルに安定化する」という目標は達成されたのです。
 
2004年2月19日付の朝日新聞は、2001年時点の主要国の温室効果ガス排出量の削減実績を伝えています。これによると、スウェーデンは京都議定書の目標値の「4%増」に対し、この時点ですでに90年比「3.1%減」となっており、京都議定書の国別目標に到達した「世界最初の国」となったのです。

そして、2006年11月6日の毎日新聞はスウェーデンの2004年の温室効果ガスの排出量が90年比「3.5%減」であったと報じています。


また、国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書2004」では、先進工業国のなかで1人当たりのCO2排出量が最も少ないのはスウェーデンで、5.3トンで、日本は9.3トンでした。




緑の福祉国家16 「気候変動」への対応 ⑤ 

2007-02-03 13:00:34 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


1月23日のブログで、「化石燃料の使用により大気中のCO2が増えると地球が温暖化する」というアレニウスの仮説を紹介しました。スウェーデンの化学者スバンテ・アレニウスがこの仮説を発表したのは1896年でした。

1765年のワットの蒸気機関の発明に始まる近代の技術史の展開やアダム・スミス「諸国民の冨」(1776年)に始まる経済理論の発展の歴史――リカード「経済学および課税の原理」(1818年)、ミル「経済学原理」(1845年)、マルクス「資本主義」(1867年)、ワルラス「純粋経済学要論」(1874年)、ケインズ「一般理論」(1936年)、カップ「私的企業と社会的費用」――と、「アレニウスの仮説」を今、改めて総合的に考えるのは妥当性があると思います。

110年前にスウェーデンの化学者が唱えた仮説が今、現実の問題となって、私たちに「経済活動の転換の必要」を強く迫っています。そして、この仮説を支持するかのように、ゴア・元アメリカ副大統領主演の映画『不都合な真実』(原題: An Inconvenient Truth)が2006年にアメリカで制作され、2007年1月20日から日本でも公開されています。

また、一昨日(2007年2月1日)には、地球温暖化の科学的根拠を審議する「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会」会合がフランスの首都パリで開かれ、第4次評価報告書が承認されたとマスメディアが2月2日に一斉に報じています。
私たちは改めて、「技術開発」と「経済活動」「環境問題」の関係を捉え直す必要があると思います。


5.スウェーデンの二酸化炭素(CO2)規制政策の概要

つぎの図は1991年の「二酸化炭素税導入」までのスウェーデン政策の概要を示したものです。


92年、スウェーデン国会は「CO2の排出量を2000年までに90年レベルに安定化させ、その後は減少させる」というスウェーデン独自の目標をつくりました。

2001年11月に、政府が国連気候変動事務局に提出した「第3回気候変動に関する国別報告書」によれば、スウェーデンの99年の温室効果ガス排出量は、90年のレベルをわずかに0.1%上回っただけでした。このことは、この10年間のGDPが15%増えているにもかかわらず、90年代の温室効果ガスの排出量が安定化していたことを示しています。92年に国会が決めた「CO2の排出量を2000年までに90年レベルに安定化する」という目標は達成されたのです。
 
2001年11月、スウェーデン政府は新たな気候変動防止政策を発表しました。

この政策で、スウェーデンは2010年までに温室効果ガスの排出量を90年レベルの4%減(EUの割当枠では4%増が可能)を目標としています。

注目すべきは、この政策でも、森林による吸収や排出量取引などといった、京都議定書で国際的に認められた「補完的な手法」によらないで、スウェーデン国内の努力によって目標を達成しようとしている点です。具体的には、自治体の気候変動防止プロジェクトへの資金援助、国民への啓発運動、代替燃料の導入、省エネ、課税対象の転換(後述)などが挙げられています。スウェーデン自然保護協会やグリーンピース北欧などの環境NGOは、政府の政策を評価し、支持を表明しています。


 

緑の福祉国家15 「気候変動」への対応 ④ 

2007-01-26 19:09:39 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


4.気候変動防止政策の概要
97年12月の京都議定書の締結以降、様々な議論がなされ、行動計画がつくられました。次の図は2000年当時の日本とスウェーデンの気候変動防止(地球温暖化防止)政策の要点をまとめたものです。両国の間に大きな落差があることがご理解いただけるでしょう。


スウェーデンには、国内のCO2を削減するために原発はもちろん、CO2吸収源としての森林(植物がCO2を吸収して酸素をつくりだす光合成の効果)への期待はありません。排出量取引(与えられたCO2排出枠より実際の排出量の多い国が、排出枠より排出量の少ない国から、排出権を買い取る、といった、国同士の取引。COP3で採択された)への期待もほとんどありません。

「CO2の削減は化石燃料の消費を削減する以外に有効な方法はない」という確固たる考えが、「国のコンセンサス」になっているからです。

●二酸化炭素税(CO2税)
スウェーデンでは、91年1月1日からCO2税が導入され、その後、税率に修正が加えられました。環境保護庁の報告書によれば、87年と94年のCO2排出量を比較すると民生・産業部門全体で約19%の減少がみられ、特に地域暖房において「化石燃料」から「バイオマス燃料」への転換が大きく進みました。CO2税の効果によるものは約60%と評価され、残りの40%はエネルギー利用の効率化と地域暖房の集約化によってもたらされた言われています。

一方、世界第4位のCO2排出国である日本は、「IPCCの評価報告に示された温室効果ガスの大幅削減の必要性や原子力に対する評価」、さらには「実用規模のCO2排出削減技術がないこと」を理解しているはずですが、CO2税の導入には消極的です。
 
●原発に対する期待
原発に対する期待はスウェーデンと日本では正反対です。スウェーデンでは電力の50%を原子力でまかない、人口1人あたりの原子力依存度が世界一であるスウェーデンは。1980年3月の国民投票の結果を踏まえて、同年6月の国会決議で「当時稼働中および建設中であった原発計12基を2010年までに全廃する」ことを決めました。

バルセベック原発1号機は、「97年2月4日の政府の決定」では、98年6月末までに廃棄のために運転を停止し、同原発2号機も2001年7月1日以前に停止される予定でしたが、この2基の原発を所有する電力会社が最高行政裁判所に提訴した不服申し立てに対して、同裁判所の最終的な決定が出されていないので、政府の決定の実施が延期されていました。

その後、紆余曲折がありましたが、バルセベック原発の1号機は99年11月30日に、同2号機は2005年5月30日にそれぞれ廃棄のために停止されました。

一方、日本は、温暖化防止対策として、2006年11月現在、稼働中の55基に加えて、さらなる原発の増設を考えています。

●省エネルギー
省エネは最も有効な温暖化防止対策です。スウェーデンの省エネ判断基準は「最終エネルギー消費量の抑制」ですが、日本の省エネ判断基準は「エネルギー消費原単位の向上」です。

省エネ判断基準の相違により、スウェーデンの最終エネルギー消費量は1970年の457TWhから95年の390TWhまで、漸次減少しているのに対し、日本では同期間中、2112兆kcalから3588兆kcalまで、漸次増加しています。このことは、スウェーデンが70年から95年にかけてCO2を漸次削減してきたのに対し、日本は着実にCO2を増加させてきたのです。

●再生可能エネルギー
一次エネルギーに占めるスウェーデンの「水力を含めた再生可能エネルギーの割合」は現在、およそ30%であるのに対し、日本はおよそ5%程度です。

●アイドリング・ストップ
第1回国連環境会議を取材した72年6月5日付けの日本経済新聞は、スウェーデンで当時(今から34年前)すでに、「交差点でのアイドリング・ストップ(禁止)」の規制が導入されていたことを報じています。

日本では、96年6月から当時の環境庁が「アイドリング・ストップ運動」を始めました。
97年3月25日付けの朝日新聞によれば、神奈川県公害防止条例の見直しを進めていた神奈川県環境審議会は全国で初めて駐車中のアイドリング停止を求める条文を盛り込んだ同条例改正案を知事に答申したそうです。

●森林
日本と違って、スウェーデンでは森林の吸収に大きな期待をしていません。スウェーデンおよび日本の森林の被覆面積は60%を超えています。スウェーデンでは70年代後半から、単一林に比べて生産性が低く、コスト高であるにもかかわらず、林業関係者、民間、政府の合意のもとに、多様性のある森林づくりが実践されてきました。
 

緑の福祉国家14 「気候変動」への対応 ③ 

2007-01-24 05:32:49 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック

3.京都議定書への対応

スウェーデンの気候変動(日本では「地球温暖化」)に対処するための国内的対応は、EU諸国と連帯して、国際的対応に弾みがつくような方法で組織されなければなりません。また、実効性のある戦略であるためには、気候変動にかかわるすべての温室効果ガスを対象とし、社会のすべての部門が参加するものでなければなりません。 

●京都議定書の位置づけ
1994年3月に発効した「気候変動枠組み条約」の第3回締約国会議(COP3)が97年12月に京都で開催され、最終日に「地球温暖化防止京都議定書」(いわゆる京都議定書)が採択されました。

この時点での米国、日本、スウェーデンの京都議定書の位置づけは、3者3様でした。


3者とも京都議定書に署名はしたものの、米国は途上国の参加が義務づけられていないこの議定書は、「議論の出発点にもならない」と考えていたし、日本は「議論の出発点」と位置づけ、スウェーデンは「議定書の内容では不十分なので、議定書の範囲を超えた独自の政策を展開する」でした。

その後、米国は2001年3月に京都議定書から離脱しました。日本は京都議定書を2002年6月4日に、スウェーデンは同年5月16日に批准しました。2005年2月16日、多くの困難を乗り越えて、京都議定書は米国、オーストラリア抜きで正式に発効しました。

●「温室効果ガス抑制目標」に対するEUの国別新配分

京都議定書の採択から半年たった1998年6月、EUは環境大臣理事会で、地球温暖化防止京都会議で合意された「CO2など温室効果ガスの8%削減」を具体化するために、国別分担の排出量新配分で基本合意しました。このことを伝える当時の日本経済新聞(98年6月18日付け)を掲載します。


この新配分でEUは、スウェーデンに1990年比で「4%の温室効果ガスの排出量増加」を認めていますが、これは、スウェーデンが70年以降およそ30年間にわたって、「CO2の排出量を少しずつ削減してきた実績」と、「原発の段階的廃止をめざす計画を保持していること」に配慮したからです。
 
この新配分に対して、当時のスウェーデンの環境大臣は「スウェーデンは新配分で与えられた“増加分の4%”を利用するつもりはない。増加を受け入れた理由は、他国にその分を利用させないためだ」とコメントしました。いかにも、「CO2」削減に真剣に取り組んでいるスウェーデンらしい発想だと思います。


緑の福祉国家13 「気候変動」への対応 ②

2007-01-23 21:16:06 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


2.原発と地球温暖化政策
原発と地球温暖化政策については以前から、そして、現在もさまざまな議論が続けられています。

しかし、87年のWCED(国連の環境と開発に関する世界委員会)の報告「ブルントラント報告」と95年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「第2次評価報告」は、いずれも以下のように、原発については積極的ではなく、条件が整えばという仮定の話になっています。


緑の福祉国家12 「気候変動」への対応 ①

2007-01-23 16:59:30 | 市民連続講座:緑の福祉国家
皆さんへの期待は「環境問題」に対する私の考えや「スウェーデン」に関する私の観察と分析を、ぜひ批判的な立場で検証し、日本の将来を「明るい希望の持てる社会」に変えていくためにそれぞれの立場から日本の現状を真剣に考えてほしい ことです。私たちの子どもや孫のために・・・・・

私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック



1960年代から常に環境分野で国際社会をリードし、72年6月には首都ストックホルムで「第1回国連人間環境会議」を主催し、そして、96年9月には世界に先駆けて「持続可能な社会の実現」を21世紀前半の新しいビジョン(国家の政治目標)に掲げたスウェーデンの「緑の福祉国家」をめざす転換政策を順次、概観することにしましょう。

1.気候変動(日本では地球温暖化)防止政策の大前提
CO2(二酸化炭素)など温室効果ガスによる「温室効果」は、厳密に言えば、 「環境問題」ではありません。オゾン層の存在とともに、地球上の生命が生存できるかどうかにかかわる本質的な要因です。地球の大気中に「水蒸気」「CO2」がなかったら、地球の平均気温は現在の平均気温(15℃)よりおよそ33℃低いマイナス18℃で、地球は氷結していたことでしょう。
 
経済活動の拡大の結果、化石燃料の消費が増えたことによって温室効果ガスであるCO2の排出も増加し、温室効果が高まったことが「環境問題」なのです。過去150年にわたる経済活動が、大気中のCO2濃度をおよそ30%上昇させ、地球の平均気温は20世紀の100年間に、およそ0.5℃上昇しました。気温の上昇はとくに、20世紀最後の25年間に加速されています。
 
温室効果ガスには、水蒸気CO2、フロン、メタン、亜酸化窒素(N2O)などがあり、とりわけ「水蒸気」がいちばん大きな温室効果を持っています。水蒸気を除けば、温室効果の半分以上が「CO2」とされています。CO2の大気中濃度は、産業革命以前には270ppmだったのに、1987年には350ppmを超えるほどに増えています。亜酸化窒素、メタン、フロン、地表レベルのオゾンなども強力な温室効果ガスですが、大気中濃度は高くありません。

ですから、地球温暖化をくいとめるために大気中のCO2の濃度を増やさない対策がとられるのです。CO2は炭素が燃えてできるものですから、なるべく炭素を燃やさないようにすること、すなわち「化石燃料の消費」を抑えることが必要なのです。

緑の福祉国家11 「緑の福祉国家」を実現するための主な転換政策 

2007-01-21 06:58:25 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック
持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


持続可能な社会への移行の手始めは「ビジョン」をつくることです。ジグゾーパズルにたとえるならば、持続可能な社会は「完成図」です。出来上がりがある程度わかっていれば、パズルのピースをつくり、それを上手に並べて、ビジョンを実現しようとするわけです。

ところが、日本の場合には、「持続可能な社会」の全体像(完成図)がわからないままに、みんなが一生懸命ピースをつくっているようなものです。ですから、出来上がったピースひとつひとつは完成度が高く、パーツとしては有効なのですが、お互いに整合性がとれていない可能性が高いのです。つまり、システム的に整合性が悪く、うまく機能しないのです。

環境問題の重要性に気がついても、企業や市民が十分な「環境問題に対する共通認識」がないままに出来ること(ところ)から始めますと、「整合性のない技術」やせっかく努力しているのにその努力が報われない「実効性のない行動」が生まれる可能性が高まります。


つぎの図は、スウェーデン政府の数ある環境・エネルギー分野の政策の中から、緑の福祉国家に転換するために、私の環境論の視点から私が重要だと思うものを、私が選び出したものです。かならずしも、スウェーデン政府の見解を反映しているものではありません。すでに紹介した「環境の質に関する16の政策目標」に達するための中・長期的な転換政策として位置づけられる、 と私自身が判断したものです。



ここに掲げた8つの転換政策は、すでに、80年代後半から90年代にかけてスウェーデンが実行していることですが、「環境に関する16の政策目標」が設定されたことにより、それらの政策が明確化し、いっそう具体化されています。


日本でも、このような類似の政策はそれなりに行われています。たとえば、不十分ではありますが、「家電リサイクル法」では、「製造者責任」が追求されていると言われています。
しかし、いずれにしても、日本は「持続的な経済成長(経済の持続的拡大)」がすべての国家目標の前提となっているために、スウェーデンの判断基準で検証すれば、十分な対応がなされていないのが現状だと思います。

それでは、明日から「緑の福祉国家」の実現に向けて策定された「環境の質に関する16の政策目標」を達成するための「8つの主な転換政策」を一つずつ検証していくことにしょう





緑の福祉国家10 「新しいビジョン」を実現する行動計画

2007-01-20 08:15:48 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


同時多発している諸問題の解決には、問題ひとつひとつに取りくむのではなく、同時解決を図るために「システマティックなアプローチ」が必要です。

民主主義の国で「現行の社会(制度)」を「将来の新しい社会(制度)」にスムーズに変えていくには、まず、大多数の国民が賛成できる「望ましいビジョン」を描き、次にそのビジョンの実現のために「現行の行政組織や社会制度」を段階的に変えていかなければなりません。その際に、「従来の判断基準」を新しいものに変える原動力となるのは、時間の経過に伴って私たちが学び、獲得してきた「新しい知識」です。

スウェーデンでは、90年代中頃までに政治、行政(中央政府、自治体)、企業、市民など国民のセクター間で「人間は自然の法則から免れて生存できないこと」が理解されており、企業も含めて社会全体としてすでに「環境問題に対する社会的なコンセンサス」ができ上がっていました。

そして、「生態系の保全」こそが自分たちの生存を保障すると考えています。その上に、「緑の福祉国家を実現すること」が長期的な政治目標となっているので、スウェーデン企業は他国の企業よりも環境分野の活動に自信を持っており、環境分野の投資に積極的です。
   
民主的な法治国家で「ビジョン」を実現する具体的な方法は、図に示したように、予防の視点でつくられた包括的で整合性があり、柔軟性のある法体系の下に策定される「政策」と「その政策を支える予算の優先的な配分」です。新しいビジョンを実現するためには「新法の制定」と旧ビジョンである「福祉国家」を支えてきた既存の法体系の改正や廃止、行政省庁の刷新、転換政策などが必要となります。

 
このような整った行動計画の枠組みのもとで、利害を異にする組織やそれぞれの国民が、共通の目標である「緑の福祉国家の実現」に、それぞれの置かれた立場で、「できるところ」から一歩一歩努力を積み重ねていけば、道はおのずから開けるはずです。

下の図は上の図の⑥の部分(各主体の協力と行動)を具体的に示したものです。

行動計画のイニシァティブは地方自治体にあります。


緑の福祉国家9 21世紀へ移る準備をした「90年代」⑤     研究報告「2021年のスウェーデン」

2007-01-19 07:29:23 | 市民連続講座:緑の福祉国家
皆さんへの期待は「環境問題」に対する私の考えや「スウェーデン」に関する私の観察と分析を、ぜひ批判的な立場で検証し、日本の将来を「明るい希望の持てる社会」に変えていくためにそれぞれの立場から日本の現状を真剣に考えてほしいことです。私たちの子どもや孫のために・・・・・

私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック

★研究報告「2021年のスウェーデン 持続可能な社会に向けて」の公表(99年1月) 
将来から現在を見るバックキャスト的手法は、スウェーデン政府が21世紀の長期ビジョンを想定するときに使っており、「地球は有限」を前提に、「経済は環境の一部」と見なし、国民の合意のもとに政策を決め、社会を望ましい方向に変えていく手法です。
 
スウェーデンのペーション首相が施政方針演説で「生態学的に持続可能な社会への転換」を明らかにした1996年の前年、95年にスウェーデン環境保護庁は「25年後の2021年次の望ましい社会を想定したプロジェクト」をスタートさせました。そして、約4年の歳月と4億円を費やした研究成果「2021年のスウェーデン―持続可能な社会に向けて」が、99年1月に公表されました。
 
この報告書の要旨は日本の雑誌「ビオシティ」(2000年6月号 No.18)に、「我々はすでに正しい未来の道を選択した――スウェーデン2021年物語」と題して紹介されています。

このプロジェクトで採用された「バックキャスト的手法」では、最初に望ましい未来社会を設定し、その未来社会を実現する戦略を検討することになります。
 
まず、長期的な環境目標が「自然科学の知見」に基づいて設定されました。つぎに、持続可能な社会を築くための基礎的な要素を見つけるために、「物質の流れ」、「建築物」、「技術」の3分野で、まったく別のコンセプトに基づく2つのモデル、「タスクマインダー」(現実の経済社会の延長上で環境に配慮し、再構築したモデル)と「パスファインダー」(望ましい経済社会をイメージしたモデル)を想定しました。

生態学的に持続可能な社会への転換に必要な分野のうち、農業、食糧生産、森林、下水、エネルギー、交通、都市生活、農村生活などが、この2つのモデルを通して検討されました。このプロジェクトには、官僚や研究者のほか、実際に持続可能な社会の実現をめざす役割を担うことになる、さまざまなセクターの代表者が参加しました。報告書は、つぎのように結論づけています。

★この報告書「2021年のスウェーデン」は、スウェーデンの「持続可能な社会創造」の基本目標が実現性のあることを示している。この未来研究では生態学的な持続可能性についてのみ考察するのではなく、異なった選択肢の経済的、社会的な関係についても分析を行なった。
 
★ここに示した持続可能な未来像は、現在開発中か、すでに使用されている技術を基本に考えられた。したがって技術の不足が、提示した目標が実現できるかできないかを決定する要因にはなり得ない。むしろ、持続可能性の妨げになるのは、現行のEUの共通農業政策であり、住宅やオフィスビルのエネルギー削減の動きが遅いことであり、現在の生産と消費のパターンなのである。

★このプロジェクトから得られた成果の一部は環境保護庁から政府に提出され、一昨日紹介した、98年制定の21世紀の環境法体系「環境法典」の基礎資料として使われました。
 
バックキャストするスウェーデンは、「理想主義の国」ではなく、理念に基づいた長期ビジョンを掲げ、行動する「現実主義(プラグマティズム)の国」なのです。



緑の福祉国家8 「持続可能な開発省」の誕生、「環境省」の廃止

2007-01-18 10:22:37 | 市民連続講座:緑の福祉国家
皆さんへの期待は「環境問題」に対する私の考えや「スウェーデン」に関する私の観察と分析を、ぜひ批判的な立場で検証し、日本の将来を「明るい希望の持てる社会」に変えていくためにそれぞれの立場から日本の現状を真剣に考えてほしいことです私たちの子どもや孫のために・・・・・

私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック



行政分野では、新しいビジョンの実現を加速するために、2005年1月1日から環境省が廃止され、世界初の「持続可能な開発省」が誕生しました。同時に所管の行政機関も再編されました。ここで、「緑の福祉国家」をめざす改革のなかでもいちばん最近実施された、「持続可能な開発省」にふれておきましょう。

スウェーデンの行政機構は日本の「官僚主導型」とは異なり、「政治(内閣)主導型」です。この国には、 「省の決定」というものがありませんので、制度的には日本のような行政の縦割りも、日本でいう「省益」もありません。

1967年に世界初の環境分野の行政機関「環境保護庁」を設置したスウェーデンが、今度は21世紀前半のビジョンである「緑の福祉国家の実現」のために、名実ともに世界初の「持続可能な開発省」を新設したのです。あえて「名実ともに」と書き加えたのは、2002年にフランス政府が「エコロジー(環境)・持続可能な開発省」という類似の名称の行政省を設置していたからです。
 
ちなみに、日本の環境庁が発足したのは1971年7月で、環境庁が環境省に昇格したのは2001年1月のことでした。

持続可能な開発省の主な任務はつぎのとおりです。

新設の持続可能な開発省は、省を代表する「大臣」(モーナ・サリーンさん) と持続可能な開発省内で「旧環境省」からの所管事項を引き継いで環境問題を担当する「大臣」(レーナ・ソムスタットさん)の二人の女性大臣を擁しています。持続可能な開発省は、20世紀の「福祉国家」を21世紀の「緑の福祉国家」に転換するための中心的な役割を担った行政省なのです。
 
  
今回の組織改正により、スウェーデン政府の環境行政組織は「持続可能な開発省」と、「環境保護庁」をはじめとする「住宅・建設・計画庁」「化学物質検査院」「原子力検査院」「放射線防護庁」「エネルギー庁」などの19の行政機関からなっています。これらの行政機関は、いずれも機能的にはこの省を代表する持続可能な開発省大臣の指示・監督を受けることのない独立機関ですが、所管事項について持続可能な開発省へ報告する義務を負っています。
 
日本や米国の視点で考えると、スウェーデンの環境行政組織のなかに、環境省が発展的に改組して誕生した「持続可能な開発省」「環境保護庁」が共存していることは理解しがたいことかもしれませんが、両者にははっきりした役割分担があります。

持続可能な開発省は、政治(内閣)主導型政府の構成メンバーとして、ほかの省と協力して所管事項である環境政策と持続可能な開発政策に携たずさわるとともに、国会に対しての責任を果たします。

なお、1月8日のブログでお伝えしたように、昨年10月のラインフェルト新政権の誕生にともなって、「持続可能な開発省」は2007年1月1日から名称を「環境省」に改めました。改称にともなって、関連の行政庁に移動がありました。
 
1月8日のブログで示した「新しい環境省の組織」と、このブログの「持続可能な開発省の組織」を比較してみると、改称にともなって、「エネルギー」「住宅」の2部門が他の省へ移動しただけであることがわかります。
  


緑の福祉国家7 21世紀へ移る準備をした「90年代」④

2007-01-17 07:12:26 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック


持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック


★「環境法典」の制定(98年6月)
新しいビジョンを実現するためには、新法の制定と既存の法体系の改正や廃止が必要となります。1月5日のブログでお話したように、スウェーデンは「予防志向の国」です。問題が起きてから対処するより、事前に策を講じて、問題を未然に防ごうとする傾向があります。したがって、環境関連法もこれまで、「人間の活動は基本的には汚染活動である」と認識し、「問題を起こす可能性があるものは何か」という予防的視点でつくられてきました。

69年に制定された環境保護法は、「環境に有害な活動」を規制する包括的な法律で、20世紀のスウェーデンの環境法体系の中心をなすものでした。この法律も98年成立の「環境法典」に統合されました
 スウェーデンの現行環境関連法である「98年の環境法典」(Environmental Code)制定への準備は、89年5月に国会に設置された「環境法体系を見直すための委員会」に始まります。ですから、新環境立法の制定までにおよそ9年が費やされたことになります。 

93年2月の国会委員会報告に基づいて、政府は既存の15本の環境関連法を一本化するために、「類似のルール」を「共通のルール」で置き換え、数多くの規定を削除して、97年12月4日に整合性のある「環境法典制定法案」を国会に上程しました。

この法案には「1972年にストックホルムで開かれた第一回国連人間環境会議から25年たった現在、つぎの25年間、新しい環境法典のもとで『持続可能な開発』をめざす」と書かれています。この環境法典の制定作業も当然、「緑の福祉国家」に向かう過程の一環あることはいうまでもありません

ついで、政府は既存の法律に環境法典の概念を盛り込むため、98年3月12日に「土地利用」、「林業」、「建設」、「道路」、「航空」、「原子力」など社会基盤(インフラ)の整備にかかわる49本の法律の改正案」を国会に上程しました。

「環境法典制定案」と「インフラにかかわる49本の法律の改正案」はともに98年6月3日に採択され、成立し、99年1月1日から施行されました。 

この図は環境法典に統合された「15の旧環境関連法」を示したものです。スウェーデンの環境関連法体系は60年代以降につくられた多くの法律からなっていました。スウェーデンでは従来から、「環境問題は企業の責任負担」という考え方が徹底していますから、「環境に有害な活動を行なおうとするもの(企業)」は、さまざまな法令で決められた規則に対応しなければなりません。

しかし、旧環境法体系では、どんな活動が法律上「環境に有害」とされていて、そのような場合、どのような対応策を講ずれば許可が下りるのかが、あまりにいろいろな法律にまたがって定められているため、事業者にとっても政府の担当者にとっても、はなはだわかりづらくなっていました。この環境法典で環境法規が一本化されたので、こうしたわかりにくさを解消し、実効性を高めるために、かなり改善されました。

環境法典を特色づける、汚染者負担の原則(PPP)、最良技術(BAT)利用の原則、有害性の低い物質への切り替えの原則、予防原則(人間および環境への被害を防止するために慎重な態度をとる原則)の考え方はどれも、ここに至って突然あらわれたものではなく、60年代から、さまざまな個別の事柄に対して、個別の法律で決められていたことです。

なお、スウェーデン環境法典の条文の和訳本が昨年8月に関東弁護士連合会から公表されています




緑の福祉国家6 21世紀へ移る準備をした「90年代」③

2007-01-16 12:12:54 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック


持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック



★閣僚環境委員会の設置(97年1月)
記者会見で首相は、「各世代が希望に満ちた大プロジェクトを持つべきだ。それぞれの世代にビジョンが必要だ。私たちの前の世代のビジョンは、貧しかったスウェーデンを『福祉国家』にすることだった。いまの私たちのビジョンは、スウェーデンを『緑の福祉国家』に変えることだ。この仕事は若い閣僚が目標を立て、プロジェクト推進の原動力になるのが自然だ」と述べ、若い閣僚に政府の主導権を委ね、「閣僚環境委員会」を設置しました。  

閣僚環境委員会は、委員長に環境大臣、委員は教育大臣、労働副大臣、農業大臣、財務副大臣の5人からなります。

委員会のメンバーの性別や年齢の若さにも驚かされますが、委員会を構成する閣僚が環境、教育、労働、農業、財務の閣僚であることに注目したいと思います。環境問題に対する首相の認識と位置づけが、委員会構成にもはっきりとあらわれているといえるでしょう。

この委員会の任務は、「持続可能なスウェーデン」を実現しようとする政府のすべての政策の土台となる、包括的な政策プログラムを97年末までにつくり、98年からそれをスタートさせることでした。97年秋から98年春にかけて、エネルギー、交通、地域交通、地域開発、雇用、消費、住宅、農業、建設・設計などの各分野で、持続可能な開発の達成に必要な政策プログラムがつぎつぎに打ち出されました。

★「環境の質に関する15の政策目標」(98年4月) 
このビジョンを実現するために、政府は88年と91年の環境政策で定めた「環境の質に関する170の政策目標」を約1年かけて精査し、「環境の質に関する15の政策目標案」にまとめ、国会に上程しました。98年4月28日の国会で、この政策目標案は承認され、政府の正式な政策目標となりました。これが、今後の「緑の福祉国家」の環境的側面の行動指針となります。

「環境の質に関する15の政策目標(EQOs Environmental Quality Objectives)」は次のとおりです。

政府は98年の「環境の質に関する15の政策目標」の多くに中間目標を定め、国会に上程しました。国会は2001年11月にこれを承認しました。2003年8月、政府の指示に従って環境保護庁は16番目の政策目標として「生物多様性」を政府に提案しました。2005年11月、国会はこれを承認しました

したがって、上の図の「環境の質に関する15の政策目標」に2005年11月から「生物多様性」が加わり、2007年1月1日現在で「環境の質に関する16の政策目標」が策定されたことになります。それぞれの政策目標に対して、「環境の質」、「達成時期」、「担当行政機関」が具体的に決められています。最終目標年次は2020~25年です。

★「緑の福祉国家」の国家像を示した施政方針演説(99年9月)

それでは、「緑の福祉国家」とは具体的にどのような国家像なのでしょうか。99年9月14日の首相の施政方針演説から、その概要を知ることができます。

ペーション首相は「スウェーデンは生態学的にバランスのとれた国家でなければならない。スウェーデンの環境政策は、これまでにない最もラジカルな再構築を経験した。それが99年1月施行の環境法典の成立であった」と語り、つぎのような国家像を示しました。

①福祉国家としてのリーディングな地位を強化する国家。
②ノウハウおよび専門技術についてリーディングな国家。
③IT(情報技術)のリーディングな国家。
④多様性に富んだ国家。
⑤国民の労働と事業に基づいた成長と繁栄の国家。この三年間で、スウェーデン国内に10万の新会社が設立された。これらの企業は新しい雇用を生み出し、繁栄を推し進め、競争と創造性を刺激している。この展開は、税制の戦略的変革によってさらに強化されるであろう。
⑥「開発」および「平等」に基づいたヨーロッパを保障するために、活発に貢献する国家。
⑦国民が他人のなかに自己の存在を見出すことができる力を秘めた国家。



緑の福祉国家5 21世紀へ移る準備をした「90年代」②

2007-01-15 04:50:19 | 市民連続講座:緑の福祉国家


私のプロフィールや主張、著書、連絡先は、ここをクリック

持続可能な緑と福祉の国をつくる会(仮称)のブログは、ここをクリック



★未来社会の環境の状況について(91年10月)
ブルントラント報告が公表される以前から、発展途上国への援助を通して「持続可能な開発」を試みてきたスウェーデンが描く「持続可能な社会」の環境的側面の要約が、スウェーデン環境保護庁が91年10月に公表した「未来社会の環境状況について」と題した資料の中に提示されています。

私は自然保護との関係で⑧がわかりやすいと思います。70年代頃までは、日本のどこにでもいたメダカやドジョウ、タナゴなどの魚、フジバカマのような野草は今絶滅が危惧されていますし、日本の普通の景観であった里山や棚田の現状をみれば、日本の状況の厳しさが実感できるでしょう。そして、⑨にバイオ技術で世界の最先端を行く、予防志向の国スウェーデンの「バイオ技術」に対する見識が見てとれると思います。

この要約に基づいて、「持続可能な社会」をイメージすれば、日本の現状は明らかに持続可能ではないといえるでしょう。持続可能な社会とは従来のSF小説や未来小説にしばしば登場する巨大なコンクリート構造物の間を高速交通が縫うように走り回る、電子機器に囲まれた都市型社会とはまったく正反対の、豊かな自然の中で環境にやさしい適正規模の科学技術が定着した落ち着いた社会となるでしょう。

一世を風靡した「手塚治虫の鉄腕アトムの世界」「真鍋博のイラストの世界」とは大きく異なります。そこには日本の行政当局者や多くの環境・エネルギー関係者が理解する「持続可能な開発/持続可能な社会」の概念とは大きな認識の相違があります。

★「循環政策」(92年6月)
「自然循環と調和した社会の実現」をめざすガイドラインとなる「循環政策(エコサイクル:環境の新たな展望)」(自然循環システムと調和した社会の実現をめざすガイドライン)が国会で承認され、これまでの「福祉国家」を「緑の福祉国家」に変える第一歩を踏み出す法的な基礎ができました。
循環政策の焦点は「廃棄物に対する製造者責任制度」、「廃棄物税の検討」、「化学物質の監視」などです。
 
★経済発展のための政策(95年11月)
「経済発展のための政策」は「税金」「教育」「労働」に関する権利と「環境問題」を包括的にとらえたもので、この政策の目玉は、税金部門の「課税対象の転換」でした。

★「緑の福祉国家の実現」というビジョンを掲げた施政方針演説(96年9月17日)
ペーション首相は施政方針演説で、「スウェーデンは生態学的に持続可能性を持った国をつくる推進力となり、そのモデルとなろう。エネルギー、水、各種原材料といった天然資源の、より効率的な利用なくしては、今後の社会の繁栄はあり得ないものである」と述べました。これは、「福祉国家」を25年かけて「緑の福祉国家」に転換する決意を述べたものです。

首相がこのビジョンを実現するための転換政策の柱としたのは、「エネルギー体系の転換」「環境関連法の整備や新たな環境税の導入を含めた新政策の実行と具体的目標の設定」、「環境にやさしい公共事業」、「国際協力」の4項目です。

この演説のなかで、 「持続可能な開発」に対するスウェーデンの解釈が明らかになっています。英文では、つぎのように表現されています。

Sustainable development in the broad sense is defined as community development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs.

ここでは、「広義の持続可能な開発とは、将来世代が彼らの必要を満たす能力を損なうことなく、現世代の必要を満たす社会の開発」と定義されています。 

重要なことは「社会の開発」であって、日本が理解する「経済の開発、経済の発展や経済の成長」ではありません。資源・エネルギーへの配慮を欠いた経済成長は「社会」や「環境」を破壊する可能性が高いからです。

首相は施政方針演説後の記者会見で「緑の福祉国家の実現を社民党の次期一大プロジェクトにしたい」と語り、「スウェーデンが今後25年のうちに緑の福祉国家のモデル国になることも可能である」との見通しを示しました。ここに、明快なビジョンが見えてきます。

記者会見で首相は、「各世代が希望に満ちた大プロジェクトを持つべきだ。それぞれの世代にビジョンが必要だ。私たちの前の世代のビジョンは、貧しかったスウェーデンを『福祉国家』にすることだった。いまの私たちのビジョンは、スウェーデンを『緑の福祉国家』に変えることだ。この仕事は若い閣僚が目標を立て、プロジェクト推進の原動力になるのが自然だ」と述べ、若い閣僚に政府の主導権を委ね、「閣僚環境委員会」を設置しました。