三上 延(著) メディアワークス文庫
ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく――。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった……。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。(「BOOK」データベースより)
シリーズ完結編です。栞子さんと大輔君が両想いになったのは何巻からでしたっけ?ともあれ、今作では息のあった恋人同士となっていて、一方が窮地に陥ると他方が助言や励ましを与えて救うという展開になっているのが微笑ましいです。
前作を読んでからかなり時間が経っていたのですが、冒頭でこれまでの登場人物:母の智恵子、妹の文香、せどり屋の志田、久我山家の人々、大輔と血縁のある田中敏雄、滝野ブックスの蓮杖、ヒトリ書房の井上などなどの紹介がさりげなく書かれているので、詳細は忘れていても何となく「あぁ、こんな人いたっけな~」と記憶の底から浮かび上がってきました。
今作で新たに登場したのは、久我山尚大の最後に残った番頭である吉原喜市と智恵子の母であり栞子の祖母である英子です。
プロローグの内容がそのまま本編のヒントにもなっている趣向。跡継ぎにしようと目論んでいた智恵子に手酷く拒絶され激怒した久我山尚大の壮大な復讐劇に巻き込まれていく栞子たちですが、その因縁となる本は洋書というのが今までと異なる点かな。シェークスピアのファースト・フォリオ(これも聞きなれない単語ですがシェイクスピアの戯曲をまとめて出版した最初の作品集という意味らしいです)が焦点となっていて、智恵子が家を出たのもこれを求めてのことだと明かされます。
尚大の意志を忠実に引き継いだ吉原が篠原母娘に仕掛けた罠はしかし、母娘の見事な逆転劇へと変わります。吉原という人物もなかなかに食えない御仁で、本当は自分こそが尚大の後を継ぐべき人物だという自尊心が彼の原動力のような気がします。だからこそ、「真実」を見抜けなかった彼の悔しさは負けを認めることに繋がり、このままでは終わらないような不穏さも残す結末でした。膨らませたらスピンオフでまだまだ書けそうだしね
物語のクライマックスとなるシーンでは、母と娘による競り合いの駆け引きや心理戦にドキドキさせられ、大輔君の「ジョーカー」に喝采し、最後の栞子さんの推理に「そういうことか!」と納得させられ、けっこう一気に読んでしまいました。(家や土地を抵当に数千万を調達って、今までとは桁の違う話になってるし)大輔君の決意に触れ、交際を反対していた智恵子も彼を認めた様子なのも嬉しい要素ですね。
強引であくどい商売をする祖父と栞子さんの間に類似点は見つけられずにいましたが、最後まで読むとこの祖父にも一片の本に対する思いは確かに存在していたのだなと思わせてくれ、そこにかすかな救いを見出すことができました。
2022年5月30日再読