杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

彼らが本気で編むときは、

2017年11月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2017年2月25日公開 127分

11歳の女の子トモ(柿原りんか)は母親のヒロミ(ミムラ)と2人暮らし。ところがある日、ヒロミが育児放棄して家を出てしまう。ひとりぼっちになったトモが叔父マキオ(桐谷健太)の家を訪ねると、マキオは美しい恋人リンコ(生田斗真)と暮らしていた。元男性であるリンコは、老人ホームで介護士として働いている。母親よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いを隠しきれないトモだったが……。


トランスジェンダーのリンコと育児放棄された少女トモ、リンコの恋人でトモの叔父のマキオが織り成す奇妙な共同生活を描いています。「かもめ食堂」を撮った監督(荻上直子監督)だったんですね~。しみじみした味わいのある良作でした。

トモは11歳の少女ですが、歳の割に大人びています。母親は育児より自分の欲求に忠実で、トモを置いて男とどこかに消えてしまいますが、以前にもあったことのようでトモは動じず、叔父の元へ(母の置手紙にそう指示されていたのかな)。ところが叔父のマキオは独りではなく、トランスジェンダーのリンコと暮らしていました。リンコ役の斗真君はガタイが良いので、外見はやはり男性が女装しているようにしか見えませんが、立ち居振る舞いは女性そのものに見えるのが凄いです。(胸はCGですかね

その少し前、クラスメイトたちが黒板に心無い落書きするシーンが登場します。それを消す同級生のカイはリンコと仲良しですが、二人は教室では素っ気ないふりをしています。母子家庭のトモは男子のからかいの対象で、裕福な家の息子だけど上級生の男子に淡い想いを抱くカイもまたクラスで少し浮いています。でもトモはそんなカイを自然に受け入れています。

初めはリンコの存在に戸惑いを隠せなかったトモですが、リンコの作る食事は温かく美味しく、コンビニおにぎりや居酒屋のつまみしか与えられて来なかったトモの心とお腹に沁みていきます。スーパーで偶然出会ったカイの母(小池栄子)から「変な人といない方が良い」と言われて思わず手に持っていた食器用洗剤をかけてしまったトモですが、それは彼女の精一杯の抗議です。カイの母親はトランスジェンダーに理解のない世間一般を代表したキャラとして登場しています。もしかしたら息子が他の男子と違うことに薄々気付いて動揺していたのかも。彼女にはリンコの存在を受け入れる余地はなく、児童相談所に通報したのも自分(とカイ)の周囲から異質な存在を締め出したかったのかもしれないなぁ

リンコが怪我をして検査のため入院した際にも、戸籍がまだ男性のため、男性の大部屋に入れられます。人権侵害だと憤るマキオの脇をすり抜け男臭い大部屋にいるリンコの元へ駆けつけたトモは悔しくて泣いてしまい、逆にリンコに慰められます。

様々な差別を受けてきたであろうリンコはその悔しさや怒りを編み物をすることで解消していました。リンコの手ほどきでトモやマキオもそれぞれ秘めている思いを編み物に込めていきます。リンコの作っているのは彼女が失くした男根です。それを人間の煩悩の数である108個作って燃やすことで、リンコは以前の性との最終的な決別をして戸籍も女性に変える決意をしていました。トモとマキオも協力し、海辺で焚き上げるシーンはとても美しかったです。

回顧シーンではリンコの中学時代も登場します。男性としての自分への違和感に苦しむ息子を母のフミコ(田中美佐子)は受け入れ、励まします。胸が欲しいという彼にブラと編んだ胸を贈るエピソードに胸が熱くなりました。ありのままの子供を受け入れることはとても難しいし、世間の目が気になるだろうし、でもフミコはそんな諸々を全て引き受けて応援しようと決めたのですね。その対極に描かれているのがカイの母というのも切ないな~。息子の部屋で上級生へのラブレターを見つけたカイの母はそれを破り捨てますが、それを知ったカイは自殺を図ります。罪深い存在だと母から責められたカイへ、見舞に忍び込んだトモは絶対違うと言います。大丈夫!トモがいたらカイは生きていけるよ。理解者がいるって本当に心強いことだよ

ある日、ヒロミが突然帰ってきて、トモを連れて行こうとします。母親としての態度を非難され、トモを引き取りたいと言われて思わずリンコに食ってかかる母に、トモが投げかけた言葉が切なく胸を刺します。ヒロミだってトモを愛していないわけじゃないんです。トモの祖母(りりィ)から厳しくされて育ったヒロミには愛し方がわからなかった・・夫が浮気して出て行ってから死んで帰ってくるまでの間、祖母は憎しみを編み物に込めていたこと、敏感だったヒロミがそれを察して決して袖を通さなかったことなどが認知症の祖母がリンコへ内緒話をするという形で明かされるのですが、祖母だってヒロミを憎んでいたわけではなく、愛情が歪んでしまっただけだったのですね

うん、誰も悪い人は出てこない。皆が誰かを愛していて、でもその愛を素直に表現できる人と屈折する人がいて・・間違いを指摘するのは簡単だけど、人の感情は単純じゃないものね。

どんなに放置されていたとしても、トモにとって一番はやはりお母さん。今度こそちゃんと抱きしめてもらえるといいね。そう願ってしまうラストでした。


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