杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ラストレシピ 麒麟の舌の記憶

2017年11月13日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2017年11月3日公開 126分

1930年代、日中戦争前の満州国にやってきた天皇の料理番・山形直太朗(西島秀俊)は、陸軍の三宅大佐(竹野内豊)からの依頼で112品目から構成される伝説のフルコース「大日本帝国食菜全席」を考案する。しかし、そのお披露目の直前、とある陰謀によって「大日本帝国食菜全席」のレシピはいずこかへと失われ、歴史の闇に消えてしまった。それから70年後の現代、一度食べればどんな味でも再現できる絶対味覚「麒麟の舌」を持ちながら、料理への情熱を失ってしまった天才料理人・佐々木充(二宮和也)は、中国料理界の重鎮である楊晴明(笈田ヨシ)という老人から、失われたレシピを探して欲しいと依頼される。(映画.comより


「料理の鉄人」の演出家・田中経一氏の小説の映画化。「おくりびと」の滝田洋二郎監督と脚本が「永遠の0」の林民夫氏と知り、作品全体に漂う雰囲気に妙に納得しちゃいました。観客も平日の午前中の割にはけっこう入っていて、山場にくると鼻をすする音があちこちから聞こえてきましたが、個人的には少しうるっとしただけで泣くまでには至りませんでした。だって、充がレシピを求めて訪ね歩く早い段階から「あれ?もしかして・・」と先が読めちゃったんですもの

ただし、陰謀の中身については「そうきたか!」でした歴史的にも(軍部なら)ありそうな話だと思わせてくれます。

映画は1930年代と2000年代を行き来します。充や親友の柳沢健(綾野剛)が持つのは携帯電話でスマホじゃありません 充は一度食べた味を再現できる麒麟の舌の持ち主ですが、料理に妥協を許さない姿勢から店を潰し、借金返済のために人生最後に食べたい料理の依頼を法外な値段で受けていました。彼の料理への情熱は作るという一点に集約されていて、食べる人のことに思いが至っていなかったのです。

料理人になることを反対されて育った施設を15歳で飛び出して以降、一度も帰っていなかった充は園長に対してもわだかまりを持っていました。

ところが、お金目当てで引き受けた楊の依頼で失われたレシピを探す中で、彼は様々な人からレシピを考案した山形についての話を聞かされます。

天皇の料理番だった山形は軍の命令で妻・千鶴(宮崎あおい)、調理助手の鎌田(西畑大吾)と満州で「大日本帝国食菜全席」のレシピ作りを命じられます。日本と世界の架け橋になるべくレシピづくりに没頭する山形に千鶴は、彼自身が料理を楽しめなければ食べる人に伝わらないと諭します。千鶴が出産時に亡くなった時、彼は厨房に立ちます。それは妻との思い出の一品を作り偲んだのです。やがてレシピは完成しますが、三宅から恐ろしい陰謀を告げられ、共に働いてきた中国人の楊を守るため敢えて彼を追放し、自身はレシピを燃やしてしまうのです。山形には料理を冒涜する行為は例え殺されても出来なかったのです。 

初めのうち、山形の料理人としての姿勢に自分と共通するものがあると思った充ですが、自分しか信じていなかった山形が助手や楊へ信頼を置くようになるあたりからは反発を感じだします。 充にとって料理とは孤高の中を突き進むものだったから・・。

楊が全て知っ。た上で自分を欺いた理由を詰問する充に、楊は山形からの手紙を見せます。そこにはレシピが幻に終わった顛末が記されていました。山形は軍に提出したレシピとは別にもう一冊を手紙と共に楊の手に渡るよう手配していました。それは時を経て山形夫妻の一人娘・幸に届きますが、そのレシピを守るために幸は命を落としてしまいます。もうここまで進めば、充にも山形と自分の絆が見えて当然ですね そしてこの探索を仕掛けたのは充の料理人としての将来を憂えた親友の健だったことが明かされます。(いや~~健めっちゃ良い奴!)

レシピを探す旅は同時に充の頑なだった心を解きほぐす旅でもあったのです。山形のレシピの最初には料理への愛情溢れる言葉が、最後に付け加えられた幸の「カツサンド」のレシピには幼い充の写真が添えられていました。自分は誰からも愛されていないと思い込んでいた充ですが、彼の周囲には溢れるほどの愛に満ちていたことに気付き、充は変わる筈。そう思える余韻がありました。 エンドロールもこのレシピが紹介されていて、飽きることがありません。

服部幸應氏が全面協力したメニューの映像はまさに豪華絢爛。劇中に登場する料理はどれもこれも美味しそうで、これは空腹で観てはいけない映画です


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