AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

ハンター管症候群に対する陰包刺針の効果 ver.2.3

2024-07-04 | 下肢症状

 1.内転筋管とその役割

大腿神経は大腿前面の知覚と四頭筋筋力を支配するが、その一部は伏在神経となり、大腿内側下方で内転筋管(=ハンター管)に入る。
この内転筋管は、大腿内転筋群と内側広筋を2辺とするV字形の溝中にあり、互いの筋収縮により干渉しないための間隙にある管で、いわば配管配線のために設けられたスペースといえる。内転筋管内は大腿動・静脈と伏在神経が縦走している。このV字の溝にフタをするように、内側広筋から伸びた筋膜である広筋内転筋板が伸びている。
伏在神経は筋を支配することなく、大腿内側~下腿内側の皮膚知覚を支配している。すなわち浅層ファシアの障害と関わってくる。

 

2.内転筋管症候群(=ハンター管症候群)

内転筋管の中で伏在神経が圧迫を受けて生ずる伏在神経神経絞扼障害を内転筋管症候群(=ハンター管症候群)とよぶ。これはタイツやスパッツなどで大腿内側を圧迫を続けると、内転筋管周辺の筋緊が伏在神経を絞扼した結果である。ツボでいう陰包(肝)
付近が障害部になる。この筋溝の底には大内転筋がある。症状は歩行時の大腿内側とくに陰包穴あたりの運動時痛で、伏在神経の走行部である下腿内側、膝内側の表在的なピリピリとした痛みが起こる。伏在神経は皮膚のみ知覚支配するので運動麻痺は起こらない。
陰包は、大腿内側の膝側から上1/3のところで、膝上4寸にとる。

 

3.陰包刺針肢位の試行錯誤
   
大腿内側の陰包あたりが痛むとの訴えはあまり多くない。陰包あたりを深々と押圧すると
圧痛を感じる程度のものがせいぜいだった。仰臥位させ、圧痛ある陰包にある程度深く刺入してみても、スカスカするのみでツボに命中した手応えはなく、響きも得られないことが大半だった。しかし陰包に強い圧痛があった場合、筋硬結に命中してズンとした響きが下腿内側に与えられることがあった。

どうすれば安定的にズンという下肢内側への響きを与えることができるかが問題であり試行錯誤した結果、治療側を下にしてのシムズ肢位で陰包刺針することがよいことをつきとめた。この肢位で陰包刺針するとツボが逃げないらしい。陰包を響かせるには意外に深く、3~4㎝の直刺を必要とする。この響きは伏在神経を刺激した結果なのか、広筋内転筋板を刺激した結果なのかどちらなのだろうか。知覚神経の伝導は上行性なので、陰包に刺針しても末梢側に響くことはないが、運動神経が下行性であり、広筋内転筋板を支配する運動神経のトリガーが活性化し、その放散痛が下肢に響いたと判断できる。

4.ハンター管症候群の針灸治験
 
1)症例1(40才、女性)
「右陰包あたりが痛む」と訴えるが来院した。陰包を押圧すると確かに圧痛があったので、前記のシムズポジションで寸6#2で陰包穴に直刺し、強い針響を得た。なお下腿内側や鵞足部に圧痛はなかったので、伏在神経の支流は問題ないようだった。大内転筋を中心に、5~6本集中5分間集中刺針して症状改善に至った。
 ことは難しいことなどから、大内転筋-内側広筋間にある筋膜刺激と判断した。
 
2)症例2(51才、男性)
数週間前から左陰包あたりが痛むと訴えて来院した。臥位で左陰包を軽く押圧すると、跳び上がるほど痛む。この患者はスポーツマンで筋肉質の身体をしている。整形医師の診察では、左内側半月板の外縁が少し削れているが手術するほどではないといわれた。確かに内膝眼・外膝眼にも圧痛があったが、内膝蓋や外膝蓋には圧痛がなかった。
以上から、本症はハンター管症候群であり、伏在神経の膝蓋枝まで反応が及んでいるものと診断した。
治療は、仰臥位で寸6#2で陰包に刺針するとズンと響いた。陰包を中心に5~6本集中置針で5分置鍼。他に内膝眼・外膝眼にも置鍼5分で治療終了した。

 

5.その他の伏在神経症状
 
伏在神経は、途中から大腿動脈と分かれ膝関節内側の表層に出て、次の2枝に分かれる。これらの皮膚痛が、内転筋症候群によるものであればて陰包刺激が適応となる。

 
1)膝蓋下枝

縫工筋を貫き、膝関節下内側の皮膚に行く枝。この枝が鵞足炎時の膝内側痛をつくる。鵞足部の鵞足穴や膝蓋骨内縁の内膝眼に圧痛があれば、伏在神経膝蓋枝痛を考慮する。鵞足の圧痛点には皮膚刺激である円皮針を貼る。内膝眼は皮膚が厚い部でかつ摩擦されやすい部なので、円皮針よりも灸刺激が適する。

2)内側下腿皮枝
下腿内側および足背内側の皮膚に分布。この領域の皮膚反応の探索には撮診法が適する。代表穴は三陰交・地機・築賓などであり、これらのツボ上の皮膚の撮痛反応を探る。治療は撮痛部に円皮針を貼る。
下腿陰経の圧痛というと泌尿器や産婦人科系の疾患を思い浮かべがちだが、それ以前に伏在神経痛であるかもしれない。伏在神経痛は内転筋症候群、鼠径部における大腿神経絞扼障害によることもある。

 

 

 


急性足関節捻挫には局所強刺激単刺+テーピング ver 1.6

2024-05-22 | 下肢症状

1.捻挫の概念

関節捻挫とは、関節が一瞬ずれ、次の瞬間には元に戻るという状況である。関節が元に戻った後に来院するので、関節包や靱帯など、関節支持組織の損傷ということになる。足関節に好発する。
※今回は、急性足関節捻挫を説明し、次回は慢性足関節捻挫をとりあげる。

2.捻挫の好発部位

1)足関節外側捻挫(内反捻挫)


足関節の靱帯損傷は、外果縁(前距腓靱帯、踵腓靱帯)、と内果縁(三角靱帯)に起こりやすい。足関節の外側靱帯には前距腓靱帯・踵腓靱帯・後距腓靭帯がある。これらの靱帯損傷を総称して外側靭帯損傷とよぶが、外側捻挫はとくに前距腓靱帯損傷が多い。
2度(詳細後述)以上の重度の靭帯損傷があると、前距腓靭帯+踵腓靭帯損傷の形となることが多い。



2)二分靱帯捻挫


踵骨から舟状骨に、また踵骨から立方骨に靱帯が分かれしてついているので、この二つの靭帯を合わせて二分靭帯とよぶ。二分靭帯捻挫は、外側捻挫とほぼ同様の機序で発症する。二分靱帯はまれに剥離骨折を生ずることもある。

日常診療においては、足関節捻挫の最多好発部位である前距腓靭帯と部位が近いので、見逃しやすく、正確な触診による圧痛点(外果のやや前方の圧痛)の把握が診断に重要である。二分靱帯捻挫は、後遺症なく治るとされている。


3)足関節内側捻挫(外反捻挫)


足関節の外反捻挫は、前記の内反捻挫と比べて少ない。足の内果と足根骨は4本の靱帯で結合され、これを総称して三角靱帯と称する(4つの靱帯個々の名称は記憶する必要なし)。

三角靱帯は強靱なので、大きな捻挫を起こすことは稀である。一方、強力な力を受けた場合は、剥離骨折を生じることもある。

 
3.捻挫の自然経過と治癒過程

1)炎症過程(急性期) 
捻挫では関節包靱帯を損傷し、関節包靱帯の内面の滑膜層に炎症性の腫脹が発生する。腫脹の中身は滑膜層からの分泌物で、これが関節包の中に充満すると関節の可動範囲が狭まり、疼痛が発生する。
関節包靱帯やそれを補強する側副靱帯などが部分断裂を起こすと、その部分より出血を生じ、見た目にも青黒く皮下出血斑が広がっているのが確認できる。そのため、いち早いRICE処置が必要となる。


2)消炎期(治癒期)

3~4日の急性期が終わると、腫れも落ち着き、各組織が移動を始めて新しい組織を生み出す準備を開始し、組織修復が始まる。この頃になると、最初の炎症期のような激しい痛みはなくなる。この組織修復の原動力となるものは腱に含まれるコラーゲンであるという。


3)再生期(修復期)

腫れが引き、治癒の準備ができると組織は再生と修復を始める。筋肉や腱、靭帯などの組織は、受傷後3~4日して瘢痕組織を形成してしばらくの間、補強され、数ヶ月後にはほとんど元の組織に回復する。この瘢痕が存在する時期は、捻挫を再発しやすい時期でもある。この時期に捻挫を繰り返して瘢痕組織を傷つけると、捻挫が慢性化してしまう。
また受傷後の毛細血管はケガから2~3日で修復を開始し、新しい血管を形成していく。この段階は約4ヶ月も続くことがある。
新しい組織が強い構造(ケガの前の正常な構造配列)を形成するためには、ある程度のストレス(運動)が必要なことから、適切なリハビリが重要になる。


4.重症度分類と処置法

1)第1度

病態:靱帯断裂を伴わない軽度または微小な捻挫。

症状:ある程度の腫脹を伴う軽度の圧痛。
治療:安静とサポーター

2)第2度

病態:不完全または部分断裂を伴う中程度の捻挫

症状:明らかな腫脹、斑状出血、歩行困難
治療:膝下歩行、3週間のギブス固定

3)第3度

病態:完全な靱帯断裂

症状:腫脹、足関節不安定性、歩行不能
治療:ギブス固定または手術


5.針灸治療


1)針灸の適応とテーピング固定


針灸治療は第1度捻挫に著効する。第2度にもある程度適応がある。第3度には適応がない。要するに痛いながらも何とか歩けるものが適応になる。針灸治療自体は鎮痛消炎目的で行うので、ごく軽い捻挫を除き、治療院でも関節固定を行うべきである。とはいっても捻挫の固定は整形外科や整骨院が本業とするところなので、針灸院レベルではテーピング固定(伸縮性のないテープを使用)を行う程度となる。逆にいえば、テーピング固定しても歩行困難な患者は針灸適応外といえる。針灸治療だけで固定をしない場合、痛み自体は間もなく消退するが、靱帯がゆるんだまま炎症が治まった状態(これを慢性捻挫とよぶ)に移行しやすい。慢性捻挫では、一定の負荷の持続で、関節部が腫脹し痛みを訴える。また捻挫を起こしやすくなる。



2)針灸治療法


現代医学においても、打撲・捻挫などの外傷の時に、圧痛点に局所麻酔を打つと治癒が促進されることが知られている。痛みを放置した状態→反射的に筋肉の緊張が強くなる→交感神経の緊張が続き、腫れや血行障害が続く、ということで局麻注射は痛みの悪循環を遮断する意味がある。
   
圧痛点に針灸治療を行う意義も同様で、鎮痛→筋緊張緩和→交感神経緊張緩和→血行促進→自然治癒力増強という機序が作用する。

代田文彦は、「捻挫時の圧痛点刺針は、骨膜に至るまで深刺した方がよく、その理由として骨膜は広汎に響きを与えられるので、刺針効果の及ぶ範囲が広くなる」と話していた。針灸治療自体は容易で、捻挫部の圧痛点を数カ所みつけ、そこに強刺激の単刺法を行う。結果として阿是穴治療になることが多い。
刺針時の患者体位としては、捻挫部を広げて靱帯伸張させて刺針すると針が骨間の凹みの底に至りやすくなり、針の響きも広範囲になる。

 


3)第Ⅰ度の急性足関節内反捻挫の局所治療奏功例(2022.8.9 柏原修一氏報告)

患者:64歳、男

主訴:右足首の内反捻挫。

現病歴:2022.8/6に趣味のランニング中に道路の凹凸に足をとられて右足首の内反捻挫。

所見:内出血、発赤、熱感、腫脹なし。内反動作で右外果下部に動作痛および圧痛。重症度分類はⅠ度と推定。

治療:第5期針灸奮起の会 「下肢症状の治療技術」に基づきⅠ度の急性捻挫と診断し、右外果下の圧痛点5カ所に寸3-1で単刺。半米粒大の艾炷2壮を9分透熱灸。その後キネシオテープ3枚で固定。通常歩行動作で痛みのないことを確認。

考察:本症例は受傷後3日目の軽度急性捻挫と診断し、単刺と9分灸で消炎措置を行い、キネシオテープで固定して様子をみてもらうこととしました。本症例は、Ⅰ度の足  関節内反捻挫といことで、鍼灸はよく奏功するが、ここで必要となるのが、捻挫の重症度区分を見分ける知識である。Ⅰ度であれば歩ける。Ⅱ度であれば立てるが歩けない。Ⅲ度では立つこともできないという区分が役立つだろう。


こむら返りの病態生理と対応 ver.1.1

2024-05-21 | 下肢症状

1.こむらがえりとは

こむら(=腓)返り」とはふくらはぎが、つ(=攣)ること。腓腹筋痙攣 cramp in the calf で、これは有痛性筋痙攣の一種。腓腹筋に起こることが多いが、大腿、前脛骨筋、足指、足裏にも起こる。
 

2.病態生理

近年の研究では、“こむら返り”は、筋肉そのものではなく筋紡錘や腱紡錘(ゴルジ腱器官)がトラブルを起こした結果、発症するものと考えられるようになった。
  
1)運動時に起こるこむら返り
    
筋が伸びるとその中にある筋紡錘も伸びる。すると「筋が引っぱられた」との信号を中枢に送る。すると脳は「これ以上伸びると危険なので縮め」との指令を出し、運動ニューロンを介して筋が縮む。
運動をしている最中や運動の直後に、こうした状態になりやすい。筋紡錘の機能が過剰亢進すると筋肉が収縮し続けるので、こむら返りをきたす。
 
事例:かつて95才男性が当院に来院していた。ゴルフマニアで冬でも週1~2回はコースを回るのを生き甲斐としている。しかし最近気温が下がったせいか、プレイ途中でふくらはぎが痙攣し、どうしても途中棄権してしまうと訴えた。私はとりあえず痙攣しそうな処に、痙攣する前に円皮針を貼るよう指導した。すると次回来院時に言うには、以降ふくらはぎの痙攣はなくなり最後までコースを回れたと非常に感謝された。本患者は円皮針を外すことなく、次々に追加して貼ったので、ついに片側の下肢だかで数十個貼っている状態となった。風呂に入るのなで自然にとれるまで貼っておくと話していた(風呂で足裏に針が刺さるというので家族には不評だった)。
 

2)睡眠時に生ずるこむら返り
    
腱紡錘は、主に筋の縮みを感知するセンサー。筋が縮むと、腱紡錘はその縮みを感知。それを中枢に伝達。脳は「腱に負担がかかり過ぎになりそうになると、筋肉や腱を守るために、「これ以上縮むな」との指令を出す。
ところで、<こむら返りとは骨格筋が強烈に縮む>ことである。脳は「これ以上縮むな」という命令を出しているのだが、腱紡錘の機能低下により、筋紡錘は勿論、腱紡錘も緩む方向に誘導できず、筋収縮を止められない。この結果としてこむら返りが生ずる。

 

図1:一つの筋中に筋線維は多数あり、筋紡錘もこれに並列に並んでいる。筋紡錘自体は、筋収縮する機能はなく、筋の伸張程度をモニターしている。筋線維が伸長すると「引っぱられた」との情報を得る。
図2:腱紡錘は筋腱移行部に直列で存在する。筋線維が収縮すると、腱紡錘は「引っぱられた」との情報を得る。この時、筋紡錘は無反応。

 

3.腱紡錘の働きが鈍る原因

こむら返りは、激しい運動中でも起こるが、安静にしていて起こることの方が多い。とくに睡眠中にこむら返りが起こると、痛くて目が覚めるほどになる。安静時にこむら返りが起こるのは、腱紡錘の働きが鈍るのが原因である。ではなぜ働きが鈍化するのだろうか。
  
1)睡眠中

睡眠中は、筋肉の弛緩が長時間続く。これは腱紡錘への刺激がない状態が長時間続くということでもある。すると腱紡錘が休眠してしまい、腱が引っ張られたことを感知できなくなる。その結果、筋肉の収縮を抑制せずに、筋肉が収縮したままの状態になる。

2)
電解質の異常
筋肉の収縮の調節にかかわるのがMgとCa。不足すると神経伝達に支障が生じ、腱紡錘の働きも鈍くなり足がつる。これはスポーツ中に脚がつるなどの場合の原因になるが、加齢や疲労、脱水、冷えなどによってもミネラルバランスはくずれ、同様の機序で足がつる。高齢者では咽の渇きを感じにくいので脱水に注意する。
  
3)冷え
布団から足が出ていたりして足が冷えると、血流が滞るので、これも足がつる原因になる。
   
4)器質的疾患
脊髄疾患:脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア
代謝疾患:糖尿病、腎臓病、肝臓病     ←入院で輸液が必要になる程度の電解質異常がある場合
血管疾患:閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤
 

4.つった時の対処法
  
1)筋収縮が生じた筋肉を他動的に伸ばすことで、ゴルジ腱器官を刺激。腓腹筋痙攣発作時には、経験的に発作が治まるまで母趾を強く背屈させて腓腹筋ストレッチをすることが有効である。夜間の発作の最中この動作をするのは、起き上がらねばならないので面倒である。しかし患側の足母指のMP関節を強く背屈させて、腓腹筋だけでなく長拇趾屈筋・総趾屈筋のストレッチをするようにすれば仰臥位のままできる。ちなみに長拇趾屈筋は、バレリーナがつま先立ちをするために鍛えるべき筋として知られている。



 

2)手足、とくに足の保温につとめる。具体的には腓腹筋部に保温のためのサポーターを施す。

3)芍薬甘草湯:
つったときに頓服的に服用する。ただし事前に服用しても効果あり。 効果発現まで平均6分。効果持続時間は4~6時間。内臓平滑筋痙攣も適応になる。
 

5.深腓骨神経ブロック(局麻注射)
   
高山瑩・伊藤博志は、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局麻注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少すると発表した。一度行えば数カ月間、効果が持続する。なお中封からの深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝ブロックよりも効果は劣った。
(「腰痛などを伴っているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1):126--130.2002)

※この神経ブロックは、原理的に足母指を強力に背屈させるのと同じだが、持続作用があるらしい。太衝に円皮針を置いても効果あるだろうか?

6.腱紡錘の反応性鈍化が原因だとすれば、腓腹筋がアキレス腱に移行する部である承山あたりの刺激が有効となるかもしれない。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


シンスプリントの針灸治療   ver.2.1

2024-04-12 | 下肢症状

1.シンスプリント  Shin splints の概念

Shinは向こう脛(すね)、Splintsは(骨折時に使う)副木の意味。まぎわらしいことに短距離走者は英語で sprinter であり、シンスプリントは短~中距離走者に多いこともあって紛らわしい。ランナーの発症率は20~50%と非常に多い。シンスプリントは症候群なので、いくつかの病態が含まれるが、その中心となるのが筋腱膜癒着による滑走障害である。ただ筋の骨膜起始部の牽引痛のこともあり骨膜痛になる。この時の診断名は脛骨過労生骨膜炎である。痛みが限局性で非常に強ければ疲労骨折を考慮する必要もある。
シンスプリントの大部分は後内側シンスプリントで、下腿内方下半分あたりが痛む。少数ながら前外側シンスプリントもあり、下腿前面の上半分の痛みを訴える。



2.重症度分類(Walsh)


ステージ1:運動後に“ジーンとする鈍痛(すねの内側に痛みが多い)
ステージ2:運動中も痛みを感じるようになる。
ステージ3:パフォーマンスに影響(タイムが落ちたり、足をひきずったり)
ステージ4:慢性的で安静時にも持続する痛み。次第に歩行困難となる。


3.後内側型シンスプリント

1)病態 

下腿後側深部筋には、後脛骨筋・長拇趾屈筋・長趾屈筋があり、これらの腱はどれも足内果の下方を通って足指に停止し、足関節底屈作用(つまさき立ち運動)と内反作用がある。足を底屈したり内反すると痛みは増強する。

踵を上げて(足関節底屈)走行するこのと多いランニングやジャンプでは、癒着した筋膜間が滑走障害を起こし、強い痛みを感ずることがある。

後内側シンスプリントは、園部俊晴氏(運動と医学の出版社代表)によれば基本的には長趾屈筋と後脛骨筋の滑走障害により、脛の内側下1/3周辺に痛みが現れるという。ただし長指屈筋とヒラメ筋の滑走障害もあり、ヒラメ筋障害が関与する場合では下腿内側中央あたりに痛みが現れるという。

2)後内側型シンスプリントの針灸治療

①長趾屈筋と後脛骨筋の滑走障害

2寸針を使用。仰臥位で下腿屈筋の長趾屈筋・後脛骨筋に対して三陰交あたりから刺針し、置針した状態で足関節屈伸、そして足の回内回外の自動運動を行わせる。下腿内側の脛骨内縁の下付近の圧痛点を刺入点とする。腓骨下縁に向けて直刺深刺。 


②長指屈筋とヒラメ筋の滑走障害

脛骨内縁中央あたりの痛み。本症状では、ヒラメ筋と長拇趾屈筋間のの滑走障害を考える。仰臥位で脛骨内縁の地機あたりの圧痛点を刺入点とする。2~3寸針を使って、腓骨下端方向に向けて直刺深刺し、足関節屈伸、そして足の回内回外の自動運動を行わせる。

 

③運動療法

踏み台の上に立たせる。その際、踵を踏み台に置き、足の前半分は踏み板の外に置いた姿勢にする。膝を伸ばした状態で、足関節の底屈・背屈運動を大きな動きで30秒間にできるだけ速い動作で行わせる。30秒間休んだ後、両膝45度屈曲位で上記同様30秒間実施。この組合わせを1セットとして3セット実施する。セット間の休みは1~2分間とする。
この運動は、素早く足関節底屈運動を繰り返すことで、筋膜癒着を解消するねらいがある。膝関節を屈曲すると腓腹筋よりもヒラメ筋の運動になる。




3.前外側型のシムスプリント

1)病態
前面外側が痛むタイプ。園部俊晴氏(理学療法士、運動と医学の出版社代表)によれば前脛骨筋と長母伸筋間の癒着による滑走障害だという。足関節が背屈(足指を足背側に向ける)すると痛みが増強する。


 

2)針灸治療 
足三里~下巨虚のやや外方で、前脛骨筋と長趾伸筋間の圧痛を探し、2筋間へ刺針する。そのままゆっくりと足関節の底背屈・内外反の自動運動を行わせる。


4.シンスプリントの針灸治療効果


運動制限を厳守すれば2週間程度で症状が消失する。運動制限ができない場合、早い者だと1ヵ月程度、長くかかる者では1~3ヵ月程度かかる。スポーツ選手は練習できないことにストレスを感じるので、治癒までの見通しを示すようにする。
片山憲史らの針治療集積報告では、14名20肢(平均罹病期間4.6週)に針灸を行い、平均治療期間28日、平均治療回数 4.4回を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 


筋痙縮時の自己防衛策

2023-02-28 | 下肢症状

もう少し寝かせて成熟させて発表しようと思っていた題材があったのだが、「しゅう鍼灸院」の柏原修一氏から下記1の記事があることを教えてくれた。記事が鮮度を保っている間に、この内容を発表することにした。


1.マラソン中、足が痙攣したら安全ピンで刺した話

 
令和5年2月26日放送のフジテレビ「ジャンクSPORTS」の中で、(元マラソン選手の福士加代子は、高校時代に長距離走中に足が痙攣した際は、叩いたら痛みを忘れるとかあるとかで、安全ピンで自身の足を刺したという話をしていたという。

これはテレビで流して良い話ではない。マネされて事故が起きればテレビ局の責任になるからだ。
ピンで刺すのは衛生面や安全面に問題はある。ただし強く痙縮する筋に対して、痙攣している部を自分の指腹で強く強圧して急場をしのぐ行為は、普通のことではないかと思った。
 

2.腹筋痙攣に対する自己対策
 
私は以前から無理な姿勢で上体を前屈した時などに、突然片側の内腹斜筋がつることがあった。年に1~2回のこと。つった瞬間は、自分でも分かり大した痛みはないが、数秒後から次第に腹筋か強く収縮して耐え難いほどの痛みになるのが常だった。それを必死で我慢すると、数分後に痛みは自然消失する(ときに筋の一部分に持続性収縮状態が残ることもあり)。

つった瞬間、から激しい痛みに至るまで、猶予は5秒間程度あるので、何とか激しい痛みにならないよう、自分なりに対策をたててみた。
対応A:前屈して腹筋をゆるめておく
 →でいつもより強い筋痙攣が生じ、最悪の結果だった。

対応B:腹臥位となって床に寝て、上体を起こすことで、腹筋を他動的に伸張させる
 →何もしないより痛みは2~3割減っただけ。
対応C:これから腹筋が痙攣するのを見越し、あらかじめ自分で腹筋を収縮させておく。
 →何もしないのと比べ、痛みは1/3程度となった。
  

なぜこのような結果になったのは不明だが、対応Cは制御された筋収縮になったのではないかと思っている。部位的に指頭で押圧すると、皮下組織が多いので筋を強圧するには無理があった。


足底筋膜炎の針灸治療 ver.2.4

2022-08-12 | 下肢症状

1.病態
   
足底の筋は、表在性の足底筋膜に覆われている。足底筋膜は踵骨隆起から起こり、足の指に至って、足底の縦のアーチ維持に貢献している。過度の足底筋膜に加わる張力の反復により、足底筋膜に付着部の牽引ストレスが作用する。また足底筋膜の微小断裂を起こす。
   
この微小断裂は、夜間就寝中に治癒機転が働いて固くなる。しかし朝、固まった損傷部に体重が加わると、再び引き伸ばされて激痛となる。長距離の選手に多い。


 

2.症状

痛みの直接原因は脛骨神経末端興奮による。


1)脛骨神経内側踵骨枝刺激
歩行開始時や走行中に、踵に近い部分が、ビリビリと痛む。踵骨前方の圧痛。

2)内側足底神経刺激:母趾背屈時の足底痛。

 
3.所見:X線で、足底部の踵骨内前方に骨棘。

4.整形治療:
整形での治療は安静。ときに筋膜付着部への局麻注射を行う。スポーツ再開までには、数ヶ月の安静が必要。
(治癒まで半年以上かかる例が10%ある)
 

5.足底筋膜炎の鍼灸治療

 1)下腿三頭筋と足底筋膜   

新生児では足底筋膜は踵骨を経由して下腿三頭筋とつながっているが、生後1年して歩行する頃になると両者は踵骨を境に独立したものとなる。治療的には、足底筋膜と下腿後側筋と一体として考えるとよい。 下腿三頭筋とくにヒラメ筋が短縮緊張すると、足底筋膜がひっぱられる力が増し、外的衝撃により足底筋膜が傷つきやすくなる。ゆえに下腿三頭筋とくにヒラメ筋のトリガーポイント(承山・承筋などの圧痛点)を見つけて刺針する。

 


2)短母趾屈筋への刺針

公孫位置: 足の第1中足指節関節の後、内側陥凹部に太白をとり、その後1寸。     
然谷位置:足内果の前下方、舟状骨と第1楔状骨の関節面の下際。


 

 

公孫・然谷刺針は母趾外転筋→短母趾屈筋と入っていく。なお長趾屈筋と長母趾屈筋はこのあたりでは腱となっているので、刺針する意義は少ない。これら長趾屈筋と長母趾屈筋本体に刺針するには下腿から行うのがよい。


3)長母趾屈筋と長趾屈筋への刺針

これら2筋は。足母趾および足第2趾~第5趾の屈曲作用である。足底部では腱になっていて筋は下腿後側になる。長母趾屈筋腱の停止は腱となって足の内側に、長趾屈筋の停止は腱となって足の外側にあるが、下腿後側では二筋はクロスし、長母趾伸筋起始は下腿の外側に、長趾伸筋起始は下腿の内側になっているので要注意。これら二筋の代表穴として、筆者は陽交穴・地機穴を使っている。

 

※以前の下腿中央断面図では、「陽交」と「外丘」の位置が入れ替わっていた。40年前に私が学習してた頃にそういうことだったが、現在では変化したらしい。現在の規定に沿って、図

地機位置:下腿内側ほぼ中央脛骨内縁骨際で、ヒラメ筋起始部。深部に長趾屈筋がある。   
陽交位置:下腿外側ほぼ中央。長腓骨筋とヒラメ筋の間。深部に長母趾屈筋がある。

 

この刺針のアドバンス治療は、伏臥位で下腿下方にマクラを入れて足をベッドから浮かせた状態にして外丘から長母趾屈筋に、地機から長趾屈筋に置針。その状態で足指の屈伸運動を行わせると治療効果が増大する。  

 

 

 

4)局所刺針  

刺痛をなるべく与えないよう細針を使い、足底の圧痛点に直接浅刺刺針。
跪座位(両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢をさせ、足底筋膜のストレッチ運動を行わせる。徐々に体重をかけていく。1~2分筋運動実施させた後に抜針する。

6.足底筋膜炎に対する鍼灸の追試報告(柏原修一氏による)2022.8.11.

1)主訴:両踵部の痛み、および両ふくらはぎの筋肉痛

2)現病歴:肥満体形。毎日水産加工会社で立仕事している。2年ほど前から反復性の踵痛でたまに来院している。今回も症状が増悪し両踵部痛と内側・外側腓腹筋痛が痛むという。痛みのレベルはVAS(痛みの十段階評価)2~7の範囲。平均5。本日は7。踵の失眠圧痛(-)だった。

3)診断:足底筋膜炎

4)治療:跪座位にて踵骨隆起の圧痛点に寸3-01置鍼。跪座位のまま足底筋膜のストレッチ動作10回。

立位に腓腹筋内側頭、外側頭の圧痛部に寸3-01置鍼。腓腹筋ストレッチの運動鍼。ヒラメ筋の圧痛点に寸3-01置鍼。ヒラメ筋ストレッチの運動鍼。
その後腹臥位にて刺鍼個所に台座灸。最後にかかとにキネシオテーピングを実施した。

5)治療効果:治療後のVASは7→3に改善。

6)症例を振り返って

①治療内容は、第5回針灸奮起の会鍼灸実技講習会、「下肢症状」で学習した内容を追試した。本来ならばもう少し太い鍼でしっかりと筋中に刺入したかったが、患者は鍼刺激に過敏なため細い鍼で浅刺せざるを得なかった。跪座位にすると足底筋膜は伸張されるので、治療効果が高まる反面、強刺激になりがちになる。
②本例は失眠圧痛(-)だったが、失眠圧痛(+)ならば踵脂褥炎を疑う。踵脂褥炎とは、踵中央部が痛み、歩行困難になる疾患。
③足底筋膜炎では、しばしば下腿三頭筋の痛みを同時に訴えることがある。これは足底筋膜→→踵骨→アキレス腱→下腿三頭筋という筋膜の連動(アナトミートレイン≒膀胱経の流注)が想定されるため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  




 

 

 
     

 

 

 
      
 

 


針灸院における外反母趾の診療 ver. 3.1

2022-05-12 | 下肢症状

外反母指の針灸に関しては、「外反母趾のテーピングと針灸治療」(2006.7.9)で発表。その後三度全面改訂し2019.6.19がver.3.0となった。さらに2022年5月14日ver3.1として部分改訂した。

1.外反母趾の定義

足母趾の中足指節関節(MP関節)の外反(小指側に傾く)状態。中足基節関節角が「15度以上」を外反母指とする。この15度以上という数値は厳密なもので、医師は角度を測って外反母趾か否かを判断する。外反母趾の高度なものは、第2趾と重なる。男女比は、1:10 で圧倒的に女性に多い。     

中足基節関節角:正常=15°未満、 軽症=15°~20°未満、 中等度→20°~40°未満、 重度=40°以上

 

2.外反母趾の進行 

1)距骨下関節の過回内(オーバープロネーション)        

歩行時の接地は、まず踵後方→足底外側→母趾側へと体重は移動する。 小趾側から接地するのは衝撃吸収の役割からで、この時、距骨下関節は回内運動が起きている。回内運動することは生理的だが、過回内状態になると、重心が土踏まず方向に片寄るので、足の横アーチが崩壊して<開張足>になる。なお距骨下関節回内に筋は関与しない。 

 

 

地面を蹴るのは拇趾腹ではなくなり、第2趾MP関節底部に代償される。この部には接地部はウオノメやタコができやすい。  

 

2)浮き指       

常に靴を履いた生活スタイルでは、母趾で地面を蹴って前に進む能力が乏しくなる。拇趾を屈曲する力は、長・短母趾屈によるが、この二筋の筋力が低下する。これにより立位では母趾が宙に浮いた状態になる。これを<浮き指>とよぶ。  




3)母趾の外反・内旋の強制     

歩行時の体重移動が土踏まず側に片寄った状態では、母趾内側に体重がかかり、地面を蹴るようになるので、母趾の内旋を強いられる。この状態が外反母趾である。     
※ハイヒールや先細りの靴を履くのが原因とする説もあるが、履かない者でも外反母趾になる者は多いので決定的要因とはいえない。

 

3.症状、所見   

①母趾MP関節が突出し、靴との接触でバニオンとなり、発赤して腫脹。       
※バニオン bunion: 靴との接触で母趾MP関節内側部が滑液包炎を起こし、発赤腫脹して疼痛を生じる。  
②開張足(足の幅が広く、扇状に広がる)   
③足の横アーチの消失(土踏まずの消失)  

④外反母趾になると歩行時に足趾に体重負荷がしにくくなる。第2趾MP関節底部で体重を支持すことになるので、圧痛や自発痛、鶏眼・タコ等が出現しやすくなる。


3.針灸院でできる外反母趾の治療(浮き指に対して)

現代医学での保存療法の目的は、痛み少なく日常を過ごせることと、また外反母趾の進行を防ぐことが治療目標。外反母趾の外科手術は数週~2ヶ月の入院が必要で、一方再発率15%。外反拇趾の手術となると患者にとっては大ごとに違いないので、保存療法でどうにかならないかといろいろ模索しているので、針灸は一応の需要のある治療になっている。

前述したように外反拇趾は、①距骨下関節の過回内→②浮き指→③母趾の外反・内旋の強制、といった順序で完成する。これに対する針灸治療だが、①に対してはアプローチの手段がない。②の浮き指治療は、拇趾底屈力の強化になり、長拇趾屈筋と短拇趾屈筋の収縮力増強を目的とする。③の母趾の外反・内旋の強制の是正は、テーピングによる治療になるだろう。

1)短母趾屈筋に対するトリガーポイント刺針(森田義之氏による)    

短母趾屈筋は内在筋(筋は足底に存在)で、起始は拇趾基節骨底の両側、停止は主に立方骨下面。母趾MPの屈曲作用。  

 

2)長母趾屈筋に対する腱ストレッチおよび筋腹への治療

①ストレッチによる治療(「かわせカイロプラクティック」HPより)

②長拇趾屈筋トリガーポイントへの治療

長母趾屈筋は外来筋(下腿に筋が存在。足底にあるのは長拇趾屈筋の腱のみ)で、起始は腓骨後面の下方2/3・下腿骨間膜の下部、停止は母趾の末節骨底である。母趾IP関節の屈曲と足内反(拇趾側を上げる)作用。要するに筋本体自体は下腿後側の中央縦中央線のやや外側あたりになる。長母趾屈筋に刺針するには陽交または承山から深刺する。   

 

③タオルギャザー筋力訓練

外反母趾変形に対する効果は乏しい。足底筋の筋力強化にはタオルギャザー訓練(長・短母趾屈筋の訓練) が行われる。これは座位で床にタオルを敷き、その端を足指でつかみ、前にたぐり寄せる動作をさせる。長・短母趾屈筋は、足の横アーチ形成 に関係している。母趾内転筋横頭の筋力低下は、開張足を招くので、この筋力低下防止の目的で足指ジャンケンを行わせる。履物としてはゲタやゾウリなど鼻緒のついたものを使うようにする。

 

 

4.母趾の外反・内旋の強制のキネシオテープによる矯正  

キネシオテープによる矯正直後から、外反母趾はかなり矯正されるが、勿論のこと変形矯正作用はない。つまりいくらテーピングしても治す力はない。それにテーピングを行うことは接着剤が皮膚の角質層を剥がすので、連続使用にも向かない。要するに応急処置としての用途であって、自宅にいる時は補装具を使うということになるだろう。キネシオテープでの矯正目的は母趾の外反制限と母趾内旋制限である。

距骨下関節の過回内矯正や開張足の矯正目的には、足底矯正板の使用が本質的かもしれない。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 


アキレス腱炎付着部炎に下腿三頭筋の運動針が有効だった症例(73歳女性、主婦)

2021-06-17 | 下肢症状

1.主訴:右アキレス腱部痛

2.現病歴:1ヶ月前より、歩行時に右アキレス腱部が痛みを感じるようになった。思い当たる理由はない。

3.所見:アキレス腱の踵骨停止部に圧痛、あり。発赤、腫脹なし。

4.診断:アキレス腱付着部炎
 
R/O (除外すべき疾患)アキレス腱炎:本症であればアキレス腱踵骨停止部の、上方2~6cm部分のアキレス腱の腫脹・圧痛を生ずる。

R/O アキレス腱滑液包炎:アキレス腱の踵骨停止部は強い摩擦にさらされている。この力学的トレレスを緩和するため、アキレス腱停止部の前後にアキレス腱下滑液包が存在している。このアキレス腱滑液包も長期的に強い摩擦にさらされると炎症が生じ、痛みと熱感が生ずる。局所は腫脹し、圧痛の範囲はアキレス腱付着部炎より広い。ズキンとする痛み。

5.治療方針

本例は、外傷歴がなく比較的単純な病態だったので気持ちに余裕があったため、アキレス腱の元の筋である下腿三頭筋に対する運動針体位を工夫してみた。

6.治療内容と経過

第一診療
仰臥位。圧痛点であるアキレス腱の踵骨付着部から3点ほど選穴して刺針。そのまま足関節の背屈、底屈の運動針実施。さらにアキレス腱の伸張に制動をかけるため、踵骨-下腿三頭筋のキネシオテーピング。

第2診察
1週間後来院。アキレス腱の痛みは依然と存在しているとのこと。立位でアキレス腱の踵骨付着部から3点ほど刺針、および下腿三頭筋の圧痛点4箇所ほど選んで直刺1㎝。そのまま膝の軽度屈伸運動を指示。しかしこの運動は非常に痛がるので中止。キネシオテーピングは前回同様実施。

第3診察
①1週間後来院。この患者は初診時だいたい3回くらいで改善する旨を伝えており、今回がラストのつもりだったが、まだアキレス腱の痛みは初回の半分以上ある様子だった。
②前回の立位での下腿三頭筋運動針は、痛がったので中止した。今度は体重負荷がない状態で下腿三頭筋運動針を行ってみることにした。
 伏臥位。ひざを軽く屈曲させ、足首の下に膝用マクラを入れる。その姿勢で下腿三頭筋圧痛点4~5箇所に直刺したまま、足首の背屈底屈運動10回実施。これはあまり痛くないようで、指示通りの運動針実施できた。刺針している針も上下に動いた。
③治療直後、患者から初めてずいぶん歩行が楽にできるとの報告を受けた。


痛風発作に灸治療が速効した例としなかった例 ver.1.2

2021-02-14 | 下肢症状

筆者は、2016年11月22日に「急性膝関節痛が痛風由来だった症例」を報告したが、この症例では膝痛が痛風からきていると推測できず、また鍼灸治療も効果なかった。しかし2018年3月28日に左肘の痛風発作が灸治療で即時に鎮痛できた症例を経験したので、この事例を追加して報告する。

1.痛風の概念
   
痛風の語源は、<風が吹いても痛い>からでは
なく、風邪の性状すなわち<風のように急に起こり、急に去る>ことに由来している。

1)高尿酸血症 

尿酸はプリン体の最終分解物である。プリン体は肉類に多く含まれるが、プリン体自体は殆ど利用されることなく尿酸となる。プリン体を排泄するには尿酸として排泄するしかないが、尿細管で90%は再吸収される。ゆえに血中に蓄積されやすい。(一方、プリン体の摂取は食物を原料する以外にも、体内でアミノ酸から合成される。こちらからの比率の方が高いので、メタボリック症候群は痛風の下地をつくる)
尿酸値は、7.0mg/dLを越えると高尿酸血症とよばれる。

2)痛風の病態生理

高尿酸状態が長期間続くと、血液に溶けきれない尿酸濃度(7.0mg/L)が尿酸塩となり次第に関節内、皮下、腎臓に沈着蓄積していく。

①ある時、衝撃を受けたり急に尿酸値が下がったりして尿酸塩の結晶が剥がれ落ちると、白血球はこれを異物と認識して貪食。この時炎症物質を大量に放出して、突然関節部の激痛を生ずる。これが痛風発作である。40~50才男性に多い。痛風発作の部位は、第1中足指節関節が全体の7割を占める。典型パターンは、ある日突然、足母趾MP関節が赤く腫れて激烈な痛みが生ずる。ほかに距腿・膝・アキレス腱などの下半身に発症するものが9割。半身の方が体温が低いことや、血流が滞る傾向が下半身に多いことによる。痛風の痛みは1週間から10日後に次第に自然軽快するが、無処置の場合1年以内にまた同様の発作がおこることが多い。一度発作を起こした者では、尿酸値を6.0mg/dL)以下にコントロールすべき。

②尿酸が皮下に沈着すると、耳介・足趾・肘・手指などに痛風結節を生じる。痛風結節そのものに痛みはない。結節の中身は尿酸結晶で、チョークの粉状。痛風結節そのものは治療対象とならないが診断の手助けとなる。
      
③結晶化した尿酸が腎臓の組織にも沈着する。無症状で長期間進行するが、やがて腎不全(血液から老廃物をろ過する能力が低下)により小便が出にくくなり、最終的には尿毒症になる。

     




3.痛風の現代薬物療法

1)救急処置
痛風治療の特効薬としてコルヒチンが知られている。発作が出そうな時には「コルヒチン」を服用する。コルヒチンには好中球が関節内に集まるのを抑える作用ある。関節痛を感じ始めたとき(好中球が関節に集まる前)に飲めば、激痛を未然に防げる。激痛になってからでは効かない。
    

2)血中尿酸値のコントロール
本質的な治療としては尿酸値を下げることになる。尿酸降下薬には、尿酸排泄剤と尿酸生成抑制剤とがある。尿酸の排泄が少ない人は尿酸排泄促進剤(ユリノームなど)を使って尿酸の排泄量を増やす。尿酸を作りやすい人は尿酸合成阻害薬(ザイロリックなど)を投与する。尿酸生成制薬は肝臓で働き、プリン体が尿酸になるのを抑制する働きがある。いずれも長期服用が必要。尿酸濃度(6.0mg/リットル)程度にコントロールする。


4.鍼灸治療 

局所が熱をもって痛む場合、局所から刺絡。足母趾MP関節内側痛の場合、局所である大敦施灸というのが定石。やむを得ないことだが、鍼灸古典では、疼痛の真因が高尿酸血症によるとは思いもよらないことだった。

1)右膝痛が痛風由来だった症例(52才男性)植木職


3日前から急に、右膝を90度以上の屈曲ができなくなった。思い当たる原因はない。 膝関節のロッキングがあるので半月板損傷を疑ったが、受傷動機がはっきりしないので本診断には確信がなかった。膝周囲に目立った圧痛点もなかったが、軽く刺針して治療を終えた。
治療直後効果はなかった。
  本患者は当院で治療成功しなかったので、翌日整形受診して「痛風」との診断をうけ、薬物療法を開始した。7日後当院再診。内服治療開始して数日~1週間で、ほぼ痛み消失したという。本例の膝痛が痛風だったとは驚いた。なお症例は、薬物で痛みを止めたのではなく自然緩解だったかもしれない。
 
痛風というと足母趾MP関節の赤く腫れ上がった激痛というイメージが強かったが、本例は可動域制限強いが熱感・腫脹とも見いだせなかった。こんな例もあるのかと驚いた。


2)左肘痛風発作に灸治療が速効した症例(39才男性)会社員

以前から検診で血中尿酸値の高値を指摘されていた。8日前から突然、左肘関節部が発赤・熱感・腫脹あり痛みのために膝の屈伸が十分にできなくなった。医師の投薬治療を8日間続けているが、症状に変化なくとてもつらいという。触診すると膝頭の直上1㎝ほどの上腕三頭筋腱部に限局的に強い圧痛が2カ所みつかったので、この2カ所に糸状灸を5壮実施。施術直後に痛みは減り、肘が伸びるようになったとのことだった。自宅でせんねん灸(強力温灸)を行うよう指示して治療終了した。
 

5.余談:ヘルマン・ブショフが中世ヨーロッパで紹介した痛風の灸

ヨーロッパに灸治療が最初に紹介されたのが、痛風の灸治だった。中世のヨーロッパ貴族に痛風が多かったのは、美食過多に要因があったらしい。利尿作用のある緑茶を多量に摂取して大量に排尿することが痛風予防になることが知られていた。小便が多量に出れば、大量の尿酸が体に排泄さる事にもつながるからだろう。
   
バタヴィア(インドネシアの首都ジャカルタのオランダ植民地時代の名称)在住のオランダ人牧師、ヘルマン
・ブショフ Herman Busschof は長い間、足部の痛風に苦しんでいた。現地のヨーロッパ人医師が頼りにならなかったので東南アジア出身の女医の灸治療を受けてみた。女医は彼の脚と膝に半時間の間にもぐさの小塊を約20個置いた。効果は彼の期待をはるかに上回った。治療の最中から、それまでは一晩も休めなかったブショフが気持ちよく眠り込んでしまい、24時間後に目覚めたとき、膝と脚はまだ腫れていたが発作は治まり、何日もしないうちに仕事に戻ることができたという。
このヘルマン・ブジョフの灸に関する1675年の報告が、灸に関するヨーロッパ初の出版であった。

当時、アジアには「痛風」という概念はなかったので、女医は脚気と診断して施灸治療を行ったとする見解がある。一方、「脚気」はヨーロッパにない疾患だった。

わが国では 心不全で下肢がむくみ、末梢神
経障害で足がしびれることから「脚気」と呼ばれた。( 心臓機能の低下・不全を併発したときは「脚気衝心」と呼ばれる重症だった)。
   

脚気の鍼灸治療

  http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=78051ede4bbb1c7646621d2cd19f771e&p=1&sort=0&disp=50&order=0&ymd=0&cid=dccbeb7efad376c56996341b4cbda8b4  


モートン病による足指間の痛みに床のキズ防止パッドが有効だった例

2019-12-06 | 下肢症状

1.病歴

自経例(66才、男性)。 1ヶ月ほど前から30分ほど歩いている途中から左第2~第4指のMTP関節(=足指指節関節)が痛むようになった。右足は痛むまない。足の横アーチが失われた感じがした。買い物などの短距離歩行では異常なし。 治療として、土踏まず部に足底パッドを貼っても効果なく、中足骨前方にインソールを入れても効果がなかった。 1週間ほど前から、わずかな歩行でも左第2~第3指中足指節間が痛み、ビリッビリッと足指先に放散痛が出現。すなわちモートン病出現。 通常歩行や階段を下りる際の、左中足指節関節を背屈する動作で痛みは増悪した。このままでは数分の歩行さえできず、困った状態。

 

2.足底圧痛点への免荷パッド 

 

歩くと痛いので困り、奮起の会の指導にあたっている小野寺先生に聞いてみると、免荷パッドを使ってみたらどうかとのアドバイスを頂戴した。以前、百均で購入したフェルトのような感触の床キズ防止パッド(直径2㎝、厚さ5㎜、フェルト様)が自宅に残っていたので、圧痛点に貼ってみた。これは失敗でかえって症状増悪した。そこで圧痛点をはさむように第2、第3MTP関節(=中足指節関節)の2点にこのパッドを貼って、日常的な動作を行なうと、足底にパッドの異物感はあるが、痛みが減っているのを自覚できた。なお就寝前にパッドを剥がしたが、翌朝になって階段を下りてみると、痛みが完全消失したのを発見できた。  貼る場所は、坐位で踵を上げた姿勢をとると、中指-指節関節が背屈されるが、その屈曲部を選ぶ。痛む部を1㎝離してその両側に貼る。貼った後、ビリビリ感がまだ残っているようなら、跪座姿勢になってパッドの位置を少々ずらして調整し、歩行できる位置を見つける。

モートン病だからといって必ずしも神経腫ができている訳ではない。神経腫ができていない状態まであれば、フェルト様パッドで十分な効果が得られそうだ。

2.下腿三頭筋の運動針法  

以前から足底筋は下腿三頭筋の緊張と関係深いとみなしていたので、まずが下腿後側をいろいろ押圧して圧痛点を調べると、承筋・築賓あたりに強い圧痛硬結を発見した。ここに鍼するのだが、単に刺しても効果乏しいことは経験済み。自重をつかった安定姿勢下で行う運動針はどうしたらよいかを考え、椅坐位にして下腿後側反応点に浅く刺針し、踵上げと爪先上げの自動運動を行わせるという方法。ただし自分自身で行うには体制的に難しく、とりあえず円皮針を使ったが効果がなかった。とはいえ局所への鍼灸を行っても、ただ刺激痛がきついだけで、よくなりそうな気もしなかった。

 

 

 


むずむず脚症候群の針灸治療 ver.1.4

2019-07-18 | 下肢症状

むずむず脚症候群の正式名称は、下肢静止不能症候群、RLS, Restless Legs Syndromeという。最近になって認知されてきた疾患である。ある日、橈骨麻痺で来院中の患者が「むずむず脚症候群もある」と訴えた。これまで抱いていた私の印象から、「それは大変だ」と応じたが、その患者は薬を飲めば治るが、あまり薬は飲みたくないと云った。私は患者がむずむず脚症候群であること以上に、治す薬があることに驚いた。早速ネット検索してみて、かつての常識がすでに古くなっているこをを思い知らされ、新たな見解も生まれたので、本稿としてまとめる。

1.症状

脚の不快感と動かしたい欲求。脚の表面ではなく深部に不快な感じがあり、動かすと少し軽減する。その不快感は様々に表現される。むずむずする、虫が這う、痛がゆい、など。

症状は夕方から夜間にかけて強くなることが多い。自然治癒はごくまれで、進行性増悪することが多い。人によっては背中や腕にも現れることがある。

2.原因

神経伝達物質であるドーパミンの機能異常。
    
神経伝達物質ドーパミンの機能低下

         ↓
A11と呼ばれる脳の神経細胞の機能低下。
                 ↓
脳に送る必要のない身体深部知覚の些細な信号をカットできず、脳が過敏状態
         ↓
     「むずむず脚症候群」
   
身体の中では、脳が認識する運動刺激や身体感覚の他に、一定の閾値に達しない「雑音」のような深部知覚が無数に発生している。これらの深部知覚は、間脳部に相当するA11領域から脊髄に伸びる下行性の神経細胞によって抑制されているので脳にまでは達しない。


しかし何らかの原因によってA11の神経細胞の働きが弱まり、特に夜間、運動刺激や身体感覚の刺激がなくなると、「雑音」のような深部知覚が上行しやすくなり、脳が感覚情報過多の状態になり“むずむず”するような不快感を覚えるようになる。

なおA11の働きが弱まる原因として、ドーパミン神経細胞の機能障害や、脳内の貯蔵鉄(フェリチン)減少や鉄代謝異常が関係しているとされている。

   
夜になると脳の松果体からメラトニンが分泌され、身体が眠りにつきやすいように深部体温が下がる。とともに“むずむず”するような異常感覚も現れてくる。明け方になってメラトニンの分泌が減って、深部体温が上昇し始めると異常感覚は消失する。 

A11の働きが弱まる原因として、ドーパミン神経細胞の機能障害が関係している。一部の統合失調症治療薬(リスパダールなど)は、ドーパミン過剰活性を抑えるので副作用として、むずむず症状が生ずることがある。  


 

3.現代医療での治療


 「ビ・ シフロール錠」が、日本で初めてむずむず脚症候群の薬として2010年1月に保険適用された。本剤はドパミンアゴニスト(=作動)薬で、ドパミンの代わりとなってドパミン受容体を刺激するもの。要するにドーパミン量を増やし、弱まったA11神経細胞に直接刺激を与え 脚の不快感のもとをブロックする機能を回復させるもの。

  
※本剤は、パーキンソン病での治療薬だが、むずむず脚症候群で使われる場合はパーキンソン病治療に比べて、6分の1~18分の1という少ない量で効果がある。ただし長期間連用すると効かなくなっていくる。

 

4.針灸治療

1)考え方


A11神経細胞の機能低下により、脳に届ける必要のない深部知覚信号カットできなくなっている。であるなら脳へより大きい深部知覚信号(=響かせる針)を送ることで、先の「雑音」のような深部知覚信号をマスキングできるのではないだろうか。この考え方は、パーキンソン病の四肢痙縮治療としても使えるものであろう。  

  

2)発作時、足三里に対する深刺で響かせる(小宮猛史先生)


体験例:うちの家内は、寝室で寝ていたかと思うと脚をどんどん叩きながら起きてきて「なんとかしてー」と訴える。虫が這うようなむずむず感を感じ、じっとしていられないと言う。発症はたいてい右側。


そこで発症するたびに足三里に、そっとゆっくり止まるまで刺入し、ゆっくり雀啄することで得るズーンという響きを与える。すると直後に8割くらい楽になり、次に足三里の少し下にもう一箇所響かすように鍼をするとすっかり消失し、そのあとぐっすり眠れるようになる。時間にして2~3分。なお切皮程度の深さで高速撚鍼して響きを与えても症状の軽快はみられない。


先日の発作時、家内に協力してもらい、いつもの鍼するところをお灸にしてみた(半米粒大の大きさで7壮ずつ)。しかし、じっとしていられるような効果までは出なかった。結局そのあと鍼して鎮静。(小宮猛史:ブログJTDの小窓 ムズムズ脚足症候群 2014.3.12より)

小宮猛史先生ブログ

http://blog.goo.ne.jp/takeincho/e/75b1700aff424fe277a7309dc1deb0c6



3)委中部の強圧(「昼のガスパール・オカブ日記」より)

患者は仰向けに床に寝る。治療者により患者の膝の裏の筋を強く圧してもらっていると、かなり痛く感じる箇所がある。そこを治療者に50回くらい念入りに強く圧すように揉んでもらう。これを両脚やる。揉んでもらっている時はかなり痛く感じるのが普通である。本報告者の場合、この治療の効果は1ヶ月程度である。それを過ぎるとまたむずむず感が出てくるので、上記方法を繰り返す。就寝前に治療を行うのが望ましいという。

 

 

4)下肢脛骨骨膜刺針が効果的かもしれない

ズーンと響くように刺針することが有効だという報告があったので、筆者は中国針で足三里や三陰交から神経幹ねらいで刺針してみたが、思うような効果が得られなかった。そこで脛骨骨膜刺として足三里や三陰交から脛骨骨膜に擦りつけるように刺入し、後脛骨筋に至るような深刺をしてみた。すなわち、シンスプリントの針治療の流用を行った。すると、これまで単に強い響きを与える目的で行った刺針よりも、ムズムズが減った。針灸治療的に、シンスプリントとムズムズ脚症候群は同じ範疇として捉えることができるのだろうか。
 

シンスプリントの骨膜刺激針治療(似田)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/58c9421d320b880ecd41da4e15861ead

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 


足底筋膜炎・モートン病・シンスプリント後内側型の鍼灸治療の共通点

2019-06-21 | 下肢症状

私は、現在<鍼灸奮起の会>の上肢・下肢症状の鍼灸治療の実技講習を行っている。その下準備のため、この数ヶ月間これまでの治療を見直し、整理している。診断名は違っても鍼灸治療法が同じになる場合がある。


1.下肢症状をもたらす足底筋膜炎、モートン病、シンスプリント(後内側型)は、鍼灸治療方法は類似性がある。

すなわち足関節の底背屈で痛み増悪す るものはヒラメ筋・腓腹筋の過緊張を緩める治療を行い、足指の屈伸で痛み増悪するものは 長・短母趾屈筋や長母趾屈筋を緩める治療になる。

足底筋膜炎の鍼灸治療
   https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/83c59673cb2f50c8faf765b63d8060ec

モートン病の鍼灸治療
 https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/bb2298bdb1658db50e457c2bf842da80

シンスプリント後内側型の鍼灸治療
 https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/cd953503b935651c5c89be3ac81565fa

 

 

2.ヒラメ筋・腓腹筋の刺針肢位の相違点

ヒラメ筋・腓腹筋は、ともに下腿後側にあるが、効果を生み出すにはその刺針肢位が異なってくる。以前にも指摘たが、再度この場で説明したい。

1)解剖
ヒラメ筋と腓腹筋は合してアキレス腱となり踵骨後部に起始する。ヒラメ筋停止は脛骨と腓骨に直接つながっている単関節筋で、その機能は足の底屈時である。腓腹筋は停止は膝関節を乗り越えて大腿骨下端なので、足関節・膝関節の二関節筋になる。      

2)下腿脾経の触診体位

仰臥位で足底を自分の膝関節内側に付着させるような肢位をさせ、下腿内側を触診すると、膝屈曲位なので腓腹筋は弛緩し、ヒラメ筋は緊張状態にある。脛骨内縁の脾経を触診する場合、このような姿勢にすると圧痛硬結を触知しやすい。なお私は地機はヒラメ筋停止部に取穴している。

地機の教科書位置内果の上8寸、脛骨内側縁の骨際。脛骨内側の上1/3の処。

 

3)下腿膀胱経の触診体位       

下腿後側の腓腹筋・ヒラメ筋ともに緊張させるには伏臥位で膝完全伸展にする。下腿膀胱経の触診と刺針はこの体位で行う。 

 

 


大腿外側痛の病態把握と針灸治療

2019-06-08 | 下肢症状

たまに大腿外側痛で来院する患者がいる。整形外科に行って治らなかったので針灸に来たという患者も少なくない。新米針灸師の中には、これをすべて大腿外側皮神経痛と診断する者もいる。確かに大腿外側皮神経痛のこともあるが、その頻度は少ない。多いのは小殿筋の放散痛、もしくはL5付近の後枝症候群である。それぞれ治療ポイントも異なってくる。
以下に3つの病態を示す。その鑑別は圧痛点の所在と、刺針後の治療効果(治療的診断)によるのが最も分かりやすい。

1.小殿筋放散痛の針灸治療
小殿筋の過緊張により、大腿外側痛を生ずることがある。中殿筋過緊張をもたらすのは、坐骨神経痛や股関節症であることが多い。側臥位にして小殿筋中の圧痛硬結点を見いだし、そこに2寸#4程度の置針をすれば症状緩和に効果ある。
なお小殿筋は中殿筋の下にあるが、中殿筋の放散痛であれば殿部の痛みとなり、下肢症状はあまり出現しない。

中・小殿筋は強大な筋であるから、側臥位で刺針しただけではなかなか症状は改善しづらい。横座り位にさせ、中・小殿筋を収縮状態にさせた体位にして、3寸#8の鍼で筋硬結に向けて深刺単すると、強い響きが得られて直後から改善することが多い。

 

2.L5付近後枝症候群

L5付近の椎間関節症やL5棘突起傍筋(棘筋や多裂筋)の筋筋膜症では、L5神経後枝が興奮する。側臥位にしてL5棘突起直側付近の圧痛点を見いだし、そこに2寸#4程度の置針をすれば改善できることが多い。

3.大腿外側皮神経痛
大腿外側皮神経は腰神経叢で、とくにL2L3神経から出て、鼠径靱帯外端の下を潜り、大腿外側皮膚に分布する知覚性の神経で、筋支配はない。
鼠径靱帯で神経絞扼障害を起こすことがある。上前腸骨棘内縁で、鼠径溝外端の圧痛点(維道穴あたり)に刺針すると改善できることが多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


足底の異常知覚に、然谷・公孫の刺針が有効だった症例の考察(64歳、男性)

2019-04-23 | 下肢症状

1.主訴

足の裏が格子の上に乗っているような感覚がある 現病歴 半年前から脚のふらつき、大腿のしびれ、足底が格子の上に乗っているような感覚出現。4ヶ月前MRI検査で、第11~12胸椎部黄色靭帯骨化症と診断され、手術を受け、入院20日後に退院した。しかし上記症状は少し軽くなっただけで不満が残った。医者に質問するも、よく分からないとの回答だった。退院後3ヶ月して当院受診。


2.鍼灸治療(その1)

下背部第11~12胸椎に棘突起に沿って3㎝ほどオペ痕あり。このレベルの脊髄の障害で患者の訴える症状が出るとは考えるには無理があると思ったので、足底圧痛を調べると、足底筋膜に強い圧痛を認めたので黄色靭帯骨下化症とは無関係に足底筋膜炎と考えた。なお脚のふらつき、大腿のしびれは主訴ではないので、当面は無視することにした。

足裏の圧痛点は第一指MP関節裏の足底筋膜停止部と土踏まずの中心部にあったので、母趾背屈して足底筋膜をストレッチさせた肢位で寸3#1で単刺。足底筋膜と下腿後側筋が発生学的に類似性あることから、腓腹筋の圧痛点であった承山に刺針+円皮針を実施した。なお下腿後側膀胱経部は、ヒラメ筋のトリガーポイントが活性しやすい部であり、ときに踵部に痛み放散することがしられている。 すると治療直後から足底症状の大幅な軽減をみて、「針灸がこれほど効くとは思わなかった」と患者も話してくれた。

 

 

3.鍼灸治療(その2)

本患者は痛みに過敏であることから、できれば足底の刺針を避けたかったので、仰臥位で公孫・然谷から寸6#1で2㎝刺針して5分間置いた。また下腿は膀胱経だけでなく脾経の圧痛も調べてみようと思い、脛骨内縁を触診するとヒラメ筋等沿って強い圧痛を発見したので、地機・三陰校を中心とした脛骨内縁にも寸6#2で3本程度置針してみた。すると前述の治療よりもさらに改善した。患者は「下腿の内側に針を多く打つようになってから、さらに症状が軽くなった」と評価した。    

公孫・然谷刺針は長母趾屈筋腱・長趾屈筋腱であり、それぞれの足母趾と足第2~第5趾の屈曲作用である。またその元になる長母趾屈筋・長趾屈筋は下腿内側の脛骨骨際にある。この部への刺針が効果あることは足底筋膜炎の症状といっても、その正体は長母趾屈筋・長趾屈筋の過収縮が、長母趾屈筋腱・長趾屈筋腱の伸張を強いられた結果として、足底筋膜炎様の症状を生むのではないかと推察した。  


この考え方は、バネ指に対する長・短指屈筋刺針の類似理論となる。
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e5b5616ff27ed725e4841034d9eee012

 

 

 

 

4.針灸治療(その3)

足裏が格子の上に乗っているとの感覚が軽減したためか、「脚がふらつく」症状は治療できないかと質問された。一応頸性めまいの一種かもしれないと思い、胸鎖乳突筋圧痛もなく、足底の知覚異常もなかった。運動失調かと考え直して、開眼ロンベルグ試験をすると、数秒間も姿勢保持できないことを発見。まず坐位で上天柱深刺するもロンベルグ試験に改善はみられなかった。次に立位で左右の中殿筋(大転子と腸骨稜の中点)に深刺単刺し、また開眼ロンベルグ試験を行うと、片脚で直立できる秒数が3倍以上になった。治療効果の明確な違いをみせつけられた。


シンスプリントに対して骨膜針刺激が有効だった2例

2019-01-17 | 下肢症状

筆者は、かつて当ブログに、シンスプリントの治療理論を、次のように解説した。

 https://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=cd953503b935651c5c89be3ac81565fa&p=1&sort=0&disp=50&order=0&ymd=0&cid=9d94181681987c7c4c968a290a4ce540

今回は実症例について紹介する。

 

1.後内側型シンスプリント(50歳、女性)

喘息持ちで、週1か2週に1回来院している。半年ほど前から下腿後側から足底に痛み出現した。四六時中ひきつるような痛みがあった。当初は足底筋膜炎+腓腹筋過筋症と考え、湧泉・踵骨内縁、承山・承筋に刺針したが、あまり改善がみられなかった。
そこで、後内側型シンスプリントではないかと考え直して、足三里と地機から後脛骨筋~
脛骨後縁に擦りつけるような針を行い、足関節底背屈の運動針を行わせた後抜針した。
すると治療直後、下腿のひきつりが楽になったとのことだった。

2.前外側型シンスプリント(52歳、男性)

数年間から右仙腸関節部の鈍重感が存在していた。痛み増強するたびに当院来院し、当院診断は右仙腸関節機能障害で、右仙腸関節運動針を行うと、数週~数ヶ月間痛みは改善している。

4ヶ月前から右脛に引きつり感があると訴えだした。右仙腸関節運動針を行うも、この症状はあまり改善しなかったので、局所である足三里から刺針し、前脛骨筋に刺針しつつ足関節の底背屈の運動針を行わせるもあまり改善しない。そこで前外側肩スプリントではないかと考え直して、通常の脚三里のやや外側で脛骨骨内縁にこすりつけるように深刺すると、症状部に響いた。治療後、初めて脚の具合がよいという感想を得ることができた。

3.解説

シンスプリントというと、ランニングやジャンプの選手がかかる疾患と思いがちだが、
病名の概念は一定していないようである。上記例のように、常に下腿のある部位が引きつっているという訴えもシンスプリントであると考えてよいと思う。シンスプリントに対して、一般の針灸治療であれば、筋々膜刺激を行うところだが、それでうまく処理できず、骨膜を引っ掻くような刺激が有効となった。骨膜刺激は捻挫に対して非常に効果があることは知れるが、シンスプリントに対しする骨膜刺激も有効であることが確認できた。
 

上記2タイプのシンスプリントの共通点は後脛骨筋刺激にあるので、後脛骨筋の走行を提示しておく。


なおこのような骨膜刺激の針法は、小山曲泉著「神経痛掃骨針法」(明治東洋医学院出版部刊)に同様の技法が参考になる。