AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

カッサ治療の意義と適応の考察 ver.1.1

2022-09-26 | やや特殊な針灸技術

1.乾吸における皮下出血

乾吸(瀉血なしの吸玉)もある一定時間(10分程度)すると、皮下出血することが多い。

これは毛細血管が破れて皮下出血した結果であり、毛細血管の破壊が大きいほど、陰圧をかける時間が長いほど、皮下出血は大きくなる。一度血管外に出た静脈血は再び静脈管内にもどることはなく、自然に組織から吸収される。しかし程度を越えた皮下出血斑は完全に吸収されることなく半永続的に残存することもある。
半月経って次回鍼灸来院時にもも皮下出血斑が残るようであれば刺激量過剰とする判定をするのが普通であろう。皮下出血斑が残っている状態だと、同部位に再び吸玉治療しづらい。

乾吸で皮下出血斑を出すことは、乾吸療法で必ずしも必須のものではなく、最も重要なことは皮膚に陰圧を加えることで生ずる交感神経緊張および乾吸終了直後のリバウンドを利用して副交感神経優位状態にすることに意義があると私は考えている。

 

2.皮下出血とは

 皮下組織の血管が破れ、血液がたまる状態を皮下出血という。皮膚の真皮や皮下組織にある毛細管や静脈血管が破れ、血管周囲に広がる出血である。皮下組織には細い静脈が走行しているが、真皮にはさらに多数の細い静脈が走行している。なお表皮に血管は走行していない。

 

3.カッサによる皮下出血
 
積極的に皮下出血を起こそうとする治療にカッサ(刮痧)療法がある。皮膚に潤滑油を塗布し、ヘラのような道具で皮膚をこすりつける。同じ部位を何回もこすることで、皮膚色がピンク色になり皮膚温も上昇する。さらにこすり続けると内出血斑が現れる部とそうならない部位がある。皮下出血斑を出現させることをカッサの目標であり、頸部・肩甲上部・肩甲骨上・背腰部を中心に行うのが基本である。というのはカッサでは、この内出血斑を瘀血とよび、施術終了の目安と考えている。内出血斑を瘀血と称してよいものか否かは微妙なところである。とかく民間療法はこのあたりの詰めが弱い。


4.カッサによる皮膚の擦過手技

 
実際に体験してみて、サッカは結合識マッサージと似た面をもっていると感じた。従来のマッサージが筋肉を刺激対象として「なで」「もみ」「こねる」のに対し、結合織マッサージは皮下結合織に引っ張るような刺激を与えるため、「皮膚をずらす」ようにする手技だけを行う。本手技が認知されたのは1952年ドイツのディッケ女史が著書を発表した後からであるが、現代的にいうなら皮下筋膜刺激ということになると思われる。


結合織マッサージの興味深いところは、単に手技を示しているだけでなく、ヘッド帯、マッケンジー帯を利用した反射帯という領域を治療対象としてい点で、カッサの治療理論に転用できるものであろう。また結合識マッサージで指をすべらす方向性もカッサに利用できるだろう。

5.鍼灸臨床にカッサを取り入れることの意義
 
結合織マッサージもカッサも施術すると、必ずといってよいほど皮膚の発赤と皮膚表面温度の上昇がみられる。鍼灸でもこのような反応は得られることはあるが、必発ではない。このことから従来の鍼灸治療の不足部分を、カッサで補うことができるかもしれないとも考えている。皮下出血を起こすことは、皮下出血斑が組織に吸収するまで治癒反応は続くと考えることもできるが、筆者はまだカッサの初心者なので積極的に皮下出血を起こす段階に至っていない。要するに結合識マッサージ的な意味でカッサを行っているのだが、カッサの方が効率的であり、また元々は中国民間療法なので、同じ中国生まれである鍼灸とは親和性がよい。東洋医学であることを前面に謳えるので。

 
私は現在、いつも通りに鍼灸治療する一方、いろいろな患者にカッサ治療を試みている。カッサは鍼灸治療にとって代わるものではないので、鍼灸で効果出しにくい症状に対してカッサを試みている段階であるが、冷え性、便秘、精神疾患、肩関節周囲炎など鍼灸単独治療では治療に限界がある症状に適応がありそうに思っている。


1)冷え性:腹部皮膚表面低下、下痢傾向、小便が近いなどの腎陽虚に対し、下腹部と仙骨部にカッサを実施。カッサ実施部の発赤・皮膚温上昇がみられるので治効が得られるだろうという考え。


2)精神疾患:軽度の統合失調症、鬱病、自閉症などに対し、座位で上背部にカッサを実施。これまで抗精神作用の意味で胸部督脈の施灸と背部一行に刺針をしたが、はっきりし効果が得られなかった。これは刺激療法としては弱すぎるのではないかと考え直し、カッサに変更した。


3)五十肩:五十肩は常見整形外科疾患の中では最も治療に難儀するものであろう。まずは凍結肩になっていないことが前提となるが、インピンジメントがあってROM改善を目安に施術しても<筋が伸張できない>という病態ではなく、交感神経緊張の要素が多々あり、それを少しずつ緩めるような治療が必要である。施術直後に効果あったと思っても、次回来院時には元の状態にもどっていることも少なくない。
こうした一朝一夕に処理しづらい問題に対し、肩関節・肩甲骨・三角筋・大胸筋など広範囲にカッサ治療をすることで、場の改善をはかりたいとするもの。あるいは、特定部分の新陳代謝活性化を図ろうとするものだと感じている。


6.かっさの練習

令和4年9月25日、わが国でカッサを普及させたい徐園子先生
と徐由実先生(ともに鍼灸師で元・教え子)が当院を訪問、かっさの実地トレーニングを受けた。徐園子先生は十年前から治療にカッサを取り入れているという。私の場合、いくらヘラでこすっても発赤はするも内出血(かっさでいう瘀血)とならなかったのだが、皮膚に対してヘラを直角にして押圧しながら擦るとのよいと指導を受けた。たしかにこの方が体重をかけることができ、力は入るが腕力はあまり使わなくて済む。お土産として徐園子先生特性のかっさオイル2種(瘀血用と水滞用)とカッサ用へらを頂戴した。カッサへらには、レーザーであんご針灸院と似田敦のまで刻印してくれた。

 

左が徐由実先生、右が徐園子先生。義理の姉妹の関係。

 


イボ・ウオノメ・タコに焦灼灸、水イボにはせんねん灸 ver.1.3

2022-09-04 | 皮膚科症状

1.尋常性疣贅(いぼ)   

1)イボの概要

手指や足底にできる。円形~楕円形で皮膚から小さく隆起。小さく硬い良性腫瘍。痒みや痛みはない。ヒト乳頭腫ウィルス(ヒトパピローマウイルス HPV)が皮膚の傷口から侵入し、表皮の最深部にある基底細胞に感染し増殖したもの。接触感染だが感染力は弱い。


2)イボへの焼灼灸

いぼの頂点に施灸するが、基底層に灸熱が到達しやすくするため、なるべく角質層  を削っておく下準備を行う。半米粒大にして壮数を増やすような焦灼灸を行う。連日おこなった方がよいが、2回目以降の治療では、痂皮をカットしてから施灸するとよい。(参考:岡田明三「皮膚疾患の灸療法いぼ・魚の目・たこについて」医道の日本、平成16年11月号)
イボに対する焦灼灸の治療的意義は、灸熱刺激で、患部の温度を90℃くらいに高め、急速にタンパク変性を起こさせ、組織を炭化させることにある。炭化とは、タンパク質の最終加熱状態で、熱傷による痂皮(=かさぶた。死滅組織が組織から剥がれかかっている状態)のことだと説明される。

 イボ、水イボ、ウオノメには古来から焦灼灸が使われてきたということだが、この具体的な意義は、基底層にまで高い温度の灸熱を加えて組織を炭化させることにあるようだ。イボと水イボはウィルス感染症で、魚の目は機械的刺激によるものだが、治療法そのものは同じようになる。というのは、ウィルスの構成物質も一種のタンパク質であるためで、焦灼灸の適応となるからである。もっとも焼灼灸で治療するには、手間がかかるので皮膚科に任せる方がよいだろう。

 

2.伝染性軟属腫(水いぼ)                                                           

 

1)水イボの概要

 まだ免疫力不足状態の4~7才の子供に多くみられ、他の部位に次々にできる。伝染性軟属腫ウィルスが皮膚に付着、ウィルスは真皮にまで潜りこむ。感染した真皮の細胞は風船のように膨らみ、さらに細胞分裂を繰り返して増殖していく。風船のような細胞が集まることで、その部分がプックリと膨らみ、中に水が入っているかのような外見になる。真珠のような白からピンク色の湿疹。
実際に入っているのは、液体ではなく白い乳液状のもので、この中に伝染性軟属腫ウィルスがある。引っ掻いたりつぶしたりすると、このウィルスが外に飛び出し、他部位に接触することで感染が拡大する。感染力は弱いが、尋常性疣贅よりは強い。数個~十数個できるのが普通。他者との接触や、タオルや衣類を介しての接触感染もある。痒みや痛みはない。数ヶ月~半年で自然治癒。


2)水イボへのせんねん灸治療

水イボの頂点に施灸するが、角質層が厚くなっておらず、また患者が小児に多いこともあって、通常の透熱灸は実施しがたい。せんねん灸などのを行っても効果がある。隔日施灸4~5回で自然落屑する。
ヨクイニン(ハトムギの殻をとった漢方薬)を服用させるのも有効なことが確認されているが速効はしない。
皮膚科でピンセットでつぶす手もあるが非常に痛い。

 

3.鶏眼 corn(通称、ウオノメ)

1)ウオノメの概要

特定の部位に圧迫や摩擦が繰り返し起こることで生じる。皮膚の防衛反応による角質の肥厚。中央部は芯のようにクサビ型に真皮内にくい込んでいるので、押圧など真皮にある知覚神経の刺激を受けると痛む。

 2)ウオノメの治療

皮膚科の治療では、皮膚表面から表皮を削り、表皮の最下層である基底層までカミソリなどで角質を削り取る。ここには知覚神経がないのでカミソリを使っても痛まないが、すぐ下には真皮があって知覚神経があるので、ここには触れないようにすることが重要。 

皮膚の厚さは、0.6mm~3mmと異なっていて均一ではなが、平均すると1.5mm程度。 その中で表皮は、わずかに0.2mm程しかない。その表皮も4層に分かれ、最表層の角質層は0.02㎜とラップ一枚程度の厚さである。

※ 皮内針は、真皮内にまで水平刺し、皮下には至らない。ちなみに表皮・真皮を合わせて厚さが約1.5~4.0mmであるといわれている。セイリン円皮針の長さは最長でも1.5㎜なので、やはり皮下組織までは入らない。ゆえに体動しても置き針がチクチク痛むことはない。マイナーな存在だが皮下組織まで刺入するための針もあり、これを皮下針とよぶ。
皮下組織の深部には深筋膜と筋層があり、針はこの層まで刺入すると響きを与えることができる。運動針刺激は、深筋膜刺激を目的としている。


尿素軟膏療法といって、尿素希釈駅を塗布するのは、カンナのようにゆっくりと角質を削り取る方法である。スピール膏やイボコロリのようにサリチル酸溶液を塗布するのも、角質を軟化腐食させる方法である。ただしこういう治療方法も手段に過ぎず、重要なことは
基底層のウオノメの白色の芯を除去することである。患者に余計な痛みを与えず、効率よく基底層のウオノメの芯をとるには、歯科で使うような電動ドリルが必要となるだろう。

針灸院では、表面の角質層をなるべく薄くナイフ等で削き落とした後に施灸する。角質化した部分(半透明にみえる部)から艾炷がはみ出さない大きさの艾炷で、焦灼灸を行う。焦灼灸を繰り返すうちに、施灸面は縮んで硬化し、またヤニが付着してベタベタしてくる。角質化している部分は焦げて黒く炭化していく。毎回の施灸は、しっかりと炭化させるまで行う。ただし一度に取ろうとして過剰に行うと、周辺の火傷が発生してしまう。大きさにもよるが、1~2週間のうちにとれると思う。取れた後は、クレーターのような穴が空くが、次第に肉が盛り上がって埋まっていく。(増田真彦:いぼ・魚の目・たこの鍼灸施術、出典は同上)

ウオノメとタコの昔からある治療法に、皮膚表面から表皮を削りとる方法が行われてきた。カミソリをつかって注意深く、神経の通っていない基底層まで削る。皮膚を削る道具として皮膚科では定番があって、貝印のカミソリ長柄ゴールドアルファが使われているという。
ウオノメは、深部中心にある白い芯を除去しなければならないが、それには歯科で使っているような電動ドリルのような道具の簡易版(リューターという。数千円で購入できる)の使用が便利である。
 

 

 


4.腁胝(べんち 通称タコ)


1)タコの概要

特定の部位に圧迫や摩擦が繰り返し起こることで生じる皮膚の防衛反応による角質の肥厚。表面が固くなるだけなので押圧痛(-)。感覚が鈍くなっていることの方が多い。足の裏など体重がかかりやすい部にできるが、広い面に対する圧迫ではタコとなり、ポイント的に強く圧迫を受ける場合には、ウオノメとなる。タコが悪化してウオノメとなることもある。

 タコの治療は、角質層をナイフなどで削り、その上で尿素配合クリームを塗布することになるだろう。


2)タコの棒灸+焦灼灸治療
   
まず棒灸などを使い、腁胝表面を広範囲に加熱し、軟化させる(熱を加えることで、皮膚表面のタンパク質が変性して柔らかくなる)。つぎにタコの部分を削ったのち、米粒大の2倍の大きさの艾炷を、腁胝部にまんべんなく、皮膚表面が褐色に変化するまで施灸する。3日ほどで痂皮ができる。1週毎に黒くなった痂皮をカットして、同様の方法で施灸する。
 (岡田明三:皮膚科疾患の灸療法-いぼ・魚の目・たこ-について、医道の日本、H16.11)