AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

尿路結石疝痛には胃倉~志室深刺 ver.1.2

2014-01-25 | 泌尿・生殖器症状

 

1.概念
尿路とは腎杯、腎盂、尿管、膀胱、尿道に至るまでをさす。この経路過程中、どの部位に石があっても尿路痛が生ずる。ただし95%が上部尿路(腎杯~尿管)部に起こる。3大症状は、痛み・血尿・結石排出。

2.症状と機序
尿管などの細い管内に結石があれば、強い疝痛を生じ、腎や膀胱内の結石では無症状あるいは鈍痛となる。痛みは
尿管中の結石により尿が膀胱に流れ下るのを阻止されるので、尿管内圧上昇と尿管壁の急激な伸展刺激により起こる。小水が腎盂部に溜まり、それが腎皮膜を拡張させて痛むという見方もある。 

尿管痙攣による激しい痛みは、尿管の交感神経興奮により二次的に生じた一側のTh12~L2デルマトームの体性神経の関連痛である。
※ぎっくり腰との鑑別:ぎっくり腰は運動時痛であるが、尿路結石は安静時にも痛む。

3)現代医学的治療
保存療法の目的は、結石の自然排出と鎮痛であり、そのためには多量の水分摂取、縄跳び運動などが推奨されている。ただしアメリカでは、多量に尿を生成すると腎や尿管の内圧が上昇して逆に痛みを増すので、抗利尿剤を使って、一時的に尿生成を減らすようにするという(以上、李漢栄医師の「異端医者の独り言」より)。

鎮痛には、鎮痙剤はあまり効果なく、強力な鎮痛剤の処方が効果的になる。痛みが取れれば、尿管の痙攣も鎮静化するということであり、尿の自然排出もあり得るものとなる。

2.尿路結石の針灸治療

突然生ずる片側の側腰の激痛が主訴となるので、開業針灸が取り扱う機会は少ないが、針灸は非常に速効する。一般に内臓疾患に対する針灸は、治療効果に当たり外れがあるが、中空臓器の痙攣による痛み、具体的には尿路結石・胆石疝痛・痙攣性便秘には、針灸は確実性のある治療となる。

ただし尿路結石の痛みは、鎮痙剤があまり効果ないということでもあり、痛みそのものは体性神経興奮がもたらしている可能性が強いと思われる。

尿路結石の針は、患側を上にした側臥位で、起立筋外縁の腰方形筋部(胃倉~志室)の圧痛点から3寸の中国鍼を深刺し、ゆるやかな雀啄をしていると、すみやかに鎮痛できるのが普通である。私は玉川病院研修時代に2症例扱ったが、ともに簡単に鎮痛できた。うち一例は本人の小便時に結石排出を確認できた。他の一例の結石排出は不明だが、再発していないので、痛みをとる→痙攣をとる→結石が流れ落ちるという機序になったのだろう。

針による尿路結石の文献では、次のものが手元にある。
針を受けた腎疝痛の患者群は、より速やかに鎮痛効果が始まり、副作用もなく、標準的な鎮痛処置を受けた患者群と同様の疼痛緩和が得られた(Lee 1992)
(Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「鍼による科学的根拠」医道の日本社 2001.6)

では、それは針だけがもつ特殊な方法なのか、というと違うようで、
田中亮「東洋医学の泌尿器.科的疾患の応用」(日本医事新報、昭54.6.23)に、つぎのような記載がある。
仙痛時は結石の部位に関係なく、第3腰椎横突起の高さで大腰筋外側線近傍に圧痛が出現し、この押圧により速効し、鎮痙鎮痛剤が無効だった者でも速効し(有効率100%)、再発率も少ない (無処置群15%、鎮痛剤無効群40%)

                                           
                                            

                                            
                                            
                                           
 


梁丘、足三里、闌尾刺針で、腹方向に針響をもっていく方法

2014-01-05 | 経穴の意味

1.梁丘刺針の針響方向

梁丘に刺針すると、刺針局所に響くか、末梢側に響くかのいずれかであって、普通は腹方向に響くことはない。しかし柳谷素霊の本を読むと、次に示すような独特の技法を併用することで、腹方向に響かせることができるように書いてある。


2.柳谷素霊の、胃カタルの治療としての梁丘刺針技法


膝上外側の大腿直筋の外縁で、下肢を伸ばしてウンと力を入れると凹むところを取穴。下方から上方に向けて、大腿直筋外縁下に鍼尖が入るような気持ちで斜刺する。この時、患者は息を吸わせ、なるべく手足をキバルように力を入れさせて刺入、鍼を進ませるのは吸気時に行い、呼気時には鍼を留め、または力を抜く。このようにして徐々に進め、針響きが腹中に入ると患者が訴えれば、病の痛みがだんだんうすらいでくる。その時に腹中に響かないとしらた弾振(ピンピンと鍼柄をゆっくりと弱く弾ずる)すれば、やがて疼痛は軽減する。(「胃カタルの鍼灸法」柳谷素霊選集下より)

 

3.筆者の工夫 


私は健常者に対して、柳谷素霊の梁丘刺針手技の追試してみたのであるが、腹側に響かせるのは困難だった。下腹痛が症状にないと難しいのかと思った。ただし昔から知っている、針響誘導手技を併用してみると、針響は下腹にまで至らないものの、大腿を上行させることは可能だった。その方法を紹介する。


①梁丘へ、やや硬い筋肉部に針先が当たるまで刺入する。通常は深度1~2㎝。

②雀啄などの手技針を行い、末梢方向に針響が得られることを患者とともに確認する。 
③柳谷素霊の指定するように、下肢全体力を入れ、息を吸わせる。

④さらに、梁丘の下方(膝蓋骨方向)1~2㎝の部を、指頭で強圧し、下方への針響が遮断されたことを確認する。なお強圧には強い力が必要である。助手等に、両手母指  腹を重ねて強く押圧させること。(助手がいないければ、患者自身に押圧させる) 術者自身が運針しつつ押圧するのでは圧力が足りない。 
⑤さらに梁丘の手技針を継続しているうちに、次第に上行性の響きが得られる。


4.足三里や闌尾刺針は上行性の針響を得られるか?


梁丘穴に行った刺針手技を足三里に行うと、上行性の針響が得られるのだろうか。実際に健常者を実験台として行ってみると、どうもうまくいかないようだ。というのは、足三里の深部には深腓骨神経が走行している。私の足三里刺針のやり方は、深腓骨神経を刺激するよう刺針している。刺針部の下方(足関節方向)1~2㎝を押圧すると、足関節方向への電撃様針響は遮断されるのであるが、それが上行性針響になることはないようだ。つまり、足三里刺針して上行性に響かせるには、神経線維をはずして刺針する必要があるということらしい。


足三里穴の下方2寸に闌尾穴がある。この闌尾穴刺針について、森秀太郎著「はり入門」は、次のように説明している。「闌尾は上巨虚(足三里の下3寸)の高さで、脛骨骨際に取穴。10~15㎜刺入。刺針で針響を下腹にもっていくと効果的になる。足三里と闌尾は、ともに深腓骨神経上にあり、前脛骨筋部にあるので、解剖学的特徴はよく似ていると思うのであるが、森秀太郎は、闌尾刺針について、あえて深腓骨神経に当てないような操作をしていると思った。