AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

「秘法一本鍼伝書」にみる急性淋病の針治療について

2024-11-03 | 泌尿・生殖器症状

1.淋病の名称由来

淋病の英語名は gonorrhea で、(勃起することなく)精液がどくどく流れるという意味。これは外尿道口から膿が大量に出ることから名付けられた。日本語の淋病は、尿道の強い炎症のために内腔が狭まり、小便の勢いがなくなり木々の葉からポタポタと雨が滴り落ちるのを表現したもの。女性の淋病では、おりものの増量や不正出血、下腹部痛、性交痛などが現れることもあるが、半数以上は自覚症状が出ない。


2.かつての淋病の認識


柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」の中に「急性淋病の鍼」の記述がみられる。

淋病(=淋菌性尿道炎)は、性病なので針灸で治るとは到底思えないが、本書が発刊したのは1946年4月であり、実際の執筆は当然それ以前になる。淋病の治療薬ペニシリンが我が国に普及したのは1940年代なので端境期となり、情報が混乱していたのだろう。当然ながらペニシリン以前にも、性病に対していろいろな治療が行われていて、その中に針灸も含まれていたことだろう。  

ペニシリンが発明される以前の西洋医療でも、水銀を飲んだり水銀蒸気を吸引したりする治療が行われた。水銀は銀色に輝く液体ということで神秘的な力を秘めた物質とみなされたらしく、また水銀は殺菌効果があるため、疥癬などの皮膚病には確かに効果もあったから、同じく皮膚の損傷を起こす梅毒にも適用できると考えられたのだろう。
水銀による治療では、流涎や下痢が出現するが、これが体内の毒物を排出するのに有効だとされたが、実際に流涎や下痢は、水銀中毒そのものの症状である。中毒による中毒死が起こるので大変危険な治療だった。


3.膀胱炎症状と鑑別すべき疾患

1)膀胱炎がいつまでたっても治らないという場合、膀胱炎以外の疾患を疑う必要がある。膀胱炎類似疾患には膀胱炎の他に、前立腺炎・尿道炎がある。尿道炎の起炎菌は、淋菌性とクラミジア性があるが、両者の症状はよく似ており治療も同じ。
    
2)膀胱炎で鑑別すべき疾患には、膀胱炎・前立腺炎・尿道炎がある。尿道炎の起炎菌は、淋菌性とクラミジア性があるが、両者の症状はよく似ており治療も同じ。
膀胱炎の3大症状は、①頻尿・②排尿終了時痛・③尿白濁(死滅した白血球)である。排尿終了時痛は、炎症を起こした膀胱が排尿により急激に縮まり、排尿終了時に染みることによる。

淋菌性尿道炎は尿道の強い炎症のために、尿道内腔が狭くなり痛みと同時に尿の勢いが低下する。

膀胱炎の場合、尿道口から白い膿が大量に出るということはなく、尿を容器に入れて観察すると白濁している。この白濁は細菌尿による。
淋病の類似疾患にクラミジアがある。どちらも外尿道口からの細菌の侵入による尿道炎で、ともに性病。どちらも菌の種類が異なるだけで、症状はほとんど同じ。

※梅毒は膀胱炎と全く異なる症状で、痛むことはないので、今日では針灸に受診することはまずなかろう。


3.一本鍼伝書「急性淋病の針」について


1)一本鍼伝書の内容


本書には次のように記述されている。仰臥位で両脚を伸展、身体に力を入れさせる。刺針時は口を閉じ鼻で呼吸し、拳は握る。伸展した脚に力を入れさせる。中極~関元から下方に向けて斜刺。吸気時に針を進め、息を止める。その後に徐々に息を吐かせる。
針響は、尿道に響くをもって度とする。
おおよそ1寸~1寸6分で響く。響けば抜針する。長く強く刺激すれば萎陰症になることがある。寸6ないし2寸針。1~2番針。

       

 

中極ないし関元から下方に向けて斜刺して尿道に響くことは膀胱炎やEDの治療としてよく使われる。響く理由は、陰茎背神経(陰部神経の枝)刺激と思えるが、陰茎背神経は、恥骨の下にもぐって走行しているので、針先を恥骨裏にもっていっても、針先は陰茎背神経に達しないようだ。陰茎背神経の細い枝が下腹部分布しているのだろうか? 
なお
<中極に針すれば陰茎背神経に放散する>との記載を発見したのは、七条晃正著「電探による針灸治療法」医道の日本社、昭35年4月1日刊(絶版)であった。ただし実際に尿道に響かせることは難しくはない。
この針治療は、標準的な急性膀胱炎の針治療であり、素霊のいう急性淋病の針は、実際は急性膀胱炎の針といえよう。淋病の排尿終了時痛に対しては、戦前は効果的な治療法が乏しい中にあって、症状を一時的に軽減する程度の価値はあったのだろう。 前立腺肥大の初期の排尿困難に対し、中極の針がある程度効果があるのと同じである。

七条晃正(てるまさ):明治43年生まれ、医師。平田氏十二反応帯を利用した治療を実施した。また七条式灸点探索器を開発した。


2)膀胱炎の針灸治療理論


膀胱壁過敏症状に対して、この支配神経興奮が症状をもたらしているのだから、この神経痛を鎮痛させてやれば膀胱炎も治まるはず、という論理である。
ただし膀胱炎は細菌(多くは大腸菌)感染症である。針灸は細菌感染に対処できるはずがないはずなのに、効果的だという事実がある。
この理由として、代田文彦は冷えやストレスで膀胱が血行不良になり、免疫力低下したところに常在菌である大腸菌が悪さをするという風に説明した。そして膀胱が血行不良になった段階ですでに膀胱炎初期症状は出現している。この段階であれば大腸菌の前感染段階なので血行改善目的で行う針灸は効果がある。しかし尿検査で細菌尿が検出された段階では、針灸よりも抗生物質が効くと語った。


3)針灸の真価


針灸は膀胱炎初期症状に効くだけで、所詮抗生物質より効果が劣るのかといえば、慢性反復性膀胱炎では話が違ってくる。抗生物質の長期連用は耐性をつくるからである。

膀胱炎様症状が出て間もないなら、自宅で中極あたりに灸をすえることで、症状軽減するからである。
私は中極に何壮すべきかを試したことがある。ある慢性反復性膀胱炎の女性患者に対し、最初は米粒大3壮の自宅施灸を行わせたが効果なく、毎日7壮の自宅施灸をさせることで、膀胱炎発症を抑えられた例がある。

 

 

 


中髎穴刺針の適応症(北小路博司氏の研究)と追試した印象

2024-05-31 | 泌尿・生殖器症状

※令和6年4月11日付けで、カマタ様から当院に11000円のお振込がありました。おそらくCDテキスト代金だと思いますが、カマタ様の住所・電話が分からず、CDをお送りすることができない状況となっています。恐れ入りますが、Eメールにて住所・電話をお知らせください。早急に商品をお送りします。

1.八髎穴の適応

針灸治療において、八髎穴では、次髎穴と中髎穴の使用頻度が高い。一般的に仙骨神経叢の構成はL4~S4脊髄神経前枝からなるので、この代表刺激点としてはS2後仙骨孔部に位置する次髎を使うことが多い。また骨盤神経(副交感神経)と陰部神経(体性神経)は、ともにS2~S4を起始としているので、代表刺激点としてS3後仙骨孔部にある中髎を使うことが多い。
ざっくりいうならば、整形外科疾患である坐骨神経痛には次髎を用い、泌尿生殖器科や婦人科疾患には中髎を使うことが多いといえる。

※ただし木下晴都著「坐骨神経痛と針灸」には、多数の座骨神経痛で来院した患者に対し、腰殿仙骨部で座骨神経痛治療に使用することの多いと思える経穴を10穴程度選穴して治療効果を検討した。その結果、①浅刺よりも深刺が効果あったこと、②どの穴も大なり小なり効果があったが、次髎だけは悪化した、との結果だった。次髎に深刺置針をすると、かえって坐骨神経痛が悪化することがあると記されているが、その機序についての考察までは記していない。  

ところで中髎に刺針して、骨盤神経や陰部神経を刺激するとしても、実際にはどのような疾患に対し、どの程度の効果が期待できるのか、という疑問は以前からあったのだが、どれも自分の臨床経験で語られてきたに過ぎなかった。

この問に対して、北小路博司氏(明治鍼灸大学)は、一連の精力的な研究を継続して行い、かなりの回答を与えてくれた。この内容を総括的にみるには、「鍼灸臨床の科学」医歯薬出版刊の、<泌尿・生殖器系障害に対する鍼灸治療>が適していると思う。その結果をかいつまんで紹介し、若干の解説を加える。

 

2.中髎の解剖学的特徴

仙髄排尿中枢(S2~S4)に位置する。これらは骨盤神経(副交感神経)、陰部神経(体性神経、自律神経系)の起始する部位で、膀胱、尿道(外尿道括約筋)、および性機能に深く関係している。

 

3.中髎の刺針と刺激方法

第3後仙骨孔に入れるのではなく、第3仙骨孔付近の仙骨後面の骨膜を刺激する。

※上記の刺針を北小路博司氏が提示したヘリカルCTで見ると、確かに仙骨前面に沿うように刺入されている。内臓にまで刺入されていないことも確認できるが、沿うように刺入することは意外に難しく、できるだけ仙骨骨膜をこするように刺激することでもよいだろう。


4.中髎刺針の臨床成績  

1)切迫性尿失禁

神経因性の過活動性膀胱患者の
最大尿期時膀胱容量が増加傾向。切迫性尿失禁患者の60%が、尿失禁の消失ないし改善した。中髎刺針は膀胱容量を増加させる傾向がある。 無抑制収縮を抑制させる傾向がある。

2)前立腺肥大症(第Ⅰ期)

前立腺肥大症第Ⅰ期に対して、週1回の中髎刺針を行い、平均6回あまり施術した。夜間の排尿回数減少、および昼間排尿間隔の延長がみられた。ただし治療終了後は元に戻る傾向があった。

3)排尿筋、外尿道括約筋協調不全 

神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能正常、尿道機能は過活動)で、主訴は排尿困難。6例中、4例で排尿困難が消失、1例は改善した。初発尿意、最大尿意および膀胱コンプライアンスは不変。残尿量の減少も5例でみられた。

4)低緊張性膀胱による排尿困難

神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能が低活動、尿道機能正常)で、主訴は排尿困難。
の者。7例中、1例に排尿困難の軽減がみられた。中髎の鍼治療によって、排尿筋の収縮力を高めることはできなかった。

5)勃起障害

心因性9例、内分泌性8例、静脈性3例、糖尿病性2例、神経因性1例、前立腺症1例の計26例。早朝勃起は全症例に対して改善。性交時の状態は65%が改善(心因性33%、内分泌性88%、静脈性100%、糖尿病性50%、それぞれ改善したが、神経因性その他は不変)。心因性インポテンツが、他の原因によるインポテンツと比べ、予想外に有効率が低い。
註:これはバイアグラと同様の傾向である。


6)Ⅰ型夜尿症(膀胱内圧上昇時にも、浅い睡眠に移行するも覚醒に至らないタイプ)

※Ⅱa型は脳波上、覚醒反応が生ぜず、深い睡眠のまま夜尿する。Ⅱb型は膀胱に生じる無抑制収縮を原因とした膀胱機能障害であり、深い睡眠のまま夜尿する。
薬物療法無効の8例。週1回施術で平均5回強治療。夜尿出現率が10%以上改善した者は4例、10%以下の無効例は4例だった。有効例はすべて初発尿意(膀胱にどの程度の尿が溜まったら尿意として自覚するか)が改善した。機能性膀胱容量の増大と初発尿意の延長が、夜尿症の改善に関係あるらしい。

※最新の知見では、夜尿と睡眠の浅深は無関係であることが分かった。つまり上記成績は、Ⅰ型夜尿症に限定する必要はないであろう。 

 

5.中髎刺針の総括

中髎穴刺針には、つぎのような作用がある。

1)膀胱括約筋緊張を緩める →膀胱容量を増加するので、尿意を減らし排尿回数を減らす。
2)膀胱容量が拡大するので、夜尿が発生する時刻を遅らせる。
3)尿道外括約筋の緊張を緩める →外尿道括約筋の過緊張を緩めることで排尿困難を改善。
4)勃起障害を改善。だたし心因性の勃起には有効率が低い。

※このブログを発表したのは、2006年11月のことだった。あれから約15年経過した。この間、泌尿器疾患患者を扱う機会も百症例以上あったとは思う。これらの患者に対して中国鍼で中髎から斜刺をしてみたのだが、残念ながら、あまり有効だったとの感触は得られなかった。現在、中髎刺針しながらハコ灸を追加したり、陰部神経刺針パルスをしたり、手を変え品をかえつつ、有効性を高める努力を継続中である。以前、迷走神経は口から胃にかけての領域に副交感神経作用をもたすとされていたが、最近になった迷走神経の枝は大腸まで達していることが明らかになった。骨盤内蔵を副交感神経支配するのはS2~S4の骨盤神経である。


6.中髎刺激の印象

中髎水平刺の意図は、陰部神経・骨盤神経・仙骨神経を刺激することである。私は原法に従って十年近く実践してきてきたが、この治療方法は万能ではないことも分かってきた。陰部神経刺激であれば陰部神経刺針(座骨結節と上後腸骨棘を結んだ中点から、一横指座骨結節寄りから直刺2~3寸)を行った方が、症状部に響かせることができる。仙骨神経叢に響かせるのは、坐骨神経ブロック点刺針からの方が有利である(骨盤神経叢は響かせることができない)。

①馬尾性間欠性跛行症に対して、持続歩行可能な時間が延びることが多かった。しかしこの効果持続期間は1週間程度であり、繰り返して治療しても治るということはない。1週間から2週間に1度の鍼灸施術で、症状をコントロールできるのがせいぜいである。治療を中止すると元の状態に戻ってしまうことが非常に多い。

②中髎水平刺ではなく、3寸針で8㎝ほど中髎深刺すると、陰部神経支配領域に響きを与えることができるので、従来の陰部神経刺針よりも有効となるかもしれない。(第3仙骨孔を貫通させるのは、初心者には難しいだろうが)

③肛門痛に対しては、陰部神経や中髎直刺よりも、会陽からの深刺の方が効果あるようだ。会陽から直刺深刺し、肛門挙筋も同時に刺激するような治療が効果的ではないかという発想が生まれた。現在、肛門奧の痛みをもつ一人の患者に対して、ジャックナイフ位にて行う会陽深刺と会陽から5㎝下のほぼ肛門の高さからの刺針の効果を検討中である。アルコック管刺針や内閉鎖筋刺針も肛門症状に対しても。試みてはいるが、大した効果はあがっていない。

 

④陰茎・陰嚢痛の痛みに対する治療は、いろいろやってはみているが、いまのところよい治療法が見つかっていない。

⑤切迫性尿失禁については、座位で2壮の中髎のせんねん灸を行い、大幅に症状改善した例があった(自験例)。

⑥頻尿については何例か八髎穴に施灸したが、治療効果はあがっていない。夜尿については治験がない。

 

 

 

 

 


尿路結石の疝痛は、側臥位での外志室深刺が効く理由 ver.1.1

2023-11-25 | 泌尿・生殖器症状

1.尿路結石の概要

尿路とは腎杯、腎盂、尿管、膀胱、尿道に至るまでをさす。尿路結石は腎臓の腎盂で尿の成分の一部が結石を作り、尿路の中に存在している状態で 尿管などにつまると激しい痛みなどをおこす。95%は上部尿路結石(腎杯~尿管)である。

 

2.尿路結石疝痛の疼痛反応の意味 


  
三主徴は、突然の激痛・血尿・結石排出。尿路結石は突然生ずる激しい痛みが特徴。

1)腰痛~鼠径部痛

尿路結石の痛みは腎盂内圧の上昇および尿管壁の急激な伸展刺激のため、突然に排尿困難+腰痛が出現。内臓体壁反射は、Th11~L2デルマトーム領域で、片側の腎臓~側腹~下腹部~睾丸あたりの疝痛となる。腎臓~尿路は交感神経優位な内臓なので、Th11~L2の交感神経デルマトーム(=臨床上は体性神経デルマトームの利用可)反応が出現すると考えがちだが、そういう訳ではない。

脊髄のL1~S2領域は、内臓体壁反射を起こさないからである。なぜ内臓体壁反射が起こらないのか。それはこの部分の脊髄は下肢の知覚・運動を担当していて、仕事量が多く内臓反応を呈する余裕がないのである。内臓の病的反応としてL2に入力された反応は、それを交感神経反応として体壁に反映されることなく、L2の前枝・後枝の体性神経反応として出現することになる。L2前枝は、とくに腸骨下腹神経あるいは腸骨鼠径神経として鼠径部~大腿内側に痛みが放散する。体性神経痛ということは、針灸が得意とする整形外科的な腰痛と同じ性質の痛みなので、針灸が非常に効果があるのも当然である。

 

   

尿路結石疝痛の薬物療法は、一般的な腹痛止めであるブスコパン(抗コリン剤で、鎮痙作用、消化管運動抑制作用)などの鎮痙剤はあまり効果なく、鎮痛剤が効果あることも、この考察を裏付ける。

 

2.尿路結石の針灸

体性神経性の痛みには針灸は効果を発揮する。筆者は側臥位で志室外方に生じた最大押圧部位に深刺して強刺激を与え、体性神経性の痛み(筋々筋膜痛)を緩和させるようにしている。これは腰神経叢刺激になっている。筆者は病院での研修時代、尿路結石疝痛3例に行い、すべて鎮痛できた。なお外志室への刺針や持続強圧指圧によっても速効する。代田文彦医師は、医師になりたてで薬物治療の経験があまりない頃、尿路結石の患者の志室に持続圧痛して鎮痛させた経験を話してくれた。

代田文彦医師は、「鎮痛させることが結石排石につながるかどうかは、確認する方法がないので不明だが、感触としては排泄につながるのはないか」と語っている。患者が尿路結石疝痛鎮痛後に、小便をした際、たまに小さな結石が出たのを視認するケースがあり、このような申告を聴けば即刻退院となる。


3.文献

①90%は上部尿路系結石であり、仙痛は結石の部位に関係なく、第3腰椎横突起の高さで 大腰筋外側線近傍に圧痛が出現し、この押圧により速効する。鎮痙・鎮痛剤が無効だった者でも速効 し(有効率100%)、再発率も少ない 疼痛部位も志室外方の側腹部であることが多い。
田中亮「東洋医学の泌尿器.科的疾患の応用」(日本医事新報、昭54.6.23)
 
②針を受けた腎疝痛の患者群は、より速やかに鎮痛効果が始まり、副作用もなく、標準的な鎮痛処置を受けた患者群と同様の疼痛緩和が得られた(Lee 1992)  (Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「鍼による科学的根拠」医道の日本社 2001.6)


勃起障害(ED)の針灸治療 ver.2.3

2023-11-24 | 泌尿・生殖器症状

1.勃起とその消退の機序
 血中の化学物質により勃起がコントロールされる。次の3つの化学物質が関与する。
         
①「cGMP」で勃起が起る。cGMPとは、環状グアノシン-リン酸の略で陰茎中の血管拡張物質。 

②「PDE5」で勃起が萎える。 PDE5とは、ホスホジエステラーゼ5の略。
前立腺や尿道の筋肉を緩める作用がある。勃起状態を消退させる作用もある。バイアグラは、PDE5の作用をブロックすることで勃起状態を持続させる。

③勃起の反応は、性的興奮により「NO」(一酸化窒素)産生が引き金となる。


2.勃起と関係する筋

EDに関係する筋としてPC筋とBC筋が注目を集めている。 
 
1)PC筋


肛門の筋は骨盤神経(副交感神経支配)で肛門内側にある内肛門括約筋と、陰部神経支配の肛門外側にある肛門挙筋に大別される。肛門挙筋は、体性神経なので、自分の意思が関与する。肛門挙筋3種類あり、肛門から近い側から、恥骨腸骨筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋になり、それぞれ独自の役割がある。
勃起と関係するのが恥骨尾骨筋で、PC筋(Pubococcygeus Muscle)ともよばれている。

PC筋は、ペニスが勃起するときに、海綿体に血液を送るポンプの働きをする。精液を出す時には律動的に動く。

2)BC筋

球海綿体筋をBC筋(Bulbocavernosus Muscle)と略す。ペニスが外に出ているのは全体の 3/4で、根元1/4は、骨盤底筋群の隙間に埋まっている。この根元にあるのがBC筋で、ペニス全体を下支えしている。球海綿体筋が強いとペニスの根元もしっかりして上向きのペニスとなり簡単には「中折れ」を起こさない。

球海綿体筋には尿道から尿や精液を押しだす役割もある。球海綿体筋が鍛えられることで射精の勢いが強まり、射精時の快感が増すとされる。 球海綿体筋が弱ると、尿のチョイ漏れを起こす。

3.PC筋・BC筋に対する物理的刺激



PC筋に対する局所刺激点は肛門の刺激になる。会陰穴である。BC筋は会陰穴の10㎝ほど前方で陰嚢との境界部になる。この部に相当する奇穴はあるのかと、陸痩燕・朱功著、間中喜雄訳「奇穴図譜」医道の日本社、昭46.6.10刊をみると、<陰嚢下横紋>という穴を発見した。BC筋の刺激点とはペニス基部の刺激になる。

男性であれば理解可能かと思うが、意思で肛門を引き締めようとすればPC筋が作用し、小便終了時にペニス内に残存する尿を外に出そうとすればBC筋が作用する。PC筋とBC筋は完全に独立して機能せず、同時に筋収縮することも多い。

ツボはある椅座位でこのあたりにゴルフスボール(直径4㎝程度)などをあてがい、上体を前傾させると、PC筋・BC筋の押圧刺激になる。リズミカルに数分間、前傾したり元の姿勢に戻したりの運動を行うことででPC筋・BC筋を鍛えることができる。  


4.PC筋とBC筋の筋力トレーニング
PC筋とBC筋の筋力トレーニングの意義は、筋力増強ではなく、血行改善になる。  

①PC筋のトレーニングとしてオシッコを止める動作を5秒ほどかけて行い、今度はオシッコをするような動作を5秒ほどかけて行う。締める、緩めるの動作をゆっくり10回行い、毎日3~5セット続ける。

  
②BC筋を意識しながら5秒ほどかけて肛門を力強く締める動作をする。今度は肛門をゆっくり緩めていく。締める、緩めるの動作をゆっくり10回行い、これを3~5セット毎日続ける。

  
③椅座位で、上体を前傾斜すると骨盤底筋が座面に当たる。この辺りにゴルフボールををあてがい、前屈動作を反復する。PC筋・BC筋指圧効果が得られる。


5.EDの針灸治療

PC筋・BC筋を直接刺激するには、会陰穴からの刺針になるが、治効のエビデンスが不足している。PC筋・BC筋への刺針には筋力トレーニング効果はないが、血行改善効果はありそうだ。このためには置針やパルス針が剥いているのかもしれない。 
  
1)針灸とバイアグラの効果の比較研究 
 
辻本孝司は、針灸とバイアグラの効果を比較し、「EDに対する中髎刺針は有効だが、その効果はバイアグラに及ばない」との結論づけた。それは次のような内容である。

ED患者26名に対し、2寸#8の針を中髎に5㎝刺入し、回旋刺激を10分間施行。治療は週に1回で、平均11回施術した。著効と有効を合わせると有効率は62%だった。有効例は、心因性(著効33%)よりも、内分泌性(著効88%)や静脈性(60%)の方が高かった。しかしバイアグラの有効性は50mgで70~80%で、重篤な副作用もみられないことから、針治療よりもバイアグラ内服の方が効果的である。バイアグラが効果なかったという者の大半は、内服方法に誤解があるからで、服薬指導と数回の針灸治療で改善させる。(辻本孝司:EDの治療-バイアグラと針に求められるものは,針灸OSAKA.vol.19 No.1.2003.Spr)
 

2)陰茎背神経刺針

①曲骨の針響と治療効果(日野勝俊:「はりきゅう」治療でしぜんな妊娠あんしん出産、2006年11月)

日野勝俊は「正常男性に曲骨から刺針をすると、ペニスの先まで針響を感じるが、重症のEDでは刺針した部位のみの刺激感のみになる。しかし繰り返しの治療で、ペニス先端部近くまで針響が届くようになる」記している。一般的なEDの場合には症状に応じて、週に
1~2回程度の治療を4ヵ月間続けて経過をみる。効果がすぐに現れるケースでは、初回の治療直後から、遅い時でも2ヵ月ぐらいで症状の改善が認められるとのこと。
※曲骨や中局へ針してペニスに響かせる方法は、急性・慢性膀胱炎での常套法(慢性膀胱炎には中極に10壮程度の多壮灸がよい)なので、EDに対しても効き目がありそうだ。そう思って、筆者はこの方法を10例以上行ってみた。しかしED治療に効果あることの感触は得られなかった。
  

②玉泉穴刺針

亀頭など性器の触覚を支配しているのは陰茎背神経なので、以前からこの刺激することがEDの改善になるとして行われている。一般的には下腹部正中の恥骨あたりで、曲骨・中極・大赫などを刺激する。このあたりに刺針すると針響きがペニスの尖端まで伝わることが多い。ただし前記したツボの直下には陰茎背神経や陰部神経がなく、腸骨下腹神経(これは腰神経叢L1~L3)となる。下腹部筋膜の刺激を介して陰茎背神経に響いたのだろうと推測した。陰茎背神経に針を当てるには、陰茎背神経ブロック点(陰茎基部直上から左右それぞれ1㎝の部)かた直刺した方が確実ではないだろうか。ちなみに陰茎基部直上には「玉泉」穴が定められている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


切迫性尿失禁が中髎の灸1回で改善した自験例(69才、男)

2023-08-14 | 泌尿・生殖器症状

1.主訴:突然尿意が強くなり、トイレが間に合わない

2.現病歴

1週間ほど前の就寝中、少々尿意を感じたので、起き上がりトイレに向かって十数歩歩いた。そのわずかな間に、我慢できないほど尿意が強くなった。トイレまであと数歩となった時、我慢できずにパンツやパジャマのズボンだけでなく、廊下やトイレの床などにも小便を漏らした。一度排尿を始めると、膀胱にある尿全部が出終わるまで尿の勢いは止められなかた。それ以降、1日数回は我慢できない尿意が急に出現し、たびたびパンツを取り替える必要があった。こういう状況になって紙製の尿漏れパンツを使おうかとか、寝床のすぐ隣に携帯トイレ(ポリバケツ)を置こうかと考えるようになった。まるで後期高齢者のようであった。


3.診断

切迫性尿失禁であり、その原因となるのが過活動膀胱によるもの。腹圧性尿失禁については、これまで患者の訴えとしては度々あった。笑ったり咳をしたり、重い物を持とうと下腹に力を入れた際に尿が漏れるというもので、その症状を想像することができた。切迫性尿失禁については以前から知識としては知っていたのだが、膀胱が意志とは無関係に収縮した結果、失禁するとはいう状態を身をもって体験した。

4.切迫性尿失禁とその針灸治療効果

 
早速ネットで、本疾患の治療について調べると、抗コリン剤が有効で、服薬により寛解しやすい疾患と書かれていた。しかしすでに私は糖尿病の治療薬を多数服用していることでもあり、これ以上薬は増やしたくなかった。では過活動膀胱による切迫性尿失禁の針灸治療はどうすべきかと調べると、北小路博司氏の発表で、中髎から仙骨骨面に対して斜刺し、骨盤神経を刺激するとあった。これは以前から勉強していたことで、日常的に患者に使用している方法でもあった。とはいえ、通常治療には多くのツボを同時に使うのが普通なので、次髎が本当に効いたとする確信をもてた症例は、ほとんど記憶に残っていない。何事も実体験しないと手に入れることができないということだ。

 
中髎に自分自身で針をすることは難しかったので、家内に頼んで左右の中髎あたりにせんねん灸(強力温熱タイプ)をしてもらった。直接灸が良かったのだがモグサをひねる技術がなったので次善の策としてせんねん灸をしたもの。施灸体位は腹臥位でなくアグラ位で上体前屈位とこだわってみた。これは少しでも交感神経優位に誘導しようとする狙いがある。左右中髎に2壮づつ実施。


それから1~2時間経ち、尿意を感じた。トイレを目指して歩くこと十数秒。こみ上げてくるような激しい尿意はなくなり、普通に小用を足すことができた。念のため翌日も同用に中髎のせんねん灸治療を実施。あれから丸2日が経つが、切迫性尿失禁症状はなくなっている。中髎施灸の効果が、これほど強力なものだとは嬉しい誤算だった。


5.中髎刺針の効果の臨床研究結果の整理 
 (北小路博司:泌尿・生殖器系障害に対する鍼灸治療、「鍼灸臨床の科学」医歯薬、2000年9月より引用)

1)中髎刺針の原法(北小路博司)

 
2寸(60㎜)7番(0.3㎜)針を用い、中髎を刺入点とし、45°頭側の斜刺し、刺針転向で仙骨骨膜に沿うように50~60㎜刺入、重だるい得気感覚が得られた後、手で針を半回転する旋捻刺激および2~3ヘルツでの雀啄刺激を左右10分間ずつ行う。これを1回の治療として、基本的に週1回の治療感覚で行った。

これまで八髎穴刺針は、習慣的に針は後仙骨孔を貫通べきだとされていたが、実際にその必要はなく、仙骨孔を貫通しない刺針でも骨盤神経に影響を与えることが重要なことが判明した。骨盤神経に影響を与えるには、8番針にて仙骨骨面にこすりつけるような強刺激の針が効果的だという。

2)中髎刺針の効能の要点

 ・過活動膀胱の収縮過敏を鈍化させる。したがって切迫性尿失禁に効果がある。
 ・内尿道括約筋の緊張を緩めることで排尿困難を改善する。

①切迫性尿失禁
過活動膀胱による切迫性尿失禁に対しては、最大尿期時膀胱容量が増加傾向。切迫性尿失禁患者の60%が、尿失禁の消失ないし改善した。中髎刺針は膀胱容量を増加させる傾向がある(対抗コリン剤と同じ作用。抗コリン剤とは内臓中空内臓の痙攣による疼痛鎮静に使用)。 

②前立腺肥大症(第Ⅰ期)
前立腺肥大症第Ⅰ期に対して、週1回の中髎刺針を行い、平均6回あまり施術した。夜間の排尿回数減少、昼間排尿間隔の延長がみられた。治療終了後は元に戻る傾向があった。
  
③排尿困難に対して
排尿筋、外尿道括約筋協調不全(膀胱機能正常、尿道機能は過活動)による排尿困難6例中、4例で排尿困難が消失、1例は改善した。すなわち中髎刺針には、尿道括約筋過活動を鎮める効果があるらしい。
  
④低緊張性膀胱による排尿困難
神経因性膀胱の一タイプ(膀胱括約筋が低活動、尿道機能正常)で、主訴は排尿困難。このタイプ7例に中髎刺針を行い、1例に排尿困難の軽減がみられた。つまり膀胱括約筋の収縮力を増やすことはあまりできなかった。


※腹圧性尿失禁   

切迫性尿失禁ではなく、腹圧性尿失禁はどのように施術すべきか。斎藤雅一は、中極深刺手技針が有効だった例を紹介した。腹圧痛性尿失禁の70歳女性に対して、中極穴に対して下方に45°の斜刺で4㎝刺入し、得気を得た後10分間半回旋刺激。週1回治療で5回治療を1クールとした。すると、1クール終了時に、尿失禁時の不快感が消失した。(斎藤雅一:排尿障害プラクティスVol.7 No.1. 1999)

 

 


泌尿器科症状に対する陰部神経刺針の限界 ver.1.1

2020-12-31 | 泌尿・生殖器症状

1.泌尿器科症状して期待はずれの陰部神経刺針

筆者は馬尾性脊柱管狭窄症に対して陰部神経刺針を鍼灸臨床の中で日常的に行っている。馬尾性脊柱管狭窄症の間欠性跛行「5分以上歩くと脚が前にでづらくなる」という訴えに対し、陰部神経刺針をすると、陰部神経支配領域であるペニス・陰嚢・肛門・直腸あたりに響きが得られるので、泌尿器科疾患に対しても陰部神経刺針が有効かもしれぬという思いがあった。そのことをブログにも書いたことで、泌尿器系愁訴をもった患者が遠方からでも来るようになった。

 
陰部神経刺針そのものは、すでに豊富な経験があって、ほぼ確実に針響を陰部にもっていくことができるようになっていた。しかし実際に行ってみると、このことが治療効果につながらないことに気づいた。最近のカルテで該当するものを以下にリストアップしてみる。症例2は陰部神経運動針がある程度効果的だったが、その他の症例は無効といってよく治療1~3回で脱落してしまうことが多かった。


症例1:25才、男。排便時に肛門が開きにくく、大便が出にくい。

症例2:53才、女。会陰痛。会陰がぴくぴくする。脱肛感。
症例3:39才、男。左鼠径部~精索部痛。会陰痛。
症例4:46才、女。左坐骨結節部痛
症例5:52才、男。右陰嚢部痛。
症例6:49才、女。左大腿内側部痛、左坐骨結節部痛。 
症例7:30才、男。肛門奥が突き上げるように痛む。
症例8:26才、男。20才で包茎手術。その直後からペニス部あピリピリ痛む。

2.陰部神経刺針の真のねらい

糸のような細い陰部神経に直接命中させることは本来難しいはずである。私がほぼ確実に陰部に針響を導くことが出できると書いたのだが、今思うと実際には緊張状態にある閉鎖膜部分にある内閉鎖筋に針先を入れたのではないかと考えている。
というのは、刺針深度を深めていって、響く直前に、そのことを予見できるからで、刺し手に針先が硬い組織に入ったことを感じれるからである。

 

 

3.内閉鎖筋と陰部神経刺激刺針について
 
1)内閉鎖筋の基本事項 

    
内閉鎖筋の起始は、寛骨内面(弓状線下)で閉鎖膜周囲である。途中坐骨結節を越える部分で走行が直角に折れ曲がり、大腿骨転子窩に停止する。作用は大腿骨外旋。上図は、「烏丸いとう鍼灸院」のブログに載っていたものであるが、院長の伊藤千展氏は、泌尿器疾患の鍼灸治療を専門に行っているようだが、私と同じ見方をしていて、治療上の悩みまで共通していることに驚いた。 

 

)内閉鎖筋の解剖学的特徴と泌尿器科症状の関連
   
内閉鎖筋は小坐骨孔(仙結節靭帯と仙棘靭帯で構成される間隙でその中を内閉鎖筋と陰部神経、陰部動脈が通過)を通過している。この解剖学的特徴により、内閉の緊張によって陰部神経や陰部動脈を圧迫して泌尿器科症状を生ずることがある。

 

3)内閉鎖筋緊張の診察


内閉鎖筋の緊張の有無を調べるには、被験者を側腹位にさせ、坐骨結節の裏側を強く触診す  るようにする。非根性坐骨神経痛や泌尿器症状があれば本筋過緊張を一応疑ってみる。

 

 

 4)陰部神経刺針(内閉鎖筋刺針)の適応
   
陰部神経刺針を行うと、当然ながら陰部に針響を与える場合が多いが、この刺針では小坐骨孔を通過する辺りで、内閉鎖筋を同時に刺激していることになり、泌尿器科症状(仙骨部痛、尾骨痛、直腸肛門痛、括約筋不全、排便障害、下腹部症状泌尿器症状)をもたらすことがあ
る。実際、内閉鎖筋の筋緊張が原因であれば、陰部神経刺針で奏功が期待できるのだろう。
  
しかし症状が、真の泌尿器科臓器の問題に起因するのであれば、陰部神経刺針は症療法にすぎず、直後効果さえ効果は不十分になりがちなのが現状である。陰部神経症状をもたらしている元の病態が存在しているので、陰部神経を刺激するだけでは効果が少ないのかと思った。要するに壊れかけた電気製品を叩いてみて、調子よくなったようにみえても、結局はダメなのに似ている。その上、泌尿器症状を訴えて鍼灸に来院する患者は、それ以前に泌尿器科や婦人科の診察を受け、そこの医療施設でうまく治療できかったから鍼灸に希望を求める訳で、もともと難症であることが多いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


尿路結石疝痛には胃倉~志室深刺 ver.1.2

2014-01-25 | 泌尿・生殖器症状

 

1.概念
尿路とは腎杯、腎盂、尿管、膀胱、尿道に至るまでをさす。この経路過程中、どの部位に石があっても尿路痛が生ずる。ただし95%が上部尿路(腎杯~尿管)部に起こる。3大症状は、痛み・血尿・結石排出。

2.症状と機序
尿管などの細い管内に結石があれば、強い疝痛を生じ、腎や膀胱内の結石では無症状あるいは鈍痛となる。痛みは
尿管中の結石により尿が膀胱に流れ下るのを阻止されるので、尿管内圧上昇と尿管壁の急激な伸展刺激により起こる。小水が腎盂部に溜まり、それが腎皮膜を拡張させて痛むという見方もある。 

尿管痙攣による激しい痛みは、尿管の交感神経興奮により二次的に生じた一側のTh12~L2デルマトームの体性神経の関連痛である。
※ぎっくり腰との鑑別:ぎっくり腰は運動時痛であるが、尿路結石は安静時にも痛む。

3)現代医学的治療
保存療法の目的は、結石の自然排出と鎮痛であり、そのためには多量の水分摂取、縄跳び運動などが推奨されている。ただしアメリカでは、多量に尿を生成すると腎や尿管の内圧が上昇して逆に痛みを増すので、抗利尿剤を使って、一時的に尿生成を減らすようにするという(以上、李漢栄医師の「異端医者の独り言」より)。

鎮痛には、鎮痙剤はあまり効果なく、強力な鎮痛剤の処方が効果的になる。痛みが取れれば、尿管の痙攣も鎮静化するということであり、尿の自然排出もあり得るものとなる。

2.尿路結石の針灸治療

突然生ずる片側の側腰の激痛が主訴となるので、開業針灸が取り扱う機会は少ないが、針灸は非常に速効する。一般に内臓疾患に対する針灸は、治療効果に当たり外れがあるが、中空臓器の痙攣による痛み、具体的には尿路結石・胆石疝痛・痙攣性便秘には、針灸は確実性のある治療となる。

ただし尿路結石の痛みは、鎮痙剤があまり効果ないということでもあり、痛みそのものは体性神経興奮がもたらしている可能性が強いと思われる。

尿路結石の針は、患側を上にした側臥位で、起立筋外縁の腰方形筋部(胃倉~志室)の圧痛点から3寸の中国鍼を深刺し、ゆるやかな雀啄をしていると、すみやかに鎮痛できるのが普通である。私は玉川病院研修時代に2症例扱ったが、ともに簡単に鎮痛できた。うち一例は本人の小便時に結石排出を確認できた。他の一例の結石排出は不明だが、再発していないので、痛みをとる→痙攣をとる→結石が流れ落ちるという機序になったのだろう。

針による尿路結石の文献では、次のものが手元にある。
針を受けた腎疝痛の患者群は、より速やかに鎮痛効果が始まり、副作用もなく、標準的な鎮痛処置を受けた患者群と同様の疼痛緩和が得られた(Lee 1992)
(Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「鍼による科学的根拠」医道の日本社 2001.6)

では、それは針だけがもつ特殊な方法なのか、というと違うようで、
田中亮「東洋医学の泌尿器.科的疾患の応用」(日本医事新報、昭54.6.23)に、つぎのような記載がある。
仙痛時は結石の部位に関係なく、第3腰椎横突起の高さで大腰筋外側線近傍に圧痛が出現し、この押圧により速効し、鎮痙鎮痛剤が無効だった者でも速効し(有効率100%)、再発率も少ない (無処置群15%、鎮痛剤無効群40%)

                                           
                                            

                                            
                                            
                                           
 


腎尿路・生殖器臓器の自律神経支配

2006-06-12 | 泌尿・生殖器症状

1.腎尿路・生殖器臓器の自律神経支配
 内臓は交感神経と副交感神経の二重支配を受けているが、臓器により優位性の比率は異なっている。骨盤臓器の場合、おおざっぱにいえば、骨盤上位にあるものは交感神経優位で、骨盤下位にあるものは副交感神経優位である。

 骨盤内臓の交感神経優位の臓器は、その内臓-体壁神経反射は、Th11~L2
交感神経性デルマトーム領域に出現し。皮膚のざらつきや立毛、発汗などの反応をもたらし、その興奮が一定以上に強い者ならば体性神経デルマトームにも出現して圧痛硬結反応を呈する。
 ただし体幹部において、両者のデルマトームはほぼ同じなので臨床上は同一に扱ってかまわない。

 副交感神経優位の臓器では、具体的には骨盤神経がその興奮を伝達している。骨盤神経はS2~S4からなるが、それ自体は内臓-体壁反射を起こさない。しかし一定以上の興奮はS2~S4体性神経デルマトームに反映される。

 ただ骨盤臓器はどちらかの自律神経成分が優位だとしても、それは相対的な問題であってTh11~L2交感神経とS2~S4副交感神経の両方の反応が出現している。なおそこ間にあるL3~S1の脊髄神経は専ら、腰下肢という広範囲な知覚と運動を担当しているので、内臓支配まで手が回らないのである。




 

上記で、とくに踵部と泌尿器の関係が興味深い。このことはフェリックスマン著「鍼の科学」にも記載があって「尿道と足とは、おそらく同一または隣接したデルマトームに属しているのだろう。多発性硬化症患者の踵を鍼で刺すと、排尿が起こることを観察している」とある。

踵中央にある失眠穴に灸刺激すると尿量が増えることが深谷伊三郎によって報告されている。足ツボ療法では足のむくみがとれるともいわれているが、これも利尿作用と関係しているのだろう。