AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

肘関節痛には上腕部筋への刺針も重要

2011-03-02 | 上肢症状

1.針灸院に来院する肘関節痛といえば、大部分はテニス肘・ゴルフ肘・野球肘などであり、前腕部筋の筋付着部症と捉えて、上腕骨内側上踝や外側上踝に起始のある筋起始部への運動針を行うことで改善できる場合が非常に多い(外側型野球肘は治すのが難しい)。この度、上記治療方針で行ってもうまく改善せず、上腕の針を加えることにより大幅な治療効果が得られたので報告する。

 

2.左肘部を約3月前に骨折。その後遺症による肘周囲痛で来院した64歳女性の例。

毎日病院でリハ訓練を受けているが、肘痛は残存し、肘屈曲は正常だが肘伸展は135度程度で、それ以上はロックしているようであった。とくに手関節を背屈したり、手の内旋・外旋時に、肘から前腕にかけてつっぱるように痛むとのこと。整形外科医に勧められて当院受診となった。しかしながら上記パタンの施術を4回行うもほとんど改善しなかった。治療失敗かと思っていた時、患者が「ここも少し痛む」とのことで上腕二頭筋部を指指した。圧痛点は上腕二頭筋長頭の外縁で、上腕骨内側上髁の2~3㎝の部だった。あまり期待せず触診すると、わずかな硬結を発見したが、筋自体に過緊張はとくにみられなかった。あまり期待することなく、この部に運動針実施。すると前記の症状誘発動作をさせても痛みが大幅に軽減したのだった。これに勇気を得て、上腕の別の圧痛硬結点を見つけよう務めると、上腕二頭筋の長頭と短頭の筋溝で、肘窩の上方3㎝の部に硬結を発見して運動針を実施。さらに肘痛症状は緩和された。
 肘関節の可動域も広げることはできるかもしれないとの期待も生じたので、上腕部を注意深く触診すると、上腕三頭筋腱部に小さな硬結を発見(ただし上腕三頭筋自体に大した緊張なし)。ここに刺針しつつ、肘関節の伸展の他動運動を行うと、ゆっくりと可動域が増し、肘伸展150度程度可能になった。ロック状態かと思われた可動域制限も、このような簡単な治療で改善できることを知り、患者以上に当方が驚いた。


3.原因不明の左肘痛で来院した65歳男性の例。

上腕骨外側上髁部と内側上髁部ともに圧痛がある。前腕筋起始部症だろうと見当をつけて施術するもまったく改善なく、肘関節裂隙への刺針も無効だった。10回程度治療するも目立った改善なく、半ば諦めていたが、前記症例を経験した直後だったので、試しに上腕二頭筋長頭筋外縁の圧痛点(上記症例と同じ位置)へ運動針を行ってみると、回内回外痛時が非常に軽減した。

 

4.トリガーポイントマニュアルと見ると、肘が完全伸展していない場合、上腕二頭筋は回外動作の強力な補助筋だと記されているが、このことは上記症例で実感した。しかし手関節背屈動作も上腕部への運動針で取れるとは意外である。
肘関節の伸展ROM拡大に、上腕三頭筋腱への刺針が効果あったのも不思議であった。