咽喉科の現代鍼灸について紹介する。今回は「咽頭・扁桃症状の現代鍼灸」について記し、次回「喉頭症状の現代鍼灸」について記す。
1.咽喉の概要
咽喉とは咽頭と喉頭を併せた総称である。ざっくりいえば、鼻の奥が上咽頭、口の奥中咽頭、の仏のすぐ奥が喉頭、その奥が下咽頭である。
それぞれのパートごとの支配神経・症状・代表疾患を表にまとめた。咽頭症状は主に「痛み」であり喉頭症状は「咳と声がれ」である。すなわち咽は痛むが、喉は痛まない。下表には治療点も付記したが、これについては後に改めて説明する。
2.咽頭狭窄感
1)鑑別
針灸で適応なのは、痛みによる嚥下困難(舌咽神経興奮)であり、扁桃炎がその代表。嚥困難の中には、「食物がつかえる」ものがあり、食道の器質的疾患と心因性の場合がある。
2)機能性咽頭狭窄感に対する舌骨上筋・広頸筋のストレッチ手技
耳鼻科での検査で異常がみつからない咽喉狭窄感といのは、咽喉に異常があるのではなく、咽喉部とは直接関係のない、頸部運動機能と関係する前頸部の筋緊張がもたらした自覚症状のだろうとする意見がある。以下に示すのはYoutubeで発見した舌骨上筋・広頸筋のストレッチ手技だが、追試してみると効果的だったので紹介する。
①仰臥位。前頸上部の胸鎖乳突筋そして胸鎖乳突筋の内縁部を術者左手の母指以外の4指でく押圧する。
②その状態のまま右手の指先で顎下部を軽く押圧する。
③左手で前頸部の筋や皮膚の動きづらくしているので、右手指で顎下部を押圧しても指はあり沈まないが、そこを強めに押圧することで舌骨上筋をストレッチさせ、コリを軽くするとができる。本法は事実上皮下筋膜ストレッチ法でもある。
2.急性扁桃炎
1)概念
咽頭を輪状に取り巻き、細菌やウイルスの消化道入口以下への侵入を防いでいるリンパ組織がある。多くは感冒による免疫低下時での細菌の二次感染で、これらリンパ組織に炎症が起きた状態をいう。
2)症状・所見
高熱(39℃以上)、嚥下時痛(唾液を呑み込む際の咽痛←舌咽神経痛による)
開口して口蓋扁桃肥大と発赤をみる。顎下リンパ節腫脹し、押圧で痛みを感じる
3)急性咽頭炎との相違点
扁桃炎とは口蓋扁桃に強く出現した咽頭炎をいう。すなわち咽頭炎の一部に扁桃炎がある。ただし急性咽頭炎では微熱であり、扁桃炎のような高熱は起きない。また咽頭炎では咽頭あるが、唾液を呑み込む際の嚥下痛はない。
3.咽痛に対する鍼灸治療
発熱に対する治療は、鍼灸より消炎鎮痛解熱剤の方が効果的。
1)洞刺
扁桃炎の中心は口蓋扁桃の細菌感染症状なので、対症療法として咽頭を知覚支配している舌咽神経を鎮静させることができても、その効果に限界はあるが、舌咽神経の鎮としては洞刺が知られている。
洞刺には、血圧降下作用、気管支拡張作用、そして今回の治療意図でもある咽痛鎮静作のあることが発見された。人迎部に3㎜皮内針を皮下針的に斜刺し固定すると、おおむね24時間以内に鎮痛効果が得られる。(渡辺実:扁桃炎・口内炎の簡易療法、医道の日本 昭58.8)
2)舌咽神経刺針
舌咽神経は、舌根部~咽頭、外耳道、鼓膜を知覚支配している。これらの領域の痛みにしては舌咽神経刺の適応がある。舌咽神経ブロックという神経ブロック手技はあるが、鍼これをマネしてみても症状部に針響を与えることは難しく、筆者は下耳痕刺針で、下耳痕ら直刺2~3㎝で鼓室神経を刺激を与える方法を行っている。なお鼓室神経は、舌咽神経分枝。扁桃炎では咽痛が生ずるが、ひどくなると中耳あたりまで痛くなるのはこのため。
(下耳痕穴=深谷伊三郎の定めた難聴穴とほぼ同一部位。深谷はここに灸をするが、当然がら刺針しなければ咽や中耳に響きを送ることはできない)
3)口蓋扁桃刺
(郡山七二「針灸臨床治法録」、三島泰之「今日から使える身近な疾患35の治療法」より)
①意義:口蓋扁桃周囲の静脈鬱血の改善と舌咽神経痛への対処
②術式:座位。患者を大きく開口させ、患側口蓋扁桃の位置を視認。2寸#5(細い人は寸6#3)を使って、下顎角のやや前方で下顎骨の裏骨縁から口蓋扁桃に向けて刺入。鍼先を口蓋扁桃にもっていく。鍼先が口蓋扁桃から外れた場合、痛みやしびれがした舌先や舌根周りに感じる(三叉神経第3枝下顎神経刺激)ので、このような場合刺し直す。
③効果:急性扁桃炎には1回の施術で嚥下痛は解消するので鍼の効果を実感してもらえるチャンスである。慢性症で扁桃肥大したものでも、少々気長に治療継続すれば縮小する。
4)合谷多数浅刺(柳谷素霊「秘法一本針伝書」)
①取穴:直径1寸3分位の丸竹を患側に握らせた状態で、第1中手骨と第2中骨の底間の硬結下際部に合谷をとる。
②体位:正座させ、両手を膝上大腿部に置き、腹部に力を入れさせ、健側の手も強く握らせ、かつ全身に力を入れるように指示する。
③刺針:寸3#2を使用。針先をやや上方硬結様横絡の下縁に入れるように傾斜させて刺入。刺針深度は1分くらい、深くとも2分以内。細指 術法、すなわち反復的に皮膚に刺針、そして直ちに入れ直す。皮膚が発赤するまで行う。
④針響:針先が皮膚に触れて直ちに針響が上腕の方に感通することがあれば、それ以上深くさない。そうならない場合、徐々に刺すか、抜いてやり直す。針響が前腕に響くか、さらに上腕に上り、咽喉に達すれば成功。喉に至らなくても、反復刺針し、穴部が赤したり軽く血滲むようになれば、喉病患は軽減する。ことに扁桃炎に効あり。
※筆者見解
合谷部皮膚刺激する治療として有名なのが、桜井戸の灸で、これは面疔に対する合谷多灸を行うもの。施灸で顔面痛が頓挫するも帰宅中の列車の中で痛みがぶり返すと、車中で自分で合谷に灸したという。合谷部皮膚刺激の治効は、合谷部が特異的に橈骨神経皮枝の覚支配であることと関係がありそうだが‥‥