AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

バネ指手術の体験 ver.1.1

2024-08-01 | 上肢症状

1.術前の経過

2年程前から、理由なく起床直後に左母指のバネ現象が生ずるようになった。ただし基礎疾患として7年前頃から糖尿病があった。脱力時には痛みはないが、母指の曲げ伸ばするために、カクンカクンとして母指が動かしづらいので、絆創膏を母指IP関節に巻いてIP関節の動きを制限して過ごした。やがてバネ現象は自然消失したが、今度は母指IP関節が完全伸展できなくなった。母指の屈伸動作を行うと、母指MP関節掌側横紋の示指寄りに鈍痛が残るようになった。すなわち第3期のバネ指状態になった。母指の完全伸展ができないことは我慢ができても、母指球の鈍痛には我慢ができなかった。この鈍痛は湿布しても効果なかった。

痛みに我慢できなかったので、これまで整形外来に2度行き、腱鞘内への鎮痛剤注射を行う処置をうけた。注射直後は効果を実感しないが、数週間でじんわりと効いてくるとのことだが、まさにその通りだったので驚いた。しかし2~3ヶ月で元にもどることも多いという。一応計2~3回注射して、それでも効果ない場合、手術に踏み切るとの段取りになるという。腱鞘内への注射そのものが非常に痛く、局所注射が腱鞘を傷つけることになるなどの理由から、注射回数にも限界があるとのこと。


 2.(参考)バネ指のスタジウムと処置法

1)第1期:
関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にほとんど支障がない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。
  
2)第2期:     
①バネ現象陽性
が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させる時には、弾撥性に屈曲する。かろうじて指は屈伸できるが、曲げた指がスムースに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。
   
②モーニングアタック出現
夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。
     
③MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知
  
治療は、腱鞘内への注射(局所にステロイド+局所麻酔剤)  

3)第3期 
バネ現象は消失するが、指の完全屈伸はできなくなる。日常生活で非常に支障をきたす。関節拘縮状態。 輪状靱帯の開放手術。手術以外に方法がない。


3.輪状靱帯切開手術

私のバネ指は、第3期となっていた。腱鞘への局麻注射も7ヶ月間に計3回たので、手術しか選択肢がなくなった。腱鞘への注射は、クリニックの外来で行ったが、手術となると手術設備のある病院になる。この医師は母体が同じクリニックと病院日替わりで勤務している。クリニックでは病院に宛てに紹介状を書いていた。書いた人と受け取る人は同じなのに、上の人から「書かないといけないんだって」とブツブツ文句を言っていた。

否応もなく平成29年9月15日、輪状靱帯切開術を受けた。手術室に入ると入口のナースが、「あの先生は、自分宛てに自分でご高診依頼状を書くんですよ」と妙なことを話してくれた。ところでバネ指の所見は腱が肥厚していて、輪状靱帯を切開すると、その輪状靱帯に覆われた部分だけ細くなっていたという。A1靱帯を切除し、A2靱帯入口部分も切ったとのこと(両靱帯を2つとも切除することはできない)。手術方法の選択はもちろん医師に一任したのだが、2㎜ほど皮膚切開してガイドナイフを使って腱鞘切開するという新方法ではなかった。しかし腱鞘を目視して切開できたことが、A1靱帯完全切除、A2靱帯入口の部分切除という臨機応変な対応をとることができた。A1靭帯を切開する時、腱が太くなっていて輪状靱帯をつまんで切開するのに手こずっていることが、医師の独り言から伺えた。

皮膚切開は10㎜ほど。手術は正味20~30分で、手術室に入っていたのは60分ほどだった。YouTubeでは簡単に済んだという動画があったが、私も安直に考えていたが、予想外に本格的な手術だった。

輪状靱帯を切除したということは、腱鞘が癒着しやすい状態になったことを意味するので、これを防止するため、術後は母指の曲げ伸ばしをしっかり行うこと、との指導を受けた。
術後2~3時間して麻酔がとれてきた。これで母指伸展も正常になると思い込んでいたが、意外にも母指伸展可動域の改善はほとんど改善しなかった。ただし母指球の鈍痛はなくなった。
   
その翌日から、右手に包帯を巻きつつ、鍼灸治療業務を何とか行った。母指を動かす度に傷口に痛みを感じていたが、経過と共にその痛みも軽減した。術後4日目に術後チェックをうけたが経過良好とのこと。

 

 

 

 

4.術後経過

術後2週間経て、抜糸を行った。改めて自分で触診すると、傷痕深部にシコリがあり、健側に比べて隆起していることが判明した。熱感と腫脹があることを医師に報告すると、抗生物質を5日間分投与された。抜糸して4日目になった現在、やはり熱感が少々残存している。傷痕内部のシコリも依然として存在している。安静時痛はなくなったが、母指を動かす際、MP関節掌側の痛みを若干感じる。母指IP関節の可動域は手術直後よりも改善したのだが、術前の症状を10とすれば、7程度にはなった。大幅に改善したというわけではない。健側と同様の可動域まで改善するのは約3ヶ月後だったが、成書を読み返すと、これも想定内のことといえた。

 母指を伸展すると母指MP関節部が痛むのは、オペ痕部に硬く分厚い皮下組織ができてしまって、それが母指屈筋腱を圧迫するためかと思ったが、触診してみるとオペ痕部が痛むのではなく、オペ痕よりも3㎜ほどIP関節に近い点に強い圧痛を2点発見した。銀粒を持っていなかったので、とりあえず米粒を貼って2カ所の圧痛点にテープ固定してみると、その直後から動作時の鈍痛は軽減したのでびっくりした。これもMPSの一部ということなのか。術前症状を10として3程度に改善した。だが別の痛点が出現してくる。

バネ指手術の症例数が多いことで知られる古東整形外科の「バネ指の手術を受けられた方へ」を読むと、手術後はスッキリと改善しない例もあるが、6ヶ月~1年の経過で、徐々に腫れが引いて、違和感が消失するといった内容であった。輪状靱帯に局麻注射をしても直後に痛みは改善せず、1週間~10日くらい後から徐々に効いてくるという治療経過、手術後後遺症が消えるのは6ヶ月~1年かかることもあるといった術後経過。バネ指は他の疾患と比べて、いろいろユニークな点が多いらしい。

術後2ヶ月経って、普段かかっている内科医に、ついでにバネ指をみてもらった。するとこれは腫れではなく、線維化だという。線維化だとすると、この分厚い皮下組織はもう治らないかもしれないとも思った。しかし術後3ヶ月が経過した12月下旬になってみると、母指球の重苦しい痛みや、母指運動時痛は術前の8割以上消失しており、普段バネ指だったことを意識することもまれになった。厚い皮下組織も術直後に比べて、1/3ほどにまで縮小している。そして術後2年した頃には皮下組織の肥厚もなくなった。常々思っていることだが、現代医学書の内容は、事こまかに事実に一致していることに驚かされる。このこと一つとっても現代医学の信頼性につながる要因となるといえる。

 

 


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