現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

自動アルコールディスペンサーを購入

2022-12-24 | 雑件

当院では以前から手の消毒には、塩化ベンザルニコニウム10%水溶液の入ったプッシュ式の手掌消毒器を使ってきた。片手でレバーを押し、反対の手で消毒液を受けた後、両手を擦り合わせる方法。手をかざすと消毒液が噴霧する自動式に興味はあったが、30年前頃は約十万円と高価であり、形も大きいので購入をためらっていた。しかし昨今、新型コロナウィルスの流行にともない、大量生産しているためか、自動式の器械が数千円台で入手できるようになり、当院でも購入を検討することにした。


購入すべき自動アルコールハンドディスペンサーの条件


①現在使っているのは手動プッシュ式「ハンドサニタイザーS」で、百均のワイヤーカゴ(縦横とも9.7×9.7㎝)に入れ、壁に取り付けている。このカゴを引き続き使えること。
②なるべく安価であること。


以上の条件で選んだのが「TISOUアルコール消毒噴霧器」だった。ユーチューブ動画を見ても評価は悪くなかった。定価2,399円を1,580 円(消費税、送料込)で、アイホーム販売から購入した。2日後に製品到着、しかし電池を入れて作動させてみても、まったく反応しなかった。どうしたわけかと思い、器械の電池を接触させる金属パーツを見ると変に曲がっていて、これでは電池と接触不良になるわけだと思った。このクオリティーなので中華製は心配になる。ペンチでこのパーツの形を直し電源ボタンを押すと、今度は正常に作動した。

TISOUアルコール消毒噴霧器の直径は、「ハンドサニタイザーS」と同じだったので、以前の設置場所にきちんと納まった。本機は1回の噴霧量が「多」と「少」の2段階で、「少」にすると丁度良い量が出てくる。不良品ではあったが自分で修理することができたので、買って後悔しない製品であった。

 

百均のワイヤー性の容器(9.7×9.7㎝)
壁に取りつけて使用している。右上にある黒っぽいボトルは、カッサオイルで瘀血用と水滞用の2本。

 


「ハンドサニタイザーS」を使っていた。

 

「TISOUアルコール消毒噴霧器」を設置

 

手をかざし、噴霧させたところ

 


クルミ灸のための加工と試行錯誤 ver.1.3

2022-12-22 | 灸療法

眼を患っている患者が来院した。眼ということで鬼クルミを使ったクルミ灸についての話をした。すると次週、鬼クルミを1袋(50個くらい)持ってきて、私に分けていただけるとのことだった。

 

1.クルミの殻を割る 

クルミにはいくつかの品種がある。一般に市販されているのは西洋クルミ(ウオールナッツ)といい、大きく殻が薄く中身が大きい。しかし鬼クルミは日本固有のもので山野に自生するという。殻が非常に硬いのが特徴。殻を割らないことにはクルミ灸ができない。

ペンチで割ろうとしたがびくともしない。隙間にカッターを入れて割ろうとしたがダメで、のこぎりで分断しようと思っても刃痕さえ残せなかった。カナヅチで叩いてみても、勢い余ってあらぬ方向に跳んでいく。どうしたらよいのかネットで調べてみた。<一晩水に浸し、干し、煎る。すると殻に隙間がでいるので、マイナスドライバーでこじ開けるとよい>ということが書かれていた。そこで一晩水に浸し、天日干しにして丸一日乾かし、フライパンで煎ってみた。

①一晩水に浸し、陰干ししている最中。

②フライパンで煎る。しかしコンロには加熱防止の安全装置がついているので、ある程度煎ると火は消えてしまう事態.。消えてはつけるを数回繰り返した。

③フライパンから出した直後も、殻は固く閉じたまま。
しかし10分ほど経ち、自然に冷えたためか、どの殻も少々隙間ができていた。
④そこにマイナスドライバーを入れ、こじ開け、何とか殻を二つに分断できた。

⑤爪楊枝で実を掘り出し、薄皮を剥いで完成。それにしても鬼クルミの殻は分厚い。
実を味わうまでには量が少なすぎた。

 

2.くるみ灸の試行

どのような温度感なのか、まずは自分の左手三里に試行してみることにした。
クルミ殻の上にアラビアノリを塗り、直径2㎝ほどの球形にまとめた粗悪モグサを乗せ点火した。アラビアノリを塗ったのは、モグサが転がっては大変だと思ったため。
だが数十秒しても何の温感も得られず燃焼終了。2壮目は直径2.5㎝にして再度実施。わずかに温感を得られた程度に終わった。

そこで棒灸を1/8にカットしたもの(これは普段は箱灸で使ってい)を、クルミ灸の上に置いて点火してみた。すると、ぬるい風呂程度の温感は得られた。気持ち良いが、物足りなさを感じた。そもそも、クリミ灸に興味をもったのは、ドライアイの治療で、目やに状に固まったマイボーム腺を溶かすには、眼瞼を5分間以上40℃程度に温める必要があるとの記事を発見したことに始まった。もっと温度を高くするには、殻の薄い西洋クルミを使う方が良いかもしれない。

 

3.クルミ灸をあきらめ、蒸しタオル温罨法に

冒頭の方とは違う眼疾患の患者が来院した、主訴は顕著な視力低下、視野狭窄、夜盲。従来から上下の眼窩内刺針で置鍼30分実施していた。もっと効果的な治療をと考え、眼の温熱治療を併用しようと思った。ただしクルミ灸の温熱作用は弱く、本患者のような置鍼30分間も温めることはできない。

そこで、月並みな方法だが、蒸しタオルで温めることを思いついた置鍼は寸6#2の針を使っているので、瞼の上に蒸しタオルを置いても、鍼はしなやかに傾くので支障がなかった。とりあえず次のように行った。施術後、患者に印象を問うと、なかなか気持ち良かったようで、”使える方法”だと思った。

①タオルを適度に水に濡らし、滴れないように手で絞し、薄いビニール袋で包む。
②500W電子レンジで2分加熱。
③手で持てないほど熱くなったので、タオルを広げて十数秒放置、適温であることを確認後、患者の瞼の上にペーパータオルを敷き、その上を蒸しタオルで覆う。
④10分ほど様子をみたが、あまり温度は下がっていなかったので、さらに10分置鍼を継続。
⑤20分置くと蒸しタオルの温度の低下が目立ったので、500W電子レンジで1分加熱し、再度蒸しタオルを10分間実施。(合計30分間の置鍼)

 

4.蒸しタオルを加熱して温める際の妥当なパラメーターとは

しタオルをどの程度温めたらよいか、また放置した場合の冷え具合はどの程度かを勘で行ったが、それが妥当なのかを検証してみることにした。
蒸しタオルの温度は、タオル内に温度計を突っ込んで測定したので、実際に患者に加える温度は少し低くなり、タオルと瞼間にはペーパータオルを敷いているのでさらに温度は低く感じるだろう。

蒸しタオルを袋で包み、温度計を入れて温度を観察

 

タオルを水で濡らした直後の温度は15℃だった。これを500wレンジで2分間加熱すると72℃となった。これは直接手で持てないほどの温度である。高温すぎるので十数秒間広げるようにして冷まし、袋に入れてて温度変化を観察した。40℃以上の熱を保持できるのは、上表では15~20分となったが、実際に患者に加わる熱を考えれば15分程度だろう。今度はレンジで1分間加熱すると、驚くことに先ほどと同じ温度になった。
以上の結果から、今回試行した患者への蒸しタオル温熱の設定数値は、妥当だったことが判明した。

 

6.クルミ灸を実践している先生のやりかた

上記ブログを発表したところ、奮起の会常連でもある坂口綠氏が、自分はこのようにクルミをやっているという報告を頂戴したので掲載する。(本人の許可済) 
みどりはりきゅう 
https://calen358.blog.fc2.com/blog-entry-199.html

鬼クルミを使ってのクルミ灸は難しく。ペルシャクルミを使う方がよいらしい。

①鬼クルミと間違えてペルシャクルミを購入。ペルシャクルミはお菓子によく使われているもので、身は大きく殻は薄いです。
②剪定用ハサミをつかうと、簡単に分断できました。

③漢方薬局で打っている乾燥食用菊「菊花」を煎じます。この煎じ液にクルミ殻を2日以上漬け置き(または一緒に茹で)、くるみに黄色くなった煎じ液を浸透させておきます。
菊花の煎じ液は、飲用では肝虚証に作用し、眼精疲労に良いとのこと。

④菊花煎じ液(=菊花茶)から取り出し、濡れた状態のクルミの殻をまぶたの上に乗せ、その上に低級もぐさを乗せて火をつる。これでまぶたとくるみの間の空間に、蒸気が充満します。私は、自分でこのお灸をする時にうっすらと目を開けたりしますが、目の表面にスーッと清涼感を感じます。ただし菊花茶に数時間しか浸しておらず、くるみに液が十分浸透していない場合、灸で温めている最中にくるみにひびが入り、煙が目に染みることがあります。
※ただし緑内障の方は、眼圧が上がる場合があるので要注意。つけまつげは変質の恐れあり、コンタクトは温度に注意。

⑤このくるみ灸をとても気に入られている患者さんもいますが、治療法というより見た目が面白いので、インスタに上げたり、イベント向けでよくやりました。


                  

 

 

 

 

 


足冷の針灸治療理論とテクニック ver.1.1

2022-12-15 | 末梢循環器症状

 ネットを色々と見ていると、<寝るときの靴下はあり?なし?医師に聞く →「絶対良くない」「リスク大きい」>とする記事を見つけた。回答しているのはK医師で、「靴下を履き、強制的にあたたかくすると、体温が下がらないので安眠につながらない」と説明している。これを見てあきれた。とても医師の意見だとは思えない。これは冷え性と安眠を混同している意見であって、「冷え性の者が靴下をはいて寝ることは、冷え性の改善にはならないが、眠りにつきやすくする一つの策だ」というのが正しい。睡眠中、足が適温になったら無意識的に靴下を脱ぐだろう。このあたりのことを説明したい。

1.四肢温度と核心温度
  
恒温動物の深部温度(=核心 core 温度)は、内部  環境保持のため一定温度(ヒトでは37℃)に保たれている。深部温度とは内臓などの体幹深部と頭蓋骨内の温度である。これに対し、皮膚表層温度(=外殻温度)は易変動性で、通常は気温に比例する。(皮膚温が高くなりすぎると、発汗して冷却するが)

  
体幹深部で温められた血液は、血流を通して末梢を温めるが、四肢の体温は末梢に近いほど外気温に平行して下降する。これは限られた熱エネルギーを分配する中で、内臓活動機能に不可欠な核心温度を保持するための対策である。


   

2.機能的冷え症の病理機序
 
1)熱の産生不足

   
体幹部核心温度低下しそうになたら、身体の産生熱量を増加させようとする機序が働く。熱源は内臓(とくに肝臓熱)と骨格筋(ふるえ熱)であり、これらの代謝亢進のために、甲状腺刺激ホルモンや副腎髄質のカテコルアミン分泌が増加する。核心温を保つことができなければ死に直結する。

 
2)皮下動静脈吻合(AVA arterio-venous-anastomoses =グロムス機構)の役割

   
血液循環は、動脈→毛細血管→静脈という基本構造をもち、毛細血管では酸素や栄養素の受け渡しをする。これとは別に、末梢毛細血管を経由しないで、細動脈→細静脈へと、あるいは細動脈→細動脈へと血流がショートカットする部分が、唇や耳鼻、手指や足指(要するに洋服で覆われない部分)に存在する。このような部位を動静脈吻合とよぶ。真皮にある動静脈吻合の役割は余分な熱を逃がすことにある。

   
暑い日には、動静脈吻合を開いて、末梢の血流量を増やすことで、放熱量を増加させて核心温の上がり過ぎを防いている。寒い日には、動静脈吻合を閉じて、末梢血流量を減らすことで、熱の逃げるのを防ぎ、核心温を下がり過ぎないようにしているが、その代償が「手足の冷え」である。

 

上下肢末梢が冷えは、その部分の血流量低下していることを意味する。グロムスが開いた状態であり、小動脈から小静脈へと大部分の血流が流れるので、それより末梢への血流が少なくなっている。
確かに手足が冷たく不快だが、それにより核心温を保持するという合目的性がある。

グロムスを閉じた状態にすれば、小動脈→毛細血管→小静脈と血液が循環するので手足は冷えない。身体が十分熱エネルギーを産生できる余力があるなら、産生量を増やして核心温度を保ちながらも上下肢末梢も温かい状態にできるだろう。しかし産生できるエネルギーに余剰が内場合、グロムスを閉じようとしても、核心温度が低下してしまう以上、グロムススイッチは閉じることができない。ゆえに、上下四の冷えの改善目的で、を井穴刺絡したり、指間針刺激してグロムスを刺激しても、その刺激に反応できずず冷えは改善しないことになる。

このような場合の処置としては、室温を温めたり、暖かい食事を摂ることが先決で、針灸治療としては仙骨の箱灸や赤外線照射を行うことが必要になるだろう。

 

3.不眠と冷え性の関係
    
睡眠は第一義的には脳の加熱を防ぐことにあり、睡眠時には脳血流量が減るので深部温を下げることができる。その時の余剰の熱は手足か放散される。この熱が布団に伝わり、布団が暖かくなり、手足も温まる。身体が副交感神経優位体勢となって眠る体勢が整う。

   
足冷が強い者は、四肢から放熱できるほどの熱量が十分ない(四肢から放熱するなら、核心温度が下がり過ぎて内臓機能を維持できない)。こうした場合、靴下をはいて布団に入ると、下肢からの熱の放散も少なくてすみ。核心温度を下げ過ぎるというリスクが減る。

就寝中に脳内血流が減り、四肢から熱を放散できる情況になったら、無意識的に靴下を脱ぐだろう。すなわち靴下をはいて寝ることは、冷え性の治療にはならないが、睡眠促進にはなる。寒冷時、就寝前に風呂に入ることは、脳の加熱を促進させる行為なので、睡眠時には多くの余剰の熱を手足から放散するので、布団に入った瞬間からポカポカと手足が温かく、快適な睡眠が得られやすい。

 

3.冷え症の針灸治療

1)腰仙部の長時間温補(筆者の方法)

①腰仙部の赤外線照射(または箱灸)


治療室内は適温に保つ。伏臥位にて腰仙部を露出させ、赤外線照射(または箱灸)を実施する。加熱部以外はバスタオルで覆い熱を逃がさない工夫をする。深部までの加熱を行うため照射時間は、温和な加熱で20分またはそれ以上必要である。この考え方は、ローストビーフを芯まで上手に焼く要領ににている。肉の芯まで火を通すには、長時間の弱火がよい。短時間の強火では熱がるだけで、芯は温まらない。
この時重要なのは、足は直接温めないということである。腰仙を温めることにより、足部皮膚温を上昇させねばならない。換言すれば、足部皮膚温が正常になるまで、腰仙を温め続けるべきである。 
  
温罨法に熱湯で温めたコンニャクを20~30分仙骨部に貼り付けるというのは湿熱なので興味深いが、該当部位に置針ができなくなるので、針灸院で行う方法としては適切とはいえない。自宅療法としては好ましい。


②腰仙部の多壮灸(郡山七二「現代針灸治法録」)
「冷え症には、腰仙骨部の経穴を数カ所(たとえば、大腸兪や次髎)選び、多壮灸する。他の治療を行う暇があるならば、壮数を増やすことを考える」といった大胆な記載がある。追試してみたが、手間の割に効果が乏しい印象をもった。
 

2)動静脈吻合に働きかけるテクニック
   
動静脈吻合の開閉は、そこにある交感神経により支配されている。寒い日には末梢血管にまとわりつく交感神経は緊張して血管は細くなり、動静脈吻合は閉じるので、熱が漏れにくい。
意図的に閉じている動静脈吻合を開くことができれば、そこから末梢の血流がよくなり冷えも改善されるが、手関節部、指間部、指尖部などに刺針しても、大して手足の血流は改善しないという苦い事実がある。動静脈吻合への刺激の加えかたが妥当でないのかもしれない。
   
先日、針灸実技講習会<奮起の会>でご協力いただいている岡本雅典氏と話す機会があり、手足のグロムスを開放する手技療法についてご指導いただいた。患者の手指足指の背側から指間に術者の指を入れ、数回強く掌屈・底屈させるという方法で、手足の指間にある虫様筋・指間筋の伸張刺激になる。私も被験者としてやってもらったが、かなり痛かった。その程度強くやらないと効きかないらしい。


※指間の筋の構造と動静脈吻合のおさらい

指間には、背側・掌側骨間筋および虫様筋の2種類の筋がある。背側骨間筋は、指の外転(パーを出すように五指を広げる)に、掌側骨間筋は、指の内転(五指を中指に近づける)運動を行う。虫様筋は指の伸展運動に関係し、トランプを広げて持つ時のようにMP屈曲、IP伸展という形をつくる。通常筋は、骨と骨をつないでいるが、虫様筋は腱と腱をつないでいる。
以上の内容は難解だが重要ポイントは次のようである。深部に動脈弓があり、ここを基点に各指に小動脈が伸びている点が重要で、その枝分かれ部にグロムス機構(動静脈吻合、動々脈吻合)があって、血流方向を制御していることである。


細絡刺絡の臨床的意義

2022-12-11 | 古典概念の現代的解釈

1.細絡の病態生理
  
   

上の図は「せきや針灸院」HPに載っていたものだが、細絡について明快に示されており感心したものである。動脈→小動脈→毛細血管→小静脈→静脈と血液が巡行する際、毛細血管を流れる血流量が増えたり、毛細血管が狭くなっている部はあると毛細血管のバイパスが形成される。その血流量は一定以上に増加すると視認できるまで太くなる。細絡は局所静脈圧の上昇を意味するので、痛みを誘発する。この状況で、細絡刺絡をすれば静脈圧が減少し、治癒機転が働く。

 

2.バトソン Batson静脈叢(傍脊椎静脈叢)
 
細絡があれば刺絡することを考えるのだが、症状部に細絡があるとは限らない。たとえば井穴刺絡は、指先に症状があるわけでなく、四肢の血行を改善することがある。これはグロムス機構を考えることで理解できる。しかし腰痛に対する委中刺絡は、昔から知られている定番治療であるが、その治効理論は説明できていない。

しかしバトソン静脈叢を考えることで説明できるとする見解がある。(上馬場和夫「コロナを乗り越える温故知新の智恵」第12会医鍼薬地域連携研究会⑨ 2020.5.4)
バトソン静脈叢とは、椎体の周囲および脊柱管内に存在する傍脊椎静脈叢ネットワークのことで、これらは、体幹や四肢にある多くの静脈と交流している。弁構造を持たないので静脈血を貯留し、血流は遅く鬱滞しやすい。その流れる方向は腹腔や胸腔内圧の変化により変化する。

臓器組織が慢性炎症や線維化などで静脈がうっ血すると、バトソン静脈叢の当該レベルもうっ血が強くなり、皮静脈の鬱血(=細絡)として出現するという。当該レベルの背部から、細絡刺絡あるいは皮膚刺絡をすると、うっ血した臓器の静脈圧も軽減し、末梢循環が促進され、臓器の機能も改善するという機序が働くとされる。腰痛時の上仙穴 細絡からの刺絡、それに腰痛時の委中からの刺絡はバトソン静脈叢に作用したという仮説が生まれる。

 

現代医療でのバトソン静脈叢に対する注目理由は、癌の血行性転移に関与していると考えられている点にある。この静脈叢を介すると、静脈系のフィルターとなる肝や肺を通らずに直接骨組織に到達する。とくに骨盤内蔵器から、最近感染や悪性腫瘍の椎体への転移の経路となるからである。


ドライアイの原因と眼の温熱治療

2022-12-10 | 眼科症状

1.ドライアイの原因  

涙は涙腺でつくられ、排泄溝を通って眼球表面に流出する。眼精疲労を訴える者の6割はドライ
アイ状態とされる。この原因は、涙液減少型はマレ(代表疾患はシェーングレン症候群)で、大部分は、涙が蒸発しやすい涙液蒸散型だとされる。

※目がショボショボするとは?
「目が乾きやすい」という乾燥感が主症状で、これに異物感、目の痛み、まぶしさ、目の疲れなど様々な症状が合わさったもの。

 

2.涙液の三層構造

眼球表面は涙液膜で覆われるが、外側から内側に油層・水層・ムチン層という三層構造になっている。最も内側にあるムチン層は、水層を眼の表面にとどまらせる接着剤の役割をする。目やにの主成分はムチンである。

角膜と水層を密着させる役割があり、外層の油膜は、水層の蒸発を防ぐ役割がある。ドライアイで問題となるのは、油層減少により涙蒸発量が増加した結果である。油層は、眼瞼縁にあるマイボーム腺で作られるが、油の性状が変化すると固まりやすくなり、分泌量が減少する。これをマイボーム腺梗塞とよぶ。


2.ドライアイの治療

 
マイボーム腺の分泌を回復させることが目標。眼瞼マッサージは、油が固まっていると効果がない。目やに状に固まったマイボーム腺を溶かすには、眼瞼を5分間以上40℃程度に温める必要がある。顔全体ではなく、目周囲のみ温めたいと言う場合、赤外線や遠赤外線は向かず、マイクロウェーブそもそも目の照射に禁忌である。ポリ袋に包んだ蒸しタオルを瞼の上にあてる方法がポピュラーだが保温持続時間
が短くなってしまうのではないか。ホットアイマスクという製品(1000円~3000円)も市販している。ちなみに眼科で処方されるドライアイの点眼薬の主成分はヒアルロン酸である。


3.くるみ灸

東洋医学らしい治療としては、クルミ灸がある。クルミにはいくつかの種類があるが、殻が固くで厚い鬼クルミが適している。鬼グルミはわが国で自生しているクルミで、古くから食用とされてきた。味は良いのだが、殻が厚く固いので、専用のくるみ割り器具が必要になる。

鬼クルミを半分に割り、身を取り出す。鬼クルミの殻を、閉眼した瞼の上に置く。その上に小指頭大の粗悪モグサをのせ、点火する。クルミを少し濡らすとモグサが付きやすい。しかしクルミ灸は、被験者が少々顔を動かした場合、クルミも火のついた粗悪モグサも転がってしまうという大きな欠点がある。

中国では下写真のようなメガネ型の道具を使う者もいるらしい。メガネのレンズに相当する部分にクルミ殻を固定、その上には針金がとび出ていて、そこに棒灸欠片を串差しにして燃やすというもの。このスタイルであれば座位で治療もできる。見かけは不格好であるが。

 

このクルミ灸めがねには、進化形があって、モグサを取り付ける部分が金属メッシュのカゴになっている。これならば落下する危険性はない。アマゾンでも入手できる。

 

 

 

 


慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎に対する上星の長期施灸とマクロライド少量長期投与療法

2022-12-06 | 耳鼻咽喉科症状

1.上星・顖会への長期的透熱灸の効果

1)急性鼻炎の治療の耳鼻咽喉科治療は抗生物質投与がよく効くが、慢性化すると抗生物質を使うと改善するが中止すると元に戻るという情況を繰り返しているという現状がある。

2)一方、針灸治療では、鼻周り(挟鼻や攅竹など)への置鍼を行うとともに、前頭部の上星(前髪際を入ること1寸)や顖会前髪際を入ること2寸)に長期的に透熱灸をするのが定番化していると思っている。上記のツボはすべて三叉神経第1枝知覚支配だが、同じ三叉神経第1枝知覚支配の鼻粘膜に刺激を与え、それが交感神経を興奮させ、鼻甲介の充血を減らすので、鼻の通りをよくする。

3)鼻周りに灸をしないのは灸痕をつけたくないからで、前頭部は頭髪中にあるので施灸しても灸痕が目立たないという判断である。

4)急性鼻炎は耳鼻科で治療手段があるのであまり針灸に来院しないが、慢性症では相対的に針灸の価値が増してくる。その治療効果の秘密は長期施灸することにある。

5)半月~3ヶ月の反復刺施灸(自宅施灸)を与えることで良好な状態を長期間保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、しばらく症状は消失状態を保つことができる。このことは、慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎の治療として有用であることを示すものといえる。
例1:1週間、外来処置や薬物治療すれば→直接アレルギー反応が抑えられるので、その間は調子がいい。
例2:  2ヶ月、外来処置や薬物治療すれば→粘膜が正常化してゆくので、治療後もしばらくは調子がいい。
(医道の日本社 発表は医師だが氏名は失念)


2.マクロライド少量長期投与について
 
近年、3~6ヶ月間という長期間、抗生物質マクロライドを投与するという方法が考案され効果を上げることができるようになった。この方法は長期施灸とよく似た考なのが興味深い。マクロライド治効理由は、副鼻腔~気道の絨毛粘膜上皮の機能回復にあるとされ、これがそのまま上記の透熱灸治効の根拠になっているように思えた。
 
マクロライド系抗菌薬は、従来的な抗菌作用とは別に、免疫の調整や炎症を抑制する保護的作用のあることが発見された。現在は慢性副鼻腔炎に対する標準的な薬物療法として広く用いられるようになった。通常の抗生物質は長くても2週間程度しか連用しないが、この治療法では通常使用量の半分を、3~6月少量長期投与する。
 
本来、副鼻腔壁には絨毛があり、副鼻腔の中に侵入した病原体や異物を粘液とともに鼻腔に向けて動いて運び出す機能がある。この絨毛機能が障害され、慢性副鼻腔炎へと移行してしまう。以前は手術によってこの粘膜を完全に除去することを目的とした「副鼻腔根治手術」が治療の中心だったが、この方法により副鼻腔~気道の絨毛粘膜上皮の機能回復という作用があることが判明した。