AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

肩関節痛に対する肩髃から肩髎への透刺(柳谷素霊の方法)

2013-05-12 | 肩関節痛

針灸に来院する肩関節痛患者では、肩関節前面から外側部の三角筋部に痛みを訴える者が多い。その原因が三角筋前部線維の痛みによるもので、圧痛部に運動針するだけで改善する者もいるが、少なくとも主訴として肩関節痛を訴える者は、このような単純な治療で改善する例は少ない。

肩関節前面~外側部痛を訴える本格的(?)疾患としては、肩腱板症状、とくに棘上筋に続く腱板部分の問題であることが最も多いだろう。問題は、どこがピンポイントとしての障害部なのかという点と、そのポイントにどうやって針先をもっていくかという点であると思う。

 

1.カリエという危険区域

棘上筋につながる肩腱板部で、カリエは危険区域という概念を示している。その根拠は次の2つの理由による。

①棘上筋を栄養する肩甲上動脈と肩甲下動脈から、やや離れた部位であり、また上腕骨を栄養する前回旋動脈からもやや離れた部位でもあるので、虚血になりやすい。

②上腕外転の際に上腕骨大結節と肩峰間に圧迫されやすい部である。


2.危険区域への刺針法

棘上筋に連なる危険区域へ刺針する方法として、肩井穴から上腕骨頭に向けての深刺斜刺のことは既に本ブログで説明した。実際行ってみると、効果不十分なことも少なくなかった。この原因として、針先がこの危険地帯にまで入っていないことが考えられた。 

一般的に知られてるのは、巨骨を刺入点とし、棘上筋筋部分(腱板ではなく)にまで深刺直刺する方法である。これは棘上筋の筋トーヌスを弛めることで、肩腱板に加わる張力を減らす意義があると思っているが、筆者の考えた方法も、これと大差ないのかもしれないと思うこともあった。 

 

3.肩髃から肩髎への透刺

柳谷素霊は、講習会のデモンストレーションの患者役の中で、五十肩の者がいると喜んだというほど五十肩の鍼灸を得意としていたという。その治療法は文献によっても種々あるが、肩髃から肩髎の透刺(逆も可)(貫く必要はない)も行ったという(柳谷素霊「秘法一本鍼伝書」)
私は、その一文を読んだ瞬間、「ああそうか」と思った。これまで私は、肩髃にしても肩髎にしても肩関節包刺激という目的で肩関節腔内に向けるように刺入してたのだが、効果がないので使用休止していたのだった
。 

これを肩髃から肩髎の透刺することは、カリエの危険区域への刺激として妥当なのではないかと考えたからだ。肩髃穴の位置は、人により異なるが、ここでは上腕骨大結節を横断するように刺入する。 

肩腱板炎や肩腱板部分断裂と思われる患者に試してみると、肩井から斜視する方法、肩髃や肩髎から直刺する方法いずれのアプローチでも外転可動制限が是正しきれなかった患者に対し、効果あることを幾例も経験した。

 

4.天宗刺針

肩関節前面~外側部痛に対して、肩井斜刺や肩髃から肩髃透刺は、一時的に効果ある。すぐに元にもどってしまうのは、そこが痛みの発生源的でないからで、実は棘下筋の関連痛が原因となっていることが非常に多い(これに関しては、すでに報告済)。ツボでいう天宗だが、天宗付近の圧痛硬結部位(1点とは限らない)に針灸するとよい。この棘下筋の筋緊張は非常に頑固なので、針だけでなく、有痕灸でもしないと、すぐ元にもどる傾向がある。1~2回の施術だけでは持続的な効果が出ない。それは慢性疾患は、元に戻ろうとする性質があるからで、慢性的に筋緊張している状態を。筋緊張が緩んだ状態にしても、筋緊張いている元の状態にもどろうとするからである。何度も同様の刺激をして、初めて緩んだ状態が元の状態と認識できるようになる。