1.肉離れとは
肉離れとは、遠心性収縮による羽状筋の筋腱移行部損傷(筋腱の骨付着部断裂は筋断裂)をいう。遠心性収縮とは、筋自体は収縮しつつあるのに、体重負荷で筋線維は余儀なく伸張する状態である。
2.分類
1)1型:出血
筋腱移行部に出血所見のみが認められる。数日~2週でスポーツが可能となる。
2)2型:腱膜損傷型
筋腱移行部において筋線維が腱から引き離された状態。足をひきずって歩ける程度。復帰に1~3カ月を要する。
3)3型:筋腱の骨付着部の断裂
腱断裂と診断されることが多い。歩行困難。手術的治療を検討する。
3.病態生理
スポーツで筋に力が加わると肉離れが起こる。その瞬間に、非常に強い痛みと衝撃を自覚する。その時には筋繊維が裂けると同時に、周りの筋肉も萎縮し、傷口が拡大する。
数週間の安静を保っていると、損傷して欠落した部分に再生細胞が増殖して瘢痕組織が形成される。瘢痕組織ができた段階で、直ちに激しい運動をすると、瘢痕組織部分または瘢痕組織と正常筋組織の移行部(境目)が損傷することがある。
瘢痕組織は伸展も収縮もしないので、それ以外の筋線維部分で筋収縮の代償をせざるを得ないので運動能力は低下する。
ただし最低6ヶ月間、適切な負荷でのトレーニング(ストレッチ、軽い筋トレ)を続けることで、瘢痕組織は柔軟性は増し、他の筋線維も太さを増すので、肉離れ以前と同様の運動機能にまで回復できるという。
4.針灸治療
1型と2型の肉離れに針灸は適応があり、3型は不適応である。また1型は安静を保つことで早期(数日~2週間)に治癒するので、問題となるのは2型肉離れである。
受傷後直後は、これからできる瘢痕組織の狭小化である。受傷部周囲筋に刺針し、受傷ショ ックで短縮した筋の緊張緩和を図る。草野茜氏は、陥凹が触知できる場合、陥凹の両端にある筋線維の断端を、左右それぞれの手でつまんで互いに接触させるように加圧。加圧は断続的に5~6分間実施する。治療間隔は2~3日で、完治まで2~3回の治療(1~2週間)を要すると記している(草野茜:肉離れについての針灸治療症例報告、医道の日本H16.11)。その処置後にRISE処置を2~3日行う。
受傷後2~3週間が経過し、歩行時にも痛みがなくなったら、回復期としてリハ訓練を始めるが、その時の針灸の目標は、筋の伸縮力の改善であって、障害筋全体に刺針施灸して、血行促進を図る。
1.気虚に冷えが加わると陽虚になり、血虚に熱が加わると陰虚になる。これは中医学の基礎である。私は、この内容を、体幹内臓モデルとして蒸し器を使い、図式化しようと思った。蒸し器の原理は、自然法則にのっとったものである以上、今も昔も変わることはない。
2.気虚と陽虚
1)気虚
気虚とは、蒸し器の蒸気量不足状態である。この原因には、蒸し器を熱する火力不足の場合と、水量(=腎水量)過多の場合がある。
火力不足が原因であれば、臍下丹田の力を増すような施術をする。たとえば関元穴への補法を行う。
腎水量過多が原因では、そもそも腎水量は、脾の力の過剰により、飲食物から水分を抽出しすぎることは考えにくいので、現実的には、腎水をうまく排泄できない状況(腎の気化作用低下)で、腎水過多となるであろう。
治療は、腎の気化作用を増進する目的で、模式的には、兪募穴治療として、腎兪や京門への補法を行うことになる。
2)陽虚
陽虚とは、腎水の温度が十分に上がらず、気虚よりさらに蒸気量不足している状態である。この原因は、前述の気虚の原因と同一になるが、気虚より重症である。
3.血虚と陰虚
1)血虚
血虚とは現代医学でいう貧血と考えてよい。ただし厳密にいえば、貧血は血液中の赤血球数の減少だが、血虚とは血液量の不足をいう。
中医学では、食物を蒸すことで、脂溶成分と、水溶性分を分離し、脂成分を原料として脾の作用で血液を製造し、水溶成分は腎水中に滴り落ちることで後天の精となり、先天の精を養う目的で使われる。
製造する血が少なくなる原因には、脂質成分が十分であっても、脾の力が低下したため、血液製造能力が低下することが一因にある。
この状態を脾虚とよぶ。脾虚の鍼灸治療は、模式的にいえば、脾兪と中脘への補法であろう。
一方、火力不足で食物を十分に蒸せない場合には、食物から脂肪を分離できなくなるので、脾の力が十分であっても、血液製造量は低下する。この場合、腎水を十分に加熱できないので、蒸気量も不足し、気虚状態も合併することになる。この状態を気血両虚証をよぶ。気血両虚の鍼灸治療は、火力を強める目的で、臍下丹田を補う意味で、関元や腎兪に補法を行う。
2)陰虚
陰虚にも各種あるが、ここでは陰虚の代表である腎陰虚について述べる。腎陰虚とは、腎水不足のことをいう。
腎水不足となる一因は、脾から腎水タンクに流入する水が少なくなることである。少ない水を加熱すると、乾いた蒸気(=熱風)が舞い上がる結果となる。これを陰虚火旺とよぶ。一見すると熱症であるが、熱邪が原因でなく、水不足が真因としてある。現代医学でいう脱水状態であり、輸液を行う必要がある。中医学的には脾虚が原因なので、鍼灸治療例としては、脾兪や中脘の補法を行う。
火力過多の場合、腎水を沸騰させるので、発生する蒸気量が多くなり、その結果として腎水不足となる。これは激しい運動をした後などでみられる。現代医学での疾病としては、代謝亢進(甲状腺機能亢進症、まれに褐色細胞腫など)があげられる。鍼灸治療では、臍下丹田を瀉す意味で、関元や腎兪に瀉法を行う。
4.各病証への移行について
気虚と陽虚は、同じような原因で発症し、両者は重症度の違いにより、区別される。
これに対して、血虚と陰虚の原因は多様であって、「血虚に冷えが加わると陰虚になる」という見解には賛同できない。血虚から陰虚に移行するケース(上図の青矢印)はある。それは脾の運化作用の低下という部分で共通性はあるが、血虚は脂溶性分からの血液製造力が低下するのに対して、陰虚は飲食物から腎水に流入させるべき水が十分に取り出せないのが原因である。
火力不足では血虚になり、火力過多では陰虚になるので、病理機序としては正反対になる。
2.気虚と陽虚
1)気虚
気虚とは、蒸し器の蒸気量不足状態である。この原因には、蒸し器を熱する火力不足の場合と、水量(=腎水量)過多の場合がある。
火力不足が原因であれば、臍下丹田の力を増すような施術をする。たとえば関元穴への補法を行う。
腎水量過多が原因では、そもそも腎水量は、脾の力の過剰により、飲食物から水分を抽出しすぎることは考えにくいので、現実的には、腎水をうまく排泄できない状況(腎の気化作用低下)で、腎水過多となるであろう。
治療は、腎の気化作用を増進する目的で、模式的には、兪募穴治療として、腎兪や京門への補法を行うことになる。
2)陽虚
陽虚とは、腎水の温度が十分に上がらず、気虚よりさらに蒸気量不足している状態である。この原因は、前述の気虚の原因と同一になるが、気虚より重症である。
3.血虚と陰虚
1)血虚
血虚とは現代医学でいう貧血と考えてよい。ただし厳密にいえば、貧血は血液中の赤血球数の減少だが、血虚とは血液量の不足をいう。
中医学では、食物を蒸すことで、脂溶成分と、水溶性分を分離し、脂成分を原料として脾の作用で血液を製造し、水溶成分は腎水中に滴り落ちることで後天の精となり、先天の精を養う目的で使われる。
製造する血が少なくなる原因には、脂質成分が十分であっても、脾の力が低下したため、血液製造能力が低下することが一因にある。
この状態を脾虚とよぶ。脾虚の鍼灸治療は、模式的にいえば、脾兪と中脘への補法であろう。
一方、火力不足で食物を十分に蒸せない場合には、食物から脂肪を分離できなくなるので、脾の力が十分であっても、血液製造量は低下する。この場合、腎水を十分に加熱できないので、蒸気量も不足し、気虚状態も合併することになる。この状態を気血両虚証をよぶ。気血両虚の鍼灸治療は、火力を強める目的で、臍下丹田を補う意味で、関元や腎兪に補法を行う。
2)陰虚
陰虚にも各種あるが、ここでは陰虚の代表である腎陰虚について述べる。腎陰虚とは、腎水不足のことをいう。
腎水不足となる一因は、脾から腎水タンクに流入する水が少なくなることである。少ない水を加熱すると、乾いた蒸気(=熱風)が舞い上がる結果となる。これを陰虚火旺とよぶ。一見すると熱症であるが、熱邪が原因でなく、水不足が真因としてある。現代医学でいう脱水状態であり、輸液を行う必要がある。中医学的には脾虚が原因なので、鍼灸治療例としては、脾兪や中脘の補法を行う。
火力過多の場合、腎水を沸騰させるので、発生する蒸気量が多くなり、その結果として腎水不足となる。これは激しい運動をした後などでみられる。現代医学での疾病としては、代謝亢進(甲状腺機能亢進症、まれに褐色細胞腫など)があげられる。鍼灸治療では、臍下丹田を瀉す意味で、関元や腎兪に瀉法を行う。
4.各病証への移行について
気虚と陽虚は、同じような原因で発症し、両者は重症度の違いにより、区別される。
これに対して、血虚と陰虚の原因は多様であって、「血虚に冷えが加わると陰虚になる」という見解には賛同できない。血虚から陰虚に移行するケース(上図の青矢印)はある。それは脾の運化作用の低下という部分で共通性はあるが、血虚は脂溶性分からの血液製造力が低下するのに対して、陰虚は飲食物から腎水に流入させるべき水が十分に取り出せないのが原因である。
火力不足では血虚になり、火力過多では陰虚になるので、病理機序としては正反対になる。