東洋療法学校協会編教科書「經絡経穴概論」(旧版)の図は、木炭画で描かれており、微妙なところを、詳細に描かない妙な工夫をしている。私はこの編者らの苦労を知っているので、いちがいに批判できない。経穴の位置には諸説あるので、わが国の東洋療法学校協会編纂という立場をとる以上、反対意見の出ない表記となるのはやむをえない。ただし経穴を学習する者にとって、経穴位置が明確に図示されていないと勉強しづらいものになる。何の権限もない私は、自分の見解を自由に表明できる立場にある。この立場を利用し、「私はこのように考えていますよ」ということを諸先生方々の参考に供することにする。
数年前に私は、鍼灸学校で3年間において「經絡経穴概論」の講師をしたことがあったので、立場上教科書に準拠した解剖経穴図を制作した。この概要を部位別に、数回にわたって公開する。図は、コピーし利用されることを前提として、あえて容量を多く設定してある。ただし平成22年度から教科書も改訂版に変わったので、部分的に異なる点もあるかと思う。
1.股関節症に対する私の従来の治療法
股関節症は、股関節変形を基盤とした、股関節周囲筋の緊張による痛みである。いや痛みというよりは、股関節がギクシャクし、時に外殿部側面の深部に強いコリを自覚することが多い。
これまで私は、このたぐいの患者に対して次の施術を行い、良好な結果を得ていた。
1)側殿部の圧痛:側臥位にての中殿筋深刺や股関節裂隙深刺、5分間置針。
2)鼠径溝部の圧痛:大腿外旋、外転位(パトリックテスト時の肢位)にて、鼠径溝から大腿内旋筋群刺。5分間置針。
2.小殿筋深刺時の体位工夫大
多数の症例では上記施術で間に合うが、ときに小殿筋刺が必要な場合があることが分かってきた。
小殿筋の過緊張は、患者本人は体質的な一部と認識し、「股関節が硬い体質」と思い込んでいる者がいる。自分の足の爪が切れないという者がおり、確かに上体前屈動作が十分にできない。側殿部が非常に凝ってつらいと訴える者もいる。
解剖学的には中殿筋の深部にほぼ一致して小殿筋があるわけだが、側臥位にての中殿筋刺の深度をさらに深く刺針しても、独特の得られにくい。
そこで刺針体位の工夫だが、ベッドに後向き座らせ、次いで横座りにさせて、側殿部の圧痛を探ることが重要になる(横座りできない者は、正座でもよいが治療効果は劣る)。横座りの体位は、股関節に対して大腿骨が、外転・屈曲・外旋していると思う。この場合、中殿筋や小殿筋は、本来弛緩している筈だが、大腿骨頭が多少ずれるためか、あるいは上体を支えているためか、この姿勢にて上前腸骨棘から1~2横指仙骨に寄った部の圧痛をめがけて、やや下方(ベッド面方向)に直刺すると、深い処で強い筋緊張を感じ、患者は「つつらい処に当たった」といって喜ぶ。
変形性股関節症の者に対する、こうした施術は、しょせんは対症療法だが、治療効果は1週間~1ヶ月程度は持続するので、十分価値があると思う。
3.大腿直筋刺針の工夫
鼠径部が痛むという患者においては、鼠径部圧痛点の所在により、大腿内転筋群の痛みか、大腿直筋の痛みかを判断する。大腿内転筋群の圧痛に対しては、いわゆるパトリック肢位にして鼠径部の圧痛点に刺針する。
大腿直筋の痛みの場合、立位で大腿を持ち上げる際に痛むと訴えることが多いようだ。この場合には、踏み台を用意し、下図のように患側の脚を踏み台にのせ、鼠径部圧痛点に手技針すると効果的になる。
治療院のBGMについて、カネをかけるほど高音質になるのは当然だが、そうでなくともポリシーのあるものを目指そうと考えた。ここでは、そうしたハードとソフトを紹介する。
1.治療院の音響システムについて
治療室にはモノが多いので、なるべくコンパクトなマシンがよい。しかしミニコンポのような外観は派手で、音質が悪いものは避けたいということで、次のようになった。
1)アンプ:ケンウッドKA-S10→コンパクトで廉価だがユーザーの評価が高い。
2)スピーカー:ケンウッド OMUNI TOP7→昔中古で購入したスピーカー。無指向性なのがよい。
3)スピーカケーブル:カレナ社の4S6。→ネットで評判が良い。廉価。
4)CD駆動装置:パイオニアPDF-25A→25枚連続プレーが可能なCDチェンジャー
現在はほとんど使っていない。
5)CPM携帯プレーヤー:ipod touch→すぐに子供が持っていってしまうので、実際にはパソコンの音声出力端子をアンプにつないで音を出すことが多い。
分かる人には分かると思うが、少しはこだわりをもったマシンなのである。しかし患者・見学者とも、まったく関心がないようで、このオーディオが話題になった試しがない。(苦笑)
2.治療院の音楽ソフトについて
1年前まではツタヤで音楽CDをレンタルしてダビングし、それを上記のCD駆動装置で再生することが多かった。しかしBGM用として大量に音楽を揃えることは、大変な作業だった。
その頃、MP3という音楽圧縮方式のあることを知った。通常のCDに比べ、音質は若干劣化するものの、メモリーを約1/10に節約できるというメリットがある。この方式なしには、ipodも存在しなかった。
加えてMP3方式で、無料でかつ合法的にクラッシック音楽をダウンロードできる「クラッシック名曲サウンドライブラリー」という素晴らしいサイトを知った。当人がパソコンを使って本格的な演奏し、作曲家別に公開している。私はこの音楽を全曲聴いた上で、BGM用として不適当なものを除き、パソコンにダウンロードした。その局名リストは末尾に示していおいた。この作業には4~5日かかったが、楽しい時間であった。結局130曲、1010MBの容量となった。これを通常の音楽CDに換算すると、20枚分程度にはなる。1日8時間以上は過ごす治療室内においても、治療者自身が飽きることのない十分な量であると思う。
<クラッシック名曲タイトル その1>
アルビノーニ:弦楽とオルガンのためのアダージョ.
アルベニス:アストウリアス.
ウエーバー:魔弾の射手.
エルガー:愛のあいさつ.
カザルス演奏:鳥の歌<スペイン・カタロニア民謡>.
カッチーニ:アヴェ・マリア.
カニンニコフ:交響曲第1番ト短調第1楽章.
グノー:アヴェ・マリア.
グリンカ:「別れ」.
グリーグ:ソルベイグの歌.
グリーグ:ソルヴェイグの歌.
グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調.
グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調第1楽章.
グリーグ:ペールグント組曲第1組曲[朝].
グリーグ:ホルベルグ組曲第4曲アリア.
グリーンスリーブス幻想曲.
グルック:歌劇オルフェオとエウリディーチェから「メロディ」.
コゼック:ガボット.
コレッリ:ヴァイオリンソナタ「ラ・フォリア」.
サティ:ジムノペディ第一番.
サラサーテ:カルメン幻想曲より「ハバネラ」.
サラサーテ:ティゴイネルワイゼン.
サンサーンス:動物の謝肉祭より「水族館」.
シュトラウス:交響詩「ツアラトウストラはかく語りき」(冒頭).
シューベルト:アルペジオーネソナタイ短調第1楽章.
シューベルト:アルペジオーネソナタイ短調第2楽章.
シューベルト:ロムザンテ第2楽章.
シューベルト:即興の時第3番.
シューベルト:子守歌.
シューベルト:歌曲集「白鳥の歌」よりセレナーデ.
シューマン:トロイメライ.
シューマン:子供の情景第一曲、見知らぬ国の人々.
ショパン:エチュード作品10-3ホ長調「別れの曲」.
ショパン:ノクターン第19番ホ短調作品72-1.
ショパン:ノクターン第2番変ホ長調9-2.
ショパン:ノクターン第20番嬰ハ長調「遺作」.
ショパン:前奏曲第15番変ニ長調「雨だれ」.
ショパン:前奏曲第4番ホ短調.
ショパン:前奏曲第7番イ長調.
ショパン:幻想即興曲嬰ハ短調作品66.
スコット夫人:アニー・ローリー.
ストラウス2世:ピッチカートポルカ.
ストラウス2世:美しく青きドナウ.
スメタナ:連作交響詩「我が祖国」より第2曲「モルダウ」.
ソル:練習曲ロ短調作品35-22「月光」.
タレガ:村治佳織 アルハンブラの想い出.
タレガ:涙(ラ・グリマ).
ダウランド:涙のパバーヌ.
チャイコフスキー:バレエ音楽<白鳥の湖>から第2幕「四羽の白鳥の踊り」.
チャイコフスキー:バレエ音楽<白鳥の湖>第2幕「情景」.
チャイコフスキー:バレエ音楽<白鳥の湖>第1幕「ワルツ」.
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番第一楽章(序奏).
ドボルザーク:「スラブ舞曲」第2集作品72第2番.
ドボルザーク:ユーモレスク.
ドボルザーク:交響曲第9番ホ短調「新世界より」第2楽章.
ドボルザーク:歌曲集「ジプシーの歌」より”わが母の教え給いし歌”.
ニュートン:賛美歌アメージング・グレース.
バッハ:カンタータ第147番、コラール「主よ、人の望みの喜びよ」.
バッハ:チェンバロ協奏曲第5番ヘ短調第2楽章<アリオーソ>.
バッハ:トッカータとフーガ.
バッハ:フルートソナタ第2番変ホ長調第2楽章<シチリアーノ>.
バッハ:マタイ受難曲第39番「憐れみたまえ、わが神よ」.
バッハ:主よ人の望みの喜びよ.
バッハ:小フーガ.
バッハ:平均律クラビーア集第一巻第1曲プレリュードハ長調.
バッハ:弦楽組曲第3番ニ長調第2楽章「G線上のアリア」.
バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番ト長調<プレリュード>.
バッハ:管弦楽組曲第2番ロ短調<バディネリ>.
バッハ:羊は安らかに草を食み<狩りのカンタータ>.
ヴィターリ:シャコンヌト短調.
ヴィバルディ:バイオリン協奏曲四季より冬.
ヴェルディ:歌劇椿姫第1幕前奏曲.
瀧廉太郎:花.
ファイル数合計 = 73 個
<クラッシック名曲タイトル その2>
パッハルベル:カノンニ長調.
フォーレ:パバーヌ.
フォーレ:歌曲集<3つの歌>から「夢のあとに」.
フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」より第3曲”シシリエンヌ”.
フォーレ:組曲<ドリー>から第一曲子守歌.
ブラームス:「パガニーニの主題による変奏曲」第一巻.
ブラームス:5つの歌曲第4番「子守歌」.
ヘンデル:アラトリオ<メサイア>より「ハレルヤ・コーラス」.
ヘンデル:ハープシコード組曲第2番第4曲サラバンド.
ヘンデル:歌劇<クセルクス>からアリア「オンプラ・マイ・フ」.
ヘンデル:歌<リナルド>よりアリア「私を泣かせてください~涙流れるままに」.
ベートーベン:ト調のメヌエット.
ベートーベン:バイオリン協奏曲ニ長調第一楽章.
ベートーベン:ピアノソナタ第14番嬰ハ短調「月光」第一楽章.
ベートーベン:ピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」第3楽章.
ベートーベン:ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」第2楽章.
ベートーベン:交響曲第6番「田園」第1楽章.
ベートーベン:交響曲第6番「田園」第2楽章.
ベートーベン:交響曲第6番「田園」第3~第5楽章.
ボッケリーニ:弦楽五重奏曲ホ短調第3章「メヌエット」.
ボルムベスク:望郷のバラード.
ボロディン:弦楽四重奏曲第2番ニ長調第3楽章「ノクターン」.
ボンキエッリ:歌劇「ジョコンダ」より”時の踊り”.
マスネ:タイスの幻想曲.
マルチェッロ:オーボエ協奏曲ニ短調第2楽章アダージョ~ベニスの愛.
マルティーニ:愛の喜び.
ムソルグスキー:組曲<展覧会の鹽>から「プロムナード」.
メンデルスゾーン:歌の翼に-六つの歌曲-.
メンデルスゾーン:無言歌集「春の歌」.
メンデルスゾーン:<無言歌第2巻「ベネチアの舟歌第2」.
モンティ:チャルダッシュ.
モーツアルト:きらきら星変奏曲.
モーツアルト:アイネ・クライネ・ハナトムジークト長調第2楽章.
モーツアルト:アベ・ベルム・コルプス.
モーツアルト:クラリネット協奏曲イ長調第2楽章.
モーツアルト:ディベルティメント第17番ニ長調第3楽章メヌエット.
モーツアルト:ピアノソナタ第11番イ長調第3楽章「トルコ行進曲」.
モーツアルト:ピアノソナタ第8番イ短調第一楽章.
モーツアルト:ピアノ協奏曲第21番ハ長調第2楽章.
モーツアルト:レクイエムニ短調第8曲涙の日-ラクリモザ.
モーツアルト:交響曲40番ト短調第3楽章.
ラフマニノフ:ボーカリーズ作品34の14.
ラフ:<バイオリンとピアノのための6つの小品>から「カバティーナ」.
ラベル:ボレロ.
ラベル:亡き王女のためのパバーヌ.
ランゲ:<花の歌>作品39.
リスト:「パガニーニによる大練習曲」大3番”ラ・カンパネラ”.
リスト:<愛の夢>~3つの夜想曲~大3番変イ長調.
ルービンシュタイン:2つのメロディ第1番「ヘ調のメロディー」.
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア.
ロドリーゴ:アランフェス協奏曲第2章から.
ワルトトイフェル:スケーターズ・ワルツ.
ワーグナー:ジークフリート牧歌.
ワーグナー:歌劇<ローエングリン>より「婚礼の合唱」.
ワーグナー:歌劇<ローエングリン>第一幕への前奏曲.
ワーグナー:歌劇<ワルキューレ>第3楽章への前奏曲「ワルキューレの騎行」.
宮城道雄:春の海.
ファイル数合計 = 57 個
1.吸角の素材には、ガラス製とプラスチック製がある。ガラス製は落とすと割れる恐れはあるものの滅菌ができるので、業務用としてはガラス製を選択するほかない。
2.陰圧にするには、吸引ポンプ(手動、電動とも)方式と、熱で暖める方式(いわゆる中国式吸角)がある。吸引ポンプ式は、陰圧の程度を調節しやすいメリットはあるが、吸引弁の故障やガラスの破損が起こりやすく、凹凸があって洗浄にも難があるので、中国式の方が適している。
3.中国式吸角で、陰圧の程度のコントロールは、数時間の訓練により習得できる。火を使うので、注意が必要になる(患者の下着に穴をあけることがある)。
当院では大(口径が5㎝)、中(4㎝)、小(3.5㎝)の3種類を用意している。吸角部位で最も多いのは背部膀胱經上であり、これには口径5㎝の吸角を使うことが多い。四肢や肩甲上部などでは中小の吸角を使うことになる。
4.中国式吸角を陰圧にするには、吸角内に火を差しこんで吸角内の酸素を減らした後、直ちに身体に密着させる。吸角内の空気が冷えるにつれて陰圧になり、皮膚が隆起が始まる。皮膚密着のタイミングは初心者にとって案外難しく、一拍間が空くので十分な陰圧にすることができないことが多い。師匠は、「カッチンパ」のタイミングで取り付けるといい具合になると教えてくれた。
5.陰圧にするための火力の道具は長い間、悩みの種だった。簡単なのはチャッカマンの類を使用することで、コスト的にはガスの再充填可能なタイプが適しするものの、冬場は火力が弱くなるので使いづらい。
そこで、以前は消毒綿(私は50%イソプロパノールを使用)を、アイストング(氷をつまむU字の道具。100円ショップで購入)で持って点火するのだが、十分な火力を得ることは難しく、燃焼時間も短い。70%イソプロパノールでは十分な火力と燃焼時間となるのだが手持ちがない。
6.困ったあげく目をつけたのがコーヒー豆専門店で売っている燃料用アルコール(エチルアルコール63%、メチルアルコール37%の混合液。600ml840円)であった。
消毒綿を軽く絞ってアイストングでつまみ、スプレー容器に入れた燃料用アルコールを2~3回レバーで押し、消毒綿に吸わせて点火する。
この火力持続時間は、1分間以上になり、吸角8個を連続して付けても余裕がある。
1. 30年ほど前は、日常的に気管支喘息の針灸治療が行われていた。通院レベルでの気管支喘息は、針灸か効いた印象をもっているが、入院患者(肺性心)レベルになると、針灸はまず効果はなかった。それどころか何人かの入院患者で、喘息に加え肩凝りが強いというので、肩背部への刺激をやや強めにすると、その時は楽になったと喜ぶのだが、その晩に限って喘息発作が起こった。要するに、鍼灸の適応となる第1の条件は、軽症の気管支喘息ということである。
2.高岡松雄医師(故)は、著書『痛みの治療』(これは名著)の中で、気管支喘息患者発作時の治療として皮内針治療を実施した結果、同じ患者でも、効く場合と効かない場合のあることを経験し、「患者によっては、アレルゲンや感染によって発作が起こるのではなく頚肩部の筋のコリが発作の誘因になっている場合がある。コリを緩めることで発作が楽になることもある」と結論した。
要する鍼灸の有効となる第2の条件は、頸肩のコリの合併であって、これらのコリが喘息の増悪因子となっている場合である。鍼灸は、アレルギーの機序や感染源に働きかけることはできないのである。
3.なお気管支喘息と肩凝りの関係は、たまたま両者が合併するのではなく、互いに悪影響を与える関係のあるとが指摘されている。ベースとしての気管支喘息→呼吸運動の際の骨格筋の運動性変化→喘息発作、という流れである。呼吸筋に緊張があれば、これをトリガーとそて喘息発作を誘発することがある。
呼吸運動の際の骨格筋の運動性変化とは、腹式呼吸(横隔膜主体)から胸式呼吸(肋間筋主体)の呼吸筋運動の変化、気管支の炎症による体壁反射、咳嗽の際の横隔膜の疲労などである。
4.気管支喘息患者の症例
先日、久しぶりに気管支喘息の患者(42歳女性)をみる機会があった。もともと喘息持ちであるが、ステロイド吸入をせず、漢方薬治療のみで加療中であること。今回は重い荷物を運んだことが誘因となって咳と呼吸苦の発作が起こったとのこと。頸肩のコリが顕著なことである。本患者はアトピー性皮膚炎を合併しているので、アトピー性の気管支喘息だろうと推定した。要するにこの患者には針灸がよく効くことを予想した。
治療は、西條一止先生の述べるように、交感神経優位に導く目的で、臥位にて寸6#2針にて前胸部、上背部、後頸部の速刺速抜。次いで座位にて肩甲上部で肩井あたりの速刺速抜。さらに座位にて左右治喘穴への米粒大灸7壮である。夜間喘息発作が起きたら、項~上背部に熱いシャワーを短時間浴びるように指示した(これは効果あった)。
この治療を3日連続で行い、喘息自体はやや改善した。しかし患者の満足度は今一歩で、夫は本当に鍼灸は効いているのかと本人に聞く始末。そこで治療4回目から、伏臥位にて胸椎夾脊Th1~Th5速刺速抜の深刺(骨に当たるまで)を追加し、肩井~天柱あたりを強く深く持続押圧した。それ以降、咳と呼吸苦は治まっている。治療時間は指圧を含めて20分間程度。
この症例は、胸椎夾脊Th1~Th5速刺速抜が手応えを感じた。この鍼は、胸部脊髄神経後枝を刺激しているので、上背部のコリに有効なのは当然である。肺・気管支は、副交感神経優位な臓器なので、起立筋や大胸筋上のコリとして反応は現れにくい筈である。本症例は肩背部の強いコリを合併していたので。上述の夾脊刺針を行ったわけである。夾脊で深刺したのは胸部交感神経節に影響を与える狙いもある。