AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

痛み以外の膝症状への対処 ver.1.1

2023-12-25 | 膝痛

膝関節痛で最も多い症状は膝痛であるが、膝痛と同時に「膝に水が溜まっている」「膝が腫れるている」といった訴えも少なくない。それらの対処法について整理する。

1.関節の熱感・腫脹

1)病理   
関節の軟骨が摩耗し、軟骨の破片が関節液中を浮遊。それが関節滑膜を刺激して関節内に炎症を起こして熱感・腫脹を起こす。この反応で知覚神経を刺激すれば膝関節痛も起こる。  

2)針灸の是非と方法  
熱感が強い時、針灸を行うと炎症が悪化しやすい。今から1~2週間後に熱感が落ち着いた後に治療する旨を患者に伝達。 治療にはチクッとした灸熱が適するのであって、熱量を多量に与えるせんねん灸は不適。糸状灸~ゴマ大灸を腫脹しいるエリアに広範囲に5~6点施灸する。 自宅施灸するのがよいが、近年自宅施灸不可とする患者が多くなってしまった。


2.関節水腫

1)病理       
関節液(=関節滑液)は関節滑膜が血液を材料として製造し、関節の栄養と潤滑油として機能し関節滑膜から吸収され常に一定量を保持している。 しかし関節軟骨の摩耗スピードが速いと関節軟骨の辷りが悪くなり、その代償的に滑液分泌量がふやして滑りを維持しようとする。関節軟骨片も関節液中に浮遊し、これが関節包を刺激する。  


2)関節水腫の理学検査

①膝蓋跳動作テスト    
水腫があれば膝蓋骨は大腿骨から浮いている。膝蓋骨を叩くと、大腿骨にぶつかるので、コツコツと音がするものを(+)とする。本テスト(-)では水腫ではなく、関節包の肥厚を示唆する。膝関節に加わる刺激が強いので、それに対処するた関節包も厚くなり、膝関節を守ろうとしている。
関節に水がたまると関節液の粘性が少なくなり、潤滑油としての性能が低下するので、炎症が増大しやすい。

昔は変形性膝関節症で膝が大きく腫れている者が針灸に多数来院していたのだが、最近では膝痛は以前ほど来院せず、とりわけ膝水腫の来院は少なくなったことを感ずる。これは整形外科で行ったヒアルロン酸注射の効果といわざるを得ない。

  

②膝蓋骨圧迫テスト        
膝蓋骨を圧迫しながら、上下左右に動かした際、正常であればスムーズに動くのだが、関節面が変形してるいると膝蓋骨底の捻髪感(ザラツキ感)を感じる。これをもって大腿-膝蓋関節の変形(または膝蓋骨軟骨化症)を考える。 

  一部の成書には、「膝蓋骨圧迫テストでは痛みが出現する」と書かれている。実際にも本テストでは被験者は痛みを感じることも多い。ただし膝蓋-大腿関節には関節包がないので、痛みを発生する要因がない。この痛みの正体は大腿四頭筋の筋腱付着部症と考えられているので、鶴頂など膝蓋骨の大腿四頭筋停止部に刺針して有効である。  

3)関節水腫の治療

基本的にまずは安静・固定・圧迫・冷却・挙上、膝圧迫包帯(または膝圧迫サポーター)。整形で関節から関節液を抜いてもらうと、治療直後は良好だが、数日後には関節水腫状態に戻ってしまうことが多い。 結局炎症があるから、水が溜まるのであって、炎症を鎮めないことには水腫は治らない。軽度の関節水腫は針灸治療の対象となり、とくに水腫部を中心に直接灸することで次第に水は消退していくが、それには長期間かかる。 
代田文彦は、水腫には灸が有効なのだが長期間かかるので、まず整形で水を抜いてもらい、その直後から灸をすると、水が溜まりにくくなり、その方が直りが早いと語った。灸治療により水腫の再発を防ぐ。


メイン症候群と上殿皮神経痛の針灸治療の違い

2023-12-25 | 腰背痛

針灸臨床治療で常見疾患の一つにメイン症候群がある。本疾患は上部腰椎~胸腰腰椎移行部~上部腰椎の高さから出る脊髄神経後枝が、外下方に延び、腸骨陵を越えた上殿部に痛みを訴える疾患である。治療は、後枝の出処であるTh12~L2棘突起傍(背部一行)へ深刺することで効果的な針灸治療となる。メイン症候群については、本ブログでもいろいろと報告してきた。

さまざまな適応がある中殿筋刺針(2022.2/3)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/9de6364bec37c3367dcd2e8d83463b9c 

一方、上殿部の痛みを訴えるもので、Th12~L2脊髄神経後枝が腸骨陵を乗り越え、上殿皮神経と名前を変えたあたりで、皮下筋膜の絞扼を受けることで強い痛みを生じる場合があり、これを上殿皮神経痛とよぶ。主訴のみから2疾患を判別することは困難だが、触診や撮診で鑑別することは難しくない。今回、上殿皮神経痛の針灸治療を経験して、気づいたことがいろいろ出てきた。


1.症例報告(85才女性)

主訴:左上殿部の劇痛
5日前から強い左上殿痛が生じた。近くの整形2カ所に行くも、X線をとられて腰椎の老化を指摘され、鎮痛剤の処方をうけるという同じ診療を受けたのだが、痛みは軽減しなかった。

初回治療
S)知人に当院を紹介されて来院した。本日で発症5日目。痛みが激しい時もあれば痛みのない時もあるとのことで初回来院時は痛みがない状態だった。
O)左殿部に圧痛
A)中殿筋の緊張によるTP活性状態
P)側臥位で環跳あたりに2寸#4で数本手技+置鍼10分

第2診(3日後)
S)前回治療の翌日から右殿部が激しく痛み非常につらかった。
O)中殿筋に圧痛強く広範囲に存在
A)中殿筋緊張の悪化
P)側臥位で環跳あたりに2寸#4で10本以上の局所集中置鍼10分

第3診(前回治療から3日後)
S)右殿痛は痛む時と痛まない時がある状態は、初診前と変わらない。
O)中殿筋に圧痛(-)となった。腰宜穴の圧痛(+)、胸腰痛一行の圧痛(-)
A)上殿皮神経痛かも
P)側臥位で、腸骨陵縁を撮む揺り動かす手技(筋膜リリース目的)+腸骨陵縁あたりに2寸#4で5本水平刺、置鍼10分

第4診(前回治療から7日後)
S)この一週間痛みがなかった。
O)腰宜穴の圧痛(+)
 ※腰宜穴(奇穴)の位置:L4棘突起外方3寸。腸骨陵最高点のやや内側
A)上殿皮神経痛と確信
  本当に中殿筋に異常はないか、横座り位で中殿筋を押圧すると、きつい痛みが出現したので、この肢位で3寸#8で深刺追加。

P)前回と同治療。

 

2.症例を通じて学んだこと

1)上殿皮神経痛とメイン症候群の鑑別
    両疾患の知識があれば鑑別は容易だが、知らなければ病態把握は難しい。
 共通点は上殿部痛、違う処はTh12~L2一行に圧痛があるか否かである。

2)上殿皮痛と中殿筋緊張の病態の相違

上殿部部痛はよくみる症状である。通常は中殿筋は上殿神経支配で、上殿神経は近く成分をもたない運動神経なので、コリは現れても痛みは出ない。痛みが出るのは、ここにTPが活性化したからだと考察した。
この上殿神経は、仙骨神経叢の枝である。しかしこの部の皮膚は上殿皮神経は上部腰椎の脊髄神経後枝の枝なので、筋と皮膚の神経支配はまったく違う。これは以前から不思議に思っていた。
今回の症例では、上殿皮神経痛(撮痛陽性となる)だったが、押圧して中殿筋に圧痛はなかったのだが、横座り位で、中殿筋を過収縮状態にして押圧すると強い圧痛が現れたのだった。本症例に関する限り、中殿筋過緊張と上殿皮神経痛は同時にみられたのだった。

 

 

 

 

 

 


居髎と環跳の位置と臨床運用  ver.1.1

2023-12-19 | 経穴の意味

居髎や環跳は、文献により場所が相当違ってくるが、文献的にどちらに正統性があるかを問うよりも、針灸臨床での使い道という観点から整理した方が、実りあるものになるだろう。

1.居髎
 
居髎の「居」とは蹲踞(そんきょ)の「踞」と同じで、尻を踵の上にのせる肢位のこと。力士や剣道選手が対戦に望む際の基本姿勢になる。「髎」とは骨の隙間をいい、孔(貫通するあな)や穴(へこみ)の意味とは別である。要するに正座をした時にできる下腹と大腿間にできる隙間のこと。

本間祥白著『図解針灸実用経穴学』によれば、「居髎(胆)は上前腸骨棘の縫工筋付着部の後方、大腿筋膜張筋の付着部、圧して痛むところ」と記載されている。
 この居髎の解剖学的特徴は、鼠径靱帯下に大腿外側皮神経が通過する部であり、神経絞扼障害の好発部位になると思われる。      
 

(別説)居髎の位置は、大転子と上前腸骨棘を結んだ中点とする説もあって、この方が主流だろう。何といっても東洋療法学校協会教科書での居髎はこの位置。
この取穴では、中・小殿筋緊張緩和を治療目標としているようで、この使い方は納得できるものである。しかしながらこの位置に居髎をもっていくと、日本流環跳(後述)とだぶる結果となり、都合上が悪くなる。この部位は日本流環跳に譲ることにした。



 

2.環跳

環跳(胆) は、「環」は丸いことで股関節回転軸のこと。歩行時、とくに跳躍のような股関節を大きく可動する時に動くことを示している。この語源から、股関節裂隙~大腿骨頭あたりに穴位があることが予想できる。環跳の位置は大きくわけて日本式と中国式に分類できる。日本式は大転子の前方にとるのに対し、中国式は大転子の後方である。「困学灸法」では、側臥位で患側大腿を体幹にできるだけ近づける姿勢で取穴する旨が描かれている。
環跳では正座位すなわち股関節屈曲90°位で鼠径溝のつくる皺の外端を取穴するのに対し、環跳は股関節最大屈曲位で鼠径溝のつくる皺の外端を取穴するという違いがあると思われた。

1)日本式環跳

上前腸骨棘と大転子の頂点とを結ぶ線を3等分し、大転子の頂点から3分の1のところに取る。この部位は前述した居髎取穴の別法によく似ている。中・小殿筋刺針である。

中・小殿筋刺針は、単に側臥位で深刺するよりも、横座り位置で深刺行うと非常に効果的な刺針になる。それは硬く緊張した中・小殿筋が筋緊張真っ最中だからである。
 上図のような横座り位になると、重心が右になるのでこれに対抗するため上体を左にひねる。その結果、中・小殿筋に強い収縮が必要となる。その場合、中・小殿筋のコリをゆるめるには、横座り位にして刺針すると効果が高い。


2)中国式環跳


仙骨裂孔(督脈の腰兪)と大転子の頂点とを結ぶ線を3等分し、大転子の頂点から3分の1のところに取る。 

中国流環跳の取穴は、坐骨神経ブロック点とよく似ている。坐骨神経ブロック点は、側腹位にせしめ、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から直角に3㎝下った処にある。坐骨神経ブロック点から直刺深刺すると、梨状筋→坐骨神経と刺激できる。

3.まとめ

①居髎は上前腸骨棘の内縁で、縫工筋の上前腸骨棘起始部にとる。
その意義は、正座した際にできる鼠径溝外端で、大腿外側側神経の絞扼障害の改善。
②日本式環跳は、側臥位にして上前腸骨棘と大転子を線で線び、大転子寄りの1/3の部にとる。中・小殿筋緊張の改善を目的として刺針する。治療効果不足の場合、中小殿筋を強い収縮状態にすることになる横座り位で環跳から深刺すると治療効果が高まる。
③中国式環跳は、坐骨神経ブロック点とほぼ同じで、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から3㎝直角に下ったところにとる。梨状筋症候群や坐骨神経痛で用いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


脱毛症に関する最近の知見と針灸治療 ver.1.2

2023-12-14 | 皮膚科症状

現代医学の脱毛症に関する研究と治療は、この十数年間に長足の発展をとげた。病理機序がかなり明らかになったということは、馴染みのない医学単語が頻出することでもあり、鍼灸師も改めで勉強し直す必要性を感じる。効果のある新薬が出てきたことは、針灸治療する上での考察のヒントにもなるだろう。

脱毛症は、男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)と円形脱毛症が2大疾患になるが、現在では女性型脱毛症についても関心がもたれるようになった。針灸治療は円形脱毛症に効果のあることが判明しているので、本稿では、この2大疾患についてコンパクトに整理し、円形脱毛症は針灸治療についても言及する。(なおAGAは鍼灸適応症として認識されていない)

 


1.男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)

1)原因
 わが国で抜け毛や薄毛に悩む者は、1300万人といわれるが、その大半はAGA。男性ホルン分泌が原因。遺伝8割。
 
2)病態生理
   
①ヘアサイクルの短期化

毛は生えてきたら、ある一定期間はえ続け、やがて抜け落ちる。これを毛周期(ヘアサイクル)という。髪の毛の1本1本には独立したヘアサイクルが存在し、全体として混然一体となっている。AGAでは毛周期が短縮し、毛髪が十分太く長く育たないうちに成長期の初期段階で抜けてしまう。
一生涯に繰り返しできるヘアサイクルは約40回と決まっている。ヘアサイクル期間は、常者なら3~5年だが、AGAでは100日程度と極端に短くなるので、短期間にヘアサイクがカウントされ、規定の回数に達すると、以降は髪の毛は生えてこなくなる。
   
②悪玉テストステロンの生成
       
AGAには血液中の男性ホルモンのテストステロンが、毛乳頭にある5α還元酵素と結合し、DHT(ジヒドロテストステロン、通称悪玉テストステロン)を生成。

3)治療薬
   
①プロペシア内服
DHTには発毛抑制作用がある。DHT生成をブロックする治療薬がプペシア。AGA治療薬として日本の厚生省認可した唯一の薬。
  
②デュタステリド・フィナステリド内服
5α還元酵素を阻害することで DHTの合成を阻害。男性ホルモンの影響を弱くする作用。本来は前立腺肥大の薬として開発された。
  
③ミノキシジル塗布
毛包に作用しタンパク質の合成と細胞増殖を促す。休止期に入っている毛髪を成長期に移行させる薬。4〜6か月薬を継続すれば効果が実感できる。商品には育毛剤リアップなどがある。薬局などで購入できる手軽さがある。ミノキシジルには発毛効果はあるが、使用中止すと作用もなくなる。元々は高血圧薬として開発されたもの。男性型AGAとして効果が認められたが、後に女性用AGAにも効果があることが判明し適応が拡大された。


2.円形脱毛症  Alopecia areata
 
1)原因

ウイルスや細菌を排除するリンパ球が、毛根を「異物」と誤認し攻撃し、毛根が炎症を起す。毛の根元が細くなったり、途中で切断したりする。脱毛機序は、ヘアサイクルとは無関係。かつては精神的ストレスに由来するとされた。これはストレス→交感神経緊張→頭皮の血収縮→末梢の血流障害という病態生理を想定したものである。現在では以前ほど精神的要因重視されていない。

2)症状・所見

突然頭髪の一部が円形、楕円形に脱毛。健康部との境界は明確。毛髪を引っぱると簡単に抜ける。抜けた髪を観ると、根元ほど細い毛で、感嘆符(!)が特徴。
進行期:毛根を異物をみなしたリンパ球が集まり攻撃 →炎症が起こり脱毛する。
固定期:毛が抜けて止まる →自然に新たな毛が生えてくるか否かは予測困難
 
3)AGAと円形脱毛症の相違点

4)分類と予後  
    
単発型と多発型が多い。十人に一人は生涯に一度は経験する。
①単発型:10円玉ほどの脱毛が、1~数個できる。自然治癒が多いが再発しやすい
②多発型:単発型が融合した状態。単発型と同様、自然治癒が多いが、再発しやすい。
③汎発性:多発型を繰り返して全身の毛まで抜ける。治療的予後は不良。


 

 

※全頭型円形脱毛症の症例(32才、女性)

本患者は脱毛症だと訴えるものの見た感じでは頭髪は正常のように思えた。しかし自らカツラをとると、驚いたことに頭皮の3/5ほどに頭髪がなく、ところどころに髪が密集している状態。治療室にて灸点数カ所を刺激し鎮静作用のある体鍼を併用すること数ヶ月。目立った効果ないので、家庭用電気灸器を購入させ、毎日頭皮数十箇所に灸するよう指示した。それから頭皮の状態は急速に改善したとのことで治療終了。
本患者は1年後再来。編み物に熱中しすぎたせいか3ヶ月ほど前からまた髪が抜けてきた(左頭維のやや前方、2×3㎝の楕円)という訴えだった。カツラをとるように指示すると、これは地毛だということで非常にびっくりした。よくもここまで回復したものだ。


※多発型円形脱毛症の自験例(56才、男性)

針灸学校の非常勤教員をしていた一時期、学科主任と折り合いが悪く非常にストレスを感じた時があった。すると間もなく円形脱毛症を発症。毎日パラパラと頭髪が落ち続け、広汎な円形脱毛症となった。外見はどうでもよかったが、寒い時期だったので頭が寒いことを初体験した。
何も治療しないうちに髪は抜けにくくなり、春頃には頭皮が全体的に髪で隠れるようになった。明らかに精神的ストレスが原因と思われた症例だった。


5)円形脱毛症の現代医学的治療
  
①セファランチン服用

始まったばかりで小範囲しか脱毛していない場合に使用。本剤には抗アレギー作用、血流促進作用、末梢血管を拡張、末梢循環障害改善があり副作用が少ない。経過が長引くようなら脱毛部にステロイドを局所注射。
  
②局所免疫療法

広く脱毛して6ヶ月以上も続いている場合、本療法が適応になる。かぶれを起こす特殊な薬品(SADBE、DPCPなど)を脱毛部に塗って、弱いかぶれの皮膚炎を繰り返し起こさせる治療法。1~2週に1回実施。T細胞を毛根ではなく炎症部分に集めるのが狙い。有効率は60%以上。現在最も有効な円形脱毛症の治療法。平均3ヵ発毛が見られる。自費診療。
  
③振動圧刺激
    
最近の研究では、振動圧刺激が薄毛治療に効果があることが明らかになった(ヘアメデカルグループ・日本医科大学形成外科・株式会社アンファーの共同研究)。毛髪を生やそとするシグナルを出す毛乳頭細胞に、超音波でブルブル…と振動圧を与えたところ、無刺の場合と比較し、この細胞が約1.3倍細胞が活性化した旨。
    
もともと「マッサージで血行が良くなると髪にも栄養が行きわたって良い」といったモノのいい方は、何となくあったが、血行促進が発毛効果につながるいうエビデンスはなかった。今回の実験によって刺激による血行促進ではなく、刺激そのものが細胞に働きかけ、発毛に効果的だということがわかった。発毛剤によく含まれる成分ミノキシジルを細胞に投与しても、振動刺激と同じように1.3倍程度細胞が活性化し、振動との併用では平常時の1.5倍ほどに効果がアップすることが判明した。

 

3.円形脱毛症の針灸治療
   
1)脱毛部への施灸

現代医学の局所免疫療法と似たような考えに、脱毛頭皮部に対する施灸がある。脱毛部が直径1㎝以内の時はその中央に半米粒大灸3~5壮する。脱毛部が直径2㎝大のは脱毛面境界部を1㎝間隔で単刺し、半米粒大灸を中心あたりに2箇所行う。脱毛部が直径㎝以上の時は鍼は単刺を同様に行い、境界部に3~4箇所施灸する数か月後に治癒する。(木下晴都著「最新針灸治療学」)
   

ただし治療期間が長くなる。自宅施灸治療はどうしても続けるのか困難になる。このような場合、私はカツラ用 のクシ(ブラシ部分が金属でできており先端は丸くなっている。500~1000円程度) 頭皮を叩くよいアドバイスしている。梅花針や七星針では消毒に難があるため。

 

2)閻(えん)三針

1980年代、北京灯市口病院の中医師、閻世燮(エン・スーシェ)が考案した特殊な頭針療法。脱毛症は結局、自律神経の乱れから起こるとして、自律神経を調節する作用のある治療として考案された。有効率80%と大変な効果があると中国で評判になった。円形脱毛症に対する下記穴を梅花針、毫鍼等で刺激する。
この治療法は毎日のように針治療に通うことを原則としているが、日本では週一回の治療でなければ長期的な通院ができないという事情から、明治鍼灸大学と共同研究で、体鍼と併用する治療法を確立した。
     
灸頭針もよく行われるが、これにはちょっとした秘密がある。灸頭針の場合でも皮膚面に対して水平刺するが、皮膚から出た部から針を直角に折り曲げるのが秘密で、一見すると頭皮に直刺しているように見える。そして灸頭針を行うようにする。
   
① 生髪(しょうはつ):風府と風池をつなぐ線の中心
② 防老:百会の後ろ1寸:針尖を斜め前方に向けて鍼柄が患者の頭皮と平行に成るように皮膚に沿わせる。得気を確認すること。
③ 健脳:風池の下5分:鍼尖を下に向けて0.2寸(約3ミリ)刺入する。このツボは頭皮中にあり、ぴったりに刺入しなければ効果が薄い。


※信頼性の乏しかった、かつての中国発毛剤の報告

1980年代、我が国では中国製の「101」という発毛剤が一大ブームとなった。有効率が97.5%という触れ込みだが、背後に日本人の仕掛け人がおり、それに週刊誌が飛びついた結果だった。しかし使用者にカブレがおこるという事例が多々あり、ブームはあっという間に終わった。今になって振り返れば、カブレが起こることは局所免疫療法に類似したものがあるといえるかもしれない。

同じ類のもとして、以後も禁煙香(禁煙に効果あるとする薬草を嗅ぐ)や痩身に効果ありとする海草石鹸などが評判となったが、効果の有無は不明のまま、大衆に飽きられてブームは下火になった。中国からの医療ニュースは、とかく眉唾が多いので相手にしないことが一番である。 

 

4.女性型脱毛症の治療薬について

女性ホルモン「エストロゲン」が加齢によって減少し、 ホルモンバランスが乱れることによって起こる脱毛症。早い人では女性ホルモンが減少し始める30代半ばから抜け毛が増える。頭頂部と前頭部(髪の生え際)から薄毛が始まるのが特徴の男性のAGAとは異なり、髪が細く弱っていき、かつ全体的に薄くなる。
外用薬ではミノキシジル(休止期に入っている毛髪を成長期に移行させる塗布薬)が女性型ともに有効であることが海外の臨床研究で明らかになった。一方、女性型脱毛症には、男性ホルモンの影響を止める作用であるデュタステリド・フィナステリド内服は効果が認められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

 

 




古希祝いと第八期針灸奮起の会打ち上げ

2023-12-11 | 講習会・勉強会・懇親会

令和5年12月10日は第八期奮起の会の最終回「腎泌尿器の針灸治療」を行った。先月私は古希(70才)になったこともあって、奮起の会常連の方を中心に私を含めて十名の方が参加し、盛大にお祝いをしていださった。勉強会終了したのが当日午後8時。午後8時30分頃から国立市のイタリアンに席を用意してくれた。なかなか雰囲気のよいレストランで、和気あいあいで楽しむことができた。

来年からの奮起の会は、久しぶりに整形ぺイン領域に戻り、5~7回シリーズで考えている。また<奮起の会ベーシック>初心者向けの内容や、動画をアップすることも模索中。まだまだ引退できそうにない。

 

 


第8期針灸奮起の会「内科症状の現代針灸」無事終了しました。

2023-12-09 | 講習会・勉強会・懇親会

先回の令和5年春には、第7期針灸奮起の会「五官科の現代針灸」を実施しましたが、今回は令和5年10月1日~12月5日に第8回針灸奮起の会「内科症状の現代針灸」を開催します。首尾一貫した内科針灸学を学習できる希有の機会になります。皆様のご参加をお待ちしています。

 


鍼灸奮起の会マスコットキャラが誕生しました。
「放心状態で考える君」です。
人気者に育ってくれると嬉しいなぁ

 

内臓症状の現代針灸テキスト 序文より

よく現代針灸は、整形外科疾患には適しているが、内科などの治療には向かないとの声を耳にする。それは本当なのだろうか。自分に対する言い訳ではないだろうか。現代針灸を学習しようとする場合、優先順位として遭遇する機会の多い整形疾患の治療から学習を始めるのが普通なので、内科針灸の学習を後回しにするのはやむを得ない。とはいえ、あとになって内科針灸を学習するのかと思いきや、代表的な内科症状のいくつかに対する定番的治療点を教えるだけという状況では、とても内科針灸治療学とよべる内容ではない。針灸師があまり内科に興味を持てないもう一つの原因は、内科学は膨大な知識量なので、何から手をつけてよいのか分からないことが挙げられよう。指導する側にしても、内科疾患を実地で診た経験不足から、自信をもって教えることができないという葛藤があるだろう。
   私はかつて病院の東洋医学内科に5年半所属していたので、現代医療に関するある程度の現場的知識と経験を積むことができた。ただし現場での内科の針灸は、バックボーンがなかった。恩師の代田文彦先生にしても質問には答えて下さったが、講義形式で教わった記憶はない。治療法は各人のやり方に任せられてた。要するに内科の針灸臨床体系づくりができる段階にはなかった。
代田先生は鍼灸師とも医師なみに知識を獲得するのは何年くらいかかるものかという研修生の問いに、20年かかるだろうと回答した。だいたい玉川の鍼灸師は長くても10年程度だったのだ。内科針灸学みたいなものをつくることは夢物語だったのだろうか。内科針灸学の構想は、内科学教科書の延長上からは生まれない。オリジナルな内容を必要としている。その実現に向けて、結局は自分なりにテキストを何十回も書き直しを行い、少しずつ完成度を高めていく方法をとった。今回の内科講習会では、針灸師が内科知識を現代針灸臨床をどのように取り入れるべきか実際の治療方法を示した。

第1章 上・中腹部消化器症状[p21]     
 第1節    内臓体壁反射と体性神経反応 
 第2節    横隔神経と体壁反応 
 第3節 針灸院に来院する胃十二指腸疾患  
 第4節 胃症状の針灸治療 
 第5節 鼓腸と押圧治療  
 第6節 胆道疾患と針灸治療  

第2章 下腹部消化器症状[p21]

    第1節 下腹部臓器の体壁反射 
    第2節 針灸院での下腹部症状の診察手順  
    第3節   下痢  
    第4節 便秘  
    第5節 下痢・便秘の針灸治療 
    第6節 S状結腸~直腸の反射 
    第7節 痔疾  

第3章 胸部症状[p23]

    第1節 内臓の自律神経支配区分  
 第2節 狭心痛と針灸診療 
 第3節 胸壁性胸痛の針灸治療
    第4節    動悸・息切れ 
 第5節 咳嗽と喀痰の針灸治療 
    第6節 気管支喘息と針灸治療  

第4章 腎・泌尿器症状[p21]
 第1節    腎・泌尿器疾患と体壁反応 
    第2節    膀胱~尿道と睾丸の体壁反応  
 第3節 排尿痛と針灸治療 
 第4節 頻尿・尿失禁・排尿困難  
    第5節 夜尿症 
    第6節 勃起障害(ED)


1.スケジュール(残席数は、11月24日時点です)
            
第1回 10月1日(日)  上・中部消化器症状  終了しました。


 

第2回 10月15日(日) 下部消化器症状    終了しました。
第3回 11月5日(日) 胸部症状 終了しました。
第4回 12月10日 (日) 腎・泌尿器症状 終了しました。 

2.開催時間:午後5時30分~8時頃、実技助手として小野寺文人、岡本雅典の両名も参加します。
3.毎回の定員:12名(定員になり次第〆切)
4.持参品:筆記用具程度、   毎回オリジナルカラーテキストを進呈。針灸実技用の道具類は支給します。
5.講習会費:針灸有資格者7,000円、針灸学生6,000円 
6.会場:国立市中1丁目集会所

 

6.懇親会:講習会後、駅前の居酒屋にて。当日払実費(希望者のみ) 

7.受講お申し込み方法

参加御希望の方は、①参加希望会のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話 ⑤メールアドレスを、メールまたは電話でお伝えください。 折り返しご連絡を差し上げます。参加費は当日お支払いください。領収書発行します。 お申し込み〆切り日は各回とも開催前日午後3時頃までです。ただし参加者12名に達した場合、その時点で受け付け終了させていただきます。
 
あんご針灸院 似田 敦(にただあつし) 電話042(576)4418 
メールアドレスnitadakai825@jcom.zaq.ne.jp

 


ブログ「現代針灸治療」とテキスト「現代針灸臨床論」10年前との比較

2023-12-09 | 講習会・勉強会・懇親会

「現代医学的鍼灸」という気負ったタイトルでブログを開始したのは、2006年3月11日からであった。今から17年9ヶ月前で、私が53才の頃だった。すなわち現在、古希を迎えた。あとどれくらい頑張って続けられるかは分からない。当記事約1年ほど前からは、タイトルを現在の「現代針灸治療」とシンプルなものにした。

最初の頃は、「現代針灸臨床論」という鍼灸学生用テキストとしてすでに存在した内容を、ブログとして発表しただけだったので、とくに苦労を感じなかった。現在の発表ブログ数は473題だが、200題を越えた頃から、発表するネタがなくなっていった。そこから先は、考えたり調べたりして新たな内容を創作し、その内容をテキスト内容に付け加えるという作業を繰り返しつつ現在に至った。


「現代針灸臨床論」では授業時間の兼ね合いから、一つの章を基本的に20ページ未満とにし、プリント配布の関係から白黒印刷に対応する図しか載せられなかった。しかし現在、教員を辞めて以来、こうした制約はなくなり自分の思うようなテキストに変化してきた。

その結果、テキストページ数は、かつての1.5倍で、必要に応じて、カラー図も増えていった。ネット上で「現代針灸臨床論」(売価11,000円)このテキスト販売を開始してから、約十年が経過した。コンスタントに月平均4枚程度購入希望者が連絡してくるのを嬉しく思っている。このテキストは頻繁に内容が刷新されているが、平成29年4月4日時点で目次は次のようになっている。

 

5年前に平成29年4月4日で目次を記したが、本日は令和4年4月26日で、あれから5年が経過した。この5年間にテキストがどのように変化したのか比較してみた。新たな内容を加えつつ、ページ数増大を防ぐため削除した内容も少なくなかった。全体で10%程度ページ数が増加となった。ブログ発表数は418題で、5年前の316題と比べ102増えた。
5年前が黒字、現在が赤字。

 

現代針灸臨床論Ⅰ(H29.4.4  計297ページ)→(R4.4.26  計330ページ)
整形・ペインクリニック領域

第1章 頭痛(p19)(p23)
 1節 針灸不適応の頭痛の除外
 2節 針灸適応となる頭痛の概要
 3節 頭痛の鑑別診断
 4節 頭痛の針灸治療

第2章 頸腕痛(p35)(p31)
 1節 頸腕痛疾患の概要  
 2節 頸肩腕症状の鑑別診断  
 3節 頸肩腕痛の針灸治療
 4節 肩こり性 

第3章 肩関節痛(p22)(p29)
1節 肩関節の動きと作用筋
2節 肩関節疾患の概要
3節 肩関節痛の鑑別診断
4節 肩関節痛の針灸治療

第4章 腰痛(p24)(p26)
1節 腰痛疾患の概要

2節 腰痛の不適応の判定
3節 効かせるための針の技法  
4節 殿部痛

第5章 腰下肢痛(p31)(p39)
1節 腰神経叢症状
2節 仙骨神経叢症状と腰椎椎間板ヘルニア
3節 脊柱管狭窄症  
4節 股関節疾患

第6章 膝関節痛(p29)(p31)
1節 針灸不適応の膝痛疾患  
2節 膝関節痛の鑑別診断  
3節 針灸適応の膝関節痛の針灸診療
4節 変形性膝関節症の針灸診療

第7章 顔面症状(p22)(p25)
1節 顔面痛
2節 顔面神経麻痺   
3節 顔面部の痙攣

第8章 上肢部症状(p34)(p36)
1節 肘関節痛 
 2節  手関節痛・手指痛
 3節 上肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第9章 下肢部症状(p34)(p41)
1節 下肢の常見疾患 
2節 足部の常見疾患
3節  下肢の神経麻痺と神経絞扼障害

第10章 歯科症状(p21)(p24)
1節 歯の基礎知識
2節 歯科の主要疾患
3節 歯科領域の針灸治療
4節 口内炎
5節 顎関節症

第11章 治療効果を高める理論(p26)(p25)
1節  神経線維と運動制御
2節  MPS(筋膜性疼痛症候群)
3節『鍼治新書』の要点
               


現代針灸臨床論Ⅱ(H29.3.24 計356ページ)→(R4.4.26 計393ページ)

内科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・産婦人科・皮膚科他 領域 
 
第1章 上中腹部消化器症状(p36) ( p39)

1節 腹痛の代表疾患
2節 針灸院における診察手順
3節 内臓体壁反射と針灸治療パターン
4節 横隔神経と体壁反応
5節 胃疾患と針灸治療
6節 肝炎患者の扱いと慢性肝炎の針灸治療
7節 胆道疾患と針灸治療
8節 膵炎と針灸治療        

第2章 下腹部消化器症状(p27)( p31)

1節 下腹痛と体壁反応  
2節 針灸院での下腹診察と針灸治療
3節 下痢
4節  便秘
5節 下痢・便秘の針灸治療
6節 虫垂炎と針灸治療
7節 痔疾と針灸治療         

第3章 鼻科・咽喉科症状  (p30)  (p33)
1節 鼻の疾患

2節  咽頭の疾患
3節 喉頭の疾患
4節 くしゃみ・しゃっくり
5節 かぜ症候群

第4章 胸部症状(p24)( p30)

1節 胸痛の針灸診療
2節 動悸・息切れ
3節 咳嗽・喀痰の針灸治療
4節 気管支喘息の針灸診療     

第5章 末梢循環器症状(p32)( p33)

1節 冷え症

2節 ほてり・のぼせ
3節 末梢動脈閉塞性疾患
4節 メタボリックシンドローム
5節 低血圧症


第6章 精神症状と全身症状( p37)(p43)

1節 不眠症
2節 疲労倦怠および貧血
3節 不定愁訴症候群・神経症・更年期障害
4節 肥満 

第7章 腎・泌尿・生殖器症状(p31) ( p35)

1節 腎・泌尿器と体壁反応  
2節 主な腎疾患  
3節 疼痛を生ずる尿路疾患
4節 頻尿・尿失禁・排尿困難
5節 夜尿症
6節 ED          

第8章 産婦人科症状( p29)(p31)

1節 性周期とホルモン
2節 婦人科の主要疾患   
3節 婦人科疾患の体表反応と針灸治療
4節 月経異常  
5節 月経随伴症状と針灸治療  
6節 不妊症 
7節 産科の主要疾患
8節 乳房症状             

第9章 眼症状(p31)(p37)

1節 眼の構造と機能 
2節  代表的な眼症状と鑑別診断
3節 代表的な眼科疾患
4節 全身疾患の一部としての眼科症状
5節 眼科の針灸治療            

第10章 耳科症状( p37)(  p39)

1節 耳の構造と機能
2節  難聴・耳鳴の診察

3節 めまいの診察
4節  中耳炎と針灸治療
5節  耳科疾患の概要
6節 難聴・耳鳴の針灸治療
7節 めまいの針灸治療    

第11章 皮膚科症状(p23)(p25)

1節 皮膚腫瘤
2節 アトピー性皮膚炎

3節 毛髪の異常

第12章 その他の主要疾患( p19)( p20)

1節  関節リウマチ
2節 脳血管障害 
3節 パーキンソン病
  巻末資料:体性神経デルマトーム図    

 

 


肋間神経痛の針灸治療 ver.3.2

2023-12-04 | 胸部症状

1.肋間神経痛の原因

特発性は比較的若い女性に多く、左側の第5~第9肋間領域に多い。成書には、特発性は少なく大部分は症候性であると記されているものが多いが、針灸に来院する患者の大部分は特発性であり、帯状疱疹による肋間神経痛も来院する。


2.肋間神経の走行と神経支配

①第1~第6肋間神経

肋間を胸骨縁に向かって走行し、前胸の肋骨に相当する部の肋間部の筋運動と、深部知覚を支配する。その皮枝は前胸壁皮膚知覚を支配する。皮枝には外側皮枝の外側枝と内側枝、皮枝の外側枝と内側枝がある。
②第7~第12肋間神経
途中までは肋間部を走行するが、腋窩線あたりから内腹斜筋と腹横筋の間を走行し、腹白線に至る。腹壁筋の運動と深部知覚を支配する。その皮枝は鼡径部を除く腹壁の知覚を支配する。要するに腹部の大半は肋間神経支配になる。
 


3.旧来の針灸治療法

   
特発性(原因不明)の肋間神経痛は、これまで神経の刺激によるものと考えられていた。そして神経が深層から表層に出る部が治療点だとされていることから、脊柱点・外側点(側胸点)・前胸点を取穴するのが定石だった。まあこの治療点を刺激しても大した効果は得られず、ゆっくりと改善するのが常だった。これでは自然治癒なのか鍼灸の効果なのか判然とせず、悔いの残る治療となることも多々あった。
  
①脊柱点:脊柱外方3㎝の処。胸神経後枝が表層に出る部。
②側胸点(外側点):前腋窩線上。前枝の外側皮枝が表層に出る部。
③前胸点(胸骨点):胸骨外方3㎝。前枝の前皮枝が表層に出る部。
第6肋間神経以下は腹部肋間神経痛として現れ、前胸点に相当する圧痛点は腹直筋外縁に出現し、「上腹点」と称する。

実際にはある範囲全体がまんべんなく痛むようで、特定の圧痛点を見いだすのは困難であることが多い。教わったことと違っている事実を知り愕然とした

 

 

 

 

4.特発性肋間神経痛の新しい方法

近年、特発性肋間神経痛は胸椎の椎間関節や肋椎関節の機能異常や炎症によるものだと認識されるようになった。椎間関節は脊髄神経後枝支配なので、問題となる関節は肋椎関節と胸椎部の回旋筋群系(後枝支配)であるが、肋椎関節の関節症が真因だとしても、結局は回旋筋群系のトリガーが活性化して肋間神経(=胸部脊髄神経前枝)痛を起こすことになる。
胸椎背面の筋構造は次の通りである。
   
1)背部一行の最浅層に脊柱起立筋の棘突起側の筋として棘筋がある。棘筋は頸椎~胸椎に存在する。
2)棘筋の下層は回旋筋群系で、椎体の横突起と棘突起を結ぶことから、横突棘筋ともばれる。横突棘筋は、浅層から深層にかけて順に、半棘筋、多裂筋、長(短)回旋筋になり、どれも脊髄神経後枝支配。胸椎は左右の回旋性に富むので、長(短)回旋筋が発達している。
3)横突棘筋の語呂:浅層から深層に向けて、は(半棘筋)だ(多裂筋)か(長短の回旋筋)

 

上図で、脊柱起立筋(棘筋、最長筋、腸肋骨筋)は肋間神経痛にはあまり関係がない。棘筋の深層にある回旋系筋が関係する。胸部回旋筋群は、浅層から深層に半棘筋、多裂筋、長短の回旋筋になる。とれもこれらの回旋筋の筋膜癒着が、おそらく肋間神経痛に関与している。

回旋筋のオリジナル語呂:浅層から深層方向に、は(半棘)だ(多裂)か(回旋)

5.肋間神経痛の針灸治療
 
症状部に応じた短背筋群に対して刺針する。座位で棘突起外方1寸(1.5 ~2㎝)から2~3㎝深刺して緊張して硬くなっている回旋筋々膜まで針先を入れる。最深部の短背筋群の硬結に対して、細かな雀啄手技を行い、症状のある肋間神経痛部に響かせる。

上図は、遺体解剖から描いたもので、横突棘筋に刺入する。横突棘筋とは、半棘筋、多裂筋、長短の回旋筋の総称で、横突起とその上方の棘突起を結んでいることから、この名称がつけられた。
どれも小さな筋なので、この3筋のどれに刺入すべきかは判断きない。2~3㎝刺入して、硬い筋膜に到達したら、それを緩めるためこまかな上下動の手技針をしたり置針する。


なお第7~第12肋間神経は、横隔膜辺縁を知覚支配しているので、棘突起外方1寸から深刺は、刺針刺激が肋間神経に沿って側面~前側に響くというより、横隔膜中へ響くように感ずる。
これが柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」の五臓六腑の膈兪針と脾兪針の原理だと思われた。

 

6.特発性肋間神経痛に対する傍神経刺について

肋間神経痛の治療は、反応ある胸椎(第5~9肋間が多い)に対応する肋横突関節および関節周囲の肋間筋に対する施術を行う。この治療法は、木下晴都氏の創案した「肋間神経痛に対する傍神経刺」そのものである。(木下晴都:肋間神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究、日鍼灸誌、29巻1号、昭55.2.15)

①2寸#5針を使用
②症状にある胸椎棘突起から外方2横指(3㎝)を刺入点とする。
③10°内方にむけて直刺4㎝。この時、気胸には十分注意する。
④5秒留めて静かに抜針  
⑤最初の2~3回は毎日、その後は隔日、または1週間に2回程度の施術とした。
⑥102例の肋間神経痛患者に対して傍神経刺をおこなったところ、91%が優、6%が良、3%が不変、悪化例はなかった。うち優の結果を得た93例をみると、発症1~7日の52例では平均2.9回治療。8~15日の18例では4.6回、16~30日の12例では7.9回、3ヶ月以上経過した4例では11.5回だった。

 

上記の報告は非常に内容が充実していて、刺針方法は今回の私が説明しているものに似ている。ただし上図「肋間神経痛の傍神経刺」は間違いがあるので、これを指摘しておきたい。
これは椎体の外縁を通り抜け、肋骨間をすりぬけるように刺入している。針は外肋間筋にまで刺入することになっているが、これは肋間神経に影響を与えることを目的としているからで、刺針深度も4㎝と深い。外肋間筋のすぐ深部には肺実質があるから気胸事故も起きるかもしれない。この図は肋骨や胸椎横突起が描かれていないので、その危険性が分かりにくくなっている。

7.横突棘筋を刺激するとなぜ肋間神経痛が生じるのか

今回私が説明しているのは、横突棘筋(脊髄神経後枝支配)の癒着を緩めることを目的とした刺針なので、木下の考えとは異なるものである。木下晴都の活躍した時代は、MPSの考え方が存在しなかったのでやむを得ないことであるが、筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会会長の木村裕明医師は、根症状の発痛源の多くは、ギザギザ底部(=椎間関節)のfasciaの重積のようだという見解をした。「L5の根症状がある場合は、大抵L5/S1facetの上か下のギザ ギザの底部にfasciaの重積が見られる。そこに圧痛が出る。上下の椎間関節を結ぶ、ギザギザの底部の fasciaに針をもっていき、リリースすると下肢に関連痛が出る。出ない場合は、ちょっと針先を外側にずらすとよい。そこに造影剤を入れると、たいてい神経根に沿って広がる」と記載されている。この内容を本態性肋間神経痛にあてはめると、胸椎椎間関節の横突棘筋あたりに筋膜の癒着がみられ、そこに針をもっていき、この癒着を剥がすようにすると肋間神経に沿う痛みが出ると表現できるだろう。

バージャーは、脊椎の関節包を刺激すると、刺激部とはことなる部位に痛みが生じることを実験的に証明した。下図では、胸椎椎間関節の関節包を刺激すると、肋間神経に痛みが放散している。また木村の腰椎椎間関節部あたりの筋の癒着は、坐骨神経痛様の下肢症状を示すという主張にも合致している。

結局胸椎部の後枝支配である横突棘筋の筋膜が癒着すると、肋間神経痛様の放散痛が生じるという内容になる。肋間神経は混合性神経で神経痛を起こすこともあれば内・外肋間筋の筋緊張をもたらすこともある。横突棘筋のトリガーが活性化した結果、内・外肋間筋の筋緊張を生じ、これを患者は痛みとして認識するのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


肛門奥の痛みに肛門挙筋刺針が有効だった症例の考察 ver.1.5

2023-12-02 | 腹部症状

2022.10.4発表ブログ

近、肛門奥の痛みを訴える患者(51才、男)に対し、治療1回目から大幅に鎮痛できた経験をした。本患者は、10年来、肛門奥の鈍痛でとくに小便時に肛門の違和感を感じる。右8左2の割合で痛むとのこと。これまで色々な医療施設を受診したが、症状の改善はなかった。その中で最も効果あった治療は、直腸へ局麻注射で数字間の鎮痛を得た。私のブログを見て自ら内閉鎖筋刺針を希望してきた。そこで内閉鎖筋刺針を行い、症状軽減した。ただし詳しく問診すると、肛門奥の痛みは鎮痛できたが、肛門表面の痛みは改善していないとのことだった。肛門奥の痛みは肛門挙筋の筋緊張によるもので,肛門挙筋刺針で改善したが、肛門表面の痛みはまた別の種類(外肛門括約筋もしくは陰部神経の痛み)ということだろうか。(内肛門括約筋は体性神経支配ではないので痛みを感じない)

これまで肛門奥の痛みは何例も治療にあたってきたが、効果が出せず色々な方法を試していたが、やっと結果が出た。そこでこれまでも書いてきたことではあるが、肛門奥の痛みについて整理してみたい。


1.肛門奥の痛みについて

これまで肛門奥の痛みを、慢性前立腺炎だろうと判断し、それには陰部神経刺針という方式で行ってきた。しかし慢性前立腺炎だという診断は不確かなものである。病態はあまり解明されておらず、非細菌性で、 <前立腺に由来すると考えられる頻尿、排尿痛、排尿時不快感、残尿感、下腹部~会陰部~鼡径部の不快感など多彩な訴え>といった訴えを慢性前立腺炎の類だろうとしているらしい。
 
一方、特発性肛門痛といった病名のあることも知った。それは「排便とは無関係に突然肛門が痛くなる。長く座っていると肛門が痛くなる」といった訴えがあるも、肛門診察では明確な所見は認めないというもので、治療に決め手を欠くという。本症の原因として、肛門挙筋の筋肉の痙攣が考えられているという。これをとくに肛門挙筋症候群というらしい。なお肛門挙筋は体性神経である陰部神経支配。



2.陰部神経刺針は仙棘靭帯を目標にしているのか
 
陰部神経刺針として陰部神経刺針点から深刺して針先を陰部神経に命中させ、肛門、肛門奥、性器などに響かせる方法が代表である。(陰部神経刺針の方法について本ブログに紹介済)。この方法が効果あるのは、梨状筋症候群のトリガー活性で坐骨神経痛様症状を生ずるのと同じように、陰部神経が縦走する仙棘靭帯を目標に刺針しているのではないかと考えるに至った。実技的にも陰部神経刺針と仙棘靭帯刺針の技法はほぼ同一になる。




3.陰部神経に影響を与える筋・靭帯には、前術の仙棘靭帯以外に、仙結節靭帯・内閉鎖筋・肛門挙筋がある。

1)仙結節靭帯と内閉鎖筋
 
骨盤下方の陰部神経は、内閉鎖筋と仙結節靭帯にサンドイッチされて走行している。
仙結節靭帯に緊張があれば、坐骨結節の内上方5㎝あたりに圧痛が出現するので、これが治療点となる。
内閉鎖筋は深いので殿部からは触知できない。①仰臥位で膝を立てさせる、②術者は坐骨結節を確認し、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結の触知に努める。触知できれは、硬結目指して3寸8番針で5㎝ほど刺入する。

これで触知できない場合、患側大腿を高く挙上させ載石位をとらせ、同時に膝裏に術者の肘を入れて股関節屈曲姿勢を保持。パンツを下の方にずらすが、誤解を避ける意味で、肛門や性器を露出させないこと。トランクス型のパンツではパンツを下ろさず、裾のから指を潜らせ、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結を触知する。触知できれは、3寸8番針で5㎝ほど刺入する。アルコック管・内閉鎖筋方向に水平刺する。誤って直刺すると坐骨神経に影響を与え下肢に響きを与えてしまう。

上述の砕石位にさせて内閉鎖筋刺針を行うことは、患者の下肢の体重を術者の肘で押しつけている訳で、術者側の力を結構必要とする。力を入れた状態で内閉鎖筋の圧痛硬結を探り、刺針することは大変体力を使う。そこで私は、以下の肢位をすることを思いついた。以来、ずいぶんやりやすくなった。
なお刺針方向は仙骨に沿うように斜刺する。直刺した場合、大腿後側に響くが後大腿皮神経を刺激した結果で、大腿後側痛に適応がある

患者にとって最も羞恥心が少なくて済むのは、ジャックナイフ位だろう。

2)肛門挙筋症候群
   
特発性肛門痛では、肛門挙筋の痙攣による痛みが関係しているという見解がある。肛門挙筋は陰部神経(体性神経)支配となる。
肛門挙筋を刺激する目的で、私は尾骨外端の外方3㎝あたりから5~7㎝直刺深刺している。この刺針の体位も、砕石位のような体位で行うので、結果的には先に記した内閉鎖筋刺針とよく似た方法になる。両者は結局同じこをとをしているのかもしれない。