AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

踵脂肪褥炎のテーピング治療 Ver.1.2

2015-09-22 | 下肢症状

1.踵中央(湧泉)の痛みを訴える者

踵中央部に鈍痛を感じ、押圧すると強い圧痛がある患者を何人か診た。私自身もこの10年に2~3回そうした経験がある。この症状を成書を調べても記載がなく、不明のままでいたが、朝日新聞朝刊(H18.6.12)に踵が痛む病気として、足底筋膜炎の他に踵脂肪褥炎(しょうしぼうじょくえん)が載っていた。


2.踵脂肪褥炎とは

踵脂肪褥創炎とは、踵を包む脂肪層が減少し、弾力を失っている状態であり、痛みの直接原因は、脛骨神経分枝の内側足底神経踵骨枝の刺激による。起床時に踵接地部が痛むというのが典型的な症状であり、踵中央部に脂肪層を寄せるテーピングをするだけで、痛みはかなり改善する(矢部裕一朗 整外医師)と書いてあった。

踵脂肪褥炎は、我が国ではあまり知られていないが、ネットで海外情報を調べると、欧米ではポピュラーな疾患であることが知れた。名称も様々で、踵脂肪パッド萎縮、踵脂肪体萎縮などともよばれている。



4.踵脂肪褥瘡炎の治療

治療法は非伸縮テープを用い、踵を覆うようにテーピングする。さらに歩行時には踵部にヒールカップを入れて、体重の免減をはかったり、靴の中敷きの踵中央部に穴を開けて、刺激が加わらないようにする。

テーピングは非伸縮性タイプを使用、幅25㎜と幅38㎜の2種を使う。下の写真1は25㎜テープ(25㎝長使用)使用する。写真2は幅25㎜テープを使っているが、実際追試してみると幅38㎜テープ(30㎝使長用)の方が土踏まずがしっかりと安定することがわかった。重要なのは、写真2では足底付近したテーピングしていないが、横アーチを復活させるように足の土踏まず~足背をくるりと一周させるこようにした方が土踏まずの凹面を復活できる。テープ固定する。1と2が終了すると、踵部の脂肪が盛り上がり、押圧するとフワフワしていることが確認できる。写真3と4は幅38㎜幅テープを使って踵全体を覆うように緩めに貼るが、必ずしも必要ではない。

なお以前は100均ダイソーで売っている非伸縮テープは粘着力が弱すぎて、使い物にならなかったが、現在では改良されて実用に耐えるものとなっている。

 

 

 




5.灸治療

自体験例では、踵中央に針する気にならなかったので数日間灸治療をしたが症状に改善ないため、デルマトームを考えて八りょう穴中の圧痛点数カ所を選び、せんねん灸2壮を行ったところ2日間(2回治療)で症状消失した。これには再現性があった。ただし重症の脂肪褥炎患者に試したところ、効果がなかった。 

 
 
 
 


乗物酔いの応急処置

2015-09-04 | 耳鼻咽喉科症状

1.内関刺激
乗物酔いの悪心嘔吐に、内関に置針または皮内針をすると、悪心嘔吐は鎮静化され、つわりによる悪心嘔吐にも内関刺激は効果あることが知られる。このことから、内関刺激は、嘔吐に求心性機序ではなく、延髄嘔吐中枢→迷走神経→効果器(胃)という遠心性機序に対する抑制が想定されている。下は、欧米で市販されている酔い止め用リストバンド。
    

 

 2000年の英国医学会において、嘔気嘔吐に対して内関穴刺激が有効だとのEBMが承認された。(Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「針治療の科学的根拠」  医道の日本社 2001.6)

 


2.冷水をかける方法

2012年8月、探偵!ナイトスクープ(朝日放送)で紹介されていたもの。バリ島の漁師の間で伝わっている方法だという。船酔いで嘔吐・昏倒している者の不意をつき、後首や股間に向けて冷水を勢いよく浴びせかけるというもの。番組中では、現在舟にのって船酔いの者3名(医者を含む)に本法を行った。全員ギャッとしてビックリ状態だったが、その直後、「めちゃシャキッとした」といい、信じられないという顔つきをしていた。テレビを視ていて大笑いした。  

この方法で、なぜ乗物酔いが治るのかという点だが、自分では交感神経を急激に亢進させることで、相対的に迷走神経緊張を緩め、胃の逆蠕動性を解消したものだろうとは考えてみた。 

 

 

 

3. 船酔い・乗り物酔いの「特効薬」(高橋和宏医師(「代替療法の光と影」HP) より
 
患者に海上自衛隊の自衛艦に勤務している人が、「酔い止め」のお薬を所望した。通常の「酔い止め」では、海が荒れると船酔いを抑えることができないということだった。私は船酔いの「特効薬!」を処方した。

なお通常の酔い止め薬とは抗ヒスタミン薬のことで薬局でも普通に購入できる。嘔吐は脳から放出されるヒスタミンが、嘔吐中枢を刺激することによって起こるが、ヒスタミンの作用を抑え、吐き気や嘔吐を抑える。

その2週間後、その患者さんが来院した。今回、大きな台風に遭遇して時化(しけ)は長期間にわたってひどく、乗組員の8割の方は船酔いしたのだが、この患者さんは、私の処方した「特効薬!」を服用したお陰で、全く船酔いしなかったと報告してくれた。

ところで、その「特効薬!」とは、気管支喘息や尿失禁の治療薬で有名な「スピロペント」である。なぜ気管支喘息の治療薬が「酔い止め」として効くのだろうか?
 
「乗り物酔い」をした時の症状を列挙すると、①吐き気、②吐く、③お腹がグルグル音を鳴らす、④便意を催す、⑤下痢をする、⑥顔面蒼白になる、⑦冷や汗をかく、⑧めまいがする、⑨血圧が下がる、⑩脈が速くなる等で、これらの症状は医学的にはショック症状かあるいはショック前駆症状を意味する。つまり、乗り物酔いは「ショック状態」なのである。

 「ショック状態」は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、交感神経が立ち直れない時に起きる現象のこと。体の平衡感覚に負荷がかかり、そのコントロールをするために自律神経(交感神経・副交感神経)も「ドミノ倒し」的に負荷がかかり、自律神経のアンバランスが極限状態になって「乗り物酔い」になる。「スピロペント」は気管支交感神経興奮剤で、気管支喘息(気管支を拡張作用)させ、あるいは尿失禁(尿道筋肉を収縮させる作用)に対する治効がある、との根拠になる。

※、「スピロペント」には厚労省の承認の薬効上「乗り物酔い」の適応がないので、ご希望の方は近医に相談のこと。