現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

私の得意とする現代鍼灸技法  原稿募集

2022-06-29 | 投稿原稿

当ブログ「現代医学的鍼灸」は約17年間にわたり420題を越える内容を発表してまいりました。それは私基準で精選した内容であるわけですが、まだ世間にあまり普及していない現代鍼灸の方法を実践している方がいらっしゃると思っています。そこで次のような企画を提案しました。ブログ「現代医学的鍼灸」は gooブログ310 万中、約1000位で、毎日平均500名の方々が訪問していただいています。このブログに載ることで、多くの読者の目にとまることが期待できます。


1.私の得意とする現代鍼灸技法の原稿募集
 
1)自分のオリジナルな内容。オリジナルではなくても他の先生の治療を改良した治療内容
2)他の先生の発表した内容の追試報告(他の先生の発表した内容を単に紹介したものは不可)
3)すでに発表済のものであってもかまいません。その場合、いつ、どこで発表したのかを併記してください。


2.ご注意
 
1)原稿料は出ません。 
2)原稿文字数は、原則として400字詰原稿用紙換算で、2~5枚程度。
3)図・写真・表はこの分量に含めない。図や写真は添付すると人目につきやすくなる。
4)私(似田)が選者となり発表に値すると判断するものを選出する。
5)主旨を曲げない範囲内で、文章の手直しをすることがあります。また執筆者に手直しをお願いすることもあります。
6)報告者の氏名・住所・電話・治療院名等の公開の有無はご要望に応じますが、当方へ原稿をお送り下さる時は、明記をお願いします。
7)原稿は当方へのメールでお送りください。
8)〆切りはありません。
                    
3.原稿送送付、ならびにお問い合わせ 先                             

あんご針灸院  似田 敦
電話042(576)4418
 nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp
〒186-0004   東京都国立市中1-11-26


Th12/ L1とTh7/Th8  脊髄神経後枝の症状に対する背部一行刺針

2022-06-26 | 腰背痛

1.メイン症候群(=胸腰椎接合部症候群)

1)病態

メイン Maigne 症候群は胸腰椎移行部(Th12/L1棘突起間)の椎間関節症による後枝興奮症状のことをいう。 Maigneが提唱した。構造的に胸椎間は回旋の可動性があるが、腰椎間は屈曲伸展の可動性はあっても回旋可動性はない。上体を大きく回旋した場合、胸椎の各椎体は少しずつずれ、胸椎全体では大きく胸椎をひねることを可能にしている。しかしTh12椎体の回旋力は第1腰椎は回旋しないことで受け流すことができず、Th12/L1棘突起間には強い力学的ストレスが加わる。するとこのあたりの椎間関節近傍を走行する脊髄神経後枝が刺激され、脊髄神経後枝の神経支配である筋が緊張し、皮膚に痛みを感ずる。

この皮膚痛の領域は、①上殿部が中心だが、②側殿部、③鼠径部に痛みを起こす場合の3通りがありそれぞれ撮痛帯の出現する。中心となるのは①でTh11~L4脊髄神経後枝外側枝で、上殿皮神経の別称をもつ。
これら3方向の痛みは、どれもTh12/L1棘突傍の刺針で改善する場合が多い。
 
Maigne 症候群は、国内ではマイナーだが、欧米で詳しく調べられている。PCで「Maigne symdrome」を検索してほしい。撮痛との関係もしっかり記載されている。

2)川井貞文氏の症例報告

以前、代田文彦監修「鍼灸臨床生情報」医道の日本社1999.1.1発行 を読み返していたら、川井貞文氏(日産玉川病院東洋医学科)の症例報告が目にとまり、おもわず喝采を叫びたくなった。
上殿部痛に対し、Th12棘突起傍の灸頭針で改善した例を報告した。患者は胃が悪くなると、左上殿部痛が出るのだが、上殿部を治療するよりも、Th12棘突起傍の刺針が効果あると報告した。
これは典型的なメイン症候群だといえる。本患者の上殿部痛はTh12/L1後枝によるものだが、同時に小野寺殿部圧痛点でもある。

 小野寺殿部圧痛点と上部消化器疾患の関連機序は、小野寺直助氏が記載している。なお代田文雑誌は「鍼灸臨床ノート」の中で、「小野寺殿部圧痛点と脾兪圧痛は相関性がある」とする旨を記している。小野寺殿点と脾兪は、同じ高さの脊髄神経後枝なのでそういうことになるのだろう。上図の青枠内は、中側嘉志馬著、守一雄改訂「触診と圧診」金原出版、昭和53年7月20日発行(絶版)の中で発見した。ただし青枠外を筆者が推定して付け足した。

 

 

2.帯脈穴の圧痛の解釈

帯脈穴は臍の高さで側腹部中央にある。本穴は、その名称から帯下との関連を連想させるためか婦人科疾患時に使用されているようである。

前段で、Th12/L1脊髄神経後枝が上殿部痛をもたらすことを説明したが、背部の脊髄神経後枝は、どの高さでも神経根から斜外下方に規則的に走行し、皮膚を知覚支配している。
帯脈穴部の皮膚知覚も脊髄神経後枝支配になる。帯脈から斜上内方に撮痛帯をたどっていくと、Th7前後の棘突起に交差するであろう。Th7前後の後枝反応が帯脈に圧痛や撮痛をもたらしていることが想定される。このような見解から、筆者は数ヶ月前から帯脈と中部胸椎一行圧痛反応の相関性を調べたが、確かに関連があるとの印象をもった。
最近では仰臥位で左右帯脈の圧痛を調べることで胸椎椎間関節症の有無を予想するようになった。そして帯脈の圧痛は、Th7近辺の圧痛ある背部一行に刺針することで帯脈圧痛の変化を調べてる。帯脈の圧痛が直後に消えることはないが、一週間後宇の再診時に調べると、圧痛軽減していることが多いようだ。

 


円形脱毛症に対する鍼灸治験例およびその考察

2022-06-21 | 投稿原稿

柏原 修一氏 レポート  2022年6月21日
                                                                              
1.まえがき
 
本症例は、私が実際の臨床にて、初めて受け持った円形脱毛症患者で、見事に発毛し鍼灸治療の効果の大きさを実感した症例である。特に灸治療が有効であったような印象がある。

この症例報告および免疫学的観点からの考察は、2017~2018年にかけて在籍した明治国際医療大学通信制大学院で免疫学課題レポートとして提出した。ただ免疫学という性質上、臨床鍼灸師にとってなじみの薄い内容が多々あるものとなった。臨床にあまり関係のない部分を割愛し、趣向を変えて改めて症例報告することにした。

 
円形脱毛症はウイルスや細菌を排除するリンパ球が、毛根を「異物」と誤認し攻撃してしまう。毛根が炎症を起こし、毛の根元が細くなったり、途中で切断してしまう。脱毛機序は、ヘアサイクルとは無関係で男女の別なく全年齢に発症する。これはストレス→交感神経緊張→頭皮の血管収縮→末梢の血流障害という病態生理を想定したものである。現在では以前ほど精神的要因は重視されていない。


2.症例報告
【患者】40歳、女性
【主訴】①首の痛み ②通常型円形脱毛症(単発型)
【現症状】円形脱毛症は一年前に発症。原因はストレス。現時点まで無治療。花粉症あり。
【治療法】東洋医学的診断に基づく全身治療を行った後、脱毛部位に対し、集毛鍼で皮膚に充血が見られる程度に刺激し、のちに脱毛部位を囲むように糸状灸を施灸した。治療   間隔は週一回。
【経過】治療開始時を図1に示す。頭頂部付近に直径4㎝程度の単発型円形脱毛あり。10回目の治療で脱毛部に産毛様の発毛を確認。その後発毛速度が速くなり、16回目で脱毛部位はほとんど目立たたなくなったので治療終了とした(図2)。その一か月後に別主訴で来院したので確認したところ、さらに毛髪の密度が濃くなっていて、完全に正常状態になっていた(図3)。

図1

図2

図3

 

3.症例を通じて学んだこと

1)円形脱毛症に対する鍼灸の現状
   
本邦における円形脱毛症の鍼灸治療は、患部への刺鍼や灸といった局所治療中心で、中国においてもあまり情況は変わらない。どれも一応の効果を上げているようであるが、診療ガイドラインにおけるエビデンスの推奨度は、C2(行わない方がよい)と厳しい判定を受けている。これは鍼灸来院数としてはかなり少ない円形脱毛症患者を一元的に集めることが難しく、統計処理ができるデータ数に達していないためであろう。


2)円形脱毛症の現代医療

円形脱毛症は、脱毛が進んでいる「進行期」か、症状が落ち着いた「固定期」があり、その時期により現代医学の治療法が異なる。進行期に脱毛をすぐに止める治療はない。固定期には、自己免疫疾患による円形脱毛症の場合は局所免疫療法を行う。局所免疫療法とは、頭皮皮膚の脱毛部分にかぶれや炎症を起こすSADBE(サドベ)という物質を塗り、T細胞を毛根ではなく炎症部分に集めるのが狙いである。発毛が見られるまでは1~2週間に1度の頻度で塗布し、平均3ヵ月で発毛が見られるという。なおSADBE治療は自費診療になる。

最近の研究では、振動圧刺激が薄毛治療に効果があることが明らかになった(ヘアメデカルグループ・日本医科大学形成外科・株式会社アンファーの共同研究)。毛髪を生やそうとするシグナルを出す毛乳頭細胞に、超音波でブルブル…と振動圧を与えたところ、無刺激の場合と比較し、この細胞が約1.3倍に活性化したとのこと。以前から「マッサージで血行が良くなると髪にも栄養が行きわたって良い」ということは何となく常識として知られていたが、血行促進が発毛効果につながるのではなく、刺激そのものが細胞に働きかけ、効果をもたらすことが判明した。


3)円形脱毛症の鍼灸治療理論

脱毛症で鍼灸が有効なのは、円形脱毛症に対してであり、男性型脱毛症(AGA)には無効とされる。
脱毛症の病態生理や治療薬について現代医学が近年長足の進歩を遂げる中にあって、脱毛症の鍼灸はこの数十年ほとんど進歩していない。とはいえ、その脱毛部に対する鍼灸治療という従来的方法が結果的に現代医学の局所免疫療法と似たような考えになっているのが興味深い。
 
たとえば木下晴都著「最新針灸治療学」(昭和61年9月発行)では、<脱毛部が直径1㎝以内の時はその中央に半米粒大灸を3~5壮施灸する。脱毛部が直径2㎝大の時は脱毛面境界部を1㎝間隔で単刺し、半米粒大灸を中心あたりに2箇所行う。脱毛が直径3㎝以上の時は鍼で単刺を同様に行い、境界部に3~4箇所施灸すると数か月後に治癒する>というような内容になる。ここで木下氏の治療を例に出したのは、みな同じような治療をしているので、その代表例として妥当だと思ったからである。

 
お灸について五十嵐純知氏(麗明堂鍼灸院)(下記文献1)は「毛包組織を攻撃する過剰な免疫が、灸刺激による灸痕に攻撃の目標を切り替えることにより、脱毛部位の回復が起こるのではないか」との仮説を提唱している。ただ、その際脱毛部への過剰な刺激は新たな皮膚疾患の原因にもなりかねないので慎重に配慮するよう求めている。


【参考文献】
1)三瓶真一.症状の分類に応じた円形脱毛症に対する鍼灸治療.医道の日本.2014年3月:77-81
2) 日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版
3) 東家一雄.灸療法による免疫学的効果の発現に関する検討.全日本鍼灸学会誌.2002:52(1):15-17
  

柏原 修一 Shuichi Kashiwabara
〒979-3131 福島県いわき市平赤井字深田44-1 しゅう鍼灸院
TEL : 0246-68-8601
Mail: shu-harikyu@nifty.com
Web: http://shu-harikyu.com


小指バネ指と神門の関係 症例報告(32才、男)

2022-06-10 | 上肢症状

今回の症例は、病態把握が二転三転したものである。こういうケースもたまに来院するのだが、症例報告レポートとして提示するには複雑になるのであまり好まれない。今回は、私の病態把握の迷いにも触れつつ、どう収束したがについて記録する。

 

1.第一診察

本患者は、テレビゲームが好きで、長時間コントローラーを操作するためか右手三里の違和感、手関節の背屈しづらさを訴えてた。まずバックハンドテニス肘を考えたが、上腕骨外側上顆に圧痛なく、テニス肘テストでも異常はみられなかったので、テニス肘診断は否定的。右雲門の圧痛があり、右大胸筋の緊張強いことから、今度は過外転症候群を考えた。まず雲門から小胸筋に置鍼5分を行った。すると今度は右陽谿が痛むという。局所に撮痛あり、フィンケルステインテスト陽性なことから、ド・ケルバン病と判断し、陽谿に集中浅刺針も行った。

 

2.第二診(前回治療の1週間後)

前回の治療で、症状が少なくなってきたようだ。現在、最もつらいのは、右前腕心経ルートだということで、尺側手根屈筋収縮を考えた。手関節屈曲時に痛むという。ただし尺側手根屈筋痛というのはこれまであまり目にかかった記憶はなく、豆状骨あたりが痛むという割に、尺側手根屈筋の停止である豆状骨・有釘骨・第五中手骨底を触診したが圧痛は発見できず、自信をもった病態把握ができなかった。
治療は、手関節伸展位にした状態で尺側手根屈筋および腱の運動針を実施。これはⅠb抑制による筋弛緩を目的としたもの。また痛む局所には豆状骨内縁には半米粒大灸3壮と円皮針を併用した。

たぶん代田文雑誌著「鍼灸治療基礎学」の影響からか、神門(ないし澤田流神門)の灸治は便秘に効くとされているが、その治効の信憑性は怪しい。あまりにも効かないことが多いのだ。まあ今回は尺骨手根屈筋の停止ということで灸点をおいてみた。


3.第三診(前回治療の1週間後)

「両側の小指の曲げ伸ばしでカクカクする」という新しい症状を訴えた。診ると軽度のバネ現象を認めたので、小指バネ指と診断できた。

するとこの小指バネ指は尺側手根屈筋腱の痛みと関係するのだろうかという疑問が生じた。指の屈曲し過ぎ+手関節の屈曲し過ぎということで関連があるようにも思えるのだが、患者の痛みは尺側手根屈筋腱上になく、その内側なのでこの考察は成立しがたい。

尺側手根屈筋腱内側には何があるかを局所断面解剖図で調べてみると、手根管があり、この部から直刺深刺すると手根管縁に命中することを理解した。すなわち小指を屈曲する深・浅指屈筋腱を刺激できる部位であった。これまで尺側手根屈筋緊張症状と思っていたものが、実は深・浅手根屈筋の緊張症状だったと思われた。(次回治療で、神門から第5浅・深指屈筋方向に向けて斜刺するとてみるとさらに効果があがった)

 

4.小指バネ指の治療としての裏支正運動針

これまで私はブログに「バネ指の針灸治療 ver.3.3」として2022年6月10日で発表した。かいつまんで要旨を説明すると第2~第5指バネ指では、浅指屈筋腱と深指屈筋腱の緊張過多によるものだから、浅指屈筋・深指屈筋の筋緊張がゆるめば、それらの腱も自動的にゆるむとする考えであった。その治療ポイントは、前腕心経ルート上の中点(裏支正穴)に置鍼し、適度に第2~第5指の屈伸運動を行わせるというものである。

本症例も裏支正運動針を実施し、バネ指が相当軽くなっている。

 

 


バネ指の針灸治療 ver.3.3

2022-06-10 | 上肢症状

本原稿は約3年前に発表した「バネ指の針灸治療」を全面的に改定したものである。

1.手の指の腱・腱鞘・靭帯の構造 

指に向かう深指屈筋腱と浅指屈筋腱は、運動量が大きく力も強大なので、他の組織との摩擦を 防ぎ、滑りをよくするため、遠位中手骨から指先までを腱鞘で覆われている。 さらに指の掌側には、腱の浮き上がり防止のため、滑車装置である輪状靱帯(靱帯性腱鞘)が   腱鞘を補強している。輪状靱帯は、示指~小指それぞれに5カ所(母指は2カ所)ある。

バネ指の原因として最も多いのがA1輪状靱帯によるもので、次いでA2輪状靱帯に多い。A3~A5輪状靱帯とC十字靱帯はバネ指を起こさない。




 3.バネ指の概要

1)病態生理  

指の屈曲動作は前腕部の指屈筋が収縮し、その筋から指の末節骨・中節骨に停止した腱が体幹側に引っ張られることで行われる。この腱と靱帯への機械的刺激が過度になっても、通常は一晩休めば炎症は鎮まる。しかし自然修復できる限度を超えた刺激が繰り返されれば、徐々に輪状靱帯は肥厚し、腱を締めつけるまでになる(これが狭窄性腱鞘炎状態)。 輪状靱帯に腱が繰り返し衝突することで腱の一部にシワが寄り、シワは次第に大きくなって結節に発展する。


2)分類・症状・所見  

<第1期>    
MP関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にほとんど支障がない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。  


<第2期>     
腱鞘内への注射(局所にステロイド+局所麻酔剤)をした直後は効果を実感しないが、数週間でじんわりと効いてくる。この効果は9割の者が実感できるが、やがては元にもどることも多い。腱への注射は腱を傷つけることでになるので、2ヶ月に1回計2~3回注射して、それでも元にもどる場合は手術に踏み切る。   

①バネ現象陽性
指が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させる時には、弾撥性に屈曲する。かろうじて指は屈伸できるが、曲げた指がスムースに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。   

②モーニングアタック出現
夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。   

③MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知  

 

<第3期>       
関節拘縮状態。 バネ現象は消失するが、指の完全屈伸はできなくなる。日常生活で非常に支障をきたす。A1輪状靱帯の開放手術以外に方法がない。        重症の場合、A1切開とともにA2手掌側の下半分を切開することもある。A1とA2両方を完全切開することは、指屈曲時に腱が浮き上がってくるので実施できない。

 

 

2.代田文誌先生の運動療法
 
代田先生は、得意とする針灸が非常に多い方だったが、バネ指を苦手とし、独自に考えた運動療法を行っていた。成書よりその方法を転記する。「障害指の屈筋を中心に、患者の手首を術者の片手で固く握りしめ、その状態で患者に全力で指を十回~数十回屈伸するよう命じる。すると今まで自力では屈伸できなかった指が、突然自力で屈伸できるようになる」

記方法を筆者は追試してみた。確かに効果はあるが満足する程度ではないこと。またやはり針での治療法を知りたいと思っていた。
 
以下は筆者の考えた方法である。代田文誌先生の運動療法よりも効果的であるようだ。 


3.バネ指の針治療
 
バネ指にも軽症と重症がある。対する鍼灸の治療効果は、当然のことであるが、軽症の方に適応がある。具体的には他指で補助することなく、屈曲した指の再伸展できる者に効果的である。

1)母指バネ指の針灸
    
母指バネ指の症状は、母指IP関節の屈曲時にポキッとして自動的に折れ曲がる現象と、屈曲状態にあるIP関節を伸展した際のポキッとした自動伸展現象(重症の場合、自力では再伸展不能)となることである。
    
母指バネ指では、長母指屈筋腱上に結節ができる。長母指屈筋の走行は、は前腕骨間膜を起始とし、母指末節骨に停止している。仮にこの筋の筋トーヌスも筋長も生理的範囲内であれば、腱に加わる伸張力は弱くなり、再伸展の際に結節が存在したとしても、輪状靱帯にぶつからなくてすむのではないだろうかと考えてみることにした。
     
具体的には、前腕屈筋側中央に郄門をとり、同じ高さの肺経上に治療点を定める。そこから長母指屈筋に向けて斜し、母指屈筋の運動針を指示する。長母指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。


  

 

 

母指バネ指治療に使う部位には正穴がなく不便なので、既存の正穴位置をヒントに、裏偏歴と名付けた。正穴の偏歴は前腕橈側、手関節横紋屈筋側の橈側(=陽谿)から曲池穴に向かい上3寸の大腸経なので、その裏側である肺経沿いにあるから、裏偏歴とよぶことにした。

2~5指治療に使う治療部にはで使うにも正穴名がなく不便なので、既存の正穴位置をヒントに、裏支正と名付けた。正穴の支正は前腕尺側、手関節横紋から尺側手根伸筋の上5寸の小腸経にある。その裏側である心経沿いにあるので裏支正と呼ぶことにした。

 

2)第2~第5指バネ指の針灸
    
親指以外の4本指でDIP関節屈曲は深指屈筋、PIP関節屈曲は浅指屈筋、MP関節屈曲は虫様筋というように役割分担されていて、比較的大きな物を握る時は深指屈筋が働き、握力計や比較的握りやすい物を握る時は浅指屈筋が働き、握りしめたり細い物を握る時は虫様筋が主に働く。ただし実際には独立して働く事はほとんど無く互いに協調して握力を生み出す。



バネ指は、浅・深指屈筋腱にできた結節が、腱共通の輪状靱帯を通過できなくなった状態である。もし浅・深指屈筋が弛緩・伸張した状態では結節が腱鞘に入らなくても指伸展が可能となると考え、前腕屈筋側中央に心包経の郄門をとり、その高さの心経ルート上を刺入点とし、浅指屈筋または深刺屈筋中に至る斜刺を行ない、置針した状態で、母指を除く4指の屈伸運動を行わせる。深指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。(臨床上、浅指屈筋中に刺入しても治療効果はあがる)
 

4.バネ指腫瘤部への局所刺激と小鍼刀の検討

バネ指の運動障害の原因は、A1輪状靱帯部における腱の圧迫が最多なので、輪状靱帯を切開して腱の通りをスムーズにしてやればよい。輪状靱帯を切開しても、腱は安定した位置にあるので、指の曲げ伸ばしの動作に支障は起きないという。

かつて注射針によるばね指手術(局所麻酔注射後、腫瘤部に注射針をか刺して、鍼先を小刻みに動かすことで小分けして輪状靱帯を切断する)も行われてきた。この技法は、屈筋腱損傷などの合併症が報告されていて、現在では医療施設ではあまり行われないが、中国では小鍼刀(鍼先がマイナスドライバーのようになっている鍼)が考案され、輪状靱帯を突っついて押し切るばね指治療も行われているようだ。エコー装置を使えば針先と腱鞘の位置関係が確認できる。この方法は、法的に日本での鍼灸術の範疇に入るかどうかは微妙であし、」また無麻酔で施術することになるので患者にとってはかなり苦痛だろう。しかし通常の豪針で、輪状靱帯を鍼先で少々突いただけでは、輪状靱帯の圧迫は取り除くことは難しい。

腫瘤部に円皮針の貼り付けや施灸により効果があることもある。これは局所刺激としての限定的効果であろう。

   

 

 小針刀を使ったバネ指(板機指)治療の動画

 https://www.youtube.com/watch?v=w60t6_Ox3VA

 

 

  

 


効果を実感できた浴室鏡のウロコ取り方法 ver.2.0

2022-06-03 | 雑件

 私は築三十年の家に住んでいる。浴室の鏡(縦47㎝横、36㎝の標準的なもの)は、月日の積み重ねにより、ひどく垢がつき曇っていて、自分を映し出すことはまったくできない。効果的だとされている方法を何回か追試し、ダイヤモンドうろこ取りを使ってみた。掃除直後に少し改善したように見えても、乾燥すると元に戻るのだった。新品(後日、三千円程度で新品が買えることを知ったのだが)に交換するしか手はないかと思っていた。そうした矢先、新しい鏡磨きの方法をYouTubeでやっていた。気を取り直しやってみることにした。

A.初回トライ

1.用意するもの
ダイヤモンド鏡うろこ取り(百均でも可)
トイレの洗剤サンポール  (9.5%希塩酸)
 ディスポゴム手袋
キッチンペーパータオル
ラップ

 

2.方法

①両手にディスポゴム手袋を装着

②風呂オケを準備し、サンポール原液を入れる(コップ半分くらい)
③キッチンペーパータオルを完全に浸す
④鏡面全体に、そのキッチンペーパーを貼り付ける。乾燥防止にキッチンペーパーの上にラップで覆う。そのまま1~2時間放置。
⑤ラップとキッチンペーパーを剥がす
⑥ゴム手袋をした状態で、ダイヤモンド鏡うろこ取りでこする
⑦最後に鏡を水で洗浄する


3.効果と感想

①②③④⑤と手順通りに進行。見ると鏡面のこびりついた石鹸垢が浮き上がっているのを発見。ダイヤモンド鏡うろこ取りでこすってみると、面白いようにボロボロと垢が剥がれ、下に落ちていった。ただ予想外に垢が多量に出たので、鏡の1/3ほどこするうちに、うろこ取りが目詰まりし、使えなくなったが解決策は見えてきた。今度はダイヤモンドうろこ取りをあと2つ位用意し、再びトライしたい。下の写真で曇っている部分は、まだ垢が残っている部分。掃除前は、まったく鏡としての用をなさなかったが、ムラはあるものの掃除後はうっすらと像を写せる状態にまで回復した。


B.2回目トライ

前回の鏡みがきから約十日後、本格的に鏡磨きに挑戦した。その様子はブログ記事にする予定だったので、様子をしっかりと写真撮影した。この日のため、サンポール1本、百均のダイヤモンドウロコ取り2個.。それにディスポゴム手袋を用意した。

1.前回簡単に磨いた後の鏡を取り外して縁側に置いてみた。外の光にあててみると予想していた以上に汚いことが判明。なお鏡は上下2つずつの金属ツメで固定されている。上のツメを下から金属ヘラで叩くと、ツメが上に移動して鏡がとりはずせるようになる。


2.鏡を取り外した浴室壁面は、所々黒ずんでカビていた。ここには「カビ取りキラー」をふりかけ、ブラシでこすってみると、汚れは簡単に取れた。

 

3.ディスポ手袋を装着。「リードペーパータオル」をかぶせ、その上からまんべんなくサンポール原液をふりかけた。その後、鏡を大きなポリ袋に入れ蒸発防止のため密閉。

 

4.密閉すること70分、ポリ袋から取り出し、ペーパータオルも取り外した状態。

 

5.「ダイヤモンドうろこ取り」で5~10分こすると、消しゴムのカスのようにボロボロとウロコが除去できる
6.ウロコの取れ方が不十分な部分を、サンポールが染みこんだペーパータオルをかぶせること20分。



6.新品のダイヤモンドうろこ取りに交換し、再びこする。その後水洗い。なお酸は鏡にダメージを与えるとう話なので、掃除後はしっかりと水洗い洗浄すること。

 


7.浴室壁面に鏡を取り付けて完了。

水洗いして濡れた状態では非常に改善した印象を受けたが、乾いた状態になると透明感は落ち、新品と比べ80%程度の出来だろう。鏡に顔が映るようにはなり、ひげ剃り用として使えるようになった。(一般的に浴室鏡の寿命は5~10年だとされている)

 

 

 


ドレス色と静脈色の錯覚

2022-06-02 | 雑件

1.ドレスの色の錯覚

015年頃、「写真のドレスの色は何色か?」ということで世間を大いに賑わせた。問題となった写真を見ると、私には黄色+白色に見え、それ以外に見えようがなかった。しかし人によっては青色+黒色にも見え、正解のドレスの色も青色+黒色だという。

この謎現象について、非常に理解しやすい絵を発見したので、転載した。

 

上段の2枚の絵は、左の女の子が青+黒の服を着ていて、右の子は黄+白の服を着ているかに見える。しかし左図の黒色部分と右図の黄色部分は、実は同色である。四角で囲んだ色はどれも同じなのである。

下段の2枚の絵は、上段の図を反転させたものである。つまり補色になっている。青色の補色は黄色、赤色の補色は緑色といった具合に。上の絵で上段のドレスの青色が下段では黄色に変化しているのがわかる。上段の黒色は下段では灰色となるが、背景が濃い灰色なので相対的に白色と認識されるようだ。

2.静脈色の錯覚

これだけの話ならば、改めて本ブログで取り上げるような話ではない。ところがである。

昔から医学書では静脈が青色で示されているのが常識だったが、
青く見える静脈は実は灰色だったということが判明してきた。人間の静脈は肌の色との対比による目の錯覚で青く見えているのであって、静脈の画像を物理的に確認しても、静脈の色は青ではなくむしろ灰色に近いという。(立命館大学文学部の北岡明佳教授による)