AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

アキレス腱周辺疾患に対する針灸治療

2012-08-28 | 下肢症状

筆者は、2011.2.6付「組織別の最適な治療手法」と題し、筋膜、筋付着、腱鞘等の興奮症状に対する刺針法を報告した。今回はアキレス腱を中心とした各疾患について、具体的に針灸治療法を記すことにした。各疾患説明は、どの本にも書いてあるので省略した。

1.アキレス腱炎・アキレス腱周囲炎

1)下腿三頭筋が緊張し、短縮すると結果的にアキレス腱に加わる牽引力は増加する。アキレス腱炎を生じる誘因がこの下腿三頭筋緊張にあるので、下腿三頭筋へ置針し、筋緊張を緩める。

※下腿三頭筋へ運動針をするには、伏臥位で、足関節背面にマクラ等を入れ、足関節の背屈底屈が自由にできる姿勢にする。(「春日鍼灸治療院、鈴木昭彦先生HPより)

2)アキレス腱本体に知覚は鈍い。ド・ケルバン病や鵞足炎と同じように、アキレス腱炎の痛みは、皮神経の興奮による。皮神経の興奮の有無は、皮膚を摘んで調べる(=撮診)とよくわかる。この撮痛部に対し、皮膚刺激(皮内針など)が効果的である。   

※刺絡抜罐法(=刺絡して吸い玉をつける)の処置を加えることで即効的となり1~2回で治癒するという。(「はぐれ針灸学」HPより) 
皮内針より強刺激なので、この方が効果があるかもしれない。


2.アキレス腱付着部症

1)アキレス腱炎と同様に考え、下腿三頭筋刺針を行う。


2)アキレス腱の踵骨付着部を丹念に触診すると、鋭い圧痛点が数カ所発見できることが多い。この圧痛点に対し、ピンポイント的に刺針する。これは痛みに対する局所治療点であると同時に、腱紡錘を刺激することで下腿三頭筋の筋トーヌスを緩める狙いがある。


3.アキレス腱滑液包炎

1)下腿三頭筋の緊張を緩める刺針をすることはアキレス腱関連疾患に共通である。

2)腫脹改善:局所の血行を改善することで、滑膜の炎症を鎮める。それには、腫脹部と腫脹周囲部に置針(3番針以上の太さ)。
※この治療方針は抽象的過ぎるが、実際に効果があるので今なお用いられている。リウマチや膝OAの際の膝関節腫脹に一定の効果あるが、ベーカー嚢腫には効果が乏しい。 

3)滑液包の存在意義は、組織と組織がこすれあう部の摩擦軽減である。何らかの理由で 可動域が狭くなると、筋力を使って可動域をなんとか保持しようとするが、その時、滑液包の滑液量も増産して、摩擦を少なくするように動く。その結果が滑液包炎である。
治療は、可動域制限のある部分を発見し、可動域拡大を図ることが滑液包炎の治療方針になる。具体的には、足の底背屈、距骨下関節での踵骨の内反・外反などで、刺針ポイントはこれらの筋付着部になる。
上述の考え方は、徳山接骨院TOKUヤン先生HPを参考にした。実際の効果はまだ追試していないので不明だが、方法に具体性があって好ましい。


正坐からお辞儀動作時に生ずる鼠径部痛に対する髀関刺針 

2012-08-08 | 下肢症状

1.症例1 65才、男性、無職(元会社員)
1)右側のフォーハンドとバックハンドのテニス肘合併による右肘運動時痛が主訴で来院していたが、数回の少海・曲池あたりの圧痛点運動針で略治していた。ある日、ジムでトレーニングをしていて、正座して状態を前屈する動作(=お辞儀する動作)で、右鼠径部痛を生ずることに気づき、気になるようになった。
2)鼠径溝上で、どこが痛むのかを指先で押すよう患者に指示しても、私自身が押圧して調べても、これだという明瞭な圧痛硬結は見いだせなかった。やむなく関係ありそうな点である長内転筋の起始部腱、腸骨筋の起始部腱に刺針し、股関節の外転・外旋の運動針を行うも無効。また座位にて髀関穴(大腿直筋が下前腸骨棘に起始する部)に刺針しても効果なかった。

3)とにかく反応点を指先で探しあてることが先決だと考え直し、上記の維道穴、すなわち下前腸骨棘の真上から、深々と押圧してみると、深部についに筋硬結を感じとることができた。この押圧方向と同じ方向に2インチ中国針30番(和針10番相当)で3~4㎝刺入し、硬結に当てて雀啄して抜針した。
するとその直後から、正座でのお辞儀の際の鼠径部痛は消失した。以後、たまに軽く痛むことはあっても、そのつど上記刺針法で症状軽減している。


2.症例2 54才、女性、看護士
左変股症、膝OA等にて来院中の患者で、主症状は順調にコントロールされている。ある日、正座をしてお辞儀をすると左鼠径に痛みを感じるとのこと。上記症例1の経験に従って、座位で、髀関(下前腸骨棘部)あたりの筋硬結を触知し、そこに2インチ中国針30番(和針10番相当)で3~4㎝刺入し、硬結に当てて雀啄して抜針した。すると本例も治療直後から症状消失した。

3.髀関刺針を有効にするための触診技法
大腿直筋のストレッチは、スポーツトレーナー分野でよく行われている。それは、正坐した状態で、上体を後に倒して床につける動作や、立位で片側の膝を屈曲させ、その側の足首を指でつかんだりする動作になる。

今回の大腿直筋起始部痛は、そうした筋の伸張痛ではなく、同筋の収縮時痛であろうと考えた。針灸で、
この筋の起始部に刺針することで収縮痛を改善するには、独特なコツがあることがわかった。同筋の起始部は下前腸骨棘(それに寛骨臼上縁)であるが、仰臥位姿勢にてこの部を指頭で押圧しても、他の筋に邪魔され、この筋の緊張の有無は分からない。

※髀関穴位置:教科書的には上前腸骨棘の下方、縫工筋と大腿筋膜張筋の間、陥凹部である。筆者は上前腸骨棘の下方1~2寸の下前腸骨棘部を髀関としている。

正坐させて、図の×印のように下前腸骨棘を普通に触診しても。やはり緊張の有無は分からない。下図の○印のように、大腿に指をもぐり込ませ、骨盤縁に対して直角に指をあてるようにして、初めてシコリを発見できる状態になった。そしてシコリ中に針先が到達するように刺針すると、効果をあげられることを知った。