1.「歩行時のよろめき」の2症例
1)自転車から下りる際のよろめきに対するテーピング治療(76才、女性)
6ヶ月前から膝関節痛があるも、膝関節部の鍼灸治療で症状かなり改善していた。現在は、自転車から下りる際(クセでどうしても右側からになる)、よろけて転倒しやすいというのが悩みだという。診ると右足外側関節外側部に圧痛多数あり、左慢性足関節捻挫状態になっていた。
以前、別患者で歩行時の不安定感(よろめき)に対して、股関節部をゴムベルトで巻いて改善した例が数例あったので、本症例も左右の股関節を覆うようなゴムベルトを試しに巻いてみたが、まったく改善なかった。
脳卒中のリハ訓練で、足関節装具を使うとブレずに歩きやすくなることを想いだし、本例に対して右足関節を固定するようなキネシオテーピングをして治療を終えた。1週間後の再来時、具合を聴くと、自転車を下りる時もよろけることはなくなったとのことだった。
2)橋本病にともなう歩行時のよろめきに対するテーピング治療(83才、女性)
20年程前から橋本病があり、甲状腺ホルモン剤を常用服用している。このためか易疲労や色素沈着がある。運動不足もあり、下肢は細く筋力低下もある。
当院来院理由は、膝痛と右肩関節痛で、膝痛と右肩関節痛は鍼灸治療により非常に改善しているが、高齢なこともあり、定期的な鍼灸受診で良い状態をどうにか維持している状態であった。
それ以外に、歩行時のよろめきがあった。20年程前も甲状腺低下症状による歩行時のよろめきがあり、その時は交感神経緊張させる目的で項部~上背部の強刺激治療で、施術直後は症状軽減していたので、今回も同様の治療を行うも歩行時のふらつきはあまり改善しなかった。また股関節部をゴムベルトで巻いてみたが、歩行時のよろめき感は改善なかった。
そこで、足関節部に圧痛点はなかったが、先の症例と同じく、左右の足関節を固定するようなキネシオテーピングをし、直後に治療室内を歩かせてみた。すると、ふらつきを感ぜず、安定して歩けるとのことだった。
2.歩行時の「よろめき」と「ふらつき」の相違
周知のように平衡覚は回転性めまいや動揺性めまいに分類される。回転性めまいは、外界がぐるぐる回ると訴える。その代表疾患には、メニエール病や良性発作性頭位めまいがある。
動揺性めまいは、ゆらゆらする、ふらふらすると訴える。動揺性めまいは、頸性めまいの頻度が多いが、他に中枢疾患(聴神経腫瘍、小脳脊髄変性症など)や内科疾患(貧血、起立性低血圧)も考え得る。
ところで上記した2症例のような歩行時の「よろめき」は、動揺性めまい症状である「ふらつき」と似ているようで、まったく違う病態だと思われる。要するに歩行できないほどの筋力低下が真因となっている。具体的には筋力低下→足関節を安定支持できない→歩行でよろめく、といった状態になる。
片痲痺の歩行では、短下肢装具を使う場合がある。私が昔病院勤務の頃、片麻痺で歩行困難な患者でも、本装具を装着すると歩行できるようになることを何度も見たことがある。大いに驚いたものだ。足関節のぐらつき防止は、歩行するために重要なのだろう。このことは登山靴やスキー靴の例でも理解できる。
立位保持は重心バランスが正常であれば、あまり筋力を使わない骨支持が主体となるが、その例外は足関節であり、足関節固定の目的で下肢の拮抗筋同士がランスをとって緊張している。つまり下腿の筋力低下は、足関節のぐらつきを生じ、歩行困難を生じやすい。これと同じことは、股関節周囲筋にもいえるので、股関節のぐらつきがあると歩行困難になるのだろう。
3.余談:キネシオテープの利点と欠点
上記2例は5㎝幅キネシオテープを30~40㎝使って一側の足関節捻挫の治療と同じような処置を行った。これは大変効果あったのだが、このようなテーピングを続けることは皮膚を痛める原因になるので長期的な治療として使うことは困難である。以前当院にキネシオテープ製造をしている日東電工の社員の人が患者として来院したことがあった。その人に、長期的に使用できるキネシオテープはないのか、と質問したことがあった。しかし粘着テープを剥がす度に、皮膚の角質層を剥がすことになるので、原理的に無理だという。もし行うのならばアンダーラップを使う他ないというのがその答えだった。結局、応急処置としてはキネシオテープでよいが、少々長く使おうと思えば、足関節サポーター以外ないようだ。足関節サポーター着用のままでは靴が履けないという大きな欠点は存在している。