現代医学的鍼灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

当ブログにようこそ

3017-10-07 | 現代医学的針灸の公開にあたって

                 「現代医学的鍼灸治療」に、ようこそ

 ご関心のある方は、長年にわたり、諸先生がたの治療文献をたよりに勉強してきましたが、針灸臨床を始めて28年(平成18年現在)が過ぎた現在、自分なりの針灸治療も確立しつつあるように思った。単なる知識の受け売りにとどまらず、自分なりの見解をつけ加える内容にしたいと考えている。記す意味は、これまで世話になった諸先輩への御礼、および真摯に針灸を研究している先生がたのご参考に供することにあります。なお本ブログは、平成18年3月10日から配信開始しています。

当ブログに対して、ご意見・ご感想を頂戴することは大いに歓迎するところです。しかし今後匿名で私に回答を強いる質問等につきましては、今後返信しないことにしました。(平成30年2月15日)

 

 

 


 

 

 

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平成31年6月から<上肢痛と下肢痛>の現代鍼灸実技講習会を開催します

2019-03-23 | 雑件

筆者は昨年平成30年4月に鍼灸学学会Tokyo主催で、背腰殿下肢痛と膝関節痛の現代鍼灸技術の講演と実演を行い、幸いにも高評価が得られた。

ただし本来技術とは、少人数性でなければ伝えきれないものであるという思いから、同年秋から週2回ペースで地元で小規模の実技主体の講習会<奮起の会>を続けているのだが、それも平成31年4月に終わろうとしている。

そこで、その続編として上肢痛と下肢痛の現代鍼灸技術の実技講習会を行うことにしました。毎回カラーテキストを進呈。参加者毎回12名限定なのでお早めにお申し込み下さい。


残席は、3月23日時点での状況です。

実施時期  6月2日~7月7日(計3回)

第1回 6月2日(第一日曜) 残席5名
テーマ 上肢症状の針灸技術


①テニス肘に対する短橈側手根伸筋運動針
②上腕三頭筋内側頭腱炎の圧痛点触診と刺針体位
③狭窄性腱鞘炎に対する橈骨神経皮枝刺激と関連する伸筋への運動針
④母指バネ指に対する長母指屈筋への運動針
⑤第2~第5指バネ指に対する深指屈筋への運動針
⑥母指内転筋症に対する母指内転筋運動針


第2回 6月16日(第三日曜) 残席5名   
テーマ 下肢症状の針灸技術(その1)

①急性足関節外側捻挫と二分靱帯捻挫の局所治療
②慢性足関節捻挫の足根洞刺針とテーピング
③外反母指に対する大衝刺針法とキネシオテーピング
④伏在神経痛に対する陰包刺針の体位
⑤地機と築賓の刺針体位の相違


第3回 7月7日  (第一日曜)  残席5名  
テーマ 下肢症状の針灸技術(その2)

①足底筋膜炎に対する局所刺針体位と下腿三頭筋刺針
②モートン病の対する局所刺針体位と下腿三頭筋刺針 
③踵脂肪体萎縮の刺針法とテーピング
④前内側型シンスプリントに対する地機骨膜針と三陰交骨膜刺
⑤外側型シンスプリントに対する足三里骨膜刺と脳清刺


1.指導員:
 似田敦、小宮猛史、小野寺文人、他
 (いずれも古くからの現代鍼灸科学研究会のベ会員で、鍼灸開業歴10年以上)

2.実施時刻:午後6時~8時15分頃

会場:国立市中1丁目集会場(JR国立駅南口下車徒歩3分)


3.参加費:1回、5000円(当日払) 鍼灸学生は半額
4.受講資格:鍼灸師または鍼灸学生

5.参加お申し込み方法
あんご針灸院にメールnitadakai825@jcom.zaq.ne.jp
または電話(042-576-4418)でお申し込みください。12名限定なのでお早めに。
その際、ご希望の月日、住所、電話、メールアドレス、御名前をお知らせ下さい。
3月19日から受付開始。

※参加希望者多数の場合、日を改めて再度、同企画をする予定もあり。

_______________________________

平成31年10月第一日曜から、6回シリーズで<奮起の会>頸・肩・腰・殿・膝疾患の鍼灸実技を実施予定です。
まだ申込み受付していませんが、平成31年8月頃になったら、当ブログでご案内致します。

第1回(平成31年10月6日) :背腰痛の針灸治療
第2回(10月20日):臀下肢痛の針灸治療①
第3回(11月3日):殿下肢痛の針灸治療②
第4回(11月17日):膝関節痛の針灸治療 
第5回(12月1日):頸痛の針灸治療
第6回(12月15日):肩関節痛の針灸治療

 

 

 

 

 

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鍼灸講習会<鍼灸奮起の会>第2期実施中です Ver.2.3

2019-03-23 | 雑件

現代鍼灸講習会<鍼灸奮起の会>  新規開催
講師 似田 敦 
元東京衛生学園講師・あんご針灸院院長

6回シリーズで来院することの多い関節と脊柱疾患をとりあげて実技指導します。第1回~第4回の勉強会は、平成30年4月15日に鍼灸学会tokyoで行った<私の鍼技法と現代鍼灸治療 背腰殿痛・膝関節痛を例に>の改良版ですが、この時はマンツーマンでの実技指導まで手が廻りませんでした。今回は実技指導を受けるチャンスです。また第5回頸腕痛、第6回肩関節痛の講習会は、初めて行うものです。私が普段の臨床で普通に使っている実戦的な内容に限定して実技指導します。

※講習会は、テーマを設けて行いますから、1回1回の独立性があります。全回通して出席できなくとも大丈夫です。
講習会2回目以降の参加申込み締め切り日は、それぞれ講習会実施の1週間前の日曜日になります。

 

 

(立位での内・外膝眼刺針 「鍼灸tokyo 講習会に於いて)

 


日時:毎月 第1と第3日曜日、午後6時15分~8時15分

会場:
国立市中1丁目集会場

参加資格:鍼灸師、および鍼灸学生

講習料:1回4000円(学生1回3000円)当日支払い

        毎回、カラー版オリジナルテキストを配布します。

募集人数:毎回
12人

申込〆切日:開催予定日の1週間前。


応募方法
:<あんご鍼灸院>まで電話またはメールで御連絡ください。その際、①ご氏名、②住所、③郵便番号、④電話、⑤メールアドレスをお知らせ下さい

メールアドレスは次の通り

nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp

〒186-0004 東京都国立市中1-11-26   電話 042(576)4418
 

 <第一期> 脊柱と主要関節疾患の現代針灸実技
全回無事終了しました。
第1回 10月7日 背腰痛の針灸治療 (終了) 
第2回 10月21日  殿下肢痛の針灸治療① (終了) 
第3回 11月4日 殿下肢症状の針灸治療② (終了) 
第4回 11月18日 膝痛の針灸治療 (終了)
第5回 12月2日 頸痛の治療   (終了)
第6回 12月16日 肩関節痛の治療  (終了) 
 

総評
第1回目を除き、最終第6回まで、いつも満席の状況で講習会を終了することができました。
マン・ツー・マンで教えるということをモットーに指導者4人体制(代田泰彦、小宮猛史、小野寺文人の各先生方と私)
で、
きめ細やかな実技指導ができたかと思っています。
それにしても、さすがに本講習会参加者は、知識技術習得に貪欲な方が多く、指導する側としても、やりがいがありました。

 

 

 

 

<第二期>  脊柱と主要関節疾患の現代針灸実技

内容は第一期と同じですが、テキストは改良されています。

 予約状況は、平成31年3月4現在のもの。

 第1回 平成31年1月21日 背腰痛の針灸治療 (受付終了) 

①撮診の技術
②側腹位での背部一行刺針
③立位での背部一行刺針
④力鍼穴からの大腰筋刺針と腰方形筋刺針
(テキスト6ページ)

第2回 平成31年2月3日  殿下肢痛の針灸治療①   (受付終了)  

①梨状筋刺針(坐骨神経ブロック点刺針) 
②横座り位での中殿筋と小殿筋刺鍼 
③股関節マニプレーション
④仙腸関節刺針(側臥位にて)
(テキスト6ページ)

第3回 平成31年2月17日 殿下肢痛の針灸治療②   (受付終了) 

①内閉鎖筋刺針
②仙腸関節運動針(立位にて)
③陰部神経刺針
④八髎穴の選択と刺入技術
⑤仙結節靱帯刺針
(テキスト7ページ)


第4回 
平成31年3月3日 膝痛の針灸治療  (受付終了) 

①大腿四頭筋緊張に対する仰臥位膝屈曲位での大腿直筋停止部(鶴頂)刺針
②膝関節包過敏に対する立位膝伸展位での膝蓋骨周囲(内外膝眼)
③鵞足炎に対する鵞足浅刺
④膝窩筋腱炎に対する膝立位での膝窩筋(委中)刺針
⑤立位膝伸展位での膝蓋骨周囲刺針
(テキスト6ページ)



第5回 平成31年3月17日 頸腕痛の治療  (受付終了) 
 
①天柱・上天柱の刺針の体位と技法
②頸部一行刺針の体位と技法
③下風池からの頭板状筋運動針
④扶突からの前斜角筋の触知と傍神経刺
⑤小胸筋症候群に対する上中府穴刺針
⑥坐位での肩中兪深刺(腕神経叢刺激+星状神経節刺激)
(テキスト12ページ)

第6回 平成31年4月7
日 肩関節痛の治療  (受付終了) 

①棘上筋腱炎に対する肩井から棘上筋腱に達する斜刺
②棘上筋腱炎に対する肩髃から棘上筋腱への水平刺と刺針体位
③肩甲胸郭関節可動筋に対する大円筋(肩貞)刺針と肩甲下筋(膏肓)刺針
④棘下筋TPs放散痛に対する天宗刺針と刺針体位
⑤凍結肩に対する伝統的整骨手技
⑥凍結肩に対するリズミックスタビリゼーション手技
(テキスト12ページ)

 <第三期>

第1回 平成31年4月21日 背腰痛の針灸治療 (受付終了) 
この回のみ、午後6時30分開始となります。

①撮診の技術
②側腹位での背部一行刺針
③立位での背部一行刺針
④力鍼穴からの大腰筋刺針と腰方形筋刺針
⑤瘀血性腰痛に対する上仙細絡からの刺絡
(テキスト6ページ)


4月21日は、午後1時30分~4時30分まで、呉竹学園代々木校舎(JR山の手線「代々木駅」徒歩1分)にて、鍼灸学会Tokyo主催、<私の現代針灸システム2 頸痛・肩関節痛>を行います。興味ある方は、そちらもご参加下さい。
https://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=1c709feb55905f13bef3f60dcd72d4c2&p=1&disp=50#

 

 

 


 

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「秘法一本針伝書」①<下肢前側の病の鍼>の現代鍼灸からの検討 Ver.1.1

2019-03-18 | 腰下肢症状

「秘法一本鍼伝書」は、柳谷素霊自身の臨床経験に裏打ちされた治療技法を集めたものである。古典派の大御所でありながら、古典理論に基づいていないという意味で、現代鍼灸派にとっても研究対象となると考えている。平易に書かれているが、奥深い内容をもっている。ある程度実力のある者は、自分のやり方と比較することで、勉強になる点を多々発見するだろう。これまで本ブロクでも部分的には取り上げてきたが、内容は不十分である。
このたび「秘法一本鍼伝書」の中から、<下肢後側痛の鍼><下肢外側の病の鍼><下肢前側の病の鍼>の3項目を取り上げ、3回シリーズとして現代鍼灸の立場から検討していくことにした。

※「秘法一本鍼伝書」は1959年に医道の日本社から出版されたが、長期間絶版状態になった。しかし2013年9月8日に(学)素霊学園から再版された。

1.「秘法一本鍼伝書」下肢前側の病の鍼(居髎)
(読みやすくするため、現代文のように若干文章を変えた)

1)取穴法
上前腸骨棘の最前側端に2本の腱様の硬結線状がある。外側のものは太く、内側のものは細い。その2筋の間を指頭で下圧するように押さえると陥没するところがある。これが本穴の居髎穴である。
※居髎は、教科書では上前腸骨棘と大転子を結んだ線上の中点にとる。大腿筋膜張筋中になる。

2)用鍼
3寸で2~5番の銀鍼、あるいは2~3番の鉄鍼

3)患者の姿勢
両足をのばして力を入れ、上体が動揺しないようにさせる。こうすれば前記した太い筋と
細い筋の間の陥没がますます深く顕著に指頭に感ずるものである。

4)刺針の方向
上前腸骨棘に鍼体を接触させながら、上方より下方に陥没の中央を目標に刺入する。すなわち腹壁に沿うようにして刺入する。

5)技法
鍼を静かに上下しつつ、進退動揺させながら刺入する。最初手に鍼尖のさわりが軽く感じるが、漸次硬物にあたるような感じがある。ニョロニョロするものに当たると鍼響があるものである。この鍼響が下肢前側に響くと効果ある。
細い筋との間の陥没がますます深く顕著に指頭に感じる。

6)深度
おおよそ2寸内外である。ただし皮膚に鍼尖を接したのみでも鍼の響きあるものもある。7)注意
もし響きがないときは鍼をゆるやかに上下させる。あるいは刺針転向法を行う。
なお膝中痛み、あるいは力のない時には鍼尖を膝蓋の中央に入れるようにして刺入する。補助鍼として、痛みには瀉法、力ない時には補法の鍼をする。


2.現代鍼灸からの解説

上前腸骨棘の最前側端には外側に大腿筋膜張筋腱、内側に縫工筋腱がある。
この腱間を潜るように深く押圧すると大腿直筋がある。押圧部あたりは大腿直筋のトリガーポイントに相当し、大腿前面~膝蓋骨に痛みを生ずることが調べられている。

 

 

 刺針して大腿に響きを与えられない場合、所定の鍼を刺入したまま大腿直筋のTPを活性化させるために、患側大腿を少し挙上させて大腿直筋を緊張させた姿勢を保持してもらい、鍼の上下動の雀啄を行うと所定の響きを与えやすい。

上記の居髎刺針の深さは、2寸内外だが、「皮膚にと鍼尖を接したのみでも鍼の響きあるものもある」とも書かれている。これは縫工筋緊張により大腿外側皮神経が絞扼された結果だろう。

 

「膝中痛み、あるいは力のない時には鍼尖を膝蓋の中央に入れるようにして刺入する。補助鍼として、痛みには瀉法、力ない時には補法の鍼をする」との記載が文末にみられる。この技法と同様な意図(四頭筋緊張を緩める目的)で現在私が行っているのは、膝蓋骨直上の大腿直筋刺針で、鶴頂穴刺針になる。仰臥位膝屈曲位で、あらかじめ四頭筋を緊張させた状態で刺針するのがコツである。この技法は、すでに触れた。

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バネ指の針灸治療 Ver.2.1

2019-03-08 | 上下肢症状

本原稿は約3年前に発表した「バネ指の針灸治療」を全面的に改定したものである。

1.バネ指の病態生理

①使いすぎ、②更年期障害、③糖尿病や腎不全が原因となりやすい。糖尿病ではA1の他にA2も侵されやすい。指を屈曲させる際には、前腕部の指屈筋が収縮し、その筋から指の末節骨まで伸びた腱が腕側に引っ張られる。指に向かう腱は、運動量が大きく力も強大なので、他の組織との摩擦を防ぎ、滑りをよくするため、中手骨から指先までを腱鞘で覆われている。
   
指の掌側には、腱の浮き上がりを抑制するための滑車装置である輪状靱帯(靱帯性腱鞘)が腱鞘を補強している。
輪状靱帯は、ズボンのベルトに対するベルト支えに相当するもので、指の数カ所にある。バネ指の原因として最も多いのがA1輪状靱帯によるもので、次いでA2輪状靱帯に多い。A3~A5とC十字靱帯)はバネ指を起こさない。
   
通常の生活では、腱と靱帯の機械的刺激により生じた炎症は一晩寝れば治まるが、一晩の間の修復できる範囲を超えたほどの無理を繰り返すことで、徐々に輪状靱帯は肥厚し、腱を締めつけるまでになる。これが狭窄性腱鞘炎状態になる。この結果、腱の一部にシワが寄り、シワは次第に大きくなって結節が生ずるまでになる。

結節が輪状靱帯中に収まっているのは指を伸ばした時であって、結節が輪状靱帯中に潜らないことには指は伸びない。指を屈曲すると腱は腕方向に引っ張られて移動し、結節もA1輪状靱帯から出た状態になる。次に指を再伸展させようとすると、結節がA1輪状靱帯にぶつかり、それ以上の指伸展が不能となる。バネ指は、中指、環指の指屈筋腱に好発し、中年女性に多い。
 
※乳小児のバネ指は母指に好発する。小児バネ指はホルモンによるものとされる。幼児のバネはあまり痛がらない。腱の部分的肥厚のみで、腱鞘や輪状靱帯に炎症は認めない。自然治癒してゆくケースがほとんど。糖尿病による腱鞘炎は、腱そのものが太くなるので、A1とA2が同時に腱鞘炎となることもある。

 

2.代田文誌先生の運動療法
 
代田先生は、得意とする針灸が非常に多い方だったが、バネ指を苦手とし、独自に考えた運動療法を行っていた。成書よりその方法を転記する。「障害指の屈筋を中心に、患者の手首を術者の片手で固く握りしめ、その状態で患者に全力で指を十回~数十回屈伸するよう命じる。すると今まで自力では屈伸できなかった指が、突然自力で屈伸できるようになる」

記方法を筆者は追試してみた。確かに効果はあるが満足する程度ではないこと。またやはり針での治療法を知りたいと思っていた。
 
以下は筆者の考えた方法である。代田文誌先生の運動療法よりも効果的であるようだ。 


3.バネ指の針治療
 
バネ指にも軽症と重症がある。対する鍼灸の治療効果は、当然のことであるが、軽症の方に適応がある。具体的には他指で補助することなく、屈曲した指の再伸展できる者に効果的である。

1)母指バネ指の針灸
    
母指バネ指の症状は、母指IP関節の屈曲時にポキッとして自動的に折れ曲がる現象と、屈曲状態にあるIP関節を伸展した際のポキッとした自動伸展現象(重症の場合、自力では再伸展不能)となることである。
    
母指バネ指では、長母指屈筋腱上に結節ができる。長母指屈筋の走行は、は前腕骨間膜を起始とし、母指末節骨に停止している。仮にこの筋の筋トーヌスも筋長も生理的範囲内であれば、腱に加わる伸張力は弱くなり、再伸展の際に結節が存在したとしても、輪状靱帯にぶつからなくてすむのではないだろうかと考えてみることにした。
     
具体的には、前腕屈筋側中央に郄門をとり、同じ高さの肺経上に治療点を定める。そこから長母指屈筋に向けて斜し、母指屈筋の運動針を指示する。長母指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。


   

2)第2~第5指バネ指の針灸
    
親指以外の4本指でDIP関節屈曲は深指屈筋、PIP関節屈曲は浅指屈筋、MP関節屈曲は虫様筋というように役割分担されていて、比較的大きな物を握る時は深指屈筋が働き、握力計や比較的握りやすい物を握る時は浅指屈筋が働き、握りしめたり細い物を握る時は虫様筋が主に働く。ただし実際には独立して働く事はほとんど無く互いに協調して握力を生み出す。



バネ指は、浅・深指屈筋腱にできた結節が、腱共通の輪状靱帯を通過できなくなった状態である。もし浅・深指屈筋が弛緩・伸張した状態では結節が腱鞘に入らなくても指伸展が可能となると考え、前腕屈筋側中央に心包経の郄門をとり、その高さの心経ルート上を刺入点とし、浅指屈筋または深刺屈筋中に至る斜刺を行ない、置針した状態で、母指を除く4指の屈伸運動を行わせる。深指屈筋中に刺入できていれば、母指の動きと同期して針柄が上下に動くことを観察できる。(臨床上、浅指屈筋中に刺入  しても治療効果はあがる)
 

3)注射針、そして小針刀による輪状靱帯切開術法
   
かつて注射針を使ってばね指手術(局所麻酔注射後、腫瘤部に注射針をか刺して、鍼先を小刻みに動かすことで小分けして輪状靱帯を切断する)も行われていたという。この技法は、屈筋腱損傷などの合併症が報告されていて、現在では医療施設ではあまり行われない。ただし中国では小鍼刀(鍼先がマイナスドライバーのようになっている鍼)が考案され、輪状靱帯を突っついて押し切るばね指治療も行われている。エコー装置を使えば針先と腱鞘の位置関係が認できる。

要するに無麻酔で輪状靱帯切開を行うことになるが、無麻酔で施術することになるので、患者は苦痛だろう。また本法がわが国の鍼灸術の範疇に入るか否かは微妙である。

 

 

6.筆者の体験例と現代医学治療

バネ指の自然治癒率は20~40%とされ、手術療法での治癒率は60%とされている。軽症では局所に局麻注射とステロイドの混合注射で効くこともあるが、治療は結構な刺痛を伴う。3回試みて治療効果ない場合、手術に踏み切ることが多いとのことだった。

実は、筆者(62才、男)は本年7月1日朝、起きたら、左母指をIP関節をわずかに曲げると、コキッと音がして屈曲状態となり、自力で再伸展可能という状態に気づいた。日常的動作で母指IPがコキコキして気仕事にならないので、とりあえず母指IP関節をテーピング固定してバネ現象を起こりにくくした。

とくに就寝前にはしっかりとテーピングを行ったが、一ヶ月たっても改善なかった。さらに手掌側の左母指IP関節あたりの長母指伸筋腱に重苦しい痛みを感じるようになった。この部分に熱感もとヒリヒリとした皮膚過敏がみられ、労宮穴あたりが重く痛むようになった。左母指の運動訓練をすると、返って痛みが増すようだ。
   
10月7日、隣町の病院の整形受診した。非常につらいので手術してくれるよう依頼したが、まずは局所麻酔+ステロイド注射することになった。この注射は2ヶ月に1回ペースで2~3回行ない、それでも治らないようであれば手術するのがセオリーだそうだ。そのように注射の間隔を空けてよいのもなのだろうかと疑問に思った。注射した直後はあまり変化ないが、あとからジワリと効いてくるとのこと。注射は3回行う予定だが、大抵は1回の注射で治ることが多いとの説明をうけた。とりあえずこの医師の治療に従い、バネ指の局所注射を行った(予想通りの痛さだった)。

10月30日。長いこと注射の効果は不明だったが、1週間ほど前から左母指で患者のツボ探しをしても、痛みを感じなくなって押圧で力が入るようになった。書類を束ねる時に使う目玉クリップを開ける際にも力が入るようになった。要するに長母指屈筋力が正常化した。バネ現象も消失した。ただし母指IP関節は過伸展できないが、日常的にバネ指であることを忘れているまでになった。

その3年後の現在、患側母指のIP関節は健側ほどではないが、背屈可能となった。ただし、たまに合谷部深部にかすかな鈍痛を感じることはある。

 

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ケッペンの気候区分の手法による舌診分類の試み Ver.2.2

2019-02-28 | 古典概念の現代医学的解釈

1.舌体色(舌質色)

舌体色は、血液の色が反映されており、主に寒熱を診ている。熱証であれば赤くなる。
舌色は、卵の白身をフライパンで熱する時の変化に似ている。透明→白→黄と変化し、さらに熱せれば灰になり、その灰も黒くなる。ただし黒苔は暑いというレベルを超えて、極熱(=火傷)の徴候である。裏寒でも舌苔黒になるのは、凍傷の徴候であろう。ただし熱証には実熱と虚熱の区別があるが、実熱は外感に起因し、赤くなる。虚熱は陰虚(脱水状態)により、舌質が乾く。

舌苔舌先や舌辺が鮮赤色ならば実熱。熱毒では紫色になる。寒証であれば舌色は淡くなる。 寒熱は、脈診でいう脈の遅数と相関性がある。



①淡紅舌(淡紅色): 正常な血色 → 正常、表証
②淡舌(淡白色):正常より薄い色 → 血虚、陽虚、寒証、気虚  →貧血
③紅舌(鮮紅色):正常より赤い色 →熱証(実熱) →感染症 または陰虚証(虚熱) →脱水
              舌苔無→虚熱、舌先や舌辺が鮮赤色→実熱。
④絳舌(こうぜつ)(深紅色):紅舌より赤が深い→熱極・陰虚火旺(虚火) →高熱感染疾患 
⑤紫舌(赤紫、濃い青紫、乾燥):熱毒 →チアノーゼ
⑥津液が無くなる -寒証:淡い青紫色、湿濁、血瘀:瘀斑、瘀点も生じる。 →低体温症

2.舌苔


1)舌苔とは

舌の表表面は糸状乳頭という絨毯様の凹凸で覆われる。中医学的には、消化管の奥からの「胃気」が蒸気のように管を上り、舌面に現れると考える。ここでいう胃気とは、脾胃の働きによって得た後天の気の総称。胃気あれば生き、胃気なければ死すといわれる。胃気=食欲と捉えればよい。
すなわち舌苔は胃腸管状態の状態を診るのに用いる。糸状乳頭自体は無色透明だが、上部消化管(とくに胃壁)の細胞がダメージを受けると、この部分の細胞が分裂速度が低下し、舌苔の厚みを増す。


2)舌苔の異常所見 
  
舌苔色は、主に寒熱をみる。舌苔が生え、色がつくには時間を要するので、併せて表裏(白は表、それ以外は裏)も併せて診る。
舌苔色と舌質色情報とは相関性を示すので、これを一グループとみなすことは可能である。

①白苔: 白い苔  - 正常、表証、寒証
②黄苔: 黄色い苔 - 熱証、裏証(外邪が裏に入り、熱化)
       黄膩苔であれば裏熱実証、痰熱 →慢性胃炎
③灰苔: 浅黒い苔 - 裏熱証(乾燥、熱盛津傷)、寒湿証(湿潤:痰飲内停)  →慢性胃炎増悪
④黒苔: 黒い苔  - 灰苔 、焦黄苔からの進行(重症な段階) →高熱疾患の持続

⑤舌苔が剥離したものを、剥離苔とよばれ、気の固摂作用の低下(気虚とくに胃の気)を意味する。
⑥鏡面苔:全体に剥離し、鏡面のようにテカテカ →胃気大傷、胃陰枯渇 →鉄欠乏性貧血
⑦花剥苔:一部が剥離し、テカテカ →胃気虚弱、胃陰不足 →胃障害 






4.舌苔の厚み
  
病邪の程度、病状の進退の程度を知る。急性は薄く、慢性になると裏に入り舌苔も厚くなる。ただし慢性の期間が長引き、体力が落ちていくにつれ、舌苔は剥げてゆき、 最終的に消失する。
  
①薄苔: 見底できる(薄くて見底できる) →正常、表証、虚証
②厚苔:見底できない。 →裏証、実証。
舌苔色は、寒熱と表裏の相関図が描けるのに対し、舌苔厚は、虚実と表裏の相関図が描ける。それは前図にも示しているように、左上が虚、右下が実になるような三次元図をを想像することである。

5.ケッペンの気候区分の手法の応用

1)ケッペンの気候区分とは
舌診の習得は、脈診よりも容易だとされてはいても、分類そのものに一貫性がないので、理解習得に困難を感じる。そこで筆者は細かな解釈には目をつむり、ケッペンの気候区分の手法を、舌診の分類に利用することを思いついた。ケッペン Koppen はドイツの気候学者で、1923年に発表した植物区分で知られている。 降水量と気候という、わずか2つの条件の組み合わせにより、世界の気候を分類した。

 

 


2)樹林地帯と非樹林地帯の舌苔の有無
 
気温の項を寒熱に、降水量の項を水分量に変更し、舌診法のうち、最も重要な舌質色と舌苔色について図式化した。ケッペンの気候区分では、まず樹林気候と非樹林気候に区分する。非樹林気候の条件とは、植物が生育できないほどの乾燥地帯あるいは寒冷地帯である。舌診では、舌苔ができるものと、できないものの区分に置き換えられる。しかし中医学の成書を読むと、中医学では乾燥では確かに「舌苔なし」になるが、寒冷地帯では「舌苔青紫」になる。ケッペンは寒帯を、氷雪帯とツンドラ帯に細分化しているので、「舌苔青紫」はツンドラ帯に相当するものとする。


3)熱帯・温帯・冷帯および灼熱帯の舌質色と舌苔色
 
ついで樹林気候を、熱帯・温帯・冷帯(=亜寒帯)に区分する。健常者を温帯におくとして、その舌質色は淡紅色、舌苔色は白~淡黄である。これと対比するように、熱帯では舌質色は紅色、舌苔色は黄色に、冷帯では舌質色は淡白に、舌苔色は白になる。
 ケッペンの分類にはないが、筆者は気温の項に熱帯の上の段階として、灼熱帯(=熱毒)を加えた。灼熱帯は、時間的持続性で、焼ける前と焼けた後に細分化した。焼ける前は、焼ける前後で、舌質は絳(紅よりも深みのある紅)→紫になり、舌苔色は芒刺→灰・黒と変化する。

4)特殊形

①陰虚火旺:熱により乾燥しているのではなく、水不足で乾燥している状態。砂漠状態。舌質紅で、舌苔なしの状態。舌形は裂紋舌。

②気血両虚:舌色淡という観点から、冷帯に所属することがわかり、裂紋舌という点から水不足であることもわかる。したがって、陰虚火旺盛に類似しているが、陰虚火旺よりも  さらに寒い状態と理解できる。

③黄膩苔:ねっとりしている舌苔。ねっとりするには、大量の水と熱が必要だと考え、熱帯かつ降水量大の場所に位置づけた。

④)胖舌:気虚とくに脾気虚で生ずる。気虚により水を代謝しきれない状態。ここでは黄膩苔に似ているが、熱とは無関係なので、温帯かつ降水量大に位置づけた。胖舌の結果、舌縁に歯形がつくようになる。これが歯痕舌である。

 

 

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むずむず脚症候群の針灸治療Ver.1.3

2019-02-22 | 上下肢症状

むずむず脚症候群の正式名称は、下肢静止不能症候群、RLS, Restless Legs Syndromeという。最近になって認知されてきた疾患である。ある日、橈骨麻痺で来院中の患者が「むずむず脚症候群もある」と訴えた。これまで抱いていた私の印象から、「それは大変だ」と応じたが、その患者は薬を飲めば治るが、あまり薬は飲みたくないと云った。私は患者がむずむず脚症候群であること以上に、治す薬があることに驚いた。早速ネット検索してみて、かつての常識がすでに古くなっているこをを思い知らされ、新たな見解も生まれたので、本稿としてまとめる。

1.症状

脚の不快感と動かしたい欲求。脚の表面ではなく深部に不快な感じがあり、動かすと少し軽減する。その不快感は様々に表現される。むずむずする、虫が這う、痛がゆい、など。

症状は夕方から夜間にかけて強くなることが多い。自然治癒はごくまれで、進行性増悪することが多い。人によっては背中や腕にも現れることがある。
 

2.原因

神経伝達物質であるドーパミンの機能異常。
    
神経伝達物質ドーパミンの機能低下

         ↓
A11と呼ばれる脳の神経細胞の機能低下。
                 ↓
脳に送る必要のない身体深部知覚の些細な信号をカットできず、脳が過敏状態
         ↓
     「むずむず脚症候群」
   
身体の中では、脳が認識する運動刺激や身体感覚の他に、一定の閾値に達しない「雑音」のような深部知覚が無数に発生している。これらの深部知覚は、間脳部に相当するA11領域から脊髄に伸びる下行性の神経細胞によって抑制されているので脳にまでは達しない。


しかし何らかの原因によってA11の神経細胞の働きが弱まり、特に夜間、運動刺激や身体感覚の刺激がなくなると、「雑音」のような深部知覚が上行しやすくなり、脳が感覚情報過多の状態になり“むずむず”するような不快感を覚えるようになる。

なおA11の働きが弱まる原因として、ドーパミン神経細胞の機能障害や、脳内の貯蔵鉄(フェリチン)減少や鉄代謝異常が関係しているとされている。

   
夜になると脳の松果体からメラトニンが分泌され、身体が眠りにつきやすいように深部体温が下がる。とともに“むずむず”するような異常感覚も現れてくる。明け方になってメラトニンの分泌が減って、深部体温が上昇し始めると異常感覚は消失する。

 

3.現代医療での治療


 「ビ・ シフロール錠」が、日本で初めてむずむず脚症候群の薬として2010年1月に保険適用された。本剤はドパミンアゴニスト(=作動)薬で、ドパミンの代わりとなってドパミン受容体を刺激するもの。要するにドーパミン量を増やし、弱まったA11神経細胞に直接刺激を与え 脚の不快感のもとをブロックする機能を回復させるもの。

  
※本剤は、パーキンソン病での治療薬だが、むずむず脚症候群で使われる場合はパーキンソン病治療に比べて、6分の1~18分の1という少ない量で効果がある。ただし長期間連用すると効かなくなっていくる。

 

4.針灸治療

1)考え方


A11神経細胞の機能低下により、脳に届ける必要のない深部知覚信号カットできなくなっている。であるなら脳へより大きい深部知覚信号(=響かせる針)を送ることで、先の「雑音」のような深部知覚信号をマスキングできるのではないだろうか。

  

2)発作時、足三里に対する深刺で響かせる(小宮猛史先生)


体験例:うちの家内は、寝室で寝ていたかと思うと脚をどんどん叩きながら起きてきて「なんとかしてー」と訴える。虫が這うようなむずむず感を感じ、じっとしていられないと言う。発症はたいてい右側。


そこで発症するたびに足三里に、そっとゆっくり止まるまで刺入し、ゆっくり雀啄することで得るズーンという響きを与える。すると直後に8割くらい楽になり、次に足三里の少し下にもう一箇所響かすように鍼をするとすっかり消失し、そのあとぐっすり眠れるようになる。時間にして2~3分。なお切皮程度の深さで高速撚鍼して響きを与えても症状の軽快はみられない。


先日の発作時、家内に協力してもらい、いつもの鍼するところをお灸にしてみた(半米粒大の大きさで7壮ずつ)。しかし、じっとしていられるような効果までは出なかった。結局そのあと鍼して鎮静。(小宮猛史:ブログJTDの小窓 ムズムズ脚足症候群 2014.3.12より)

小宮猛史先生ブログ

http://blog.goo.ne.jp/takeincho/e/75b1700aff424fe277a7309dc1deb0c6

 

3)下肢脛骨骨膜刺針が効果的か?

ズーンと響くように刺針することが有効だという報告があったので、筆者は中国針で足三里や三陰交から神経幹ねらいで刺針してみたが、思うような効果が得られなかった。そこで脛骨骨膜刺として足三里や三陰交から脛骨骨膜に擦りつけるように刺入し、後脛骨筋に至るような深刺をしてみた。すなわち、シンスプリントの針治療の流用を行った。すると、これまで単に強い響きを与える目的で行った刺針よりも、ムズムズが減った。針灸治療的に、シンスプリントとムズムズ脚症候群は同じ範疇として捉えることができるのだろうか。
 

シンスプリントの骨膜刺激針治療(似田)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/58c9421d320b880ecd41da4e15861ead

 

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眼精疲労の鑑別と鍼灸治療 Ver.1.1

2019-02-21 | 眼科・耳鼻咽喉科症状

1.眼精疲労の鑑別
 
最もみられる眼科的訴えは眼精疲労であろう。本当に眼精疲労であるなら、眼を休めれば回復するが、休養しても治らない場合、器質的疾患を疑う。
 本当に単なる眼精疲労か?
 
①眼痛(+)→緑内障

②見えづらい:眼がかすむ

白内障(糖尿病性白内障の可能性)
ぶどう膜炎(サルコイドーシスの可能性) 
眼底出血(糖尿病性網膜症、高血圧症の可能性)
像が歪む、像の一部欠損→中心性網膜炎、網膜剥離 
チラつく→生理的飛蚊症(網膜剥離、ぶどう膜炎の可能性)

③目の乾燥感→ドライアイ(シェーングレン症候群の可能性)
上記を否定できれば、機能性眼精疲労、仮性近視、心身症を疑う。

※全身疾患の部分症状として眼症状を訴える疾患はつぎの通り。
ベーチェット病、サルコイドーシス、シェーングレン症候群


2.眼精疲労に対する鍼灸治療の考え方

1)後頭下筋のコリの治療→上天柱
 
後頭下筋は、頭蓋骨のブレがあっても視点のブレがないようにする役割がある。現在のデジタルビデオカメラには手ぶれ防止装置がついているのが普通になった。これにより、歩きながらで、あまりブレのないムービーをとるのができるようになったわけである。これと同じ意味の機構が後頭下筋になる。
平成31年2月13日放映
NHKテレビ放送「ためしてガッテン!」では頚のコリと後頭下筋の関連について放送していた。横から卓球のラリーを見る観客は、玉を追うために眼球が左右に動くことになる。その際、無意識に顔面も左右に小さく動いていることが観察された。この顔の動きは後頭下筋の緊張によるものだそうである。
後頭下筋疲労の改善には、上天柱から深刺し、鍼先を後頭下筋まで入れて置針する。

2)大後頭三叉神経症候群としての治療→天柱、頭皮上圧痛点刺針

大後頭神経の興奮は三叉神経をも興奮する。眼の知覚は三叉神経第1枝であり、大後頭神経の鎮静目的に、天柱深刺置針を行う。
百会の手前2/3の頭皮知覚は主に三叉神経第1枝支配、百会の後方1/3の頭皮知覚は主に大後頭神経支配である。頭皮上の圧痛点に斜刺し、10分間程度の置針をする方法も広く行われている。

※三叉神経第1枝は知覚性で、上眼窩裂から眼窩内に入り、鼻腔・角膜・結膜・ 毛様体・虹彩の知覚をつかさどった後、前頭神経として額~頭頂部皮膚知覚をつかさどる。なお私は、眼精疲労の原因をズバリ一言でいうなら、三叉神経第 1枝神経痛のバリエーションだと考えている。


3)側頭筋刺激→頭維から客主人に向けて水平刺

顔面で顔面表情筋は顔面神経支配だが、咀嚼筋は三叉神経(第3枝)支配である。咀嚼筋というのはストレス筋の一つであり、側頭筋は最大の咀嚼筋であるから、ストレス状態で緊張を生ずる。側頭筋部は、三叉神経節興奮時に反応が現れると思われ、側頭筋のコリを緩めることがストレス改善、そして眼精疲労の改善に役立つと予想する。

ストレス筋というのは、ストレス状態にある時、働く筋をいう。たとえば動物が敵と遭遇した場合、戦うか逃げるかしなければならい。噛みつき攻撃は動物にあっては戦う手段として当たり前のことであり、側頭筋の緊張が関係することが知れる。


4)リラクセーションを目的とした治療

眼精疲労が眼周囲の筋の疲労の結果起こるという見解は、疑問視されている。たとえば眼瞼痙攣の者は必ずしも眼精疲労を訴えない。心身症者の眼精疲労は、眼に問題があるのではなく、大脳の情報処理能力の疲労だとする意見がある。要するに脳の疲労であるから、リラクセーション目的の施術が有効になる。
 

 

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慢性副鼻腔炎の針灸治療 Ver.1.1

2019-02-20 | 眼科・耳鼻咽喉科症状

  当院にたまに来院していた女性患者は、近くの整形外科の理学療法室で無資格ながらアルバイトをしていた。その人が私に慢性副鼻腔炎に鍼灸は効くか、と質問したのできちんと自宅施灸すれば効果があると返答した。しばらくして理学療法室の同僚の若い男性を副鼻腔炎を治してくれといって連れてきた。私は上星に直接灸3壮を行い、挟鼻穴(下記参照)に単刺して治療を終えた。そして上星には毎日自宅施灸するように指示した。この男性は毎日、自分で鏡をみながら上星の灸を続けたところ、数週間後にはついに鼻汁が止まった。それを見ていた女性患者はよほど驚いたらしく、鍼灸学校に入学したのだった。


1.副鼻腔とは


1)前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞の4種ある。うち上顎洞が最大。

2)副鼻腔の構造と特徴

鼻腔に接する頭蓋内の空洞で、開口部が鼻腔とつながる。
上鼻道の開口:篩骨洞(後部) 
中鼻道に開口:上顎洞、前頭洞、篩骨洞(前部、中部)
下鼻道に開口:鼻・涙管 
蝶形骨前洞窟に開口:蝶篩陥凹
  
大部分の副鼻腔の開口部は洞の下方にあるので、分泌物も溜まりにくい。しかし上顎洞は上方に開口部があり、分泌物や膿が貯留しやすい。 

 


 

2.副鼻腔炎の)病態生理

  
慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚
    ↓   
副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し、充血する。
    ↓
副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、
貯留物が排泄できない。
(本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、生理的に外に排出される)  
    ↓
感染が起きる。
 

3.副鼻腔炎の症状

   
慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似るが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。ときに鼻茸を合併。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹附近は、前顎洞の副鼻腔炎では四白附近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔内圧上昇するとされ、鈍痛増悪する。

R/O 上顎癌:

50才以上で鼻の癌では上顎癌が最も多い。
その7~8割は慢性副鼻腔炎をもっている。血性鼻汁となる。


 

4.現代医療

抗生物質、上顎洞洗浄、ネブライザー。しかし根本的治療法に乏しい。


5.針灸治療

  
慢性鼻炎があれば慢性副鼻腔炎も存在している。両者の共通症状は、鼻汁(粘性~黄色粘性) と鼻閉。慢性副鼻腔炎では前頭部鈍痛や頬部鈍痛を訴えるのに対し、慢性鼻炎では、これらの訴えに乏しい。  

  
鼻炎と副鼻腔炎の治療は、針灸では治療は同様にう行ってよい。鼻炎と副鼻腔炎とは、鼻粘膜に連続性があり、神経支配も同一であることによる。


1)鼻周囲の三叉神経第1枝刺激 

  
鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝が支配している。この神経を刺激すれば、鼻交感神経を緊張させ、血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。


上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経を介して頭重が起こるとされる。慢性鼻炎や慢性  副鼻腔炎の者は、前頭部の前頭髪際付近に圧痛がみられることが多く、圧痛があればこの圧痛点である顖会(前髪際を入ること2寸)や上星(前髪際を入ること1寸)に長期的に透熱灸をすることが多い。
  
これは三叉神経を刺激することで、鼻腔や副鼻腔に持続反復刺激を与えている。頭髪中に施灸するので、灸痕が目立たず長期施灸を可能としている。施灸により、長期間良好な状態を保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、症状は消失状態を保つことができる。

     
①攅竹から睛明方向への水平刺
   
前頭神経→鼻毛様体神経

②挟鼻(鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央)直刺。
鼻毛様体神経刺激。本神経は、知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。
揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻毛様体神経刺激による。
 

 

2)大後頭-三叉神経症候群として後頭神経刺激
   
三叉神経線維は三叉神経脊髄路というルートを持っている。外部から入力された感覚は、三叉神経節を経た後、三叉神経脊髄路を経由して、すなわち一度、第2頸髄の高さまで一度下行してから、再び上行して脳に行く。
下行時には大後頭神経と連絡しているので、大後頭神経と三叉神経の間に、密接な関係を生ずる。眼精疲労時には後頭部痛も生じやすいのもこの理由による。天柱に刺針すると、三叉神  経刺激症状(特に第1枝の眼神経)に影響を与える。大後頭神経が興奮して三叉神経症状を生  じたものを、大後頭神経-三叉神経症候群とよび、ペインクリニックでの通称も天柱症候群とよばれる。針灸臨床では、眼精疲労、鼻閉に天柱刺針を用いることが多い。


3)顔面関連痛をもたらす筋刺激
山田智子先生の発表による)

①急性副鼻腔炎患者で座位で頸部前屈すると顔面痛増悪する例があった者に、伏臥位で頸部前屈されても顔面痛増悪がなかったこと。②頬骨筋を収縮させた状態(イーッと歯を見せる)では、顔面部圧痛増悪したこと、③項部と上顔面部に針灸治療を行って、副鼻腔炎治療に効果をあげていること、などから顔面症状は、後頸部筋(後頭下筋、頭半棘筋、頸半棘筋、頭板状筋、頬骨筋、咬筋など)のトリガー活性の結果かもしれない。後頸部や顔面部の筋刺激の有効性が示唆される。<山田智子(六ヶ所村尾鮫診療所):第3回プライマリ・ケア学会>

6.その後の見解の変化
上記文章を発表した3年半後のこと。奮起の会鍼灸実技学習会後の懇親会で、参加者の先生方の話をお伺いできた。

1)A先生の話
鼻漏である自分に対し、上記図を参考にして左右の挟鼻穴から円皮針(パイオネックス)を入れると、即座に鼻汁が止まることを確認し、以降は患者にも使っているとのこと。その際、ただしく取穴は挟鼻穴にきちんと当たらないと効かない。1回の円皮針を入れておく期間は、鼻部の皮脂の分泌量によって異なり、ずれてきて1日持たない者から1週間程度もつ者まで色々。左右挟鼻に円皮針を入れておくことは、とくに外出時に格好悪いが、マスクをすれば隠れるといったことを話していただいた。

2)B先生の話
鼻漏に対しては、鼻稜外側にある上唇鼻翼挙筋を指頭でこすると、プチプチとした手応えが得られるので、何回か縦方向にこすると、そのプチプチした感触がなくなると同時に症状もとれるとのこと。

 


 

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講演:私の現代針灸システム-2 頸部痛・肩関節痛 (実技供覧)のお知らせ Ver.1.1

2019-02-08 | 雑件

平成30年4月に行った<背腰殿下肢と膝痛>の現代針灸の第二弾の実技供覧講習会です。

鍼灸学会Tokyo主催
講演:私の現代針灸システム-2  頸部痛・肩関節痛 (実技供覧)

日時:平成31年4月21日午後1時30分~4時30分頃
場所:JR山の手線「代々木駅」北口下車徒歩1分
 東京医療専門学校(呉竹学園)、代々木校舎       
  〒151-0053 東京都渋谷区代々木1−55 TEL.03-3320-1815

講師:似田敦
お申し込み方法:当日会場で受け付け
参加費:一般3000円、会員1000円、学生(学生証提示)500円

演者ごあいさつ
私が現代針灸を続けて40年が経った。この間、現代鍼灸も周辺医学の進歩とくにファッシア理論を取り入れることで、実際に役立つ効果的な治療手段として変貌を遂げた。
 私は昨年(平成30年)4月に針灸学会Tokyo(会長:山田勝弘先生)にて<背腰痛、殿下肢痛・膝関節痛>の現代針灸治療理論と実技供覧を行い、幸いに好評だったことから、第2弾として<頸痛・肩関節痛>の現代針灸の理論と実技供覧をする運びとなった。諸先生方の針灸臨床に、参考となることがあれば嬉しく思います。

内容(一部未確定)

A.頸痛の治療技術(テキスト11ページ)


1.後頭下筋過緊張に対する上天柱深刺と運動針技法

2.後頭下筋過緊張による頸性めまいと眼精疲労の治療理論
3.頭板状筋緊張に対する坐位運動針技法
4.頭半棘筋緊張に対する頸椎一行刺針とくに治喘治療の意味
5.頸部の長・短回旋筋症状と頸部一行刺針
6.脊髄神経後枝興奮症状と背部一行刺針部位の選択
7.斜角筋症候群、頸神経叢症状に対する天鼎の合理的な取穴と刺針
8.小胸筋症候群に対する上中府刺針
9.バレリュー症候群に対する肩中兪深刺


B.肩関節痛の治療技術(テキスト12ページ)


1.棘上筋腱炎に対する肩井から棘上筋腱に達する斜刺

2.棘上筋腱炎に対する肩髃から棘上筋腱への水平刺と刺針体位
3.肩甲胸郭関節可動筋に対する大円筋(肩貞)刺針と肩甲下筋(膏肓)刺針
4.棘下筋TPs放散痛に対する天宗刺針と刺針体位
5.凍結肩に対する伝統的整復手技
6.凍結肩に対するリズミックスタビリゼーション手技

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シンスプリントに対して骨膜針刺激が有効だった2例

2019-01-17 | 上下肢症状

筆者は、かつて当ブログに、シンスプリントの治療理論を、次のように解説した。

 https://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=cd953503b935651c5c89be3ac81565fa&p=1&sort=0&disp=50&order=0&ymd=0&cid=9d94181681987c7c4c968a290a4ce540

今回は実症例について紹介する。

 

1.後内側型シンスプリント(50歳、女性)

喘息持ちで、週1か2週に1回来院している。半年ほど前から下腿後側から足底に痛み出現した。四六時中ひきつるような痛みがあった。当初は足底筋膜炎+腓腹筋過筋症と考え、湧泉・踵骨内縁、承山・承筋に刺針したが、あまり改善がみられなかった。
そこで、後内側型シンスプリントではないかと考え直して、足三里と地機から後脛骨筋~
脛骨後縁に擦りつけるような針を行い、足関節底背屈の運動針を行わせた後抜針した。
すると治療直後、下腿のひきつりが楽になったとのことだった。

2.前外側型シンスプリント(52歳、男性)

数年間から右仙腸関節部の鈍重感が存在していた。痛み増強するたびに当院来院し、当院診断は右仙腸関節機能障害で、右仙腸関節運動針を行うと、数週~数ヶ月間痛みは改善している。

4ヶ月前から右脛に引きつり感があると訴えだした。右仙腸関節運動針を行うも、この症状はあまり改善しなかったので、局所である足三里から刺針し、前脛骨筋に刺針しつつ足関節の底背屈の運動針を行わせるもあまり改善しない。そこで前外側肩スプリントではないかと考え直して、通常の脚三里のやや外側で脛骨骨内縁にこすりつけるように深刺すると、症状部に響いた。治療後、初めて脚の具合がよいという感想を得ることができた。

3.解説

シンスプリントというと、ランニングやジャンプの選手がかかる疾患と思いがちだが、
病名の概念は一定していないようである。上記例のように、常に下腿のある部位が引きつっているという訴えもシンスプリントであると考えてよいと思う。シンスプリントに対して、一般の針灸治療であれば、筋々膜刺激を行うところだが、それでうまく処理できず、骨膜を引っ掻くような刺激が有効となった。骨膜刺激は捻挫に対して非常に効果があることは知れるが、シンスプリントに対しする骨膜刺激も有効であることが確認できた。
 

上記2タイプのシンスプリントの共通点は後脛骨筋刺激にあるので、後脛骨筋の走行を提示しておく。


なおこのような骨膜刺激の針法は、小山曲泉著「神経痛掃骨針法」(明治東洋医学院出版部刊)に同様の技法が参考になる。

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代田文彦先生十七回忌新年墓参 

2019-01-04 | 雑件

平成31年1月3日、代田文誌先生・文彦先生の墓参を実施しました。とくに文彦先生は17回忌という節目となります。集まったのは小宮先生の奥様とお嬢を含む計11名。山田勝弘先生は車で来てくださり、高尾駅から墓前まで参加者をピストン輸送してくれました。
高尾駅から徒歩20分にある高乗寺の高尾霊園にある墓地は、代田文誌先生が買い求めたもの。せっかくなら山の一番見晴らしがよい場所という希望通りの立地になっています。

 

御墓番地:K区3-24


墓誌を見ると、代田文彦、代
田文誌、代田やゑ(文誌先生の奥様)は戒名ではなく、生前のままとなっています。代田文誌・文彦先生とも真摯な仏教の信者だったで、おやっと思ったのですが、これも宗教的態度の一つの表明でしょう。代田文孝という方も発見しました。この方は代田文彦先生のお兄様だったのですが幼少の頃にお亡くなりになったとのことでした。

 

午後3時半頃、写集合写真を撮ろうと思って、改めて墓前の方を眺めると、逆光になることが判明。昨年の正月に小平霊園に柳谷素霊先生の墓参りをした時と同じ状況となっていました。そこで一つの真理を発見。<浄土は西の方にあるとされているので、お墓も西を背にして建てるのが本当なのではないか>ということでした。

 

 




 

 

 


  

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三角筋筋力低下による外転制限と思えたのに、外関運動が効果あった症例(81才、女性)

2018-12-20 | 肩関節痛

1.主訴:両肩関節の外転制限

2.現病歴


痩せて筋力が少なそうな高齢者。2~3週前から次第に、自力では右肩関節は外転60°以上はできなくなった。ときには45°程度しか外転できなくなることもある。当院初診3日前からは左肩関節にも同症状が出現した。
ただし肩関節周囲の痛みは感じない。他動的には外転ROMはほぼ保たれている。アームドロップサイン正常 ペインフルアーク正常。

3.診断:三角筋の筋力低下
 
上腕外転自動運動90°未満は、棘上筋の問題であることが多いが、本例は肩関節の運動時痛もないので、三角筋の問題であると考えた。三角筋が問題となるケースには、外転筋オーバーユース(料理人、ウェイトレス等)の場合と、三角筋筋力不足(高齢者・運動不足・虚弱体質者)の場合もあるが、本例は後者だと判断した。


4.当初の治療

 
1)三角筋停止部症を考えて、圧痛ある臂臑に刺針しながら、リズミックスタビリテーション手技を行うと、少し改善するが持続効果に乏しいかった。

 
※リズミックスタビリテーションとは

リズミックスタビリゼイション(Rhythmic stabilization 律動固定)とは、PNF(固有受容性神経筋促通法)の一手法。
患者と術者が反対方向の力を加えることでの均衡状態のこと。力を入れた主動作筋に対して、反対側にある拮抗筋は緩むという性質を利用する。これをⅠa抑制とよぶ。筋の緊張を緩めることで関節可動域の拡大を図る狙いがある。鍼治療では、肩関節付近の最大圧痛点に浅刺した状 態でリズミックスタビリゼイションを行うようにするとようだろう。

 


5.外関刺針しての肩関節外転運動

  
三角筋の収縮力不足であれば、やはり身体を鍛える以外に症状改善の手段はなく、それは一朝一夕には成し遂げられないのかと治療を諦めかけた。その時、肩関節の痛みと外転制限には陽池や外関に1㎝ほど直刺して、直後から大幅に外転角が増した症例があったことを思い出し、左右の外関に1㎝ほど直刺した状態で、肩関節の自動外転運動を行わせてみた。すると直後から左右とも肩関節外転角が135°あたりになった。

 
この効果は、3~4日後の再診後には消失しているが、外関に運動針をする度に外転角が135°程度まで回復し、最近では治療前でも外転90°程度を保つようになった。なお三角筋停止部である臂臑への運動針では、こうした外転制限を改善させる効果はなかった。 


6.「外関刺針しての肩関節外転運動」が奏功した意味

 
ベッドに向かって椅坐位となり、上肢をベッド上に置いて脱力させ、外関に1㎝直刺する。この状態で被験者にゆっくりと肩関節外転動作を行わせると、針体は首側に傾くことが判明する。なお手関節を背屈させると、針体は指側に傾く。
外転動作時は、指伸筋を収縮(起始に向かって筋が動く)するので、針体は指側に傾くと予想していたのだが、予想外の結果になった。

そこで筋収縮ではなく、皮膚が引っぱられてこの結果を生むのではないかと考えを改めた。外関に1㎝直刺した状態で、四瀆部の皮膚を曲池方向に1~2㎝引っぱってみた。すると針体は曲池方向に傾いたことで、この皮膚が動いたという仮説は正しいらしかった。ただし肩関節の外転制限がある症例で、そのすべてに外関運動針が効果あるとは限らないので、外関運動針が有効となる条件を模索すると、どうやら三角筋停止部の臂臑の圧痛が出ることと関係があるらしい。三角筋停止部と指指筋間の皮下筋膜の連動線(=アナトミートレイン)が関係しているのではないかと思った。皮下筋膜の問題だとすれば、深刺は必要ないだろう。

※四瀆:前腕屈筋側のほぼ中央。指伸筋腱と小指筋腱との間。
※臂臑:三角筋の上腕骨停止部。上腕の上方1/3ほどの部位。

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戦時下における集団施灸の効果(代田文誌著「鍼灸読本」より)Ver.2.3

2018-11-26 | 灸療法

 本稿は、<保険灸について>とするブログを、上記タイトルに変更したものです。

数年前私は代田文誌著「十四経図解 鍼灸読本」春陽堂刊を入手した。初版は昭和15年で、昭和50年代に再版された。今日ではそれも絶版となった。

 集団的に施灸を初めたのは、昭和八年五月第二次自衛移民(500名)が満州に渡る時で、さらに昭和13年の茨城郡内原村にある満蒙開拓青少年義勇軍訓練所の開所から昭和20年まで、保険灸を施していた。義勇軍は満州に渡って後も引き続き保険灸をやることになっていた。富国強兵を国是としていた時代のこと、高価な医薬品を必要としないお灸で健康増進に役立てるなら、ということで国が保険灸普及の後押しをした。

その折、団員向けの小冊子を製作しようとのことで、昭和15年春陽堂から「鍼灸読本」を出版した。基礎的な内容なので本稿で特記すべき点はあまりないが、健康灸について興味深い内容を発見した。

いずれにせよ、戦争に負けて以後、この構想は頓挫し、戦後まもなく訓練所の建物も解体された。


1.三パターンの保険灸

城県内原村、義勇軍訓練所において、保険灸として以下の三種の規則をつくって灸をした。
下記経穴に、半米粒大灸5壮づつ実施。

1)健康「上」と認める者に、身柱・風門・大椎・曲池・足三里
2)健康「中」と認める者に、身柱・風門・大椎・四華・中脘・曲池・足三里
3)健康「下」と認める者に、身柱、風門、大椎・四華・肝兪・脾兪・腎兪・関元・天枢・曲池・足三里
 
註)四華:
四花ともいう。ヒモを首にかけ、鳩尾のところで両端を切る。このヒモの中央を喉頭隆起にかけ、その両端を背部にまわし、脊柱上でその先端に仮点(ア点)をつける。次に口を閉じて左右の口角の間を測り、脊柱上のア点にその中央部をあてて、その左右にイ、ウの2点、上下にエ、オの2点、計4点に施灸する。(本間祥白著「図解実用経穴学」より)
膈兪と霊台および八椎下(筋縮と至陽の間でTh7棘突起下)の計四穴になる。潮熱・盗汗(肺結核時のような)、虚弱体質時に灸療する。

 

 

 

2.取穴理由

1)誰でも17~18才となると風門に灸した。これは風邪を予防し、同時に心臓の機能を整える目的。風邪は万病の始めであると古人は恐れていた。また同時に膏肓も併せて灸する。その意味はおそらく結核の予防と全身の活力を強めるためであったと思える。

2)24~25才ともなれば三陰交を加える。これは花柳病(=性病)の予防と生殖器を健康にならしめ婦人にあっては月経を整える爲であろう。

3)30~40才頃になると、足三里にすえる。これは胃を健康にし老衰を防ぎ、一切の疾病と予防し、その上長命を保つ方法とした。、
なお老いて視力の減弱を防ぐために足三里、併せて曲池へ施灸することもあった。

  

3.沢田流太極療法との相違点

「鍼灸読本」を出版したのは代田文誌40才の時だった。この年には「鍼灸治療基礎学」も出版し、翌年には「鍼灸真髄」も出版している。師匠の沢田健は文誌が38才の時に死去している。

「鍼灸治療基礎学」や「鍼灸真髄」は、沢田健の治療すなわち沢田流太極療法を大いに褒め讃えている。「鍼灸読本」にみる保険灸の取穴理論は、「三原気論」理論や五臓色体表を用いていないという点で本式の沢田流太極療法とは異なるが、沢田流基本穴に似た面があり、かつ一般人にとって考え方が分かりやすいものとなっている。

沢田流太極療法の説明

 http://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/90e2d4cb08485c0c8c12a8780dd7d6e6


※沢田流基本穴:百会穴、身柱穴、肝兪穴、脾兪穴、腎兪穴、次髎穴、澤田流京門(志室穴)、中脘穴、気海穴、曲池穴、左陽池、足三里穴、澤田流太谿(照海穴)、風池穴、天枢穴など。(時代により多少変化あり)

 

4.田中恭平氏の「健康長寿の灸」 と神田勝重氏の「保険灸」

内原村義勇軍訓練所で、代田文誌の同僚として次の2名の鍼灸師が、保険灸の配穴について記している。文誌を含めて計3名が同じテーマで記載しているが、それぞれ微妙に内容が異なっているのが興味深い。


1)田中恭平の「健康長寿の灸」
2018年6月22日、匿名氏から田中恭平『灸の医学的効果』309頁「健康長寿の灸」の内容紹介コメントを頂戴した。田中氏は、内原の満蒙開拓義勇軍の内原訓練所衛生課内の鍼灸部で代田文誌と一緒に働いていた。

① 身柱、風門、足三里の五点 ‥‥健康上の者
② 身柱、四華、三里の七点‥‥‥ 健康中の者
③ ②に腹部基本灸四点と左右の曲池を加へた十三点 ‥‥健康下の者 
④ ①に膈兪、肝兪、脾兪、腎兪、腹部基本灸の十二点を加へた都合十七点‥‥健康下の者 

(「腹部の基本灸といふのは、私・田中恭平自身で決めた基本灸でありますから、書物には基本灸などと云ふ文句はありません。腹部基本灸の穴は中脘、天枢、関元。)

2)神田勝重氏の「保健灸」
上述の匿名氏は、神田勝重『灸療要訣』(日本書房)115頁「保健灸」についての内容も紹介してくれている。神田氏は序文で、『灸療要訣』の内容の大部分は、私の師 代田文誌先生が後日『鍼灸治療要訣』として刊行される草稿の中より必要と思はれるものを寫させて頂いたものである」と記している。

①健康上と認めるもの‥‥身柱、風門、霊台、曲池、足三里
②健康中と認めるもの‥‥身柱、風門、四華、中脘、曲池、足三里
③健康下と認めるもの‥‥身柱、風門、四華、中脘、気海、腎兪、脾兪、次髎、左陽池、足三里、太谿


3)3者の比較

①健康度「上」

 

万病の元とされる<風邪>の予防のためだろう。上背部の灸を重視しているように見える。

②健康度「中」

 健康度「上」の風邪の予防に加え、肺結核の予防のためか、横隔膜あたりの刺激を重視しているようにみえる。

 

③健康度「下」

健康度「中」の肺結核予防に加えて、脾兪・腎兪など消化吸収力を高めることで、食物が人体に取り込むことで栄養になることを期待しているかのようだ。

興味深いのは、神田勝重氏の左陽池の灸である。左陽池は沢田流太極治療の伝統的治療穴の一つとして、沢田健先生は非常に重視していたのだが、代田文誌先生は、後に合理性に乏しいとして選穴しなくなった。陽池は三焦経の原穴であるが、沢田先生の独特の考え方として、三焦を重要視していた。その理由として三焦は生体における化学反応を連続的に起こす条件としての体温を一定に保つ内部環境があげられるという。陽池の左側を取穴するのは、人身の右を陰とし、左を陽とするという素問霊枢の説からきている。陽池は陽の池だから左をとるのが原則である。もちろん右の陽池を使っていけないというのではない。

沢田先生はほとんど書物を残さなかった方ではあるが三谷公器著「解体発蒙」を紹介する際の序文として、<三焦概論>という一文を残している。上焦を宗気、中焦を営気、下焦を衛気と関連づけて考察している内容となっている。ただしこの考えに賛同する者は少ない。


5.集団施灸の効果

昭和50年4月15日。日鍼灸誌に堀越清三氏により「集団施灸の一例」として当時の将兵約800名に対する集団施灸(1週間~3ヶ月間)のデータを報告している。当時は軍機密として公表されなかった。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/24/2/24_2_22/_pdf/-char/ja

一般兵、錬成兵、将校と下士官のグループ別で、それぞれその半数に施灸を行い、残り半数を施灸を行わない対照群とした。施灸前後に種々の体力測定を行い、施灸の効果の有無

を検討している。2回分析を行っていて、その結果は少々異なるが、おおむね次のようなった。(2回分析中、ともに有効なものを<有効>とし、1回のみ有効なものを<やや有効>と、2回ともに効果なかったものを<いまだ効果を見ざるもの>と分類してみた。

<有効と思われるもの>
体重増加、100m疾走の短縮、食欲増進、脚力、夜間排尿回数の減少

<やや有効>
睡眠、1000m疾走、懸垂、負担早駆、

<いまだ効果を見ざるもの>
患者発生状況
 

6.5人で協議してきめた保険灸の部位

奥野繁生からメールを頂戴した。保険灸の取穴について、当時の鍼灸師スタッフ5名が協議して「保険灸」の治療ポイントについて検討した結果が記されている文献を発見したとのこと。以下、奥野先生のメール内容。


『東邦医学』誌第6巻第7号(昭和14年6月、復刻版第四輯所収)を眺めていたら、代田文誌「鍼灸余話」という記事があり、そこに「青少年義勇軍の灸療」として、こう記されていました。

「茨城県内原の満蒙開拓青少年義勇軍に於て保健のためにその全員に灸をしてゐることに就ては前にも記したことがあるが、本年(昭和十四年)四月二日に、内原の青少年義勇軍訓練所に於て、同所長加藤完治先生を中心として、帝大医科の茂在教授、日大医科の齋藤教授と田中恭平氏と私との五人で協議した結果、左の様な灸を一般に行ふことに決定した。そのことを、茲に併せ記して大方の参考にしたいと思ふ。

一、健康甲と認める者に。身柱、風門、大椎、曲池、足三里。
二、健康乙と認める者に。身柱、風門、大椎、曲池、足三里、中脘
三、健康丙と認める者に。身柱、風門、大椎、曲池、足三里、中脘、関元、四華。
以上は、内原義勇軍訓練所の衛生部に於ける医師との協定の上にて一般的に施す灸治である。以上の灸点を選んだ理由については煩雑であるから今は記さぬが、これだけの灸にて青少年達の健康を維持し、その体格を向上せしめ、併せて結核其他の病気の予防に役立つであらうことは、確信して疑はぬ処である」

五人で協議した結果、だったのですね。(引用以上まで)

 

上記取穴を図示してみると以下のようになった。

 

先に挙げた3名の健康灸パターンに似てはいるが、微妙に異なっているものとなった。まあこれが正解という筋合いのものではないが‥‥
健康度「甲」と健康度「乙」とでは、中脘穴を加えるか否かという点のみが異なる。健康度「甲」健康度「乙」ともに上背部刺激は重視しているが、中背部や腰部を取穴していないのが特徴的である。

 

 

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肩中兪刺針の針響 Ver.1.2

2018-11-15 | 頸腕症状

1.肩中兪刺針は腕神経雄に影響を与える
(鈴木由紀子:腕神経叢の圧迫に肩中兪「疾患別百科 頚肩腕痛」、医道の日本社、2001.3.25)

取穴:座位。大椎穴(C7T1棘突起間に大椎をとり、その外側2寸。

  ※定喘:大椎の外方1㎝、治喘:大椎の直側(外方0.5㎝)   

刺針:2寸4番針にて直刺4㎝。(椎体の外側を深刺する)


考察:
肩中兪の直刺深刺は解剖学的は腕神経叢に直接命中するのではなく、僧帽筋→肩甲挙筋→中後斜角筋→前斜角筋と貫く。腕神経叢は、前斜角筋と中斜角筋に挟まれた形で存在するので、肩中兪の針は間接的に腕神経叢に影響を与える。


.新針法の肩中兪刺針の針響
(長尾正人「弾発指から上肢の神経痛・五十肩まで」医道の日本、平成11年12月号より)
 
刺針法やや上方からの深刺→肩関節部へ針響(肩甲上神経刺激)                  

ほぼ中央からの深刺→上肢へ針響(橈骨・正中・尺骨神経刺激)            
やや下方からの深刺→肩甲間部のコリに効果(胸神経後枝刺激か?)           

※上2者は、腕神経叢刺激だろうか。括弧内の神経は筆者推定。  


3.肩中兪刺針の私的見解(似田)

 
坐位で2寸4番針にてやや脊柱側に向けて10°の角度で直刺4㎝。椎体の外側を擦るように 入。深刺すると斜角筋・腕神経叢刺激になり、星状神経節にも影響を与えるのだろう。したがって頸椎神経根症、前斜角筋症候群に適応があるのは勿論、頸部交感神経節刺激という点から、バレリュー症候群、気管支喘息、などにも適応がある。

肩中兪から斜角筋に刺針し、さらに少々深さを増すようにすると肩甲間部に響くようだ。

 

 

長尾氏は、肩中兪から下方に深刺すると 肩甲間部のコリに効果あると記しているが、これを肩甲間部に響きが得られるというように解釈し、その針響の起こる理由を考えてみた。胸神経後枝を刺激するとも考えたが、あまりに深刺になるので無理があった。
 
しかし前斜角筋のトリガーポイントを考えると、この疑問は氷解したようだ。斜角筋トリガー活性時、放散痛は肩甲間部にも出現するということだ。さらには甲間部以外にも、上肢に響いたり、肩関節部にも響くようだ。針の方向によって意図的に針響方向を変えるのは難しいが、被験者の痛み閾値が低下している部分(すなわち患部)に響くということだろう。


先に紹介した鈴木由紀子氏の考察は、当時はまだトリガーポイントという考え方が普及する以前の頃のもので、やむを得ない。

 5.代田文誌の治喘刺針の針響報告
(「針灸臨床ノート」第4集、医道の日本社刊、昭和50年6月30日)

肩中兪についての上記文章を書き終えた後、同じようなことを代田文誌先生が書き残していたことを想い出した。治喘の穴」とのタイトルで、「快速針刺激法」にでている治喘穴についてであった。治喘穴との名称は、これまでわが国では知られていなかった。文誌が、これまで治喘穴を大杼一行として用いていたものだった。「快速針刺激法」の記載は次の通り。

取穴:C7棘突起とTh1棘突起間に大椎をとり、その2~3分傍ら。骨縁。
主治:喘息、咳嗽、脊柱両側の痛み、後頭部の痛み。
針法:直刺1~1.5寸
針感:しびれて腫れぼったい感じが、下方に伝わり、背部または腰部に達する。

文誌自身の体験:昭和46年12月初旬に流感となった。葛根湯を飲んだり、身柱や風門に灸したがよくならず、やや慢性して咽痛や咳が出はじめ、夜中に咳がでて呼吸困難を感じるほどになり、布団の上に座っていなければならぬほどになった。
そこで自分で治喘と思えるところに針を打ってみたら、やや楽になったので、息子の文彦(代田文彦先生)に「快速針刺激法」の通り、治喘の針をしてもらった。
針尖を脊柱に沿って下方に向け、約1寸5分ほど刺入してもらった。すると脊柱に並行して下方に5寸jほどひびいていったが、針を抜いて更に直刺1寸ほどしてもらったら、針のひびきは、頸の方から咽の方に達した。すると間もなく咽が楽になり、咳が鎮まってきて、体を横にして眠ることができた。(以下略)

似田の見解:感冒は通常、発病後5日前後までは進行期(=副交感神経優位状態)であり、その後に回復期(=交感神経優位状態)に変化して発病7~10日程度で治癒する。副交感神経優位の症状とは、鼻水・発熱・だるさ・食欲不振などで、交感神経優位症状とは硬い黄色の鼻水出現であるが、この交感神経優位段階では元気を回復しており、日常生活ができるまでになっている。
しかし患者の中には7~10日どころか、数週間もカゼをひいている、カゼが抜けないという者がいる。これは、なかなか交感神経優位状態に移行できない者なのだろうと筆者は考えている。この時のカゼの治療は、交感神経を優位にするような施術を行う。具体的には「身体に活をいれる治療」で、座位にての強刺激の施灸がよい。

治喘から深刺しても斜角筋に達しないが、この部の筋(長短回旋筋など)状態が過敏状態となっていたので斜角筋に影響を与え、併せて交感神経優位に導いたとものと解釈した。

 

 

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