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AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

呼吸困難の体験例(続)

2025-08-14 | 雑件

前回のgooブログでは7月1日~4日に検査入院ということを書きました。以下はその後の経過です。冠状動脈カテーテル検査の検査、冠状動脈が3本とも詰まっていることが判明しました。それにしては胸痛の自覚もなく、レントゲンで映らないほどの細い動脈が発達しているのだろうとの解釈でした。いずれにしても緊急事態のことに変わりなく、4日退院の予定が、4日午後2時に榊原記念病院(循環器専門病院)に転院しました。
慌ただしくルーチンの検査を終え、急遽午後4時からバイパス手術(左右の下腿静脈血管を抜き取り、冠状動脈の役割を代行)を実施することになりました。これはステント手術では間に合わないほど閉塞部位が多かったという理由です。手術は約4時間。
経過は順調で、8月2日に退院。現在すこしづつ体力回復に努めているところで、少しづつ鍼灸治療も行っています。体力、気力とも低下しました。
ただ心臓の状態は、3割程度しか正常に機能していないそうです。(術前は17%だった。)
これまで入院や全身麻酔手術の経験がなく、自分を健康体だと思っていただけに、それなりに年をとった(71歳)のだと思い知らされました。ビールも大瓶1本までと制限されいる状況です。
 令和7年8月14日 似田敦

ちなみにgooブログはこの秋に終了となるというので、以降はamebaブログに移行の予定です。
タイトルは同じく、「AN現代針灸治療」です。
とはいえ、残念ながら頂戴したコメントは移動できず、消失するとのことです。

 


呼吸困難の体験例

2025-06-16 | 雑件

1.呼吸しづらさの自覚

71歳男。10日前頃から呼吸しづらさを自覚した。当初は心理的なものかとも思ったが、呼吸苦は次第に強くなった。深呼吸しようにも息を十分に吐き切ることができない。日中仕事している時はそれほど息苦しさがは感じないが、横になって休むと十分に息が吐けず、椅子に腰掛けて眠るという苦しい状態が続いた。同時にの頃から食欲がまったくなくなった。下肢浮腫あり。お終始、胸痛(-)動悸(-)


市内で呼吸器科を標榜しているK医院受診。胸部X線で胸水を指摘され、市内の中規模クリニックでCT検査をするよう指示。対症療法として気管支拡張剤メプチンエアーの吸入剤を処方された。
その2日後、K医院から電話あり。CTの結果が思わしくないので、直ちに来るように言われた。即刻受診すると、胸水の量が多く心不全の恐れもあるので、直ちに入院するようにと言われた。
これを聞いて驚き、入院準備してタクシーで立川S病院内科ER訪問、そのまま緊急入院となった。なお入院は今回が初めての経験である。


2.緊急入院


パルスオキシメーター(指先に光をあて、動脈血酸素飽和度を測定)では89~92%と、酸素が十分に身体に取り込めていないことが判明、緊急入院が決定した。


呼吸が苦しいのは、胸水の存在により肺が十分に伸縮できないためで、胸水の理由は心不全により、心臓の動きが低下して血液をさばききれないため。呼吸苦の治療は利尿剤を使うという。今後は心不全の原因を探っていくということだった。確かにこの時の体重は86.5kgであり、1ヶ月前の体重83kgと比べて重くなっている。それだけ体内に水が溜まっていることを示している。


3.入院経過
 
入院初日は、呼吸苦のためベッドに横に寝ることができず、椅子に腰掛けて上体をかがめると何とか呼吸できる状態。すなわち起座呼吸状態。酸素吸入5ℓ/分を受けると確かに呼吸が楽に感じた。なおこの酸素量は通常使用の最大値である。使用薬は点滴に利尿剤ラシックス混注。


2~3時間経過すると小便が多量に出るようになるとともに息苦しさが軽減、翌日には呼吸苦は消失した。ただし酸素吸入4ℓ/分。

治療と平行して心不全の原因を探るため、精密なEKG検査、再度の胸部エックス線検査と胸部CT検査、造影剤を使った胸部MRI検査を実施した。その結果、心筋梗塞の既往があることが判明した。(胸痛の経験は一回もないが)。血圧低下に対しては、心収縮力を強める目的でドブタミン静注を実施していた。利尿降圧剤ラシックスは、胸水を取るのに非常に効果的だが同時に血圧も下がるので、私の場合は使い加減が難しい。

その5日後からパルスオキシメーターは常時95%を超えるようになり、酸素マスクが外れる状態にまで改善した。また体重は1日0.4㎏づつ減少するようになった。
結局、令和7年6月2日から13日間入院し、6月14日退院となった。退院時体重は79.5kg。ちなみに入院費は本人2割負担で約75,000円だった。


4.退院時の状況


ドブタミン静注をしていたのだが現在の血圧は、安静時はBP90/60、運動後はBP100/70程度とあまり上昇せず、
心収縮力は弱い状態が続いている。今回の心不全も、思い当たるきっかけはなかったが、再び予兆なく心不全が再発する危険性もあるということだ。心不全完治の治療法はないらしい。調べてみると心不全の五年生存率は5割だと書かれていた。平均余命はまだ先の話になるが、健康寿命(男性では平均72.6歳)を終えたという意味になるのだろう。医師からは体重の急激な増加、血圧低下に注意しつつ自己管理が必要だと念を押された。次回は7月から3日間、心臓カテーテル検査入院を予定。 

それまでがメタボリック症候群ということで降圧剤を服用して血圧は上120程度に抑えていたのだが、今度は血圧下がり過ぎということで、これも心不全の結果だろう。脈拍は10年前から90/分と頻脈だったが、糖尿病のため2ヶ月毎に定期受診している医師がこれを重要視してこなかった。今思うと、一回心拍出力低下のため心拍数を増やすことで補っていたのかもしれない。

※「あんご針灸院」は、6月15日より再開しています。


5.心不全 heart failure について(筆者、「現代針灸臨床論」テキストより)

心臓のポンプ機能が低下し、体の需要に応じた血液を十分に循環できなくなった状態を心不全とよぶ。左心室の機能低下にある場合を左心不全、右心室の機能低下にある場合を右心不全と呼ぶ。性能の低下した部分の、その前段部分に症状が出現し、これを前方負荷と称する。

1)左心不全 

左心不全が悪化すると、左心の拍出力が弱いため、血液が肺胞内に貯留(=肺うっ血)し、咳、痰、喘鳴を伴う呼吸困難発作が起こる。あたかも気管支喘息のような状態になるので、これを心臓喘息とよぶ。 
 左心不全の徴候:チェインストークス呼吸(睡眠時)、肺鬱血、心臓喘息
    
2)右心不全
右心不全では、右心室に環流できない血液が体循環に溜まり、前方負荷の結果として体循環鬱血症状(全身浮腫、外頸動脈怒張)を呈する。重度の慢性気管支喘息の者は、気管支喘息→肺性心→右心不全となり、体循環鬱血症状が出現する。
 右心不全の徴候:全身浮腫、肺性心、COPD   

肺性心: 肺疾患で肺血管抵抗が増大していると、右心室は強引に血液を肺に送り込もうとするため、右心室肥大に、そして右心不全になる。COPDの末期で、長期入院しているような者は、すでに肺性心になっている。

要するに、左心不全では呼吸困難が生じ、右心不全では下肢浮腫などが生ずる。

 

 

 

 


麦粒腫への二間の灸と面疔への合谷多壮灸 ver.1.1

2025-06-02 | 眼科症状

鍼灸師の間では、麦粒腫に対して患側(健側でもよい)の二間穴に灸をすると、腫脹吸収あるいは排膿促進につながるというのが常識である。しかしながら患者も鍼灸治療で麦粒腫を治す目的は来院せず、麦粒腫瘍そのものも自然治癒しやすいので、鍼灸院でも患者に治療する機会は多くない。自分自身や自分の身内に試みるくらいなので、症例集積まで至らないのである。わかっていることは以下のごとくであろう。

①麦粒腫というのは、おそらく外麦粒腫のことである。
②二間穴は学校協会教科書の二間(「十四経発揮」の二間)と澤田流二間があるが、ともに同程度の効果がある。麦粒腫の治効として有名なのは澤田流二間の方である。学校協会の二間は、
第2中手指節関節の下、橈側陥凹部になるのに対し、澤田流二間は示指PIP関節裂隙の橈側に取穴する。

 

③二間は、健側治療、患側治療とも同程度の効果がある。
④二間の針は、効果が乏しい。
⑤せんねん灸でも、有痕灸でも効果がある。有痕灸では艾炷の大きさや壮数ともさまざまであるが、効果優劣は不明である。
⑥腫脹しているタイプは腫れが引き、膿が出ているタイプは排膿を促進させる。

筆者も内・外麦粒腫に対しては二間へのゴマ大灸施灸5壮程度を行うことが多い。これで眼のうっとうしさは少し軽減するが、症状消失までには至らない。しかし施灸した翌朝には眼が気にならない程度になるのが普通である。多壮灸の方が効果あるともいうがその経験はない。
 

1.麦粒腫になぜ二間を使うのか?

麦粒腫は、眼自体の疾患というより、眼瞼という皮膚疾患であることから、経絡的には大腸経病変とみなすのは古典的解釈になる。ただし大腸経上の経穴が多数ある中で、なぜ二間なのだろうか? 昔から不潔な指で目をこすったりすると麦粒腫になることが経験的に知られていて、目をこする指の部分が二間あたりになるからだと考えた。「手当て」という素朴な認識から、麦粒腫の治療穴として二間を思いついたのかもしれない。

ちなみに、代田文彦先生は、「眼球前の皮膚には二間を、角膜・結膜あたりの病変には曲池を、網膜あたりの病変には風池・天柱を使う」と話していた。さらに「膜」には血流があるので鍼灸が奏功する理由があるとも語った。その意味で、白内障の鍼灸の効果に対しては否定的だった。


2
.眼瞼の血流増多が治効を生むのか?

針灸治療で二間の灸は有名だが、二間の針では効果がないという。麦粒腫に対する現代医学的治療は眼瞼部の温罨法、ときに抗生物質内服である。唐麗亭は、閉眼させ1.5吋30号針で、眼瞼全体を上下に6回、左右に6回程度まんべんなく接触刺して皮膚が発赤し、患者の患部周囲が気持ちよく感じるまで行うと記している(三種刺法在眼病的応用、「北京中医学院三十年論文選」、北京中医学院編 1956~1986、中医古籍出版社)。この治療法は原理的に、温罨法と同じものだろう。                  

瞼への温罨法や接触針で、麦粒腫が改善するということは、血流を豊富にすると良いらしい。ということは、二間の灸の治効も、眼瞼の血流改善に効果があるらしいと推定できる。顔面の血流増加を意図するという点では、面疔に対する合谷多壮灸も同じである。

 

3.面疔には合谷多壮灸

1)面疔とは

 

面疔とは顔面にできたセツのこと。黄色ブドウ球菌の感染症で毛嚢炎が悪化した状態である。セツそのものは重篤な疾患ではない。

病巣部である眼窩や鼻腔、副鼻腔などは薄い骨を隔てて脳と接しているため、抗菌剤が普及していない時代には、敗血症や脳膜炎の原因となり死亡することもあった。沢田流鍼灸創始者の沢田健も面庁で死亡した。


2)合谷多壮灸

面疔の治療といえば、合谷が有名である。昭和中期まで、「桜井戸の灸」といって、静岡県の清水で面疔の治療で名をはせた名家があった。1日500人の患者が来院し、近所には患者宿泊用の旅館もでき、駅(静岡鉄道の草薙駅)もできた。

平成6年頃まで、熱心に当院に来院していた当時95歳の男性がいた。この患者は、なんと桜井戸の灸のことを実体験として知っていた。下足番もいたという。
治療は合谷への数十から二百壮の多壮灸で、面疔の痛みが取れるまで壮数を重ねた。患者は自宅への復路、東海道線に乗ったが、途中で再び痛くなると、列車内で灸する者もいたという。


3)なぜ合谷なのか

古人は発赤や腫脹などの炎症所見に対して、軽症ではやがて自然治癒するが、重症では化膿して、それが排膿した後に治癒すると考えていたらしい。排膿しなければ治らないのだから、毒素を体外に排出するため、皮膚に出口をつくる必要があった。多壮灸や打膿灸でわざと化膿させるのは、毒素の出口をつくるのが目的だったらしい。大腸経は、下顔面と関係が深いことが知られていたので、合谷を取穴したのだろう。面疔の治療穴として頤(かい)の灸がしられている。頤はオトガイで下顎のでっぱり部分をさす。頤の灸も面疔の排膿の意味があると思われた。

 

 

4.足の三陽経流注と脳幹の脊髄路について

二間の灸が麦粒腫に効き、合谷の多壮灸が面疔に効くといった発見は、手の三陽経の走行が上肢の陽経側から頭顔面へ流注するという流れを想定すると理解できるが、すると今度は手の三陽経走行が、なぜそのような流れになっているかという新たな問題にぶつかる。そこで三叉神経脊髄路を考えることで、納得のいく回答を導きたいと思うが、少々難しい話になる。理解できる方だけでもお付き合いください。

1)面疔に対する合谷多壮灸の治効理論

よく知られているのは、天柱に刺針すると、眼精疲労が改善する理由で、これは大後頭神経刺激→C2神経根→頸髄→三叉神経と刺激が伝わることによる。
これを大後頭三叉神経症候群とよぶ。この頸髄から三叉神経への神経路を三叉神経脊髄路とよぶ。

天柱刺激と同じように合谷を刺激すると、その信号は頸部神経根から脊髄に入り、脊髄視床路(脊髄を上行して視床に至る神経路)に入り、視床を中継して大脳で痛み感じる。この脊髄視床路は、三叉神経脊髄路(三叉神経を上行してC2~C5頸髄に至る神経路)核と連絡があるため、下位頸神経刺激(たとえば合谷)が三叉神経に影響するという考えである。

脊髄から分岐する神経の根元を神経根とよぶのに対し、脳幹から分岐する脳神経の根元を神経核とよぶ。12対の脳神経は、脳幹の定まった部位から分岐するのだが、三叉神経は例外で、中脳・橋・延髄・頸髄(C2~C5,あるいはC1~C3で文献により異なる)という広範囲に神経核が存在している。このうち臨床でしばしば問題となるのは三叉神経核が頸髄から出る部分で、これを三叉神経脊髄路核とよぶ。

顔面の知覚を支配する三叉神経は周知のように1枝・2枝・3枝と分かれて顔面を支配するが、これは三叉神経節より末梢の場合であって、三叉神経核との支配は異なる。延髄から橋にある三叉神経脊髄路核は、オニオンスキンパターン(鼻・口を中心としたタマネギ様同心円状の皮膚感覚解離)が生ずる。三叉神経脊髄路核が障害を受けると、病巣側にたとえば頸髄損傷(C2~C5)では、顔面をぐるりと取り巻く部位に温・痛覚障害を生ずる。上図の三叉神経脊髄路核①は、鼻から口領域となり面疔の好発部位に一致する。


下歯痛・耳鳴に共通する一本針伝書「頬車」の考察

2025-05-28 | 経穴の意味

  一本針伝書の下歯痛の針と、耳鳴の針はよく似ている。その相違点を調べていくことにする。

1.下歯痛

1)下歯痛に対する裏頬車水平刺(「秘法一本針伝書)
 
東洋療法学校協会の頬車は、下顎角の前上方で歯を噛み締めると咬筋が緊張し、力を抜くと陥凹するところにとる。 しかし一本針での頬車は、下顎骨の裏側縁にとり、下顎骨裏面に沿って刺入する。したがって、下歯痛の一本針は標準的な頬車ではないので、これを「裏頬車」と称することにする。

①体位
痛む歯を上にした側臥位。上歯と下歯との間に手拭いをまるめて噛ませるようにする。

②取穴
下顎骨隅を指でナデ上げるようにする。初めは軽く、除々に強くなでると骨の欠け目がある。上にゴリゴリした筋肉様のものがある。この下の陷凹部を穴とする。

③刺針
針尖が口吻(こうふん)(=口元)の方向に向くようにし、針尖を下顎骨中(内に非ず、外に非ず、骨中を標的)に刺し透すような心得で刺入。深度は1寸~1.6寸位。(中略)痛む歯に針響あれば手をもって合図させる。響いたならば除々に抜除し、後揉捻しない。
☆注目すべきは、「耳の中に針響がある場合には針尖を下方に向ける」という一文である。この考察は耳鳴の一本針の項で説明する。


2)裏頬車水平刺の意味
   
通常の頬車は、下顎骨の表層を取穴するのに対し、素霊は下顎骨の裏側に入れる。頬 車水平刺は内側翼突筋中に刺針することで、下歯槽膿神経刺激をしている。「骨の欠け目」というのは、下顎骨と内側翼突筋のつくる陥凹だろう。

下顎孔から骨中のトンネル中を走りつつ、下歯に知覚神経の枝を出し、最終的にオトガイ孔から下顎骨表面に出る。このオトガイ孔部を刺激することのできる部分は裏頬車など狭い範囲に限定され、ここ以外の下歯槽神経は骨トンネル中にあるため、針で直接刺激できない。たとえば大迎(下顎角の前1寸3分で顔面動脈拍動部)からでは刺激できない。


2.耳鳴


1)「一本針伝書」の耳鳴りの針頬車水平刺
   
耳鳴りの一本針は、下歯痛の一本針と同じく裏頬車水平刺のことをさす。技法と深度も下歯痛と同じだが刺針方向が異なる。

下歯痛の治療は、患側上の側臥位でタオルを咬ませ、頬車から下顎骨内壁に沿うように水平刺すると下歯槽神経を刺激し、針響は下歯に至るというもの。
耳鳴りの治療は、まず下歯痛の一本鍼をして針響を下歯に得た後、今度は針先をやや上方(耳介方向)に向け、1寸ほど刺入するというもの。すると耳中に響きを感ずる。

2)「耳鳴の一本針」の考察

耳鳴に対する一本針である頬車水平刺の施術は、顎二腹筋後腹刺激になると考えた。

顎二腹筋後腹の起始は側頭骨の乳突切痕(乳様突起裏側の陥凹)、停止は舌骨であり、顔面神経支配。下顎角あたりの顎二腹筋後腹にはトリガーポイントがあり、このトリガー活性化は耳鳴りと関係があるという見解が散見できる。


3)顎二腹筋後腹筋腹への刺針


一本針伝書にみる頬車は水平刺しているが、顎二腹筋後腹筋腹際に刺すには直刺が適している。仰臥位で、顎を上げて健測に顔を向け、指先で顎下部を軽く押圧してスジバリを触知して刺針。寸6#2で1~2㎝刺入する。


一本鍼伝書の症状別治療の区分は大雑把なものだが、耳中疼痛と耳鳴は個別に説明している。耳中疼痛は中耳症状で、痛みは鼓室神経(舌咽神経の分枝)興奮によると私は推定しているが、頚筋や顎関節由来でもその関連痛として耳中疼痛は生ずるだろう。


4)蝸牛神経と連絡している脳神経


耳鳴は内耳症状であるが、針灸で治療可能なのは、いわゆる体性神経姓耳鳴で、具体的には顎関節症や頸部筋痛症など筋や関節運動により引き起こされたものになると思われる。ここでは顎二腹筋後腹のトリガーポイント活性による耳鳴として把握している。

難聴・耳鳴は蝸牛神経症状である。蝸牛神経は、脳幹レベルで種々の脳神経と連絡しているので、三叉神経・顔面神経・迷走神経などを刺激したりしても、耳鳴治療として効果があるかもしれない。


秘法一本針伝書における柳谷風池と柳谷完骨の考察

2025-05-27 | 経穴の意味

 柳谷素霊著「秘法一本針伝書」に収録されている眼疾一切の針「柳谷風池」と耳中疼痛の針「柳谷完骨」の図は非常に似ているが、詳しくみていくと別物であることがわかる。柳谷風池は、乳様突起の下後縁から対側眼窩方向に刺入する。これに対して柳谷完骨は、乳様突起の下後縁を刺入点とし、胸鎖乳突筋停止部をくぐるように耳孔方向に刺入する。両穴間の相違について説明する。

1.風池

1)位置と刺針

東洋療法学校協会教科書(以下、標準と記す)の風池の位置は、乳様突起下端と瘂門穴との中間で後髪際陥凹部にとる。ただし瘂門は項窩の中央、C2棘突起上方の陥凹部。後髪際を入る5分の陥凹部にとる。
一方、柳谷風池は、乳様突起後方に軟骨様の小突起(三角形で尖端下方に向く)中で、顎を上げると凹陥のある部にとる。針尖は 三角形の小隆起下を通過させ、対側の眼窩の方向にもっていくるような心得で5分~2寸刺入。側頭部または眼底に針響を誘導する。

2)柳谷風池の考察と適用

柳谷風池は標準風池に比べ、3㎝ほど外方になり、ほぼ標準完骨の位置になる。標準風池と柳谷風池はともに頭板状筋刺激になると思われる。また両穴とも対側の眼窩に向けて深刺すれば、大後頭神経刺激になる。大後頭神経刺激という観点からは天柱刺針の目的と同様の意味になる。以上の推測から次のことがいえるだろう。

①頭板状筋は、胸鎖乳突筋とともに、頭部を左右回旋する作用がある。

②大後頭神経痛の治療に用いる。大後頭神経痛は症状であって、真因は、頭半棘筋緊張にあり、本筋緊張によりC2後枝が興奮した結果である。したがって診断名は緊張性頭痛になる。

③大後頭神経刺激では、大後頭神経刺激→C2神経根→三叉神経脊髄路→三叉神経と刺激が伝わり(=大後頭三叉神経症候群)、三叉神経痛とくに眼精疲労(一本針伝書では眼病一切とあるで用いられる。


2.完骨

1)位置と刺針

標準完骨は、乳様突起基底部の後下方の陥凹部に取る。天柱と並ぶ高さ(C1C2棘突起間)になる。
柳谷完骨は、側臥位で脱力開口。乳様突起尖端後側、胸鎖乳突筋付着部で、指頭をここに付着させながら、頭をやや後方に曲げると、乳様突起と胸鎖乳突筋の付着部が陥むところにとる。
側臥位で脱力開口。耳孔に向け、乳様突起の下をくぐらせるように刺入。吸気時に留め、呼気時に刺入。寸6#2~#3で1寸~1寸3分刺入。、針尖がグリグリしたものに当たったところで留め、弾振して気の往来を待つ。耳の奥に響いたら、呼気にゆっくりと抜針する。針響を好む患者では、手技で響きを持続させる。


2)柳谷完骨の考察と適用

乳様突起の浅層には胸鎖乳突筋停止があり、乳様突起の奥に隠れるように顎二腹筋後腹の起始(側頭骨乳突切痕)がある。乳様突起後下縁の胸鎖乳突筋下から耳孔方向に刺入し、針先を顎二腹筋後腹停止部にもっていく。


顎二腹筋後腹の機能は、一言でいうならば開口時の下顎骨の位置を正常に保つことにある。顔を上に向けると、閉口しづらくなるのは顎二腹筋後腹が下顎骨を後方に引っ張るからである。顎二腹筋のトリガーポイント活性すると、耳鳴・難聴、耳閉感が生ずるとされる。
※顎二腹筋には前腹と後腹があるが、耳症状の治療として重要なのは後腹の方である。なお前腹への施術は梅核気の治療に用いられることがある。

 

3.柳谷風池・柳谷完骨と標準位置の一覧表


 


三焦・心包とは何か? ver.2.0

2025-05-21 | 古典概念の現代的解釈

1.五臓五腑あるいは六臓六腑?

古典では陰陽五行説が支配しているので、内臓は五臓五腑に分別する。五臓とは肝・心・脾・肺・腎、五腑とは胆・小腸・胃・大腸・膀胱である。ところが経絡の正経は12経あり、それぞれに所属臓腑があるので、五臓五腑ではなく六臓六腑として把握される。臓には心包が、腑には三焦が加わるのである。

三焦と心包は現代医学にない概念であり、解剖してもその実体がないことから、これまで心包と三焦は何を意味するものか、大いに議論されている。心包とは心嚢を指し、三焦とは腸の大網を指すという見解もあるが、私は、心包の機能とは心臓を動かす力であり、三焦とは体温を生む機能だと考えている。

その理由を記す。


2.心包・三焦の機能は生きていることのバイタルサイン

生者と死者の臓器は基本的に同一である。ただ生者はそれが機能しており、死者は機能していない。では死者を死者とする所見は何だろうか?それは心停止と体温低下、(さらに瞳孔拡大)であることは今も昔も変わることがない。すると生者にあって死者にないものを探せば、心臓を動かす力が心包の機能であり、体温を生む力が三焦の機能であることが自ずと知れてくるのである。換言すれば、心包と三焦の機能停止が死となる。生者は六臓六腑が機能し、死者は五臓五腑になるともいえるだろう。


 

3.手に属する経絡と足に属する経絡

上左図の高橋晄正医師考案の図は、手に所属する臓腑、足に所属する臓腑の区分についての示唆を与えてくれる。体幹内臓を横隔膜を境として胸部内臓と腹部内臓に区分されているが、この2つは相似形になっている。体幹内臓を立体的に描いているのは手に所属する6臓腑で、水色で簡略的に示しているのが足に属する6臓腑である。

12経絡の何が手の所属で、何が足の所属なのは、明確な回答がないようだが、この図を見るとそれも理解できる。手に属する臓腑は、生命活動工場設備そのものである。工場稼働スタンバイの状況にあり、三焦が機能して地熱発電所(=ボイラー)の温度が上がり、心包が機能してモーターを回転させ工場を作動させる。


その状態になった後に足所属の臓腑が活躍して工場が稼働する。外部から原材料を運び(脾・胃)、加工して製品をつくる(肝・胆)。その過程で産業廃棄物(腎・膀胱)は廃棄される。これを続けることで生命活動が営まれる。


4.ゴールドを火で溶かして、この養分を四肢末端まで行き渡らせる

ところで、この生命活動工場は、何を製造しているのだろうか。これも五臓色体表から導き出すことができる。
胸部臓腑は、心(火)・心包(火)・肺(金)であり、腹部臓腑は、小腸(火)、三焦(火)、大腸(金)である。
これを高橋晄正医師の図に当てはめると、胸部内臓・腹部内臓とも、るつぼに入れた金(ゴールド)を火で溶かし煮詰めている場面が思い浮かぶ。このゴールドは身体隅々にまで養分として行き渡るのだろう。あたかも古代中国の錬金術さらにその背後にある道教思想まで想いをはせることができる。
 
金丹とは?
中国道教で説く仙人になるための薬。金丹の金は、火で焼いても土に埋めても不朽である点が重んじられた。我が国ではお伊勢参りの土産物として、今日でも萬金丹とよばれる漢方の丸薬が販売されている。トイガンで使うBB弾ほどの球状で黒く、
少量の金箔(?)をまぶしている。ちなみに萬金丹(マンキンタン)は、アンポンタンの元ネタ。


第10回針灸奮起の会実技セミナー  現代針灸からみた「秘法一本針伝書」 のご案内(終了)

2025-05-20 | 講習会・勉強会・懇親会

A.本セミナー参加のお誘い
 
「秘法一本針伝書」は、柳谷素霊が行った針灸局所治療を紹介している。ただし"伝書”とは、昔から伝承された秘技という意味もあるから、必ずしも素霊自身が見出した治療とは限らないかもしれない。
本書のような局所治療法は、現代針灸派にとっても興味深いが、類書と同様、本書も治療法の根拠を示していない。ゆえに針灸初心者は、素霊がどうしてこのような治をするのか理解できないだろうが、一定の針灸臨床経験があり、すでに自分のやり方を確立している者にとっては、素霊の方法と比較することで、いろいろな点を発見できるだろう。要するに者によって本書の価値は変化するのである。そこで過去のブログで、なぜ素霊がこうした内容を記したのかを推察するとともに、現代針灸から検討を加えてみた。今回のセミナーは、その集大成といえる。とはいえ古い書なので現代針灸的観点からすれば納得できない点も多々あった。素霊の示した治療法は二十症状に対するものだが、これでは余りにも少ない。そのため最小限と思える☆印の症状を加え、それぞれに私の見解を示すことにした。 
    本セミナーは、実技指導を中心としたものであり、受講生12名に対し指導3名としています。受講生は2人一組で6ペアとなり、それに指導者3名を配置しますので、非常に行き届いた実技指導となります。なお指導者は、私以外に現代針灸実力派である小野寺文人先生、岡本雅典先生にお願いしています。


B.セミナーの要項


1.会場:
国立市中1丁目集会所:東京都国立市中1丁目10-34       
   JR中央線国立駅、南口下車徒歩3分

2.開催時間 午後4時~6時30分頃 
3.定員:各回とも12名、 見学は2名以内。(定員になり次第〆切)
4.日程(基本的に第2第4日曜) 
  残席は5月17
日現在の状況です。
 第一回 3月9日(日曜)  B.腰下肢     終了しました
 
第二回 3月23日(日曜)   C.膝痛・肩関節痛・肩こり     終了しました
 第三回 4月13日(日曜)   D.体幹内臓     終了しました
 第四回 4月27日(日曜)   A.五官科①(歯科、眼科)     終了しました。

 第五回 5月18日(日曜)   A.五官科 ②(鼻科、耳科、咽喉科)  終了しました
  実技講習会後に、打上げ・兼小野寺文人先生(下写真下段中央)の誕生日会を実施しました。53歳となりました。
上段の左から二人目は、桑原正敬先生で、四国の徳島から遠路はるばるほぼ皆勤で参加されている方です。徳島と東京を一泊二日で往復すると、
御夫婦で13万円かかるということでした。お一人で上京すればもっと安くできるのに、と言うと、奥様は東京行を楽しみにしていると言っていました。まあ仲の良いのは結構なことです。

    

写真左は、岡本雅典先生、右は笠貴乃先生

5.会費:一般8000円、学生7000円、見学4000円。当日払い。領収書発行します。
6.お持ちいただくもの 
 各回オリジナルカラーテキストを配布。針灸実技用の道具類も支給。
 ②筆記用具はご持参ください。
7.懇親会
  講習会後、駅前の居酒屋にて懇親会実施。 飲食費は3000~3500円程度(当日受付)
8.参加お申し込み方法
      参加御希望の方は、①参加希望会のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話、⑤Eメールアドレスを、Eメールまたは電話でお伝えください。
      折り返しご連絡を差し上げます。お申し込み〆切は各回とも開催前日午後3時頃までとします。ただし参加者12名に達した場合、その時点で受付終        了します。各回ごとに見学者は2名以内
です。
  連絡先:あんご針灸院 似田 敦(にただあつし) 
   電話042(576)4418 
   メールアドレス nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp

 

C.セミナーの概要  ( )内はテキストページ数
  ☆の症状は、一本針伝書になく、私が独自に取り上げた治療法になる。

A.五官科(27ページ)

 第1章      上歯痛の針(客主人)
 第2章      下歯痛の針(頬車)
 第3章     ☆顎関節症(下関、頬車)、舌痛(上廉泉)、歯肉痛(歯肉局所)
 第4章      鼻病一切の針(印堂)
 第5章         耳中疼痛の針(完骨)
 第6章      耳鳴の針(頬車)
 第7章       眼疾一切の針(風池)
 第8章       咽の病の針(合谷)

B.腰下肢痛(11ページ)

 第9章   下肢後側痛の針(外大腸兪・坐骨神経ブロック点)<座骨神経痛>
 第10章   下肢外側の病の針(環跳)
       ☆下肢内側の病の針(陰包)
 第11章   下肢前側の病の針(居髎)
 第12章  ☆腰重と下肢不定症状の針(仙腸関節刺針)<仙腸関節機能障害>
 
C.膝関節痛・肩関節痛・肩甲上部コリ・肩甲間部コリ(12ページ)
 第13章  ☆膝痛の針(内外膝眼、鶴頂、鵞足、委中)
    第14章   五十肩外転制限の針(肩髃、肩髎、肩井斜刺)
 第15章  ☆結帯動作制限の針(天宗と肩貞) と結髪動作制限の針(膏肓水平刺と臑兪)
 第16章   肩甲間部のコリの針(モーレー点) 
 第17章   肩甲上部のコリの針(肩井) 

D.体幹内臓症状(13ページ)

 第18章   排尿痛の針(中極・関元)
 第19章  便秘の針(左四満外方5分)
 第20章  上実下虚の針(崑崙)
 第21章  五臓六腑の針(華陀夾脊)

 

※参考:今回セミナーの元ネタとなった「AN現代針灸治療」ブログ

第1 上歯痛の鍼(客主人) 
第2 下歯痛の鍼(頬車)
   ①2022/09/31:歯のくいしばりに対して顎二腹筋後腹への運動針が有効な例
   ②2023/01/17:顎関節症の針灸治療 改訂2版
   ③2023/05/23:歯周病に対する局所刺針の方法と女膝の灸 ver.1.8
   ④2024/07/13:上歯痛の針灸治療ver.2.0
   ⑤2024/08/01:下歯痛の針灸治療ver.1.2        
   ⑥2024/08/06:三叉神経第Ⅲ枝関連の顔面骨孔への刺針 
   ⑦2014/09/14:舌痛症の針灸治療 ver.1.2
第3 鼻病一切の鍼(印堂) 
   ①2017/07/19:嗅覚障害の針灸治療
   ②2002/12/06:慢性副鼻腔炎の針灸に上星の灸とマイクロライド長期投与
   ③2022/12/14:慢性副鼻腔炎と花粉症 ver.1.3    
第4 耳鳴の鍼(頬車) 
第5 耳中疼痛の鍼(完骨) 
   ①2006/03/15:耳鳴治療と舌咽神経ブロック針
   ②2010/07/16:顎関節症由来の耳鳴りに対する針灸①
   ③2013/07/24:耳鳴りの治療改訂版 その2
  ④2015/01/30:新・耳鳴の針灸治療 鼓室神経刺激と顔面神経下顎縁枝刺激 ver.1.1
   ⑤2017/10/10:耳鳴りの針灸治療まとめ2017年版
   ⑥2021/09/20:質問紙を使った耳鳴分析と鍼灸の奏功例 ver.1.1
   ⑦2023/02/11:難聴・耳鳴りに対する側頸部治療穴の理解 ver.1.2
第6 眼疾一切の鍼(風池) 
   ①2011/11/09:緊張性頭痛に対するトリガーポイント治療の整理 その3
   ②2012/10/14:緊張性頭痛治療に効果的な天柱・上天柱の刺針体位 ver.1.2
   ③2015/01/14:調節性眼精疲労に対する針灸治療の考察
   ④2021/01/08:眼窩内刺針が刺激対象とするもの ver.2.2
   ⑤2021/10/08:眼精疲労の鑑別と針灸治療
   ⑥2023/01/20:私の行っている眼窩内刺針の方法 ver.1.5
第7 喉の病の鍼(合谷)
   ①2015/03/17:大椎・治喘・定喘の効能
   ②2021/07/26:咽頭・喉頭症状に対する現代鍼灸
   ③2021/09/09:咽喉異常感症(咽頭神経症)の針灸治療・手技療法ver.2.0
   ④2023/01/13:咳嗽の針灸治療
   ⑤2023/08/18:喉頭症状に対する前頸部の針灸治療点の整理 ver.1.1
第10 下肢後側痛の鍼(外大腸兪・坐骨神経ブロック点)
   ①2006/03/10:腰下肢症状の診断
   ②2020/10/11:腰部神経根症に対する大腰筋刺針と坐骨神経刺針ver.1.3
   ③2021/03/03:「秘法一本鍼伝書」②<下肢後側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討ver.1.1
   ④2023/12/19:居髎と環跳の位置と臨床運用
第11 下肢外側の病の鍼(環跳) (「下肢内側の病の鍼」含む)
   ①2006/07/11:殿部~下肢外側痛の病態と針灸治療(とくに小殿筋筋痛症)
   ②2017/05/05:殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛
   ③2018/08/13:「秘法一本鍼伝書」③<下肢外側の病の鍼>の現代鍼灸からの検討
   ④2019/06/08:大腿外側痛の病態把握と針灸治療
   ⑤2021/07/11:<下肢内側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討 ver.2.1
第12 下肢前側の病の鍼(居髎) 
   ①2010/12/28:股関節部痛に対する小殿筋深刺と、大腿直筋刺針の工夫 ver.1.2
   ②2015/08/23:変形性股関節症の針灸臨床 ver 1.5
   ③2018/06/04:大腰筋性腰痛の症状と鍼治療 ver.1.1
   ④2019/03/18:「秘法一本針伝書」①<下肢前側の病の鍼>の現代鍼灸からの検討ver.1.1
第16 四十腕五十肩の鍼(肩髃、肩髎) 
   ①2006/03/11:肩関節痛に対する巨骨斜刺+肩前斜刺
   ②2012/10/09:五十肩で上腕外側痛を生じる理由と治療法
   ③2013/05/12:肩関節痛に対する肩髃から肩髎への透刺(柳谷素霊の方法)
   ④2018/08/21:「秘法一本鍼伝書」⑤<上肢外側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討ver.1.2
   ⑤2018/08/21:「秘法一本鍼伝書」⑥<上肢内側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討
   ⑥2022/01/07:五十肩の鍼灸治療を苦手とする理由ver.1.1
   ⑦2024/05/11:肩中兪刺針の針響 ver.1.2
   ⑧2024/07/26:肩関節外転制限の針灸治療法ver.2.0
   ⑨2024/07/27:結髪・結帯制限の針灸治療理論
   ⑩2024/07/28:結髪・結帯制限の針灸治療技法
第17 肩甲間部のコリの鍼(缺盆) 
第18 肩甲上部のコリの鍼(肩井移動穴)
   ①2006/06/09:頸神経叢刺激点としての天窓
   ②2006/06/09:腕神経叢刺激点としての天鼎・肩中兪
   ③2024/05/11:肩中兪刺針の針響 ver.1.2
   ④2010/07/15:肩甲骨上角のコリに肩外兪運動針、肩甲骨部~肩甲上部のコリに附分斜刺
   ⑤2012/10/10:肩甲骨裏面に自覚するコリの正体と刺針法 ver.2.0
   ⑥2017/02/07:肩甲上部と側頸部のコリへの解剖学的針灸と坂井流横刺
   ⑦2022/02/15:膏肓穴についてver.1.2
   ⑧2024/11/01:柳谷素霊著、「秘法一本針伝書」肩甲間部のコリの針の考察ver.1.4
第13 急性淋病の鍼(中極・関元)p 32  
   ①2023/08/14:切迫性尿失禁が中髎の灸1回で改善した自験例(69才、男)
   ②2023/11/25 :尿路結石の疝痛は、側臥位での外志室深刺が効く理由 ver.1.1
   ③2024/11/03:「秘法一本鍼伝書」にみる急性淋病の針治療について
第14 実証便秘の鍼(左四満外方5分)p 34
          ※臍下2寸に石門をとり、外方5分に四満をとる。
第15 虚証便秘の鍼(左四満外方5分)p 36
   ①2013/09/08:痙攣性便秘と各種下痢に対する針灸治療
   ②2024/11/05:成書にみる便秘の局所治療穴
第19 上実下虚証の鍼(崑崙)
   ①2017/02/24:冷え性に対する針灸治療ver.3.3
   ②2022/12/15:足冷の針灸治療理論とテクニックver.1.1
   ③2024/11/19:柳谷素霊「秘法一本針伝書:上実下虚の針の考察
第20 五臓六腑の鍼(華陀鍼法)(脊柱棘突起外方5分
   ①2011/01/09:膻中穴圧痛の古典的意味と現代医学的意味 ver.1.2
   ②2018/05/25:腹診に関する現代医学的解釈 ver.2.0
   ③2019/12/10:心下痞硬・胸脇苦満の病態生理と針灸治療
   ④2020/12/10:柳谷素霊の「五臓六腑の針」と私の刺針技法の比較
   ⑤2023/08/30:胃倉・魂門の刺針目標
   ⑥2023/10/04:柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」五臓六腑の鍼の解説 ver.3.0
第8  上肢外側痛の鍼(肩髃)p22  →「四十腕五十肩の鍼」参照
第9  上肢内側痛の鍼(肩貞)p24   →「四十腕五十肩の鍼」参照


鼻と陰茎のトリビア ver.1.1

2025-05-13 | 耳鼻咽喉科症状

1.海綿体構造があるのは鼻と陰茎だけ
 
昔、フェリックスマン著 「 針の科学」を読んでいて、今でも記憶に残っている記載がある。「鼻甲介と陰茎は、人体における海綿体構造という共通点がある。海綿体構造はこの2カ所以外になく、これは鼻と陰茎が何らかの共通性があることを示唆している」との内容である。

鼻甲介は海綿体構造なので、充血して体積が増えると鼻閉となり鼻呼吸しづらくなる。
ペニスも海綿体構造で、勃起時には陰茎内に血液が充満し、その体積は7倍程度になる。
ただ当時はインターネットといったツールもなく、それ以上の知見は進捗しないまま、30年以上が経過した。


2.副鼻腔内の空間にはNO(一酸化窒素)が多く、NOは線毛運動活発化させる。

 
最近になりNOが人体に与える反応について分かってきたことがいくつかある。

①副鼻腔内の気体組成は、NOが多く、通常の大気の組成とは大きく異なる。
②NOは血流増加時、血管の内皮細胞から放出され、副鼻腔内の線毛の活動を活発化さる。そのことで副鼻腔内の痰や異物を外に出す働きがある。
ちなみに副鼻腔炎の現代針灸治療理論は、鼻口腔・副鼻腔を知覚神経支配している三叉神経第1枝を刺激する目的で、攅竹・印堂・挟鼻などにチクリとした刺激を与えることで、交感神経を興奮させるという内容だった。交感神経興奮では、血管内腔が細くなり血流低下する(それにより鼻閉改善や鼻汁量軽減する)ので、NO放出条件と一見矛盾するようだが、血流増加させるには一度血流を止める状況をつくり、それを開放するれば一気に血流増加させることができる。つまり攅竹・印堂・挟鼻刺激により、副鼻腔内の線毛運動の活発化が期待できる。


3.NOが全身の血管に与える作用と勃起作用

 
①NOは、血管を若く保ち、動脈効果を予防して、血圧を安定させる作用がある。

②性的興奮により勃起が生ずる。するとペニスの血管内皮細胞から、NOが放出される。勃起の機序は複数の化学物質が連鎖的に作動するが、勃起起動スイッチといえるものがNOになる。


4.鼻の大きさとペニスの大きさは関係するか? 

 
京都府立医科大学の研究チームは、126人を対象にした研究結果で、鼻の大きさ(左右内眼角の中央から外鼻孔までの長さ。鼻の高さは関係ない)と、通常時の伸ばした陰茎サイズに相関関係があることを明らかにした(2021年2月発表)。

しかし鼻の長さと勃起時のペニスの大きさとの関連性は調査していない。また鼻が長い者は、体格が大きいともいえるので、身体のいろいろなパーツも大きいだろう。
 
余談:以前、医学統計の講習会に参加したことがあり、その折の講師の話。ある書道の先生は、子供の文字の上手さと靴の大きさが相関することを発見して狂喜した。しかし冷静になって考えると、靴の大きさと年齢は正比例するから、年長になるほど文字が上手になることは、当たり前のことだった。
 


郡山七二と小山曲泉の眼窩内刺針の相違点と私のやり方

2025-05-01 | 眼科症状

1.郡山七二の眼窩内刺針(「針灸臨床治法録」天平出版、昭和48年刊より)

現在、「針灸臨床治法録」は絶版で、古書にしてもなかなか入手しづらいので、同書の内容をできるだけ忠実に記述することに努めた。


1)その発端     


郡山七二(1893-?)の眼窩内刺針という発想は大正8年から始まった。倉内末正医師の指導を受け、また動物実験(兎、犬、猫)を使って眼窩内刺二十数回の実験第一歩を踏み出した。その間なんらの副作用はなく、技術的にも大した支障もなかった。この結果を受け、大正10年に初めて人体に採用した。その後、幾人かの患者に実施して、ある種の病気にある程度奏功することも判明したので、大正13年8月、毎年夏に行っていた実地講習会において、この眼窩内針法を初めて発表した。

当時の針灸師の反響としては、奇抜なやり方だとして、その真偽さえ疑われたのだが、次第に行う者が増えていった。


2)眼窩内刺針の理論と刺針上の注意

 
眼球には4種の末梢神経が通過ないし所在しており、また眼球の運動を含む数個の筋群その他がある。もしこの眼窩内に針を刺入できたら、ある種の疾患に、ある程度奏功しそうだと考えた。

眼球と眼窩の間には、小指の先が入るほどの間隙がある。 この間隙内には筋・脂肪・結合識など柔軟な組織があり、針は別段の抵抗もなく案外容易に入る。ただし2~3㎝くらい張った時、骨に突き当たる場合が多い。これは上眼窩なら針尖が上の、下眼窩ならば針尖は下の眼窩壁に突き当たっていることによるから、ちょっと針を戻して、上手に操作しつつ静かに入れてやると、針が眼球の壁に沿って少し彎曲しつつほとんど無感覚、無抵抗で入っていく。上眼窩には割合入れやすいが、下眼窩は眼窩壁面に凹凸が多いので、余程練習しないと深刺は難しい。
針は1~2番針の、なるべく柔軟なものがよい。(ステンレス針などは硬い)。針が眼球内に入ることは避けるべきことである。郡山は、針先が眼球に触れた時の感覚を動物実験でたびたび実験してみたが、何となく針先がゴム製品に触れている感じで、軽い抵抗を感ずるのですぐ分かる、と記していた。


3)刺入部位

 
だいたい3部位で事足りる。疾患に応じて、内眦(ないし 内眼角)部、中央部、外眦(がいし 外眼角)のいずれかに限定して選択する。中央の針は、施術数十分後に紫色の瘢痕を生ずることがある。上は眼窩上動脈、下は眼窩下動脈が中央を貫通していることが原因だと考えた。その後はこれらの動脈を避けて刺入するようになってから、その種の失敗は一回も犯していない。

上眼部でも下眼部でも、中央部の針は1㎜ほど内または外から針を入れ、2㎝ほど深部で神経に触れる角度で入れてやると、血管に針が刺さらぬので出血しない。

          

4)主な適応症


①眼精疲労:もっともてきめんによく効く

②ノイローゼ
 すぐれた精神安定作用がある。刺針点は、前記の眼精疲労とともに、内眦部に1㎝ほど1本刺すだけでよい。
③三叉神経痛
 第一枝痛:前頭神経痛に有効。上眼窩中央の針で2㎝刺入。前頭神経に当たれば、前頭部に響きを感ずる。
 第二枝痛:下眼窩神経痛には、下眼窩中央の針で、2㎝刺入。
④仮性近視:上内眦部と下内眦部を選択
 

2.小山曲泉の掃骨法による眼窩内刺針

小山曲泉著「神経痛掃骨針法」明治東洋医学院出版部(昭和53刊)も絶版である。古書で入手するには数万円となり、非常に高価である。

小山曲泉(1912-1994)は、掃骨針法で知られている。掃骨針法とは、筋の骨付着部に対して10番程度の針で、骨を削るように深刺する技法のことである。小山は、郡山七二より19歳年下であり郡山の講習会などに参加しして影響を受けつつ、掃骨という手技で眼窩内刺針を行うことを考案した。


1)掃骨針による眼窩内刺針の理論

   
眼精疲労を訴える患者に対し、眼球そのものを押圧するのと、眼窩内に手指を折り曲げて按圧するのと、どちらが気持ちよいかを聴取すると、文句なしに後者の方が気持ちよいとの返答が得られる。すなわち骨を圧重した方が気持ちよいらしい。

これは三叉神経の第1枝、第2枝の末端がそれぞれ眼窩上神経、眼窩下神経となって 眼窩の骨に分布し知覚をつかさどっており、過労・ストレス・循環障害などで神経障害を惹起 するものと考えればよい。掃骨針法の場合、眼精疲労といより眼窩神経痛に対する刺針法ともいえる。

2)刺入部位


繁用するのは上眼窩が一番多い。同時に承泣、内眦の睛明、外眦の瞳子髎等を併用する。掃骨針ではあるが眼窩内刺針では10番ではなく3~5番針を用いる。圧痛の方向に骨の変性を探り、コツコツと軽く雀啄する。そこには必ず快痛のヒビキがある。


3)治療効果


掃骨方式の眼窩内刺針を行えば、涙目・かすみ目・痛み眼等の重圧が一挙にとれる。


3.小橋正枝先生への質問と回答

今日において掃骨針法伝承者の代表といえば大阪市で開業されている小橋正枝先生だろう。一昔前、メールで質問したことがあった。眼窩内刺針で、選穴はどうするのか、また刺針方向はどうするのかとの内容だった。これに対してご丁寧な回答を頂戴した。
 
眼精疲労を訴える者は、左右の目頭を母指と示指でつまむようなポーズをとる。これは上睛明穴に相当し、この穴が最も使用頻度が高い。

刺針方向についてであるが、患者に針管を渡し、眼窩から気持ちのよいと思う方向に押すよう指示する。これが刺針方向になるということだった。
掃骨針の要領は、鍋についたおこげを落とすように刺針する、とのこと。筋に対しては、筋付着部のサビを落とすように刺針する。




4.私(似田)の眼窩内刺針の変化
 
私が郡山七二方式の眼窩内刺針を行って以来、すでに30年以上経過している。眼精疲労など機能的な眼症状に対しては、ある程度の効果があったようだが、同時に天柱・上天柱・風池・翳明・太陽といった穴に施術することも多く、眼窩内刺針の使用が不可欠だったとは言い難い。網膜色素変性症患者にも上睛明、球後(後述)に30分置針して、蒸しタオルで温補したが、目立った治療効果は得られなかった(治療直後効果として、一過性に視野がやや広がった)。

郡山七二の眼窩内刺針は、ほとんど針響がなく、術者の刺し手にもシコリに当たったという手応えがない。深刺すると眼窩内の骨に当たるが、骨に当たってもそれ以上刺入しないので、針響はないのが普通である。
 
そこで数年前から小山曲泉方式に変えてみた。私(似田)が小山曲泉の方法で気持ちよい圧痛点を探してみると、上睛明のやや外方と承泣(瞳の下で骨縁にある陥凹)2点に圧痛が出現する傾向があった。これらを刺入点とし、圧痛硬結に向けて刺入すると、硬い組織(=骨膜)、当たった。そこを削りとるように細かく針を上下に動かすと眼球に響いた。

眼窩内の骨にぶつかるまでこのシコリに向けて4番針で約2㎝刺入、5分間置針してみた。患者は眼球部に重い感じがしたとのこと。閉眼状態で、上下左右の眼球運動を数回指示したこともあったが、その際もとくに刺激感はなかったようだ。


5.眼窩内刺針の二つの代表治療点



1)上眼窩裂溝内刺針(上睛明) 


位置:眼球と上眼窩の間隙。具体的には瞳孔線上、瞳孔線の内眼角寄り、深部に視神経管(視力を司る視神経が通る)がある。

 患者に針管を渡し、「一番つらいと思う場所を、気持ち良く感じる方向に押してみて....」というと、大抵の患者は睛明もしくは睛明の5㎜上から直角に     深く押圧するようになる。確かに眼精疲労の際、母指と示指で目頭を強く押圧するのは、 日常的にもよくある動作である。このように考え、私は眼窩
 内刺針では睛明の使用頻度が多い。

2)球後
位置:外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さ。球後は眼窩と眼球間の間隙がやや広い部であり、深刺しやすい部である。
 球後とは眼球の後という意味で、中国では内眼病(網膜や視神経疾患)の治療穴として使用されているが、治療効果は不明である。

刺針:眼窩内に直刺、その後針尖を上内方に少し向け、視神経方向に刺入。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚える。   
 
※毛様体神経節刺について

眼球の奥には毛様体神経節がある。これは米粒より小さい。自律神経系に属する神経節で、瞳孔収縮と散大、眼球知覚などに関係し、視覚機能の調整を担当している。球後を刺入点としてかなり深刺すると毛様体神経節刺針となる。中村辰三が実施してみた結果、眼精疲労に効果あったということだが、リスクを考慮すれば積極的には行い難い刺針技法であろう。

 

 


成書にみる便秘の局所治療穴 ver.2.2

2025-04-26 | 腹部症状

 成書にみる主な便秘の治療穴を整理した。以下の治療穴について意味付けを推察してみた。

1.腰部

大腸の上行結腸と下行結腸は後腹膜に固定されていて、腰部後壁と大腸間に後腹膜は存在しない。この臓器を刺激するには、腹部ではなく腰部からの刺激が適する。
一般的に上行結腸は便秘の治療点とならず、下行結腸刺激を刺激目的では、左大腸兪・左腰宜(ようぎ=別称、便通穴)などを刺激する。これらの穴から刺針すると、腰部筋→後腹膜→下行結腸に入る。
上行結腸と下行結腸の内縁には腎臓(Th12~L3の高さ)があるが、下行結腸に刺入する際には、腸骨稜上縁(L4の高さ)から実施することで、腎臓への誤刺を回避できる。 

1)便通穴=左腰宜(ようぎ)   

L4棘突起左下外方3寸。起立筋の外縁で、腸骨稜縁の直上に腰宜をとる。木下晴都は、左腰宜を便通穴と名付けた。やや内下方に向けて3㎝刺入するとある。腰方形筋→下行結腸と入っていく。ただし3cmm程度では下行結腸に達しないかもしれない。横突起方向に斜刺すれば腰仙筋深葉の広範な響きは得られるだろう。

森秀太郎著「はり入門」での刺針深度は「深さ50㎜で下腹部に響きを得る」とある。
代田文誌著「針灸治療の実際」には、「便通外穴」の記載がある。本穴は、木下晴都の便通穴の外方3cmでL4棘突起下の外方8cmとしている。

上図後腹膜器官の図で、小腸やS状結腸は図示されていない。このことは小腸やS状結腸への刺激は、仰臥位で行うべきことを示している。


2.腹部 


1)天枢


森秀太郎が便秘の治療で最も重視しているのが天枢への雀啄針だった。森の天枢刺針は、臍の外方1.5寸を取穴(教科書的には臍の外方2寸)、15~30㎜直刺する。針は腹直筋→大網→壁側腹膜→臓側腹膜→腸間膜→小腸と入ることになる。

中国の文献には、天枢から深刺した場合、下腹から下肢へ引きつれるような針響を得て初めて効果が出ると説明したものがある。大網と臓側腹膜には知覚神経がないことから、この響きは壁側腹膜(体性神経とくに肋間神経)ないし腸間膜刺激となる。なお腸間膜の知覚は迷走神経支配だとする文献を発見した。腸間膜には小腸を吊り下げ固定する機能の他に、小腸からの栄養を吸収し、小腸に酸素を送り込む役割がある。江戸時代後期の医師、三谷広器著『解体発蒙』中の小腸壁から伸びる多数の乳糜管を観察し、これが血の元となり、体温の熱発生源の機能があると推察した。この書を読んだ澤田健は、大いに感動して三焦とはこのことだと推理した。これは現代でいう腸間膜のことではないだろうか。ちなみに臍(神闕)の外方5分にある肓兪の「肓」は腸間膜のことである。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/159cb2af0776c4083e2998a343973b28

澤田健が絶賛した三谷広器「解体発蒙」にみる三焦の正体

 

2)柳谷便通点(左四満移動穴) 

       

学校協会教科書の四満は、臍下2寸に石門をとり、その外方5分としている。柳谷素霊著「秘法一本針伝書」では臍下2寸に石門をとり、その左外方1寸の部としている。つまり教科書四満の5分外方となるが、木戸正雄は本穴を柳谷便通点と仮称した。

素霊は「実証者の便秘には、2~3寸#3で直刺2寸以上刺入して上下に針を動かす。この時、患者の拳を握らせ、両足に力を入れしめ、息を吸って止め、下腹に力を入れさせる。肛門に響けば直ちに息を吐かせ抜針する」
「虚証者の便秘には、寸6#2で直刺深刺。針を弾振させて肛門に響かせる。この時患者の口は開かせ、両手を開き全身の力を抜き、平静ならしめる」と記している。つまりは導引と思える技法を併用している。    
四満移動穴刺針は、解剖的には天枢と同様、腹直筋→壁側腹膜→大網→臓側腹膜→腸間膜→小腸と入る。素霊も「いずれも肛門に響かないと効果もない」と記している。解剖学的には前述の天枢と似ている。

尿道に響かせるには、中極から恥骨方向に斜刺するとほぼ確実に響く。肛門に響かせるには3寸#3で柳谷便通穴から直刺深刺2.5寸程度して、肛門に響きを得る。肛門に響くのは、腸間膜刺激によると思われた。下腹部任脈で、関元・中極・曲骨から刺針すると陰茎や陰核に響くのは陰部神経の分枝である陰茎・陰核神経を刺激した結果である。下腹部から深刺して肛門に響かせるには、関元から下方の前正中を避け、石門外方が狙い目となるだろう。石門自体は白線上なので人によっては刺痛が生じやすく避けた方がよいかもしれない。

便秘の効果的な治療を調べていると、何冊かの本で<肛門へ響かせるのが治療のコツだ>とする記載をいくつか発見できたのだが、どのように肛門に響かせられるかは書かかれていない。そうした中にあって、木戸正雄著「素霊の一本針」に、次のような記述を発見した。
<患者の吸気時に刺入を進めると、約60㎜の深さ(3寸#3針で深刺して1cm残す)で急に響きを得る。響きを確認したら、すぐに呼吸に合わせて抜針する>。早速追試してみると、深さ4cmに達した頃、突然腹深部に響いたとの反応を聴取できた。予想外に深刺する刺針に驚かされる。

3寸#4で健常者にたいしてこれを追試してみると、下腹部~左鼠径部~左大腿上部に響くことが多かった。響かないようであれば押手を強くして下腹部を押圧しつ手技をすると響くようだった。ただし肛門へ響かせることはできなかった。たとえば深刺して鼠径部に響くようであれば、刺針部位をやや前正中に近づけるなどの工夫が必要かもしれない。

澤田健「十二原之表」の解説 - AN現代針灸治療

澤田健「十二原之表」の解説 - AN現代針灸治療

1.代田文誌の「十二原之表」との出会い上表左の一文:上表は、『鍼灸治療基礎学』中のもの。<毎朝六十六難の図に対し、原気の流行・衛栄の往来を黙座省察することで身中...

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3.左鼠径部

 
1)秘結穴   


 

 

 

木下晴都は、標準の左腹結(臍の外方3.5寸に大横をとり、その下方1.3寸)では効果が期待されないと記している(「最新針灸治療学」)。木下の取穴は、仰臥位、左上前腸骨棘の前内縁中央から右方へ3㎝で脾経上を取穴すなわち標準腹結より外側になる。3~4㎝速刺速抜する。この刺針は、針先が腹膜に触れるため、約2㎝は静かに入れて、その後は急速に刺入し、目的の深さに達した途端に抜き取る、と木下は記している。
私は、この針は、腸骨筋刺針になるかもしれないと考えた。下行結腸は深部にあるので、仰臥位で刺入するのは困難である。
腸骨筋は、意外にも骨盤内で広い体積を占めている強大な筋である。この部に糞塊を触知できる弛緩性便秘の治療に使えるだろう。   

 

2)左府舎

森秀太郎は左府舎は恥骨上縁から上1寸の前正中線上に中極をとり、その左外方4寸で、鼠径溝の中央から一寸上に左府舎をとるという。寸6#6番針でやや内方に向けて10~30㎜ほど刺入すると、下腹部から肛門に響きを得る(「はり入門」医道の日本社)とある。
郡山七二は、上前長骨棘から恥骨結合までの10cmあまりの鼠径溝から2~3本。3センチ程度入れるとS状結腸に達する(「現代針灸治法録」天平出版)と記している。

下行結腸と直腸は体幹深部にあるが、S状結腸は鼠径部のすぐ下に位置する関係で、脱腸が好発する部にもなっている。左鼠径部からの刺針で、S状結腸に達することができる。右下腹部にある虫垂は炎症が拡大すると腸腰筋に炎症が波及することもある。


調節性眼精疲労に対する針灸治療の考察 ver.1.1 

2025-04-26 | 眼科症状

1.機能性眼精疲労の分類
機能性眼精疲労の原因は、次の2つに分類されるが、調節性眼精疲労の方が主なる原因であるとされている。

1)調節性眼精疲労(=内眼筋障害) 

毛様体筋の疲労による。毛様体神経節は、目の焦点を合わせ、虹彩の開き具合を調整する機能がある。眼精疲労は、この毛様体神経節および毛様体筋の疲労であると考えられる。 

2)筋性眼精疲労(=外眼筋障害)

輻輳(=より目)不全、斜視による。左右の眼の動きの不統一。                


2.調節性眼精疲労と毛様体筋

瞳孔括約筋は、虹彩の内周にある。巾着袋のような作用で、筋緊張すると口が狭まり、縮瞳になる。瞳孔散大筋は、虹彩の外周にある。瞳孔括約筋と逆で筋緊張すると虹彩が開き、散瞳になる。

遠見時:毛様体輪状筋が弛緩して輪が広がる → チン小帯はピンと張る→ 水晶体は引っ張られて薄くなる。
近見時:毛様体輪状筋が緊張して輪が狭まる → チン小帯が緩む→ 本来もっている性質により、水晶体は厚くなる。

 

 

3.調節性眼精疲労の針灸治療

1)調節性眼精疲労は副交感神経緊張によるのものだろうか?

眼精疲労を訴える患者に対し、伏臥位で天柱から深刺手技針を十数秒間行なった後、患者は「目がすっきりし、外界が明るく見える」などの喜びの声をあげることは、日々の臨床で普通にみられる。ただ筆者は昔から、「外界が明るくなった‥‥」という返答から、虹彩が開いた状態になった、すなわち交感神経緊張状態になったと理解すべきかどうかを悩んでいた。


2)調節性眼精疲労の機序の考察 


①調節性眼精疲労は交感神経緊張症状なのか?

成書には調節性眼精疲労は、副交感神経緊張→毛様体筋収縮→水晶体厚くなるという機序が記載されている。これは直感的には意外なことで、交感神経緊張の間違いではないかと考えがちである。


しかし考えてみれば、本来、人間は近くを見ているとき、リラックス状態をつくっている状態にる。というのは原始時代、人間は仕事として獲物を狩り、そして狩ってき食料を住居で食べて生するという形をとってきた。そのため、遠くにいる獲物を探したり、狩るときは交感神経が優位なり、家の中で家族とご飯を食べている時は副交感神経が優位になることが正常な自律神経サイクルだったという。
しかし現代人では勉強や仕事で頭脳がフル回転しているような状態であっても、血圧も呼吸数も増えていないので身体としては副交感神経緊張であろう。つまり頭脳労働は精神活性化状態ではあっても、交感神経緊張状態とはいえない。
脳と身体の活動の関係は、睡眠におけるノンレム睡眠とレム睡眠の関係に相似している。ノンレム睡眠は、睡眠直後から現れ、脳の疲労回復が目的であるのに対し、レム睡眠は睡眠90分以降に現れ、日中の
交感神経優位状態になった身体を、ゼンマイをゆるめるように副交感神経優位にもどすのが目的である。脳の疲労回復は、ごく短時間睡眠で回復できるのに対し、身体の疲労は90分以上の持続的睡眠が必要である。一回数十分の針灸治療でできることは、脳の疲労に限定されるといえるだろう。

パソコンディスプレーを長時間注視するなどして眼精疲労になることは多いが、これも交感神経緊張症状ではない。これも副交感神経緊張症状である。
副交感神経緊張→毛様体筋収縮→水晶体厚くなるというのが調節性眼精疲労であるなら、これは毛様体過緊張による仮性近視状態になっているともいえる。

②眼精疲労に対する凸レンズメガネの使用

長時間をディスプレーを注視するなどそてこの状態での対処法として、凸レンズめがね(=老眼鏡)をかけてみるのも一つの方法である。凸レンズめがねを使うと、水晶体が以前より厚くなる必要がない→毛様体筋収縮緩和→眼精疲労改善という機序になる。(さくら眼科 院長とスタッフblog より)


③天柱刺針の効果

天柱深刺で眼精疲労がとれる機序は、身体を交感神経緊張状態に誘導した結果だと考える。わが国の習慣として、気合いをいれて物事に取り組もうとする時、ハチマキ巻くことがある。これも交感神経緊張度を高める方法として広く知られている。こめかみにメントール軟膏を少々塗って、眠気を防ぐのも同様である。こめかみ部は、経穴では太陽穴に相当している。

太陽穴の局所解剖
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/fa45a20b1cb0137a5678eaf59e4c5fac


冷え性の手技療法

2025-04-24 | 末梢循環器症状

1.指間グロムス刺激
    
末梢血液循環は、動脈→小動脈→毛細血管→小静脈→静脈と循環するが、毛細血管 を介することなく、小動脈から小静脈へと血流が短絡するルートがあり、これを動静 脈吻合(=グロムス機構 Glomus mechanism)と称する。

グロムス機構が開通するとそれ以下の末梢血流量が減少して冷えが生ずる。逆にグロムス機構が切断すると、末梢血流量が増えて手足末梢の冷えが改善される。
 

このグロムス機構のスイッチの切替は、自律神経の作用で自動制御されるが手指の関節や筋へ刺激を与えて、ある程度介入できる。
手足のグロムスの位置は、針灸でも要穴に一致することが多い。爪甲根部は井穴、指間部は合谷や腰腿点などのいわゆる指間穴、手首あたりには内関や外関などの絡穴、肘関節部には五行穴の一つである合穴が存在している。
 
開いているグロムス機構を、どのようにして閉じさせられるかは、単に正常皮膚温と冷えている皮膚温の境界部分を針灸で刺激するだけでは、効果は得られないようだ。 指圧マッサージのような、冷えのある組織全体を揺り動かすような手技療法の方が効果的ではないかと思うようになった。

そこで勉強会を良い機会として、ベテラン2名の手技を紹介していただくことにした。


2.虫様筋の押圧手技(岡本雅典氏)


手の冷えに対する岡本雅典氏の方法は、術者が患者のMP関節より近位にある虫様筋をリズミカルに押圧するとうものであった。Ⅰb抑制が働いて虫様筋弛緩し、手指に行く動脈血流を増加すると推理した。
解剖学書を調べてみると、虫様筋には指へ繋がる血管の貫通枝を見つけたからだった。虫様筋の酷使が、指に行血管を絞扼することがあるかもしれない。自分の体験では、頻回のオートバイのクラッチレバー操作で、手指の厥冷が生じたことがある。瘦せ型の女性でしたら、野菜を切るなどの繰り返し動作でも、虫様筋が血管を絞扼する程度の筋短縮によって常時手指が冷えるようなことがおこるのではないだろうかという考察をしてみた。}
足冷については、足の動脈弓から足の各指に伸びる動脈への血流不足を改善するため、足底指間にある虫様筋を押圧刺激する。

3.前腕屈筋側、下腿屈筋側の押圧手技(小野寺文人氏)

手の冷えに対して、両手掌にて前腕屈筋側への体重をかけた持続押圧による動脈圧迫 を行いつつ、複数回の手関節屈曲・伸展の自動運動を指示するというもの。小野寺によると、北里大学の冷えの施術の中にあった手技で、テレビもしくは医道の日本?だったと思うと話していた。

足冷には、伏臥位で足首下に高めのマクラ(下写真では座布団2枚を折って使用)等を入れて、膝関節を強い屈曲肢位とする。術者はふくらはぎを両手掌にて持続圧による動脈圧迫を十数秒間行う。その間、患者に足関節の底背屈と足指の屈伸運動を指示し、その後圧を抜く。水洗トイレの詰まりをとるラバーカップ(すっぽん)で吸引するイメージ。

 

4.ノボセ(逆上)の原因
  
ノボセとは、頭顔面部に限局したほてり(火照り)だといえる。ノボセ、発汗過多は 更年期障害(または子宮卵巣の摘出手術後)の典型症状である。卵巣からの女性ホル  モン分泌不足すると、下垂体前葉からの性腺刺激ホルモンが分泌増大し、卵巣にもっと 女性ホルモン分泌増やせと命じるが、更年期障害では卵巣機能が低下しているので女性 ホルモン分泌を増やせない。すると下垂体がさらに性腺刺激ホルモンを分泌せよと命令する。この結果、下垂体前葉機能亢進によりノボセや発汗過多が起こる。ノボセはホルモン分泌異常が正体なので、針灸での治療は難しいようだ。

 


歯ぎしりと歯の噛みしめの針灸治療 ver.2.0

2025-04-08 | 歯科症状

1.ブラキシズム bruxism とは
 
歯ぎしりや、噛みしめはブラキシズム(口腔内悪習慣)と総称される。歯ぎしりや噛みしめは無意識で行っており、ノンレム睡眠中あるいは、日中ではストレスによる緊張、何かに長時間集中してる時に多い。
この状態が続くと、上下の歯の摩耗、閉口筋である咬筋の過緊張が生ずるので、顎関節症を併し、また頸肩背部や頭痛の原因になったりもする。歯のくいしばりと歯ぎしりは、歯の運動を伴うが否かの違いであり本質的には同じ病態である。

ブラキシズムの針灸治療は数例の患者を経験したが、いずれも初回治療で効果があった。しばらくすると再発するが、針灸施術すると再び改善に効果があったこのことから針灸適応症だという印象である。

 

2.ブラキシズムの真因

健常者であれば口を軽く閉じだ際に上下の歯は接触していない。しかし日中にストレスがあると、その解消に敵を噛みつきたいという原始的本能が蘇り、ブラキシズムが生ずる。上下の歯の強い接触運動は、歯根膜を刺激しその刺激が脳に伝わり、ストレスを解消する手段となる。
チューインガムを噛むとストレス解消によいとされた。アメリカ人が野球の試合中もガムを噛んでいるのを見た日本人は、真剣味に欠けると批判したが、確かに一理ある行為といえる。上下の歯の強い接触行為が習慣化すれば、顎関節周囲筋に負担が加わり、顎関節Ⅰ型になりもする。

 

3.ノンレム睡眠障害の針灸治療

睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠の周期があり、一晩の睡眠では下図のように、睡眠相は5~6繰り返す。


1)ノンレム睡眠(徐波睡眠)  non-rapid eye movement sleepとレム睡眠


睡眠は、まずノンレム睡眠(徐波睡眠)から始まる。
ノンレム睡眠は、睡眠の前半に多く現れる。大脳皮質休息の意義がある。大脳の休息では大脳身体抑制が外れるので、夢をみない一方、寝返りやいびき、歯ぎしりなど無目的に身体が動く。 

瞼の下で眼が動くので、REM(Rapid Eye Movement 急速眼球運動)睡眠とよぶ。レム睡眠の意義は身体休息で、骨格筋は弛緩して寝返りなどの動きはなが、精神は活動して夢をみる。

日中活動時は、交感神経優位状態が持続している。レム睡眠は、きつく巻かれたゼンマイを緩めるように、副交感神経優位状態にする役割がある。
レム睡眠が出現するのは入眠90分後からなので、仮に1時間睡眠を断続的に8回とって合計8時間睡眠になったとしても、レム睡眠時間は不足し、身体の疲労回復はできないので動物本能が低下(≒自律神経不安定)する。

 

2)ノンレム睡眠に誘導するための針灸治療
 
大脳の疲労回復が治療目標である。より正確には大脳疲労がもたらした筋疲労復が治療目標である。具体的には、施術中にぐっすりと眠ってしまうような針灸を行う。たとえば頭皮上の圧痛点、項部筋、胸鎖乳突筋圧痛を探り、置針する方法がよいだろう。
 

4.大後頭三叉神経症候群としての治療

大後頭三叉神経症候群とは、天柱深刺→大後頭神経刺激→C1~C3頸神経根→三叉神経脊髄路→三叉神経という神経連絡により、たとえば天柱刺針により眼精疲労が改善するという治療に解剖学的な回答を与えた。眼精疲労は三叉神経第Ⅰ枝(眼神経)興奮の結果である。ただしそれだけでなく、三叉神経第Ⅲ枝支配である咀嚼筋の緊張にもC1~C3頸神経を刺激する治療が知られている。
大後頭神経刺激により、咀嚼筋に対して影響を与えられることを示すものである。


5.顎関節症Ⅰ型の治療    

顎関節Ⅰ型は、閉口筋緊張過多で生ずる。閉口筋には、側頭筋・咬筋・内側翼突筋があるが、トラベルによると顎関節Ⅰ型の主な罹患筋は側頭筋と咬筋だという。

1)咬筋緊張の改善   
強く閉口する際には閉口筋とくに咬筋に負担が加わる。患者を強く歯をくいしばった状態にさせ、大迎~頬車あたりから咬筋へ刺入る。

2)側頭筋

側頭筋の代表穴には太陽や頭維があるが、これにこだわらず、患者を強く歯を食いしばった状態にさせ、圧痛点に刺針する。

 

 


肩甲間部のコリに、前頸部「肩甲背神経刺激点」刺針

2025-03-25 | 頸肩腕症状

これまで私は肩甲間部のコリには、局所治療以外に治療方法がないと思っていたが、柳谷素霊著「秘法一本針伝書」中の<肩甲間部のコリの一本針>を読み、そうでもないことを知った。肩甲間部筋は肩甲背神経神経が運動支配している。肩甲背神経は、腕神経叢から起こるので、腕神経叢刺激として、天鼎刺針やモーレー点刺針から刺激してみても、上肢に響きは与えられるが、肩甲間部には響かせられなかったからだ。肩甲背神経神経は運動神経なので刺針刺激しても響かないだろう。しかし肩甲背神経のトリガーポイント活性化すると肩甲間部にコリを生ずるのではないか、などと考えをめぐらす中にあって、柳谷素霊著一本針伝書「肩甲間部のコリの針」を読む機会を得た。

※モーレー点:前斜角筋症候群の診断点かつ治療点。前斜角筋症候群とは胸郭出口症候群の一つで、前斜角筋緊張により直下にある腕神経叢を絞扼し、上肢の痛みや知覚過敏を生ずる病態。

1.缺盆の位置

1)東洋療法学校協会教科書にみる缺盆の位置

現在の学校強協会教科書の缺盆はや、一本針生伝書よりやや下方で、鎖骨上縁になる。この部から刺針すると、前斜角筋部→腕神経叢と入り、上肢に電撃様針響を与えることができる。しかしながら肩甲間部に響くことはまずない。
※鎖骨の内側1/3は肺尖があるので外傷性気胸に注意すべきである。教科書缺盆はあくまでも頸部軟部組織内にあるのだから、頸部に刺針するとする意識が必要である。


2)「一本針伝書」肩甲間部のコリの一本針としての缺盆

一本針伝書には「鎖骨上窩で胸鎖乳突筋の中央の外側の小さな腱様のスジで、その筋を指頭で按圧すれば指に響くところ」とある。座位で刺針。缺盆から直刺した針を、わずかに上外方に倒しながら慎重に刺入し、 肩甲間部に針響を得たら弾振して針響を持続、しばらく響かせてから抜針する、とある。

一本針伝書の図を見返すと、鎖骨上縁ではなく、そこからやや上方の前斜角筋を治療点としているように思えた。そこで肩甲背神経の走行を改めて注意して観察すると、肩甲背神経はC4~C5神経根から出て、中斜角筋に沿って腕神経叢内で大きく外側にふくらみ、肩甲挙筋に沿って下行くし、大・小菱形筋に達するようだった。
したがって、肩甲背神経を刺激するには、腕神経叢の代表刺激点であるモーレー点よりも3cmほど上方で、甲状軟骨(C4~C6の高さ)の外方になり、中斜角筋を刺激すればよいと考えた。


 

 

2.「肩甲背神経刺激点」への刺針の試行

健常者に対して次の方法で肩甲間部に響きを与えるよう試行してみた。寸6#2使用。仰臥位でマクラを外し、顔を健側に向かせた肢位にする。甲状軟骨の高さ(C4-C5)の高さの外方の中斜角筋に2㎝程度直刺してみた。

何回か雀啄していると、安定して肩甲骨上角まで響きが至ることが多かった。肩甲間部にまで響かなかったのが残念だったが、甲間部のコリを訴える患者であれば、肩甲背神経の閾値が低くなっているので、この刺針法が臨床的にも有効だと判断し、本刺針を「肩甲背神経刺激点」と名付けてることにした。
    
 

3.肩甲骨内縁のコリとC6頸椎周囲の筋膜癒着
   
頸部神経根症や胸郭出口症候群では、上肢症状がと同時に、肩甲骨内縁にコリがある ことが知られている。この原因について神経走行では説明できないので、MPS(筋々膜性疼痛症候群)によものではないかとされるようになった。C6頸椎あたりは種々の筋が密集していて、筋膜癒着の好発部位となる。フェリックス・マンは「鍼の科学」(医歯薬出版)の中で「C6の横突起を刺激することが、従来の腕神経叢を形成している数本の神経を針で刺すよりも効果的だ」と記している。C6横突起への刺針は、既存の経穴位置の中では肩中兪(小腸経、C7棘突起下外方2寸)が最も近い位置になる。

   

 

 

 

 

 

 

 

 


坐骨神経痛以外の大腿後側痛の針灸治療

2025-03-11 | 腰下肢症状

 大腿後側部痛で最も多い疾患は、坐骨神経痛によるもので、普通は坐骨神経ブロック点(=中国式環跳そして柳谷素霊の裏環跳)から梨状筋に深刺するというのが定番だろう。しかし中には、坐骨神経痛ではないこともあり、坐骨神経ブロック点刺針で改善しない病態もある。坐骨神経痛以外で大腿後側痛症状をもたらす病態と治療法について整理してみた。


1.後大腿皮神経痛

大腿後側浅層を後大腿皮神経が下行し、皮膚を知覚支配している。その分枝は下殿皮神経となって下殿部を知覚支配している。この後大腿皮神経というのは、仙骨神経叢から発して、坐骨神経の内方1~1.5横指内方を下行している。
浅層を走るので、本神経興奮時には撮痛(+)が出現する。筋支配はないので筋コリは現れない。

後大腿皮神経が絞扼されるのは、梨状筋部と仙結節靭帯である。とくに仙結節靭帯部の圧痛は梨状筋症候群には生じないのでという特徴がある。坐骨神経痛が殿部全体~下肢症状を生ずるのに対し、後大腿皮神経痛は下殿部~大腿後側痛を生ずるという違いがある。とはいえ実際には坐骨神経痛と誤診され、本疾患を見逃している。

治療点は、承扶穴の2寸ほど上方で、仙結節靭帯上に刺針するが、大殿筋やハムストリング筋を伸張させるため仰臥位で股関節を強く屈曲させた肢位にするため、患者に大腿を抱えるようにして腹に近づけるようにするとよい。


  
2.ハムストリンク筋緊張
  
ハムストリング筋の支配神経は坐骨神経だが、本筋緊張症状は電撃様の神経痛ではなく歩行時に大腿後側がつっぱり、痛むようになる。治療目標は、ハムストリンク緊張を緩めることにある。ハムストリングを最大伸張させるには、膝関節をやや屈曲して、強く股関節屈曲させ(すなわち前術した承扶刺 針の肢位と同じ)、この肢位でハムストリン グ筋の圧痛点を発見して単刺(ときに 刺絡)するのがよい。この体位で刺針するには、患側大腿を挙上させ、この肢位を保持するため、左肱部で患者の膝窩を押圧し、術者の両手がフリーにすることが重要である。


3.多裂筋緊張
  
腰椎~仙椎の背部一行深部には多裂筋があり、TPs活性化しやすい。すると脊髄 神経後枝走行に沿って、斜外方45度方向に痛みと撮痛反応が出現する。側臥位にて背部一行から骨にぶつかるまで深刺する。