現代医学的鍼灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

当ブログにようこそ

3017-10-07 | 現代医学的針灸の公開にあたって

                 「現代医学的鍼灸治療」に、ようこそ

 ご関心のある方は、長年にわたり、諸先生がたの治療文献をたよりに勉強してきましたが、針灸臨床を始めて28年(平成18年現在)が過ぎた現在、自分なりの針灸治療も確立しつつあるように思った。単なる知識の受け売りにとどまらず、自分なりの見解をつけ加える内容にしたいと考えている。記す意味は、これまで世話になった諸先輩への御礼、および真摯に針灸を研究している先生がたのご参考に供することにあります。なお本ブログは、平成18年3月10日から配信開始しています。本記事の日付は、3017年となっていて正しくはありませんが、ブログ閲覧で最初になるようにしたためです。

当ブログに対して、ご意見・ご感想を頂戴することは大いに歓迎するところです。しかし今後匿名で私に回答を強いる質問等につきましては、今後返信しないことにしました。(平成30年2月15日)

 

 

 


 

 

 

コメント (11)

一筆書きからトポロジーへ Ver1.2

2020-05-29 | 雑件

この1~2ヶ月、他の先生方が執筆した奮起の会セレクション用テキスト整備に追われ、自分の鍼灸の追究ができていないことを苦痛に思う。当ブログに書くような内容も乏しくなった。たまには目先を変え、以前から興味があった<一筆書き>に関する知見を紹介する。

1.基礎編


ある図形が一筆書きできるかどうかの条件は、それぞれの角点に集まった線が、①すべて偶数か、②2本の奇数がある場合に限られる。①の場合、どの頂点から書き出しても一筆書きは成功するが、②の場合、どちらか一方の奇数の頂点から筆を出発し、最後に他の奇数の頂点を終点とするルートにして一筆書きは成功する。

2.応用編

1)問題

一筆書きのコツは、前述した内容がすべてなので、これを理解した後は、次の問題も解けるはず。

2)解答

3.実地問題編

1)問題

ドイツの大哲学者カントが生まれた町として有名なケーニヒスベルク(現在のカリーニングラード)は、プレーゲル川にまたがったおり、18世紀の初頭には、下のようにこの川に7つの橋がかかっていた(実話)。その頃、この橋を全部ただ一度ずつ渡ることができるかどうかが、この町の話題になった。ある人は不可能だと言った。ある人は実際にやったらできたと言ったが、もう一度再現することはできなかった。

2)解答
数学者のレオンハルト・オイラー(1707〜1783)がこの問題を取り上げて研究し、橋渡りが不可能であることを証明した。

 

A、B、C、Dは土地であって、橋に比べると当然その面積は広い。だがABCDの土地を頂点、橋を辺とすることで、橋渡りの問題は一筆書きの問題へと単純化できる。橋渡りの問題は、上の図が一筆書きできるか否かの問題に置き換えることができるが、頂点4カ所あるので、橋渡りは成功しないといえる。

 

3)発展問題
ではこの橋渡りを成功させるにはどうすべきか、というとC-D,間に橋を一本新設すればよい。これにより、奇数の頂点は、AとBのみになる。Aを始点としてBを終点とする(またはその逆)道順が正解となる。

 

 

4.間中良雄のトポロジー(位相幾何学)
 
一筆書きは,「線がつながっているか」が重要で,途中の線が曲がっていようが,線が短いとか長いかは関係ない。これはつながりの具合を示す幾何学である<トポロジー>の発想である。日本語では位相幾何学という。線の長短は関係なく、単にA地点とB地点が連結しているかを問題とするという考え方は、今日においては電気配線回路の応用にみることができる。

 
 経絡は、基本的に身を上下に流注しているが、症状部位に対する刺激(局所治療)とは別に、症状部位から数十㎝も離れたれた部位を刺激して、これを経絡的治療とすることもある。これが経絡治療の特徴になる。
 赤羽幸兵衛は左右の手指先の井穴、そして左右の足指先の井穴それそれ12穴の知熱感度を測定し、同じ経絡の熱知覚の左右差を問題視した。これを発展させのが間中良雄で、手指の同経の知熱感度の感受性の違いだけでなく、手と足の三陰三陽区分での井穴の感受性の違いを問題視した。さらに左指先井穴の知熱感度の総和と右指先井穴の知熱感度の総和を比較したり、また左足先井穴の知熱感度の総和と右足先井穴の知熱感度の総和を比較した。井穴データを種々の四則演算により特異的現象の発見に努めた。これらの演算は今日ではパソコンを使えば容易だが、今から40年前のことであれば処理に随分と手間がかかったことだろう。


ここで間中喜雄先生の構想されたトポロジーについて解説する。

 本解説の原本は「M.I.D.方式について 赤羽知熱感度測定法知見 捕遺」間中喜雄、板谷和子(北里研究所附属東洋医学総合研究所)、日本東洋医学会誌、第26巻第4号(1975)による。
なお現在でも、ネット検索で調べることができる。

1)赤羽知熱感度測定法について
1950年、赤羽幸兵衛は、手足の井穴を知熱感度測定法(手足の「井穴を線香の火で叩き、何回で熱く感じたかを記録)を発表し、これを知熱感度測定法とよんだ。左右の井穴の最大倍数の一組を問題視し、その経過に治療の重点を置いた。
 たとえば点火した線香の叩打数が、膀胱経井穴で54(左)対40(右)で、大腸経の井穴が3(左)対12(右)であるとすると、絶対数は膀胱経が異常に多いにもかかわらず、大腸経の左右比が4倍である天に意義をおき、これを治療対象にするというのである。
 そこで著者らは統計学者に依頼し、赤羽法の原法にしたがって得た数字の左右相関指数を統計処理してもらったが、はっきりした相関性を示す指数が得られなかった。

2)M.I.D.(赤羽知熱感度測定データのカテゴリー別分析)
 本来的に中国古来の經絡概念は、左右というカテゴリーだけですべてを律するという狭い規範は示していない。陰陽、表裏、手足などの相互干渉の法則性を規定している。
 そこで井穴の左右差のみを比較するのではなく、陰陽別、左右別、手足別などのカテゴリー別に整理して、その状況を調べることにし、これをM.I.Dとしてまとめた。M.I.D.とは、Meridian Imbalance Diagram (直訳で經絡不均衡図)の意味である。
 各種疾患について約150例以上の測定データを集積し、さまざまな傾向が得られたが断言できる段階にはない。まだ予備実験の段階であり、今後確かめていかねばならない問題が多くあった。

※知熱感度測定法が左右差の是正のみを治療方針とすることは、私自身も違和感を感じ、すでに以下のようなブログを発表済みである。

井穴知熱感度データの新たな解析法(2017.6.21)

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/02e50d1f7f7ae685c1c14816eb038bf6

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鍼尖点検器の自作

2020-05-28 | 雑件

1.曲がりやすかった銀鍼

今から40年前頃まで、針灸院では銀鍼が普通に使われていた。一本50円~70円くらいした。銀は腰が弱く、刺入する際の重心を間違えると、すぐに”く”の字になってしまったので、鍼体を曲げずに刺入するだけでも結構難しかった。
 それも数ヶ月の練習でスムーズに入れるのは苦労しなくなった。鍼実技の際には、自分で購入した鍼は相手に渡し、それを自分の身体に刺させることで、感染の問題を防いでいた。鍼体を簡単には曲げなくなるほどに上達すると、同じ鍼を何回も使うことになるので使っているうちに鍼尖が摩耗し、どうしても切皮痛が起こるようになった。こうなると普通は破棄するが、こだわりのある治療院では鍼先を砥石で研いだりした。面倒なことだったが、それも鍼灸上達の修行とみなされていた。
 銀鍼には、鍼のあたりが軟らかいという治療上の良さはあるが、オートクレーブでの滅菌ができない(鍼体が酸化して黒ずみ、もろくなる)という致命的欠陥があったので、ステンレス鍼を使う時代に移行した。
 ステンレス鍼をディスポーザブルで使うことが理想的なのだが、ステンレス鍼は硬いので曲がりにくく、オートクレーブ滅菌後には再使用することができる。
 ステンレス鍼を再利用して、鍼体が一定以上曲がってしまえば破棄することになるが、問題となるのが鍼先の変形で、ステンレスは硬いので再使用できるか捨てるかの判断を効率良く実施したい。


2.塩ビパイプ継手を使った鍼尖点検器の自作
 
今から40年程前、鍼尖点検器という製品があった。木製で太く短いパイプのような形だった。片面にサランラップを張り、チェックすべき鍼を単刺していく(回旋はしない)。
サランラップを使ったのは、サラン樹脂でなければく音がでなかったためであった。他の他のラップはビニールのよう伸びてしまい、鍼がパリッと貫通できなかったからだ。しかし今日では他社製のラップも品質向上して使用に差し支えなくなっており、当家でたまたま使っていたのはクレラップだった。

短時間に次々と鍼の良し悪しを判定できる良い商品だったが、現在市販されていないようである。その代用として筆者は塩ビ管にラップを巻いて鍼先点検している。塩ビ管はいろいろ試してみた結果、だいたい次の写真のような大きさに落ち着いた。口径が小さいと音も小さくなるので。ホームセンターで入手で、値段は200~300円程度。

3.鍼尖点検器の使い方
 
①未使用や新本同様の鍼であれば何の抵抗もなくスッと抵抗なくラップを突き破ることができる。
②わずかに鍼先か変形した鍼の場合、ラップを破る時、ツッという小さな音が生ずる。
③さらに鍼先の変形が少し進行した鍼であれば、ラップを破る時、プツッという音が出る、と同時にラップが下に押しつけられる。出る。
④鍼先の変形がさらに変形した鍼であれば、下に押しつけるように力を入れて、大きなラップを突き抜ける音と共にどうにかラップを貫通することができるようになる。

このようにあえて分類してみると、面倒に感じるかもしれないが、少し慣れると誰でも直感的に判断できるようになるだろう。

なお当院では③④を使用不可として廃棄処分にしている。

ラップを巻いた状態

 

 

鍼尖点検中の様子

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本郷の新星寮で出張治療していた代田文誌との出会いと治療体験の思い出(井上駿)ver.1.1

2020-05-19 | 人物伝

最近、当あんご針灸院に代田泰彦先生(代田文彦先生の弟者)の紹介患者として井上駿氏(87才男性)が来院した。井上氏は代田文誌が新星学寮で出張治療していた頃、東大農学部の学生で新星学寮の寮生であたことを耳にしたので、当時の様子を文章にして残して欲しいとお願いしてみた。井上氏は快諾し、その2ヶ月後、次のような文章を書いて下さった。以下は井上氏の文章(部分的に似田加筆)になる。


昭和8年、代田文誌先生(以下敬称略)44歳の時、盟友の倉島宗二・塩沢幸吉と共同で、長野市内に鍼灸治療院を開設した。この3名は、ひと月に9回ずつ日替わりで治療当番にあたった。ちなみに文誌は、7・8・9のつく日を担当した。(それ以降、東京三鷹の井の頭公園近くに移転し、彼の地で開業した。)

文誌は長野市内での共同開業と並行して、月初めに一泊二日の日程で、本郷の新星学寮で出張治療を行った(本郷以外にも数カ所出張治療した)。新星学寮とは、穂積五一氏が主として優秀学生のために私財を投げ打って設立した学生寮のことで、今日でもアジアからの留学生の居住場所として立派に役割を果たしている。


1.代田文誌先生との出会い

代田文誌先生に初めてお目にかかったのは昭和31年だった。その頃、私は東大農学部の学生で新星学寮の寮生だった。新星学寮は穂積五一先生が主宰しておられ、都内のいろいろな大学の学生が共同生活をしていた。主宰といっても穂積先生は寮生が納める寮費を先生の収入にしておられた訳ではない。寮費は寮生の食費と寮の建物の維持管理などだけに充てられていたので、非常に安かった。

 穂積先生は東大法学部の出身で、憲法学者の上杉慎吉氏の弟子だった。上杉氏は天皇制を主張していた方であった。(中略)穂積先生は若い時に結核を患われ、生死の境をさまようほどであった。その頃、鍼灸師である代田先生と出会われた。先生は穂積先生を診て、「非常に重篤ではあるが食事を丁寧に食べているので望みはある」と言われ、それからは穂積先生が頼みとする主治医となられた。(文誌先生も20才~27、8才まで結核で長い療養生活を過ごしていた。鍼灸で救われたことから鍼灸の道に進まれた経緯があった。)
 私(井上)が寮生だった頃、代田先生は毎月1回一泊二日の日程で長野から出張して新星学寮奥の穂積家の大広間で大勢の患者さんたちの診療に当たられた。私がその場に立ち入ることは滅多になかったが、時に何かの用で入った時に多数の患者さんが診療を待っておられ、お灸に使う線香の匂いが立ちこめていたことを思い出す。


2.代田文誌先生に診ていただいた経緯

当時、私自身が代田先生に診ていただくことはなかったが、このような経緯から鍼灸や漢方などの東洋医学に対する信頼は培われていたと思う。
今の農林水産省の前身である農林省に入って三度目の職場が埼玉県鴻巣市の農事試験場だった時のこと、稲にとって水がどの程度の量が必要となるかを研究していて、20リットルほどの土の入ったプラスチック容器100個ほどの重さを計測していて腰を痛めていた時、研修で長野県に行くことがあった。ちょうどよい機会なので長野市在住の代田先生に診てもらおうと電話してみると、「来れば診てあげるよ」とのお返事をいただき、先生のご自宅に押し掛けて診ていただいた。全身に鍼と灸を施され、帰路では体重が半分になったかと思うほど足が軽くなったことを今でも思い出す。

 

3.ご子息の代田文彦先生にも診ていただき、自分でも鍼灸療法を自習した

文誌先生のご長男、代田文彦先生は西洋医学を修められた上で鍼灸療法も習得され、後には東京女子医大の教授になられた。私がスキーで捻挫した時は、日産玉川病院におられた。捻挫の翌日、病院に伺って治療を受けた。恢復は極めて早く、その週のうちにはテニスができるようになった。
 
この後、わたくしの鍼灸・漢方に対する信頼は一層深いものとなり、代田先生の名著「鍼灸治療の実際(上・下)」創元社刊を手許において、折に触れては自分自身をはじめ、家族・友人の手当に役立たせている。
例をあげれば、家内や娘たちのしもやけは、しもやけの頂点に艾を五壮もすえれば一回で治る。幼稚園児だった娘の脱腸は、先生の御本からツボ灸点を選んでお灸で治した。
職場のテニス仲間で昼休みのテニスの後、腕が上がらなくなったからお灸をしてくれと言ってきたときは、ツボはここだからといって手三里を押さえたら、それだけで治りお灸をするまでもなかったこともある。別のテニス仲間の若い女性が二の腕が痛いというので、痛い場所を自分で確認して置き鍼を貼るように勧めた。次回、テニスコートで会った時、彼女は駆け寄ってきて快癒したと話してくれた。

 

4.現在の私の治療

10年ほど前から脊柱管狭窄症を患い、当時かかっていた整形外科の医師は年令もあるから手術は無理といい、私もそう思い諦めて過ごしてきたが、大宮に越してきてからのテニス仲間が自治医大の税田和夫先生のおかげで脊柱管狭窄症が治ったと言ったので、川越の埼玉医大に移っておられた税田先生をお訪ねして何回か診察を受けた後、一作年6月に手術を受けることに踏み切った。
3時間の椎弓切除の手術後は順調で、7日目には退院し、その後は手術前に比べ随分歩けるようになったのだが、税田先生が術前に言われた通り、100%は治らず下肢にしびれが残った。何とかしびれを取りたいと思い、近所の整形外科に通い、マッサージ等を受けてきたが目立った回復はなかった。その後、鍼灸師をしておられる文誌先生のご次男、代田泰彦先生に相談したところ、国立市で開業している似田敦先生を紹介された次第である。
今は月に一回、あんご鍼灸院に通い似田先生に脊柱管狭窄症手術後の下肢の痺れの手当てとテニスによる肩肘の故障の鍼灸治療を受けており、加えておおみや整形外科の整体師丹野先生のマッサージを毎週受けている。これも肩の凝りをほぐすのによく効いている。

 

5.付記:触診起脈あるいは脈功
 
私の脊柱管狭窄症の症状には、自分で行う治療も時には有効だったので、簡単に紹介する。この方法は、静功とマッサージあるいは指圧を組み合わせた自己治療法である。
静功とは、体を動かさずに呼吸だけで行う気功のことである(これに対し、体を動かす通常の気功を動功とよぶ)。放鬆功(ほうしょうこう ?中国語では放松功)は静功の中のひとつで、1957年に上海気功療養院が整理したもの。「放鬆」には中国語で筋肉を弛緩させ、リラックスするとの意味がある。放鬆の「鬆」は骨粗鬆症の「鬆」と同じく、スカスカにし、ゆるめることをいう。放鬆功は呼気の時に「ソーン」と発音することを勧めている。声を出すことは体を振動させ活性化させると思う。「放鬆」という言葉には「ソーン」と発音する、すなわち声を放すという意味も含まれているようだ。
 
なお放鬆功の吸気の時に「百会から吸うつもりで‥‥」とされるが、私自身は耳の上から百会に向かって吸い上げる感じで息を吸うようにすると、脳の側面が洗われてスッキリする感じを得ている。放鬆功は三線放鬆功が代表的で、三線とは体の側方、前方、後方の3つのラインのことで、この流れを意識しつつリラックスさせるやり方で、この時の姿勢は椅坐位、仰臥位、伏臥位などどれでもかまわない。
 
私は放鬆功のリラックスした呼吸法を行いつつ、触診起脈を試みている。触診起脈とは、体の中で不具合なところ、たとえば咽が痛い、肩が凝る、足が痺れるといった症状がある時、その不具合なところに指先を当て、放鬆功の呼気三線のほかに、その不具合の場所に集中して呼気をはきつける意識で息をはくようにする(もちろん実際には口から呼気をはくのだけれども)。それを数分続けることによって、その場所に脈動を感じるようになり、そうなるとその場所の痛み、コリ、しびれが軽くなる。私自身は、これを手の冷え、足のしびれ、肩の凝り、咽の痛みなどでしばしば実際に自分の体で試み、不具合の解決に役立てている。これを読まれた方は試みて頂き、結果を教えて頂きたいと願っている。放鬆功については、ある程度ネットで調べることができるので、参考にされたい。


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令和2年度の実技講習会、開催延期のお知らせ

2020-04-23 | 講習会・勉強会

令和2年の実技講習会の予定は、当初は6月からスタートする予定で、そのためには4月からその旨を本ブログで公示するつもりでした。ちなみに概要は次の通りでした。

◎奮起の会セレクション
本勉強会指導スタッフと過去参加者が、得意とする内容をピックアップ 
1)顔面麻痺の鍼灸実技(講師:吉村英)
三叉神経痛、顔面痙攣の鍼灸実技(講師:似田敦)
2)美容針最初の一歩(講師:小村はるみ)
3)ⅠaⅠb針の治療効果を高めるリハの技法(講師:小野寺文人)

◎第5期 鍼灸奮起の会(講師:似田敦)
  少人数で、整形・ペイン疾患の現代鍼灸治療の考え方と実技指導のシリーズ
    腰痛、腰下肢痛、膝痛、頸痛、肩関節痛、上肢症状、下肢症状


しかし予想外にも、新型コロナウィルスの感染問題が発生したため、予定を延期せざるを得なくなりました。感染が収束した時点で、講習会の日程を改めてご案内します。

ただし「現代鍼灸臨床論Ⅰ、Ⅱ」のPDF版は、継続販売中です。ちなみにⅠ(鍼灸、ペインクリニック領域の針灸治療)は5000円、Ⅱ(内科、産婦人科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、その他の領域の鍼灸)は6000円。ⅠⅡ同時購入は併せて10,000円です。

 

(似田敦)

 

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血管性頭痛の病態生理と針灸治療の検討 Ver.2.1

2020-04-23 | 頭顔面症状

2011年11月に<片頭痛の病態生理と鍼灸治療の検討>を記したが、その全面改訂版を記すことにした。タイトルも<血管性頭痛の病態生理と鍼灸治療の検討Ver.2.0>に変更した。

 1.三叉神経血管説の整理

片頭痛の病態生理は、なお不明な点は少なくないが、現在では「三叉神経血管説」が最も有力 視されている。これは神経因子(脳の大血管や脳硬膜に分布する三叉神経刺激による痛み)   に加え、血管因子(この血管から放出された血管拡張物質CGPR)による複合性の痛みとして 説明される。この説明は難解だが、簡単に内容を示せば次のようになる。
  
一段目:三叉神経第1枝が中心となる痛みがある。これは神経因子の反応。
二段目:三叉神経血管拡張物質(CGPR)放出することで血管拡張と炎症が生ずるとする血管因子の反応。

 

2.片頭痛に対する薬物療法の変化
私が30年前に病院勤務だった頃は、片頭痛に対して酒石酸エルゴタミン(商品名カフェルゴット)投与が定石だった。トリプタンが販売されて随分事情は好転した。 

1)従来的消炎鎮痛剤
いわゆる「痛み止め」。片頭痛の痛みは神経因子+血管因子の複合であるが、この神経因子に対する作用のみになる。血管因子に対しては無処置であるから、鎮痛効果に乏しい。

2)酒石酸エルゴタミン
一世代前の片頭痛の特効薬。30年前頃筆者が病院勤務だった頃は、これが定番だった。主成分はカフェインで、これには血管収縮作用がある。拡張しようとしている血管を、拡張させないという予防効果がある。しかし拡張し、拍動性頭痛となった後は、それを改善させるだけの力はない。

3)トリプタン製剤
現在の主流薬。三叉神経終末からの血管拡張物質(CGPR)放出を止める作用がある。すなわち血管因子の痛みの連鎖を停止させる作用がある。拍動性の痛みも鎮痛できる。


3.筆者の片頭痛の針灸治療の変化 

率直にいうなら、緊張性頭痛とは異なり、片頭痛が針灸にくることはマレである。もともと西洋人に比べ、日本人が片頭痛になることは少なく、また発作時は院困難である。片頭痛予防に針灸しようと考えるような周到な者は、医師の薬物療法をうけているからである。
結果的に、数少ない臨床経験から、推論することにならざるを得ない。

1)動脈血管壁刺針

拍動性頭痛期の治療としては、拍動している外頸動脈の分枝を強圧すると数秒間痛みが減少することが知られている。そこで異常拡張を抑える意味で動脈血管壁に対する刺激のが検討されてきた。たとえば浅側頭動脈に対する和髎刺針であるが、大した効果は得られなかった。

その理由は、<三叉神経血管説>によれば、「頭蓋外拍動部が痛むのではなく、痛みは頭蓋内硬膜部の静脈血管やこの血管にまとわりく三叉神経第1枝の興奮の結果として痛む」からであり、そもそも頭蓋外の痛みは病態の本質とは異なるものだからだろう。 
 
2)天柱など上部頸椎への刺激

片頭痛の痛みは、神経性因子と血管性因子の複合である。神経性因子に働きかける治療とは、脳動脈に分布する三叉神経の治療をいう。しかし頭蓋内については針灸で直接的にアプローチはできないから、三叉神経-大後頭神経症候群の治療と同じように扱う他ない。
すなわち頸にある上位頸神経(C1~C3)へ刺激を加え、上位頸神経の興奮を取り除くような針が有効だとする見解がある。その代表穴に天柱穴がある。

ただし痛みの主体である血管性因子について働きかける治療はしていないのだから、治療効果は限定的なものになるであろう。  

間中信也医師は、頭痛患者56例に天柱ブロックを行い、診断名ごとにその治療効果を検討した。その結果、疾患名に関係なく、半数程度の患者に天柱ブロックが効果的なのが知れる。片頭痛に対しては8例中2例に頭痛がほぼ消失した。効果の持続時間は、数時間10%、半日~1日30%、数日36%、1週間12%、それ以上8%、不明(不定)4%だった。これは局所麻酔の有効時  間をはるかに上回る治療効果だった。最も効果的だったのは筋緊張由来の頭痛だったとのこと。(間中伸也著、頭痛診療ツールとしての鍼灸技法の応用、臨床神経 2012:52:1299-1302)


3)足趾間刺針とグロムス機構刺激 


①上衝による頭痛には足指間を刺激する
筆者が針灸臨床の駆け出しの頃、臨床経験不足を補うために、玉川病院症例検討会の報告資料(先輩達の残した症例報告数千例)を読みあさった時期があった。そして上衝タイプ(のぼせて赤ら顔)の強い頭痛には、足指間の最大圧痛部を刺激すると頭痛が改善したとの報告が多いとの報告が多いことが判明した。

②内侠谿刺針
自分なりに患者の足趾間圧痛を多数調べてみると、足指間の最大圧痛点は、第3趾第4趾間に出現することが多いということもわかった。この圧痛は、侠谿の内側にあるので、筆者はこれを内侠谿と命名した(実際の臨床では内侠谿に限定することなく、足趾間の最大圧痛点を取穴する)。
最大圧痛点にに2~3分間置針するだけで痛みが取れてくることを多数確認できた。
この頭痛に対する効果は、強い頭痛であれば効果があり、弱い頭痛ではあまり効果がなかった。
また針灸が効果あるか否かは、治療時の頭痛が拍動性か非拍動性かに関係し、非拍動性のタイプは有効となる場合が多いように思った。 

③グロムス機構
足趾間の圧痛点に刺針で頭痛が改善する理由は、代田文誌、石川太刀雄の頃からグロムス機構の機序が考えられていた。グロムス機構とは、動脈脈吻合あるいは動動脈吻合部をいう。一般的に血液循環は動脈→毛細血管→静脈と移行するが、全部の血流が毛細血管まで達するのではなく、一部は小動脈から小静脈へとショートカットする。この血行動態の変化を起こす水門に相当するのがグロムス機構である。   
グロムス機構の性質として、例えば1カ所の水門が閉じると、それが全身のグロムスの水門も閉じられるという仕組みがある。つまり足母趾部グロムス水門を閉じると、脳内のグロムスも閉じ、血流減少するという機序が考えられるということである。
もっとも近年、グロムス機構を利用しての針灸治療は、あまり報告されなくなった。石川太刀雄・代田文誌によって創案された動脈洞刺はかつては高血圧症や気管支喘息に使われたのだが、現在はあまり使われない、単なる一時代の流行に過ぎなかったのかとも思っている。

 

 

 

 

 

 

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膝関節痛の部位別針灸治療と考察のまとめ ver1.1

2020-04-18 | 膝痛

私の膝関節治療の方法は、現在ではi以下の 1~4 のように場合分けされシンプルになってきた。これまでブログで発表してきたことなのだが、個々の技術の誕生には時間差が相当あるので、まとめて紹介することはできなかった。以上に加え近頃、膝蓋骨両縁(内膝蓋、外膝蓋)の痛みを訴える患者に対して効果的な方法を発見したので、5・6の項を追加し併せて説明する。

同種の内容に、筆者が3年前に発表した「膝OAに対する鍼灸治療 Ver.2.0」がある。これも併せてご覧いただきたい。
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/870c279ba4b953cc9c8193fa0b273992

 

1.鶴頂の圧痛(+)時     <大腿直筋停止部症>

診察:膝蓋骨あたりに痛みを訴えた場合、仰臥位で膝を立てた状態で、膝蓋骨上縁(鶴頂穴)をさぐってみる。
治療:強い圧痛があれば、この姿勢で鶴頂に速刺速抜+施灸する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:大腿直筋の膝蓋骨停止部の筋膜症が、膝蓋骨前面の痛みを感じている。大腿直筋をできるだけ伸張させた体位で、その圧痛ある停止を刺激することで、大腿直筋が緩む。この治療機序は、生理学的にⅠb抑制を利用している。


2.内膝眼、外膝眼の圧痛(+)時   <膝関節包過敏>

診察:膝蓋骨下縁と脛骨がつくる左右の陥凹(内、外膝眼穴)を、押圧して痛む場合。
治療:立位にして圧痛ある内外膝蓋に直刺し、膝関節包を刺激。速刺速抜する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:内、外膝眼の直下には筋組織がない。直刺すると、皮膚→膝蓋下脂肪体→膝関節関節包と入る。しかしながら仰臥位で内、外膝眼に刺入しても針響はあまり起きない。というのは仰臥位では膝関節包はゆるんだ状態にあるため。立位にすると上体を支持しようとして四頭筋は収縮し、膝蓋骨が上に移動する。この時膝関節包も緊張する。
この状態で内外膝蓋に刺入すると、膝関節の奥に響くようになり、再現痛が得られ治療効果があかる。

 

3.鵞足の圧痛(+)時  <鵞足炎>

診察:仰臥位で鵞足部をつまんで(撮診して)、明瞭な撮痛がある場合
治療:撮痛点数カ所に印をつけ、この部に円皮針数カ所を置く
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。歩こうとすると鵞足が痛くて、実際には歩けない者であっても、治療直後から歩行可能になることもある。
アセスメント:鵞足部皮膚を走行するのは伏在神経(大腿神経の分枝で皮膚を知覚支配)で、この皮膚の痛みが症状をもたらしている。皮膚の痛みの有無は、押圧するより撮診するほうが把握できる。また皮膚の痛みなので、皮内針・円皮針の方が適している。


4.委中の圧痛(+)時  <膝窩筋腱炎>

診察:膝裏部中央が痛む者に対し、膝関節90度屈曲位にして膝窩(委中穴)あたりを深々と押圧した際、委中付近に2~3カ所膝窩筋の硬結があり、硬結を押圧すると非常に痛がる。これをもって膝窩筋腱炎と判断する。
治療:膝関節90度位(四つん這い、または膝立ち)にし、圧痛ある委中あたりの膝窩筋の硬結数カ所に刺針。速刺速抜。(体位的に不安定なので置針は難しい)
伏臥位で、症状部である委中に刺針してもスカスカした感じになり、筋緊張部に刺入したという感触は得られず、当然治療効果もない。要するに膝窩筋を収縮させた体位で見いだした圧痛硬結に刺入すべきである。
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:膝窩筋の機能は、膝関節完全伸展位(体重は骨で支持しているので、筋への負荷は少ない)から膝屈曲動作へチェンジする際のスターターである。もし膝窩筋が存在しなかったらスムーズにひざが曲がり始めないので歩行動作はギクシャクしたものになる。膝窩筋が緊張した結果、膝の完全伸展しづらくなり、立位を保つために四頭筋の緊張を強いられることになろう。逆に四頭筋が過緊張状態にあれば、代償的に膝窩筋も筋腸することになる。


5.膝蓋骨内縁の圧痛(+)時 <内側広筋付着部症>

診察:膝蓋大腿関節の内側中央の間隙部(内膝蓋穴)が痛み、圧痛がある。大腿骨圧迫テストでガリガリした感触を感ずる。
治療:仰臥位で、膝下に高めのマクラを入れ、膝関節屈曲位にする。内膝蓋部は内側広筋の停止部であり、大腿部の内側筋腹部の圧痛点を調べると、大腿前面を三等分して、膝側から上1/3あたりの圧痛点を術者が強圧し、強圧した状態で、膝関節の自動運動を10回速度で行わせる。その後立たせ、治療前の痛みとの違いを比較させる。軽くなっていれば、強圧した部に運動針を実施。変化ないようであれば、内側広筋上の別の圧痛を見出し、同様の施術を実施。
治療効果:本治療は最近発見し、実施したのは一例であるが、治療直後に痛みは消失してた。この患者の以前の治療は、内側の膝蓋大腿関節の間隙に置針(いわゆる局所治療)したが効果を感じなかった。
アセスメント:内側広筋の部分的筋緊張により、内側広筋が短縮して膝蓋骨内側縁を引っぱり上げた状態。これにより膝蓋骨の位置がずれ、大腿膝蓋関節の不適合に発展した。
上記治療により、その逆の機序が働き、大腿膝蓋関節が適合するまでになったと推察した。
 外膝蓋の圧痛の場合も、これと同じ考えが適応できるだろう。
 なお、内膝蓋の圧痛点は内側膝蓋大腿靭帯部でもあるので、外傷性ならば本靭帯の断裂も疑う必要が出てくる。この診療は針灸の守備範囲外になる。

6.打撲直後に生じた膝関節外側裂隙(外隙穴)の痛み(66才、男 自験例) (追加)

2週間ほど前、自転車の運転操作を誤って左側に転倒。転倒の際、左外膝部を擦過傷を生じたが、他に症状は感じなかった。しかし翌日から、左膝を深く屈曲した時や、下腿を左右にひねった際(あぐらをかこうとして膝を曲げた際)、左膝外側の深部にひきつれ様の痛みを感ずるようになった。膝関節周囲の圧痛を調べたが、弱い圧痛を外隙穴部のみで他に圧痛は発見できなかった。この痛みは受傷後14日経ても軽減しなかった。

①外傷後に発症、②圧痛が外隙穴部にあった、③筋肉痛様ではなく、14日経っても症状は軽減しなかったことなどから、当初は外側半月板断裂を疑い、憂鬱になった。
  
とりあえず、左外隙へせんねん灸(強)を3壮行ってみた(透熱灸を自分でするのは部位的に困難だった)が、症状に変化なし。外膝蓋部の痛みに外側広筋への鍼灸が有効なことを思い出し、外側広筋の圧痛を探ってみると、梁丘から伏兎にかけて胃経に沿って10㎝ほど筋走行に沿って強い圧痛のあることを発見。椅坐位で、それらの圧痛点を強圧しつつ、膝屈伸運動を10回ほど行った。するとその直後から、左膝屈曲時の痛みや、左右にひねった際の痛みは半減した。このことから外隙奥に感じる痛みの真因は外側半月分損傷ではなく、外側広筋のトリガー活性であることがわかり、ほっとした次第である。また外膝蓋の痛みと外隙間の痛みは、ともに外側広筋のトリガー活性で生ずることのあることを認識した。

 

 

 

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鍼灸院でのベル麻痺・ハント症候群の予後推定と治療点の選択 Ver.3.1

2020-03-24 | 頭顔面症状

1.末梢性顔面麻痺と症状の関係
       
顔面神経(広義)は、運動神経性の顔面神経(狭義)と知覚・副交感性の中間神経に大別される。各神経枝の障害で、顔面麻痺以外にも、聴覚過敏・味覚障害・唾液分泌障害・涙分泌障害などの症状を呈する。

   
末梢性特発性の顔面麻痺の大部分は、顔面神経管内の浮腫が原因だとされる。顔面神経管の直径は、管の上部~膝神経節部の直径は1㎜、茎乳突孔附近で直径2㎜と非常に細い。この管内のどの部分で顔面神経の浮腫が生じているかによって、症状は異なってくる。

     
顔面神経や伴走する中間神経から分岐した神経枝が圧迫されて機能障害を起こすこともある。中間神経の膝神経節を帯状疱疹ウィルスが侵す疾患をラムゼイ・ハント症候群とよぶ。ハント症候群では顔面麻痺に加え、耳介~外耳道痛も生ずる。 また第8脳神経を侵すとめまいが生ずる。

 
 

①鼓索神経分岐より末梢の障害:顔面麻痺のみで、ベル麻痺の典型。
②鼓索神経分岐部の障害:上記+口症状(唾液分泌減少と舌前方2/3の味覚消失)
③あぶみ骨筋神経の分岐部:上記+耳症状(聴覚過敏)
④大錐体神経節の分岐部:上記+眼症状(涙分泌減少)。顔面神経膝状神経痛(外耳部痛・耳介後部の激痛)はハント症候群で生ずる。

 


2.ベル麻痺 Bell palsy


1)原因

顔面神経膝神経節での単状疱疹ウィルス再活性化(70%の者に本ウィルスが存在)や神経炎→顔面神経管内での浮腫→神経損傷。

2)医療施設でのベル麻痺の治療

①初期治療

病・医院での治療は、発病当初は入院による副腎皮質ステロイド(一時的に生体の自然治癒力を増強させる方向で働く。抗炎症、浮腫改善)の10日間大量点滴療法を行う。入院不能な場合は外来によるステロイド内服漸減療法12日間が標準治療となる。ベル麻痺の原因は単状疱疹ウィルスなので、残存ウィルスを死滅させる目的で抗ウィルス剤が使われることも多い。
自然治癒率は約70%。ベル麻痺と診断された者の中には、通称<隠れハント症候群>(無疱疹性帯状疱疹)とよばれる病態が10~20%あるとされ、これらが治癒率を下げている要因となっているらしい。

    
麻酔科医は連日の星状神経節ブロックを推奨している。顔面部交感神経機能を遮断 → 相対的に副交感神経機能を更新させる → 顔面血流量を増加して自然治癒力を高める増強される、との観点。ただしエビデンスに乏しい。 
  
②予後不良者の治療

治癒まで3ヶ月以上かかると判定された場合、病的共同運動(4ヶ月以降:たとえば閉眼すると口が動き、口を開閉すると眼も閉じる)やワニの涙現象(食物を食べると涙が出る。これは唾液を出そうとすると涙腺分泌が刺激される)が出現しやすい。漠然と様子をみるのではなく、ステロイド追加投与さらには顔面神経管開放術(圧迫された顔面神経の周りの骨を取り除く手術)を行う方がよい。


3.顔面神経走行と顔面麻痺の針灸治療


1)針灸院での予後推定


一般に発症してすぐに針灸を求める患者は少ない。医療施設で治療を続けるも、発症後7~10日間は目立った効果が現れなないので不安になり、針灸にも通院してみようかと考えるようになるのだろう。予後良好の場合は3週問以内に回復が始まり8割は自然治癒するとされているので、発症1~2週後に針灸に来院すれば、タイミング的に自然回復時期に針灸治療を行っていることになり、患者には針灸治療でベル麻痺が治ったような印象を与えることになる。このことは針灸院の経営上有利なことではある。 

   
しかし残り2割は速やかには麻痺は回復せず、長い者で半年以上を要し、かつ麻痺が残存する。では8割の早期回復者と2割の回復に時間がかかる者の事前予想はどのようにすべきなのだろうか。

   
実はこれも分かっていて、発症7~10日で予後判定可能なNET(電気生理学的検査)検査が、予後の目安となる。
NETは、顔面神経本幹または分枝を電気刺し、顔面表情筋の収縮度合をみるもので、収縮が観察できる最小閾値と健側を比較する。これは針灸臨床で用いられることの多い低周波治療器で代用できる。顔面神経数カ所に直接刺針し、そこにパルスを流すようにする。健常者に行えば、顔面表情筋の攣縮が観察できる。しかし顔面神経に鍼が命中していない場合、表情筋攣縮はほとんど生じない(通電電流量を一定以上に上げると刺痛を訴える)

①NET(神経興奮性検査)で、異常を認めるものは治癒率が悪い。
②発症後、3か月過ぎているものは治癒率が悪い。
③新鮮例で、NET検査が良好なベル麻痺は、90%治癒する。
④治療は、頻回行うほどよいので、最初は毎日または隔日治療とし、改善の進行につれて週2回さらには週1回というように、間隔あけていく。
 
2)低周波置針通電治療の是非

   
かつては置針した低周波をつないだものだが、現在では筋攣縮しないほど高い周波数(100ヘルツ程度)で通電するか、または通電せず単に置針するかになる。 というのは、低周波刺激をすることで後遺症(病的共同運動=閉眼すると口の周りが動く、口を動かすと目が閉じる など)が強化されすぎ、病的共同運動プログラムが助長されるという。
このことは分離=(巧緻)運動回復の妨げになる。
   
そもそも単なる置針と置針+通電との治療効果に差があるかどうかは有用性が確認されていない。しかし患者にしてみれば、通電してもらった方が<治療してもらった感>があるだろうから、高い周波数(100ヘルツ程度)で通電するのも一つのアイデアだろう。



3)顔面神経に対する刺激点

  
顔面神経の顔面部走行は、翳風部から起こり、耳垂の直下を通り、顔面部に扇型に広がる。 翳風穴と耳垂が顔面に付着する部の中央(深谷流難聴穴)の2点に10~20分間の置針を行う。

①翳風刺針
耳垂後方で、乳様突起と下顎骨の間に翳風をとる。顔面神経幹が茎乳突孔を出る部である。凹みの底の骨にぶつかるように刺入する。正しく刺入すれば無痛で針響もない。しかし刺入方向を誤ると強い刺痛を与えることも多い。技術的難易度の高い刺針となる。


②下耳痕刺針

耳垂が付着している頬部の中点。深谷伊三郎「難聴穴」(≒下耳痕穴)のことでもある。深谷氏の難聴穴は施灸する旨が書かれている。中国の新穴に耳痕穴があって、そのすぐ下方にあることから下耳痕と私が命名した。私の下耳痕は刺針しなくては用を足せない。というのは5㎜~1㎝刺針して顔面神経幹に当てるのを意図しているからである。顔面神経幹に当てても針響は得られないので、顔面神経幹の命中したか否かを調べるため、パルス(1~2ヘルツ)通電しながら刺入し、唇や頬が最も攣縮する深さ(5㎜~1㎝)で針を留める。置針中はパルスはしない。
 

※下耳痕穴から直刺2㎝すると、舌咽神経の分枝の鼓室神経(鼓膜の知覚支配)に命中し耳中に響く。この刺針は難聴耳鳴の治療に使うことが多い。
すなわち下耳痕穴は、浅層の顔面神経幹刺激として顔面麻痺に適応があり、があり深層の鼓室神経刺激することで難聴耳鳴に用いられる興味深い穴である。

 
③耳下腺神経叢刺針

顔面神経は、茎乳突孔から頭蓋外に出て、耳垂の深部を通過し、耳下腺神経叢中を走る。耳下腺神経叢の中で多数分岐し、それぞれの顔面表情筋方向に放射状に走行する。
耳垂部から顎角部にかけては顔面神経走行が密なので、経穴では、頬車~大迎の範囲に集中的に刺針すると顔面神経に命中しやすい。


 

4.顔面表情筋に対応する刺針

顔面表情筋に対する針灸は、顔面表情筋が多数ある中で、特に目の周囲や口裂周囲の筋群が  外観からの観察で繊細な表情をくみ取りやすく、これらの筋を中心にピックアップした、これは後述の<柳原40点法>に準拠した筋にもなっている

1)後頭前頭筋の前頭筋(額に横シワ、眼を見開く)→陽白
2)鼻根筋(眉間の横シワ)→印堂
3)眼輪筋
眼瞼部(眼を軽く閉じる) →睛明、瞳子髎、承泣
眼窩部(眼を強く閉じる、片目つむり) →四白など眼輪筋眼瞼部の外周
   ※眼を開けるのは上眼挙筋(動眼神経)
4)頬筋(頬ふくらまし、頬側面の食物を追い出す、トランペット吹く)→外地倉
5)口輪筋(口すぼめ、口笛)→地倉、水溝、上承漿
6)大頬骨筋(「イーッ」と歯を見せる)→ 顴髎
7)口角下制御筋(口を「へ」の字に曲げる)→オトガイ穴(=口角の下1寸)    
     

5.施術の目的と方法

1)施術目的
顔面麻痺になると顔面表情筋が動かないので筋萎縮する。すると神経が回復しても動きが復しなくなる。(完全麻痺になって1年から1年半ほどで後戻りしない表情筋委縮になる)

治療目的は、動かなくなった筋緊張をゆるめ、萎縮することを防止することにある。

2)麻痺筋に対する施術方法
40点柳原法を参考に、とくに眼症状(兎眼、ベル現象)、口症状(口すぼめ、口をイーっと引く、頬ふくらまし)のチェックを行い、動きの鈍い筋を探り出し、その問題筋に置針(10~30分)する。


6.顔面麻痺の評価

1)40点柳原法

顔面麻痺の評価として、「40点柳原法」が広く普及している。顔面の主な表情を10カ所選び、4点=健側と明らかな差がない、2点=筋緊張と運動性の減弱、0点=喪失とする。
0~8点=完全麻痺、10~20点=中等度麻痺、22~40点=軽度麻痺と評価。

 

2)私流簡易評価法
 
40点柳原法」は実施に時間を要するので、経過を追うのも大変である。もっと手軽にかつ定量的(ミリ単位)に表記できるものとして、筆者は次の4点で経過を追うようにしている。

①兎眼の上下瞼間の長さ(眼輪筋)
②イーツと歯を見せた時、静止時に比べて口角がどの程度動くか(大頬骨筋)
③口をすぼませた時、静止時に比べて口角がどの程度動くか(口輪筋)
④口をふくらませた状態で、頬を軽く叩いた時、息が漏れないか(頬筋)


7.ラムゼイ・ハント Ramsay Hunt 症侯群  

顔面麻痺を起こす最多の疾患はベル麻痺だが、次いで多いのがハント症候群である。  


1)原因

顔面神経膝神経節に潜伏感染した水痘・帯状疱疹ウィルスの再活性化による顔面神経障害。

2)症状
顔面麻痺症状+耳症状(外耳道や耳介の痛みと小水疱)を起こす。ときに聴神経を侵してめまいを生ずることもある。

①末梢性顔面麻痺

②聴神経症状:難聴・耳鳴・めまい     ※聴神経とは、内耳神経の別称のことである。
③中間神経膝状部神経痛:外耳道(軟口蓋部)や耳介の痛みを伴う小水疱(帯状疱疹)


3)予後

全体としては自然治癒率40%。うち完全麻痺(上記①②③症状あり)の場合、自然治癒率10%、不全麻痺(上記①と③のみ)の自然治癒率は66%。
ハント症候群はベル麻痺に比べ、侵害部分は広汎なため、自然治癒率は低い。
※針灸治療法自体は、ベル麻痺と変わらないが、ベル麻痺以上に頻回に施術する必要がある。

 

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グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)の針灸治療 Ver.1.1

2020-03-17 | 腰下肢症状

鼠蹊部周辺に出現する慢性障害であり、本当の原因を特定しにくいためこのような鼠蹊部周辺 に出現する痛みを症候群とした呼名をグロインペイン 症候群(groin pain syndrome)とよぶ。病態は多岐にわたるが、これまで私が経験したもの(すなわち針灸の場で遭遇しやすいだろうと思える)病態を中心に整理する。
鼠径部痛を生じている局所は、他部位の可動域制限や機能障害を代償した結果でのこともあり、緊張が高い鼠蹊部の筋への刺針刺激やストレッチだけでは根本的な解決にはならないことも多い。

1.大腿内転筋群の圧痛点に運動鍼

大腿内転筋群は、恥骨筋・長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋の5筋で構成されている。この中で、とくに特徴ある筋は、大内転筋と長内転筋である。
※大腿内転筋群の語呂:「チタン頂戴8斤(キン)」

1)大内転筋
大腿内転筋として最も強大。局所治療点は陰包あたりになる。


2)長内転筋

長内転筋は股関節内転筋の主動作筋で恥骨外端から起始している。パトリックテストの肢位をすると、隆起して摘みやすくなる。長内転筋は、長坐位開脚で上体を前屈させる柔軟体操で、いわゆる身体の硬い人は大腿内側基部に長内転筋の伸張が妨げられ、痛みを感じて十分に前屈できない。長内転気の圧痛点探索は、患側を下にした側腹位で行うと、圧痛点が把握しやすいようだ。圧痛点刺針して、股関節の内転・外転の自動運動を行わせる。局所治療点は足五里や陰廉あたりになる。股関節外転不十分な者に対して、陰廉や足五里から刺針して長内転筋を弛めると、外転角が増す(あぐら姿勢ができるようになる)ことが多い。

 


2.腸骨筋  

変股症による鼠径部痛は、鼠径靱帯外1/3の処(=外衝門)に圧痛をみることが多い。この部の圧痛は、短縮した腸骨筋の伸張による圧痛を意味する。腸骨筋は腸骨稜内面上部を起始とし、関節前面に接触、そして股関節を軸に、鋭く後下方にカーブして小転子に大腿骨小転子に停止しているので、股関節と腸骨筋の間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい。
   
鼠径痛時、パトリックテスト肢位をさせ、鼠径溝外方で上前腸骨棘内縁部を深々と押圧して腸骨筋の圧痛や股関節前面の圧痛を調べる。鼠径部から腸骨筋に刺入するには、股関節にぶつかるまで深刺し、癒着を剥がすように局麻剤を注入するが、かなり力を入れないと剥がれなかった(木村裕明医師)という。このブロックを腸腰筋膜下ブロックと称するので、針治療では腸腰筋膜下刺とよぶことになるだろう。2寸#4~#8で直刺すると硬い筋にぶつかるが、その筋中に刺入する。

 

3.股関節関節裂隙

変形性股関節症の大部分は、側殿部の中・小殿筋に出現する。それは歩行時は必ず中・小殿活動が伴うからである。このような場合、側臥位で腸骨稜の下方1~2寸の部にある中・小殿筋筋緊張を緩める針が効くことが多い。しかし股関節ROM制限はあるが、殿部の圧痛点が判然としない場合、股関節関節包への刺 針が有効となる場合がある。ある患者では、鼠径溝外方の腸骨筋部の痛みを訴えていたが、次に記す刺針でこの痛みは解消された例も経験している。
   

立位で上半身の体重が骨盤の股関節臼蓋に下向きに負荷が加わり、大腿骨頭との連結部分の関節包には慢性的な張力が作用しているので、治療点は関節包上部になる。患側上に側臥し、3寸#8針で、大転子から上方3~4㎝(一横指半)の部から直刺深刺する。同じ要領で1㎝刻みで3本程度刺入した方が効果が確実になる。7~8㎝入れると針響が得られる。5~15分置針後抜針すると、股関節ROM拡大している場合が多い。

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慢性副鼻腔炎と花粉症の針灸治療 Ver.1.2

2020-03-16 | 眼科・耳鼻咽喉科症状

  当院にたまに来院していた女性患者は、近くの整形外科の理学療法室で無資格ながらアルバイトをしていた。その人が私に慢性副鼻腔炎に鍼灸は効くか、と質問したのできちんと自宅施灸すれば効果があると返答した。しばらくして理学療法室の同僚の若い男性を副鼻腔炎を治してくれといって連れてきた。私は上星に直接灸3壮を行い、挟鼻穴(下記参照)に単刺して治療を終えた。そして上星には毎日自宅施灸するように指示した。この男性は毎日、自分で鏡をみながら上星の灸を続けたところ、数週間後にはついに鼻汁が止まった。それを見ていた女性患者はよほど驚いたらしく、鍼灸学校に入学したのだった。


1.副鼻腔とは


1)前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞の4種ある。うち上顎洞が最大。

2)副鼻腔の構造と特徴

鼻腔に接する頭蓋内の空洞で、開口部が鼻腔とつながる。
上鼻道の開口:篩骨洞(後部) 
中鼻道に開口:上顎洞、前頭洞、篩骨洞(前部、中部)
下鼻道に開口:鼻・涙管 
蝶形骨前洞窟に開口:蝶篩陥凹
  
大部分の副鼻腔の開口部は洞の下方にあるので、分泌物も溜まりにくい。しかし上顎洞は上方に開口部があり、分泌物や膿が貯留しやすい。 

 


 

2.副鼻腔炎の)病態生理

  
慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚
    ↓   
副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し、充血する。
    ↓
副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、
貯留物が排泄できない。
(本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、生理的に外に排出される)  
    ↓
感染が起きる。
 

3.副鼻腔炎の症状

   
慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似るが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。ときに鼻茸を合併。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹附近は、前顎洞の副鼻腔炎では四白附近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔内圧上昇するとされ、鈍痛増悪する。

R/O 上顎癌:

50才以上で鼻の癌では上顎癌が最も多い。
その7~8割は慢性副鼻腔炎をもっている。血性鼻汁となる。


 

4.現代医療

抗生物質、上顎洞洗浄、ネブライザー。しかし根本的治療法に乏しい。


5.針灸治療

  
慢性鼻炎があれば慢性副鼻腔炎も存在している。両者の共通症状は、鼻汁(粘性~黄色粘性) と鼻閉。慢性副鼻腔炎では前頭部鈍痛や頬部鈍痛を訴えるのに対し、慢性鼻炎では、これらの訴えに乏しい。  

鼻炎(花粉症などの鼻アレルギー含む)と副鼻腔炎の治療は、針灸では治療は同様に行ってよい。鼻炎と副鼻腔炎とは、鼻粘膜に連続性があり、神経支配も同一であることによる。花粉症は季節性アレルギーで、症状のある期間は比較的短いが、症状自体は強いので、針灸でも効果不足になりがちである。

1)鼻周囲の三叉神経第1枝刺激 

  
鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝が支配している。この神経を刺激すれば、鼻交感神経を緊張させ、血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。


上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経を介して頭重が起こるとされる。慢性鼻炎や慢性副鼻腔炎の者は、前頭部の前頭髪際付近に圧痛がみられることが多く、圧痛があればこの圧痛点である顖会(前髪際を入ること2寸)や上星(前髪際を入ること1寸)に長期的に透熱灸をすることが多い。
  
これは三叉神経を刺激することで、鼻腔や副鼻腔に持続反復刺激を与えている。頭髪中に施灸するので、灸痕が目立たず長期施灸を可能としている。施灸により、長期間良好な状態を保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、症状は消失状態を保つことができる。

     
①攅竹から睛明方向への水平刺
前頭神経(三叉神経第1枝の分枝)→鼻毛様体神経

②挟鼻(鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央)直刺。
鼻毛様体神経刺激。本神経は、知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。
揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻毛様体神経刺激による。
 

 

2)大後頭-三叉神経症候群として後頭神経刺激
   
三叉神経線維は三叉神経脊髄路というルートを持っている。外部から入力された感覚は、三叉神経節を経た後、三叉神経脊髄路を経由して、すなわち一度、第2頸髄の高さまで一度下行してから、再び上行して脳に行く。
下行時には大後頭神経と連絡しているので、大後頭神経と三叉神経の間に、密接な関係を生ずる。眼精疲労時には後頭部痛も生じやすいのもこの理由による。天柱に刺針すると、三叉神  経刺激症状(特に第1枝の眼神経)に影響を与える。大後頭神経が興奮して三叉神経症状を生  じたものを、大後頭神経-三叉神経症候群とよび、ペインクリニックでの通称も天柱症候群とよばれる。針灸臨床では、眼精疲労、鼻閉に天柱刺針を用いることが多い。


3)顔面関連痛をもたらす筋刺激
山田智子先生の発表による)

①急性副鼻腔炎患者で座位で頸部前屈すると顔面痛増悪する例があった者に、伏臥位で頸部前屈されても顔面痛増悪がなかったこと。②頬骨筋を収縮させた状態(イーッと歯を見せる)では、顔面部圧痛増悪したこと、③項部と上顔面部に針灸治療を行って、副鼻腔炎治療に効果をあげていること、などから顔面症状は、後頸部筋(後頭下筋、頭半棘筋、頸半棘筋、頭板状筋、頬骨筋、咬筋など)のトリガー活性の結果かもしれない。後頸部や顔面部の筋刺激の有効性が示唆される。<山田智子(六ヶ所村尾鮫診療所):第3回プライマリ・ケア学会>

6.その後の見解の変化
上記文章を発表した3年半後のこと。奮起の会鍼灸実技学習会後の懇親会で、参加者の先生方の話をお伺いできた。

1)A先生の話

鼻漏である自分に対し、上記図を参考にして左右の挟鼻穴から円皮針(パイオネックス)を入れると、即座に鼻汁が止まることを確認し、以降は患者にも使っているとのこと。その際、ただしく取穴は挟鼻穴にきちんと当たらないと効かない。1回の円皮針を入れておく期間は、鼻部の皮脂の分泌量によって異なり、ずれてきて1日持たない者から1週間程度もつ者まで色々。左右挟鼻に円皮針を入れておくことは、とくに外出時に格好が気になる場合、マスクで隠すようにすればよいとのことを話していただいた。

2)B先生の話

鼻漏に対しては、鼻稜外側にある上唇鼻翼挙筋を指頭でこすると、プチプチとした手応えが得られる。
何回か縦方向にこすると、そのプチプチした感触がなくなると同時に症状もとれるとのこと。

 


2.花粉症に対して鼻孔付近へのワセリン塗布(イギリスの伝統治療)

イギリスでは鼻孔付近にワセリンを塗ることで昔から効果をあげているという。要するに鼻
粘膜に進入してきた花粉を鼻粘膜中の水分にふれされない工夫である。鼻の症状を抑えることにより目の炎症(神経反射)も治まることが知られていて鼻バリアをすれば目のかゆみ症状も  軽減される可能性が高い。(NHKガッテン「今、ツラいあなたに!保存版 新発想の花粉症対策SP」 2019年4月3日より。
①.綿棒に少量のワセリンをつける
②鼻の穴の入り口周辺にぐるぐると綿棒で円を描くようにして3回程度回し塗る。
③最後に外側から小鼻を指で押さえ、中のワセリンを均等になじませる
はみ出たワセリンをティッシュで拭いて取り除けばOK!
   目安は1日3回~4回程度。ときどき鼻をかんで花粉がついたワセリンを拭き取る。

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眼瞼痙攣の病態と針灸治療の適否 Ver.1.1

2020-03-15 | 頭顔面症状

1.顔面痙攣  
 
1)症状

   
一側の顔面が長期間、強く痙攣する状態。目の周り(特に下瞼)の軽いピクピクした痙攣で始まり、次第に同側の上瞼・頬・口の周りなどへ広がる。痙攣の程度が強くなると、顔がキューとつっぱり、引きつれる状態になる。ひどい場合、耳小骨のアブミ骨筋(顔面神経支配、鼓膜に張力を与えている)が過剰刺激され、カチカチという耳鳴が生ずることもある。

   
当初は緊張した時などに時々起こるのみだが、徐々に痙攣している時間が長くなり、一日中ときには睡眠中も起こるようになる。
自分の意思とは関わりなく顔面が動く、ということで気ぜわしく対人関係や仕事に苦労する。ストレスなどでも誘発される。自然に治癒することはほとんどない。
 
2)原因<神経血管圧迫>


脳血管の異常走行により、脳幹より出る顔面神経に脳の血管がぶつかり、動脈拍動のたびに顔面神経が刺激されている状態。脳血管異常走行の原因としては、加齢、脳動脈硬化、先天的  動脈奇形など。

 

3)一般的治療
  
①ボツリヌス菌毒素注射

      
ボトックス(ボツリヌス菌希釈液)の眼瞼や口角周囲の痙攣部への注射。持続効果は3ヶ月前後で、繰り返しの注射が必要になる。 

※ボツリヌス毒素は、食中毒をおこして随意筋を麻痺をさせ、重症では横隔膜運動も麻痺して致死的になる。この作用を利用し、本菌を使って筋の運動麻痺を起こさせるのがボトックス注射。
※ボツリヌス菌毒素注射は、美容整形として皮筋を麻痺させることで、顔面のシワとりにも用いられる。

②手術「微小血管減圧術」
   
顔面神経を圧迫している血管位置を少しずらせて固定させる手術で、根本療法になる。手術後遺症として、数%~10%程度の者に聴力の障害がおこる(顔面神経と内耳神経と並走行している。手術中に内耳神経にストレスがかかるのが原因)。
三叉神経痛と眼瞼痙攣の手術原理はよく似ている。 
 

4)針灸治療(若杉式穿刺圧迫法の応用)

   
かつて代田文誌は、顔面麻痺に対する鍼灸は、無効と記していた。しかし30年ほど前に、ペインクリニックにおいて若杉式穿刺圧迫法が考案された。本法は針でも応用できるか否か試してみ  た。すなわち茎状突起(=翳風)への針タッピング術の開発により、痙攣の程度を減ずることができることを知った。と同時に限界も示した。  

  
①神経ブロック 若杉式穿刺圧迫法

    
関東逓信病院ペインクリニック科では顔面神経の主幹を神経が頭蓋底を出た部位で針を使って圧迫する治療法を創案した。痙攣が止まっている平均有効期間は9.3 カ月。痙攣が再発してもすぐにブロック前の強さにもどるのではないので,年に1 回程度治療を行う症例が大部分である。ブロック後の痺期間は平均1.3 カ月で70%以上が1ヶ月以内に麻痺は回復する。

  
②顔面神経直接刺激する針治療

   
a.2寸以上の中国針を使用。治療側を上にした側臥位。
b.翳風を刺入点として茎状突起に針先を誘導する(方向を誤ると、強い刺痛を残す)
c.針先が骨に命中したら、3分間のコツコツとタッピング刺激を与える。その後7分間置針し、再びふた3分間タッピング刺激。総治療時間は20分間程度。

上記の治療を行っても、痙攣を軽減する期間は数日間であり、その後は再び針治療が必要になる。患者にとって手間と経済的負担が大きいだろう。


2.眼瞼痙攣 
眼瞼痙攣となる疾患には、顔面痙攣初期の他に、眼瞼ミオキミアと本態性眼瞼痙攣がある。
 
1)眼瞼ミオキミア   

  
①病態生理と症状

    
まぶたの一部(下眼瞼が多い)が痙攣する。通常は片側に起こることが多い。(本態性眼瞼痙攣は両眼の上下眼瞼とも等しく痙攣する。不規則で持続時間が長い小さな不随意運動で、自覚的にはピクピクとした感じがする。通常数日から数週間で、自然に治まる。 

※ミオキミアとはは不規則で持続時間が長い小さな不随意運動のこと。
  
②原因

   
顔面神経が支配する眼輪筋の一部に異常な興奮が発生することで生じる。
特段の原因はない。健康な人でも長時間書類を注視したり、パソコン操作などがもたらす眼精疲労や、寝不足の際に一時的に感じられることがある。
  
③針灸治療

    
木下晴都は春先に3年間、毎年眼瞼振戦を経験してたが、3年目の時に自身に次の治療を行い、著効を得たという。振戦を起こす右下眼瞼3点に、3~4㎜刺入した後、刺激を強める意味で針を左右に回旋するという旋捻を5~6回行って抜き取る手技だった。翌日は振戦依然と存在したが、3日間続けると全く消失した。患者にも実施し、すべて症状の回復が早いことを確認した。

 

 

 

2)本態性眼瞼痙攣
  
①原因


初期:まばたきが多く、目が開けにくい、眼がショボショボするのでドライアイと誤診されやすい。眼瞼が痙攣するというより開けにくい。

進行期:両側性に、羞明感、目の乾燥、目を開けていられない、下眼瞼のピクピク感出現。次第に上眼瞼に拡大。左右両方に進行性の眼瞼痙攣が出現する。
重症時:眼を開けていられない。視力があるにもかかわらず生活上は盲目と等しくなる。

②症状

パーキンソン病と同じく、大脳基底核の運動制御システムの障害。間代性・強直性の攣縮が両側の眼輪筋に痙攣が起こる。40歳以降の女性に多い。

※大脳基底核=大脳皮質の底にある白質中の灰白質部分。随意運動の発現と制御の役割。


 

③治療
     
進行は緩徐だが自然軽快はまれ。初期症状には、眼輪筋に対してのボトックス注射が有効。眼瞼の痙攣部数カ所に注射する。ボトックスの持続効果は3ヶ月程度なので、繰り返しの注射が必要になる。
眼が開けられなくなれば、有効な治療に乏しく、眼輪筋を切除する治療しかなくなる。


④重度眼瞼痙攣に対する針灸治験の模索

     
瞼が開かないと訴える30代女性患者に対して針灸治療を試みたが無効だった。ただし色々とアプローチをした中、患者が最も評価したのは、眉の1㎝ほど上方から眉と並行に水平刺し、滑車上神経・眼窩上神経に響きを与えたものだった。一時的に交感神経緊張状態に誘導したのが効果の理由だと思えた。

 

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顎関節症の針灸治療法 Ver.2.0

2020-03-12 | 歯科症状

1.顎関節症の概要

1)概念


咀嚼咀や開口時の顎関節とその周囲の疼痛、開口障害と開口時雑音などを主体とする顎関節症状の総称。


2)症状

3大症状は、開かない・痛い・音がする ※ただし安静時の自発痛はない。



3)顎関節症の分類(1996年、日本顎関節学会)

Ⅰ型:咀嚼筋の障害
Ⅱ型:関節包や靱帯障害
Ⅲ型:関節円板の異常
Ⅳ型:退行変性病変
Ⅴ型:上記以外の病態。心身症含む。
 実際には上記の合併型が多い。



2.Ⅰ型顎関節症と針灸治療

針灸適応はⅠ型であり、咀嚼筋とくに側頭筋と咬筋の緊張に対して効果がある。針灸は、開口制限そのものの効果は弱いが、開口時の痛みや痛みによる開口制限に効果が期待できる。通常3回程度の治療でよい。筋の起始停止への刺針を行う。側頭筋、咬筋の問題、外側翼突筋の筋緊張であることが多い。痛みを我慢すれば大きく開口可能。顎関節部の圧痛(-)、開口時雑音(-)

①細い針を用い、まず患者に強く歯を食いしばらせた状態で圧痛点に刺針。つぎに開口させた状態で圧痛点に刺針。最後に咬筋が下顎縁に停止する部(大迎穴)の圧痛点に刺針する。
②寸6#1を用い、下関穴(頬骨弓下端中央)から静かにゆっくりと直刺し5分間置針。針は咬筋(深部)→側頭筋→外側翼突筋と入る。

3.Ⅱ型顎関節症と針灸治療

顎関節の過使用による関節包や滑膜の痛みで、若年者に多い。比較的自然治癒しやすい。過使用を避けるような指導をする。圧痛は顎関節に限局、すなわち局所圧痛点である聴会穴あたりに限局する。
消炎鎮痛作用を期待し、聴会等の局所圧痛点に静かに置針する。



4.Ⅲ型顎関節症と針灸治療 

20歳代女性に多い。開口制限あり。最大開口でも縦に指が1~2本しか入らない(正常では3~4本)入る。聴宮(顎関節部)の圧痛(+)。
この障害のみであれば顎関節部痛はないはずだが、実際にはⅠ型Ⅱ型などの合併も多いので、開口痛があることも多い。


※大きく開口時、カッンという音がすれば、その時関節円板は正常位置に戻るタイプ(Ⅲa型)。常に関節円板がずれているタイプ(Ⅲb型)では、カックンという音はしない。

開口時にクリック音がする。それは顎関節円板が所定の位置にもどる時の音になる。位置のズレ→関節円板の変形となると治癒しないことになるが、変形があまり目立たないタイプ(結果的に若年者)に対しては、刺針する価値がある。関節円板に付着し、円板を前方に引っぱるのは外側翼突筋上頭なので、この筋の緊張を緩めることを目的とする。それには最大限に開口させた状態(この時外側翼突筋は強く緊張している)で、下関から外側翼突筋に深刺し、軽く雀啄して抜針するという術式が結構効果あるようだ。詳細後述する。


5.Ⅳ型顎関節症

中年期以降の女性に多い。口を開ける時も噛む時も痛い。Ⅳ型顎関節症は関節変形が主因なので、経過が長いことが前提になり、中年以降にみられることになる。顎関節を動かすときに発するガリガリ、ジャリジャリという音がすれば、関節変形を意味しているので、針灸適応ではない。同じく、強く咬むと顎関節が痛むというのも変形性なので針灸適応ではない。
 


6.外側翼突筋刺針の技法と適応症

1)Ⅲ型顎関節症のクリック音に対し、下関への手技針が効果的か

これまで顎関節症の針灸治療というと、Ⅰ型に適応があるとは認められていた。しかしやり方によってはⅢ型にも適応があるかもしれないと思う症例(25才、女)を経験した。従来から顎関節症に下関深刺は多用してきたが、それだけではⅢ型に対して効果不足だった。しかし外側翼突筋運動針の方法として最大開口肢位で行ううようにすると、施術後ただちに音が消え、また再現性もあった。

開口時のクリック音を鎮静化させるには、開口させた体位で下関に深刺し、次に最大限に3秒間開口するよう患者に伝える。術者は下関に細かい雀啄刺激を加えつつ、1、2.3と声を出してカウントし、その直後に静かに抜針するという方法をとる。



2)刺針効果 


筆者の別の患者では、コリに当たると、患者もツボに当たったことが納得できるという。耳中に響いたり、上歯に響いたり、首から背中に響いたりするという。治療終了して道を歩いていると、その10分後くらいすると、背中の血流がよくなったことを自覚でき、非常   に気持ちよいという。効果持続時間も数日以上で、これまで5年間受けてきた種々の治療中、ベストだということだった。
  

3)外側翼突筋刺激の特殊効果
    
ネットで調べてみると、線維筋痛症に対して外側翼突筋に対するトリガーポイントブロックなどが効果ある例が報告されている。 本筋は他の筋と違って筋紡錘がないという。これは本筋の筋トーヌスが自動的に調整され難いことを意味している。咬み合わせの異常など→外側翼突筋の持続的緊張→中枢の興奮と混乱→全身の筋緊張といった機序も考えられるということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 













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道教によって影響をうけた古代中国の生命観 Ver.1.6

2020-03-07 | 雑件

1.序

『黄帝内経』が編纂されたのは漢の時代(BC202~AD220)だとされている。当時、道教は儒教とならんで、中国人の精神構造の基盤となった。
中国の古代医学も道教の影響を強く受けていたと考えられる。道教を学習することは中国の針灸古典の背景を知る上でも興味深いことである。

私は鍼灸学校卒業してすぐの頃、道教の古典的名著であるアンリ・マスペロ著川勝義雄訳『道教』東洋文庫、平凡社刊 昭和53年(1950年原著出版) を購入して読んでみた。この著作は「道教とは何か」に対する一つの確固たる回答であり、欧米の学会に大きな刺激を与えたという。しかしそれでも35年前の私にとっては難解すぎた。それを今になって読み返してみたが、今回は意外にも興味深く読むことができた。というのも、東洋医学に対してある程度の知識や経験をもったので、本書を自分の考えと対峙しながら、読めたのが原因だろう。道教の興味深かった点を、筆者の解釈を加えて紹介する。



2.著者アンリ・マスペロ Henri MASPERO とは

フランス人中国学研究者アンリ・マスペロ(1883-1945)は、研究途中で「道教」について、自分がほとんど何も理解していないことを改めて知った。その上で、道教は儒教とならんで中国人の精神構造を知る上での鍵であるという事実に突き当たった。マスペロは当時の道教の歴史と文献を学問的に探ろうとした最初の人であった。マスペロが生前に発表された原稿は少なかったが、死後書斎を整理してみて、道教については膨大な未発表原稿が発見された。
これらの原稿は、マスペロの妻と友人が整理して本書として誕生した。本著は、西洋の者が道教を知る上で最もスタンダードなものとされている。なおマスペロは1944年ドイツに拉致され、その翌年獄中で非業の死をとげた。マスペロは日本語学習の必要性を理解し、我が国にも2年間滞在したことがある。


3.不死への修業


道教では死んでしまえば霊魂も消えてなくなると考えていたので、生き続ける身体の保持の方法が興味の対象となった。その方法は単なる延命ではなく、生きている期間内に不死の身体に取り替えることだった。

身体を不死にする方法は、養形と養神に区分され、それぞれに対して様々な実践的なプログラムが用意されていたが、どれも厳しい修行を必要とした。  
 
養形:物質的な身体の老衰と死の原因の除去。 →食餌法や呼吸術

 
養神:身体内部にいる種々の超越的存在(悪さをする精霊、霊魂など)ににらみをきかせ、自分勝手に悪さをさせない。 →精神集中や瞑想


4.呼吸法 


臍下丹田の「丹」には赤いという意味があり、「田」は生産する場所という意味がある。すなわち丹田は、生き続けている間、生命の炎が燃えている場所と考えていた。この丹田では精を養う場所だった。火が燃え続けるには空気が必要だが、普通の呼吸法では空気は肺にまでしか入らない。丹田の炎を大きく燃やし続けるには腹まで空気を入れるべきであると考えるようになった。その方法とは次の2通りある。 


1)胎息(息を飲み込んで消化管に至らしむ)


呼吸器官は胸までしかないが、消化管は食道を通って腹全体に配置されている。息を吸うのでなく、息を飲み込むようにすることで胃腸に空気が入るから、臍下3寸(=関元に相当)にある丹田の炎を大きく燃やすことで精を養う能力を増やすことができる。臍下丹田にある精が、そこに入ってきた空気と結合して神(=正常な意識。この神というのは霊魂とな別物)が生ずる。

 
腹にまで空気を入れる呼吸法を胎息とよぶ。これは母の胎内における胎児の呼吸の方法だからである。

臍下丹田に入った気は、その後に髄管によって脳に導かれ、脳から再び胸に降りていく。3つの丹田(後述)をこのように回り終えたら、口から吐き出される。あるいは単に気を巡らせるのではなく、気を身体の中で意のままに動きまさせる。病気の時は、疾患のある場所を治すため、そこへ気を導く。

2)閉気(息を閉じ込める)

凡人は、吸った空気はすぐに吐いてしまうから、空気の中に含まれている滋養を充分に吸収できない。気を深部にまで巡らすには、長時間息を止めておく(閉気)ことが必要である。閉息して、気のもつ滋養を吸収できる時間をできるだけ長くする。


5.食餌法


1)三つの丹田の働きを妨げる三虫


身体を、上部(頭と腕)、中部(胸)、下部(腹と脚)に三分割できる。各部には上丹田・中丹田・下丹田とよばれるそれぞれの司令部がある。丹とは紅と同様な意味で、炎に通じている。生命の炎が燃え続けているためには、気(空気)は不可欠である。

上丹田:脳中にあり、泥丸(ニーワン)宮という。これはサンスクリット語のニルバーナ=涅槃に由来している。上丹田は知性をつかさどる。なお涅槃(ねはん)とは煩悩から超越した境地のこと。転じて聖者の死を涅槃というようになった。上丹田に行く気が不足すれば知性を失う。

中丹田:心臓のそばには絳宮(こうきゅう)がある。絳(こう)とは深紅の意味がある。
血液循環の元締めだからであろう。心拍数の増減させること、すなわち感情の起伏に関与している。

下丹田:臍の下3寸の処(関元の部位)にある。下丹田は精を養っている部で、精に気が注入されて初めて神(正常な精神)ができる。精力(精神や肉体の活動する力)をつくる源でもある。

 


2)辟穀(へきこく)-三虫退治のために 

三つの丹田にはそれぞれの守護神がいて、悪い精霊や悪気から丹田を守っている。しかし守護神のそばには有害な三虫あるいは三尸(=屍)がいて丹田を攻撃して老衰や病気の原因をつくる。道士(道教の修業者)は、できるだけ早く三虫を取り除かねばならない。穀物を食べると、必然的にカス(大便の材料)が出て、カスは濁気を醸成する。この濁気が三虫を滋養し、疾病を起こす。三虫を取り除くには、穀物を絶たねばならない。これを辟穀(へきこく)とよぶ。辟穀は道士修業の基本である。穀物の代りに松実・きのこ・薬草などを食して体内の気を清澄に保つ。
                                   

2)霊薬としての丹薬


①丹薬の製造


辟穀しただけでは、三虫を絶滅しきれず、丹薬の服用も欠かせすことができない。丹薬は丹砂(=辰砂)ともいい、自然界では硫化水銀として存在している。純粋な丹砂は、朱色だが、普通は不純物を含むので暗褐色である。丹砂を炉400~600 ℃ に加熱して出た蒸気を冷やすことで水銀を取り出す。

水銀蒸気は目にみえず、瞬時に蒸発してなくなる。この段階では見えないものを集めなくてはならないので、2000年前の中国人が水銀精製法を発明したことは驚きである。熱を加える作業をした職人は、おそらく霊薬中毒(=水銀中毒)で発病しただろう。

水銀がなぜ霊薬だと思ったのかは定かではないが、水銀は金属でありながら重い液体であり、さらに常温でも気化(重さがなくなる)して次第に消滅することなどの特性があることなどが考えられる。

古代ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬は辰砂のことで、辰砂は西洋では「賢者の石」ともよばれる。賢者の石との名称は、童話「ハリー・ポッターと賢者の石」ですっかり有名になった。

 

 

 

 

 

②硫黄と水銀の特殊性

なぜ、硫黄と水銀が特別なのかについては、最もな理由があった。

①自然界には辰砂 しんしゃ(=硫化水銀HgS)という朱色の鉱石がある。これを空気中で加熱(600℃)すると、次の化学変化が起こる。発生した水銀蒸気を冷やすことで水銀抽出できる。なお二酸化硫黄は空気中に拡散され残らない。
   

 

②この水銀単体を空気中でさらに加熱(350℃)することで朱色の酸化水銀になる。
     
③さらに加熱(450℃)すると酸化水銀が分解され、水銀単体に戻すことができる。
  
②③は可逆反応であり、空気中で加熱するときの温度の違いにより繰り返し反応を起こすことができる。 辰砂を焼くだけで、銀色→朱色→銀色→朱色と繰り返し色が変化することが、神秘性を感じたとしても不思議ではない。

 

 

3)丹薬の効能

丹薬は永遠の命や美容などで効果があると信じられていた。丹薬が永遠の命を実現できるものとする考え方は、遺体を辰砂溶液に浸しておくと、いつまでも腐敗しないという実例がヒントになっているのだろう。ちなみに昭和天皇の遺体も布にくるまれた後、辰砂液につけられ、真っ赤だったという証言もある。天皇のような高貴な身分の人は、死去から遺体を埋めるまでに相当な期間を要するので、腐敗を防ぐ手立てが必要になったという。

秦の始皇帝は永遠の命を求め、水銀入りの薬や食べ物を摂取していたことによって逆に落命したことが知られている。死因は現代でいう水俣病(有機水銀中毒)だった。他にも多数の権力者が水銀中毒で死亡した。当時から、丹薬服用の危険性は知られていた。しかし至高の価値を得るためには、命を預けた賭けが必要とされ、また人格によって毒にも薬にもなるという人格が試される試験でもあったという。

始皇帝の陵墓は中国成西の郊外にある。陵墓全体は土に覆われ、小山のようになっている。『史記』には始皇帝棺の周囲は自然を模したように水銀で海が満たされていたとの記載があり、今日土壌を調査すると、土に水銀濃度が高いことが判明していて、内部構造を調べるのを困難にさせている。水銀には腐敗防止効果もあるので、中を発掘し、酸素に触れさせることで、劣化が早まるという危惧もある。 


なお稲荷神社の鳥居や神社の社殿などの塗料して古来から用いられた朱の原材料も、水銀=丹である。丹は木材の防腐剤として使われてきた。朱色は生命の躍動を現すとともに、古来災厄を防ぐ色としても重視されきた。臍下3寸の関元穴あたりを臍下丹田とよぶ。この部が充実して温かいことが、命の炎が燃焼しているという意味であった。

 

3.錬金術としての効能

古代から西洋では錬金術として金の抽出が行われていた。これは金鉱石を砕いて水銀を加えて加熱し、水銀蒸気を蒸発させて純粋な金をつくるものだった。卑金属から貴金属をつくる研究も行われたが、これらは失敗した。しかし近代化学の基礎を築いたという点で評価されている。


 

 

 

 

 

 

中国の柴暁明先生が、上記の私のブログを中国語に訳して下さいました。感謝致します。文面は次の通りです。

現代の中国でも、上流階級の者を中心に、道教の辟穀は流行っているようです。
何万元から何十万元でもかかって一週間の辟穀修業する方も結構多いそうです。
新聞記事を鵜呑みにして、浅い知識で勝手に今週辟穀しようと宣言する庶民たちは少なくないです。
このブログは、中国人にとって必要な基礎内容です。私は翻訳する前は、道教に対する認識も薄かったですが、このブログのお陰で、以前より深く認識できるようになりました。

 道教によって影響をうけた古代中国の生命観 Ver.1.3

 https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MzU0Nzg5MjkzNQ==&mid=2247483824&idx=1&sn=f063f536f5a61784f4d0358d20421572&chksm=fb463a18cc31b30e656ef7b3e859ad4f06fe432d219ec8df057fb5670dcd203c6a215d5c7486&token=394854727&lang=zh_CN#rd

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三叉神経痛と針灸治療(仮性三叉神経痛を中心に)

2020-02-28 | 頭顔面症状

針灸師の守備範囲は結構広く、四方にアンテナを広げているつもりでいても、いつの間にか各分野の新知識に遅れをとってしまいがちになる。今回もそのようなケースであった。ある日三叉神経痛の患者が来院した。これまで三叉神経痛は針灸不適応だと思っていたのだが、この患者に対しては、予想外なことに1~2回の施術で症状消失をみたのだった。嬉しいことである反面、どういうことなのか疑問に思って調べ直してみた。


1.現在と一昔前の三叉神経痛の分類の違い

一昔前の三叉神経痛の分類では、本態性三叉神経痛と症候性三叉神経痛に大別していた。本態性とは原因不明な場合をいうが、このタイプの三叉神経痛の9割は橋付近の血管による三叉神経圧迫が原因だと特定されたので、もはや本態性という名称はふさわしくない。そのためだろうか、いつの間にやら真性三叉神経痛という名称に変わった。
 
一方、症候性三叉神経痛というと三叉神経領域の帯状疱疹とか齲歯痛が思いつくが、実際には原因不明であることも非常に多い。ただし真性(=本態性)三叉神経痛と違う点は、押圧しても痛みを誘発するポイントがないこと、ビリッビリッとした耐え難い数秒間の痛みではなく持続性の鈍痛であることなどがあった。そこでネットで調べてみると、かつての症候性三叉神経痛は、現在では仮性三叉神経痛と呼ばれていることを知った。仮性三叉神経痛の8割は原因不明だという。

2.真性(特発性)三叉神経痛 
話の順番として、真性三叉神経痛について総括する。
  
1)原因
40~50歳代の女性に多く見られる原因不明の三叉神経痛とされてきた。しかし今日では三叉神経痛の9割が橋付近の血管による三叉神経圧迫が原因だとされるに至った。なお発性叉神径痛と思われた1割で脳腫瘍が発見されてる。            
  
2)症状
痛みは顔の右か左かどちらか一方におこる。痛みの部位は、上顎部・下顎部・鼻翼外に出ることが多く鼻や口唇の周りなどを触ることにより激痛(風に当たっても痛いという)が誘発される。これをPatrickの発痛帯とよぶ。夜間睡眠時は、これらの発痛帯に刺激が加わらないので、痛み発作は起こらない。
発作時は、鋭い電気の走るような激しい痛みが、発作的(2~10秒)に、繰り返し起こる。洗顔、歯磨き、ひげ剃り、化粧、食事、会話などにより痛みが誘発される。
※Patrick発痛帯:無痛状態時に刺激されると必ず疼痛を発現する部位。口角、口唇、鼻翼鼻唇溝、眉、歯肉などの特定部位。
   

3)三叉神経痛の現代医学治療
①「微小血管減圧術」手術
約9割以上が脳幹出口部における三叉経の“神経血管圧迫”であり、これに対ては、脳外科的に神経を圧迫している血を神経か剥がし、圧迫を解除するのが根本療法になる。有効ほぼ100%だが、再発することもある。

②薬物療法
抗痙攣薬カルバマゼピン(商品名:テグレトール)が第一選択。多くの症例に効果あるが、服用を中止すると再び疼痛が生じる。本剤は本来は抗テンカン藥で、てんかん発作痙攣を抑制するが鎮痛効果はないはずである。しかしこの中枢神経興奮抑制効果を利用して叉神経痛など一部の末梢神経痙攣痛に対し、痛みの発症以前の痙攣を抑制する目的で処方れる。元々が痛みの発症する前に使われるので、痛みのあるなしは関係がない。
    
近年ではリリカ(一般名プレガバリン)など使われるようになった。リリカは末梢神経障性疼痛の治療薬であり、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛に適応がある。従来の鎮痛剤であるロキソニンやボルタレンなどの消炎鎮痛剤は無効。


③針灸治療の意義
真性三叉神経痛発作時は、パトリックの発痛帯に触れると、耐え難い痛みが誘発するので 顔面を施術すること自体が難しい。現代では鎮痛効果のある治療薬も出現しているので、治療効果的にもあえて針灸を行う意義は乏しくなった。



3.仮性三叉神経痛とは
   
症候性三叉神経痛はそのままとして、現在では原因不明なものの大部分は、顔面の筋膜症と考えられている。顔面部の筋膜症であれば、患者が指で示す圧痛点に深刺置針5~10分で一時的に症状改善でることが多い(治るわけではない)。
 
1)顎関節症Ⅰ型の針灸治療

Ⅰ型顎関節症とは、咬筋や外側翼突筋の過緊張によるものが多い。咬筋緊張に対しては頬車・大迎の緊張部に刺針し、外側翼突筋に対しては下関直刺が有効となる場合が多い。  

2)耳鳴・難聴および耳痛の針灸治療
    
三叉神経第Ⅲ枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚を支配しているだけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与している。これは顎関節症により二次的外耳道や鼓膜症状が出現することを示唆している。針灸臨床上、顎関節症を治すことが難耳鳴の治療につながることを経験している。

 耳介~外耳道の神経痛は三叉神経第Ⅲ枝痛だが、Ⅲ枝の分枝の耳介側頭神経痛によるもので、これを「神経性耳痛」とよぶことがある。現代医療では、この治療に耳介側頭神経ブロックを行うことがある。この方法が針灸でも流用できる。和髎(耳珠前方で、頬骨弓直上に浅側頭動脈の拍動を触れる。同動脈に伴走して耳介側頭神経が走る部)、または和髎の方1寸から、側頭部に響かせるように斜刺する。
 
3)舌痛症の針灸治療                                               

舌神経(三叉神経第Ⅲ枝の枝、舌前2/3知覚を担当)を刺激する。それには裏頬車~裏大迎から刺針し、内側翼突筋緊張などを緩めるよう刺針を左右計4カ所程度行う。または下顎骨前面の内側縁の顎舌骨筋(前廉泉穴の傍)から直刺し、舌の起始部へ直刺する。治療効果が長持ちしない場合、刺針部に円皮針を追加する。



4)筋膜症としての仮性三叉神経痛の針灸治験症例

 
真性三叉神経痛は、発作時は顔面に触れることができないので、勿論顔面部の針灸治療を行うことは困難である。その一方で非発作時は、そもそも針灸治療が意義あるものかも判然としない。
しかし仮性三叉神経痛の大部分は、筋膜症ではないかとする見解があり、私の治療経験からも、
針灸治療は結構有効なのではないかとの印象を受けた。患者が指指す顔面部位に十分に深刺するのがコツで、有効な場合、筋緊張の抵抗の中をグイグイと針を入れていくという手の下感があるようだ。


①症例1 72才、女性
  
二十年以上前から左鼻翼外方に部分的に重苦しい感じがあり、左鼻も詰まるという。病医院でも治療は必要ないとして、無処置であった。寸6、2番で患者の指示する部に骨にぶつかるように斜刺深刺(直刺したのではすぐに骨に当たってしまうので刺針感がほしいので斜刺した)して置針5分。症状軽減した。
本例は、完治させることはできないが、こうした鍼をすると症状は毎回大幅に軽減した。
 

②症例2 37才、女性

   
当院初診10日前から左耳前~頬部に強い痛み出現。痛みは発作性ではなく持続性。強く歯を噛みしめると、左下奥歯が痛む。近医受診し、三叉神経痛の特効薬であるテグレトール処方され、以来痛みは7~8割ほど軽減されている。

痛み部位は三叉神経第2枝領域なので、眼窩下孔刺針、下奥歯痛ということで咬筋と内側翼突筋、おとがい孔に刺針。使用鍼はすべて寸3の0番針で、5分間置針。すると痛みほぼ消失。強く噛むと左下奥歯がまだ痛むというので、咬筋に対する運動鍼を行い症状大幅に軽減した。

 

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下歯痛の針灸治療 ver.1.1

2020-02-28 | 歯科症状

1.針灸適応となる歯痛
歯の激痛に対して、針灸で止痛させることは難しい。しかし関連痛による歯痛(放散性歯痛を含む)による歯痛は効果がある。歯肉痛にも効果がみられる。上歯痛・下歯痛それぞれ2回に分けて考えてみる。

※関連痛を生ずる歯痛のなかで、とくに遠隔部位に生ずる痛みを放散性歯痛とよぶぶ。

2.下歯痛の治療

歯痛の鍼灸治療で、筆者が参考にしているのは、柳谷素霊著「秘 法一本鍼伝書」であり、また木下晴都創案の傍神経刺である。今日で入手できる歯痛の傍神経刺の載っている成書として「最新鍼灸治療学」がある。
 
1)頬車水平刺(柳谷素霊著「秘法一本針伝書」)

①体位:上歯痛の場合と同じ。但し上歯と下歯とのあいだに手拭をまるめて噛ませるようにする。こうすれば穴が益々明かとなる。
②取穴:下顎骨隅を指でナデ上げるようにする。初めは軽く、除々に強くなでると骨の欠け目がある。上にゴリゴリした筋肉様のものがある。この下の陷凹部を穴とする。
③刺鍼:鍼尖が口吻の方向に向くようにし、鍼尖をして下顎骨中(内に非ず、外に非ず、骨中を標的に)に刺し透すやうな心得で刺入する。手技は上歯痛の場合と同じ。 深度は1~1.6寸位。
④注意:刺入しているうち、鍼尖が骨に当ったときのように硬く感ずる、手ごたえがあっても緩やかに旋撚しつつ刺入する。このように刺入せば入るものである。且つ鍼響の感があるものである。但し、耳の中に鍼の響がある場合には鍼尖を下方に向ける(刺鍼転向)、痛む歯に鍼響あれば手をもって合図させる。響いたならば除々に抜除し、後を揉まない。

2)頬車水平刺に対する筆者の見解
柳谷のいう頬車水平刺は、内側翼突筋中に刺針することで、下歯槽膿神経刺激を行っていると思えた。

ペインクリニックで用いる下歯槽神経ブロックは下顎の下方から水平刺する口腔外アプローチと、口腔内の歯肉から刺針する口腔内アプローチがある。刺入部位は3者とも異なるが、マトとなるのが下顎孔あたりになるのが興味深い。大迎あるいは裏大迎から口方向に水平刺しても、下歯槽膿神経の直接刺激はできない。

 ※下歯槽神経の走行:下顎孔から骨中のトンネル中を走りつつ、下歯に知覚神経の枝を出し、最終的にオトガイ孔から下顎骨表面に出る。このオトガイ孔部を刺激することは、適用が限られるのでペインクリニックではあまり用いられない。オトガイ孔刺の適応は、狭車水平刺に含まれる。 
 

 

3)聴関穴(木下晴都の下歯痛に対する傍神経刺)について

聴関とは、聴宮と下関の中間にあることから木下が命名した。しかし聴関穴は、今日の標準経穴位置から検討すると「下関」にほぼ一致しているので注意すべきである。
この部から2寸鍼を使って3.5㎝直刺する。これには咬筋深葉を貫いて外側翼突筋中に刺針狙いがある。(このさらに深部には、三叉神経第3枝の出る卵円孔があり、ペインクリニックでは上顎神経ブロックとして使用される)

この発想はいいとしても、下関から3.5㎝深刺するとなれば、実際には用いづらい施術法といえよう。

 

4.オトガイ孔への刺針の検討

三叉神経第3枝の分枝で、下歯槽膿神経は下顎孔から骨トンネル内に入り、はオトガイ孔から下顎骨の表に出てくる。
この骨トンネル走行中に下歯痛に知覚枝を送っているので、下歯痛とは下歯槽神経痛だともいえる。
ところでオトガイ孔は予想外な方向で開口しているので、骨孔を貫通させるには案外難しい。それに加え、
オトガイ孔の骨孔を貫通できたとしても、下歯痛に効果があるとはいえない。結局オトガイ孔刺針の臨床的価値は乏しいといえる。

 

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