現代医学的鍼灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

頭痛・眼精疲労時の太陽穴反応と刺針手技 ver,1.1

2023-01-29 | 眼科症状

1.太陽穴の名称
 
中国語でコメカミのことを太陽という。太陽穴との名称理由は不明だが、屋外で最も太陽に照らされる部位と考えたのではなだろうか(頭部は頭髪があるから陽は直接は当たらない)。ちなみにコメカミのことを英語ではテンプル temple という。これはお寺の temple とスペルも同じなのだが、外来語を英訳する際にたまたま同じ綴りになってしまった訳で両者間に関係はない。 


2.太陽穴の取穴


こめかみ部で、外眼角と眉毛外端を結んだ線の 中点から後 外方に約1寸の陥凹部にとる。頬骨の外縁で側頭筋前方になる。



3.太陽の局所解剖


太陽穴のある側頭筋は咀嚼筋の一つである。側頭筋の機能は下顎骨を挙上させ、食物を咀嚼することである。側頭筋は扇形に広がった形をしており、起始は側頭骨外周に、停止は下顎骨筋突起にある。力学的観点から、側頭筋は後方(緑矢印)に比べて太陽穴のある前方(赤矢印)に強い収縮力が起こることが理解できる。すなわち太陽は、側頭筋の筋収縮が起こりやすい部だといえよう。



4.緊張性頭痛と太陽穴


緊張性頭痛のタイプには、「きつい帽子をかぶっている」タイプと「頭に石が載っている」タイプの2種類あり、主に前者は側頭筋、後者は後頭筋由来だとされる。太陽の圧痛反応は、きつい帽子をかぶっているタイプに起こりやすい。
トラベルによれば本筋のトリガーポイントが活性化すれば、上歯への放散痛が生じたり側頭筋~眉上の前頭筋部の痛みが生ずることがあると記している。ただし側頭筋緊張が眼部へ放散痛をもたらさないことに留意すべきである。
このような場合、コメカミへ自分の橈骨茎状突起を押しつけならがグルグル回すと症状緩和に効果ある。指先で押圧してグルグル回すのではポイントが限定されるぎるようだ。

 

 

5.緊張性頭痛と眼精疲労の相関関係

動物は敵と戦う手段として<噛みつき>攻撃を行う。人間でもその本能が残っていて、ストレスがあると無意識的に強く噛みしめることがある。ゆえにストレスが強いと、無意識下で咀嚼閉口筋である側頭筋緊張が起こりやすい。

また頭痛と眼精疲労は同時に起きやすいことは経験的にしられているが、両者には因果関係がない。ただしストレス→頸肩コリ→眼精疲労という関連はある。前述したようにストレスは側頭筋緊張→緊張性頭痛との流れも平行して起こるので、側頭筋緊張と眼精疲労は同時に起こりやすい。

なお眼精疲労の一因としてドライアイがあり、ドライアイの原因として最も多いのは、ディスプレーを集中して見続けることによりまばたき回数の減少にあるとされている。

 


6.側頭筋に対する運動針法

過収縮した筋を緩めるには、運動針が効果的なことが知られている。そのため側頭筋の圧痛硬結をさぐり、反応点に#2~#3程度で刺針する。トラベルの側頭筋トリガーポイントと放散痛を示した図は、側頭筋のトリガー歩医院とは横に一列に並んでいる。これは噛む力を徐々に強めていった際、側頭筋の緊張したスジバリも後方から前方に移動するという観察と一致する。強く噛む際に出現するのが太陽穴ということになる。治療に際しては、噛むように指示し、その時出現した側頭筋のスジバリを治療点とするのがよいだろう。

これで満足すべき効果がみられない場合、タオル等を口に噛ませた状態で刺針。刺針したままタオルを強く噛む動作を数回行わせるとよい。

 


令和5年新年会のご報告と本年上半期の講習会計画

2023-01-28 | 講習会・勉強会

去る令和5円1月22日(日曜)、地元の居酒屋にて新年会を行った。参加したのは私をを含めて10名。「鍼灸奮起の会」後の懇親会に毎回参加する常連の方々はもちろん、珍客も参加(徳島県からも参加)し、賑やかなひとときを過ごすことができた。

私はこの席上で、本年上半期の講習会日程を紹介した。講師として私が主導するのは、五官科の現代針灸である。なお五官科科とは身体への情報入力器の総称で、眼科、耳鼻咽喉科、歯科、皮膚科のことをいう。講習会についての詳細は、後日説明していく。

1.招待講師講座 カッサ入門
4月2日(日曜) 午後3時~5時30分
「JSカッサって何? 何ができるの? 」講習会  講師:徐園子(大和かっさ治療院)
会場:国立市中1丁目集会場
定員25名位? 参加費3,500円

2.五官科の現代針灸<第7期鍼灸奮起の会>
講師 似田敦 他に実技指導員2名程度
原則として第1第3日曜、午後5時30分
会場:国立市中1丁目集会場 各回定員12名。参加費7,000円

第1回4月16日 耳科と鍼灸実技 
第2回5月21日 歯科と鍼灸実技  
第3回6月4日 鼻科と咽喉科の鍼灸実技 
第4回6月18日 眼科と皮膚科の鍼灸実技  

何故かカメラのフラッシュが光らず、暗い写真になってしまった。
下段の女性たちは、「喜び組」日本支部の方々。

 


私の行っている眼窩内刺針の方法 ver.1.5

2023-01-20 | 眼科症状

1.はじめに

以前私は、「 眼窩内刺針が刺激対象とするもの Ver.2.12015-08-19 」と題したブログを発表した。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e15b8546ecd13a7f5c065a1709f3472c

この記事を読んだとして、眼精疲労を主訴とする患者が来院した。眼精疲労の来院患者は少なくないが、その多くは頸コリや肩コリも同時に訴えていたり、精神的ストレスがあったりしている。主訴が眼精疲労のみを訴える患者は珍しいことであった。

ところで中国や日本で眼科疾患を中心に治療している針灸施設であっても、必ず眼窩内刺針を行っている訳ではない。それは医療過誤を恐れてのことに違いない。針先が強膜(

三叉神経第2枝知覚支配、毛様体神経支配)を傷つけこれが感染源となる危険性はゼロはなく、医療過誤を起こせば場所が場所だけに大変な事態になるだろう。それに加え、眼窩内刺針を行わないと結果が引き出せないとする情報もない。万が一の危険性を考慮すれば、眼窩内刺針を行うにしても切皮程度に留めておくのが無難であろう。

 

2.眼精疲労症例(21才♂、学生)

数年前から目が疲れる、とくに左右に眼球を動かすと目頭が疲れるとのこと。近くの針灸院に行って眼窩内刺針をやってほしいと頼んだが断られ、私のブログを見て当院来院した。眼窩内刺針を希望していた。眼瞼に内出血する可能性があることを理解してもらった後、
眼窩内刺針その他を行ったところ、患者は、これまでにない効果があったと述べた。
実際の治療点は眼窩内刺針の他に頭維刺針、上天柱刺針を行ったが、ここでは眼窩内刺針の技法について記してみたい


3.眼窩内刺針の技法


眼窩内刺針には上眼窩内刺針と下眼窩内刺針があり、上眼窩内刺針の方が上眼窩と眼球の間が広いので刺針しやすい。眼瞼の内出血を防ぐためと、眼球に過多な刺激を与えぬ用心のため、寸6#1などの細い針を使うことが多い。
細い針を使うこともあって、上眼窩内刺針と下眼窩内刺針とも響きはないのが普通である。眼瞼の内出血を避けるために雀啄などの手技針はせず、単刺や置針をする。

1)睛明

疲れ目に際しては、母指と示指で両方の目頭のやや上方をつまむように押圧する動作を自然に行いがちである。その部位こそが眼精疲労の刺針点として相応しいだろうと考えてみた。患者を仰臥位にさせ、寸6#2にて内眼角部のやや上方に睛明穴をとり、ゆっくり直刺すると2㎝ほど刺入すると硬いものに命中すると同時に眼に響きを得ることができた。
別の眼精疲労患者対して上睛明刺針を行てみても、やはり2㎝刺入で硬いものあたると同時に眼球に響きを得ることができた。結構、再現性がある。
睛明の深部には上眼窩裂がある。ここから三叉神経第1枝(知覚)と眼球を動かす役割のある動眼・滑車・外転神経が出る。 しかし視力機能とは関係がない。
最近、黄斑変性の患者を治療する機会を得た。いろいろな鍼灸院に通院経験がある方なので、患者的にどのような眼窩針が効果あるかを身をもって知っているようだった。その患者が言うには、上睛明より数ミリ外方を刺入点にした方が、眼に響くというこなので、新たな治療点としてこの部位に深刺すると、眼に響くということで満足したようだった。眼に響くというのは三叉神経第1枝を刺激したということだろう。

睛明は、掃骨針法で知られる小山曲泉が記しているように、「眼窩内に指を折り曲げて按圧した際、患者に快痛が得られる部が、その患者に適した治療点で、この穴に3~5番で圧痛方向に刺針して軽く雀啄すようにすると、快痛の響きがある」ということである。


2)上睛明

睛明穴の5~10㎜上方を取穴。睛明穴深部に上眼窩裂があるならば、上睛明穴深部には視神経管がある。視神経管とは視神経が通る孔、視神経は視力機能をつかさどる役割がある。すなわち視力と密接に関係しているといえよう。


3)球後

外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さにとる。球後深部には、下眼窩裂がある。下眼窩裂は眼窩下神経(三叉神経第2枝の分枝)が通る裂孔で、臨床上は眼窩下孔(=四白)刺激と同じ意味合いになる。視力には関係ない。三叉神経第2枝の眼窩下神経は、下眼窩裂を通過して四白から頭蓋骨外に出る。四白(眼窩下孔で、眼窩下縁の下1㎝)から外眼角にむけて斜刺すると、下眼窩裂に入れることも可能である。

以上の理由から、球後刺針は下眼窩裂への刺針を目的としていない。「球後」とは、眼球の後側という意味で、中国では内眼病の治療に多用されている。球後から眼球の裏に達するほど深刺した場合、おそらく毛様体神経節の刺激になる。
この刺針の適応は不明だが、眼球の裏には毛様体神経節、長・短・鼻毛様体神経などに影響を与え、眼に対する副交感神経刺激になる。ワサビを食べると鼻にツーンと辛さを感じ涙が出るのは、鼻毛様体神経興奮による。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚えるという。
    
    
          


4)魚腰

眉中央に魚腰をとる。眼窩上神経痛の場合、眼窩内病変や帯状疱疹などの二次性原因の他に、やはり特発性があり、特発性の場合、額から眉への水平刺が有効になることが多いが、このような施術の一貫として、魚腰穴あたりからの上眼窩刺針を行う方法がある。眼窩上神経は、顔面表情筋により絞扼されて眼窩上神経痛を起こすことが知られている。前頭部の皮神経痛を生ずる代表は眼窩上神経だとされる。(なお大後頭神経痛は、後頭部の頭半棘筋の絞扼が原因とされる)
(参考文献:清水暁:頭蓋表層の解剖学的要因による頭皮神経痛と頭痛-眼窩上神経痛・後頭神経痛・開頭術後頭痛-、臨床神経学、54巻4号(2014.5)

 

5)涙腺刺激

眼窩の外上方に涙腺がある。「このあたりを刺針すると涙腺刺激になるので、ドライアイに効果あるかも知れない」と考えるのは早計である。
ドライアイの主原因は涙量が減るのではなく、涙層の上にある油層が減ることで、眼球表面を覆う水層が蒸発しやすく理由による。
したがって、油層を多量に出すためには、その出どころである上瞼縁にあるマイボーム腺の分泌を活性化させるのがよい。それにはまず瞼の温罨法(蒸しタオルをあてる)などが推奨できる。針は、上眼瞼への散針を行う。

 

 


顎関節症の針灸治療 改訂2版

2023-01-17 | 歯科症状

1.顎関節症の概念                                                                               

咀嚼や開口時の顎関節とその周囲の疼痛、開口障害と開口時雑音などを主体とする。3大症は、①顎関節痛(開口時、ものを咬む時)、②開口不全(開口しづらい。3横指以下)、③関節雑音(顎の関節がカクカク、ジャリジャリと音がする)。  
 
Ⅰ型~Ⅳ型に分類。それらに当てはまらないものをⅤ型とする。 Ⅴ型の多くは心身症。

Ⅰ型は筋肉の障害。Ⅱ型は靭帯の障害。Ⅲ型は軟骨の主に動きの障害。Ⅳ型は軟骨が変形したもの。痛みが出るタイプはⅠとⅡである。
2つ以上の型を合併することも多い。

                
   <顎関節症の分類> 1996年、日本顎関節学会
   
顎関節症Ⅰ型:筋肉の障害  <噛む時の痛みで咀嚼筋痛。 関節音なし>
顎関節症Ⅱ型:関節包・靱帯の障害。<顎関節周辺の大きな負荷→炎症→疼痛>。
顎関節症Ⅲ型:関節円板の障害。<開口制限あり。コキッというクリック音>
顎関節症Ⅳ型:変形性顎関節症   <強く咬む時の痛み、ジャリジャリ音がする>
顎関節症Ⅴ型:上記に当てはまらないもの(心身症によるものを含む)。      

顎関節症分類 語呂:「訴訟法人、内緒で変形精神」                                         
①訴訟 咀嚼筋障害(I型) ②法人 関節包・靭帯障害(Ⅱ型) ③内緒 顎関節内障(Ⅲ型)  ④変形 変形性顎関節症(IV型) ⑤精神精神的因子によるもの(Ⅴ型)                        

2.顎関節症Ⅰ型(筋肉痛タイプ)

1)病態
頬や顎の筋肉の炎症が原因した顎関節障害。開口時に痛みがあったり、片頭痛・頬がだるい・重たい・腫れぼったい・顔がゆがむといったもの。口を動かしたり噛んだりするときに必要な筋肉が緊張して炎症を起こし、筋肉に負荷が加わると痛みや、開口制限が出現する。

①閉口筋は、側頭筋・咬筋・内側翼突筋であるが、側頭筋過緊張は側頭部痛を生じ、内側翼筋過緊張時は、下奥歯痛を生じるのみで、顎関節症との関連は薄い。

②開口筋は、外側翼突筋が障害の中心である。
③顎二腹筋は咀嚼筋に分類されず、胸鎖乳突筋と同様に側頸筋に分類される。顎二腹筋には前腹と後腹があるが、顎関節症と関係するのは後腹のみである。

 
2)咬筋刺針

 顎関節症Ⅰ型の治療で治療対象となることが非常に多い。高頻度にみられるのは、咬筋の付着部の多数の圧痛である。患者を強く歯をくいしばった状態にさせ、咬筋の起始・停止の痛点(頬車、大迎、下関など)に刺針する。


 

3)外側翼突筋の役割
①開口筋として
”外側翼突筋を制する者は、顎関節症を制す”といわれるほど、外側翼突筋は重要。閉口筋機能である咬む力は食物を咬んだり敵と戦うために欠かせないものであるため、ヒトにおいても側頭筋・咬筋・内側翼突筋など3種の筋が存在するが、開口筋はそれど強い筋力を必要としないので、外側翼突筋単独で担っている。
  
②下顎の突き出し

口を大きく開ける際、下顎頭の回転すると同時に前下方への2横指ほど滑走し、「顎のき出し」運動を行っている。下顎の突き出しが出来ないと大きな開口もできない。本筋の麻痺では下顎が前に突き出せない状態に、本筋の過緊張では下顎が前に出た状態のままになる。
 
外側翼突筋が下顎頭を前方滑走させる作用なのに対し、顎二腹筋後腹は下顎頭を後方に引く作用をする。このような表現をすると両筋には拮抗作用があるかのようだが、作用ベクトルが異るので両筋協調することで下顎の回転運動が可能になる。下図で顎二腹筋は舌骨舌筋群に所属する。

③下顎の横づらし
 奥歯で穀物をすり潰す際は、上下の奥歯穀物を入れ、下顎を横にずらしてすり潰す運動必要である。この横ずらし運動は内側翼突筋との共同運動で行われる。
(臨床的には、横づらし機能は「下顎の突き出し」ほど問題にならない)
 
4)外側翼突筋下頭刺針(下関直刺)

 下関から外側翼突筋へ直刺1~2㎝直刺。刺したまま、痛くない範囲で患者に開口運動下顎の横づらし運動を10回ほど行わせる。。
  

5)顎二腹筋後腹への刺針

顎二腹筋は、は舌骨上筋群(舌骨と下顎骨の間にある筋群)の一つで、咀嚼筋ではなく、鎖乳突筋と同じく側頸筋の分類に入る。前腹(三叉神経支配)と後腹(顔面神経支配)に大する。顎関節症で問題となるのは後腹である。
後腹の起始は、乳様突起内側の側頭骨乳突切痕で、停止は中間腱になる。

<開口補助筋としての顎二腹筋の機能>

①顎二腹筋は下顎を後に引きつける作用がある。頭位に応じて、顎の位置を変化させので、上を向くと自然に下顎は後に引っぱられる。
②顎二腹筋後腹は開口筋という点では、外側翼突筋と共同筋である。
一方外側翼突筋が下顎頭を前方滑走させるのに対し、顎二腹筋後腹は下顎頭を後方に引く作用があるので、両筋は拮抗関係があるかのようだが、作用ベクトルが異なるので両筋が機すると下顎の回転運動に機能する。

③「 歯ぎしり」とは、強くかみしめた状態で下顎を側方や後方に強く引きつける動作で、これには顎二腹筋が強く働く。その状態が続くと顎二腹筋に痛みを生ずる。
歯ぎしりは、それが関わる運動が障害されることで生じるだけでなく、不安や恐怖、強い神的な緊張、ストレス、中枢性の病気などでも緊張が高まる。
④顎二腹筋の筋力低下時には、顎を奥に引っぱる力が不足するので、大きく開口できなくなる。この時の理学検査は、顎下に指を置き顎先を喉側に押し、大きく開口させてみる。指で押た方が大きく開口できるならば、顎二腹筋前腹の筋力低下を疑う。

 

<顎二腹筋後腹の治療>
 顎下三角(下顎骨の下縁と顎二腹筋の前腹と後腹がつくる三角)中央の陥凹を押圧するとスジばり感じる。これが顎二腹筋の前腹。舌骨と乳様突起の結んだ線上にあるのが顎二腹の後腹。顎二腹筋の緊張では筋硬結を触知でき、押圧で痛みを感じる。
後腹の治療点は、ツボでいうと頬車~天容穴あたりになる。顔を上に向かせて本筋を伸させて刺針するとよい。

3.顎関節症Ⅱ型(関節包・靭帯障害)
 
1)病態

顎関節の関節包や靱帯の炎症による痛み。「痛み」が出るのは、Ⅰ型とⅡ型のみである。顎関節周辺の大きな負荷→炎症→疼痛という病態で、開口時の痛みは顎関節関節包(とに関節内膜)の炎症に由来。痛みは聴会穴あたりに出現する。

耳珠3穴の語呂:門(耳門)の宮(聴宮)の前で会(聴会)う、巫女(三・小)たち(胆)  
※耳前3穴は、外耳道炎の際の圧痛が出ることが知られている。  

 


大きく開口した際、耳珠やや下方に陥凹を触知できる。聴会穴はこの陥凹にとる。


2)治療

痛みは顎関節部(耳門穴のやや前方)あたりに限局する。経過は比較的短く、放置していも痛みは軽快に至る。顎関節過使用によるから、過使用を避ける生活習慣を指導する。大きな開口を避ける。圧痛ある顎関節部局所に浅刺+円皮針。
    

 

4.顎関節症Ⅲ型(顎関節円板のずれ)
  
顎関節症で最も多いのがⅢ型。治療せず放置している者も多い。下顎頭は生理的に下顎窩から前方脱臼し、滑走することで大きな開口ができる仕組みになっている。正常であれば、滑る際にはに下顎頭上に関節円板が載っている。関節円板の位置がずれているのをⅢ型顎関節症とよび、の2タイプがある。

 
Ⅲa型

閉口時に下顎頭に乗っている関節円板がズレてはずれる時、ポキッと音がする。
下顎頭はその下に無理に戻ろうとする。戻る瞬間にカックンと音がする。
純粋なⅢ型の顎関節症では痛みを生じないが、Ⅰ型などと合併しているケースでは痛みをずる。

Ⅲb型 
常に関節円板がずれているので、口を開けようとしても引っかかったように開かない(音はしない)。
大きく口を開けようとすると痛みがある。
最大開口で縦に指が1~2本しか入らない (正常では3~4横指入る)。

 

1)外側翼突筋上頭への刺針

外側翼突筋上頭の停止は関節円板であり、外側翼突筋上頭収縮時(つまり開口時)によって関節円板が前方に移動する。もし外側翼突筋上頭の収縮力が弱まれば、顎関節円板を十分前方に引っ張ることができず、関節円板の脱臼が起こる。本筋上頭へ刺針すること筋力を回復できるのならば、それが治療効果を生むかもしれないという考え方ができるで   ろう。この理論の是非については、次の報告がヒントを与えてくれる。外側翼突筋の上頭:起始は蝶形骨、停止は顎関節円板。
    

    

※顎関節症Ⅲa型の治験報告(19才、女性)
(皆川陽一ほか明治国際医療大学研究員著:顎関節症Ⅲa型に鍼治療を試みた一症例 転位した関節円板と伴症状に対する 全鍼誌 2010年第60巻5号)
 開口障害、開口・咀嚼時痛が主訴。外側翼突筋に対する刺針を中心とした施術を行い、施術2回目から効果が現れ、治療8回で運動制限と開口障害の改善をみた。だしMRIでは関節円板の転位に著変はなかった。すなわち、外側翼突筋に刺針しても顎関節の転移に変化はないにもかかわらず、運動制限と開口障害の改善をみている。

このことはバネ指や腱鞘炎の治療の考え方とそっくりだと感じた。 

バネ指で、指の腱にできた腫瘤が、腱鞘内を通過できなくても、腱につながる筋がストレッチできていれば、指が伸びる。したがって母指屈筋や深浅指屈筋中に貼りして運動針させるこがバネ指の治療になる。関連筋緊張を緩める(筋を長くする)ことで、腱に加わる張力を減らし、それが症状緩和に役立つということだろう。
すると顎関節の針灸治療は、Ⅰ型は当然のこと、Ⅱ型・Ⅲ型・Ⅳ型においても筋緊張を緩めることで、ある程度の治効果をもたらすといえるのではないかと思った。問題は顎関節症の型ではなく、重症度の問題になるだろう。

 

<下関から顎関節円板に向けての刺針技法> 

①耳孔前(聴宮穴)に指先をあて開口を指示し、術者は下顎骨筋突起の動きを観察。同時にクリック感やシャリシャリ感などの有無を聴取する。
②仰臥位。寸3#2針にて下関穴からを聴宮穴方向に2~3㎝斜刺。針先を顎関節円板方向に向ける。
③刺入したまま、ゆっくりと10回程度開口と閉口を指示。最大限に開口させた肢位にさせ、下関からやや上方に向けて直刺 2.5㎝で外側翼突筋上頭に到達する。
④まず、ある程度開口させた状態で下関に深刺を行っておき、次に3秒間できるだけ大きく口するよう指示する。術者は「1、2、‥‥」とカウントしつつ針に上下動の手技を加えつつ「3」で静かに抜針するようにすると、治療効果が増す。


 

<顎関節円板の徒手矯正法>
示指の指腹を前側(鼻方向)にして外耳口に入れ、持続的に押圧する。押圧の際、患者にの開閉を20~30回行なうよう指示する。施術者の示指腹は顎関節の動きを触知でき、持続敵押圧により下顎頭の位置を調整する。

 

5.顎関節症Ⅳ型<変形性顎関節症>

口を開けようとすると痛みがある。引っかかる感じ。関節はカクカクではなく、ザラザラ、ジャリジャリ、ゴリゴリ音と擦れるような音がする。骨と骨の間のクッションがずれ、加齢とともに軟骨が薄くなることで骨同士が直接接触し、変形していく。すると周囲筋の緊張が始まり、口が開かなくなる。以上が急性症状。
 
しかし1週間もすると、症状が治まったかのように顎の痛みがなくなることがある。これは顎関節の骨が変形や摩耗によって滑らかになることで適応し、慢性的な状態になったことを意味するとのこと。 

当院では以前、この記述にそっくりの患者が来院していた。口を開け閉めするだけで顎が ガクガクしてスムーズに動かなかった。最近、同じ患者が別の主旨で来院したことがあった。この時の顎関節症は、滑らかに動いていたので非常に驚いた。良くなった理由を尋ねると、熱心に整体治療をした成果だと話してくれた。いつまでこの状態を維持できるかが問題なのだ。ただ西洋医の指摘したように”顎関節の骨が変形や摩耗によって滑らかになることで適応した”とも考えにくい。整体といっても、いろいろな考え方があることや、まともな理論がいこと(理論というより単なる治療の考え方)などで、信ずるに足りないのが現状である。


咳嗽の針灸治療

2023-01-13 | 耳鼻咽喉科症状

1.鎮咳の現代薬物療法
     
鎮咳薬として、病・医院では中枢性鎮咳薬(延髄の咳中枢の閾値を上げる)を処方することが多い。末梢性鎮咳薬(気管気管支に作用)はあまり効果がないからである。中枢性鎮咳薬には麻薬系と非麻薬系があり、もちろん麻薬系の方が効果が高い。麻薬であるが使用量はわずかなので、中毒の危険性はないが、副作用として便秘になることはある。麻薬系にはリン酸コデイン(商品名リンコデ)があり、非麻薬系にはデキストロメトルファン(商品 名メジコン)がある。

いずれにせよ鎮咳に効果的な薬物といえど、疾患自体を治すものではない。鎮咳薬が効かないということは、気道内部に何らかのアレルギー反応が関与した炎症が生じ、気道平滑筋のスパズム(収縮)が起きていること示唆する(例:咳喘息)。
※咳喘息:一見すると気管支喘息のようにみえるが、喘鳴や息苦しさを伴わず、咳だけを唯一の症状とする。慢性の咳の原因としては最も頻度が高くい。   

鎮咳の民間療法だが、ハチミツで市販の咳止めよりも効果があることが実証されている。ハチミツ中に含まれる酵素グルコースオキシダーゼが過酸化水素をつくり、これが強力な殺菌作用を持つ。またハチミツには、荒れた粘膜を保護作用もある。とくに子どもの咳に対して就寝前のスプーン一杯のハチミツが非常に有効だとする報告がある。

 


2.咳嗽の針灸でのアプローチ<交感神経を優位にすること>

   
咳嗽は自律神経症状なので、咽痛のように知覚神経の鎮静という治療方針は成り立たない。咳嗽により身体は副交感神経優位になっているので、針灸により交感神経優位に誘導すること
が重要になる。これは夜に咳が出たり、身体が温まったらせきが出るという者に適した治療方針になる。気管支喘息の治療でも同じことがいえる。喘息の薬物療法は、ステロイド+気管支拡張剤である。気管支拡張剤とは、交感神経興奮させる目的で交感神経β2を刺激している。
 
※語呂:β2刺激で気管支拡張→ 別(β2)機関(気管支)を開く(拡張)

いわゆるβブロッカーとは、これと反対に交感神経緊張を抑えることで血圧や心拍数を下げる薬。
 

3.治喘穴・定喘穴

   
①意義
頭蓋骨部器官全般の交感神経は、交感神経の下頚神経節(別名、星状神経節)から出発する。この下頚神経節と連結している体性神経はTh1脊髄神経なので、大椎付近の刺激は、頚部交感神経節刺激としての意義をもつ。


②取穴
座位。大椎(C7Th1棘突起間)の外側5分。
定喘(大椎の外方1寸)や肩外兪(大椎の外方2寸)でも同様の治効あり。
   
③刺針
3~5番針を6分~1寸刺入する。すると咽頭の方に響くことが多い。

 

4.天突移動穴(林家福、山下良平「応症針治」現代書房、昭和41年)

    
気管や気管支は内臓体壁反射が起こらないので、針灸治療は交感神経優位に誘導する方法を行う。しかしこれは気管支喘息時の気管支拡張作用に効果あっても、咳にターゲットを絞った治療ではない。

①取穴
教科書「天突」は胸骨上縁で頚窩の中央にとるが、本穴はそれよりわずかに上方。
座位にて胸骨上部に示指先を当て、そのまま指を上方に1㎝ほど撫で上げると、爪先に気管軟骨がひっかかる。この部は押圧すると咳を誘発しやすい特異な部位である。
  
②刺針
寸6#2で直刺。3分ほど刺針し、雀啄を1分間実施。さらに1分ほど刺入して再び雀啄、またさらに1分ほど刺入して雀啄。刺針中に咳を誘発しやすそうになったら、患者に手をで合図させ、ただちに皮下まで抜針)。この方法を2回3回と反復施術。


刺針すると気管軟骨にぶつかって針は止まる。針が止まらずどこまでも刺入できる場合、上下の気管軟骨間をすりぬけていると思えた。気管壁への刺針は針響が生じにくい。

  
③適応
上位気管が患部となる咳嗽、嗄声。気管支や肺の病変による咳嗽には効果不確実。

   
※伝統的な天突刺針:
座位で天突から気管に向けて直刺する。仰臥位で頭を伸展させた肢位で天突から気管に向け胸骨下に水平に入れる方法を行う。ともに気管壁に分布する迷走神経刺激になる。

 


歯周病に対する局所刺針の方法と女膝の灸 ver.1.6

2023-01-06 | 歯科症状

.現代の歯周病の診療

1)歯周炎の原因
   
①老化:30才を過ぎれば、誰でも多少は歯周炎は生じている。歯周炎の最大要因は老化。他に、強く咬む習慣など。

②糖尿病:糖尿病では口内の血流も悪くなるので唾液の分泌も減り、歯垢がつきやすくなるで、細菌易感染から歯周病を悪化させやすい。歯周病になると歯周ポケット内の歯垢部細菌を白血球が退治しようと集合する。集まってくるが、この時、白血球が歯周病菌の出す毒素に触れることでTNF―αと呼ばれる物質を放出する。TNF―αには血液中のインスリンの働きを妨げてしまう作用がある。歯周病の治療をすると血糖値も少し改善する。

2)歯周炎の症状

歯肉のむずがゆさ、歯肉縁の発赤と出血、唾液粘稠性の変化、口臭といった症状を生ずる。   
※歯垢(=プラーク)が歯の表面ではなく歯周ポケットにできると細菌にとって格好の住み家となる。
     歯槽膿漏の治療として歯石除去は基本である。歯石とは歯垢が石灰化して固くなったもの。

3)歯科での歯周病の治療と予防
  
①歯磨きブラッシングにより歯肉マッサージをすること。歯ブラシすると血が出るところ、押圧して痛みがあるところを重点的にラッシングする。毎日行うことで、歯茎を引き締め、歯磨き時に出血しにくくなる。歯磨きは、歯周病の原因菌数を減らすことが目的であって、原因菌を完全に消し去ることできず、再発を繰り返しやすい。効果不十分であれば外科処置となる。
  
②歯石を取り除く。歯垢(プラーク)は放置しておくと次第に硬くなり硬い歯石になる。歯を取り除くには、デンタルブラシやデンタルフロス(フロスとは細い糸の集合体)を使い、歯磨きブラシだけではとれない歯間の歯苔を除去する。
  
③糖尿病があれば、その治療を行うことが歯周炎の治療にもなる。


2.歯周病に対する鍼灸治療

1)江戸時代以前の歯科治療方針

①耐え難い歯痛では抜歯

当時は麻酔などなかったから、冷やしたり痛み止めの漢方薬を虫歯に塗布したりして何とか我慢した。どうしても我慢できないほどの痛みは抜歯する他なかった(当然無麻酔で)。ただし徹底的に我慢すると歯や神経が崩壊して痛みはなくなるという。


②歯茎の腫れや出血では歯肉を切って血や膿を出した  

江戸時代の歯槽膿漏の治療法は、腫れた歯肉に鍼を刺し、膿を出す孔を開けることで鎮痛させたという記録がある。孔から膿を逃がすことが治療の一つとして選択された。
江戸時代以前、「おでき」は熱毒が体内にとどまり、外に逃がせない状態と考えられた。外に出すには皮膚に鍼で孔を開けたり打膿灸で膿ませて膿を出すことだった。桜井戸の灸(面疔に合谷の多壮灸)というのは、顔面にできたオデキの毒を合谷から排膿させるという治療原理である。これは桜井戸の灸に限らず、打膿灸の治効原理になる。


③虫歯地蔵への参拝

江戸時代以前には、虫歯の痛みをなくしてもらおうと、虫歯地蔵も各地に建てられた。煎った大豆を供えて平癒を祈ったという。煎ると殻が割れるが、その割れ目から歯中に入った虫を外に外に逃がそうとする願いがあったと思われた。

私は令和3年の5月初旬に、奥多摩にハイキングに出かけたが、旧五日市街道沿いに虫歯地蔵尊を発見して少々驚いた。質素な石仏だった。


 

3.現代の歯科の鍼灸治療

1)歯肉に対する直接刺針

周炎に対する現代歯科での治療は、歯石の除去と自宅での歯ブラシでの入念な歯肉マッサージと歯間ブラシの使用であって、現代に至っても特効的な治療方法があるわけでない。歯肉に物理的刺激を与えるという意味で歯肉に対する鍼灸局所治療は、次のように行う。

①どこが腫れているのかを患者に聴取、その圧痛部を患者自身の指頭で指示してもらう。
②術者はその圧痛を確認後、1番針を使って圧痛点から数本直刺し、歯肉部に刺入。
③歯肉の血行促進を目的に単刺するか、雀啄により患部に軽く響かせた後、置針するなどの施術を行うのが普通

※圧痛点は口裂の上下一横指の頬部や下顎部に出現する。
下図は、木下晴都「最新鍼灸治療学」からの転用だが、上歯の反応点は外鼻孔の高さであり。下歯の反応点はもっと顎に近い部位になるだろう。私が考えた施術点の図を後に加えてみた。

 


2)歯周炎に対する女膝の灸


①女膝の位置と灸治法

歯周病に対する特効穴としては、女膝(じょしつ)が知られている。女膝は女室と表記することもある。このツボの位置は、アキレス腱停止部にあり、歯茎との関係は不明だが、形が似ているものは何かしらの関係性があるとする東洋医学的整体観から考察すると次のことはいえるだろう。踵骨を後からみると、前歯と似た形をしている。歯は上半分が歯肉から出て、下半分は歯肉に埋まっている。その境界の歯茎から血や膿がでるのが歯槽膿漏ならば、その境界部分こそ患部であり、位置関係を踵骨に当てはめれば、女膝に相当することになるのではないだろうか。


江戸後期の浅井惟亨著『名家灸選』の中に女膝の記載がみられる。現代文に訳すと次の通り。
骨槽風(=歯槽膿漏)を治する法:足の後かかとの赤白肉の際で、女膝とよばれているところ。左右に各50壮灸すると、一ヵ月にして効き目がある。かって歯茎に孔があき、膿血がだらだらとたれていた者を救った経験がある。
 
山本俊男「鍼灸特効穴一発療法」源草社 1999.5)では次のような記載がみられる。
女膝施灸時の体位は、患者を伏臥位にさせ、足関節を最大限に底屈、踵後方にできる皺あたりを指で探ると、踵骨の上際中央付近に小さな凹みがあって、症状を持った患者であれば、顕著な圧痛があるので、ここが灸点になる。毎日10壮ずつ施灸すると炎症が治まってくる。
 
この文章から女膝の位置を推定したのが下図である。伏臥位で足関節を底屈すると、踵骨後部にる凸部やアキレス腱停止部である踵骨隆起が触知しやすくなる。

②女膝の名称

「膝」とは今日でいう膝関節に留まらず、折り畳んだ部分を「襞(ひだ)」とよびどの関節であっても膝とよんだという説が有力である(ネット「語源辞典」より)。女膝穴は足関節部にあるが、ここを膝と呼んでも差し支えない。

歯周病は、女性の方が男性よりもかかりやすい。掛かりやすい。その原因として考えられているのが、プロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンである。女性ホルモンには、歯茎の腫れや出血を起こしやすくする性質がある。女性ホルモンの分泌が増えるのは、初潮を迎えた頃や妊娠中で、ホルモンバランスが乱れるという点からは更年期も歯周病にありやすい。特に更年期は、口内での唾液の分泌量が低下して口の中が乾きやすくなるので、歯周病の進行がより一層進みやすくなる。以上のことからとくに「女」膝という名称になったと考察した。

正座のことを女膝ということがあるという。男膝との熟語はないようだが、正座以外の楽な姿勢で座ることだろう。正座姿勢では、足関節は強く底屈している状態なので、女膝穴の取穴に適しているといえるのではないか。


③女膝が水毒を治す


女膝は水毒を治すとされる。歯茎が腫れている状態を浮腫と捉えると、女膝の適応症と考えることもできる。

肩が凝ると歯が浮く感じがする者がいるが、頸肩のコリの治療が歯肉に対する治療に関係する場合がある。この場合は肩井や天柱などに対して鍼灸を行う。しかし頭蓋骨後面と踵骨後面を相似形と考え、天柱の代わりとして崑崙に施術するという考え方もある。崑崙と女膝は非常に近い部位にある。

 
<コメント>
桂蓮アップルバウム(2020.11.11)初めてコメントします。アメリカ住まいのケイレン・アップルバウムと申します。
女膝について初めて知りました。
それに歯茎との関連性も初めて知って,そう言えば、歯茎に炎症が会った時、
足のアキレス腱辺りが冷たくなり、いくら温めても冷気がしたことがありました。
それで、足の裏のマッサージをしたら気がつかないうちに口内炎も起こらなくなりました。

私はその関連性については全く分からずにすぎてしまいましたが、今この記事を読んで納得しました。
記事を全部読むことを目指して今日から頑張ります。

 


網膜色素変性症に対する中国での治療と針灸治験例(43歳男性 自営業) ver.1.3

2023-01-03 | 眼科症状

1.病名:網膜色素変性症による視力低下、視野狭窄、夜盲

2.現病歴

小5の時に上記診断がついた。小学生時代は何とか健常者と同じ学校に通学できた。以来、症状はゆっくり進行していたが最近は進行停止している。現在視力は0.06。
これまで日本各地の鍼灸院に通っている。最も効果があったのは中国の先生の治療だったが、その先生は鍼灸治療自体を引退してしまった。当針灸院にはブログを見て来院。職業は父親と共に自営業をしている。

 

3.網膜色素変性症の概略

眼科疾患の一つで、成人中途失明の3大原因の一つ。数千人に一人の頻度で起こるとされている。盲学校ではこの病気の生徒が一番多い。進行性眼科疾患で、遺伝的要因が大きい。
始めは桿体細胞(明暗に関係する細胞)が機能しなくなり、徐々に錐体細胞(視力や色に関係する細胞)も機能しなくなる。
まず夜盲→次に視野狭窄(横から飛び出してきた自転車を避けきれない、視野外にある茶椀をひっくりかえす)→発病20~30年後に失明
※改めて調査すると60歳以上で、7割の者が視力0.1以上を保っている。両眼とも失明(光も感じない)者は1%

 

4.網膜色素変性症に対する中国の鍼灸治療
 
1)昭和62年8月の新聞記事で、中国における網膜色素変性症の針灸治療の驚異的効果が紹介された。網膜色素変性症の患者が針や漢方薬による5ヵ月間の治療で、視力0.3が0.8となり、5°の求心性狭窄だった視野角が55°に広がったという。

2)これに対する日本医事新報(昭63.3.12)
の質疑で次のような回答があった。中国における治療の前後にこの患者にあたった複数の医師によれば、「視力は治療前後で不変、治療後の検査で耳側に若干の視野拡大を認めた」とする報告もある。本疾患の本態が、視細胞外節に始まる網膜組織の変性、崩壊、消失であることを考えると、一旦変性に陥った細胞が再生することはありえず、視力が改善し視野が格段と拡大するような治療法は現在はありえない、と。


3)この日本医事新報の回答を読むと、回答者の見解が正しく、新聞記事の情報が眉唾ものに思えてくる。なぜなら網膜色素変性症は不治の病だというのが定説なのだから。
私もそのように認識し、だから中国の発表は信用できないのだと思った。しかし最近、当院通院中の網膜色素変性症の女性患者から、牟田口裕之著「暗闇からの生還 網膜色素変性症とたたかう」(自費出版)1991.11.19発行 をお借りできた。
非常に興味深い内容であり、中国での牟田口氏への治療が本当に効果があった事実だけでなく、社会的反響への戸惑いまで書かれている。すでに絶版でもあり、内容をかいつまんで紹介したい。


5.網膜色素変性症患者の中国での針治療内容  自費出版 

「暗闇からの生還」難病網膜色素変性症とたたかう 牟田口裕之著



1)著者の牟田口浩之氏1931年生(書店主)は昭和51年の40才の時に自分の目の異常に気づいた。野球をしていて外野フライを捕ろうとした際、球が消えるように見えなくなった。市内の眼科を受診したところ、網膜色素変性症だと診断された。 眼底を覗くと網膜変性が分かるので病名を出すのに誤診はまず起こらないという。50才を過ぎたあたりから進行は加速した。起床時は眼がかすみ、しばらくは何も見えない状態になった。
58才の時には、視野は左右5°まで狭窄が進行(健常者は左右それぞれ90°、上下は60~70°)。視力は右0.06 左0.08となった。視野5°というのは、竹筒を覗いて見ているという情況で歩行も困難になる。定期的に通院している医師からは、もう来なくてよいという話になり、「外国に行っても同じことで、成果は出ていない。ただし中国のことは分からないが・・・」と発言した。これをきっかけとして中国で治療する道もあるかもしれないと思い、一縷の望みをつないだ。

2)牟田口氏は静岡県の沼津市に住んでいるが、中国の岳陽市と友好都市の関係を結んでいた。山岳陽市に児童遊園地をつくろうという計画があり、日本の担当者にお願いして中国の病院探しをお願いした。山岳陽市の市長の計らいで、長沙の張懐安医師の紹介して下さった。張先生は、長沙市湖南中医学院第一付属医院眼科医師で、中国国内でも眼科の中医として有名な先生だった。

1987年(昭和62年)、眼の治療のため退職し3月から張先生の治療を開始した。牟田口氏はホテルに長期宿泊し、先生方がホテルに往診治療をするという形となった。
滞在後1ヶ月半して視力や視野に好転の兆しが現れ、計5ヶ月間治療を継続した。
治療内容は、鍼灸、推拿、漢方薬、薬膳、太極拳の総合的ものだった。
5ヶ月間の経過のなかで治療穴は次のように変わっていった。

①1ヶ月目:曲池、足三里
②2ヶ月目より:陽谿、霊道、外関あるいは支溝、陰陵泉、三陰交、懸鐘、脾兪、腎兪、肝兪
  5ヶ月間を通して行ったのは梅花針で以下の部位を軽く叩くこと
  眼の周り、頭項部から耳にかけて両側に下る、頭頂部中央から下って風池を充分に叩く、背部両側を上から下へ
③帰国後の医師による治療穴:睛明、承泣、球後、百会、風池、天柱、頭維、合谷、光明

5ヶ月間の中医治療を受け、次のように変化した。
視力 左0.08 →0,4   右0.06→0.6
視野 5°→50~55°
なお5ヶ月間の費用は治療費と滞在費を含め、合計200万円だった。

 

3)帰国後の反響
帰国後1ヶ月、著者の変貌ぶりが周囲の人々から伝わり、記者会見を開くまでになった。それはテレビでも放映されたことで、その晩からら問い合わせの電話が殺到することとなった。それは私も中国で治療を受けてみたいというものもあったが、網膜色素変性症は治らないのだから、あなたの話は信じられないというものが大半だった。
その翌朝の朝刊には「中国の針と漢方薬で5ヶ月で回復」もいった記事が載った。あまりにも反響が大きく、詳しい話を聴きたい者が多いことから、沼津市民センターで3時間の説明会を開くことにした。すると800名の人が集まり会場に入りきれない情況にもなった。

本症が治る筈のない病気であって、もし改善したというのであれば、それは網膜色素変性症ではなかったのではないかと考えたのが東大病院の医師で、牟田口氏はわざわざ東大に出向き、何枚も眼底写真を撮られたあげく、やはり網膜色素変性症で間違いないことが判明した。

網膜色素変性症の日本人患者が改善したことが日本で知られるようになったことが中国にも伝わり、中国の病院にも千通を超えるほど届くようなった。観光ビザで中国の病院に直接出向く人も出てきた。日本人相手だとすると中国人側も治療費を値上げし、400万円,600万円、800万円とはね上がっていった。

医師が治らないといった病気が、中医治療をしたからといって治るわけがないといった日本の医師の感情。また中国側の日本人を手玉にとった商魂。この2つが絡み合い、事態はどうかるかと思えた。すると岡崎嘉平太氏(実業家で戦後全日空をはじめ多くの企業を造った)の事務所から連絡があった。この先生の力が絶大で、中国医師を招聘して講演会、日本から中国へ円滑に患者を送る手筈などについて協力する旨の返事を頂戴することができた。

4)中国に5ヶ月滞在するとなれば費用もかさんだものになる。もう少し安い費用で国内で治療ができないものだろうか。この切実な悩みに対して、群馬中国医療研究協会(略称は群馬中医研)が対応を示した。新しい診療病棟が完成し、これまで使っていた古い診療所を合宿治療所として転用できるようになった。20名定員で、網膜色素変性症患者を3ヶ月間ほど合宿させる。費用は色々含めても1日5千円を超えない。この施設の治療には、クルミ灸も行った。針がねでメガネの枠をつくり、クルミの殻をはめ込み、上から温灸モグサで温める、なおこのクルミの殻は、クコの実や菊花を浸した液に一昼夜つけ込んだもの。

5)中国に患者を送り続けて4年目。この間、個人的なツテを頼って行った者も含めると、すでに500名近い人数にのぼっている。

長沙の湖南中医学員第一附属医院から送られてきた28名分の治療成績は、視力・視野ともかなり改善2名、視力好転2名、視野好転6名。多少効果あった者は視力で7名、視野で9名だった。
岳陽中医医院の41名の治療成績は、総合有効率81%でそのうち顕著な有効率は51%だった。たとえば視野が50°以上に広がった者2名、30°以上に広がった者2名となった。
北京広安医院での治療成績は、治療終了した者全員71名にアンケート調査をした。回答者は54名(回収率76%)。その結果、視力改善は12名(22%)、視野改善は
17名(33%)。中国の病院も最初のうちは治療成績にばらつきがあったが、回を重ねるごとに治療成績も似たようになりどこも向上していた。

厳しくみて快方に向かっている人は30%を越え、進行が止まった人まで含めると50~60%が、「治療を受けてよかった」と感じている。
それでも日本の眼科医は、以前としてこの現実を認めようとしていない。


6.当院での鍼灸治療

1)患者の要望に応える

この患者は、いろいろな鍼灸治療を試みており、どの治療が最も効果的だったかを自分自身知っているので、どういう施術を希望するか聴取し、次の回答を得た。
①針は中国鍼のような太い針がよい
②眼窩内刺針で、とくに睛明あたりからズンとくるような響きが欲しい
③眼窩内刺針ではたまに眼瞼に内出血することがあるが、自分は針先が血管に当たったことが分かる。その感覚があった際、伝えるのでそれ以上深く入れないでほしい。
⑤眼窩内刺針以外には、頭頂部に針が欲しい。太陽・頭維・天柱・風池の刺針はとくに効果を感じない。

2)睛明付近眼窩内刺針

①仰臥位。眼窩の骨際と眼球の境に指を曲げて按圧しつつ、眼窩内縁の硬結を探る。発見した反応(睛明~上睛明部位となることが多い)点から2番針(ときに4番針)を用い、2本程度刺入、内部で緊張した筋内に針先を入れる。深度3㎝前後。左右計4本。30分置針。10分毎に眼窩内刺針を雀啄刺激。置針中、時々自分で黒目をぐるぐると動かす運動を行うよう指示。なお使用鍼では中国鍼も使ってみたが、刺痛が強いので和針に切り換えた。
睛明穴の深部には、上眼窩裂があり、ここから眼球を動かす役割のある神経や眼球知覚の三叉神経第1枝が伸びている。睛明のすぐ上の上睛明穴の深部には視神経孔があり、これは視力そのものをつかさどる神経なので、視力と最も関係が深い。

②百会あたり数本30分置針。
③坐位にて上天柱、下風池手技針 
④他の部位は施術せず

 

3)球後刺針

球後とは眼球の後側という意味で、文字通り眼窩下縁で、深部に下眼窩裂があるあたりを取穴する。ただし下眼窩裂は三叉神経第2枝が正円孔を出て眼窩下孔(=四白穴)に向かう途中にすぎないので、臨床的意味はあまりないと思われた。(四白である眼窩下孔を刺入点として外眼角方向に刺入すると、下眼窩裂に達するが)
むしろ眼球後部中央に広がる毛様体神経節に影響を与えているのではないだろうか。内眼病治療穴として中国で最も頻用されている。

 

4)治療効果と感想

睛明や上睛明には解剖学的な特異性があるとは思えないが、誰しも眼の疲れを感じた時、鼻根をつまむように内眼角を押圧する癖がある。この深部にあるのは内直筋で、眼球を内転させる機能、つまり左右の眼球を鼻側に寄せて近見視しすぎるデスクワークのような作業と関係しているのかもしれない。

上記の当院の治療を行うと、毎回施術後に視力向上するも、その効果は当日止まりといった状況である。ただしこの患者は、片道1時間の通院時間にもかかわらず、週1回ですでに6ヶ月通院を続けていることを勘案すると、この治療に何らかの長所があると感じているらしい。


自動アルコールディスペンサーを購入

2022-12-24 | 雑件

当院では以前から手の消毒には、塩化ベンザルニコニウム10%水溶液の入ったプッシュ式の手掌消毒器を使ってきた。片手でレバーを押し、反対の手で消毒液を受けた後、両手を擦り合わせる方法。手をかざすと消毒液が噴霧する自動式に興味はあったが、30年前頃は約十万円と高価であり、形も大きいので購入をためらっていた。しかし昨今、新型コロナウィルスの流行にともない、大量生産しているためか、自動式の器械が数千円台で入手できるようになり、当院でも購入を検討することにした。


購入すべき自動アルコールハンドディスペンサーの条件


①現在使っているのは手動プッシュ式「ハンドサニタイザーS」で、百均のワイヤーカゴ(縦横とも9.7×9.7㎝)に入れ、壁に取り付けている。このカゴを引き続き使えること。
②なるべく安価であること。


以上の条件で選んだのが「TISOUアルコール消毒噴霧器」だった。ユーチューブ動画を見ても評価は悪くなかった。定価2,399円を1,580 円(消費税、送料込)で、アイホーム販売から購入した。2日後に製品到着、しかし電池を入れて作動させてみても、まったく反応しなかった。どうしたわけかと思い、器械の電池を接触させる金属パーツを見ると変に曲がっていて、これでは電池と接触不良になるわけだと思った。このクオリティーなので中華製は心配になる。ペンチでこのパーツの形を直し電源ボタンを押すと、今度は正常に作動した。

TISOUアルコール消毒噴霧器の直径は、「ハンドサニタイザーS」と同じだったので、以前の設置場所にきちんと納まった。本機は1回の噴霧量が「多」と「少」の2段階で、「少」にすると丁度良い量が出てくる。不良品ではあったが自分で修理することができたので、買って後悔しない製品であった。

 

百均のワイヤー性の容器(9.7×9.7㎝)
壁に取りつけて使用している。右上にある黒っぽいボトルは、カッサオイルで瘀血用と水滞用の2本。

 


「ハンドサニタイザーS」を使っていた。

 

「TISOUアルコール消毒噴霧器」を設置

 

手をかざし、噴霧させたところ

 


クルミ灸のための加工と試行錯誤 ver.1.3

2022-12-22 | 灸療法

眼を患っている患者が来院した。眼ということで鬼クルミを使ったクルミ灸についての話をした。すると次週、鬼クルミを1袋(50個くらい)持ってきて、私に分けていただけるとのことだった。

 

1.クルミの殻を割る 

クルミにはいくつかの品種がある。一般に市販されているのは西洋クルミ(ウオールナッツ)といい、大きく殻が薄く中身が大きい。しかし鬼クルミは日本固有のもので山野に自生するという。殻が非常に硬いのが特徴。殻を割らないことにはクルミ灸ができない。

ペンチで割ろうとしたがびくともしない。隙間にカッターを入れて割ろうとしたがダメで、のこぎりで分断しようと思っても刃痕さえ残せなかった。カナヅチで叩いてみても、勢い余ってあらぬ方向に跳んでいく。どうしたらよいのかネットで調べてみた。<一晩水に浸し、干し、煎る。すると殻に隙間がでいるので、マイナスドライバーでこじ開けるとよい>ということが書かれていた。そこで一晩水に浸し、天日干しにして丸一日乾かし、フライパンで煎ってみた。

①一晩水に浸し、陰干ししている最中。

②フライパンで煎る。しかしコンロには加熱防止の安全装置がついているので、ある程度煎ると火は消えてしまう事態.。消えてはつけるを数回繰り返した。

③フライパンから出した直後も、殻は固く閉じたまま。
しかし10分ほど経ち、自然に冷えたためか、どの殻も少々隙間ができていた。
④そこにマイナスドライバーを入れ、こじ開け、何とか殻を二つに分断できた。

⑤爪楊枝で実を掘り出し、薄皮を剥いで完成。それにしても鬼クルミの殻は分厚い。
実を味わうまでには量が少なすぎた。

 

2.くるみ灸の試行

どのような温度感なのか、まずは自分の左手三里に試行してみることにした。
クルミ殻の上にアラビアノリを塗り、直径2㎝ほどの球形にまとめた粗悪モグサを乗せ点火した。アラビアノリを塗ったのは、モグサが転がっては大変だと思ったため。
だが数十秒しても何の温感も得られず燃焼終了。2壮目は直径2.5㎝にして再度実施。わずかに温感を得られた程度に終わった。

そこで棒灸を1/8にカットしたもの(これは普段は箱灸で使ってい)を、クルミ灸の上に置いて点火してみた。すると、ぬるい風呂程度の温感は得られた。気持ち良いが、物足りなさを感じた。そもそも、クリミ灸に興味をもったのは、ドライアイの治療で、目やに状に固まったマイボーム腺を溶かすには、眼瞼を5分間以上40℃程度に温める必要があるとの記事を発見したことに始まった。もっと温度を高くするには、殻の薄い西洋クルミを使う方が良いかもしれない。

 

3.クルミ灸をあきらめ、蒸しタオル温罨法に

冒頭の方とは違う眼疾患の患者が来院した、主訴は顕著な視力低下、視野狭窄、夜盲。従来から上下の眼窩内刺針で置鍼30分実施していた。もっと効果的な治療をと考え、眼の温熱治療を併用しようと思った。ただしクルミ灸の温熱作用は弱く、本患者のような置鍼30分間も温めることはできない。

そこで、月並みな方法だが、蒸しタオルで温めることを思いついた置鍼は寸6#2の針を使っているので、瞼の上に蒸しタオルを置いても、鍼はしなやかに傾くので支障がなかった。とりあえず次のように行った。施術後、患者に印象を問うと、なかなか気持ち良かったようで、”使える方法”だと思った。

①タオルを適度に水に濡らし、滴れないように手で絞し、薄いビニール袋で包む。
②500W電子レンジで2分加熱。
③手で持てないほど熱くなったので、タオルを広げて十数秒放置、適温であることを確認後、患者の瞼の上にペーパータオルを敷き、その上を蒸しタオルで覆う。
④10分ほど様子をみたが、あまり温度は下がっていなかったので、さらに10分置鍼を継続。
⑤20分置くと蒸しタオルの温度の低下が目立ったので、500W電子レンジで1分加熱し、再度蒸しタオルを10分間実施。(合計30分間の置鍼)

 

4.蒸しタオルを加熱して温める際の妥当なパラメーターとは

しタオルをどの程度温めたらよいか、また放置した場合の冷え具合はどの程度かを勘で行ったが、それが妥当なのかを検証してみることにした。
蒸しタオルの温度は、タオル内に温度計を突っ込んで測定したので、実際に患者に加える温度は少し低くなり、タオルと瞼間にはペーパータオルを敷いているのでさらに温度は低く感じるだろう。

蒸しタオルを袋で包み、温度計を入れて温度を観察

 

タオルを水で濡らした直後の温度は15℃だった。これを500wレンジで2分間加熱すると72℃となった。これは直接手で持てないほどの温度である。高温すぎるので十数秒間広げるようにして冷まし、袋に入れてて温度変化を観察した。40℃以上の熱を保持できるのは、上表では15~20分となったが、実際に患者に加わる熱を考えれば15分程度だろう。今度はレンジで1分間加熱すると、驚くことに先ほどと同じ温度になった。
以上の結果から、今回試行した患者への蒸しタオル温熱の設定数値は、妥当だったことが判明した。

 

6.クルミ灸を実践している先生のやりかた

上記ブログを発表したところ、奮起の会常連でもある坂口綠氏が、自分はこのようにクルミをやっているという報告を頂戴したので掲載する。(本人の許可済) 
みどりはりきゅう 
https://calen358.blog.fc2.com/blog-entry-199.html

鬼クルミを使ってのクルミ灸は難しく。ペルシャクルミを使う方がよいらしい。

①鬼クルミと間違えてペルシャクルミを購入。ペルシャクルミはお菓子によく使われているもので、身は大きく殻は薄いです。
②剪定用ハサミをつかうと、簡単に分断できました。

③漢方薬局で打っている乾燥食用菊「菊花」を煎じます。この煎じ液にクルミ殻を2日以上漬け置き(または一緒に茹で)、くるみに黄色くなった煎じ液を浸透させておきます。
菊花の煎じ液は、飲用では肝虚証に作用し、眼精疲労に良いとのこと。

④菊花煎じ液(=菊花茶)から取り出し、濡れた状態のクルミの殻をまぶたの上に乗せ、その上に低級もぐさを乗せて火をつる。これでまぶたとくるみの間の空間に、蒸気が充満します。私は、自分でこのお灸をする時にうっすらと目を開けたりしますが、目の表面にスーッと清涼感を感じます。ただし菊花茶に数時間しか浸しておらず、くるみに液が十分浸透していない場合、灸で温めている最中にくるみにひびが入り、煙が目に染みることがあります。
※ただし緑内障の方は、眼圧が上がる場合があるので要注意。つけまつげは変質の恐れあり、コンタクトは温度に注意。

⑤このくるみ灸をとても気に入られている患者さんもいますが、治療法というより見た目が面白いので、インスタに上げたり、イベント向けでよくやりました。


                  

 

 

 

 

 


足冷の針灸治療理論とテクニック ver.1.1

2022-12-15 | 末梢循環器症状

 ネットを色々と見ていると、<寝るときの靴下はあり?なし?医師に聞く →「絶対良くない」「リスク大きい」>とする記事を見つけた。回答しているのはK医師で、「靴下を履き、強制的にあたたかくすると、体温が下がらないので安眠につながらない」と説明している。これを見てあきれた。とても医師の意見だとは思えない。これは冷え性と安眠を混同している意見であって、「冷え性の者が靴下をはいて寝ることは、冷え性の改善にはならないが、眠りにつきやすくする一つの策だ」というのが正しい。睡眠中、足が適温になったら無意識的に靴下を脱ぐだろう。このあたりのことを説明したい。

1.四肢温度と核心温度
  
恒温動物の深部温度(=核心 core 温度)は、内部  環境保持のため一定温度(ヒトでは37℃)に保たれている。深部温度とは内臓などの体幹深部と頭蓋骨内の温度である。これに対し、皮膚表層温度(=外殻温度)は易変動性で、通常は気温に比例する。(皮膚温が高くなりすぎると、発汗して冷却するが)

  
体幹深部で温められた血液は、血流を通して末梢を温めるが、四肢の体温は末梢に近いほど外気温に平行して下降する。これは限られた熱エネルギーを分配する中で、内臓活動機能に不可欠な核心温度を保持するための対策である。


   

2.機能的冷え症の病理機序
 
1)熱の産生不足

   
体幹部核心温度低下しそうになたら、身体の産生熱量を増加させようとする機序が働く。熱源は内臓(とくに肝臓熱)と骨格筋(ふるえ熱)であり、これらの代謝亢進のために、甲状腺刺激ホルモンや副腎髄質のカテコルアミン分泌が増加する。核心温を保つことができなければ死に直結する。

 
2)皮下動静脈吻合(AVA arterio-venous-anastomoses =グロムス機構)の役割

   
血液循環は、動脈→毛細血管→静脈という基本構造をもち、毛細血管では酸素や栄養素の受け渡しをする。これとは別に、末梢毛細血管を経由しないで、細動脈→細静脈へと、あるいは細動脈→細動脈へと血流がショートカットする部分が、唇や耳鼻、手指や足指(要するに洋服で覆われない部分)に存在する。このような部位を動静脈吻合とよぶ。真皮にある動静脈吻合の役割は余分な熱を逃がすことにある。

   
暑い日には、動静脈吻合を開いて、末梢の血流量を増やすことで、放熱量を増加させて核心温の上がり過ぎを防いている。寒い日には、動静脈吻合を閉じて、末梢血流量を減らすことで、熱の逃げるのを防ぎ、核心温を下がり過ぎないようにしているが、その代償が「手足の冷え」である。

 

上下肢末梢が冷えは、その部分の血流量低下していることを意味する。グロムスが開いた状態であり、小動脈から小静脈へと大部分の血流が流れるので、それより末梢への血流が少なくなっている。
確かに手足が冷たく不快だが、それにより核心温を保持するという合目的性がある。

グロムスを閉じた状態にすれば、小動脈→毛細血管→小静脈と血液が循環するので手足は冷えない。身体が十分熱エネルギーを産生できる余力があるなら、産生量を増やして核心温度を保ちながらも上下肢末梢も温かい状態にできるだろう。しかし産生できるエネルギーに余剰が内場合、グロムスを閉じようとしても、核心温度が低下してしまう以上、グロムススイッチは閉じることができない。ゆえに、上下四の冷えの改善目的で、を井穴刺絡したり、指間針刺激してグロムスを刺激しても、その刺激に反応できずず冷えは改善しないことになる。

このような場合の処置としては、室温を温めたり、暖かい食事を摂ることが先決で、針灸治療としては仙骨の箱灸や赤外線照射を行うことが必要になるだろう。

 

3.不眠と冷え性の関係
    
睡眠は第一義的には脳の加熱を防ぐことにあり、睡眠時には脳血流量が減るので深部温を下げることができる。その時の余剰の熱は手足か放散される。この熱が布団に伝わり、布団が暖かくなり、手足も温まる。身体が副交感神経優位体勢となって眠る体勢が整う。

   
足冷が強い者は、四肢から放熱できるほどの熱量が十分ない(四肢から放熱するなら、核心温度が下がり過ぎて内臓機能を維持できない)。こうした場合、靴下をはいて布団に入ると、下肢からの熱の放散も少なくてすみ。核心温度を下げ過ぎるというリスクが減る。

就寝中に脳内血流が減り、四肢から熱を放散できる情況になったら、無意識的に靴下を脱ぐだろう。すなわち靴下をはいて寝ることは、冷え性の治療にはならないが、睡眠促進にはなる。寒冷時、就寝前に風呂に入ることは、脳の加熱を促進させる行為なので、睡眠時には多くの余剰の熱を手足から放散するので、布団に入った瞬間からポカポカと手足が温かく、快適な睡眠が得られやすい。

 

3.冷え症の針灸治療

1)腰仙部の長時間温補(筆者の方法)

①腰仙部の赤外線照射(または箱灸)


治療室内は適温に保つ。伏臥位にて腰仙部を露出させ、赤外線照射(または箱灸)を実施する。加熱部以外はバスタオルで覆い熱を逃がさない工夫をする。深部までの加熱を行うため照射時間は、温和な加熱で20分またはそれ以上必要である。この考え方は、ローストビーフを芯まで上手に焼く要領ににている。肉の芯まで火を通すには、長時間の弱火がよい。短時間の強火では熱がるだけで、芯は温まらない。
この時重要なのは、足は直接温めないということである。腰仙を温めることにより、足部皮膚温を上昇させねばならない。換言すれば、足部皮膚温が正常になるまで、腰仙を温め続けるべきである。 
  
温罨法に熱湯で温めたコンニャクを20~30分仙骨部に貼り付けるというのは湿熱なので興味深いが、該当部位に置針ができなくなるので、針灸院で行う方法としては適切とはいえない。自宅療法としては好ましい。


②腰仙部の多壮灸(郡山七二「現代針灸治法録」)
「冷え症には、腰仙骨部の経穴を数カ所(たとえば、大腸兪や次髎)選び、多壮灸する。他の治療を行う暇があるならば、壮数を増やすことを考える」といった大胆な記載がある。追試してみたが、手間の割に効果が乏しい印象をもった。
 

2)動静脈吻合に働きかけるテクニック
   
動静脈吻合の開閉は、そこにある交感神経により支配されている。寒い日には末梢血管にまとわりつく交感神経は緊張して血管は細くなり、動静脈吻合は閉じるので、熱が漏れにくい。
意図的に閉じている動静脈吻合を開くことができれば、そこから末梢の血流がよくなり冷えも改善されるが、手関節部、指間部、指尖部などに刺針しても、大して手足の血流は改善しないという苦い事実がある。動静脈吻合への刺激の加えかたが妥当でないのかもしれない。
   
先日、針灸実技講習会<奮起の会>でご協力いただいている岡本雅典氏と話す機会があり、手足のグロムスを開放する手技療法についてご指導いただいた。患者の手指足指の背側から指間に術者の指を入れ、数回強く掌屈・底屈させるという方法で、手足の指間にある虫様筋・指間筋の伸張刺激になる。私も被験者としてやってもらったが、かなり痛かった。その程度強くやらないと効きかないらしい。


※指間の筋の構造と動静脈吻合のおさらい

指間には、背側・掌側骨間筋および虫様筋の2種類の筋がある。背側骨間筋は、指の外転(パーを出すように五指を広げる)に、掌側骨間筋は、指の内転(五指を中指に近づける)運動を行う。虫様筋は指の伸展運動に関係し、トランプを広げて持つ時のようにMP屈曲、IP伸展という形をつくる。通常筋は、骨と骨をつないでいるが、虫様筋は腱と腱をつないでいる。
以上の内容は難解だが重要ポイントは次のようである。深部に動脈弓があり、ここを基点に各指に小動脈が伸びている点が重要で、その枝分かれ部にグロムス機構(動静脈吻合、動々脈吻合)があって、血流方向を制御していることである。


細絡刺絡の臨床的意義

2022-12-11 | 古典概念の現代医学的解釈

1.細絡の病態生理
  
   

上の図は「せきや針灸院」HPに載っていたものだが、細絡について明快に示されており感心したものである。動脈→小動脈→毛細血管→小静脈→静脈と血液が巡行する際、毛細血管を流れる血流量が増えたり、毛細血管が狭くなっている部はあると毛細血管のバイパスが形成される。その血流量は一定以上に増加すると視認できるまで太くなる。細絡は局所静脈圧の上昇を意味するので、痛みを誘発する。この状況で、細絡刺絡をすれば静脈圧が減少し、治癒機転が働く。

 

2.バトソン Batson静脈叢(傍脊椎静脈叢)
 
細絡があれば刺絡することを考えるのだが、症状部に細絡があるとは限らない。たとえば井穴刺絡は、指先に症状があるわけでなく、四肢の血行を改善することがある。これはグロムス機構を考えることで理解できる。しかし腰痛に対する委中刺絡は、昔から知られている定番治療であるが、その治効理論は説明できていない。

しかしバトソン静脈叢を考えることで説明できるとする見解がある。(上馬場和夫「コロナを乗り越える温故知新の智恵」第12会医鍼薬地域連携研究会⑨ 2020.5.4)
バトソン静脈叢とは、椎体の周囲および脊柱管内に存在する傍脊椎静脈叢ネットワークのことで、これらは、体幹や四肢にある多くの静脈と交流している。弁構造を持たないので静脈血を貯留し、血流は遅く鬱滞しやすい。その流れる方向は腹腔や胸腔内圧の変化により変化する。

臓器組織が慢性炎症や線維化などで静脈がうっ血すると、バトソン静脈叢の当該レベルもうっ血が強くなり、皮静脈の鬱血(=細絡)として出現するという。当該レベルの背部から、細絡刺絡あるいは皮膚刺絡をすると、うっ血した臓器の静脈圧も軽減し、末梢循環が促進され、臓器の機能も改善するという機序が働くとされる。腰痛時の上仙穴 細絡からの刺絡、それに腰痛時の委中からの刺絡はバトソン静脈叢に作用したという仮説が生まれる。

 

現代医療でのバトソン静脈叢に対する注目理由は、癌の血行性転移に関与していると考えられている点にある。この静脈叢を介すると、静脈系のフィルターとなる肝や肺を通らずに直接骨組織に到達する。とくに骨盤内蔵器から、最近感染や悪性腫瘍の椎体への転移の経路となるからである。


ドライアイの原因と眼の温熱治療

2022-12-10 | 眼科症状

1.ドライアイの原因  

涙は涙腺でつくられ、排泄溝を通って眼球表面に流出する。眼精疲労を訴える者の6割はドライ
アイ状態とされる。この原因は、涙液減少型はマレ(代表疾患はシェーングレン症候群)で、大部分は、涙が蒸発しやすい涙液蒸散型だとされる。

※目がショボショボするとは?
「目が乾きやすい」という乾燥感が主症状で、これに異物感、目の痛み、まぶしさ、目の疲れなど様々な症状が合わさったもの。

 

2.涙液の三層構造

眼球表面は涙液膜で覆われるが、外側から内側に油層・水層・ムチン層という三層構造になっている。最も内側にあるムチン層は、水層を眼の表面にとどまらせる接着剤の役割をする。目やにの主成分はムチンである。

角膜と水層を密着させる役割があり、外層の油膜は、水層の蒸発を防ぐ役割がある。ドライアイで問題となるのは、油層減少により涙蒸発量が増加した結果である。油層は、眼瞼縁にあるマイボーム腺で作られるが、油の性状が変化すると固まりやすくなり、分泌量が減少する。これをマイボーム腺梗塞とよぶ。


2.ドライアイの治療

 
マイボーム腺の分泌を回復させることが目標。眼瞼マッサージは、油が固まっていると効果がない。目やに状に固まったマイボーム腺を溶かすには、眼瞼を5分間以上40℃程度に温める必要がある。顔全体ではなく、目周囲のみ温めたいと言う場合、赤外線や遠赤外線は向かず、マイクロウェーブそもそも目の照射に禁忌である。ポリ袋に包んだ蒸しタオルを瞼の上にあてる方法がポピュラーだが保温持続時間
が短くなってしまうのではないか。ホットアイマスクという製品(1000円~3000円)も市販している。ちなみに眼科で処方されるドライアイの点眼薬の主成分はヒアルロン酸である。


3.くるみ灸

東洋医学らしい治療としては、クルミ灸がある。クルミにはいくつかの種類があるが、殻が固くで厚い鬼クルミが適している。鬼グルミはわが国で自生しているクルミで、古くから食用とされてきた。味は良いのだが、殻が厚く固いので、専用のくるみ割り器具が必要になる。

鬼クルミを半分に割り、身を取り出す。鬼クルミの殻を、閉眼した瞼の上に置く。その上に小指頭大の粗悪モグサをのせ、点火する。クルミを少し濡らすとモグサが付きやすい。しかしクルミ灸は、被験者が少々顔を動かした場合、クルミも火のついた粗悪モグサも転がってしまうという大きな欠点がある。

中国では下写真のようなメガネ型の道具を使う者もいるらしい。メガネのレンズに相当する部分にクルミ殻を固定、その上には針金がとび出ていて、そこに棒灸欠片を串差しにして燃やすというもの。このスタイルであれば座位で治療もできる。見かけは不格好であるが。

 

このクルミ灸めがねには、進化形があって、モグサを取り付ける部分が金属メッシュのカゴになっている。これならば落下する危険性はない。アマゾンでも入手できる。

 

 

 

 


肩関節の語呂

2022-12-07 | 肩関節痛

先日、奮起の会「肩関節痛」の講習会を実施した。肩関節は他の関節に比べ、動きが複雑なこともあって、記憶すべき内容が多くなる。この対策として医語呂を活用している。以下に紹介する。

1. 四つの肩種腱板の名前は?

語呂:消極的喧嘩
消(小円)極(棘上・棘下)的、喧嘩(肩甲下)


2.結髪動作とは、どのような動作を複合したものか? 結帯動作とは、どのような動作を複合したものか?

語呂:髪(結髪)は外(外転・外旋)に曲(屈曲)げ、帯(結帯)は内(内転・内旋)に伸ばす(伸展)。←似田新作
     結髪動作は、外転・外旋・屈曲
     結帯動作は、 内転・内旋・伸展 

 平安時代の十二単をイメージ

 

3.結髪の外旋制限は何筋の過緊張によるものか? 結帯の内旋制限は、何筋の過去緊張によるものか?

 

 

結帯の内旋制限時→小円筋(臑兪)の過緊張
結髪の外旋制限時→大円筋(肩貞)の過緊張

 

4.肩関節周囲筋の支配神経

1)肩甲上神経の運動支配は? 

語呂:献上した二曲
献上(肩甲上神経)した二曲(棘上・棘下)棘上筋、棘下筋 
肩甲上神経は、棘上筋・棘下筋を運動支配   


2)腋窩神経の運動支配筋は?

語呂:賞賛の易か
賞(小円筋)賛(三角筋)の易(腋窩神経)か 
腋窩神経は、小円筋・三角筋を運動支配


3)肩甲下神経の運動支配筋は?

語呂:ケンカ多かった
ケンカ(肩甲下神経)多(大円筋)かった(肩甲下筋)  
肩甲下筋は、大円筋と肩甲下筋を運動支配 


          

 


慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎に対する上星の長期施灸とマクロライド少量長期投与療法

2022-12-06 | 耳鼻咽喉科症状

1.上星・顖会への長期的透熱灸の効果

1)急性鼻炎の治療の耳鼻咽喉科治療は抗生物質投与がよく効くが、慢性化すると抗生物質を使うと改善するが中止すると元に戻るという情況を繰り返しているという現状がある。

2)一方、針灸治療では、鼻周り(挟鼻や攅竹など)への置鍼を行うとともに、前頭部の上星(前髪際を入ること1寸)や顖会前髪際を入ること2寸)に長期的に透熱灸をするのが定番化していると思っている。上記のツボはすべて三叉神経第1枝知覚支配だが、同じ三叉神経第1枝知覚支配の鼻粘膜に刺激を与え、それが交感神経を興奮させ、鼻甲介の充血を減らすので、鼻の通りをよくする。

3)鼻周りに灸をしないのは灸痕をつけたくないからで、前頭部は頭髪中にあるので施灸しても灸痕が目立たないという判断である。

4)急性鼻炎は耳鼻科で治療手段があるのであまり針灸に来院しないが、慢性症では相対的に針灸の価値が増してくる。その治療効果の秘密は長期施灸することにある。

5)半月~3ヶ月の反復刺施灸(自宅施灸)を与えることで良好な状態を長期間保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、しばらく症状は消失状態を保つことができる。このことは、慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎の治療として有用であることを示すものといえる。
例1:1週間、外来処置や薬物治療すれば→直接アレルギー反応が抑えられるので、その間は調子がいい。
例2:  2ヶ月、外来処置や薬物治療すれば→粘膜が正常化してゆくので、治療後もしばらくは調子がいい。
(医道の日本社 発表は医師だが氏名は失念)


2.マクロライド少量長期投与について
 
近年、3~6ヶ月間という長期間、抗生物質マクロライドを投与するという方法が考案され効果を上げることができるようになった。この方法は長期施灸とよく似た考なのが興味深い。マクロライド治効理由は、副鼻腔~気道の絨毛粘膜上皮の機能回復にあるとされ、これがそのまま上記の透熱灸治効の根拠になっているように思えた。
 
マクロライド系抗菌薬は、従来的な抗菌作用とは別に、免疫の調整や炎症を抑制する保護的作用のあることが発見された。現在は慢性副鼻腔炎に対する標準的な薬物療法として広く用いられるようになった。通常の抗生物質は長くても2週間程度しか連用しないが、この治療法では通常使用量の半分を、3~6月少量長期投与する。
 
本来、副鼻腔壁には絨毛があり、副鼻腔の中に侵入した病原体や異物を粘液とともに鼻腔に向けて動いて運び出す機能がある。この絨毛機能が障害され、慢性副鼻腔炎へと移行してしまう。以前は手術によってこの粘膜を完全に除去することを目的とした「副鼻腔根治手術」が治療の中心だったが、この方法により副鼻腔~気道の絨毛粘膜上皮の機能回復という作用があることが判明した。


間中喜雄著「PWドクター沖縄捕虜記」と平和碑  ver.2.1

2022-11-09 | 人物像

1.「PWドクター 沖縄捕虜記」とは

間中喜雄先生は医師となって間もなく招集を受け、5年余を軍隊で過ごしている。この間の最後の1年、すなわち終戦直前から沖縄本島での捕虜生活の様子が、自著「PWドクター 沖縄捕虜記」(1962年金剛社刊)に記録されている。なおPWとは、prisoner of war (戦争捕虜)のことである。私は35年ほど前に古本で800円で入手したが、すでに絶版で入手困難である。
間中先生が世間に広く知られる存在になるのは1950年の日本東洋医学会設立時頃からであり、以後は中国、アメリカ、フランス等世界中で講演活動することになる。
本書は、いわゆる"世に出る"前の下地形成の資料として格好な読み物となっている。

2.間中喜雄の前半生の年譜
明治44年 小田原生まれ
昭和10年(24歳)京都帝国大学医学部卒業。その後、東京で2年間の外科研修
昭和12年(26歳)父親の代から続く小田原の「間中外科病院」を継承
昭和15年7月(29歳)招集 東部12部隊野戦化学実験部に配属。その後復員。
昭和16年(30歳)宮古島、豊部隊山砲兵第28連隊に陸軍軍医中尉として再度配属。
昭和19年10月 アメリカ軍の宮古島空爆開始、以後連日のように空爆を受ける。
昭和20年9月(34歳)無条件降伏 
昭和20年11月 アメリカ占領軍が宮古島初上陸。捕虜となり、沖縄本島へ輸送。
         屋嘉戦争捕虜収容所で10日間過ごす
昭和20年末 嘉手納第7労働キャンプに移動。医師として10ヶ月間労働
昭和21年12月(35歳) 那覇港→名古屋、復員。10ヶ月間の労働賃金は90ドル。
           (以後省略)

3.PWドクター時代の間中先生の日常

間中喜雄先生(本書では新納仁としている)は沖縄の一孤島である宮古島(本書でM島としている)に陸軍軍医中尉として配属された。宮古島は沖縄の遙か南200㎞下った孤島である。
宮古島に間中先生が配属されて数年後からアメリカ軍の空爆が連日のように始まり、軍事基地だけでなく市街地も廃墟同然となり、深刻な食糧難、非衛生状態の蔓延から、風土病であるマラリアが大流行していた。当時宮古島には、終戦当時、2万人の日本兵がいた。

しかし本書は、そうした凄惨な状況には触れていない。基本的にはユーモラスな自伝であり、終戦宣言後の、混乱状態から書き起こしている。宮古島では激しい爆撃はあったが、アメリカ軍の上陸による戦闘はなかったせいか、戦後に来島したアメリカ占領軍に対しても、敵愾心がおきないらしく、元日本兵は従順にアメリカの指示通りに動いた。
(沖縄地上戦の後に捕虜となったものは、宮古島出身兵と異なり、極限的な体験をしたので、捕虜生活というのは魂の抜け殻のようだったらしい。)

嘉手納労働キャンプで、初めてナマでアメリカ人の社会の一端を知ることとなり、カルチャーショックに襲われた。豊富な物資、機械化、スピーディーな事務処理、あけっぴろげな人間性について、驚きは大きかった。一方、厳しい軍紀下にあった日本軍内での将校や兵も、同じ捕虜として対等な立場になった。いままでの価値観や規律は一気に崩壊した。

本キャンプには、二千名ほどの捕虜が集められたが、英語の達者な者は2名のみ(うち1名は二世)。間中先生も、少々英語を操れるというので、重宝された。
元々秀才だった間中先生にしても、ナマの英語を身近で見聞きするという生活は、初めての訳で、実践英語の良い英語訓練の場となった。手元に辞書がないので、相手の言っていることを推理する他なかった。アクセントを間違えたら、ありふれた言葉も通じないこと。自分は、アメリカ日常用語を知らないことを痛感した。間中先生は、近い将来、国際的に活躍することになるが、その下地が形成されたらしい。
  report→出頭する(報告せよ) observe→出席する(見る
  火が消える→go out   火を消す→put out    cot→簡易ベッド
  必要である:It is indispensable. →I cannot do without it.
英語では、このDO  TAKE  MAKE  PUT  GO  GET というようなやさしい言葉の組み合わせで、いろいろな言い廻しができる。読み物もないので、米軍娯楽用の小説を図書館から借り受けて読んだ。辞書がないので、判らない字は飛ばして読むのだが、こうした楽な読み方が非常に英語の勉強になるという。

一般兵(将校以外)は、強制労働で、木工、土工、給仕、コック、ペンキ吹きつけ、倉庫番、荷役、掃除など。午前8時出発、作業中止が午後4時、午後5時到着。土曜は半休で午後はスポーツ。祝祭日は休み。食い物は米軍と質・量ともに同じ。きびしく鍛え上げられた日本兵からすれば、非常に楽な生活だった。日本人は働き者が多く、しばらく作業所に通っているうちに信任を得てアメリカ軍の監督なしで作業する者も多くなった。
終いには、爆弾庫の管理、武器の管理まで捕虜に任せた。
敵と戦う必要がなく、食べ物も豊富にあるとなると、暇つぶしの方法が問題になってくる。

捕虜の一人が踊りのお師匠さんがいて、踊りの稽古が始まった。これが高じて、カテナ納涼大会が発足。盛大に踊りの輪ができた。やがて風呂設備や床屋、スポーツ施設(野球、ピンポン、バトミントン、バレーボール、バスケットボール)も完備。収容所同士のリーグ線や米軍と試合するのもできた。土俵もつくり、番付までできた。最も豪華だったのは演芸分隊で、田舎の芝居小屋ぐらいにはできた。この演芸が収容所生活最大の慰安だった。手元には脚本や参考書もないはずなのに、毎週出し物を工夫した。

4.面白かった文章の一部

1)宮古島の対空射撃について:我が軍の対空砲砲火は、まったく敵飛行機に当たらなかった。後期になると、砲弾を節約するため豊式爆弾を使用。豊式爆弾というのは要するに打ち上げ花火のことである。これで飛行機が落ちますか?と問うと「落ちはしまいが、敵は驚くだろう」(大きな音がするので)と答えた。
2)終戦後、宮古島にも飛行機がDDT(新型殺虫剤)を散布。人畜無害なのに、目立って蚊や蠅が減り、その効果に驚いた。
3)宮古島から沖縄本島への輸送船内では、あちらこちらで車座になってサイコロ、トランプなどの賭博横行。湯飲み大の缶詰を2缶配給された。1つはビスケット・レモンジュース・ジャム、もう1缶には、肉や豆が入っている。久しぶりの美味に、こんなうまいもんが世の中にあったのかと思う。
4)かつての大隊長も同じ捕虜キャンプに集められた。間中先生の姿をみて大隊長曰く「やあ貴公もここへ来たかや」と言ったといって、ご機嫌だった。同じ不幸は仲間が多いほど慰められるし、同じ幸福なら仲間が少ないほど得意なものである。
5)カデナ労働キャンプ内には、他に医師もいた。大柄なその医師に身長を問うと、「目の下170です」と奇妙な挨拶をした。
6)毎日、ジャムの5ガロン缶が十人に1つの割合で配給がある(1ガロン≒3.8リットル)。始めは珍しくてペロペロなめていたが、だんだんと飽きて見向きもしなくなる。そのジャムとイーストを混ぜて五ガロン缶に入れておいた。次の日衛生兵が大声を挙げて「できました。こりゃいけます‥‥」とジャム酒をもってきた。甘口のどぶろくと化した。酒の醸造法も、たちまちカデナ全体の流行になった。
7)ラジオが日本の君が代を放送した。日本を敵として戦ってきたはずの米兵たちが起立して敬意を表している。日本の捕虜たちは戦争が負ければ国家もくそもあるものかいといった顔で知らん顔している。

 

5.間中喜雄の「平和碑」について

私は「PWドクター沖縄捕虜記」を読み、間中喜雄にとって、太平洋戦争が世間一般の常識とは異なり、苦しみの体験という印象はあまりないように感じた。ところが最近、間中の地元である小田原市郊外の東泉院という寺に、間中作の「平和碑」のあることを知った。間中が死去したのは1989年なので、少なくとも30年以上前に作られたことになる。間中は書画の才能もあったので、石版に文字を刻み石像も自作した。石碑の文章をみると、間中の戦争体験が悲痛であったことを改めて知らされた。

東泉院入口

 

 

以前は違ったが、石碑の文字の周りが白くなっている。タワシなどで擦ったのだろうか。誰かが文字を鮮明にさせるためにやったものだろう。

「何のために死んだのか判らない人たちに捧ぐる碑」
平成元年十一月、間中喜雄によって小田原市久野の東泉院に造立された慰霊碑)

間中喜雄 平和碑

戦争の狂気が国々を侵すとき無数の
無垢の人々がいたましくもその犠牲になって殺されてゆく

 

この碑文は、民間人が戦争で殺された不条理に対する無念を表しているものだが、具体的には原爆で亡くなった犠牲者に対する無念のようだ。脇にある詩碑の写しには次のように示されている。

九泉の地底より 千仞の天まで
一と数え 拾百千と読み 万億兆と叫び 
血を吐きて、なお反響も無き寂滅 
頭を打ちつけ 地団駄を踏み 転輾反側すれど こたえも無き無明 
迷蒙より諦観へ 暗黒より光明へ身をもんで求むれと無
真理は虚妄 善は仮象 愛染も空し
右顧左眄して 眼睛何を見んとするや 
須是を永遠とし 屈折し 展しまさぐり 喝仰し 何をか得たる
神神は死し 大地は枯渇し 七つの海に魚も住まず 
魂魄も息づかざるに いづかたに理想あるや
うめけ泣け苦しめ是れ 形骸を烈火に点し 無に帰れ 
すべてのもの失せて消滅せん

原爆の日にうたえる

間中喜雄(印)
平成元年十一月