AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

殿部~下肢外側痛の病態と針灸治療(とくに小殿筋筋痛症)

2006-07-11 | 腰下肢症状

大腿外側から下腿外側痛を訴える患者は案外多いものであるが、この症状は教科書に説明されていない。
 腰下肢症状を訴える代表疾患に座骨神経痛があるが、座骨神経痛であるなら神経走行上の痛みということから大腿後側痛は訴えることはあっても、大腿外側痛は訴えない。腰殿部痛に加え、大腿外側痛時を同時に訴える場合、次のような疾患を考える。

1.小殿筋の筋痛症
1)座骨神経痛との鑑別
 殿部浅層筋には大殿筋(股関節伸展作用)と中・小殿筋(股関節外転作用)がある。このなかで中・小殿筋の筋痛症は、下肢に放散痛を起こすことが知られる。 とくに小殿筋の筋痛症の放散痛は、大腿後側ないし大腿外側であり下腿症状も伴うことから座骨神経痛と紛らわしい。しかし座骨神経痛であれば症状は神経痛様(電気が走る)であり、ワレーの圧痛点をみる。小殿筋の筋痛症では筋痛様であり、下肢症状部に明瞭な圧痛点はみられないという違いがある。
 本病態はあまり知られていないが、実際には相当多いと思われる。私のかつての師匠である土肥豊丸先生は、殿下肢症状を訴える患者には、第一選択として小殿筋刺針を使っていた。


2)針灸治療
 小殿筋は中殿筋にすっぽりと覆われているので、圧痛点に深刺することを考えるならば、トリガーポイントがどちらの筋によるものかは重要な問題とはならない。トラベルの図によれば、トリガーは2カ所記されている。患側上の側腹位にして、大転子と上後腸骨棘を結んだ線を引き、大転子側から腸骨稜方向に1/4あたりの圧痛を探り、圧痛点から3寸中国針で深刺し、症状部位に針響を与えるようにするとよいだろう。

2.L5椎間関節症
1)病態診察
 症状部に撮痛を認め、撮痛部から斜め内上方60度の角度で脊柱方向に線を延長し、その背部一行との交点部の圧痛をみる。強い圧痛があれば本症の疑いが強い。
2)針灸治療
 該当する夾脊穴から直刺する。治療直後から症状の大幅な改善をみることが多い。


.変形性股関節症
1)病態
 股関節自体は知覚に鈍感なので痛みは股関節周囲組織の興奮した結果として生ずる。この場合大腿前面痛や大腿外側痛を訴えることが多い。なお変形性股関節症であれば股関節ROMが制限を受けていることが多く、これは診断に有意義である。

2)針灸治療
 股関節外側裂隙周囲から刺針することで症状部に一致した針響を得て、直後から大幅な痛みの改善をみることが多い。(腰下肢痛「変形性股関節症の鍼灸治療」記事参照)

4.仙腸関節微小脱臼
1)病態
 仙腸関節部のわずかな脱臼状態が持続すると周囲の筋や神経が興奮し、同じ姿勢を保持すると、症状は次第に増悪する。関連痛は下肢の色々な部位に出現する(動かす瞬間に痛むのではない)。仙腸関節部の強い圧痛をみる。

2)針灸治療
仙腸関節刺針を行うと症状軽減するが、数日後に再び同症状を訴えるようになることが多い。骨盤バンドを装着しながらのフラフープ運動などを行い、仙腸関節のズレが元に戻ることを期待する。本疾患はAKA療法の最適応だろう。(腰下肢痛「仙腸関節運動針法」記事参照)