AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

鍼灸師のためのⅠ型アレルギー疾患に対する現代薬物治療の進歩

2022-02-25 | 特定疾患

アレルギー疾患の代表ともいえるのが、Ⅰ型アレルギーに属する IgEの抗原抗体反応によるものであり、その代表的疾患には気管支喘息、アトピー性皮膚炎、関節リウマチなどがある。これらの疾患に対する治療は、かつては治療効果を得るためステロイド剤を服用せざるを得ないことが多く、そうなるといつステロイド依存からの脱却するかいという新たな問題も起きてきた。それも困るので、ある一定の苦痛は我慢させることにして患者との折り合いをつけてきた。それに困った患者の中には、現代薬物療法を受けつつも鍼灸を受診する者もいた。鍼灸は効くことも効かないこともあった。効かなければ困るという場面で、必ずしもこの要望に応えられてない。鍼灸が効果的だったというより現代医学治療への不満から別の方法を模索した結果に過ぎないだろう。
 
現代医学は進歩するので、これまで治せなかった疾患であっても、新しい治療薬を使うことで、今現在では治せるようになったりもする。近年では前述のⅠ型アレルギー疾患の薬物療法もその好例といえる。30年ほど前まで、関節リウマチや気管支喘息の患者は、現代医療にかかる一方、鍼灸を受診する者も割合いた(アトピー性皮膚炎を鍼灸で治すのはさすがに難しかった)ものだが、近年になって減ってしまった。すなわち残念ながら鍼灸の適応症が相対的に減ってしまったのである。

 

1.関節リウマチの現代薬物治療 

1)旧来の治療としての消炎鎮痛剤+ステロイド内服

   
これまでは、薬はできるだけ使わず様子をみて、改善しなければ消炎鎮痛剤、次いで抗リウマチ薬(メトトレキサートなどの免疫抑制剤)、悪化すれば強力な抗炎症薬であるステロイド薬という順番で薬を使った。これは強い薬には強い副作用があるとの考えが根底にあったからである。

 
2)免疫抑制剤と生物学的製剤 

  
1990年頃からRAは発症後の最初の2年間で、骨破壊が進行することが判明し、薬の使い方も大きく変化した。身体の中でリウマチを悪化させるタンパク質の存在が究明され、そのタンパク質の作用と症状を抑えて関節の破壊を食い止める免疫抑制剤(抗リウマチ剤)や生物学的製剤が開発され治療に使われるようになった。従来の方法では、免疫抑制剤を使うタイミングが遅すぎるという見解による。免疫抑制剤は遅効性なので効果発現まで数ヶ月を要する。

  
①第一選択薬としてメトトレキサート(商品名リウマトレックス内服薬)などの免疫抑制剤。

  
②それで効果不足なら、メトトレキサートに加え、
生物学的製剤のエンブレル(皮下注射)・レミケード(点滴注射)・シンポニー(皮下注射)使用。4週間に1度の皮下注射となるが、3割負担で5000円超程度(これでもずいぶん値段が下がった)。
     
ある病院のデータでは、2000年頃の慢性関節リウマチの寛解率は6%だったが、2014年には60%に達した。 

※寛解:病気が進行しないよう、勢いを押さえ込んだ状況

※生物学的製剤(バイオ薬)とは
バイオテクノロジーにより、生物がつくりだすタンパク質などから生成された薬(従来薬は、化学的に合成されたもの)。細胞から分泌される蛋白質の一つにサイトカインがある。これは他の細胞に情報を伝える働きをもつ物質であるが、リウマチ患者ではサイトカインの働きが過剰になってリウマチが悪化する。生物学的製剤には、このサイトカインの作用を抑える薬や、リンパ球の活性化を抑える薬がある。副作用は易感染。


2.アトピー性皮膚炎の現代薬物療法

 
1)旧来の治療としてのステロイド外用薬とタクロリムス外用薬

   
ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏を軸とした薬物療法により寛解導入し、増悪する可能性のある患者さんに対してプロアクティブ療法などを行うことで寛解維持につなげるという流れが一般的。

 
①ステロイド外用薬

炎症反応を鎮める対症療法。肥満細胞から放出されるヒスタミン等による真皮の血管透過性が亢進し、痒みや浮腫や膨疹となる。ステロイド剤には、この抑制作用がある。
   
※ステロイドの目的:
ステロイドはIgE抗体を減少させることができる。すなわち人体が有害だと認識したアレルゲン(=異種蛋白質)と反応させなくすることで強力な抗炎症作用を生む。ただし根本治療にはならない。免疫力低下により感染症に対して脆弱になる。
  
②免疫抑制剤タクロリムス水和物(プロトピック軟膏)

ステロイド外用薬は長期使用には適さないが、タクロリムス外用薬にはホルモン作用もないので皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用がなく、炎症がある程度軽快した後の維持療法として用いるのに適している。顔や首のかゆみや皮膚炎には、ステロイド外用薬よりもプロトピック軟膏の方がよく処方されるようになった。
しかしその他の部位はステロイドが併用されている。これはプロトピック軟膏の吸収率が悪いので、ステロイド外用薬と一緒に使ってうまくコントロールしている。
 
2)生物学的製剤とJAK阻害薬

  
バイオテクノロジーの進歩により、免疫システムのうちアトピー性皮膚炎の発症・憎悪に関わる部分だけを狙い撃ちにする医薬品が開発された。

  
①デュピクセント(一般名デュピルマブ)

2018年アトピー性皮膚炎の10年ぶりに登場した注射薬。アトピー性皮膚炎治療薬としては初の生物学的製剤(バイオ医薬品)。根本的な治療薬となることが期待されている。2週間に1度皮下注射する。3割負担で一本2万円と高額。3ヶ月~1年以上続ける。
  
②コレクチム軟膏(一般名デルゴシチニブ)

2020年6月から使用可能になったJAK阻害。外用薬として誕生したことが画期的。

※JAK阻害:生物学的製剤は、それぞれの薬剤が1種類の特定のサイトカインを細胞の外でブロックして細胞に炎症を起こす刺激が入らないようにする。これに対して、JAK阻害薬は複数の種類のサイトカインに対して、サイトカイン受容体からの刺激を細胞のなかで遮断して炎症を抑える。。



3.気管支喘息の現代薬物療法

 
1)治療の二本柱としての吸入ステロイド薬と気管支拡張剤

   
気管支喘息治療の2本柱は、吸入ステロイド薬と緊急処置としての気管支拡張
(=交感神経β2刺激剤)だった。ステロイドを使用するのは、気管支喘息は気管支の炎症が本体だと判明したことから、治療の重点は気管支の炎症を軽くして気管支の腫れを引かせる方に置かれるようになった。炎症改善ならばステロイド剤が最も効果的だからである。

ただし現在の治療は、発作が出てからでなく、気道狭窄の度合いに応じて、必要十分な量のステロイドを吸入するように変化した。ステロイド剤を内服する場合に比べ、吸引すると使用量は1/100以下となり、副作用の弊害をほとんど気にしなくてもよいようになった。

気管支拡張剤(商品名インタール、テオドールなど)というのは、β2刺激剤のことで、交感神経とくに気管支に分布する交感神経を刺激する目的で吸入で使用。気管支を拡張させる効能がある。

 
2)抗IgE療法ゾレア

   
2009年からは、重症の喘息患者には新薬オマリズマブ(商品名ゾレア)の皮下注射が行われるようになった。ゾレアは、喘息などの即時型アレルギー反応を引きおこす元であるIgEに直接結合し、IgEの働きを遮断する作用がある。アレルギー物質が体内に取り込まれても、それに反応するIgEが働きをなくしてしまうので、アレルギー反応を消滅させることができるという。


ゾレアは2週間または4週間ごとに医療機関を受診して、皮下に注射する。
治療は原則として16週間(4回または8回投与)行い、そこで効果があったかどうかを判定して、その後も投与を続けるかどうか総合的に判断する。1ヶ月1万円程度と高額な薬
 

3)気管支サーモプラスティ療法 Broncial Termoplasty (気管支加熱治療)

   
本治療は、使用している薬物治療と併用して行う。喘息発作は、特定の刺激に反応して、気管支の周りにある筋肉が強く収縮し、気管支が狭くなることで現れるのだから、内視鏡を使ってカテーテルで気管支を1時間65℃に温めて筋肉を薄くすることで、筋肉が収縮する力を弱めようとするもの。刺激があっても気管支が狭くなりにくくなり、喘息症状が緩和される。気管支全体を3回に分けて治療し、それぞれ短期間の入院。

※気管支喘息の鍼灸治療理論として、気管支拡張に導くため交感神経優位に誘導→座位での上背部刺激がある。


脳血管障害と醒脳開竅法 その1(歴史と普及)

2006-06-19 | 特定疾患
1.醒脳開竅法以前
 私の玉川病院研修時代、昭和55年当時の玉川病院にはリハ科がなかったこともあり、何例かの脳卒中後遺症(入院患者)の治療を経験し、また同科の針灸師の治療も見学してきた。その治療内容は単純で、麻痺筋にパルス刺針通電をすることだった。これは不勉強の結果というより、学習したくても文献類がなかったからである。
 それでも、急速に麻痺が回復する者もおり、一方、毎日治療してもあまり回復しない者などもいた。この結果から、脳卒中に対する針灸治療は非力であって、治るべきものは何もしなくても自然回復し、治らない者は何をやってもダメなのだという認識を得た。結局、病巣の位置と広がりの違いによって、予後も違ってくるのであろう。その後、リハ科新設とともに、針灸への需要は非常に少なくなったのだった。

2.醒脳開竅法の実演
 当時脳血管障害に対して、針灸の可能性をあまり信じられないでいたのだったが、それから5年後、東京衛生学園常勤講師時代に、醒脳開竅法のことを知った。開発者は、天津中医院付属第一病院院長の石学敏教授で、来日して学園内でデモンストレーションを行ったことによる。デモには学校近くの総合病院に入院中の実際の患者を使って行った。1回の治療で歩行可能になる者もいて、観客一同仰天したものである。このあたりの事情は、雑誌「中医臨床」1988年9月号に詳しい。

3.中医クリニックの誕生
 そのデモの見学者の一人に、その総合病院の副院長がいて、それほど素晴らしいのであれば、ウチの病院にも是非取り入れたい、との強い希望があり、病院付属中医クリニックを設立する一方、石学敏先生グループ内のの高名な先生を病院が招聘して日本人針灸師の教育に携わることとなった。
 私も何回か中医クリニックを見学させていただいた。具体的な治療効果については明言できないが、スタッフは自信をもって診療にあたっており、それは十数年経た現在でも継続して診療にあっている。

 なお醒脳開竅法は、そのやり方が理論的に定められているので、微妙な針の手技以外は、追試しようと思えばできる治療法である。そこで東京衛生学園では、全国的に普及させる目的から、養成講座を開講した。まさに順風満帆の船出だった。

4.醒脳開竅法は、わが国に普及したのか?
 私は開業して14年になるが、その間、脳卒中後遺症患者の治療をしたのは、わずか2例にすぎない。しかもその2例とも発症6ヶ月以上経過し、リハ訓練終了の段階から行ったものであり、2例とも治療効果を認めるに至らなかった。
 醒脳開竅法は、発症直後から行うほど効果的で、3ヶ月を過ぎると効果が出にくくなり、6ヶ月以上過ぎると治療効果があまり得られなくなるとされている。
 醒脳開竅法のゴールデン期間は、入院中の患者であり、内科とリハ科中心で治療され、針灸はお呼びがかからない。全部終わっても麻痺が残存し、その段階になってから、患者の希望で針治療を開始するのでは、たまったものではないのである。
 結局、脳卒中後遺症の新鮮例は入院中の期間であって、主治医が全面的に権限を握っている以上、針灸を行うことは実際的に無理なのである。

5.醒脳開竅法は、中国に普及したのか?
 石学敏教授は、中国でも針灸の第一人者として知られている。針灸が国家の積極的支援を受けている中国にあっては、中医針灸は盤石たるものだというように私は思っていた。しかし医道の日本(平成17年12月号)の記事、石学敏著、飯田清七訳「鍼灸学が新世紀に直面している問題と対策について」を読んで驚いた。以下記事の一部を転記する。
 鍼灸病棟の最大の疾患は中風疾患である。中医病院の脳血管疾患の急性期の患者のほとんどは内科に入院している。(中略)鍼灸病棟には内科を退院した回復期と後遺症期の患者が収容されている。これは鍼灸科が主体的でない表れであり、これでは鍼灸病棟の活動はできない。(中略)どうして神経内科は鍼灸科と共同できないのだろうか?

 石学敏教授の所属する天津中医学院付属第一病院内において盛んに醒脳開竅法が実践されてはいるが、一般の病院内では東西医学間で勢力争いがあるらしい。中国にも疾病ごとに担当する診療科目が決まっているので、争いごともなく隣同士で治療を行うことができる。しかし鍼灸科という診療科目は得意とする疾病ではなく、治療法による区分であるため、他科との間に縄張り争いが生まれやすいのだろう。 また北京や上海といった大都市にも、針灸教授がいるので、それぞれ自分流を押し進めることになる。東洋医学を実践する同志間にも競争があるのは、わが国以上に厳しい状況であるかもしれない。



脳血管障害と醒脳開竅法 その2(現代医学的解釈と評価)

2006-06-18 | 特定疾患
 醒脳開竅法は、「写真でみる脳血管障害の針灸治療 醒脳開竅法の理論と実際」東洋学術出版社刊(1991)で詳しく紹介されている(巻末には、私が整理した醒脳開竅法で使う治療穴の一覧表も載っています)。ただし説明は中医学的であり、読者に中医学の素養があることを前提としている。門外漢を納得させることはできない。ここでは現代医学的観点から、その説明を行う。

1.脳卒中の針灸治療概要
 脳卒中の針灸治療には、種々の方法が考案されているが、おおざっぱには次の方法に整理できる。

1)脳循環改善
 ①肩背部からの大量瀉血
 ②完骨付近からの大量瀉血
 ③手足の12井穴刺絡
 解説:①は脳圧亢進を直接的に軽減させる狙いがある。③も脳圧亢進軽減のために、乳突導出静脈からの減圧を目的としている。静脈圧を下げることで動脈血流を脳に流入せしめるという作戦。③の井穴刺絡だが、井穴から刺絡すると四肢末梢血管が拡張することで血圧降下させることや、刺痛刺激が脳血管を反射的に収縮させるが、二次性変化として血管拡張変化させることを目的としている。すなわち反射的に脳血流量の増大を図るものである。原著は「鍼灸大成」。

2)脳に知覚インパルスを送り脳の予備機能や代謝機能を活性化
 ①12井穴刺絡、湧泉刺針、十宣刺針
 ②合谷、太衝、内関、三陰交の強刺激
 ③人中の強刺激
 解説:12井穴刺絡は前項でも出てきている。前項での目的は血を出すことであり、本項では刺針刺激を与える目的がある。
 末梢神経麻痺時、障害された神経へ直接刺針刺激を与えると、麻痺が改善することが多い(老人や圧迫の程度が強いと、あまり効果ない)。では中枢神経障害時はどうであろうか?
 その要点は、神経幹への直接的刺針刺激、または知覚過敏部である四肢の指先(井穴など)や顔面部(人中など)を刺激である。刺激すると、確かに麻痺が改善し、意識明瞭になるという効果が認められることが多いことにまず驚くであろう。
 この治療を体系づけたのが清脳開竅法だと私は理解している。清脳開竅法でも症状に応じて種々の経穴を使うが、主穴は人中・内関・三陰交の3穴である。その取穴理由は中医弁証により行われるが、単純化すれば、すれば人中は三叉神経を刺激することで意識に、内関は正中神経刺激により上肢麻痺に、三陰交は脛骨神経刺激により下肢麻痺に対処するものである。人中は患者の目が潤むまで刺激し、内関と三陰交は電撃様針響を与えるとともに、運動神経線維刺激として患部筋が3回躍動するまで行うよう定めている。
 醒脳開竅法では、一見すると非常な強刺激に思えるが、患者にしてみれば刺激過剰による弊害はみられない。脳卒中患者は脳による末梢神経支配が弱まっているので、刺激に対する身体反応も弱くなっている。一般的刺激量では効果に乏しく、患者の感受性としては妥当になる
 運動麻痺に対する知覚刺激治療は、ボバース法としてリハ分野で実践されている。ボバース法では運動療法を行いつつ、動きの悪い部をブラシなどで擦過刺激を与えるものである。脳に知覚インパルスを送ることが、発症直後の意識障害や片麻痺改善に効果があることが知られていたのである。
※醒脳開竅法は1972年に発表された。しかし1967年には、楊再春らのグループが脳血管障害に対する「神経幹刺激療法」を発表している(医道の日本、昭57.11~昭和58.9)。楊医師らの治療理論は、生理的機序を基礎としており、中医理論を使用していない。

3)痰の改善
 脳卒中後3~4時間経つと、痰(現代医学でいう)が非常に多くなり、これを吸引しないと窒息したり肺炎を起こす。これは気管支の脳からの神経支配が悪くなり、気管支の分泌が多くなるために生ずると現代医学では説明づけている。
 古代中国医師は、このような観察から、痰(非生理的な水液貯留)が脳卒中の原因だと考察した。すなわち飲食物の不摂生により痰が生ずる→痰が停滞して熱をもって痰火となる→痰火が心竅を塞げば意識障害になり、痰火が経絡を塞げば半身の運動や知覚が麻痺するという病理観が生まれた。

 この解釈は現代医学的にはナンセンスなので、とりあえずは無視するが醒脳開竅法の語源由来に関係している。醒脳開竅法の「竅」とは身体に多くある洞穴のことであり、とくに頭蓋骨に開いた穴すなわち眼・耳・鼻・口を意味する。「開竅」とは痰火が洞穴を塞いで生じた意識障害を改善するという意味がある。「醒脳」にも意識をはっきりさせるという意味がある。


2.醒脳開竅法の治療効果
 一般に中国の鍼灸治療成績は、わが国医療人にとって、信じがたいほど好成績のものが多い。それが真に素晴らしいものであるか、それとも判定基準の甘さにあるのか不明だが、結局は好成績であること自体が、わが国だけでなく世界的にも、不信感をもたれている原因をつくっている。

 具体的数値はともかくとして、醒脳開竅法が非常に効果的な治療法であることは、天津中医学付属第一病院を見学すれば知れることである。わが国では、中国と医療システムが異なっているのであまり普及していないが、東京衛生学園近くの総合病院では、入院・外来とともに醒脳開竅法を行っており、田中泰ほか著「牧田病院における醒脳開竅法施行50症例の経過(Br.Stageを中心として)」を全日本鍼灸学会誌1990.3で発表している。ブルンストロームステージとは、脳卒中回復の評価に用いる指標で、世界的に普及している。醒脳開竅法治療を、ブルンストロームステージで評価した場合、通常みられる共同運動パターンが抑えられ、正常パターンで回復していく状況がみられた。ただし醒脳開竅法は巧緻動作の向上は難しいことも指摘されたということだった。

 醒脳開竅法に弱点はあるものの、その点は他の方法でカバーすればよいのであっって、やはり有力な脳卒中の治療法だといえる。また醒脳開竅法の実施にあたっては中医理論を理解しているに越したしたことはないが、現代医学的解釈でも、一応の解釈が可能である。
 醒脳開竅法は急性期から後遺症期まで使えるが、真骨頂は急性期であって、内科的治療と並行して行われることが望ましい。それが全国の病院に普及しないのは、普及の妨げとなる法規や悪癖があるためであろう。、そのことが患者を不幸にしていると私は考えている。