AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

膝関節痛の部位別針灸治療と考察のまとめ ver.1.6

2024-07-05 | 膝痛

私の膝関節治療の方法は、現在ではi以下の 1~4 のように場合分けされシンプルになってきた。これまでブログで発表してきたことなのだが、個々の技術の誕生には時間差が相当あるので、まとめて紹介することはできなかった。以上に加え近頃、膝蓋骨両縁(内膝蓋、外膝蓋)の痛みを訴える患者に対して効果的な方法を発見したので、5・6の項を追加し併せて説明する。

同種の内容に、筆者が3年前に発表した「膝OAに対する鍼灸治療 Ver.2.0」がある。これも併せてご覧いただきたい。
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/870c279ba4b953cc9c8193fa0b273992

 

1.鶴頂の圧痛(+)時     <大腿直筋停止部症>

診察:膝蓋骨あたりに痛みを訴えた場合、仰臥位で膝を立てた状態で、膝蓋骨上縁(鶴頂穴)をさぐってみる。
治療:強い圧痛があれば、この姿勢で鶴頂に速刺速抜+施灸する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:大腿直筋の膝蓋骨停止部の筋膜症が、膝蓋骨前面の痛みを感じている。大腿直筋をできるだけ伸張させた体位で、その圧痛ある停止を刺激することで、大腿直筋が緩む。この治療機序は、生理学的にⅠb抑制を利用している。

 


2.内膝眼、外膝眼の圧痛(+)時   <膝関節包過敏>

診察:膝蓋骨下縁と脛骨がつくる左右の陥凹(内、外膝眼穴)を、押圧して痛む場合。
治療:立位にして圧痛ある内外膝蓋に直刺し、膝関節包を刺激。速刺速抜する。
(体位的に不安定なので置針は難しい)
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:内、外膝眼の直下には筋組織がない。直刺すると、皮膚→膝蓋下脂肪体→膝関節関節包と入る。しかしながら仰臥位で内、外膝眼に刺入しても針響はあまり起きない。というのは仰臥位では膝関節包はゆるんだ状態にあるため。立位にすると上体を支持しようとして四頭筋は収縮し、膝蓋骨が上に移動する。この時膝関節包も緊張する。
この状態で内外膝蓋に刺入すると、膝関節の奥に響くようになり、再現痛が得られ治療効果があかる。

 

3.鵞足の圧痛(+)時  <鵞足炎>

診察:仰臥位で鵞足部をつまんで(撮診して)、明瞭な撮痛がある場合
治療:撮痛点数カ所に印をつけ、この部に円皮針数カ所を置く
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。歩こうとすると鵞足が痛くて、実際には歩けない者であっても、治療直後から歩行可能になることもある。

アセスメント:鵞足部皮膚を走行するのは伏在神経(大腿神経の分枝で皮膚を知覚支配)で、この皮膚の痛みが症状をもたらしている。皮膚の痛みの有無は、押圧するより撮診するほうが把握できる。また皮膚の痛みなので、灸刺激または皮内針・円皮針の方が適している。


①エピソード紹介
私が日産玉川病院東洋医学内科研修生であまり臨床経験がなかった頃。同期M・Y君がいた。M・Y君はある日往診を依頼され、患者宅に行った。「立ち上がり際、膝の内側が痛く、動けない」という。鵞足炎と診断し、とりあえず圧痛ある鵞足部に皮内針をしてみたところ、患者は痛みなく立ち上がり、歩けるようなったので、他に何もせず帰ってきた」と私に自慢した。それ以来、鵞足炎には皮膚刺激というイメージができあがった。あれから約30年後、私の処にも膝痛で歩けないという往診依頼の電話がきた。高齢女性の患者宅に行き、診ると鵞足炎たっだ。皮内針治療を行い、症状は大幅に軽減した。

 

柏原修一氏による追試報告 
鵞足炎の痛みに対してパイオネックス貼付が著効した例(60才、男) 

現病歴:1週間前の作業中、転落防止用ハーネスにて右膝を強打。直後から立ち上がり動作で右膝内側に発痛。整外未受診。
所見:内出血、発赤、熱感、腫脹なし。右鵞足部、右内膝蓋部、右内側広筋筋腹部に圧痛あり。
治療:立位にて右鵞足部を擦診。発痛部にパイオネクス0.6mm貼付。同じく立位にて右内膝蓋及び内側広筋筋腹部に寸6-3にて単刺、得気。
効果確認:ベッドからの立ち上がり動作および歩行にて痛みが顕著に改善していることを確認し、治療終了。
所感:私は従来は経筋療法にて足趾の当該経絡の圧痛個所に皮内鍼を貼付する方法でそれなりの効果をあげておりましたが、今回先生の方法で顕著な直後効果を確認することができましたので、今後とも是非活用させていただたいと思います。

 

4.委中の圧痛(+)時  <膝窩筋腱炎>

診察:膝裏部中央が痛む者に対し、膝関節90度屈曲位にして膝窩(委中穴)あたりを深々と押圧した際、委中付近に2~3カ所膝窩筋の硬結があり、硬結を押圧すると非常に痛がる。これをもって膝窩筋腱炎と判断する。
治療:膝関節90度位(四つん這い、または膝立ち)にし、圧痛ある委中あたりの膝窩筋の硬結数カ所に刺針。速刺速抜。(体位的に不安定なので置針は難しい)
伏臥位で、症状部である委中に刺針してもスカスカした感じになり、筋緊張部に刺入したという感触は得られず、当然治療効果もない。要するに膝窩筋を収縮させた体位で見いだした圧痛硬結に刺入すべきである。
治療効果:多くの場合、治療直後から痛みは半減する。
アセスメント:膝窩筋の機能は、膝関節完全伸展位(体重は骨で支持しているので、筋への負荷は少ない)から膝屈曲動作へチェンジする際のスターターである。もし膝窩筋が存在しなかったらスムーズにひざが曲がり始めないので歩行動作はギクシャクしたものになる。膝窩筋が緊張した結果、膝の完全伸展しづらくなり、立位を保つために四頭筋の緊張を強いられることになろう。逆に四頭筋が過緊張状態にあれば、代償的に膝窩筋も筋腸することになる。

 


5.膝蓋骨内縁の圧痛(+)時 <内側広筋付着部症>

1)出端氏の考えた大腿膝蓋関節裂隙刺針<内膝蓋、外膝蓋>

※30年ほど前、出端昭男氏が「診察法と治療法」という本を医道の日本社から出版した。これは現代医学をあまり勉強してこなかった鍼灸師向けに書かれたようであって、初学者が独習するには適した本だった。しかし当時の本にありがちだか、本書にも取穴根拠には触れていなかった。すなわち疾患ごとの整形外科的病態生理の紹介の後、いきなりどこそこに鍼灸治療をするという結論を示すものだった。この膝蓋骨内縁の圧痛部への刺針は、<大腿膝蓋関節の間隙に入れるように刺針する。ただし直刺すると骨にぶつかるので、斜刺するようにする>と書いてあった。確かに、膝蓋骨の裏面は隆起しているので、直刺するとすぐに骨にぶつかるので斜刺するように書かれている。  
 内膝蓋圧痛(+)で大腿骨圧迫テスト(+)の者に対し、大腿膝蓋関節内へ斜刺を試みてみたが、効いた感触が得られなかった。

内・外膝蓋の圧痛出現理由は、大腿膝蓋関節症ということらしいが、膝蓋骨圧迫テスト時の痛みは、関節包を刺激しているわけではないので、これは筋性の痛みだろう。

 

 

2)外膝蓋、内膝蓋の圧痛は、外側広筋、内側広筋の付着部痛か

膝蓋骨圧迫テストでは大腿膝蓋関節の状態をみるが、ガリガリとした術者の指に伝わる感覚は、大腿膝蓋関節の不適合を意味するが、圧痛は四頭筋の伸張痛由来だろう。

大腿四頭筋の膝蓋骨停止部は、膝蓋骨直上にある。では内側広筋・外側広筋の膝蓋骨停止部はどこになるだろうか。以前私は下血海・下梁丘だと考えていたが、そうではなく、内膝蓋・外膝蓋ではないかと考えるようになった。

内膝蓋や外膝蓋の圧痛点を術者が強圧した状態で、膝関節の自動運動を10回程度で行わせる。その後立たせ、治療前の痛みとの違いを比較させる。軽くなっていれば、強圧した部に運動針を実施。変化ないようであれば、内側広筋上の別の圧痛を見出し、同様の施術を実施。

あるいは直接、仰臥位で膝を伸ばした肢位で、内膝蓋または外膝蓋に刺針。そのまま膝をゆっくり屈曲させると、内側広筋と外側広筋が伸張されるので、運動針効果が併用され効果が増強される。


3)内膝蓋、外膝蓋刺針の奏功アセスメント

内側広筋の部分的筋緊張により、内側広筋が短縮して膝蓋骨内側縁を引っぱり上げた状態。これにより膝蓋骨の位置がずれ、大腿膝蓋関節の不適合に発展した。治療により、その逆の機序が働き、大腿膝蓋関節が適合するまでになったと推察した。外膝蓋の圧痛の場合も、これと同じ考えになる。

 

4.内側広筋、外側広筋のトリガー活性による放散痛

上のトラベルの図によれば、外膝蓋~下梁丘にある外側広筋上のトリガー活性化すると、大腿前外側から大腿外側にかけて広範な痛みが出現するよう示されている。


鍼灸師K.E氏は、ネット上で外側側副靱帯損傷に対し腸脛靱帯への運動針が効果あったと書いていた。腸脛靱帯は靱帯であり筋ではないので、トリガーは発生しないだろう。ただし腸脛靱帯の両サイドは外側広筋になるので、外側広筋に生じたトリガーが鎮静化できれば、外側側副靱帯あたりの放散痛は改善するだろう。しかしながら外側側副靱帯損傷という病態が存在しているのならば、放散痛軽減させただけでは、すぐに症状再発することだろう。

 


痛み以外の膝症状への対処 ver.1.1

2023-12-25 | 膝痛

膝関節痛で最も多い症状は膝痛であるが、膝痛と同時に「膝に水が溜まっている」「膝が腫れるている」といった訴えも少なくない。それらの対処法について整理する。

1.関節の熱感・腫脹

1)病理   
関節の軟骨が摩耗し、軟骨の破片が関節液中を浮遊。それが関節滑膜を刺激して関節内に炎症を起こして熱感・腫脹を起こす。この反応で知覚神経を刺激すれば膝関節痛も起こる。  

2)針灸の是非と方法  
熱感が強い時、針灸を行うと炎症が悪化しやすい。今から1~2週間後に熱感が落ち着いた後に治療する旨を患者に伝達。 治療にはチクッとした灸熱が適するのであって、熱量を多量に与えるせんねん灸は不適。糸状灸~ゴマ大灸を腫脹しいるエリアに広範囲に5~6点施灸する。 自宅施灸するのがよいが、近年自宅施灸不可とする患者が多くなってしまった。


2.関節水腫

1)病理       
関節液(=関節滑液)は関節滑膜が血液を材料として製造し、関節の栄養と潤滑油として機能し関節滑膜から吸収され常に一定量を保持している。 しかし関節軟骨の摩耗スピードが速いと関節軟骨の辷りが悪くなり、その代償的に滑液分泌量がふやして滑りを維持しようとする。関節軟骨片も関節液中に浮遊し、これが関節包を刺激する。  


2)関節水腫の理学検査

①膝蓋跳動作テスト    
水腫があれば膝蓋骨は大腿骨から浮いている。膝蓋骨を叩くと、大腿骨にぶつかるので、コツコツと音がするものを(+)とする。本テスト(-)では水腫ではなく、関節包の肥厚を示唆する。膝関節に加わる刺激が強いので、それに対処するた関節包も厚くなり、膝関節を守ろうとしている。
関節に水がたまると関節液の粘性が少なくなり、潤滑油としての性能が低下するので、炎症が増大しやすい。

昔は変形性膝関節症で膝が大きく腫れている者が針灸に多数来院していたのだが、最近では膝痛は以前ほど来院せず、とりわけ膝水腫の来院は少なくなったことを感ずる。これは整形外科で行ったヒアルロン酸注射の効果といわざるを得ない。

  

②膝蓋骨圧迫テスト        
膝蓋骨を圧迫しながら、上下左右に動かした際、正常であればスムーズに動くのだが、関節面が変形してるいると膝蓋骨底の捻髪感(ザラツキ感)を感じる。これをもって大腿-膝蓋関節の変形(または膝蓋骨軟骨化症)を考える。 

  一部の成書には、「膝蓋骨圧迫テストでは痛みが出現する」と書かれている。実際にも本テストでは被験者は痛みを感じることも多い。ただし膝蓋-大腿関節には関節包がないので、痛みを発生する要因がない。この痛みの正体は大腿四頭筋の筋腱付着部症と考えられているので、鶴頂など膝蓋骨の大腿四頭筋停止部に刺針して有効である。  

3)関節水腫の治療

基本的にまずは安静・固定・圧迫・冷却・挙上、膝圧迫包帯(または膝圧迫サポーター)。整形で関節から関節液を抜いてもらうと、治療直後は良好だが、数日後には関節水腫状態に戻ってしまうことが多い。 結局炎症があるから、水が溜まるのであって、炎症を鎮めないことには水腫は治らない。軽度の関節水腫は針灸治療の対象となり、とくに水腫部を中心に直接灸することで次第に水は消退していくが、それには長期間かかる。 
代田文彦は、水腫には灸が有効なのだが長期間かかるので、まず整形で水を抜いてもらい、その直後から灸をすると、水が溜まりにくくなり、その方が直りが早いと語った。灸治療により水腫の再発を防ぐ。


Ⅰb抑制を応用した膝蓋靱帯炎の治療(40才、女性)

2023-08-15 | 膝痛

1.主訴:膝屈伸時の、右膝骸骨下際の痛み

 

2.現病歴
満一才幼児の育児でだっこすることが多い。1ヶ月前頃から 歩行で膝を曲げ伸ばしする際に右膝蓋骨下が痛くなり、整形受診して膝蓋靱帯炎との診断を受けた。X線は正常。治療はロキソニン軟膏と痛みが強い時の頓服用としてロキソニン錠、および右膝関節部のサポーターを処方された。
痛み止めを使って、痛みが止まっても本当の治療にはならないと思い、当院に数年ぶりに来院した。

 

3.所見
内・外膝眼と犢鼻に強い圧痛あり。脛骨粗面の圧痛はあまりない。他に陰包、鵞足にも圧痛を認めた。

 

4.考察
大腿直筋短縮→膝蓋骨上方移動→膝蓋靱帯の牽引ストレス。
膝蓋靱帯炎は犢鼻圧痛(++)により明瞭。脛骨粗面の圧痛(-)なのでオスグッドとはいえない。内・外膝眼は撮痛は伏在神経膝蓋下枝の興奮で、鵞足の撮痛は伏在神経下腿内側枝の反応。陰包は伏在神経内転筋管部の神経絞扼障害の反応点だが、非常に強い圧痛とはいえないので内転筋管症候群とまではいえない。
膝蓋靱帯の圧痛だけでなく、伏在神経痛も絡んでいることを示すものだろう。

いつもなら大腿直筋緊張をゆるめる目的で、仰臥位膝伸展位で伏兎・梁丘・血海に刺針して、膝屈曲の介助自動運動を行わせるところだが、同じことばかりしていても進歩がない。今回はⅠb抑制を使って四頭筋緊張をゆるめる方法を試してみた。
 
まず膝蓋靱帯の両側を術者のr両手の拇趾と示指で指で強くつまんで引っぱり上げる、あるいは術者の指先を膝蓋腱下に潜り込ませるようにする(患者は痛がる)。膝蓋靱帯を上から押圧すると非常に痛がるので止めた方がよい。
膝蓋腱をつまんだ状態で、患者に膝の曲げ伸ばしを軽くゆっくりと行わせる(患者はさらに痛がるが我慢させる)。
数回この運動を行って術者の指を離す。そして床を歩かせてみる。今まで痛くてできなかった歩行が、痛みを忘れたように普通に歩けるようになった。

これだけでは治療時間が短すぎるので、内外膝眼・鵞足・陰包などの伏在神経反応点にせんねん灸をして治療を終えた。


5.コメント

 
今回の治療は、大腿直筋の端にある膝蓋腱を引っ張り、身体が腱が断裂してしまうことを回避するため大腿直筋緊張をゆるめるというⅠb抑制の臨床応用て治療した。

 なお膝蓋靱帯をつまんで引っ張り上げるという治療手技は、<重症専門TV>光田昌平氏「オスグッドの原因と治し方」ユーチューブ動画をアレンジした。膝蓋靱帯炎でもオスグッドでも治療は大差ないに思う。

       
        
        
        
        
      


変形性膝関節症に対する膝蓋骨ストレッチの意義 ver,1.2

2023-05-25 | 膝痛

1.私の膝OA治療の要点

膝痛患者に対し、仰臥位で股関節を屈曲、膝をできるだけ屈曲させた姿勢にさせ、膝蓋上縁すなわち大腿四頭筋の停止部の圧痛を探る、そして圧痛あれば、圧痛点(=鶴頂穴)に単刺または直接灸3壮程度を行うことで、痛みが改善することが多かった。
この治療理論は、Ⅰb抑制を利用して大腿四頭筋をゆるめるというものだった。ちなみにⅠb抑制とは、筋が外力によって急激に引き伸ばされた際、筋断裂を防ぐための防御機能であって、受容器は。その筋の腱紡錘にある。すなわち四頭筋を緊張状態にして、鶴頂を刺激すると、さらに四頭筋が緊張したので、このままでは筋断裂すると身体が解釈して四頭筋緊張を緩めることになる。

また内・外膝眼に圧痛を認めた場合には、立位で内・外膝蓋に直刺2~3㎝程度の単刺をして関節包刺激をしている。立位にして施術する理由は、立位にすると四頭筋収縮にともない、膝蓋骨位置が高くなり、内・外膝蓋の陥凹に刺針しやすくなると同時に、膝関節包も緊張状態になって、刺針有効性が増大すると予想するため。

ところで最近、61才女性(看護師)の変形性膝関節症の治療を行っている。だいたい週1回ペースで行い、上記の鶴頂灸と立位で内外膝眼刺針で関節包刺激を行うことが多かった。今回は今ひとつ膝痛の治療効果があがらないので、最近覚えた徒手矯正手技を加えてみると、1週間後再来した折、あれは効いたからもう一度やって欲しいといわれたので、その手技を紹介したい。


2.膝蓋骨ストレッチ

1)ためしてガッテンの方法

四頭筋が過緊張して膝蓋骨が可動しづらくなっているのであれば、施術者が膝蓋骨を積極的に上下左右に動かすことで四頭筋を緩める方が、より直接的かもしれない。膝蓋骨-大腿骨の滑走しやすさのきっかけをつくることにもなるだろう。NHKためしてガッテンでは次の内容が放映された。

①膝を完全伸展させてから脱力。膝蓋骨が水平方向に動くことを確認。
②膝蓋骨縁に両手の親指を重ね、膝蓋骨のヘリを押す(上下左右、斜めなど8方向) 。押す時間は1か所につき5秒程度。
③1回のストレッチは3分まで。1日2回が目安

 

 

このような手技療法は、整体治療としてYoutubeなどで知ることができ、これにも種々のバリエーションがある。一般人向けの紹介動画だからか「このような症状の時には、このようにして治す」というパターンが多く、背後にある治療理論についての説明はほとんどないのが残念なところ。もっとも、現在の針灸の発表スタイルも同じようなものだろう。最低でも「なるほど、そういうことか」と共感できるレベルであって欲しいものだ。

 

3.膝蓋骨圧迫テストの意味

実はこの手技の膝蓋骨を押圧しつつ上下に動かす動作は、膝蓋骨圧迫テストと同じことをしているように見受けられた。膝蓋骨圧迫テストの場合、膝蓋骨を動かすことで、患者の感ずる痛みの有無や検査者の指頭に感ずるざらつきを調べている。異常があれば大腿膝蓋関節の異常ありと判断する。かつて膝蓋骨骨膜と大腿骨骨膜をこすりつけた際の痛みだから、大腿膝蓋関節症とくに大腿膝蓋関節の摩耗と判断した。



確かに検者の指頭にかんずるザラツキは、大腿膝蓋関節の摩耗を示すものだが、この関節部に知覚はない。骨膜はなく関節包もないから痛みは感じることはないのであっる。ではなぜ患者は痛みを感ずるのかといえば、周囲筋筋膜の伸張痛による痛みといえる。従って、膝蓋骨圧迫テスト時に患者の発する痛みは針灸で軽減できるといえるのである。NHKで紹介された膝蓋骨を上下に動かす運動は、大腿四頭筋の伸張運動のことで、四頭筋を動かすことで関節包内膜の滑液包から関節滑液の分泌を活発化させることで、ザラツキにも良い影響を与えることができるだろう。

 

4.パテラセッティングは、本当に大腿四頭筋筋力増強法として作用しているのだろうか?

パテラセッティングとよばれる大腿四頭筋筋力増強テストが知られている。 パテラ Pateraとは膝蓋骨のことで、タオルを丸めたタオルなどを膝裏に置き、このタオルを押しつけるような力を加えるものである。1回15~20回、これを1日2~3セット実施させる。簡単な訓練法なので自宅で行わせるのに適している。しかしこの運動は、本当に四頭筋強化に役立つか疑問を感じている。

膝裏のタオルを押しつけるのは大腿四頭筋の拮抗筋であるハムストリング筋を緊張させる運動なので、これは運動学でいうⅠa抑制に相当するのではないだろうか。すなわちこの運動は大腿四頭筋の緊張をゆるめるという、本来の意図とは真逆になってしまう。四頭筋増強運動にするには、膝裏でタオルを押しつける運動ではなく、膝を伸ばす運動にすべきだろう。

膝OAに対しては、四頭筋強化運動を行うのが常識となっているのだが、それについても疑問が残る。私は仰臥位膝屈曲位にて、膝蓋骨上縁の鶴頂穴(大腿四頭筋停止部)に刺針することで、四頭筋緊張を緩めるⅠb抑制を行うことで膝痛治療を行い、即効的な鎮痛効果をあげている。四頭筋強化が治療にこうかあるのではなく、四頭筋の緊張を緩和(=コリをとる)ことが治療になるのではないかと考えている。

 

 

 


膝痛に際してのⅠa抑制とⅠb抑制から考えた針灸治療 ver.1.1

2022-03-29 | 膝痛

膝関節痛を訴える患者の多くは、大腿四頭筋が過緊張している。いわゆる大腿四頭筋強化運動を行わせても効果が今ひとつなのは、四頭筋力低下ではなく過緊張(=過収縮)によるものだろうと考えている。この四頭筋の緊張緩和には、運動学的方法であるⅠb抑制とⅠa抑制を利用した方法がある。

1.Ⅰb抑制理論による鶴頂刺針 

Ⅰb抑制とは筋の持続的伸張などでゴルジ腱器官を興奮させることにより、Ⅰb線維を介して、目的とする筋の緊張が低下する現象。筋腱の骨付着部などゴルジ腱器官の集まる部位を針灸などで刺激すると、これと連なる筋の緊張緩和すること。

1)症状
歩行時の膝関節上縁部痛。ただし患者は膝蓋骨部が痛むと訴えるとが多い。

2)病態
歩行時は四頭筋が緊張収縮して膝蓋骨も挙上する。この動作の酷使により大腿直筋は常に緊張を強いられるので。大腿骨-膝蓋骨間に強い牽引力が生まれ、大腿直筋停止部症が生ずる。

3)針灸治療
膝蓋骨上縁の圧痛(+)時に実施。単に圧痛ある膝蓋骨上縁にある鶴頂穴に刺針しても効果はない。大腿直筋をなるべく伸張させた姿勢(すなわち仰臥位で股関節屈曲、膝関節屈曲位)で、鶴頂の圧痛(2~3カ所)を探し、単刺または施灸する。これにより大腿直筋緊張が緩み、筋長が伸びるので膝痛が軽減されることが多い。これはⅠb抑制の機序を利用したものである。




2.Ⅰa抑制理論によるハムストリング緊張

拮抗筋を緊張させることで、目的筋の緊張を緩める方法。大腿四頭筋を緩めるには意図的にハムストリング筋を緊張させる。
橋本敬三の操体法は、「動かしやすい方、気持ちの良い方へ動かす」という運動健康法だが、これも患側の筋を直接操作するのではなく、健側(=拮抗筋)の筋を動かすことを治療方針としている。これもⅠa抑制理論といえる。

1)症状
歩行時の膝関節上縁部痛。ただし患者は膝蓋骨部が痛むと訴えるとが多い。

2)病態
歩行時は四頭筋が緊張収縮して膝蓋骨も挙上する。この動作の酷使により大腿直筋は常に緊張を強いられるので。大腿骨-膝蓋骨間に強い牽引力が生まれ、大腿直筋停止部症が生ずる。


3)運動の方法
長座位で、膝下にタオルを丸めたものを置き、膝でこのタオルを押しつける。1回15~20回、これを1日2~3セット行わせる。この運動はリハではパテラセッティングとよばれている。足関節を持ち上げれば大腿四頭筋の筋力増強にも有効だが、四頭筋以上にハムストリングを鍛えるのに適している。

治療室で行うには、もっと効果のある方法で行いたい。


膝窩筋腱炎の針灸治療 ver.1.6

2022-03-08 | 膝痛

筆者はかって、<膝窩痛に対する委中刺針の体位 Ver. 1.4>2014.7.28 を発表したが、その後に内容がかなり充実してきた。ともに、このタイトルが内容にふさわしくないものとなったので、内容を大幅に追加するとともにタイトルを変更することにした。

 

1.膝窩筋とは
     
膝窩筋は、膝窩部にある小さな筋なので、大して重要な役割もないだろう考えられてきた。しかし最近、本筋は<膝ロックを解除する>重要な機能があることが分かってきた。

 膝窩筋の起始は大腿骨の外側顆、停止は脛骨の上部後面にある。歩行動作の間、膝は完全伸展位になることはない。しかし立位を保持しようとすると膝関節は完全伸展位になる。この時には脛骨の外旋を伴うことで、膝をある程度固定できる。膝の完全伸展位では、体重を骨で支えていて、膝部筋はほとんど使っていない。特に意識せず立位になっている者に対し、イタズラで膝窩を軽く押しただけで膝折れ状態になり驚かせた経験をした(させられた)者もいることだろう。

完全伸展位にある膝を歩行開始モードに移行させる役割をするのが膝窩筋になる。言い換えれば、膝ロックを外すのが膝窩筋の役割である。  
 

2.膝窩筋腱炎の症状
   
近年、膝窩筋は膝関節の完全伸展モードから膝屈曲モードに切り替わる起動装置(スターター)としての役割があることが判明した。
①大腿四頭筋筋力低下があれば膝折れしそうになる。
②膝折れによる転倒を回避しようと、四頭筋を瞬間的に緊張させる。ことのとで、脚がつっかえスムーズに前に進めなくなる。(足が棒のようになる)
③歩行再開のためには、膝完全伸展モードから膝屈曲モードへの切替が必要。
④そのために膝窩筋が緊張する。 
⑤ただし折れや膝ロック状態を治すには、根本的には四頭筋の筋力をつける必要がある。

筆者は以前、片側の膝関節亜脱臼(自己診断)で、膝痛となり安静を保ったので四頭筋筋力の廃用性萎縮が起きていたのだろう。歩く動作ではあまり支障なかったが、階段を下りる際、片膝関節が完全伸展状態となり、階段を下ろうとする動作をストップさせた。最も苦痛だったのは、バスを降りる際で、階段の最下段と道路には結構な段差があり、また次々と降りる人がいるので急かせられることで、転倒しないよう懸命だった。四頭筋の重要性を再認識したのであった。


  

  

 

※足底筋の機能:足の底屈。アキレス腱が断裂しても、足底屈ができるのは、足底筋の収縮による。足底筋は、前腕部の長掌筋と同じく、現代人にあっては必ずしも必要とされていない。足底筋や長掌筋の役割は、足底筋膜や手掌筋膜の緊張をたかめるためである。たとえばサルが四つ足で歩いたり、木に軽々と登ったりする時に機能している。体操の選手が、鉄棒や吊り輪をする時、手にはプロテクターをはめて手掌を保護する必要があるが、サルなら不要だということ。
猫が四つ足の爪を出したり引っ込めたりできるのも、足底筋や長掌筋の作用による。

  

 
 

 

3.膝窩筋腱炎の針灸治療
   
異常がある場合、膝関節90度屈曲位にて、膝窩横紋中点(委中)あたりに圧痛硬結を触知できる。このシコリは膝窩筋由来のものである。上図で、膝窩中央に委中があり、それが足底筋上にあるように描かれている。しかし90度膝屈曲位にすると、委中の直下感ずる筋シコリは膝窩筋になると思った。腹臥位で膝窩横紋中央を探ってもシコリは発見できない。膝窩中央に委中はあるが、実際の反応は委中ではなく委陽など膝窩横紋のどこにでも出現し、反応点は1箇所とは限らない。
 

   
これは膝窩筋を緊張させる肢位である。上図の膝窩附近の断面では、腓腹筋が描かれているが、これは膝窩横紋のやや下方からの横断図であろう。膝窩横紋の委中外方からの直刺刺針時では腓腹筋やヒラメ筋は関与しない。

   

4.内合陽穴について

   代田文誌「鍼灸治療基礎学」には「委中の下方2横指のところに合陽穴を定め、その内方2横指の筋肉中に内合陽穴を定める。座骨神経痛や膝関節炎の場合の圧痛好発部位であり、臨床上必要な治穴」と説明されている。
 内合陽穴は澤田流を勉強している方ならば周知の穴であるが、どういう病態の時に、本穴に圧痛硬結反応が現れるのか私には不明だった。内合陽は
脛骨神経の走行上ではなく、腓腹筋内側頭だとしても、ここに限局的に圧痛硬結が出る機序が分からなかった。

しかし内合陽もまた膝窩筋の反応点となることは、改めて解剖学書を見ると明らかになる。つまり膝窩筋腱炎の病態のバリエーションだろうと思う。代田文誌らが坐骨神経痛ではなく膝窩筋炎だと判断できなかったのは、当時の医学知識としてはやむを得なかった。

最近正座姿勢ができず、膝窩が痛むと訴える65歳男性の患者の治療を経験した。立膝位で委中刺針を行ったが、珍しく効果不十分だった。どこが痛むのかを患者自身の指頭で押さえるように指示すると、まさしく内合陽を押さえた。そこで膝90度屈曲位のまま、内合陽の強い圧痛硬結に2寸#4程度で手技針すると、治療直後からかなり正座できるようになった。


膝OAでの関節包刺針

2021-12-31 | 膝痛

変形性膝関節症(膝OA)は、従来から針灸の適応症とされている。事実、整形での理学療法や神経ブロック療法と比べてもよく効くと思う。ただし高度な膝OAでは、針灸治療でもあまり症状軽減しない。やはり80歳以上になると多くなる重度の膝変形では、針灸による軟部組織を刺激対象とする方法では対処できない。針灸守備範囲外となる。そうなると整形外科での骨切り術や膝人工関節への手術が適応になるケースが出てくる。

針灸治療を実施するにあたり、変形性膝関節症という病名だけでは治療方針が定まってこない。以下に本症の進行に伴う症状悪化を示した。針灸が働きかけるのは膝関節負荷増大による筋々膜痛というあたりが主要ターゲットになることに異論はないが、筋刺激にはならない内膝眼・外膝眼への刺針、すなわち関節包刺針も有効となる場合が多く、その理由について考察する。

1.関節包の痛み



1)関節部での知覚神経はどこも均一に分布しているわけではない。骨は痛まないが骨膜は痛みを感じる。発生学的に関節部において骨膜は関節包に変化したこともあって、関節包も痛みを感じる組織である。関節包は腱筋につながっており、関節と連動して牽引・収縮される際に痛む。

2)関節包は外層の線維膜と内層の滑膜から構成される。線維膜は強靱で知覚神経が分布する。滑膜は血管に富み関節液(=滑液)を産生分泌する役割がある。この関節液は、関節の潤滑油および栄養液として機能している。なおヒアルロン酸も滑膜から分泌され、関節液の粘性を高めることで関節の滑りをよくしている。

 

 

3)関節裂隙への深刺が関節包刺激となる。針灸臨床で多用されるのは、内膝眼・外膝眼といった穴であろう。
膝蓋骨下縁で膝蓋腱の両側部は、大腿骨と脛骨の隙間で、内外の半月板や前十字靱帯が存在する部である。膝伸展位で、この部から直刺すると針は膝蓋下脂肪体→関節包(関節線維膜と関節滑膜)→関節腔と入る。その時、針先が線維膜を刺激すると処でもあることから、筆者は治癒機転が働くと考えている。

膝蓋下脂肪体が増殖し、隆起している者がある。これは膝関節を防衛するためのクッションを増やしている状態であり、この所見は膝関節が脆弱であることを示唆するものと考えている。

 

 

4)膝関節が腫脹したり軟骨が摩耗したりする頻度が長期におよぶと、膝の動きが悪くなり、膝のROMは狭くなり、かばうために筋の柔軟性が減少してくる。とくに筋の骨付着部に痛むようになる。膝関節周囲の関節包や関節周囲に付着している腱、筋肉の異常、傷害による問題は、痛みをたらすという意味で、重視すべきである。このたぐいの硬結圧痛は、膝蓋骨周囲の外縁、内外関節裂隙、鵞足部に出現しやすい。

 

2.立位での内膝眼・外膝眼刺針

膝痛の鍼灸治療は、普通は臥位で行うことが多い。しかし膝痛は臥位時ではなく、立位や歩行時に起きるのが普通であることから、反応点(≒筋硬結)を発見する体位は、臥位よりも立位が適切であることを十数年前に発見した。

ある膝OA患者で、仰臥位で圧痛点を探して刺針施灸を6回したが、思うような効果が現れなかった。そこでベッド上に立たせ、改めて膝関節周囲を触診してみると、これまで分からなかった圧痛点を多数見付けることができ、その都度単刺を行ってみる(片膝あたり計5~10カ所)と、治療直後に歩行時痛が軽減したのだった。膝OAは、「軟骨変形が病像の中心なので、治療効果をすぐに求める必要はなく、毎日施灸することで3週間程度経ってからゆっくり効いてくる」との思いが常識となっていただけに、このような体位で行う治療が即効的に効くことがあることに驚いたことが契機になった。

立位で内膝眼・外膝眼の反応点を探ると、仰臥位で探るよりも圧痛が発見しやすくなる。立位になった被験者はその姿勢を保つため、大腿四頭筋を緊張させることで膝蓋骨も挙上することが、両穴を探りやすくなるのだろう。四頭筋が緊張することで膝関節包も緊張する。緊張状態にある関節包を刺針することも効果を生む秘訣となるだろう。

 


タナ障害の手技療法 ver.1.1

2021-12-17 | 膝痛

60歳女性で、片方の膝を曲げる度にバキンバキンと骨が折れるのではないかと思うほど大きな音がするとのことで来院した。タナ障害と診断したが、治す方針がたたず四頭筋をゆるめるような施術や四頭筋を鍛える運動法の指導をしたが、意外なことに3回治療2週間程度で自然に音がしなくなってしまった。以前に診たタナ障害は半年程度治療が必要だったので、これはうれしい誤算なのだが、反面残念でもあった。というのは、今度来院した時、試してみようと用意していた運動法があったからだ。今回、その運動法を紹介する。

1.タナ障害の概要


1)タナとは何か                                                                        


膝関節は発生途中でいくつかの滑膜による隔壁で分割されているが、生下時には単一の関節腔となる。この滑膜隔壁のなごりを滑膜ヒダ(=棚 タナ)といい、この障害をタナ障害(=滑膜ヒダ症候群)という。成人でも約半数の者の滑膜はヒダ状になっている。これがタナだが、押圧しても痛まない場合、治療の対象とならない。タナの存在自体は障害の原因にならない。

これまでタナ障害かもしれないと思った病態を何例か診てきたが、もうひとつ診断に確信がもてなかった。タナのイメージがつかめない。まあ,
が独学の悲しさ。そういった思いでいた時、何となく自分の右膝蓋骨の内下方縁の下方一横指の部の大腿骨関節面を指頭で圧をかけながら上下に動かしてみると、圧痛はないがグリグリとした可動性のある膜を触知できた。タナとはこのことなのかと思った。ただし圧痛はないので悪さはしていない模様。


2)病態生理と症状
   
軽微な外傷(打撲や捻挫など)や膝の過使用によるタナの慢性反復刺激により、滑膜ヒダが肥厚し、膝の曲げ伸ばしの際に関節の間に挟まったり摩擦されたりして炎症を起こすことがある。これが誘因となって、膝の屈伸でタナが膝蓋骨と大腿骨間に挟み込まれた時、バキッという音(必発)が生じる。痛みを伴う場合、「タナ障害」と診断される。確定診断は関節内視鏡による。

 

 


3)タナ障害の整形治療                                              

保存的治療が原則。鎮痛剤、温熱療法、大腿四頭筋のストレッチを指導(筋力増強を目的としてない)。これで改善しない例では関節鏡視下でのタナ切除術を検討するが、関節滑膜切除の外科手術に至るケースはまれ。


2.治療院でのタナ障害の運動療法

 
1)関学氏の運動療法

 

関学氏(柔整師)は、独自のタナ障害改善の運動療法 を考案した。
  
①立位、痛い側を前にして股を大きく前後に開く。

②患側の下腿と床は直角(上体は前へ行き過ぎない)。膝を軽く屈曲。健側の後足は踵を浮かす。この時、患側の大腿軸の延長上に膝蓋骨が位置するようにする。膝蓋骨が内旋(内側に寄る)しないように注意する。
③両手指を重ねて膝蓋骨の上を押さえ体重をかける。この時腰をやや低くし、上半身の重体重を乗せて前方に移動する。(膝を後に引かない!)
④後足を半歩前へ移動。再び③の動作を実施。③④の動作を1回として、計5回実施。
⑤直後からひっかかり感が軽くなることが多い。2週間は集中的に行わせる。
   
日常生活の中にも、こうした動作を組み込み、何回となく行うようにすること。

2)私の考察

 
この運動は四頭筋の筋力強化を目的とせず、膝蓋骨を足方向に強く圧迫することで、大腿四頭筋を伸張しているようであった。この筋が伸張すると、膝の曲げ伸ばしの際にも、膝蓋骨間に挟まったタナに加わる力が減少すると思えた。


このアイデアは、かつて代田文誌が昭和8年に発表したバネ指に対する運動療法に似ていると思った。以下は専門書で調べた内容。


屈曲した指関節を補助することなく自分で再伸展できるのであれば、鍼灸治療効果が期待できる。手関節掌側部の腱(深・浅指屈筋腱)
のところを、術者の母指で強く圧迫し、その状態で患者に指を全力で十回~数十回屈伸(グーパー)するよう命じる。
すると今まで自力では屈伸できなかった指が、突然に自力で屈伸できるようになる。

     
関学氏はこれと同じことを大腿四頭筋で実施しているのではないだろうか。膝蓋骨と大腿骨間に絞扼されたタナ部を、A1輪状靱帯で絞扼された腱腫瘤と同じような病態だと考えることにする。大腿四頭筋は強大な筋力をもっているので、両手で四頭筋の停止部を圧迫しつつ、同筋のストレッチをするのでなければ間に合わないのだろう。

3)小野寺文人氏の解釈

本ブログに対し、勉強会等でいつも協力していただいている小野寺文人氏から、コメントを頂戴した。専門書で調べた結果で、その通りだと思うので、以下に紹介する。
 「膝関節のトランスレーション・大腿四頭筋を含む前方組織の拘縮は、大腿骨を後方に変位させ半月板後節や滑膜に剪断力が加わる。後方組織の拘縮は大腿骨を前方に変位させ、半月板前節や膝蓋脂肪体に線弾力が加わる。つまり「オスグッドは膝への誤った体重負荷により、脛骨が前方にずれて膝関節の位置がずれてしまう結果」ではなく、「大腿四頭筋を含む前方組織の拘縮は大腿骨を後方に変位」することにより、脛骨が前方にずれているように錯覚するのではないでしょうか。要するに病態の中心となるのは、大腿四頭筋に問題があるといえるらしい。

ただし、実際の手技を行う場合、たとえ話として「脛骨を下に押し込む」というのは、妥当な表現だろう。


オスグッド病の針灸治療 ver2.0

2021-12-05 | 膝痛

1.オスグッド病とは

1)病態

成長期(10~15才頃)の運動ストレスが膝蓋腱付着部の脛骨粗面部に集中し、膝蓋腱が脛骨粗面部の脛骨靱帯を引っ張る。すると脛骨結節が徐々に隆起して痛みや熱感をもつようになる。骨軟骨炎。中高生の多くみられる。かつては「成長痛」(骨が成長してるから痛む)とされてきたが、現在では否定されている。

 

 
2)症状

歩行やジャンプ、階段昇降など膝の曲げ伸ばしの際、脛骨粗面が痛む。ランニングが困難。
ひどい場合、立位で膝関節が痛み出現するので屈曲不十分となる。

3)理学テスト

膝がどのくらい曲げることができるのか。痛みが出る動き(屈伸運動など) 角度の計測。脛骨粗面の隆起、熱感。ピンポイントの強い圧痛
 
4)整形での治療

2~3ヶ月、過度の運動を禁止。疼痛が軽減しないときには膝蓋骨部をくりぬいたサポーター装着。ジャンパー膝で用いる膝バンド(膝蓋腱の位置でのバンド固定)も有効。

 

2.オスグッド病の局所治療
     
筋腱付着部症 enthesopathy と捉え、膝蓋靱帯と脛骨粗面の両側の接点に対し直角方向に斜刺する。

※当院に来院していた少年サッカーのコーチは、圧痛ある脛骨粗面を、ジャンボローラー(大型ローラー針)で強く何度も転がすと痛みが減ると言っていた。

 

3.運動学的方法による大腿四頭筋緊張緩和手技

純に大腿四頭筋をストレッチさせるには次のような方法をとればよいが、神経学的方法を使った方が効率的である。


 
1)Ⅰb抑制手技

 Ⅰb抑制とは、筋緊張を緩めるため、その筋末端にある腱を刺激するという運動学的理論をいう。 
大腿四頭筋が十分に伸張できる状態ならば、仰臥位で膝屈曲にしても脛骨粗面の膝蓋靱帯停止部は痛まない。痛むのは四頭筋が緊張し縮まっているからで、この是正にはⅠb抑制手技が効果的である。そのため汎用性の高い方法としては、仰臥位膝屈曲にして、膝蓋骨上縁にある大腿四頭筋停止部に刺針することである。

しかしオスグッド病は膝蓋靱帯の脛骨粗面停止部に力学的ストレスが強く作用しているから、仰臥位膝屈曲位で四頭筋を十分伸張させた状態にして、膝蓋靱帯部に刺針するとよいが、
オスグッド病の局所は非常に痛みに敏感になっているので、局所に触れることなく、下記の手技により膝蓋靱帯を伸張させることがよいだろう。
   
エジリカイロプラクティックさかえ鍼灸院でのオスグッド病の新しい治療理論によれば、オスグッドは膝への誤った体重負荷により、脛骨が前方にずれて膝関節の位置がずれてしまう結果であって、治療は狭くなった関節を広げてスペースを作ってやると…前方に飛び出していた脛骨が戻ってくる。大腿骨が正常な位置で脛骨の上に乗っていれば、 痛みを出すことはないという。この理論は独自性が高いものだが、結果的せよ膝蓋靱帯を上手にストレッチしているテクニックといえると思う、

  
①膝蓋靱帯をゆるめるため、
座位で膝をたてる。膝蓋腱の両側を左右の母指で外から押圧。と同時に、膝を伸ばす。
②そしてまた90度曲げる。この運動を5回繰り返す。 直後に起立して、膝を屈曲すると、かなり楽になったことを感ずる。これは四頭筋と膝蓋腱がゆるんだため。
③1回に2~3セット行う。この運動を、プレーする前後、朝起きてすぐなど、1日数回繰り返す。

 

2)Ⅰa抑制手技
 
Ⅰa抑制とは筋緊張を緩めるには、拮抗筋を人為的に緊張させれるという運動学的理論をいう。    
膝蓋靱帯の牽引力増大は、大腿四頭筋の収縮の結果なので、大腿四頭筋緊張を緩める必要がある。過収縮した大腿四頭筋緊張を緩めるには、拮抗筋であるハムストリング筋の緊張を亢進させればよい。これはⅠa抑制になる。

   
①仰臥位で患側の下肢を伸展挙上させる(SLRの手技)

②術者の肩甲上部で被験者の下腿をかつぎ、その角度を保持する(10秒間)。
③患者の下腿で術者の肩を持続的に押すよう指示(6秒間)し、その後脱力させる(30秒間)。これは「動きの無い」等尺性収縮である。
④.再びを下肢を挙上させてみると、先ほどより伸展挙上ができるようになっている。すなわちハムストリングが緩んでいることを確認できる。、
⑤その時点で、再びできるだけ下肢伸展挙上をさせ、上の②以下の動作を繰り返し再教育する。これを3~5セット繰り返す。

 


ベーカー嚢腫の概略と治療法

2021-08-25 | 膝痛

1.序
 
鍼灸治療を初めて2~3年目のこと、中年女性の患者で、半球の水腫が片膝の膝窩にある症例に遭遇した。正座しづらくなったが、動作時の痛みはないという。とりあえず、局所である意中に直刺したが、スカスカするばかりでしっかりとした組織に針先が当たらず、途方にくれたことを思い出した。後で知ったことは、本症例はベーカー嚢腫たっだ。以降現在まで、十例程度は扱ったように思う。

最近では60歳女性でベーカー囊腫治癒して数ヶ月後、片側の膝窩に水がたまったといって再び来院した。整形外科にも行ったが様子をみるようにいわれたという。私はベーカー囊腫について、ある程度理解しているつもりだったが、なぜ急に腫れ、すぐに良くなることが多いのか、復習することにした。

2.ベーカー嚢腫

1)滑液包とは 
    
膝関節周囲には、いくつかの滑液包があり、運動時の骨と皮膚間の摩擦を減らす役割がある。滑液包内部には少量の滑液がある。外傷や過使用により滑液包に炎症を起こし、内部の滑液(黄透明色)が増加した状態を滑液包炎という。滑液が増加しても無痛で機能障害がないのであれば治療の必要はない。
   
※関節包と関節水腫
関節を覆う薄い膜を関節包という。関節包内膜にある滑膜からも滑液は分泌され、関節内部の潤滑油として、あるいは関節への栄養補給として機能し、滑液は再び関節滑膜から吸収される。いわゆる「膝に水が溜まっている」というのは、膝関節包の滑液量増多状態をいう。


2)滑液包と関節包の交通
    
膝窩部の滑液包は、70~50%の者で関節包と細い通路でつながっている。次の原因により膝窩部に袋状に突出した滑液胞腫ができるまでになる。
①滑液の閉塞:関節液が関節腔から腓腹筋半膜様筋嚢に流れる滑液が溜まる。
②滑液量増多:膝窩にある滑液包の炎症が拡大して関節液量が増え、関節液が関節腔から滑液包に流れ込む。
       
関節液の流れは、逆流防止弁構造によって、膝関節腔からベーカー嚢腫への一方通行が多い。変形性膝関節症、関節リウマチ、半月板損傷、軟骨損傷といった膝の疾患に合併して起こることがほとんどである。



3)症状
   
膝窩に卵の大きさ位で、触るとプヨプヨした水腫がみられる。痛みはあまりない。正座やトイレなど、膝を曲げる動作時に膝裏の圧迫感や不快感を感じる。五十歳以上の女性に多い。


4)整形での治療

①穿刺して滑液(やや粘性のある透明黄色液体)を抜き、長時間作用型ステロイド薬を注射して滑液の産生を抑制させる。再発することも多く、数日~数週間で元の状態に戻りやすい。6時間程度で元に戻る例や、数回穿刺後に水腫が溜まらなくなる例もある。安静にしていると膝窩滑液包の炎症が軽減するので、関節液が関節包から膝窩滑液包に流入しなくなるからだろうとされている。

②局所を冷却(10~30分)、また免負荷目的に松葉杖の使用。

③痛みが強いものには、滑液包を切除する手術をすることもある。ただし血管や神経が密で解剖学的に難しいので実施頻度は低い。


5)ベーカー囊腫の針灸治療について
   
①運動量増加に伴う滑液量産生を減らすことを目的とし、膝運動を制限を指示する。
  
②結局は膝関節の炎症で過剰に産生し貯留した関節液が、膝の動きに妨げにならない部分である膝窩部に逃げ込んだ状態であることが多いので、元の疾患である膝OAなどの治療を行う
  
③ベーカー嚢腫に対する直接的な決め手となる針灸治療はないが、自然治癒することが多い。


膝半月板亜脱臼の治療 Ver.1.4

2016-10-18 | 膝痛

1.急性半月板損傷
 
1)原因

   
膝半月板の疾患といえば、急性半月板損傷が有名だろう。本症は、スポーツ中に膝をひねる、高いところから飛び降りる、膝を深く強く曲げるなどで、地面にふんばっている状態で、下肢をねじったり回旋動作を行った場合に半月板に亀裂が入ったものである。

半月板の亀裂が半月板の外周1/3より外側であれば血行があるので自然治癒することも見込まれるが、それより内部は血行がないので、自然治癒機能が働かないとされている。  
 

2)症状

    
受傷時、膝に突然の激痛が生じて、動作の中断を余儀なくされる。重篤感がある。

重症では2~3時間後には膝関節腫脹し、膝関節の嵌頓 locking ロッキング(膝に何かがはさまったかのような感覚で、膝を伸ばすことも曲げることも困難になる)が出現する。この時は、歩行不能はもちろん立位にもなれない。関節血腫が生ることもある。なお関節血腫の有無は、膝関節液穿刺で関節液が血性か否かする。
    
軽症例では、catching キャッチング(膝の曲げ伸ばしの際、ある角度で引っかかって痛む感じがする。ただし膝の可動性は保たれている)が起こる。キャッチングは軽いロッキング状態といえる。

    
半月板には知覚はないので、半月板に亀裂があっても痛みの直接理由にならないが、膝関節の屈曲伸展や内旋外旋時には、半月板のスムーズな動きが阻害されるので、半月板周囲の関節包知覚・筋膜が刺激されて痛み、立位になることや、健側を浮かせて患足のみに体重をかけることができなくなる。

 

3)治療

       
早期に手術が必要なのは、痛みに加えて半月板のひっかかりで膝が動かない(すなわち歩行はもちろん立位にもなれない)などの症状がある場合、または痛みが長く続き、くり返し水が溜まるなどの症状があって、スポーツ活動、日常生活、職業上大きな支障がある場合である。

しかしながら若年者の半月板を摘出することは、将来的に膝関節変形を助長させることになる。
それ以外は、安静にして様子をみることになるが、その後に処置は整形外科医によって見解が分かれる。


2.半月板亜脱臼

 
筆者は半月板損傷といえば、これまで上記のような発症動機が明瞭な急性外傷のことを想定していた。針灸臨床とは関わり合いが乏しく、仮に来院したとしても、針灸でどうにかなるものでもないと思っていた。そうした中、私自身が半月板損傷を患うことになった。 


1)半月板損傷の自験例(62才、男性)


①主訴:右膝関節痛(体重をかけた際、右膝の中心あたりに、痛みを感じる)

②現病歴

平成28年5月5日6㎞丘陵をハイキングした。その2日後から、右膝に、これまで経験したことのない筋肉痛とは異なる痛みが持続的に約1ヶ月続いた。

平成28年5月31日午前2時頃、寝室に行くため、自宅の階段をゆっくりと上っている時、右膝が突然ギクッとして激痛が走った。これ以降、痛みのため患肢に体重がかけられず、歩行困難となった。右膝関節は痛みのため完全伸展できないロッキング状態。しかし数時間後の明け方、ベッドで横になっている時、コキッとした感覚とともに、ロッキング消失で完全伸展できるようになった。


③治療

 
5月31日午前、近くのT病院整形訪問。歩行時にも痛み出現するため跛行状態。病院備え付けの車椅子に乗って移動。
膝関節屈曲90°以上で内旋・外旋すると痛み出現。屈曲伸展の関節可動域に異常はない。右膝関節部に強い圧痛は発見できない。局所の発赤・熱感もない。Xp写真正常。関節液穿刺で関節液は正常。サラサラで血液も混じっていない。
 
医師の予想診断:半月板が少しズレたのだろうと思えるが、それを証明できる理学検査以外の客観的所見はない。
要するに今は痛みだけの問題だから、関節包に対し局麻液注入のみ。その処置の直後、痛みは半分以上軽減。杖なしで立位可能となった。ドクターの話では、痛みはすぐに元のように戻るだろうとのことだった。
   
その処置から1日以上経っても痛みは軽減した状態が続き、むしろ前日治療直後より楽になった感じである。階段の上り下りも、どうにか杖なしで可能となった。一ヶ月後には
症状は9減少した状態。階段の上り下りは、捻らないように注意しつつだが普通のスピードでできるまでになった。  
 

④その後の経過

6月10日
1ヶ月間の安静で膝痛再発しなかったので、日帰り観光した。結構急斜面があって、階段を下りる時、ギクッといったような感じがあった。その後、階段を下りる時に右膝奥が痛む感じがした。その後1週間経過するも症状不変。

6月25日
安静時には痛みないが、右膝のヒネリ動作で痛みが走る。痛み部位は、右膝 内側、膝蓋骨内方で内側広筋停止部あたりになった。この辺りの圧痛点に円皮針を貼るも、あまり効果を感じられない。灸治療も無効。


6月28日
近くのHクリニックにて、ヒアルロン酸注射実施。右膝内膝眼部に、ききなりブスッと深刺され、非常に痛かった。注射後数時間すると、以前のハードな膝痛からソフトな膝痛に 変化した感じ。しかしその翌日くらいから、完全伸展位にする時や完全伸展位から曲げる時に痛みを感じる(キャッチング)ようになった。

7月5日
2回目のヒアルロン酸注射実施。やはり注射は痛い。ドクターから週1で5回する予定といわれたが、ヒアルロン酸注射は、潤滑油を注入するのと同じで、根治療法にはなり得ないので、自己判断で治療中断。


7月20日
右膝のキャッチング陰性となった。自宅内で階段を上る時、右膝症状もあまりない。右四頭筋筋力が少し復活していることを感じる。しかし階段を下る時、健側足から踏み出して下り、患側からの踏み出しは不安感がある。膝完全伸展位で寝ると、翌朝具合が悪いようだ。


8月10日
右膝の痛みはあまり感じなくなった。階段を上る時にも痛みはないが、若干不安定感あるか? 階段を下りる時一段一段ゆっくりと下りるが、左膝を先に下ろさないと不安。一階→三階まで続けて上ると、膝裏に腫脹感を生じる。


9月2日 
3週間前位前から座位から立位への体位変換時や、立位で膝を少々捻る時に、ズキッとする痛みが 右膝内側に走るようになった。またこうした動作を繰り返すと、右膝内側に熱感を感じるようになった。ズキッと痛みが走る回数は、一日十数回といった状況。


9月5日 階段を上る筋力は以前より復活してきた。階段を下りるのは苦痛で右膝に不安定感がある。このようなズキッとした痛みはこの2~3日減少した感じである。本日で受傷後約4
ヶ月経過した。

10月11日 普通に膝関節に体重をかけて平地をあるいても痛みを感じない。しかし階段を上る時、右関節四頭筋の筋力不足を感じる。階段を下りる時、老人のように一段一段手すりをつかまりながらゆっくり歩かないと不安な状態。あとは四頭筋強化が重要となるだろう。


2.半月板損傷の一部としての半月板亜脱臼


1)筆者の膝痛診断名は何だったのか?

   
筆者の例では、大きな衝撃が膝に加わったものでないこと。そして半月板に本当に亀裂が入ったのだとすれば、ロッキングが瞬時に治るわけがないこと、の2点から半月板に亀裂が入ったものでないと考えた。
では何なのだろうかと、ネットで調べてみると、半月板亜脱臼(extrued meniscus)との病名を発見できた。この病名は整形外科医には承認されていないが、スポーツトレーナーやカイロプラクターを中心として認知されている。仙腸関節傷害の例でもわかるように、新しい考えというのは、いろいろな意味で時間がかかるものなのでやむを得ない。

2)半月板亜脱臼の治療法
     
①安静療法

     
筋筋膜痛のような数日の安静ではなく、半月板亜脱臼では、1~3ヶ月間、患部に負担をかけないよう可能な範囲で膝の安静を保つ必要があることを知った。(筆者の症例では、安静1ヶ月では再発してしまった)。

     
②サポーター・テーピング


歩行時に脱臼の助長を防止するため、内外半月板外周にサポーターや女性用パンストを強めに巻く。
半月板を圧迫する場所にパンストの腰の部分だけを棒状に巻いて、それをテープでテンションをかけながら目的の場所に張り、その後、膝を伸ばした時に圧迫が強くなるように二列に張ってみたもの。階段の登り降りで確かめたら、半月板はしっかり機能的な位置に制御され、痛み・違和感はないとのこと。


①膝関節外周をテープで巻く意味
下腿回旋にともなう膝半月板のズレ(外側へ出っ張ること)を制御しようとしている。

②膝蓋骨直下にパンストのクッションを当てる意味
膝伸展時には、生理的に半月板も前方に移動するが、半月板にズレがあると、より前方に移動し過ぎて脱臼の程度が悪化する。膝蓋骨直下にパンストのクッションを置く意味は、このズレを起きにくくさせることにある
と推測。

 

 










 

③マニプレーション
     
ネットでは、半月板亜脱臼に対するマニプレーションの方法も紹介されていた。
うまく行えば瞬時にロッキングがとれるということである。しかしこうした手技は失敗すると医療過誤につながる懸念がある。筆者も自己流でマネしてみたが、余計痛みが増したので、即刻中止した。実施するならば、きちんと技術を学んでからにすべきだろう。

 

 


鵞足のトリビアおよび鵞足炎の針灸治療 Ver.2.0

2015-12-05 | 膝痛

1.大航海時代の肉の保存方法
 
大航海時代とは、15世紀から17世紀前半にかけて、ポルトガル・スペインなどのヨーロッパ諸国が、
航海・探検により海外進出を行なった時代をいう。
大航海時代以前から、ヨーロッパでは気候の関係で、コショウ類を栽培することが難しかったので、インドなどからの香辛料(とくにコショウ)を、多くの商人の中継で陸路で地中海経由で輸入していたが価格は上昇し、一般人が入手することは難しかった。

ヨーロッパでは、草がが枯れて放牧ができなくなる冬には、大半の家畜を殺してその肉を塩で漬け保存食とした。しかし、ただ塩漬けした肉のにおいはあまりにも強烈で、これを何とかごまかすには、香辛料を使うほかなかった。さらに香辛料を使うことが、肉の腐敗防止に役立つとも考えられた。

南洋を長期航海中の船では、肉の長期保存は切実な問題で、この臭みを消すためにコショウが珍重され、同じ重さの金と交換されていた。

長期航海する大船は、生きた状態で鶏や豚が飼育していた。生きていれば腐らないからである。鶏の飼育はケージに入れればよかったが、豚は難しかった。豚が船内で暴れないようにするため、鵞足をナイフで切断し、歩き回れなくしたという。


2.鵞足の命名由来


鵞足は、英語ではグースフットgoose`s  footという。 マザーグースのグースである。

ガチョウの足は、指が3本あり、指と指の間は水かきでつながれている。鵞足は、半腱様筋腱・薄筋腱・縫工筋腱が集合した部分をいう。その形がガチョウの足に似ているところから名付けられた。
ちなみにガチョウを鵞鳥と書くのは、ガーガー鳴くからだという説がある。

※単に鵞足といえば、浅鵞足のことをさす。他に深鵞足がある。

 

 

3.鵞足炎

1)鵞足炎の病態
 
浅鵞足炎はランナー膝の一タイプである。階段昇降時や急激な立ち上がり動作、しゃがみこみ動作時の、鵞足部の痛みを生ずる、鵞足部に腫脹と圧痛がある。過使用による浅鵞足腱炎の場合、その近傍を走る伏在神経を興奮させるので、痛みが出る。
浅鵞足の直下にある浅鵞足滑液包炎のこともあり、この場合は熱感や滑液貯留をみる。

 

2)深鵞足炎について 
     
半膜様筋の起始は坐骨結節、大腿後内側を下行し、膝関節の後内方を経過し、内側側副靱帯をくぐり、脛骨内側踝に停止する。
本筋の過使用により、半膜様筋停止部附近の腱炎や腱直下にある滑液包炎を生ずることがある。深鵞足特有の問題として、内側側副靱帯損傷に伴う場合もある。 

 


4.鵞足炎の針灸治療
   
鵞足部を触診し、圧痛を発見する。撮痛反応も陽性となることが多い。このような場合、鵞足の痛みの直接原因は皮膚を知覚支配している伏在神経のことが多いように思う。その根拠として、皮膚痛の改善目的で皮内針を数カ所置くのが非常に有効となる例が多い事実がある。 

浅鵞足部構成筋である半腱・薄筋・縫工筋の緊張により、鵞足部腱の伸張ストレスが生じている場合、患側を下にして、これら筋群の圧痛点を探し、そこに膝屈伸動作の運動針を実施することも考える。鵞足構成筋の緊張短縮により、鵞足部の伏在神経が興奮すると考えれば、大腿後内側にあるこれら筋群の運動針の方が本質的になるだろう。
深鵞足炎では、半膜様筋が内側側副靱帯に絞扼されて症状を生している場合もあるので、曲泉や陰谷あたりの圧痛点も診ておく必要はある。

 


膝痛に対する手技療法を応用した大腿四頭筋刺針

2015-10-14 | 膝痛

膝OAの多くは大腿四頭筋(大腿直筋・ 外側広筋・内側広筋・中間広筋)の筋力低下の結果であり、その治療には以前から大腿四頭筋の筋肉量を増やす目的で、大腿四頭筋強化運動をおこなわせるのがよいとされてきた。これは、次のような悪循環を想定している。
☆膝痛→動くと痛むのであまり動かさない(廃用性筋萎縮)→膝関節痛の増悪。

この考え方では、廃用性萎縮を避けるには、筋肉量を増やす必要があり、大腿四頭筋強化運動等を行うべきだという結論になる。しかし筋肉強化訓練は、短期間の訓練では効果が乏しく、途中で訓練中断してしまうケースは少なくない。

ただし実際には、長期的な努力を強いられるので途中で挫折してしまうという話をよく聞く。膝OAの病理機序として次のようなことも考えられるのではないか。
☆膝痛→膝関節周囲筋の常時収縮 (保護スパズム)→動くと痛むので動かさない(廃用性筋萎縮)→膝関節痛の増悪。

筆者が行っている大腿四頭筋を緩める方法は、大腿直筋に対するものと、内側広い筋外側広筋に対するものとでは違ったものになっている。自然と区別されるに至っている。


1.大腿直筋の緊張緩和方法

大腿直筋が過緊張して短縮状態にあることで、膝痛を生じるので、大腿直筋を緩める方法を考える。
大腿直筋は股関節と膝関節をまたぐ2関節筋であり、本筋のストレッチは、股関節伸展と膝関節屈曲を同時に行うと効果が高い。もっともアスリートに対する方法はその通りであっても、膝OAの患者多くは高齢者なので、仰臥位で膝屈曲姿勢のなどのように、股関節屈曲状態で、膝関節だけ屈曲させても大腿直筋に対するストレッチは治療に使える。膝屈曲させると、膝蓋骨の位置が予想したより下に移動し、したがって鶴頂の位置も下に移動することになる。

この姿勢で、大腿直筋の膝蓋骨停止部(≒鶴頂穴)を触診し、圧痛硬結を診て、圧痛点に刺針して雀啄刺激を行うことで、大腿直筋緊張が緩み、筋長が伸びるので膝痛が軽減されることが多い。これはⅠb抑制の機序を利用したものである。 

Ⅰb抑制:筋の持続的伸張などでゴルジ腱器官を興奮させることにより、Ⅰb線維を介して、目的とする筋の緊張が低下する現象。筋腱の骨付着部などゴルジ腱器官の集まる部位を針灸などで刺激すると、これと連なる筋の緊張緩和すること。

 

 


2.外側広筋・内側広筋

外側広筋・内側広筋・中間広筋の三つは膝関節をまたぐ単関節筋である。中間広筋については不明なことが多いので、以下は外側広筋と内側広筋について記す。

上記の大腿直筋緊張を改善する方法では、膝蓋骨の上縁(鶴頂)の大腿直筋付着部を押圧して圧痛点に刺針するのだが、膝蓋骨の内外縁(下血海)や外内縁(下梁丘)には圧痛が出現しないことに気づいた。すなわち膝屈曲位で圧痛を調べる方法は、内側広筋や外側広筋の圧痛検出には向かないのかもしれないと思った。

内側広筋や外側広筋の筋収縮は、股関節の状態は無関係で、座位で膝関節を伸展状態に保持すること、あるいは仰臥位で下肢をベッドからやや挙上させること(=ともに等張性短縮性筋収縮)で痛みの有無を調べられる。これと同じ原理だが、臨床では仰臥位で、意識的に太ももにギュッと力を入れさせて意識的に膝完全伸展にして圧痛を調べる方法(=等尺性筋収縮)もあり、すぐに刺針しやすいという意味で後者の方が合理的だろう。 

このような肢位にさせると、内側広筋停止部痛(とくに外側広筋)に強い圧痛硬結をみることが多く、圧痛硬結部に2番針程度の針で軽い雀啄して抜針すると痛みが減ずることをよく経験する。

要するに内側広筋(または外側広筋)の骨付着部症に対する治療の要点になる。

 


伏在神経痛の針灸治療と膝OAとの鑑別

2012-07-27 | 膝痛

ネット上で、ある医者が冗談半分に、「膝OAと伏在神経痛の鑑別がつくのであれば、膝OAも針灸保険治療に認めてあげる」と発言していた。
変形性膝関節症は、高度な膝の変形の者を除き、だいたい針灸がよく効いてくれるのであって、来院患者も多い。一方、伏在神経痛はマレな疾患であるが、膝関節内側を下行するので、膝関節痛との鑑別が問題となる。

1.伏在神経の走行
伏在神経は、純知覚性の神経で、大腿神経の最長枝である。 伏在神経はは筋を運動支配しない。大腿動脈は大腿部においては前面にあるが、下腿部にあっては後面になる。つまり前面→内側→後面となり、この動脈走行を保護しているのが内転筋管とよばれる構造である。伏在神経は、大腿動脈とともに縫工筋の下に位置する内転筋管内に入るが、途中から大腿動脈と分かれ、膝関節内側の表層に出て、次の2枝に分かれる。
1).膝蓋枝:縫工筋を貫き、膝関節下内側の皮膚に行く枝
2).内側下腿皮枝:下腿の内側および足背内側の皮膚に分布

2.伏在神経痛と圧痛点
伏在神経は、次の2カ所で神経絞扼を生じやすいので、治療ポイントとなる。。
1).伏在神経が内転筋を貫く処(≒陰包) 
2).伏在神経の膝蓋下枝が急に走行を変える処(≒曲泉)

3.伏在神経痛と膝OAの鑑別
伏在神経痛でも変形性膝関節痛でも、膝内側の痛みを訴え、立ち座り、階段昇降痛も両者に共通して生ずる。伏在神経痛が変形性膝関節症と異なる点は、膝関節部に圧痛点はみらず、痛みは表在性で、ピリピリ・ヒリヒリ・チクチクする点や、自発痛・夜間痛があることである。
要するに、伏在神経痛を過去に診療した経験があれば容易なことであっても、単に書物等で知識として学んだだけでは身につかないということだろう。伏在神経痛がマレな疾患(筆者であれば10年に1回遭遇程度)のため経験するチャンスが少ないのである。

伏在神経痛の治療は、大腿内側の圧痛点に刺針し、神経絞扼している筋の緊張を緩めることにある。膝OAや鵞足炎での膝内側痛は、第一義的には伏在神経の興奮によるのだと思う。表在性の痛みなので、皮内針が効果的である。