AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

一筆書きからトポロジーへ ver.1.5

2024-07-01 | 雑件

この1~2ヶ月、他の先生方が執筆した奮起の会セレクション用テキスト整備に追われ、自分の鍼灸の追究ができていないことを苦痛に思う。当ブログに書くような内容も乏しくなった。たまには目先を変え、以前から興味があった<一筆書き>に関する知見を紹介する。

1.基礎編


ある図形が一筆書きできるかどうかの条件は、それぞれの角点に集まった線が、①すべて偶数か、②2本の奇数がある場合に限られる。①の場合、どの頂点から書き出しても一筆書きは成功するが、②の場合、どちらか一方の奇数の頂点から筆を出発し、最後に他の奇数の頂点を終点とするルートにして一筆書きは成功する。

2.応用編

問題1

一筆書きのコツは、前述した内容がすべてなので、これを理解した後は、次の問題も解けるはず。

問題1の解答

問題2

ヒント:どこから書き始めるかが重要。

 

問題2の解答

 

3.実地問題編

1)ケーニヒスベルグの橋渡り
①問題 ドイツの大哲学者カントが生まれた町として有名なケーニヒスベルク(現在のカリーニングラード)は、プレーゲル川にまたがったおり、18世紀の初頭には、下のようにこの川に7つの橋がかかっていた(実話)。その頃、この橋を全部ただ一度ずつ渡ることができるかどうかが、この町の話題になった。ある人は不可能だと言った。ある人は実際にやったらできたと言ったが、再現することはできなかった。

②解答
数学者のレオンハルト・オイラー(1707〜1783)がこの問題を取り上げて研究し、橋渡りが不可能であることを証明した。

 

A、B、C、Dは土地であって、橋に比べると当然その面積は広い。だがABCDの土地を頂点、橋を辺とすることで、橋渡りの問題は一筆書きの問題へと単純化できる。橋渡りの問題は、上の図が一筆書きできるか否かの問題に置き換えることができるが、頂点4カ所あるので、橋渡りは成功しないといえる。

 

③発展問題
ではこの橋渡りを成功させるにはどうすべきか、というとC-D,間に橋を一本新設すればよい。これにより、奇数の頂点は、AとBのみになる。Aを始点としてBを終点とする(またはその逆)道順が正解となる。

 

 

3)道頓堀の橋渡り

①大阪の道頓堀周辺には次のように多くの橋がかかっている。これらの橋を一筆書きの要領で、始点から終点まで渡りきることは可能か?

②解答

「ケーニヒスベルグの橋渡り」より複雑だが考え方は同じ。橋を結ぶ土地の関係を、トポロジー的に整理すると、次のようになる。角を構成する奇数の辺はA、B,G,Hの4箇所あるから一筆書きは不能である。ただしG-H(もしくはA-B)間に橋を新設すれば、奇数角が2箇所になるので、一筆書きは可能である。その場合、Aを始点としてBが終点(またはその逆)となる。

4.間中良雄のトポロジー(位相幾何学)

十二正経の基本的な経絡循環も一筆書きができて、これは筆者2024.6.14報告<奇経八脈・・・>で示した。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/06085ff4802003deee939ada19451657

この図を再掲載した。結局経絡を使った臓腑治療とは、赤い円内という体幹内ブラックボックスである六臓六腑の病変を、円外にある浅層経脈(通常学習する経穴走行)部分をを刺激し、リモート的に体幹臓腑を治療するという狙いである。

上図は十二正経の全体的走行を示したものだが、経絡のトポロジー性については省略されている。十二正経を三陰三陽区分中の4経絡に限定すれば、各経のトポロジカルな特徴を表現可能である。以下の図は、一例として12経絡における2順目の心経→小腸経→膀胱経→腎経の経脈を示したものである。臓腑そのものと、破線部分の経絡は体幹深層にあるので直接刺激できない。臓腑病変では実線の表在経絡を刺激して、リモートで体幹深層の病変をいかに治療するかを企図するものといえる。


 
一筆書きは,「線がつながっているか」が重要で,途中の線が曲がっていようが,線が短いとか長いかは関係ない。これはつながりの具合を示す幾何学である<トポロジー>の発想である。日本語では位相幾何学という。線の長短は関係なく、単にA地点とB地点が連結しているかを問題とするという考え方は、今日においては電気配線回路図にみることができる。

 
 経絡は、基本的に身を上下に流注しているが、症状部位に対する刺激(局所治療)とは別に、症状部位から数十㎝も離れたれた部位を刺激して、これを経絡的治療とすることもある。これが経絡治療の特徴になる。
 赤羽幸兵衛は左右の手指先の井穴、そして左右の足指先の井穴それそれ12穴の知熱感度を測定し、同じ経絡の熱知覚の左右差を問題視した。これを発展させのが間中良雄で、手指の同経の知熱感度の感受性の違いだけでなく、手と足の三陰三陽区分での井穴の感受性の違いを問題視した。さらに左指先井穴の知熱感度の総和と右指先井穴の知熱感度の総和を比較したり、また左足先井穴の知熱感度の総和と右足先井穴の知熱感度の総和を比較した。井穴データを種々の演算処理により特異的現象の発見に努めた。これらの演算は今日ではパソコンを使えば容易だが、今から40年前のことであれば処理に随分と手間がかかったことだろう。


ここで間中喜雄先生の構想されたトポロジーについて解説する。

 本解説の原本は「M.I.D.方式について 赤羽知熱感度測定法知見 捕遺」間中喜雄、板谷和子(北里研究所附属東洋医学総合研究所)、日本東洋医学会誌、第26巻第4号(1975)による。
なお現在でも、ネット検索で調べることができる。

1)赤羽知熱感度測定法について
1950年、赤羽幸兵衛は、手足の井穴を知熱感度測定法(手足の「井穴を線香の火で叩き、何回で熱く感じたかを記録)を発表し、これを知熱感度測定法とよんだ。左右の井穴の最大倍数の一組を問題視し、その経過に治療の重点を置いた。
 たとえば点火した線香の叩打数が、膀胱経井穴で54(左)対40(右)で、大腸経の井穴が3(左)対12(右)であるとすると、絶対数は膀胱経が異常に多いにもかかわらず、大腸経の左右比が4倍である天に意義をおき、これを治療対象にするというのである。
 そこで著者らは統計学者に依頼し、赤羽法の原法にしたがって得た数字の左右相関指数を統計処理してもらったが、はっきりした相関性を示す指数が得られなかった。

2)M.I.D.(赤羽知熱感度測定データのカテゴリー別分析)
 本来的に中国古来の經絡概念は、左右というカテゴリーだけですべてを律するという狭い規範は示していない。陰陽、表裏、手足などの相互干渉の法則性を規定している。
 そこで井穴の左右差のみを比較するのではなく、陰陽別、左右別、手足別などのカテゴリー別に整理して、その状況を調べることにし、これをM.I.Dとしてまとめた。M.I.D.とは、Meridian Imbalance Diagram (直訳で經絡不均衡図)の意味である。
 各種疾患について約150例以上の測定データを集積し、さまざまな傾向が得られたが断言できる段階にはない。まだ予備実験の段階であり、今後確かめていかねばならない問題が多くあった。コンピュータを使えば各データの特徴や傾向をさまざまな角度から調べられるだろうが、井穴知熱感度のデータそのものが信頼性に足るとはいいづらい。

※知熱感度測定法が左右差の是正のみを治療方針とすることは、私自身も違和感を感じ、すでに以下のようなブログを発表済みである。

井穴知熱感度データの新たな解析法(2017.6.21)

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/02e50d1f7f7ae685c1c14816eb038bf6


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