AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

井穴知熱感度データの新たな解析法

2017-06-21 | 古典概念の現代的解釈

 

 赤羽知熱感度測定法での井穴や良導絡全身調整法での原穴の測定で得られたデータは、一つの経の左右差を問題にすべきなのか、それとも経絡別にデータの大小を問題にすべきなのか、と考えた場合、問題か否かを主観的ではなく、数値で把握できれば好都合である。筆者は三十年ほど前、得られたデータを極座標化し、極座標上の原点からの距離と角度を、基本的な統計手法で正常値と異常値に分析する方法を考えた。

この方法を知人に教えたところ、当時流行していたコンピュータ言語BASICを使って、プログラムを作ることに成功した。これには私は驚喜したが、プリンターは高価で買えず、CDドライブはなく、私のパソコンで、そのプログラムは動かなかった。ともかく、このパソコン画面を写真にとり、今から思えば冷や汗ものだが、間中喜雄先生に「データを下されば、分析します」との内容で手紙を書いた。結果は、いくら待てど音沙汰なし。そのことを同じ科の医師に話すと、「返事がないのは当たり前。おせっかいもいいところ」との叱責を受けた次第である。

 それから2年後に小田原にある間中病院に見学に行く機会があったが、私の方から、この件は言い出せず、間中先生もすっかり忘れているようだった。後日私は、見学に対する礼状を書いて送った。その文面で私は褒め言葉のつもりで「手品をみているようだった」と書いた。すると今回は返事がきて、手品という言葉にカチンときたのか、「断じて手品ではなく理論だ」との返事で、さらにこれを読むようにと、論文の別刷りが入ってきた。しかし英語で、かつ数式が多く、歯が立たなかった覚えがある。

あれから30年たったが、このまま埋没するには惜しい気持ちがある。現在では、エクセルを使えば、データ変換やグラフ化、正常値異常値の判別は可能であろう。(筆者はエクセルは苦手だが)

1.直交座標
赤羽幸兵衛は、手足の指先にある左右24カ所の井穴に、規則的に線香の火を擦りつけ、被験者が熱く感じるまでの、擦りつけた回数を測定し、左右同じ井穴の左右差を調べることで経絡の虚実を推測することを試みた。
仮に、以下のようなデータが得られたとする。(データ自体は架空)



上表で、直交座標のH1(5,7)というのは、手の1番の経絡(すなわち肺経)の井穴である少商穴で、左少商に、線香の火を5回叩きつけると被験者は熱いと感じ、右少商穴では7回で熱いと感じたことを示している。赤い於数字は手所属の六経、青い数字は足所属の六経の井穴データで、手足それぞれ6個の座標上の点が得られる。ここまでは理解容易であろう。

2.極座標変換

上図の一点Pは、直交座標(=x-y座標)では、P(x,y)と示すことができるが、原点からの距離と、x軸に対する角度で表すこともでき、p(r、θ)と表記する。直交座標を極座標に変換するには、上図の公式を使う。一見計算するのは面倒にも思えるが、現在ではパソコンソフトを使えば難しいことではない。
極座標での、rの意味は、線香の熱に対する閾値をしめすものであり、r値が小さいほど敏感で、大きいほど鈍感になる。

3.正規分布曲線による正常値と異常値の判定


 
 人間男性の身長、筆記試験の点数、血液検査値など、データの数が多い場合、ある区切りごとに該当するテータ数を調べると、正規分布になることが知られている。正規分布曲線では、平均値μとし、標準偏差値をσとする時、μ±σの範囲に全データの約68%が入り、μ±2σの範囲に全データの95%が入ることが知られている。そこで、その範囲に入らないデータを異常値と判定することにする。
(井穴12組のデータが正規分布となる保証はないが、今回は目をつぶる)

4.実際例
上記データを例にして、r値の平均値とそのプラスマイナス標準偏差値、およびθ値と、そのプラスマイナスの標準偏差値の範囲を、緑色線で図示してみた。理論上、全データの68%が、黄緑色の領域内にあることになる。

はっきりと黄緑領域外のデータは、手④、足①、足④の3つである。この異常の意味と、基本的な補寫の方法を説明する。

1)手④(脾経)の異常
熱に対する感度は正常範囲だが、左右差に異常がある。左10に対して右4である。治療は、左脾経に瀉法、右脾経に補法を行う。

2)足④(腎経)の異常
熱に対する感受性が低く、かつ左腎経が右腎経に比べて、非常に鈍感である。治療は、腎経全体としては虚し、とくに左腎経が虚しているのだから、左腎経に対して積極的に補法を行う。瀉法はどこにも行わない。

3)足①(胃経)の異常
左右差はなんとか正常内であるが、熱に対する感受性が低い。左右の胃経に対して、補法を行う。瀉法はどこにも行わない。

※同じ考え方で、良導絡代表測定点のデータ解析も可能である。しかしグラフ化する場合、各経絡ごとに、目盛りが微妙に異なっているので、一定の換算式を噛ませる必要がある。

 

2017年6月21日、本稿を参考にして以下のような論文を書いた韓国の先生がいらっしゃることを発見した。

http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=39&ved=0ahUKEwiU15vH6M3UAhVCi7wKHRxSCqA4HhAWCEkwCA&url=http%3A%2F%2Fsociety.kisti.re.kr%2Fsv%2FSV_svpsbs03V.do%3Fmethod%3Ddownload%26cn1%3DJAKO201121554124465&usg=AFQjCNFpXNZ2Va8T4PA2euPSEbrpPm5mPQ