AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

鍼灸院における設備・備品の改良アイデア(その1)

2010-08-23 | 雑件

 私の針灸治療院は、施術室が8.25畳大、待合室(玄関含)が4畳大と、治療院としてはミニマムサイズである。ここで開業すること、すでに18年となった。狭いながらも、長らくやっていいると、知恵も出てくる。本稿では、大してカネもかからず、自分なりに考え改良して、使い勝手がよくなったアイデア事例を紹介する。

1.ベッドサイドのワゴン

1)ベッドサイドにワゴンは必ず必要となる。当院ではスペースの関係で、小さな2段式ステンレス機械卓子(45×30×75㎝、23000円)を使っている。価格が安く、温かい雰囲気づくりという観点から、家庭用の木製ワゴンを使う者もいるが、灸治療のことを考えると、焦げる心配のないステンレス製が推奨できる。

2)当院では下段をタオルを置くスペースに改造している。大型カメラ店で現像用の樹脂性トレイ(外寸45×37㎝)を購入し、ワゴンに組み込むため、四方に切り込みをつくった。

3)以前はワゴン上段にティッシュを箱ごと置いていた。しかしスペースを食う上に、ティッシュを引き出すときに、箱ごと持ち上がることもあったので、現在はワゴン上段の板の裏側に、百円ショップのティッシュケースを両面テープで取り付けて使用している。

4)ワゴン上段の裏側には、本立て用のコの字型のプラスチック部品を両面テープで取り付け、額マクラを収納している。通常の角マクラは仰臥位・伏臥位で使用するが、側臥位になると、角マクラだけでは低く感じるので、角マクラの上に額マクラを重ねて使う。

.赤外線灯

1)1灯式タイマーなし、熱量調節ボリュームなしのシンプルな赤外線灯を使っている。 患部を温めるというより、寒い時期に、露出部を冷やさない意味で使うことが多い。
 赤外線ランプを、遠赤外線ランプに取り替えてみたこともあるが、遠赤外線ランプはスイッチを入れても温まるまで数分を要し、光が出ないのでスイッチを切り忘れることもあったので、現在では赤外線ランプに戻している。

2)赤外線灯の支持棒に、カルテ置きを自作した。100円ショップで買った鉄製の格子(26×32㎝)を、2つに折り曲げ、一方をネジで固定した。もとの取り付け部位は、床から1メートルの処だったが、どうしても自然に下に落ちてきてしまう。ただ下に落ちても別に使い勝手は悪くないので、現在はその状態で使用している。





3.低周波治療器

1)低周波治療器にも、さまざまな製品があるが、価格の安いもので十分である、というか電池式でコンパクトなものの方が使いやすい。ただし鍼通電コードは、軽量リングコード(ノーベルパルス用)がベストで、通常のワニ口コードは使いにくい。

2)以前は、低周波治療器を使わない時は、コード4本を低周波治療器にグルグル巻きにしてワゴン上段に置き、使う時はベッド上に移動ていたが、患者の姿勢では、その置き場を確保するのが難しい場合があり(その場合、本来私が座る丸椅子に置いた)、片付ける際にもいちいち重く、手間がかかって不便を感じていた。
 現在、ベッド中央部分のベッドサイドの壁(石膏ボード)に、専用のフックをとりつけ、低周波治療器底ネジに、ホームセンターで買った金具を挟んで、壁かけにしている。またその上部には、コードを畳んでおくため、ホームセンターで買った樹脂性のL字金具(断面1.5×1.5㎝)をノコギリでカットし、両面テープで留めた。
いちいち低周波本体を移動する必要はなくなり、コードも負担少なくなって耐久期間が長くなった。



中医学にみる月経異常の病理機序と病証

2010-08-09 | 古典概念の現代的解釈

A.総論
1.女子胞(胞宮)とは
女子胞は、奇恒の腑の一つであり、子宮を中心とした女性生殖器全般を指している。
女子胞の役割は、胎児を育てることであり、そのために「胞宮には、精血(肝血や腎精)が流入する」と考えていた。

①肝血の流入
月経血は、血そのものである。この血は普段は、肝にストックされていて、月経時に放出される。一方、妊娠すると月経が停止することから、胎児を育てる栄養として必要だと考察したらしい。

②腎精の流入
胞宮に「腎精が流入する」とは、腎精には先天の精(要するに命の炎)があるので、この火を胞宮に送ることで、胎児に新しい生命を与えると捉えることができる。

2.胞絡
  胞宮に精血が流入するための通路を胞絡とよぶ。代表的な胞絡には、任脈や衝脈がある。任脈は妊娠と関係し、衝脈は月経と関係が深い。女子胞からは任脈・衝脈のほかに、督脈が出て、会陰に下ってから体表を上行する。このことを一源三岐とよぶ。

3.月経の機序
    子宮の中の血は、月に1回入れ替わる。この時の古い血の排泄が月経である。腎気が満ち 任脈や衝脈などの胞絡が
充実すると月経を迎え、胞絡が虚すると月経は終了する。なお受胎すれば月経停止し、この二脈は胎児に栄養を与える。

                                      



B.月経異常の分類
    中医学では、まず月経周期異常に注目し、次に経月量の異常・経血の色と質から細分化する。
  ※現代医学の分類
 月経周期:26日~38日が正常。28~30日が多い。稀発月経=25日以内、頻発月経=38日以上
  
     ①経早≒頻発過多月経(頻発+過長+月経量過多)                              
            月経随伴症状を伴うことが多い。大部分は子宮筋腫
      子宮は月経血を生ずる部であり、機能障害時には月経をプラス方向に誘導する。
            頻発過多月経と月経痛は重複しやすい。この場合、子宮筋腫・子宮癌・子宮内膜症を              疑う。
     ②経遅≒稀発過少月経(稀発+過短+月経量過少)
           自覚的な苦痛はあまり感じない卵巣機能の異常が多い。
       卵巣は卵胞を産生する部なので、卵巣機能障害では月経をマイナス方向に誘導する。
      ③続発性無月経:中枢性は、ストレスや神経性食思不振などによる脳-視床下部の障害。
       末梢性は、卵巣機能の低下による。
      ④経乱≒月経周期異常 →視床下部体内時計の異常。
                                



C.肝の病理変化、とくに肝鬱気滞について
   肝の重要な働きの一つに疏泄作用がある。疏泄作用とは、気血水を滞りなく、のびのびと回す力をいう。これは精神がのびのびして、初めてなし得ることなので、筆者は肝の作用とは健全な大脳新皮質作用の結果だと解釈している。換言すれば、健全な大脳皮質作用が肝の疏泄作用を生むと考える。
   その反対に肝のもつ疏泄機能低下の原因は、ストレス(抑鬱、怒り)であり、中医学では 肝鬱気滞(=肝気鬱滞)と称する。気の流れが悪くなって滞り、引き続いて血流の勢いも低下するので、胸悶、胸脇苦満、乳房脹痛、梅核気、月経異常(経早・経遅・経乱のどれもあり得る)などが出現する。
   肝鬱気滞が長期化、すなわち気が長期間鬱積すると、熱をもつようになる(肝欝化火)。火は舞い上がり、頭顔面の熱象(頭痛、目の充血、怒りっぽい)を呈するようになる。この状態を肝火上炎とよぶ。

1.肝鬱気滞 →ストレスによる視床下部体内時計の混乱
 1)病態: 抑鬱、激怒→ 肝の疏泄機能の失調 →肝鬱気滞(経早・経遅・経乱)
                                                    ↓
                                                 長期化すると肝火上炎(経早)
  2)症状:経早・経遅・経乱のどれもあり得る
            血塊が出る。
         ※血塊:子宮内のオケツが排泄された状態。肝の疏泄作用低下し、血流の勢いが低下して
           オケツ状態になる。これを気滞血オとよぶ。 寒があっても血が固まるので、血塊が
           出る。

D.経早
    月経周期が短い(27日より7日以上早まる)ものを経早とよぶ。
   熱(血熱を逃がそうと する)と気虚(気の固摂作用不足で血を留めておけない)が2大原因。

1.実熱 →熱のため血管拡張し、胞宮に血が溜まるのが速い
 1)病態:陽盛性質、辛物の偏食 →精血の熱 →血熱が胞宮に波及 →鬱熱になるのを避けるた
       め、月経が早まる。
 2)症状:熱の力で外に出る出血は鮮血である。心煩、口渇、便秘
 3)舌脈:紅舌、洪脈(=力強い数脈)

2.☆肝鬱化火 →ストレスの長期化により、熱が溜まる。熱のために血管拡張し、胞宮に血が溜まる
            のも速い
 1)病態:ストレス→肝鬱気滞(早経・経遅・経乱ともにありえる)→長期化して肝鬱化火→胞宮に熱 
      が波及 →熱を逃がすため経早 

 2)症状:経色は紫紅、経質は粘く血塊を伴う。足厥陰肝経に気滞(腫痛、心煩)
      乳房・胸脇痛・小腹部の張痛、心煩、怒りっぽい

3.☆気虚(脾気虚) →現代でいう出血傾向
 1)病態:飲食不節、労倦 →脾を損傷 →脾不統血による早経
    ※脾不統血:気の固摂作用低下による出血のことで、気不摂血ともいわれる。気虚の根本は脾
            気虚なので、脾不統血と呼ぶようになった。熱とは無関係。皮下出血、鼻出血、血
            便・血尿、月経過多。現代でいう出血傾向と同じ概念。
 2)症状:熱症状なし。経血量は多く(←脾不統血のため血がダラダラ出る)、
      経色は淡、経質は希薄

E.経遅
  月経周期が長い(28日より7~10日以上遅れる)もの。血流不足、血量不足が主原因。

1.☆血寒  →寒による血流の悪化
 1)病態:寒邪、生もの、冷たい食物 →血管縮小→胞宮に血が溜まるのが遅い
 2)症状:遅経。経血量は少なく、経色は暗紅、経質は正常または血塊を伴う。
        小腹部の絞痛(←?血証)、拒按喜温(←冷えて実証)や四肢の痛み

2.☆血虚  →貧血
 1)病態:病後、慢性出血、脾胃虚弱 →血の生成不足 →衝脈・任脈の血が不足 
            →胞宮に一定量の血が溜まるのに時間がかかる。
 2)症状:遅経、経血量少なく、経色淡、経質希薄、めまい、不眠、心悸、顔色不良

F.経乱 →年齢的に月経が切れる直前
1.☆腎虚  (月経が切れかかっている。閉経直前)
 1)病態:腎虚 →衝脈・任脈の空虚 →陰血に対する調節機能失調 →経乱
 2)症状:乱経、経血量少なく、経色淡、経質希薄、耳鳴、めまい、腰のだるさ

G.痛経とは
  月経痛のことを、中医学では痛経とよぶ。月経痛は、邪が胞宮(子宮)で経血の下流を阻滞し、「通ざれば則ち痛む」という機序で発生することが多く、痛みは激しいことが多い。肝鬱気滞、肝鬱化火、血寒オケツなどでみられる。
 現代医学的には、子宮の問題(子宮内の血がスムーズに下流しない)であることが多い。

 


中医学のインポテンツの病理機序と病証

2010-08-06 | 古典概念の現代的解釈
1.精液は余剰の先天の精である
精子は精液中にあり、精液は腎水中にある先天の精(=腎精とよぶ)から抽出されたものである。つまり精液は先天の精の一部であると古代中国人は考察したらしい。腎精の作用で成長を続け、腎精の量が一定以上になると精液を放出し、卵子と結合することで新たな生命を生むことができるようになる。やがて老化するにつれ、腎精の量が減少するので体力がなくなり、先天の精の消滅で死に至ることになる。

2.勃起
陰茎が充血して固くなるのは、肝の作用である。肝は血の一時貯蔵庫であるが、勃起の際は、肝にある血を放出し、血液循環量を多くして陰茎を固くする。むろん、血虚の場合には、肝の血を放出しても、陰茎を固くするまの血量増加には至らない。

3.病証
1)湿熱
  内臓が湿熱(≒熱中症状態)になれば、本来の機能を果たすことができなくなる。とくに男性生殖器は、湿熱に弱いので外気に露出して、冷やされる構造になっている。要するに陰部が蒸れた状態になる。

2)命門火衰(=腎陽虚) (老化によるインポテンツ)



 命門火衰は、インポテンツを生ずる最多病証である。老人になると、新しい生命を生む力(精子の放出)がなくなるのは当然として、自分自身を健康に保つための生命力さえ不十分になりがちである。これは先天の精の量の問題に他ならない。
 上図に示すように、蒸し器を温める火力が少なくなると、腎水の温度もあまり上昇しない(=腎陽虚)。脾から新たな水を腎水に注ぎ込むと、余計に腎陽虚が進行するので、脾からの水の流入を制限せざるを得ない。しかしこの状態では腎水中に含まれる後天の精の成分が少なくなり、先天の精を滋養できなくなり、先天の精の量も不足してくる。
 このような場合、自分の生命を守るため、先天の精を漏らすわけにはいかなくなる。

3)心脾両虚(体力気力不足で生じたインポテンツ、女性では更年期障害)
食物を蒸し器に入れると、そこから出てくるのは、蒸気と血液(脾にて食物中の脂肪から製造)である。気の不足は腎水減少や命門火の衰退による蒸気力低下によるもので、血の不足は脾の機能低下(脾気虚)、すなわち食物中の脂分から血を抽出できないことによるものである。血は五臓六腑を動かす燃料として利用されるが、ことに心に血が行かなくなると、心のもつ大脳辺縁系機能(本能と情動)が異常となるり、自律神経失調症状態になる。これが心脾両虚である。血の乱れから生じた自律神経失調状態とは、現代でいう更年期障害に一致するであろう。

 ※よく夢をみる原因→心血不足
   身体の陰が陽を上回れば睡眠状態になる。したがって陰虚では寝つきが悪くなる。心が活発に働くのは覚醒時であり、夜間睡眠時には心が休息する。夜間睡眠時に、心が休息するのは、陰である血が心臓に多く行くからだが、心血不足の時は、心の陰が不足し、あたかも半覚醒状態となる。他の組織は夜間状態であるのに、心だけ覚醒状態に近くなるという意味は、夢をみるということである。
前記した心脾両虚でも、よく夢をみるという症状が出現する。

中医学にみる腎・膀胱の機能と排尿障害

2010-08-06 | 古典概念の現代的解釈



1.人体の生命力は、蒸し器の中にある水を沸騰させてできる水蒸気が根本になると古代中国人は考察した。この水は蒸発して目減りするので、新たな水の流入が必要で、この役割が脾に負わせられている。脾は、飲食物を原料として生成された腎水の元をつくる。

2.腎水は、火で熱せられて、水蒸気を生む。この水蒸気は身体各所でエネルギー源として利用されるが、余剰になった水蒸気は蒸し器の上部で冷やされ、水滴になって再び腎水に戻る。腎水は何回も使い回しされるわけだが、その過程で次第に汚れてくる。この汚水を体外に排泄するシステムが、腎-膀胱にある。

3.腎のもつ気化作用(物質変換作用)により、汚れた腎水は膀胱に送られ、尿液と名前を変える。膀胱には一定の容量があるので、ある程度膀胱中に尿液が満ちても、通常は排尿してもよい時間と場所を選ぶまで、排尿を意志力により我慢する。これを膀胱の約束作用とよぶ。約束とは、括約筋の総称で、この場合は膀胱括約筋や尿道括約筋のことをいう。

4.排尿してもよい状況になれば、膀胱の気化作用により、実際に排尿する。この場合の気化とは、尿液から尿への物質変換作用をいう。

5.病的状態
1)肺熱 =肺炎など、肺における発熱性感染症
「肺は水の上源」という言葉がある。これは腎水が熱せられ、水蒸気になって上昇する高さの限界をいう。この高さになると、水蒸気は冷やされ、水滴になる。肺に熱があれば、水蒸気は上昇しても冷やされない。その結果水滴に変化する量も減って、腎水に戻れないので、腎水の量は次第に少なくなってくる。蒸し器としては、空だきになるのを嫌って、汚れた腎水であっても膀胱に放出しようとしない。この結果として尿量減少する。

2)膀胱湿熱 =膀胱炎
膀胱に外因である湿熱の邪が侵入して、膀胱のもつ気化作用の能力低下。尿液を尿に変換できない、すなわち小便量減少する。
※湿熱=暑く湿った日は、汗がでても蒸発しにくいので、気化熱を奪えず(=気の流れが妨げられる)、体内に熱が蓄積する。この場合、膀胱が熱中症状態になり、膀胱の機能低下を起こす。

3)脾気虚 =消化機能障害
脾は、蒸し器の中に、新たな水を注ぎ込む装置である。この装置の能力が低下すると、腎水量を減らさないように、本来なら膀胱に行くべき汚水も、蒸し器内に留める。膀胱に行く水量減少により、小便量も減少する。

4)腎陽虚 =老人性前立腺肥大
腎虚には、腎陽虚と腎陰虚の区別がある。腎陰とは腎水自体をさし、腎陰虚とは、腎水量の減少をいう。腎陽とは、温まった腎水をいう。腎水を温めるのは命門火力なので、腎陽虚とはこの火力が弱くなって腎水を十分に加熱できない状態をいう。
ここでの腎陽虚とは、火力が弱まった状態で、その人の生命力が低下している状態に他ならない。ちなみにこの火が消えることは死を意味している。