現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

東洋医学人体構造モデルの「心」改訂版

2012-01-29 | 古典概念の現代的解釈

私は、東洋医学人体構造モデルを作成しようとしている。肺が気のポンプであるとするならば、心は血のポンプに相当する。肺のポンプ図化は以前から提示していたが、同じ要領で心のポンプ図を作成したので紹介する。

肺ポンプを作動するための、シリンダーの柄は横隔膜につながっている。横隔膜の上下運動の結果、呼吸が可能となる。肺を動かしているのは、横隔膜運動といってよい。
同じことが心についてもいえる。心ポンプの働きにより、血の循環が可能となる。ただし心ポンプのシリンダーの柄はどこにもつながっていない。シリンダーを動かすことは生命維持にとって非常に重要なことに違いはないので、この心ポンプのシリンダーを動かす作用が心包だと私は考えている。

 肺=気ポンプ機械自体  
 気ポンプを動かす力(呼吸)は、横隔膜運動
 心=血ポンプ機械自体 
 血ポンプを動かす力(心拍)は、心包の作用 
 心包=心拍動作用

 以前も書いたが、死ぬと心拍が停止するというのは、心包機能が停止した結果である。 同様に考え、死ぬと体温低下するというのは、三焦機能が停止した結果である。

なお肝は従来、丸印として記号化していたが、肝の血を貯蔵するという機能をプールのようなイメージにみたて、大きな四角形に変更した。以上の作業で、五臓のイメージをシンボル化できたように思う。


 

 

 


代田文彦先生のツボのイメージ改訂版

2012-01-15 | 経穴の意味

代田文彦先生は、多忙な臨床の傍ら、精力的に原稿執筆された。それは本や雑誌となり、印刷された形として発行され、一部は著者ということで手元にも郵送されてくる。
玉川病院鍼灸スタッフは、こうした印刷物を見て、初めて代田先生の考え方を知ることも多かった。
 1979年11月~1980年8月に、3回シリーズで季刊誌「理療」という雑誌に、「迷いながらの鍼灸」というタイトルで書かれた記事がある。2011年1月11日付の本ブログで一度その内容を紹介したこが、手持ちの資料不足で紹介できない部分が相当あった。しかし2012年1月、玉川同期の百合草正博先生が、「その資料なら持っている」というので郵送してくれた。その結果を受け、今回は、代田文彦先生のツボのイメージの全部を掲載することができた。


1)三陰交‥‥婦人科一切
・下腹部とりわけ子宮との関係を強く感ずる。
・子宮頸部に特に関係があり、三陰交の刺激は子宮頸部を緩ませる。
・従って妊娠初期しは刺激しない方がよい。
・子宮頸部の収縮が強いために径血の排出がスムースにいかないことにより月経痛の人は、これをゆるませるために三陰交を使う。
・肝の亢ぶりによる自律神経の調整作用。

2)陰陵泉‥‥婦人科一切
・下腹部領域のイメージ。それも何となく後腹膜という感じ。

3)足三里‥‥上部消化器の病、健脚
・臍からみぞおちにかけての領域で、とりわけ胃の働きを活発化する。
・鼻から咽にかけての作用もある。
・胃の噴門から上部の中空の管と関係するようで、これはゲップ感覚に似ている。
・古来は長旅をする際には、必ずここに灸したものである。

4)照海‥‥足冷・咽痛
・咽喉部と足首以下の血流障害との関連。
・咽との関連から、腎機能低下しているために派生してきていると思われる浮腫・頭痛等々に何となく取りたくなる穴

5)委中‥‥項頸部次いで腰部 
・腰が痛い人が来ると、委中に血絡があるかどうかが気になる。
・項頸部の血絡あるいは紅斑を目にする時、項の局所から瀉血がしたくなると同時に、委中に血絡をみつけて瀉血してみたいと思うほどに、この二点間の対応関係は密である。

6)承山‥‥肛門付近、痔
7)懸鍾‥‥項頸部
寝違いの治療は、局所をさけてここだけで奏功することが多い。

8)陽陵泉‥‥身体の側面
・側頭部痛にはじまり、肩関節痛、片痲痺に結びついている。
・胃酸過多では、足三里の代行
・膝の要
・胆嚢穴との関連から胆・肝との関連も除外できない。

9)中封‥‥脳とりわけ視床下部付近

10)内関‥‥上咽頭から胃の噴門の下付近
・上咽頭から胃の噴門の下付近まで
・それに左胸痛の心臓の領域に属するあたりが含まれる
・横隔膜
・食道とか胃の上部も漿膜の水っぽいというか、浮腫のきた状態
・針を用いて灸は用いたくない

11)尺沢、少商‥‥咽
・尺沢は咽の領域。高さは口蓋垂の基底部から喉頭軟骨くらい
・どちらかというと正中に近い範囲が有効
・深さ的には、口腔、咽頭、喉頭の粘膜表面から頸筋、頸椎の領域まで及ぶ
・尺沢が咽の正中に近い領域なのに対し、少商は外側。
・咽は咽でも扁桃領域。アデノイドの付近まで及ぶ。

12)少海‥‥頸の側面~耳
・頸の側面、それも中心よりやや後の領域から耳にかけての領域、顔面外側の副鼻腔付近
・後頭部から後頸部にかけての、コリ、痛み、つれ、あるいは耳閉塞感、耳鳴などに使って効果の現れることが多い。

13)合谷‥‥針麻酔
合谷は、針麻酔の時に使う。抜歯、副鼻腔炎の手術の時に多用した。
合谷は重要穴とされるが、小生は針麻酔の時以外は、あまり使う機会がない。
その理由は、灸の痕を虎口に残すことに抵抗があるからである。
顔面に効かせるというニュアンスは、合谷よりも手三里に印象が強い。
顔面で顎とか歯とのかかわりが強いのは、手では温溜、列缺付近である。
上顎よりも下顎に強く作用する。
列缺は、顎よりも、もっと奥の咽から期間の領域とも関連が深い。


14)曲池、和髎、天柱‥‥目 
曲池は目の領域である。目といても表面の結膜とか角膜の領域。目の表面と関わるように、
皮膚の比較的表層とは、全身にわたって何らかの影響力をもっていると考えたい。従って皮膚がかゆいときとか、皮膚病のときに取穴したくなるし、ごく表層の病変ということで、風邪のときにも取穴したくなる。
和髎・目窓は、少し奥に入った虹彩付近と関わり合いが深い。
天柱・上天柱あたりは、網膜から視神経と関わり合いが深い。

 


肺の宣発粛降作用について Ver.1.3

2012-01-10 | 古典概念の現代的解釈

 

1.古代中国におけるフイゴの重要性

 これまでも私は、内臓機能が蒸し器に例えられることを指摘してきた。現在でもその見解に変化はない。しかし蒸し器に安直なフイゴを取り付けた図をもって、肺機能を説明した経緯があり、これに関しては部分的に誤りが発見できた。今回はそれを修正する。

 中国におけるフイゴは、紀元前5世紀には発明され、紀元前4世紀には広く使用されていたと推測されている。文明水準の基準となるものの一つに、鉄製品があるが、鉄製の武器や農機具は、当時の最先端技術によって製造されたものだろう。鉄をつくるには、鉄鉱石や砂鉄を炉に入れて高温で溶かすのだが、強い火力が必要となるため、フイゴは重要な道具だった。

中国で考案されたフイゴは、箱フイゴである。取っ手を押し引きして動かすが、この呼吸運動に似ている。
人体においては、セイロ外部とセイロ内部の2系統に分かれて空気を供給していたらしい。

 

2.中医学における肺の機能

1)気を主る
清気を吸入し濁気を呼出して呼吸を行う。
→現代でいう呼吸機能とほぼ同じ。
清気と水穀の精気から宗気を生成する
→体幹腔を、大自然と捉えた時、宗気とは、空にできる雲に相当する。
2)水道を通調する
呼気時の宣散機能と吸気時の粛降機能により水液を全身に散布。
→呼気時、加熱された腎水から、水蒸気が立ち上る(海から空へ水蒸気が昇る)。吸気時、体幹内部は空気を取り込むことによって冷やされ、内部の水蒸気は水滴に変化して腎水中にもどる(空から雨が降って海に戻る)。
3)百脈を朝ずる
「朝ず」とは「~に向かう」こと。つまり「全身の血管が肺に集まる」という意味。吸気時に肺は陰圧となり血が集まり呼気時に肺は陽圧となり血を推し出す。
呼吸数と脈拍数の相関は肺の作用で、精神興奮と脈拍数の相関は心の作用。全身の血を集めてまた全身に送り出し血液運行を調節する。心(君主の官)を補助するので「相傅(ふ)の官」(宰相の意味)と呼ばれる。
→肺ポンプの上壁はしなやかな物質でつくられており、それを血管が取り巻いている。呼気時、その血管部分に圧がかかり、血を押しだそうとする。押し出された血は、四肢へと向かう。 

上図は旧版である。フイゴを体幹内部に入れた状態、そして「百脈を朝ずる」(全身の血を集める)」の概念も含めた図が、次の改訂図となる。

 

 

 

4.「古代中国の臓腑観」ブログの改訂

以前、私は本ブログで、「手所属經絡と足所属經絡の意味 --古代中国の臓腑観」のタイトルで一文を書いたことがある。肺に関する新たな認識を得たので、その内容も、この場で一部変更したい。

 

 上記図と、例の蒸し器の図はともに古代中国人の内臓観を示すものだが、まったく内容が異なっている。一口に古代中国といっても、数百年の長さがある。上図に示すものは、蒸し器の図より単純なので、さらに年代がさかのぼるものであろう。

以前のブログで、五行論から、肺と大腸は「金」に属し、金は金属全般をさすのではなく、ゴールドをさすと指摘した。また心包と心、そして三焦と小腸は、「火」に属すので、胸部と腹部で、それぞれ炉にゴールドを入れ、火で溶かしているのだと説明した。

しかし鉄造りには、フイゴがいるほど高温が必要だったことを踏まえると、肺と大腸は火に空気を供給する装置だったと考えられる。

ところで胸部における肺は空気の出入に関係あることは当然としても、なぜ大腸も空気の出入と関係するのだろうか。当時の道教思想では、長寿を得るため、腹いっぱいに空気を溜め(現代でいう腹式呼吸法)、そのまま息を出さないで我慢するという修業を行った。そこから類推するに、胸式呼吸では空気は肺に出入りし、腹式呼吸では空気は大腸に出入りすると考えたのではないだろうか。

 


中医人体構造モデルの総括 Ver.1.2

2012-01-09 | 古典概念の現代的解釈

 

これまで長らく古代中国医師の臓腑の考え方をパーツごとに推察してきた。彼らは理系の頭脳を持ち、機械仕掛けのような人体構造モデルを作り上げた。その考え方を追求する過程で、今思い返すと考え違いした部分もあり、追言不足の点もあったと反省している。ここへきて、どうやら全体像が見渡せるようになったので、現時点での総括を行う。

 1.胴体は蒸籠(セイロ)、頭蓋は鼎(カナエ、現代でいう鍋)にたとえられる。鼎は蒸籠の上に3本の脚(左右の胸鎖乳突筋と脊中)で載っている。

2.蒸籠の下部には、蒸気をたてる元の物質である水が入っている。これは腎水とよばれ、飲食物から抽出した栄養物(=後天の精)が混じる水溶液である。腎水中には先天の精とよばれる両親から受け継いだ生命の素の物質も入っており、後天の精は先天の精を養っている。成人男性では性交の際、腎水中にある先天の精を放出する。つまり新たな生命を生む種を放出する予備能力がある。過度の性交あるいは老人では、新たな生命を生むどころか、自分自身の命の種(=先天の精)も減少している。

3.蒸籠下部から火を燃やし、腎水の蒸気を立て、身体にこの蒸気を回すことで生命活動が営まれる。この火は、腎陽とよばれる。

4.蒸籠は三段構造で、下段は水を入れる所、中段は蒸す食物を入れる所、上段は蒸気を溜めるところとして機能する。腎陽によって蒸籠下部が熱せられる。このことで、蒸籠は三焦ともよばれる。三焦の温度が下がる状態は、体温低下であり、腎陽の火の不足を意味する。三焦が冷えることは、身体が冷たくなることであり、死を意味する。

5.腎陽は腎水を熱することで、蒸気を出す。蒸気は蒸籠内に満ちるが、上にのぼった蒸気は冷やされて水滴となり、再び腎水に戻る。ただし蒸気の一部は蒸籠上部の穴から出て、次に鼎を底から熱すこと、脳髄を活性化させる。一方で、四肢末端に至るまで気を送り届ける。その道筋は經絡である。

6.蒸気の運行は、肺の呼吸運動によりリズミカルに変化する。肺の呼吸運動は、フイゴ運動に例えられる。フイゴを動かす力は横隔膜による。空気を吸い込むと、その空気の一部は蒸籠内に取り込まれ、蒸籠の温度を冷やすので、冷やされる水滴の量は増える。これを腎の納気作用とよぶ。
空気を吐き出す時、腎陽の火力を強くし、蒸籠の温度を上げ、吹き上がる蒸気量は増大することで、頭蓋や四肢に至るまで気を送る力が増す。

7.蒸気の元は腎水だが、蒸気を出し続けるうちに、次第に腎水量が減ってくる。この水を補充する役割は脾にある。脾は、胃に入った飲食物から、良質な水分を抽出し、腎水というタンクに流し入れる機能をもつ。
 何回も水蒸気→水滴→腎水という循環を繰り返した腎水は、次第に後天の精としての養分が失われる。また流入した水が大量なため腎水の量が多すぎる場合もある。これら不要となった腎水は、膀胱へと送られ、小便として排泄される。

8.口から摂取した飲食物は、まずは蒸籠内にある胃に運ばれる。この内容物は脾の作用で、成分別の仕分けがなされる。揮発成分は、そのまま蒸気となる。水溶性成分は腎水に滴り落ちて、水や後天の精を補充する。脂性分は、脾の作用で血に変化される。それら以外の残渣成分は、小腸ついで大腸と移行しつつ腐熟され続け、最終的には大便となって排泄される。胆からは必要に応じて胆汁が出て小腸に注ぎ、小腸の腐熟機能を助ける。
 長期間飮食ができない場合、腎水中に含まれる後天の精が不足する。この時は脾の仕分け基準を緩和させ、血や食物残渣などを材料として後天の精を加工し、腎水中に放出する。

9.血は血管内を走り、身体中をくまなく巡る。心包は、血を巡らせるための動力ポンプとしての機能がある。心包が機能停止することは心拍動の停止を意味する。
余剰の血は骨髄に蓄えられる。また脂肪に再変換され、脂肪組織として体内に蓄えられる。肝は、血の一時貯蔵の場所として機能する。
 それでもなお血が不足している場合、脾の仕分け基準を緩和し、たとえば本来残渣として小腸に振り分ける物質の一部を脂とみなし、これを原料として血を製造するようになる。

10.心は心包に包まれている。前述したように心包は血のポンプとして機能するが、心自体は、本能(性欲、食欲、怒り、恐れ)や情動(喜怒哀楽)など大脳辺縁系的な役割があると考える。これらの作用は、心包に作用して心拍数を増減させる。

11.脳は骨髄の海として把握している。身体の一部分が動かないのは、その部分の骨髄の働きの低下に原因がある。脳血管障害時のように、身体が広範囲に動かないのは、脳髄の機能低下による。脳は運動機能中枢と考えたらしい。目(視覚)・鼻(嗅覚)・口(味覚)・耳(聴覚)は、脳髄から栄養を受け取ることで機能する。

12.肝は、血の一時貯蔵としての役割のほかに、大脳新皮質的な役割があると考える。意欲、思考、理性を担当する。「肝は将軍の官」とされる。すなわち自軍を指揮して勝利に導くような能力である。

 肝は動きのない臓腑だが、肝の直下にある胆は時々胆汁を分泌する動きのある臓腑である。人間は、考えを巡らすときは静止状態で行うものだが、結論が出た後は実行という行動にでる。肝が計画だとすれば、胆は実行を担当する。胆の力が弱いと、いわゆる「胆っ玉が弱い」人間となる。

13.大腸は食物残渣から大便をつくる最終段階にある。その作用とは別に、肺のの空気ポンプから導かれたパイプが大腸に入り、余剰の気を肛門から体外に排出する役割がある。
さらに大腸は、腎陽の火に空気を送る空気を調整することで火力を制御する機能もある。

14.蒸籠内で製造された蒸気(すなわち気+水)と血の一部は四肢に向かう。
腠理は、地下水脈に例えられる。この層を気と水が流れ、その深部にある肌肉あたりに血脈があり、その中を血が流れる。この地下水脈には井戸のような縦坑が点在し、これを通って、気と水が体外に出る。気は衛気となって身体防衛の機能を果たす。水は時に汗となり、身体の水分を調整する。

15.肺ポンプの内壁はしなやかな物質でつくられており、シリンダーの動きに伴って内壁も伸縮する。その結果、肺の吸気時、体幹内の血は肺に集まる。呼気時、肺に集まった血は四肢へと放出される。
※この項を表現するため、冒頭の図を改訂した。すなわち肺ポンプの3方向を血液で囲んだ。詳しくは、拙著ブログ「肺の宣発粛降作用」を参照のこと。

追補:フリッツ・カーン(独の医学博士)が1926年に作成した、「Der Mensch als Industriepalast」では、人間の構造を機械工場のメカニズムに例えている。